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麻酔についての正しい知識 |
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From:麻酔科医ムロイ [北海道/秘密]
はじめまして、仕事柄帝王切開経験者・予備軍の情報を幅広く収集中にここにたどり着きました。 医療者サイドと患者サイドの様々な認識の違いを改めて知る点も多かったのですが、麻酔について非常に曖昧かつ非合理な説明を受けたり、不十分な麻酔管理を受けた方の声が気になりました。そこで、誠に勝手ではありますが帝王切開に対する麻酔の基本的(教科書的)説明をさせていただきたいです。 麻酔科常勤医がいない病院では執刀医(主治医)が主に麻酔を行います。中には出張麻酔科医を雇っている病院もありますが。非麻酔科医による麻酔は主に脊椎麻酔(=腰椎麻酔、下半身麻酔)です。大抵は穿刺する針は太めで、術後の頭痛(腰椎穿刺後頭痛)が起こりやすく、穿刺時にはグーと背中を押される感じがしやすいです。また、使用薬剤も神経を一時的に麻痺させる薬剤(局所麻酔薬)を単剤で用いる事が多いです。要は、切るときの痛みを「だいたい」抑えられたら良いというスタンスです。痛み単独で死に至る方はほとんどいませんからねー(笑)(薬はくも膜下腔という髄液で満たされた領域に投与され脊髄に作用しますから、薬の量が少なかったり十分に薬が拡がらないと麻酔の効きが不十分になります。逆に、多すぎたり拡がりすぎたりすると胸部を担当する神経にも効いてしまい、息苦しさ・呼吸困難・吐き気につながります。) これに対し麻酔科医が行う麻酔は通常は脊椎麻酔単独or脊椎麻酔+硬膜外麻酔or全身麻酔(気管挿管するもので、超緊急時や特別な事情のある場合のみ)となります。脊椎麻酔では、通常はなるべく細い針で穿刺するため術後の頭痛の頻度も少なく、穿刺中の押される感じも少ないです。薬剤は単剤の事もありますが多剤併用が多いのではないでしょうか(局所麻酔薬+麻薬。「麻薬」は適切に用いると中毒になったりなどの心配は一切ありません。しかも、後陣痛にも有効です。ただ、術後の吐き気・体の痒みを引き起こす事がありますが、使用量の調節次第です。)。硬膜外麻酔を併用する場合は、脊椎麻酔が不十分な時の補助にもなりますし、術後の創部痛にも有効です。ただ、妊婦は解剖学的にも生理学的にも非妊婦とは異なる点があるため、技術的に難しい場合がありそれが術後の合併症(狙った領域にチューブを入れられなかったために硬膜外麻酔が「全く」効かず痛い、血腫が出来て神経症状が出たりなど)につながることがあります。上手く効いていても効き過ぎて足にしびれや重だるさが出ることもあります。よって、麻酔科医によっては嫌がる方もおります。全身麻酔は原則的に胎児仮死などの超緊急時にしか麻酔科医は行いません。理由は使用薬剤が胎児にも影響する(赤ちゃんまで薬が効いてしまう)、妊婦は生理学的には常に胃が満タンと考えておくべきなので気管挿管時の嘔吐による誤嚥の危険性があるなどです。皆さんが経験している「全身麻酔」の中には「鎮静」に相当するものが多いのではないでしょうか。鎮静は気管挿管などは必要ないけれど、人によっては眠ってしまうものですから。いずれの方法を用いるかは麻酔科医の好みと主治医からの依頼内容によります。昔は切る部分に部分局所麻酔をするだけでも帝王切開できる産婦人科医がいたのですが、最近はほぼ絶滅しましたかね。 あと、肩にする注射、麻酔を効きやすくしたりリラックスさせるという。痛いだけですから。中にはボーとしたり眠りこける方もおりますが、この注射無しでも麻酔は十分に効きます。あと、お酒の話。どんな酒豪でも「麻酔科医による」麻酔が効かない方はいません。一部の静脈注射薬の中には、酒豪には緩やかに効くようになってしまうものもありますが要は投与量を増やせば済むことです。これらに「完全」反論する方は非麻酔科医か知識・経験が少ない麻酔科医ではないでしょうか。 以上が教科書的内容ですが、「えー、そうだったんだ!」という方は意外と多いのでは? ちなみに私は予定手術では脊椎麻酔(多剤。麻薬は2種類)+硬膜外麻酔、臨時手術(分娩停止など)では脊椎麻酔(多剤。麻薬は1種類もしくは2種類。緊急度による)、超緊急では全身麻酔としています。脊麻+硬膜外では、頭痛も吐き気も足のしびれもほとんど出ていませんよ。術後も2,3日は硬膜外麻酔を使います。
2005年12月18日 (日) 17時16分
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From:ももんが [外国/31歳から40歳]
麻酔科医の方による概説、大変解りやすく参考になりましたが、ひとつ質問させていただけますでしょうか?(またこちらにいらっしゃると良いのですが・・・。)
硬膜外使用の術後合併症に関する記述に >> 血腫が出来て神経症状が出たりなど)に >> つながることがあります。 とありますが、具体的にはどのような神経症状が見られるのでしょうか?といいますか、患者主訴としてどのような症状が考えられますか?
