[136]K'SARS
星に願い事をすると願いが叶うと言われています。 さて今回は、誰がお願いをするのかな?
「まぁ〜なざし〜、そぉ〜っと、ひぃ〜とつ〜♪」 ことこと。 昨日から仕込んでおいたシチューを煮込みながら、私は大好きな歌を歌います。 う〜ん、いい香りです。 「だぁ〜れ〜に〜もみつからぬ〜、よぉ〜うに〜♪」 ことことこと。 煮込むいい音を聞きながら、他の福菜の下ごしらえをします。 それに合わせて、ご飯の様子も見ます。 他のお家では炊飯器ですが、我が家ではお釜で炊きます。 その方が断然おいしいですし、私はそちらの方が好きです。 かたかたかた。 蓋の下で、水分が蒸発して、「もうすぐ出来るよ〜」って合図を送っています。 もうちょっとですね。 おいしいご飯の炊き方は、そこの方に少しおこげが付くぐらいがいいそうです。 それから数分蒸らして、それで完成。 さて、シチューの方も味見をしておかないと。 「ふ〜んわり〜、じ〜かん、だぁ〜けが〜♪」 お玉で小皿へシチューのルーを少々取って、口に近づけて、音を立てないように味見をします。 「よし」 自分でOKサインを出した後、火を止めて、キッチンを後にします。 目的は、この家の主を起こすこと。 「なが〜れては、きえていく〜♪」 トントン。 「ご主人様、朝ですよ〜」 ドアの前で、私はこの部屋で寝ていらっしゃるご主人様、睦悟郎さんをお呼びします。 ……。 …。 反応なし。 もう一度。 トントン。 ……。 …。 やはり反応なし。 なので、当初のお約束通り、お部屋に入って直接起こすことにいたしましょう。 「失礼します」 一礼した後、そっと入ります。 カーテンで薄暗いお部屋のお布団で、ご主人様が眠っておられます。 私は起こさないように慎重に近づいて、体を揺さぶります。 ゆさゆさ。 「ご主人様、起きてくださいな」 ゆさゆさ。 「朝ですよ、ご主人様」 「う、うぅ〜ん」 少しだけ目を覚ましました。 もう一押しです。 「ご主人様、朝ご飯できましたから、起きてくださいな」 「……あっ、アユミ、おはよう」 やっと起きました。 ご主人様は起きるのは遅いですけど、目覚めはすっきりしていていいです。 「おはようございます。ご主人様」 「う〜ん、今何時?」 「そうですね、出勤時間1時間前ぐらいですか」 「そっか。じゃあ、そろそろ起きないとね」 ご主人様はすぐに布団からお起きになって、軽く背伸びなさいました。 私はすぐに着替えを用意して、退室しました。 さて、早くお皿に盛らないと。 「ねぇ〜、きっとぉ〜、願い〜こぉ〜とばぁ〜はぁ♪」 シチューを中央に乗せて、その横に副采と飲み物を起きます。 それから、軽くおこげがついたご飯を乗せて、これで準備OKです。 しばらくして、スーツ姿のご主人様がやってきました。 「今日もおいしそうだね、アユミ」 「さっ、冷めないうちに食べてくださいな」 「うん」 ご主人様は椅子に座り、静かに手を合わせて、 「いただきます」 と言って、食べ始めました。 それを見て、私も一緒に食べ始めました。 …… …。 「ごちそうさま」 「はい。おそまつさまです」 ご主人様の食べ終わった食器をシンクに片づけたのち、すぐにお弁当箱に今朝用意したおかずを詰めます。 こうすれば食費も節約できますし、彩りも鮮やかになって目と舌で両方楽しめます。 今日もご主人様が全ての支度が終わるまでに用意が出来ました。 「おまたせ」 「はい、お弁当ですわ」 タイミング良くお弁当を渡して、一緒に玄関へと向かいます。 「ハンカチとちり紙は大丈夫ですか?」 「うん。持ったよ」 「定期は大丈夫ですか?」 「大丈夫」 「その他もろもろ」 「オールグリーン」 「では、いってらっしゃいませ」 「いってきます」 玄関を出て、アパート階段まで出て、私はご主人様に大きく手を振りました。 今日も無事に出発したようです。 どうか、1日お元気で過ごせますように。 「さぁ〜て、今日も1日、がんばりまっしょい!」 太陽に向かって、私は元気いっぱいに握りこぶしを振り上げました。
