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(850) (削除) 投稿者:システムメッセージ

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2005年03月17日 (木) 20時52分


(859) 脅威編 第二十章〜鎖の掟 後編〜 投稿者:大輝 MAIL

「いくヨ、ノルゲオ!」
 ミグッチェが本を構えると、全身ローブで包まれた男がすたすたと前に出る。
 ティーナは相変わらず微笑を保ったまま言う。
「あら、このジェントルマンのお仲間ですの?」
 ティーナは浩二をちらりと見た。
「そうネ!」
「そうですの……じゃあ、わたくしも仲間を呼ばなくては……出てきなさい」
 ティーナが言うと、工場の中から一羽の小鳥が飛び出してきた。天使の様に真っ白な羽をはばたかせて飛んでくる。
 ティーナが右手を伸ばすと、その上に乗った。
「この子はピット。わたくしのかわいいかわいいペットですわ」
 浩二が倒れたまま聞く。
「それはもしかして……」
「そうです。この子は複製体ですのよ」
 ティーナとエルノ以外、全員が顔をしかめた。
「複製体は……ちょっとうっとうしいネェ……でも、やるしかない! ノルゲオ、構えるネ!」
 ノルゲオが頷いて、右手を上げる。
「リグロン!」
 ノルゲオの手の平から金属音をたてながら鎖が飛び出した。
 それは一直線にエルノに向かった。エルノはひるむことなく、呪文を唱える。
「アシルド!」
 ティーナが両手をエルノのほうに向けると、水の盾が現れた。
 鎖は水に一瞬食い込んだが、すぐに弾き飛ばされてしまった。
「ちぃ……」
「イズチノ!」
 突然小鳥の甲高い声が、頭上から聞こえた。かと思ったら、直後稲妻が浩二に降り注いだ。
「ぐわぁっ!」
 浩二は電撃の衝撃で、気絶してしまった。
「浩二……すまないネ……ノルゲオ、攻撃の手を緩めるナ! あの鳥に攻撃ネ! リグロン!」
 ノルゲオが右手を左手で支えながら、上を向けて鎖を放った。それはピットに一直線に飛んでいく。
「ぴー!」
 ピットは鎖をあっけなく交わす。だが、鎖は鳥を追尾しつづける。
「ぴぴぴー!」
 そしてピットをもう少しで縛れそうになったとき、
「アゼル!」
 前方からミグッチェに水が飛んでくる。
 ノルゲオは全くあせることなく、鎖の進路を変えて、水に刺した。すると、水ははじけて消えた。
「ライライーノ!」
 ピットは鎖が追いかけてこないのに気付いたと分かると、再びミグッチェに稲妻を放ってきた。さっきよりもでかい。
「リグノ・ガルガドン!」
 ミグッチェが叫ぶ。そしてノルゲオは両手を頭上に掲げる。すると、ミグッチェの頭上辺りに鎌のついた鎖が何重にも重なって現れた。それは、ものすごいスピードで落下していく。
 そして、ミグッチェの目の前に落ちて、ものすごい大きな音と共に地面のコンクリートが砕け散って視界が見えなくなった。だが、飛んできていた稲妻も同時に地面に叩きつけていた。
「ディオシルド・リグノオン!」
「アゼル!」
「ライライーノ!」
 ノルゲオの前方に鎖を何重にも重ねた大きな盾が現れた。それは前方から飛んできていた二つの攻撃を防いで、消えた。
 砂煙が晴れると、ピットはティーナの右手の上に止まっていた。
「なぜ防御呪文を出したのですか? わたくしたちが攻撃呪文を出す前に」
「視界が無くなったら攻撃を加える。普通そう考えるネ。相手は混乱してるし、外にいる敵がどこにいるかも見えない。攻撃がどこから飛んでくるかも分からない。だから盾をだしたのネ」
 ミグッチェがにやりと笑った。
 ティーナが少しうつむいてから、顔を上げて笑った。
「ジェントルマン。貴方とてもおもしろい。ここまで手応えがある敵と戦うのは久しぶりですわ。それではわたくしたちも……少々本気を出させていただきますよ」
 ティーナは先ほどとはまるで違い、興奮して笑っていた。
 そこでミグッチェはやっと気付いた。
(この女……全然強い呪文を使ってない!)
 そう、最初防いだ魚の術。あれ以来、全く強い術を使ってきていないのだ。
 だがミグッチェは自分を落ち着かせようとする。
(でも私らも同じネ……リグロン以外は、攻撃を防ぐときに使ったリグノ・ガルガドンとディオシルド・リグノオン……これだってまだ強い術じゃないヨ……よし、落ち着いたっ!)
 ミグッチェはティーナに言い返す。
「君たちがあまり強い術を使ってないのには気付いてるけど、こっちだってまだ低級呪文しか使ってないネ!」
「えぇ、分かってます。だから……だから、興奮するのですよ」
 ティーナの顔に、妖しい笑みが広がる。その言葉を聞いて、ミグッチェが驚く。
(この女……かなりやばいね……)
「エルノ様……第八の術を」
 ティーナが左手を持ち上げる。
「うん……ディオル・アゼルドス!」
 左手から巨大な水の塊が飛び出した。それは一直線に、ミグッチェたちに突っ込んできた。
「ちぃっ……ディオシルド・リグノオン!」
 ノルゲオの前方に、再び鎖が絡み合った盾が出現した。
(よし、なんとか防いだネ)
 水は巨大だが、たいして威力は無さそうだった。盾で防ぎきれる。
「甘いですわ」
 ティーナが左手を横に振ると、巨大な水の進路が突然変わって盾を交わした。
「な、何!?」
 そして、再びノルゲオたちに突っ込む。だが、ノルゲオも横に腕を振る。すると、盾が移動して、再び水の前に立ちふさがる。ティーナは手を再び振るが、間に合わず盾にぶつかって相殺した。
 それをみて、ティーナがさらに笑いを大きくする。
「あぁ……あなた方、なんて強いのです……興奮して、興奮して……あぁぁ。もう止められない!」
 ティーナが狂喜の声を上げる。それを見て、ミグッチェが顔をゆがめる。これは本当にイカれてる。
「エルノ様、もっと! もっと!」
 エルノの本が輝きを増す。
「ディオル・アゼルドス!」
「ノルゲオ、こっちも攻撃ね!」
 ミグッチェが集中する。すると、本の輝きが増した。
「リガノ・ガルガドン!」
 ノルゲオが巨大な水に向けて、鎌のついた鎖を落とす。
「交わすだけですわ!」
 ティーナが左手を振る。すると、水の軌道が変わった。
「今ネ!」
 ノルゲオとミグッチェが走り出す。
「それも追いかけるまでですわ!」
 ティーナが更に手を振る。
 二人はそれでも走りつづける。エルノに向かって。
「無駄ですわよ!」
 二人のすぐ後ろまで巨大な水が迫る。それでも何故か二人は何事もないように走りつづける。
 その答えが、直後わかった。鎌のついた絡みつきあう鎖が落ちてきて、巨大な水を地面に叩きつけた。
 ミグッチェがにやりと笑う。
 そこでティーナは平常心を取り戻した。
(そういうことですか……水をあの鎖攻撃で一度軌道を変えさせてから、その一瞬開いた隙を使って前方へ向かう。そしてあの鎖が落ちてくる前に走りぬけて、追いかけてきたわたくしの水をも落ちてきた鎖で無効化する……お見事ですわ)
「エルノ様!」
 ティーナがエルノに合図を送った。エルノは頷くと、二人のほうを向いた。
「オブラ・アゼル!」
 ティーナの左手から大きな正方形の水が飛び出した。それはミグッチェたちを包み込んだ。
「うぐぅ……!」
 二人は水の中でもがいて、なんとか抜け出した。
 だがそのときには、もうティーナたちも、ピットもどこにもいなかった。
 ミグッチェは安心して息をつくと、浩二たちに歩み寄っていく。
 そして地面に両膝をつけて、浩二の肩を揺らす。
「う……うぅぅん……」
「起きるネ」
 浩二が目を覚ました。そのとたん、ばっと上半身を上げて、目を右に左にと走らせた。
「ティーナは!」
「追い払ったネ」
「そうか……ありがとう、助けてくれて」
 ミグッチェが微笑む。
「なんてことないネ。これからは一人でも勝てる様に、ネ?」
 それを聞いて少し浩二の顔がゆがむ。
「俺……負けてたよ。ミグッチェが来てくれなかったら。それに、死んでた……これからは、一人でも絶対に勝てる様にするよ……レインのためにも」
 浩二は、横で気絶しているレインを見て、固く決意した。
 その直後、浩二の本が強烈な光を放ち始めた。
 驚いて、浩二が輝いているページを開くと、新しい呪文が出ていた。
(第六の術……ウィスガ!)
 浩二の顔がほころんだ。浩二は急いでレインを起こした。
「うぅん……あれ! あの魔物は!?」
 浩二が説明すると、レインはミグッチェにお礼を言った。
「それよりもレイン! 新しい呪文が出たぞ!」
「えぇ! 本当ですか!」
 二人は無邪気に喜びながら、たちあがった。だが、浩二が脇腹を抑えて唸りながら、地面に倒れた。
「こ、浩二さん!?」
「ご、ゴメン……やっぱりろっ骨折れたみたい……」
「骨折れたのカ!? じゃあ、病院連れていくヨ! ノルゲオ!」
 ノルゲオは頷くと、浩二を背負った。
「ありがとう、ノルゲオ」
 浩二が例を言うと、ノルゲオは頷いた。少し首をかしげる浩二にミグッチェが言う。
「ノルゲオは喋れないネ。でも陽気な奴だから、勘違いしないでほしいネ」
「そうなんだ。分かった。これからはよろしくな、ノルゲオ」
 ノルゲオは三回も頷いた。そんな微妙に可愛い姿に皆が笑いながら、浩二たちは病院へ向かった。