自身が2年前に逆子を理由に帝王切開で出産をして以来さまざまな体調不良に悩まされ続けてきたため、産後の回復について非常に関心があります。
ご回答いただけましたら幸いです。よろしくお願いいたします。
2005年12月19日 (月) 02時27分
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From:あび [外国/31歳から40歳]
たいへん細かいことではありますが、「痛み単独では市に至る方はほとんどいません」と笑われていらっしゃいますが、痛みを感じる患者にとっては、全く笑い事ではありません。痛みはストレスであり、これを取り除くためにいるのが麻酔医ではないかと思います。痛みを軽く考えている麻酔医というのは、正直言って不愉快です。
実際、痛みで死ぬ人がいないのはわかりますが、笑い事ではないと思います。私は看護学生ですが、今までそのような医師に会ったことはありませんでしたので、驚きました。その痛みのために、どれほど多くの患者が恐怖を抱き、トラウマとなるほど悩んでいるか、せっかくこのHPにいらしたのなら、しっかり読んで理解していただきたいと思います。
2005年12月19日 (月) 13時50分
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From:麻酔科医ムロイ [関東/秘密]
>ももんがさんへ 具体的に言うと、大腿部・下腿部などの足のしびれや感覚異常や麻痺などがあります。麻酔が直接的全面的に産後の回復に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。あくまで「きちんちした麻酔科医」が麻酔を行えばの話ですが。まれに脊椎麻酔にもちいる薬剤の副作用や技術的問題で、一部神経に損傷を与えてしまい神経症状を招くこともあります。実際には、神経症状よりも術後の体調不良などを訴える方が多いかも知れません。とすると、麻酔科医ではなく産婦人科医や内科医の担当領域になるのかもしれませんね。
>あびさん 誤解を招く表現で大変申し訳ありませんでした。 非麻酔科医や一部の麻酔科医の中には、そのような考えの元に仕事をしている方もいらっしゃるというということです。私自身も手術のため様々な麻酔を受けました。個人病院の外科の先生の脊椎麻酔も大変うまく勉強になりました。ですからすべての医師がという訳ではないのです。でも、手術中さえなんとか誤魔化せられれば、あとは病棟で座薬などで適当に任せようという方もいらっしゃるのです。私自身、痛いのは嫌ですし(軽い頭痛でも)、手術後に十分な鎮痛処置をしてもらえず七転八倒・何を話しかけても「う〜」とうめき声しか発することができない方も拝見してきました(他院を見学した際の話ですが)。ですから、痛みのみならず吐き気や頭痛、しびれなどあらゆる合併症・副作用・ストレスなどから患者を解放できるように尽くしているつもりです。現場の実態についてはあびさんもよく観察して、良き看護師になれることを祈っています。
皆さんが正しい知識を身につけて、よりよい選択をして頂けることを願っています。
2005年12月19日 (月) 21時28分
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From:あび [外国/秘密]
ムロイ様、さっそくのお返事ありがとうございました。最初の書き込みでは、「痛みで死に至る人はいない」というのがどなたの発言なのかはっきりとしていなかったため、ムロイ様の考えのように読み取っていました。突然ぶしつけな書き込みをして申し訳ありませんでした。
私は現在海外在住で、こちらで看護学の勉強をしています。痛みに対する考え方は日本ととても違い、呼吸停止等の緊急事態を除き、痛みは何よりも最優先で対処されるべきだと習ってきました。また手術の見学時には、ナースから「とにかく麻酔医に話を聞きなさい、麻酔医はいい教師で丁寧に教えてくれるし、信頼できる人が多いから」と言われてきました。日本で帝王切開を受けた人の中に、麻酔がきちんときいていないまま手術を受けたことがトラウマとして残り、出産という喜びの経験であるはずのことが、思い出したくない恐怖の思い出になってしまっている人がいることは、そんな私にとっては理解しがたく、麻酔医の数が少ない状況に不満をもっています。
そんな時にムロイ様の書き込みを読み、カーッとしてしまいました。大変失礼しました。ただ、痛みは患者にとって冗談ではすまされないことだということを懸念してのことだと、わかっていただきたいと思います。
私はまだ学生で、こちらのシステムをすべて理解したとは言えません。が、日本では手術によっては麻酔医がいなくてもいいとか、麻酔医が常駐していないとか、そういう状況はどういうことなのでしょうか? 数が少ないのか、それとも、他に理由があることなのでしょうか。