「そぉ〜らへと、と〜どぉ〜いてぇ〜♪」 洗濯物、お掃除、子供たちのお部屋の手入れ。 特に家は洗物が多くて大変ですが、これもお仕事と思えば楽しいものです。 あっ、そういえば、まだ自己紹介がまだでしたね。 ごほん。 私、カメのアユミと申します。 めいどの世界というところから、前世、つまりはカメだったときにお世話になったご恩をお返しするべくやってきた戦闘用アンドロイ…ではなくて、守護天使ですわ。 本来なら、他の守護天使のみなさんがいるのですが、先日からめいどの世界に帰っているので、昨日今日と私1人でやらなければなりません。 ユキさんがいなくなり、最年長(1人私の上にいるのですが、あれはその資格がないので、私が最年長と言う事で)の意地を見せるには絶好の機会ですから、一生懸命がんばります。 パンパン。 「ふぅ〜」 絶好の洗濯日和なので、ついでにみなさんの布団をベランダに出して、午前中の仕事はこれで終わりですわ。 やはりこれだけの量を1人でやるのはきつかったですけど、終わって見ると気持ちが良いですわ。 さて、これで午後はのんびり出来ますわ。 今日が創立記念日でよかったです。 私はキッチンで紅茶を飲む準備をして、リビングでお昼のテレビを見ようとスイッチを入れました。 「あら?」 と、ここで何やらキッチンにあったことを思い出して戻って見ました。 すると、そこには…。 「な、な…」 そこには…。 「なんてことでしょぉぉぉぉぉぉぉぉう!!」 ご主人様に渡したお弁当のおかずの部分がそこにあったのです。
「こぉ〜かいも〜、なぁ〜みだも〜♪」 家を出た私は、電車を乗り継いで、ご主人様のいるもみじ山動物病院に向かっていました。 もう何度も通った道ですので、道順はばっちりですわ。 「おもい〜でに〜、なぁ〜るはずぅ〜♪」 到着です。 私は、近くにあった鏡で身だしなみを整えて、中に入りました。 ちょうどいい時間ですから、お昼になさっているはずです。 「こんにちは」 「あら、いらっしゃい」 「こんにちは」 自動ドアをくぐった先のインターンの看護婦さんに挨拶をしました。 「旦那様、おりますでしょうか?」 「睦さんは、今ちょうどお昼休みで、休憩室にいるわよ」 「そうですか。あの、お邪魔してもよろしいでしょうか?」 「ええ。その様子だと、お弁当を忘れたようだから、早く渡してあげないとね」 「はい。では」 一礼した後、私は奥のほうの休憩室に向かいました。 途中で会った人たちも顔なじみになっているので、ほとんど顔パス状態です。 ここですわね。 トントン。 「は〜い」 この声は、ご主人様です。 ガチャ。 ドアが開くと、予想通りご主人様が出てきました。 「あれ? アユミじゃないか」 「旦那様、申し訳ございません。本来なら、私はお家でお留守をしなければならないのですが、どうしてもこのお弁当をお渡ししたくて」 「やっぱりか。いや、お弁当を開いて見たら、ご飯しか入っていないから、どうしようかと思っていたところなんだ」 「では、これをどうぞ」 私は丁寧に布でくるんだおかずの部分を渡しました。 ふぅ、よかったです。 「では、私はこれで」 「あっ、待ってアユミ」 「はい?」 ご主人様は私を引き留めると、一旦ドアの向こうに消えて、スーツ姿で戻ってきました。 「一緒にお昼でも食べない?」 「えっ? で、でも、私、自分の分のお弁当を持ってきていませんし」 「いいよ。一緒に食べようよ。これ、実は言うと、ちょっと量が多くて困っていたんだよ」 「そ、それは申し訳ございません。では、私が責任を持って処理しませんと」 「じゃあ、外に行こうか」 ということで、予想外なことに、ご主人様と一緒にお昼をご一緒にする事になりました。