2005年03月18日 (金) 19時38分


(878) 脅威編 第二十一章〜妄想求めて三千里〜 投稿者:大輝 MAIL

 工事場の近くの暗い裏路地。そこに整形外科があった。
 外装は場違いに白く、以外と小奇麗だった。浩二はノルゲオから降りた。
「これ以上は迷惑かけられないよ。ここまで背負ってくれてありがとう」
 浩二はノルゲオに微笑んだ。ノルゲオは唯一見ることの出きる右目を、少しだけ楽しそうに輝かせて頷いた。
 ミグッチェも横で頷いて、ノルゲオの肩に乗る。
「分かったヨ、また会おうネ」
「うん、バイバイ。本当にありがとう」
 二組は手を振り合ってわかれた。
「じゃ、レイン入ろう」
「はい」
「お前はどこかわるいところないか?」
「大丈夫ですよー、僕は魔物ですから」
 レインは少しつかれたように笑った。まだ先刻での戦闘の疲れが残っているのだろう。二人は病院へと歩き出した。
(先生、いるのかなぁ?)
 浩二はそんなことを考えながら、扉をあけた。
 中に入ると、よく見る病院の光景だった。ソファーが壁添いに並んで、横には本が乱雑に並べられている。
 受付には、病院にしては珍しく、男がいた。
「すいません、診察受けたいんですけど」
 浩二が小さな声で呼びかけると、受付が書類を書くのをやめて顔を上げた。
「はい、分かりました。ではこちらにお名前と病気の症状などをお書きになってお待ち下さい」
 男は低い声で言うと、用紙とペンをカウンターに差し出した。
 浩二はそれを受け取ると、レインと一緒にソファーに座った。
 そして少し丸い字で、用紙を書きこんでいく。
(身長、体重……肥満度まで書くのか? 身長一七三センチ、体重六八キロ、肥満度……あれ? どれくらいだっけ? ……えぇい、テキトーに一九%!)
 実は二五%だったりする。
 全て書き終えて浩二が受付に用紙を提出した。
「それでは、もうしばらくお待ち下さい」
 受付は無愛想に言った。浩二は対して気にもせず、レインの横に再び座った。


――十分後
 レインはいつのまにか寝てしまった。やはり相当疲れが溜まっていたのだろう。まだ六時過ぎだが、浩二も少しあくびをかきはじめた。
「北野 浩二様、準備が出来ましたのでどうぞ」
 受付が扉を開いた。浩二はゆっくりと立ちあがって、猫背気味に診療室へと入っていった。中は、ロビーとはうってかわって、少し暗くてじめじめした感じだった。奥に目をやると、さらさらブロンドヘアでかなり容姿が良い女医者がいた。
「いらっしゃい」
 医者は浩二の姿を見るなり、にこにこと微笑みかけてきた。
 浩二は頬に少し熱を感じながら、医者と向かい合わせの椅子へ座った。
 医者は浩二が書いた用紙に目を落とす。
「えーと……脇腹辺りの内部に激しい痛み……ね。ろっ骨が骨折した可能性が大きいわ。ちょっと調べるから、そのベットに寝転んで」
「は、はい」
 浩二は少し上ずった声で、ゆっくりたちあがると少し奥にあったベットに横たわった。
 女医者も立ちあがって、浩二の頭あたりまできた。
「それじゃあ、大の字になって」
「え? ……そ、それじゃあ……」
 浩二はかなり情けないと思いながらも、体を大の字に広げた。
「ちょっとじっとしてねー」
 女医者は何故か笑いを必死にこらえながら、ぽけっとから何かを取り出した。
(やっぱり……こんな格好カッコ悪いのかなぁ……)
 浩二は顔を真っ赤にさせて、目を瞑った。
 だが、次の瞬間目を開いて斜め上に目をやる。皮膚で感じた通り、女医者は浩二の手をベットに、白い布で括り付けて動けなくしていた。両腕ともにそうされた。
「な、何するんですか!?」
 流石の浩二も声を上げてしまった。その声に動じず、女医者はベットの横に立つ。
「痛くてうごくかもしれないから、こうやっておくのよ」
 総いい終わると、彼女は再び笑いをこらえながら、震える両手を浩二の腹に伸ばしていく。そして、服の両端を持つと、それを一気に上まで持ち上げた。
「えぇぇっ!!?」
 浩二が驚きの声を上げる。
 女の顔は、いよいよ紅潮してきた。浩二のお腹をじーと見ながら。
 女は興奮しながら、こう思う。
(あぁ……なんてぽっちゃりしたお腹なの……ちょっとだけ膨らんだ胸板……そして美しい脇腹の曲線美……あぁ、ロリコンの私にはたまらないわっ!)
 そう、実はこの女、超がつくほどのロリータコンプレックスなのだ。
「あぁぁ……っごほん」
 女はなんとか自分を制して、平常をなんとか保って診察を続ける。
「服の上からじゃ分かりにくいでしょう? 脇腹触るから、痛いところがあったら言ってね」
 女は胸の横の脇腹辺りから探り出した。それから一度、浩二の顔を見つめる。
(そしてこの顔……少しポッチャリしたホッペ……とてつもない可愛さのなかに入り乱れるかっこよさ……あぁぁ、どうやったらこんな顔になれるの!?)
 浩二は女の変な様子に少し首を傾げながらも、緊張して待った。
 そして女が三回目に触れたところに痛みが走った。
「いたっ……」
「ここね。一応最後までやるわ……」
 女は更に顔を紅潮させながら脇腹を触りつづけた。浩二が痛みを訴えるたびに、位置を紙にかきこんでいく。その手はもちろん震えていた。
 そしてついにズボンが近づいてきた。
(ど、どうする私!? こんな可愛い子がくることなんて、もうないわ! でも……でもねぇ……どうするの、私!?)
 女の手は自然とズボンにかかった。
(な、何してるんだ……? この女の人……)
 浩二はさすがに異変に気付き始めた。何故か自分のズボンに手をかけてくるからだ。それだけではない、息が荒くなってきている。顔もあんなに紅潮して……
(ロリコンって訳じゃないよなぁ……?)
 浩二は女の顔を妖しがりながら見上げた。
(これは空前絶後のチャンスなのよ! もう……どうにでもなれよ!)
 女は歯を食いしばって、浩二のズボンを一気にずりおろした。
「はぁっ!?」
 浩二の顔は更に真っ赤になった。
「もう止まらないわぁ!」
 女は浩二の体のいたるところをがむしゃらに触り始めた。お腹や胸を揉んだり、太ももを撫でたり……
「あぁぁ〜! や、やめてぇ〜!」
 浩二が叫び声を上げる女の手は止まらない。
 そして女の手は浩二の――


「うわぁ!」
 レインがソファーからがばっと体を起こした。
 汗まみれだった。
「な、なんだ、夢か……」
 レインは力なく笑う。そうだ、こんなのが現実な訳が無い。
「おい……変なところを舐め、る……なよ……」
 奥から浩二の声が聞こえてきた。それを聞いてレインの脳裏に一瞬嫌なことが浮かび上がってきた。
 今度は女の声がする。
「こら、あんまり動かないの」
「だから……舐めな、いで……あぁ、気持ち良い……」
「……ほら、次は貴方の番よ」
「やっぱり、ずっと舐めてもらいたいかも……」
 レインがとっさにたちあがる。そして扉に走っていく。
(こ、これは、浩二さんの大ピーンチ!?)
「浩二さん!?」
 レインが扉を開けた瞬間、そこには信じられない光景が広がっていた。
 二人がレインのきょとんとした顔を見てくる。
「そ、それは!?」
 そう、レインが見たものは、ベットに背もたれている浩二と、ベットの横で立っている女と……浩二の顔をべろべろと舐めている犬だった。
「ん? どうしたレイン」
「あら、この子が魔物の子?」
 女がレインの顔を見てそう言う。レインは状況をなかなか理解できず、その場で呆然とたち尽くした。
「えぇ……あれれ!?」