麻酔医の先生に話す機会というのは、意外にありません。どうかこれからもいろいろ教えていただけると幸いです。
2005年12月20日 (火) 01時51分
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From:麻酔科医ムロイ [北海道/秘密]
今日も無事元気な赤ちゃんの出生の手助けが出来たムロイです。
>あびさんへ
>痛みは患者にとって冗談ではすまされないことだ
もっともなご意見です。私も同感です。私も若かりし頃痛がる患者をそのまま病棟に帰そうとして先輩にしっかりと怒られた経験があります。ありがたい経験です。それ以来、いろいろと勉強させて頂き、今でもまだまだ勉強中であります。
>日本では手術によっては麻酔医がいなくてもいいとか、麻酔医が常駐していないとか、そういう状況はどういうことなのでしょうか? 数が少ないのか、それとも、他に理由があることなのでしょうか
麻酔科医不足が最大の原因であると思います。日本では特に東日本で不足が顕著です。しかし、麻酔科は外科から分派したという歴史的な背景もあり(諸氏により異なる意見を唱える方もおりますが)、非麻酔科医による麻酔が古くから容認されてきてそれが現在も続いているのではないでしょうか。私自身、不本意ではありますが数件の麻酔を同時に管理する場合があります(並列麻酔といって、学会では原則禁止or推奨していません)。また、他科を含めて、常勤医を雇う分病院側には経済的負担になりますから、非麻酔科医による麻酔・出張麻酔科医による麻酔などが存在するのではないでしょうか。地方の病院では外科の若い先生が全身麻酔をかけて先輩が執刀するなどということも当たり前のように行われています。
いずれにしましても、これらの点につきましては麻酔学会でも論点となっております。実際には法的な改善がなければ理想の実現は難しいでしょう。また、上記の表現中に曖昧なものが多いのは、現在も論議中であったり、不確定な案件も含まれているためですのでご了承ください。
2005年12月20日 (火) 20時55分
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From:あび [外国/秘密]
間があいてしまい申し訳ありませんでした。 お返事有難うございました。 帝王切開の数は増えていると聞きますので、 麻酔が安心して受けられるようになるといいのにと 思います。
地元の産婦人科や個人病院の産科が閉鎖されて 妊婦が困っていると聞くと、それはひどい話だと思いますし、 大きな病院で麻酔医がいるところで出産した方が 何かあったときに安心だという気持ちと、また 地元で産みたいという患者の気持ちとで、いったい 何が一番患者にとってはよいのだろうかと考えてしまいます。
ムロイさんも、なかなか理想的な環境でお仕事というのは 難しいようですが、どうぞこれからもよいお仕事をなさってください。
2005年12月27日 (火) 00時11分
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ありがとうございます |
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From:ミミ [外国/41歳から50歳]
遅くなりましたが、ムロイ様丁寧な説明をありがとうございました。 これで疑問が解けました。
私は外国で2度の緊急帝王切開を麻酔医のいる病院で経験しましたが (ともに脊椎麻酔)他の方の経験されたような副作用はなく、 また英語の妊娠本にも副作用が多いとは書かれていないので、 日本の医者は、お産なのだから、と麻酔薬を節約しているのでは、 と疑っていたのです。 でも、そうではなくて使っている針や薬の種類が違うのですね。 そして副作用の報告が多い原因は麻酔医不足なのですね。 今後、麻酔医の地位が向上し、多くの方が安心して手術を 受けられるようになることを願います。
ムロイ様これからもたくさんの方を助けてあげてください。
2006年01月01日 (日) 21時16分
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From:ムロイ [北海道/秘密]
>ミミ様へ
>英語の妊娠本にも副作用が多いとは書かれていない これは日本人と欧米人の認識力の差だと思います、個人的にはですが。日本人は「すべて順調にいって当たり前」と考えがちであり、欧米人は「何事にも良い点と悪い点がある」と考えがちなのではないでしょうか。あくまで個人的な印象にすぎませんが。