「ふたりであ〜る〜い〜たぁ〜、こぉ〜のみぃ〜ちぃ〜♪」 すっかり辺りが暗くなり、私は今日のお夕食の買い物をするために、商店街にいました。 ご主人様と2人っきりのお昼は、すごく有意義な時間となりました。 きっと、めいどの世界でみなさんが見ていたら、批難の声で囲まれてしまいますね。 ですが、こういうときじゃないとご主人様とゆっくりとお話しすることがないというのも事実ですから、存分に楽しまないと。 「あっ、アユミさん〜」 「あら、ラナちゃん」 向こう側から、モモちゃんのオリジナル、平野桃華さんのところにいる守護天使、ラナちゃんがやってきました。 手にはバスケットを持っているので、買い物帰りでしょうか? 「こんばんわ、アユミさん」 「はい。こんばんわ」 「お買い物ですか?」 「ええ。夕食のお買い物を。ラナちゃんはもう終わりましたの?」 「はい。ご主人様に頼まれたものを買って今から帰るところです」 「桃華さんはお元気ですか?」 「もう有り余っています。それで、いっつも悪戯するんですよ。もう参っています」 嫌そうな表情をしていますが、内面はすごく嬉しそうです。 つい最近まで、病院のベッドで闘病生活をしていましたから、こうして現実の時間を過ごすのがかげないの時間なのでしょう。 守護天使にとって、ご主人様の側にいられるのが、何よりも元気の源なのですから。 「そういえば、今日アユミさん誕生日ですよね?」 「そうでしたわね」 「おめでとうございます」 「ありがとうございます」 確かに、今日は私の誕生日です。 ですが、家の最年長として、家の財政に負担をかけるようなことはしたくありませんから、事前にみなさまにはパーティをしないように言ってあります。 もちろん、ご主人様にも。 「あっ、そろそろいかないと、ご主人様が退屈して待っていますから」 「ええ。では、さようなら」 「さようならです」 ラナちゃんと別れて、私は再び商店街を歩き出しました。 「い〜つか、い〜つか、ここにかえぇ〜てくるよ〜♪」 行き付けの商店で安いものを見繕って、ゆっくりと帰路につきます。 夕焼けが綺麗です。 「なにげなく、ふ〜り〜む〜い〜たらぁ〜♪」 夕日に染まった階段をゆっくりと登って行きます。 さて、帰ったら早速仕込みの準備をしませんと。 「ほらきみの〜、え〜がお〜♪」 「「「「「「「「「おかえりなさい(なの〜)」」」」」」」」」 階段を登りきると、そこにはめいどの世界に行っていたみなさんとラナちゃんがいました。 「おかえり、アユミ」 そして、ご主人様も。 私は一瞬何が起きたのかわかりませんでしたが、すぐにいつもの表情に変わって、 「ただいまですわ」 笑顔で、そう言いました。
「こんなところで、何しているんだい?」 「あっ、ご主人様」 私がベランダで夜空を眺めていると、ご主人様がやってまいりました。 「冷えるよ。中に入りなよ」 「いえ。もう少し、夜空を見ていたいのです」 「そっか」 ご主人様はそう言うと、私の背中に毛布をかぶせてくださり、横に立ちました。 「なら、僕も見てようかな」 「…ありがとうございます」 ご主人様のお心遣いが伝わってきます。 本当に、お優しい方です。 だから、改めて思います。 改めて誓います。 一生をかけて、この方を守っていくと。 一生をかけて、この方について行くと。 でも、今だけは…。 「…アユミ?」 私は、ご主人様の肩にそっと自分の頭を乗せました。 守護天使として、このようなことはあるまじき行為だとはわかっています。 ですが、ここに来てわかりました。 私は、ご主人様を1人の男性としてお慕いしていると。 睦家の最年長のとしてみなさんをひっぱっていくことでその気持ちを抑えていましたが、こうしてご主人様と一緒にいると素直にその気持ちが出てきます。 これでは、ミカちゃんのことをとやかく言えませんが、今日は多少の我が侭も通ります。 だって、今日は私の誕生日なのですから。 「…そういえば、まだ渡していなかったね」 「えっ?」 ご主人様はポケットの方から細長く包装されたのを取り出して、ゆっくりと開けてくれました。 中には、ネックレスが入っていました。 これは、確か…。 「アユミさ、この前ジュエリーショップを通りかかったとき、これを真剣な目で見ていただろう? だから、これにしたんだけど…」 「うれ…しい、です」 あまりにも突然の嬉しい出来事に、私の目から涙が出てきました。 今日は、夕方から不意打ちばかりです。 私が買い物から帰ってきて、階段のところで出迎えってくれたあとお家に入ると、パーティの準備がしてあり、そのまま私の誕生日会を開いてくれました。 途中から学校での級友たちも駆けつけてくださって、さらに桃華さんまでも来てくださって、今までで最高の誕生日のままで終わるはずでした。 