「えぇぇ……俺とシェルノルティーさんが!? そんなわけ無いだろ!」
「そうよ、私だってロリじゃないわよ……浩二ちゃん、シェルでいいっていってるでしょ?」
 レインは見た夢をありのままに伝えた。そして今更になって公開した様で、呆然とその場に立ち尽くした。
「レインちゃんも、そんなこと考えるなんて、ちょっと大人ね」
 シェルは薄く笑いを浮かべながらレインを見下ろした。
「考えたんじゃありません! 夢です、夢!」
「でも、夢では自分の願望とかが反映されることもあるしね……それよりなんで夢に私がでてきたのかしらね? レインちゃんと私が会ったの、レインちゃんが夢見た後でしょ?」
『あ゛っ……』
 浩二とレインが同時に声を上げた。それからシェルは妖しげな笑いを浮かべながら、
「正夢になったりするかもねっ」
「な、お、お、俺は、俺は」
 浩二が顔を真っ赤にさせて否定する。
「冗談よ、冗談♪」
 それが冗談に聞こえないから怖い。
「それより……」
 突然、レインが少し真面目な顔になって言う。
「魔物を知ってるって事はあなたも魔物の戦いに参加してるということですか?」
 シェルが痛いところをつかれた、という顔になった。
「そうよ……この子が私の魔物、ウォントちゃん、オスよ」
 シェルがベットの上にちょこんと座っていた犬を抱きかかえて、レインに見せた。
 ウォントはレインの顔をまじまじと見つめて、首をかしげた。
「ワンッ!」
「よろしく、って言ってるわ。でも私は病院の仕事があるから、あんまり会えないけどね。まあ機会があったらまたこの子と遊んであげてね」
 シェルは母親のような優しいまなざしでウォントを見下ろしながら頭を撫でた。
「はい。機会があれば」
「あら……ちょっと冷たい反応ねぇ……浩二ちゃん、レインちゃんっていっつもこうなの?」
「うーん……ほとんどはそうですね。なんか模範的っていうかなんていうか、話してる感じがしないっていうか……」
「そ、それは大人の前で緊張してるからですよ!」
「まあ、最近はだいぶ直ってきましたけどね。それじゃあ……」
 浩二はベットから降りて、靴をはいた。
「そろそろ行きますね」
「はい。今日のところは診療代、まけとくわね」
「あ、ありがとうございます♪」
 浩二は素直に喜んで、微笑んだ。それを聞いてレインが思い出した。
「そういえば、骨のほうは大丈夫だったんですか?」
「ん? あぁ、この魔物の力で治してもらったよ。治癒の力でね」
 浩二は脇腹をぽんぽんと叩いて見せた。
「そうよ、ウォントちゃんはとっても偉いもんねー?」
「わんっ!」
 ウォントが嬉しそうに吠える。浩二はドアに手をかける。
「それじゃあ、また」
「えぇ、またね」
 そういって、浩二は受付に睨まれながらも病院を後にした。


2005年03月21日 (月) 23時43分


(957) 脅威編 第二十二章〜術の力の根源〜 投稿者:大輝 MAIL

「ふわぁぁぁ〜」
 浩二が上半身だけ起こして、背中を伸ばす。ここはホテル。ツインベッドの部屋で、二人でいても、全く窮屈することはなかった。
 ティーナと戦ってから、まだ数時間しか経ってない。
 カーテンの隙間から射し込む光が、暗い部屋のほこりを照らし出している。
 浩二がふと時計に目をやると、もう八時だった。
「よく寝たなー」
 浩二は口に手を近づけて、一度大きなあくびをすると、ベッドから体を下ろして、たちあがった。
 それから、横のベッドで寝ていたレインの体を揺らす。
「レイン、起きろ。もう八時だ」
「うぅぅん……あぁぁ……浩二さんと、真奈美さんが……あぁぁぁ、浩二さんのピーンチ!?」
 レインがベッドの中であえぎながら、唸る。
(ま、また変な夢を……)
 浩二はレインの耳元まで顔を近づけてから、一度大きく息を吸う。
「レインー!」
 それから、大声で叫んだ。直後、レインが飛びあがって起きた。
「じ、地震か!?」
 レインがあちこちに目を走らせるが、浩二の姿を見たとたん、それをやめた。
「あ、おはようございます」
「おはよう。また変な夢を見てたみたいだぞ」
「えぇ……あぁ、すいません。忘れました。夢は六時以内に起きないと、忘れるものだと、誰かが言ってましたし」
 そんな人間界での理論を、何故魔物のレインが知ってるかは不明だ。
「レイン、髪の毛はねてるよ。頭ぬらして、あのいつもつけてる毛糸の帽子でもかぶっとけ」
「帽子つけたらはねがなおるのは知ってるけど、毛糸がびしょびしょになると……」
「あっ……ま、別にいいじゃん」
「よ、よくありませんよ。この帽子はね――」
 それから二人は、長々と話を始めた。


 時間と場所は変わって。
 真奈美とルルはモチノキ町の近く、東京千代田区に来ていた。
 真奈美が腕時計に目をやる。
「今はー……十時ね。ルル、私たちの仕事もう終わったし、ちょっと遊んでもう本部帰る?」
 ルルがベンチに腰をかけて言う。
「そうだね。でも、なんで私たちの仕事、こんなにきつかったんだろう?」
「そうよそうよ。なんで、私たちが日本にいる魔物を勧誘しにこなきゃ行けなかったのよ!? それに浩二君は、清麿という始めから仲間になる確率百%も同然の人を、勧誘しに行っただけ! なんという落差よ!」
 真奈美が一気に言った。女というのは、一度愚痴り出したら止まらない生き物なのだ。
「そ、そうだよね。それに、勧誘失敗して、逆に反撃されるし……」
「ま、司令で勧誘失敗したら本を燃やしてもいいって言われてたから、たおしたけどね……で、ルルはどっかいきたいところでもある?」
「うーん……モチノキ遊園地なんてどう? 近いし」
「よし、決定! そこでストレスぶっ飛ばしてから、速攻帰るわよ!」
 真奈美がベンチから勢いよく立とうとした、そのとき。
 突然ハンドバックの中に入っている携帯が鳴り出した。
「はい、真奈美です」
『あ、俺』
「浩二君? どうしたの?」
『俺達さ、もう仕事終わっちゃったから、これから日本で会わない? 真奈美さんの仕事が終わってればの話だけど』
「まあ、一応終わったことは終わったわ。実は私たち、モチノキ遊園地に行くことにしたの」
『あっ……ゴメン、そこなら昨日行っちゃったからさ、俺やめとくわ』
「あっそ。本部で会いましょうね」
『ほ、ホントにゴメン……じゃね』
 真奈美はちょっと怒り気味に電話を切った。そんな真奈美の様子を見て、ルルが聞く。
「真奈美さん、やっぱり浩二さんと行きたかった?」
 それを聞いたとたんに、真奈美がきっとルルを見下ろす。
「なんで? 仲間なだけで、別に浩二君のことが好きなわけじゃないわ。ガキっぽいし、天然だし……まあ、顔も性格もちょっと可愛い感じだけど――」
 と、浩二の欠点を延々と真奈美が挙げる。真奈美が言い終わると、ルルが苦笑した。
「それだけ観察してるってことは、本当は好きなんじゃないの?」
 そんなルルの言葉にも真奈美は言葉一つ濁らせず、言い放つ。
「洞察力があるといってほしいわ。ま、友達としてはいいかもしれないけど、ありゃ恋人向けじゃないわよね、天然だから」
 きっぱりだった。これが彼女の本音なのだろう。
(あぁ、浩二さん、かわいそぅ)
「そんなことより、さっさと遊園地行くわよっ!」
「あー、うん」


「ぎゃぁぁぁ〜! こ、これが噂に聞いた、マッハ5のミラクルジェットコースターねぇぇ!」
 真奈美の横で、ルルは平然としていた。真奈美がルルを横目で見ながら、
「な、なんであんたは怖くな……ぎゃぁぁぁ〜!」
「ジェットコースターは死ぬと思うから怖いんだよ。こんなもの死ぬ可能性なんてないから、全然怖くないよ」
 ルルが言い終わった頃には、もう真奈美は気絶していた。


