インターネットで配信されているメーリングリスト(ニュース)をいくつか読んでいる。その中の一つに、池澤夏樹氏のレポートがある。もともとは、21世紀になった時に、世界各地での紛争を憂いてメッセージを送り続けたのを、友人から紹介されたのがはじめだ。氏も、その後想うことが変わり、その度に住む場所と配信されるタイトルが変わった。今は、フランスの片田舎から『異国の客』と題したのが送られ始めてきた。 氏はその第1号で、住む家が19世紀のもので、地下室は16世紀のものと感激を受けたことを記していた。読んでいた僕は、氏の住む見知らぬ町の見知らぬ家に思いを寄せた。 そこには、数年前に行ったイタリア・フィレンツェの片田舎がオーヴァーラップされたからだ。 世界遺産になったフィレンツェの町並みは、外見はもとより内装の工事すら、役所に詳細な報告を提出し、1年も2年も待ってからでないと出来ないと聞いた。そのため、4つ星ホテルでも、部屋の電話は壁からコードが出ているだけなので、インターネットなどまったく出来ない。壁や天井がはげているのは当たり前。・・・考えてみれば、僕らが泊まったホテルは16世紀に作られたものを改築しながら使用しているものだったのだ。 16世紀、室町時代。そんなところに泊めてくれる場所が日本には果たしてあるのか? 逆に、国宝や重文になっていない建築物で16世紀に造ったものはあるのか? 日本とヨーロッパに流れている時間のスピードの違いを感じる瞬間なのかもしれない。 観光資源として、自然の中に快適を求める施設を作り続ける日本。本当にどこもかしこも、新しい快適な施設ばかりでいいのだろうか? そんなことを考えらせるメッセージだった。
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