>副作用の報告が多い原因は麻酔医不足なのですね。 必ずしもそうとは言い切れません。個々の麻酔科医の実力・思想や主治医(産科医)の認識も大きく関係しています。それに、何事においても言えることですが、良い噂よりも悪い噂の方が耳に残りやすいものです。この傾向は医学発表や論文でも同様です。
2006年01月08日 (日) 02時28分
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From:れい [東海/秘密]
ムロイ様こんにちわ。これから帝王切開をするものです。 もう20年程まえですが、私はちょうど眉毛の辺りをけがして4針縫いました。処置の間怖くて目をつぶってたので何してるかわからなかったのですが、縫う前の麻酔がとても痛く、しかも長い時間だったので麻酔なしでぐさぐさ縫われていると思ったくらいでした。その後、今から縫いますからねと言われ、本当に縫ってる間は痛くなかったのですが。ここのHPでも手術の前の麻酔の経験談がありますが、チクッとした程度の人からすごく痛い人もいるみたいです。でもいずれも一瞬の事みたいでそんなに長い間痛いって事はないみたいです。 20年もたてば医療もかわるのでしょうか。それとも場所によるのでしょうか。私の体質だとしたら帝王切開時でも長く痛むのでしょうか。 なんだか、とても知識の高い会話で読んでたら為になりますが流れを変える様な質問ならすみません。
2006年01月10日 (火) 14時00分
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From:ムロイ [関東/秘密]
<れいさん
<縫う前の麻酔がとても痛く、しかも長い時間だったので麻酔なしでぐさぐさ縫われていると思ったくらいでした。
開いた傷口を縫うための麻酔は局所麻酔ですが、基本は痛い傷口から針を刺します(傷が痛いから、針を刺す分の痛みを余分に与えずに済むという考えらしいです。傷以外から刺すとその分の痛みもあるからとか。個人的には矛盾も感じますが・・・)。局所麻酔の痛み・効きは@施行者の技術A体質によるところが大きいです、特に@ですね・・・。れいさんに処置をしてくださった先生の腕を直接見たわけではないので断定的な返答はしかねます。
<チクッとした程度の人からすごく痛い人もいるみたいです。でもいずれも一瞬の事みたいでそんなに長い間痛いって事はないみたいです。
傷の大きさや局所麻酔の効きに応じて、ちくっで済むときとちくちくちく・・・・となるときがあります。普通は、患者の痛み具合を確認しながら局所麻酔の量や注入速度を調節するものです。
<20年もたてば医療もかわるのでしょうか。それとも場所によるのでしょうか。
麻酔の効用は、時代の流れ(進歩)にも施設(施行者の腕)にもよります。ただ、局所麻酔について言えば、薬学的進歩はさほど無いかと考えますが、個人的な感想です。
<私の体質だとしたら帝王切開時でも長く痛むのでしょうか。
体質だとすれば@麻酔薬が効きにくいA痛みに対して弱いの二つに大別できます。@はあまりいませんが、薬の扱い方次第で調節ができます。Aは時折見かけますが、あくまで個人差の問題です(いわゆるマメ注射くらいでもジタバタしてボロボロなく成人もいますので)。これはいかんともしがたいです。 控えてらっしゃる帝王切開についても、麻酔を担当される先生とよく相談することをおすすめします。ちなみに私が担当したお母さん方はたいてい次の日からスタスタ歩いてらっしゃいます(本来は麻酔科医としては、脊椎麻酔の翌日までは安静にしていてほしいのですが)
2006年01月10日 (火) 22時55分
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From:れい [関東/秘密]
くわしく解説してくださってどうもありがとうございました。相談してみたいと思います。
2006年01月11日 (水) 11時37分
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From:れい [関東/秘密]
よく考えたら、怪我をした時自体はそんなに痛く感じなくて(あとで縫う事になり、そんなに深かったの?とびっくりしたくらい)歯の麻酔はそんな苦痛に感じた事なかったので、もしかしたらその病院の腕かも・・・・。 ちょっと評判よくないとこだったんですよ。その縫ったとこ。あ、ムロイさんはお答えしていただかなくてもいいですよ。でも、小学生の時の噂だしとか思っていて。学校で怪我して、そのまま連れてかれた病院だったんで選択できなかったんですよ。そうですねなんて言い辛いだろうし困りますよね。あれだけお答え頂いただけで、ありがたいです。傷口に針さしてたんですね・・・。それも知りませんでした。ありがとうございました
2006年01月11日 (水) 12時23分
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