 と、あっという間に時間が過ぎていって。
 もう時間は五時だった。まだ空は青いが、さすがに暗がり始めている。
「かなり遊んだし、そろそろ帰ろっか」
 真奈美が言うと、ルルは頷いた。
 そしてモチノキ遊園地から出た時には、もう夕日で空は赤く染まっていた。
「ここから羽田空港までは……十キロくらいだわ。歩いていきましょ」
「う、うん」
 二人は暗い道を歩いていった。
 そして途中、ひっそりとした工場地帯のようなところに入り込んでしまった。
「ここが、浩二君たちが運命の脅威と戦ったって言ってた場所ね」
 真奈美が考え深げにつぶやいた。
「まだ敵が近くにいるかもしれないし、早く行きましょ」
「うん」
 二人はそのままそこを通りすぎようとした。だが次の瞬間、真奈美の目の前に氷弾が突然現れた。
「る、ルル!」
 とっさにルルが両手を前に出した。
「ギガ・ラ・ビシル!」
 真奈美とルルの周りに焔の膜が現れ、氷弾と触れた瞬間、相殺した。
 氷の呪文を見た瞬間、ルルの脳裏にある魔物が浮かび上がってきた。
(もしかして……レイナ……?)
 ルルの横で、真奈美がさけぶ。
「誰!?」
 工場の奥からルルが一番出会いたくなかった人が現れた。その姿を見た瞬間、ルルは息を殺して、後ずさった。あきらかに恐怖している。
「ふふっ、またあったわね」
 二人の前には、8歳くらいの女の子、レイナとその横に魔本を携えている背の高い男が並んだ。
「れ、レイナ……」
「レイナって……あんたがルルを裏切った魔物ね……」
 真奈美の形相が険しくなる。ルルは真奈美にしがみついて、顔をゆがませている。
「あぁら、裏切ったなんて人聞きの悪い。いつルルと私がこの戦いで協力するなんて言ったの?」
「人間界に……くる前に……」
 ルルが真奈美の後ろからちらちらとレイナの顔を覗きながらいった。
「あぁ、そう言えば言ったわね。じゃあ前言撤回。ルル・フィーネ、あんたとはこれからは……いや“これからも”友達じゃないし、そして仲間でもない。よく覚えておくことね」
 レイナが平然と言いのけた。
 それを聞いて、ルルの目から一筋の涙が零れ落ちた。
 これから、も……それは自分のことをレイナは昔から友達だと思っていなかったということ。
「もういいかしら、ルル・フィーネ、あんたが泣こうが泣きまいがわたしにはどうでも良いの。いや、うっとうしいだけよ。いるだけで邪魔なんだから、黙りなさい」
 その言葉を聞いてルルは顔を伏せて、更に大粒の涙を流した。
「はぁ……じゃあ黙らしてあげるしかないわね……チェリー、呪文よ」
 ティーナの横から驚くべき姿をした人間が現れた。乱れた髪の毛、日焼けサロンで焼いたと思われる、小麦色の肌、そして――超目立ちまくりのショッキングピンクのフリフリドレス……
 かなり場違いだ。
「えー、超めんどいしー。超MMー(超ムカムカー)。超ウザい。超死ねぇー」
「……いいから呪文唱えなさい」
「えー? もう、ウザいなぁ。じゃあいくよぉー、えーとぉ、フリゼル」
 さっき真奈美に飛んできた氷弾、いや氷柱(つらら)だ。それがレイナの右手から放たれて、飛んできた。それを見て、真奈美が本を構える。
「ルル! 準備して!」
 ルルは真奈美の後ろでじっとしていたが、勇気を振り絞って前に出た。
「ビシルド!」
 ルルが虚ろいだ瞳のまま、両手を持ち上げて呪文を出そうとした。
 だが――いつもなら出るはずの焔の盾が出ない。
「なっ……」
 真奈美が声にならない悲鳴を上げた。先端が鋭く尖った氷柱は真奈美のわき腹をかすめて通りすぎていった。真奈美が脇腹を抑える。そこからは鮮血が滴り落ちていた。真奈美の痛みにゆがんだ顔を見て、ルルの顔が更に暗くなる。
 真奈美が唸りながら言う。
「な、なんで……術が出なかった……」
 それにレイナが答える。
「あら? そんなのも知らないの? 術の力の元は心の力、気持ちの強さよ」
「な、なんですって!?」
「その魔物の方が私になんか言われて落ち込んでるでしょ? だから悲しすぎて心の力がないの。魔物に術を出す気がなかったら、術は出せないわ。もちろん人間でも心の力がなかったら術は出せないしね。それと、呪文を使いすぎても心の力が切れて術が使えなくなる」
 真奈美は驚いた。いままであまりにも呪文を多用する戦闘をしていないためか、術はいくらでも無制限に使えるものだと思ってた。そして力の根源も、魔力かなにかだと思っていた。
 それが心の力――
 だがそんなことが分かったところで理解できたのは、こちらが断然不利。
 それだけだ。ルルは術を使えない。それにこの魔物から逃げられる確立は、まずない。更にこんな人通りのない廃工場地……助けが来るはずもない。
 そうなると――
「ルル! あんな魔物の言うことなんて気にする必要はないわ! 気持ちを強く持って!」
 呪文を使えるようにする。それしか手はない。
「おーっと、術なんて使わせないわよ。チェリー、もっとめんどくさくなる前に、さっさと片付けましょう」
「もっとめんどくさくなる前……ね。じゃあいいわよぉ〜、超メンドいけど、やったげる。フリゼル」
 やはり時間はくれない。氷柱が再び真奈美に襲いかかる。
「ルル! 構えて!」
 ルルはゆっくりと両手を上げた。
「ビシルド!」
  が――またしても術は出なかった。氷柱が真奈美の右足を裂き、大きな傷を与えた。
「きゃぁぁぁ!」
 真奈美はひめいを上げて、地面に倒れこんだ。今更になって気づいたように顔を上げ、ルルが真奈美の方に振り向いて駆け寄った。
「大丈……」
 駆け寄ろうとした直後、
「フリゼル」
 後ろから鋭い氷柱がルルに刺さった。
「くはぁっ……!」
 ルルの口から血が大量に飛び出した。そして、真奈美とルルは地面に倒れた。
「それじゃあ、とどめね。チェリー」
 チェリーの持つ、水色の本の輝きが増していく。でかいのが来る。
(あぁ……私は……私は……こんなところで死ぬの……?)
「ギロウ・フリバルドン!」
 直後、レイナの体から強烈に光が溢れ出し、その光が氷を纏った精霊の姿になった。それは一直線に真奈美達に突っ込んでくる。その途中にあるものは全て凍っていく。
(ははっ……これって、浩二君が言ってたのと同じ……低級呪文だけでボロボロにやられて……それで最大呪文……それから助けが来て……いや、ちょっと違うか。私は……死ぬんだもの)
 真奈美は目を瞑って死を待った。物が凍りつく音が近づいてくる。
(あぁ……なんで最期に……“あいつ”の顔が浮かんでくるんだろう……最低)
 真奈美は少し微笑んで、涙を流した。
 だが刹那、
「ディレス・ウィレクト!」
 風が吹く音がして、なにかとぶつかった音。そして近くでなにかが爆発した音。
 何が起きたか分からなくて真奈美が目をあけると――
「こ、浩二……君!」
 真奈美の目の前に、息を切らしている浩二と、レインの姿があった。