ですが、今にして考えれば、みなさんからのプレゼントがあったのに、ご主人様からがないのは多少気になっていましたが、このときのためにとっておいたのでしょう。 最高の誕生日が、もっと最高の誕生日になりました。 「つけて、くださいますか?」 「喜んで」 ご主人様は箱からネックレスを手に持って、そっと私の首の後ろに手を持っていって、多少苦戦しながらも着けてくださいました。 「どうですか?」 「うん。よく似合うよ」 「ありがとうございます。…ご主人様」 「うん?」 「私から…」 ちゅ。 「えっ?」 私は、ちょっと強引に自分の唇をご主人様の唇に押しつけました。 ちょっと、恥ずかしいですわ。 「感謝の気持ちですわ…」 「あ、ありがとう」 うぅ、なんだか、今ごろになって恥ずかしさがこみ上がって来ましたわ。 これはなんとかして、場の雰囲気を変えないと持ちませんわ。 えっと、何かいいものは…。 「…あっ、星がすごく綺麗です」 「えっ? ああ、本当だね」 苦し紛れにしては、すごく言い方向へと転換できました。 冬がもうすぐ迫っているこの季節は、星が綺麗に輝いていました。 「どれが1番星かな?」 「わかりません。でも、どれも1番星になってもおかしくないぐらい、美しいですわ」 「そうだね」 本当、綺麗です。 「1番星はわからないけど、願い事をしてみようか」 「私もご一緒します」 空に向かって手を合わせて、願い事をしました。 どうか、これからもご主人様のお側にいられますように。 そして、私がご主人様の1番星でありますように。 これでいいですわ。 「…アユミは何をお願いしたの?」 「内緒、ですわ」 「知りたいな」 「ダメですわ。言ったら、お願い事が叶わなくなります」 「どうしてもダメ?」 「はい」 「だったら…」 「?」 ちゅ。 「んんー!?」 急に、ご主人様の唇が私の唇に触れました。 それも、私のときよりも長く。 気がつけば、私はご主人様の背中に手を回していて、力を抜いていました。 「…これでも、ダメ?」 「…ダメ、ですわ」 「そうか」 「でも…」 私はご主人様に思いっきり抱き着いて、 「一緒に寝てくださったら、考えてもいいですわ」 って、ちょっと甘えたように言いました。 すると、ご主人様は、 「…じゃあ、そうしようか。よっと」 「わっ!?」 私を持ち上げてくださって、ご自分の部屋に連れて行ってくれました。 それからお互いに眠るまで、お話しをしました。 今日は、もっと最高な誕生日が、もっともっと最高な誕生日になりました。
星に願い事をすると願いが叶うと言われています。 さて今回は、誰がお願いをするのかな?
<終>
後書き♪
あ、甘い。 「ご主人様。これは、日頃の反動ですか?」 サキミか。 うむ、そうかもしれんのう。 「しかも、思いっきりネタばれがありますね」 まあ、な。 でも、一応知らなくてもわかるように書いたつもりだけどな。 「けれど、私たちからしてみれば、暗い話しよりもいいですよ」 お前、そればかりだな。 それはともかくとして、書いたな、今回。 「めずらしく長いですよね」 しかも、ものの1日で書き上げてしまった。 「初期並みの早さですね」 自分でも驚きだ。 「でも、次はもっと長くなるんじゃないですか?」 ああ、そのつもりだ。 何と言っても、次はモモちゃんだから。 ふふふ、俺のこの手が真っ赤に萌えるぜ!! 「だからって、ちゃんとみなさんが読めるものにしてくださいね」 おうよ! 「…あっ、その次もあゆみさんがありますね」 うふふ、どんな萌える話しにしようかね…。 「って、聞いていないし」 よっしゃ、今の中に毒電波を受信だ! 「えっと、みなさま、ご感想をお待ちしております〜」 はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 「次の星に願いをもお楽しみに〜」 おらおらおら〜〜〜!! 「えっと、最後に…」 アユミ、 「お誕生日…」 「「おめでとー(ございます)!!」」
メール
2003年11月21日 (金) 10時33分
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