2005年04月13日 (水) 16時08分


(959) 脅威編 第二十三章〜初めて見た彼の姿〜 投稿者:大輝 MAIL

 真奈美はあまりにも驚いて声が出なかった。死ぬ寸前、そこに突然現れて助けてくれた人。
「こ、浩二……君!」
 真奈美が叫ぶと、浩二は息を切らして膝に手を当てて体をかがめながらも、少し顔を真奈美に向けて、親指を立ててポーズを決めた。
「ギリギリセーフだったね……無事で……よかった」
 それから少しだけ微笑むと、浩二はレイナのほうに向き直った。
 それにレイナが鼻で笑った。
「まさか、ティーナと同じような展開になるなんてねー。不運だわ。でも、脅威者が二人も手に入ると考えれば、まあいいか」
 そういうと、レイナがチェリーに合図を送る。チェリーはめんどくさそうに魔本のページをめくる。
「フリズダム!」
 突如、浩二たちの左右に大きな氷の壁が現れた。それが一気に狭まって、浩二たちがつぶされる。
「浩二さん!」
 レインがハンドシグナルを使って、浩二に合図を送った。
「了解。オルダ・ウィガル!」
 レインが杖を数回まわし、竜巻を複数放った。竜巻は氷の壁を押し返して、相殺した。
 それにレイナがつまらなそうな顔をする。
「ふーん、そっちも広範囲攻撃持ってるのね。一気に決めるつもりだったのに」
 それをあざ笑う浩二。
「まぁ、お前みたいな雑魚には負けないよ、俺たちは」
「ばかね、そんな挑発に乗るわけないでしょ。チェリー、呪文よ!」
「フリゼル!」
 レイナの右手から氷柱が飛び出して、一直線にレインに向かう。
「ウィスガ!」
 レインの杖から、針の様に細い風が飛び出した。
(ふんっ……相殺ね)
 レイナがそう思っていると、氷柱が砕け散って、そして何故か風の針がこちらに飛びつづけている。
「何っ!?」
 対処しきれず、レイナの腕を貫通して針が消えた。
「くっ……ど、どうなってるの……威力は、同じだったはず……」
 それに浩二が笑う。
「力は触れる面積が小さいければ小さいほど強くなる。針の様に細い風を出すこの呪文は、どんなにエネルギー量が同じだろうと、威力自体は何倍にも増してるんだ!」
 レイナの表情がゆがむ。確かに、心の力をあまり消費しない上にその威力は通常より何倍も強い……かなりの脅威となる。
「へー、やるわね。でも攻撃だけじゃ勝てないってこと……教えてあげるわ!」
「フリズブルグ!」
 レイナが両手を前に出して構えると、四方八方に大量の氷が現れ、それが一気に浩二たちに襲いかかる。
「浩二さん!」
 レインがハンドシグナルをまた送る。
「了解。ウィスガ・キロロ!」
 レインが杖を横に振ると、風の衝撃波がいろいろな方向に飛んでいく。それで氷と相殺する――だが、衝撃波は氷をすり抜けてしまった。
「レイン、また幻影の攻撃だ! 後ろに気をつけろ!」
 前の戦闘でティーナにやられた呪文と同じだ。浩二はそう考えて、飛んでくる氷は無視して、レイナの姿を探すのに専念した。
 だが、幻影だと思っていた氷が浩二の肩にあたった。
「ぐわぁぁぁ!」
 あまりの激痛に倒れる浩二。そして腹、腕、足……いたるところに氷があたっていく。そして、血だらけで浩二はぴくりとも動かなくなった。
「浩二さん!」
 レインが浩二に駆け寄る。それをみて甲高い声でレイナが笑った。
「やっぱりひっかかった! これが私とティーナの心理を利用した、時間差コンボ。ティーナの、幻影の術で相手をハメて、それ以降、私が戦闘したときこの術を使うと……相手は私の術の氷も全て幻影だと思いこむ。でも本当はこの術、半分本物で半分幻影なのよ! ねっ、すごいでしょ!」
 レイナが笑いつづける。浩二も真奈美も、顔をしかめる。
 だが、唸りながら血だらけの浩二がふらふらと立ちあがる。
「ここでまけるわけにはいかない……俺の……俺の仲間を助けるんだ!」
 浩二が言い放った。それにレイナは鼻で笑った。
「何が助けるよ。そんなボロボロでなにができるの?」
「うるさい、黙れ……真奈美さん……」
 突然声をかけられて、少し驚く真奈美。
「大丈、夫?」
「浩二君……大丈夫だよ……それより浩二君が……ごめんね、私のせいで……」
 真奈美が浩二に向かってつぶやく。だが、それに浩二は首を振った。
「いや、最初から俺が真奈美さんと遊園地行っておけばこんなことにはならなかったよ……俺が悪い」
 その言葉に真奈美がはっとした。あまりにも、あまりにも彼が――
(浩二君……優しすぎるよ……)
 真奈美の目から涙が溢れる。
 初めて見た彼の姿。初めて見た……“かっこいい姿”を。
「大丈夫、安心して。俺が……君を……守るから」
 真奈美が涙を流しながら、少し微笑む。
(もうっ……かっこつけちぇって……)
 それから浩二が本を構えなおす。
「レイン……これで決めるぞ……」
「はい」
 チェリーも本を構える。
「レイナァ、次が最大呪文でいぃ〜? もうダルいってかんじぃー」
「そうね、相手も使ってくるみたいだし、使って」
「オーケー……ギロウ・フリバルドン」
「ディレス・ウィレクト!」
 レイナの体から強烈な光があふれて、その光が形を変えて、氷を纏った狼の姿となった。
 レインの杖からは、巨大な球形の風が現れた。球の内部では、風が乱気流を起こして、刃の様にうなりをあげている。
 二つがぶつかり合った。刹那、両方が爆発を起こし相殺した。そして全員を突風が襲った。砂がレイナの視界を奪う。
 次にレイナが目を開けたとき、隣で誰かが倒れる音がした。そして視界が開けたときには、チェリーが倒れていた。
「ちぇ、チェリー!?」
 レイナが声を上げて、本の行方を探す。それはすぐに見つかった。はたしてそれは、倒れているチェリーのすぐ後ろにいた浩二の手中にあった。
「終わりだ」
 浩二がライターを取り出して、レイナの本に火をつけようとした直後だった。
「アゼル!」
 浩二の背後からとてつもない勢いで水流が飛んできて、彼をふっ飛ばした。そのひょうしに、魔本が上空に舞いあがり、地面に落ちた。
 それを後ろから歩んできた女――ティーナ・アレスが拾った。
「大丈夫でしたか? レイナ」
「まあねー、本なんて燃えるわけないから、あんたが助けなくても大丈夫だったよ?」
 それにティーナが少し笑って、
「まぁまぁ……そんなにお強がりにならなくてもよろしいですよ?」
「むっかー! まあいいわ、今回は引きましょう」
「えぇ、そうですわね。私もまだ回復しきってるわけでもありませんし……行きましょう」
 レイナは気絶しているチェリーを起こして、そのままティーナとどこかへ行ってしまった。
 背中に残る鈍痛を感じながら、浩二が言う。
「大丈夫……? 真奈美さん」
「私より浩二君……最後に術が直撃した……」
「へへっ……前は骨折れたけど、今回は辺り所がよかったみたいで大丈夫」
「そう……よかったわ……浩二君」
「ん? 何?」
 真奈美が少しふらつきながら体を起こした。そして倒れている浩二の顔を覗きこんだ。
「な、何……?」
 浩二は顔を真っ赤にさせて、静かに待った。
「浩二君……今日は、かっこよかったよ。ありがと……」
 そういうと、真奈美は浩二の頬に軽く唇を当てた。
「ふ……ふええっ……?」
 浩二は一瞬何が起きたのか理解できず、無言だった。
 真奈美は当てていた唇をそっとはなして、浩二の顔をにこっと笑って再び見下ろした。
「ほんじゃ、帰ろっか」
 真奈美は浩二に肩を貸した。だが、浩二はするすると落ちていって、その場に呆然と座り尽くした。
「い、今何が……ほっぺが……ほっぺが濡れたような気が……ど、どうなってるの……?」
 それを見て、真奈美が幻滅したような顔になった。
「はぁ……いつものかわいい浩二君に戻っちゃった……ま、いっか」
 真奈美は、くすっと笑うと、再び浩二に肩を貸して、そのまま歩き出した。そして満天の星空を見上げながら、彼女は思った。
(あぁ……これが……これが恋という病なのね……)
 なんてよく分からないことを考えながらも、彼女は満足げに微笑みながら夜道を歩きつづけた。


2005年04月14日 (木) 21時41分


(973) 登場人物 投稿者:大輝 MAIL

〔レイングループ〕
北野 浩二 十四歳
 クローバー色の本の使い手。レインのパートナー
 茶髪で、身長は170前後。
 日本の平凡すぎる日常に飽き飽きし、イタリアに留学。
 そこから、魔界の王を決める戦いに巻き込まれていく。
 温厚で、少し天然な性格。
レイン・クロベイル 六歳
 風の脅威者。主に風による攻撃を扱う。
 緑色の髪で、身長は120前後。毛糸でぬった帽子をかぶっている。
 ルル、ウェン、レンとは昔からの友達。
 謎の移動特殊能力を持っている。
 穏やかで、誰にでもやさしい性格。初対面でもはきはきしゃべる。
 多彩な攻撃術が使え、レイングループの中では特攻の役を担う。
 右手に携えた、羽が先端についた杖から術を放つ。

西条 真奈美 十六歳
 茜色の本の使い手。ルルのパートナー。
 茶髪の長髪で、身長は165前後。
 イタリアで、ルルやフォーラ、シェインたちと出会った。
 少しばかり自己中で、すぐ人を殴り飛ばす。
 体術が使え、格闘面ではかなり強い。
ルル・フィーネ 六歳
 焔と爆発の術を使う。守りの術を扱う。
 赤髪の長髪で、身長は115前後。
 魔界では、レイナという女の子と仲が良かった。
 普段はおとなしく、人見知りで内向的な性格。
 二重人格で、攻撃を受けるとたまに二重人格のルルが現れ、自分のことを、ルル様、と3回言うまで暴走を続ける。
 守りの術を中心に使え、レイングループの中では攻撃を阻止することが主な役目。
 両手から空間に定着させて、術を使う。

フォル・フォーラ 六四歳
 茶色の本の使い手。ウェンのパートナー。
 白髪で少し短髪。身長は160前後。イタリア人。
 レイングループの中ではもっとも頭がよく、司令塔でもある。
 仲間思いで、特にウェンは孫のように思っている。
 豊富な知識で、綿密な作戦を立てる。
ウェン・ノークス 六歳
 念の術を使う。武器を装備する術を扱う。
 銀髪で、身長は125前後。
 魔界では、病気で頭がおかしくなってしまった母と、自分勝手な父と三人で暮らしていた。
 誰にでもやさしく、だが少し気が弱い。
 超多彩な武器を使えるので、レイングループの中では一番の強さを誇る。不意打ち、主な攻撃を役目とする。
 心の力でできた武器を空間に現し、術を使う。

シェイン・シャース 一九歳
 灰色の本の使い手。レンのパートナー。
 金髪でロン毛。身長は180前後。フランス貴族の出。
 かなり自己中の上、ナルシスト。いつでも鏡を所持している。
 実は、運動も勉強もかなりできる。
レン・シューイット 七歳
 暗黒の術を使う。攻・守・特の術をバランスよく扱う。
 漆黒の髪で、バンダナをつけている。身長は130前後。
 サディエスト的面も見せるが、実は人を傷つけるのは嫌い。
 今はレインたちと別行動中。
 抵抗者。
 バランスのよい術で仲間をサポートする役目。
 右手から術を放出して発動する。

〔堕下する世界(だこうするせかい)(フォール・ワールド)〕
サルマ・エレシル 十六歳
 黄土色の本の持ち主。ライノのパートナー。
 茶髪で長髪。身長は170前後。フランス人。
 積極的な性格で、真っ先に行動をはじめる。
 カルバの知り合いで、堕下する世界の初期メンバーの一人。
 勉強は少し苦手だが、運動神経はいい。
 戦闘を担当する。
ライノ・ベルベッド 七歳
 自然の脅威者。攻撃系を中心に術を扱う。
 緑の髪で、緑のシャツを着ている。身長は、125前後。
 冷静な性格で、口数は少ない。
 ラグナスに突然戦闘をもちかけたところをみると、かなり戦闘慣れしているよう。
 だが戦闘能力はまだまだ未知数。
ゼロイン・フォア・エレッシオ 一七歳
 灰色の本の持ち主。シノアのパートナー。
 愛称ゼロ。
 銀髪。身長は170前後。フランス人。
 堕下する世界の、創始者で、リーダー。
 頭がとてもよく、作戦を立てるのが上手い。
シノア・ウォーランド 八歳
 使用術は不明。
 金髪。身長は130前後。
 堕下する世界の創建を計画した。

カルバディッグ・ノーフェンス 一七歳
 ライトグリーン色の本の持ち主。キーリのパートナー。
 愛称はカルバ。
 漆黒の髪で、身長は180前後。
 ノアとは昔からの仲で、堕下する世界の初期メンバー。
 少し大人びた感じ。仲間割れが起こったときなどは、すぐに解決する。
 彼の魔物はまだ不明。

〔運命の脅威(うんめいのきょうい)(ディスティニー・ナメス)〕
イデス・ディライデ 二七歳
 ライトイエローの本の使い手。ラグナスのパートナー。
 超サディエストで、人間をいたぶることで快感を味わうような人間。
 普段はラグナスと、脅威者を探すために世界中を回っている。
ラグナス・アルト 一七歳
 光の術を使う。攻撃系を中心に術を扱う。
 人形のような顔(漫画で言うとアースのような顔)で、いつでも無表情。
 運命の脅威(ディスティニー・ナメス)の一人。
 ハイツから受けた指令を複製体たちに知らせたり、脅威者の捜索が主な仕事。
 冷徹で、脅威者を手に入れるためなら手段は選ばない。
 色々な種類の術を覚え、光で敵の目潰しをしたりする、サポート役。
 右手、または両手から術を放出して発動する。

??? ?歳
 ブラックグレーの本の持ち主。ハイツのパートナー。
 術の力の根源が、心の力だと早期から気づいていた程、頭がいい。
 それ以外は、詳細不明。
ハイツ・ノストラー 十四歳
 重力複合の術を使う。攻撃系を中心に術を扱う。
 普段は犬の姿をしているが、満月に照らされることで人の姿に変身する。
 運命の脅威のリーダーで、全指令塔である。
 複製体への指令、脅威者捕縛が主な仕事。捕縛に出向くことはあまり無い。
 温厚な性格。
 戦闘にはなかなか出てこないものの、多彩な属性の攻撃呪文で、敵に大ダメージを与える、特攻が役目。
 犬のときは口から放出、人間のときは右手から空間に定着させて、術を発動する。

ティーナ・アレス 一九歳
 純水の術を使う。攻撃系を中心に術を扱う。
 整った顔立ちにいつも浮かぶ優美な笑顔と、珍しい紺青の髪が特徴的。
 昔清麿たちの仲間だった。そのとき清麿に本を燃やされたはずなのだが、何故か本は無事で、現在は運命の脅威団員である。
 脅威狩りが始まるときにやっと呼ばれたのを見ると、それまではあまり仕事はなかったように思われる。
 しかしながら戦闘は強く、低級呪文でも中級呪文並の威力を発揮できる。それいがいでも、状況判断力、術の使うタイミングの判断力、など、頭脳面でもかなり優に出ている。
 術は左手から放出する。
エルノ・フィルゼルト 九歳
 藍色の本の持ち主。ティーナのパートナー。
 茶髪で、身長は130前後。
 昔は清麿たちの仲間だったが、ティーナと共に現在では運命の脅威の団員となっている。
 ティーナとは対照的に、活発な性格である。
 現在はティーナとともに脅威狩りをしている。
レイナ・ルート 八歳
 氷の術を使う。攻撃系を中心に術を扱う。
 目つきがすこしきつく、水色の短髪。
 ルルの友達であったが、人間界に来てからは離れ離れになり、敵となった。
 現在、運命の脅威団員であり、脅威狩りの仕事をしている。
 ティーナ同様、脅威狩り前はあまり仕事をしていなかったと思われる。
 戦闘能力は、高く、ティーナと時間差コンボをすることもある。
チェリー・デリー 二二歳
 グレーの本の持ち主。レイナのパートナー。
 ケバいギャルで、残忍な性格。
 体はもちろん日焼けサロンで小麦色、ケバギャルの証、乱れた茶髪に全人類にアピールせんばかりのショッキングピンクのフリフリがついたドレスを身に纏っている。
 はっきりいって、場違いな存在。

〔複製体〕
バルス・カーブ
 中級レベルの中で上位の魔物。水と雷と土の術を使う。〔複数の敵専用〕
 天空の城の破滅そのもの。自分の名が破滅のトリガーとなっていて、破滅の呪文が発動すると、周囲の地面を奈落のそこへと落としていく。
 「何度でも復活する」、と意味深な発言をして、自滅した。
レイラ
 中級レベルの中で上位の魔物。月の術を使う。〔複数の敵専用〕
 清麿に謎の青い粉をかけたり、記憶をなくしていたりと、不明な点が多い。
 バルスが消えると同時に、レイラも消えた。
ピット
 中級レベルの、鳥形の複製体。稲妻の術を使う。〔ティーナ連携専用〕
 黄色い色をした小鳥で、動きも素早い。
 ティーナのペットのような存在で、一緒にいることが多い。


2005年04月18日 (月) 22時39分


(980) 第二十四章〜十分差〜 投稿者:大輝 MAIL

「ねぇねぇ真奈美さん……さっき俺になにしたの?」
 浩二は真奈美に肩を貸してもらってふらふら歩きながら聞いた。レインはルルを背負って、後ろからついてきている。
「ん? そうねぇ、なんていえばいいのかしら……まあ、恋人同士がラブホ(ラブホテル)いく前段階にするような、そういうことなのかしらぁ……?」
「なんだそりゃ……」
「わかんないならいいの。それよりも、浩二君を手当てし……いや、魔物の力で治したっていう医者がいる診療所はどこよ」
 それを聞いて、浩二は少し悲しくなった。
(はぁ……また俺が弱って、肩貸してもらってるよ、ミグッチェのときも今も……あぁ、俺ってかっこわるいなぁ)
 いや、さっき十分かっこつけたはずである。
 それはさておき、浩二は真奈美を誘導して、あの診療所の前まできた。
 ついたとたん、真奈美が浩二を地面に下ろして、息を切らせながら壁にもたれかかった。
「はぁはぁ……こ、浩二君、一体何キロあるの?」
「えーと……68、だったかな?」
「で、デブじゃん! そういえばどことなくほっぺたが丸いような気もするし……」
「し、しないよっ! 失礼な」
「肥満度は?」
「えっと……一九%」
 だから二五%だって。
「ふーん、何故か標準値ね……まあいいわ。さっさと入りましょう」
「よろしくたのむよ」
 浩二はまた真奈美の肩をかりて、診療所の中へ入った。そのとたん目に入ってきたのは、右手に雑誌を持って読みながら、左手でポテトチップスをばりばりと食べている男受付の姿が目に飛び込んできた。
 男は、二人の姿を見るやいなや、あわててその二つを隠して、平然を装った。
「い、いらっしゃいませ」
「シェルノルティーさんはいますか?」
 すると受付は首を振った。
「いえ、ある魔物の方についていきました」
『えっ!』
 二人は思わず声を上げた。ここで治療が出来ないし、それにシェルの行方も気になる。
「だ、誰についていったんですか!?」
「少し御待ち下さい。時間がかかると思いますので、あちらのソファーに座ってお待ち頂けますでしょうか?」
「はい」
 そういうと、受付はパソコンのデータを眺めはじめた。三人は言われたとおり、後ろのソファーへ腰をかけた。ルルが寝転んでいた。
 真奈美は心配そうに眠るルルの頭を撫でた。
「真奈美さん……ルルはどうしたの?」
「あいつが――いや、なんでもないの……」
 浩二はそのことがかなり気になったが、話を進める。
「にしてもさ、さっきは俺に何したんだよ? ほっぺがね、なんか温かくなって、濡れて……キスじゃないだろうしな……」
「だから教えないって。覚えてない浩二君が悪いのよ」
「なにぃっ! そんなこと言われたって、覚えてないんだからしょうがないじゃん!」
「何がきみたいなこといってんのよ!」
「がきはそっちだろ!」
 二人は思わず立ちあがっていた。
「じゃあ教えてやるわよ! 私はあんたのホッペに、あまーいキスを一発お見舞いしたのよ! 分かった!? ……あぅ……」
 真奈美は、しまった、という顔になった。いままで騒いでいた浩二が黙って、パソコンを眺めていた受付もいつのまにか顔を真奈美に向けていた。レインも緊張気味に真奈美の顔を見ていた。
「えぇっと……嘘、だよね? あ、あれは確かになんか濡れたけどさ……あぁ、濡れたって、ほっぺのことね! あぁ、別に今はもう乾いてるしね! 証拠ないし、今のは嘘ってことで――」
 浩二が顔を真っ赤にさせて、無理やりなことを言った。それに真奈美は口をつぐんで返す。
「本当よ……私……浩二君のことが――」
「あぁー、来た人分かりましたよ!」
 受付がとっさに真奈美の言葉を止めた。真奈美はいまさらになった平常心を取り戻し、受付に感謝したような顔をした。
(はぁ……浩二君のことが好き、なんて言っちゃうところだったわ……ありがとう、気のきく受付さん……)
 浩二が――まだ顔は赤いが――受付に聞く。
「えぇっと……それで、誰だったんです?」
 受付は真面目な顔に戻った。
「シェル様がついていった方は……レン・ジェイル様とシェイン・シャース様です」
 その名前を聞いたとたん、二人は驚きのあまり声が出なかった。浩二が横を見ると、レインが飛び出してきていた。
「れ、レンが!? い、いつきたんです?」
「貴方がたがお帰りになられてから十分くらいですかね。それから三十分程度でシェル様とどこかへお行きになりました。今は、代理の医師がついております」
 十分――そのあまりの短い差に、レインは肩を落とした。
 もしかしたら会えたかもしれないのに。
 レインの横から浩二が聞く。
「一応聞いておきたいんですが……二人の会話の内容はわかりませんか?」
「えぇ、少しだけなら。それでは、まずレン様がこられてからのことを――」


「いらっしゃいませ」
 私がいつも通りお客様を迎えると、そのお客様、それがレン様とシェイン様でした。お二人は受付の私を気にも止めずにすぐシェル様の元へ向かわれ、そしてそこで扉の隙間から私はお二人の会話を聞いてしまったのです。
「私はシェイン・シャース。こっちは私の魔物、レン・ジェイルだ。今日はシェルノルティー、貴方にお願いがあってきた」
 するとシェル様は表情一つ変えず、用件を聞きました。するとシェイン様が言います。
「私たちは今仲間を探しているのだ。実は私たち、抵抗者という。脅威者は聞いたことくらいはあるだろう?」
「えぇ。かなり有名よ。現在ニ大組織となっている、運命の脅威、そして堕下する世界。その二つに脅威者たちが密集してるって事も聞いたわ」
「ほほう、詳しいな……そこで今日は――る貴方に――いが――」
 そこから突然シェイン様の声が小さくなり、私も流石に聞こえなくなってしまいました。


「以上です」
 三人は驚きでたち尽くした。
 そして実感も感じ始めた。
 もう彼らとは仲間でないのだと……
(俺はまだシェインたちは仲間だと思ってきた。離れていても、今は近づけない存在であっていても……でもシェインたちは本格的にもう動いている……あれから一週間程度しかたってないのに)


 四人は、浩二の手当てが済むと病院を出た。出たとたん、浩二が真奈美に言う。
「ちょっと先にいっておいてくれないかな?」
 浩二はレインにちらっと視線を移してから、ふたたび真奈美の目を見た。
「えぇ……分かったわ」
 真奈美は察した様で、ルルを担ぎながら表通りの方へと進んでいった。
 浩二はレインのほうを向いた。レインはうつむいて、暗い顔をしている。
「レイン……レンのことについて、どう思う」
 レインがはっと顔を上げた。今にも泣きそうな顔だ。そして上ずった声で言う。
「僕には……レンが僕からどんどん離れていくような気がするんです……自分でもよく分かりません。一緒に王を争うと約束しました。でも僕の中では、レンはまだ仲間のような気がしてました。でもそれは……違った」
 浩二は表情一つ変えない。
「俺も同じことを思った」
 レインがくちをつぐんだ。本当に、涙が今にも零れ落ちてしまいそうだ。だが、そんなレインを浩二が抱き寄せた。
 レインは驚いておえつを漏らした。
「でも大丈夫。俺たちがレンとまたいっしょに戦えるようにすればいいんだ。そう、運命の脅威を潰す。そうすりゃ――」
 浩二がレインを少し離して、微笑を浮かべながらレインの顔を見る。
「レンとまた仲間になれる! だから大丈夫だ。もう……泣くなよ」
 レインは浩二の言葉を聞いてどんどん顔をゆがませていって、しまいには浩二の胸に飛びついて、大声を上げて泣き出した。
「お、おい、泣くなよ……困っちゃうだろ……」
 レインを泣かせた張本人が言うな。浩二は困った様に頭を掻きながら、そのままレインを抱き上げて真奈美の後を追っていった。


「脅威狩り……一回目は失敗した様だね」
 ハイツがティーナとレイナに言い放った。二人は顔をしかめると、
「仕方ないじゃない、両方とも相手の仲間が割り込んできて、大変だったんだからね!」
「そうですわ。言い訳というのも見苦しいですが、そこまでいうのならもう少し複製体をお貸しして頂いてもよろしいのでは?」
 二人の言い訳に、ハイツが鼻で笑う。
「それは無理だね。堕下する世界のメンバーの総数は既に十組以上だ。そいつら全員がもうデボロ城が僕等の本拠地だって事を知っている。いつ攻められてもおかしくない。それに、本が燃える危険性なんてないんだから、大丈夫さ」
「本は“あの状態”になるまでは燃えないということは分かっていますが、もう少しお貸ししてくれてもよろしいのでは?」
「そうよそうよ、ティーナはまだ一体いるから良いけど、私なんて一体も貸してもらってないんだからね!」
 女二人のいい訳が続く。少し頭痛を感じながら、ハイツが話題を変える。
「にしても、ラグナスはどうしたんだろうね。まだ帰ってない様だけど」
「なに話題そらそうとしてるの――」
 レイナがキレそうになった直後、階段からかけあがってくる音が聞こえる。そしてラグナスが現れた。
 彼はとても機嫌のよい顔で、すたすたと三人に近づいてくる。
「やあラグナス。遅かったね。どうだった?」
 ハイツが聞くと、いつもは無表情のラグナスがほんの少しだけ笑って言う。
「鎖の脅威を手に入れた」
「そうか、よくやったね。これであと……七つだ」
「あぁ、少々てこずったが、そうたいして強い敵ではなかった」
 とそこで、ティーナが割り込んできた。
「鎖……もしや、肌の黒い子供とローブで身を包んだ人ですか?」
「ん? 何故知っている」
「いや、私もその方と戦ったので……そうですか、あの方がここに……」
 ティーナが妖艶な笑みを浮かべる。それを気にせず、二人は喋りつづける。
「それじゃあラグナスにはご褒美として、複製体を一体あげるよ」
「ほ、本当か! それはありがたい」
「そうだなぁ……じゃあ――特別に、ジークを貸して上げる」
「じ、ジークだと!?」
 その名を聞いて、全員が驚いた。複製体をもらうラグナスですら、かなり驚いている。
「あいつは、四天王レベルではないか……奥手のお前が何故ジークを……」
「もう待ちきれないんだ。手早く脅威者たちを手に入れたい。ティーナとレイナも、脅威者を捕まえさえすれば、四天王レベルを貸してあげるよ」
 それを聞いて、ティーナとレイナがにやりと笑った。
「そうと分かれば、いますぐにでも手にいれてくるわ!」
「わたくしも、行って参ります。ピットちゃんだけでは、戦力不足なのでね」
 二人はすたすたと早足気味に外へ出ていった。
「それじゃあラグナス、これからも期待してるよ」
「あぁ、ありがとう。ありがたくジーク、使わせてもらう」
「どういたしまして……それじゃあ、そろそろ僕も、驚異狩りしようかな?」
 ハイツが立ちあがった。
「狙いは爆発の驚異」


2005年04月21日 (木) 21時02分


(1004) 脅威編 第二十五章〜引き裂かれる仲間〜 投稿者:大輝 MAIL

「ふぁぁぁ〜、やっと戻ってきたねぇ」
 浩二がフランスの、堕下する世界のアジトの前であくびをした。
 三日前はティーナに襲われ、二日前はレイナに襲われと……ここのところ戦いまくりで、さらにつかれまくっていた浩二だった。
 そして横目でちらっと真奈美の顔を見てみる。するといつのまにか顔が紅潮し始めてしまう様になってしまった浩二だった。
「浩二君、さっさと行きましょう」
 声をかけられて更に顔が赤くなる浩二。
「あっ……う、うん」
 緊張しながらも、彼女の後ろをついていった。
 ルルはあれから一言も喋らなかった。そうとうショックだったのだろう。当たり前だ。昔からの親友に、要らない、と言われたのだから。
 浩二はルルのことを考えて心を痛めた。だが、アジトへ入った瞬間そんなことは頭から飛んでしまった。
「きゃぁっ!」
 真奈美が倒れて、地面にしりもちをついた。アジトの入り口にいたのは、真奈美とぶつかって倒れているカルバだった。
「か、カルバさん!」
「い、いやぁ、お久しぶりですね。と、こんな悠長なことを言ってる暇はありません。すぐに中央まで来てください!」
 カルバは立ちあがると、急いで長い廊下を走って中央へ向かっていった。
「真奈美さん、大丈夫?」
 浩二が手をさしのべた。尻をさすりながら浩二の手を取って立ちあがる真奈美。
「痛いけど……なんか緊急事態みたいだから、はやくいきましょ」
「あ、うん」
 四人はカルバの跡を追って、中央へ向かった。


「ミグッチェとノルゲオが運命の驚異に捕らわれた」
 堕下する世界のリーダー、ゼロが言った。八組もの魔物とパートナー達はみんな黙りこくっていて、全員場の雰囲気に押しつぶされそうになっていた。
 やっとの思いで朝美が声を出した。
「いつ捕らわれたの……?」
「一昨日、日本から帰国したところを襲われた」
 浩二が顔を悲しげに歪めた。
(俺のせいで……)
「そこで皆に相談があるのだが」
 ゼロは真剣なまなざしで全員を見渡す。それからつかれたようにまぶたを閉じて、つぶやく。
「ミグッチェを助けに行くか、それとも来るべき全面対決のときに奪還するか、どちかを選んでほしい」
 ゼロの投げかけた質問に答えるものは誰もいなかった。そんなの、答えられるはずがない。
 そこで、代弁するかのごとく、ゼロが言う。
「だよな、選べないよな……奴らが驚異者を狩り始めた理由がわかるか? それは驚異者のほとんどを束ねるこの組織、堕下する世界の団員を一気に一箇所へ集めるためだ。運命の驚異のリーダーは洗脳の力を持っている。一箇所に集まれば、一気に洗脳される可能性もなくはない」
「ちょっとまって」
 サルマがゼロの言葉を一回止めた。
「それじゃあ全面対決の時だって皆で行くんだから、変わらないんじゃないの?」
 ゼロはそれにため息をついた。
「それくらい考えろ。驚異狩りを始めた、イコール、もう本拠地の準備はばんたんってことだ。準備が完全なうちに俺たちをおびき寄せるつもりなんだ」
 それにサルマは、ふーん、と頷いた。
「だから外部から徐々に戦力を削っていく。脅威狩りをしている運命の脅威団員たち、並びに複製体をこちらが逆に“狩って”いく……と俺は考えているが、皆はどうだ?」
 ゼロが顔の前で指を組んで全員を睨んだ。そして、浩二はゼロの言葉を聞いて思い悩んだ。
(ゼロの言うことは全て正しい……その方法でこれから事を運ぶことが一番だ。でも……ミグッチェは俺たちを助けてくれた……だから――)
「あの……」
 誰もが沈黙する中、浩二が控えめに手をあげた。
「ん? 浩二、なにか良い案でもあるのか?」
「いや……俺は今すぐミグッチェを助けに行きたいんだ」
「俺の話を聞いていたのか? 今行けば、返り討ちにあうだけ――」
「でも!」
 そこで浩二がゼロの言葉を遮った。全員が、驚いて浩二の顔を覗き込んだ。
「……でも……ミグッチェは俺を助けてくれたんだ……今度は俺が……」
「バカが!」
 浩二が顔をあげると、ゼロの普段は穏やかな顔が、怒りでゆがんでいた。目に薄く涙が浮かんでいる。
「だれが助けないなんて言ったんだ。今行って返り討ちにあって、皆本が燃やされれば、ミグッチェを助けるどころじゃなくなるぞ! それが恩返しのつもりか、考えろ!」
 その言葉を聞いて、浩二が顔をしかませた。
「……じゃあ、もういい。俺は好きでこんな集団に入ったわけじゃない。俺は団員を抜ける。さようなら」
 一気にそれだけいうと、浩二は魔本と抵抗するレインを脇に抱えて、すたすたと扉へ向かった。
「なっ……浩二君!」
 真奈美が浩二のことを止めようとした直後、真奈美の横に座っていたカルバの姿が一瞬で消えて、突如として浩二の目の前に現れた。
「なっ……い、今どうやって……」
 驚いて、浩二が歩みを止める。そこで、カルバが小さく笑みをたたえながら、口を開く。
「残念ですが、ここに入った限り、無許可で退団することは承諾できません」
「どいてよ、俺はもうここにいたくな……」
 そこで、カルバの表情が一変して、完全な無表情になった。いや、その無表情の中から、憎しみが漏れ出している。
「どうしても行きたければ、私に勝って、それから行ってください」
 カルバがゆっくりとライトグリーン色の魔本を取り出した。浩二の、クローバー色の魔本と似ている。
「キーリ、“裏切り者”の始末です。やりますよ」
 カルバが言うと後ろから、カルバの横に紺青の髪を持った、レインくらいの身長の少年が現れた。
 そこで、浩二も魔本を取り出した。
「上等だ。レイン、構えろ」
 言われると、レインはためらい気味に杖を取り出して、構えた
「……そんなためらいぎみだったら、レンに再会する前に、魔界に帰ることになるぞ」
 浩二が低い声で言った。その言葉を聞いて、レインがピクッとした。そして決心を固めたように、杖を構えなおした。
「ふんっ、魔物を脅すことでしかやる気を起こさせることができないなんて、浩二君、貴方最低ですね」
 カルバが嘲笑を浮かべていった。それに浩二は魔本のページをめくりながら返答する。
「勝手にいっとけ……」
 浩二が術を発動しようとした、直後。
 カルバの横にゼロとその魔物、シノアが並んだ。
「俺も団長だ。団員の退団をすごすご見過ごすわけには行かない」
「二体一か……そっちのほうが最低だと思うけどな……」
 浩二が汗を流しながら、言った。だが、浩二の横には二人並んだ。浩二が驚いて横を見ると、魔本を構える真奈美とフォーラがいた。
「私たち、仲間でしょ? 抜けるときは、一緒よ」
 真奈美が浩二にウィンクした。
「君の行動が正しいとはいえないが、私も君の仲間だ。一緒に行こう」
 フォーラが浩二に微笑みかけた。
 二人の加勢に、浩二が少しだけ微笑んだ。
「ありがとう……じゃあ、始めよう!」
 先手を打ったのは、カルバだった。
「デズルガ!」
 キーリが腕を掲げると、紫色のオーラを纏った、黒い塊が放たれた。
「守備は私に任せて! ビシルド!」
 ルルが両手を前に出すと、焔の盾が現れた。そして黒い塊と衝突して、攻撃を防いだ。焔の盾はまだ、残っている。
「ウェン、今だ! ライツ・ソドルク!」
 焔の盾で守られている隙に、ウェンがレイピアの様に細い剣を装備した。
「デズルガ!」
 声がして、衝突音とともに、焔の盾が消えて、白い煙が上がった。
 刹那、ウェンが飛び出した。そして、煙に乗じてキーリの腕を貫いた。
「ぐっ……」
 キーリがうめく。だが、カルバの本が光った。
「キーリ、チャンスです」
「……あぁ」
「デズルガ!」
 キーリはウェンの頭に手を当てた。キーリの腕が紫色に輝いたかと思ったら、ウェンが吹っ飛んで、地面に倒れ伏した。
「くそっ……超至近距離での攻撃呪文とは……ウェン、立てるか!?」
 フォーラが声をかけると、ウェンは頭を抑えながら、ふらふらと立ちあがった。
「フォーラ……あの術で一気に決めよう……」
 ウェンが言うと、フォーラが頷いた。
「レベルオ・リアブルク!」
 不可視の、ウェンの分身が現れた。もちろん、カルバとゼロはそんな分身の存在はわかっていない。
 ウェンは体の前で腕を交差させて、構えた。
「ウェン、武器は装備させずに、格闘でやる」
「了解……」
「フォーラさんたちが最大呪文出したのなら、私たちも……ドムルド!」
 真奈美が叫ぶと、天から声がおちて来る。
「光よ」
 カルバとゼロは、混乱しっぱなしだった。
「ゼロ、どう思います……? 真奈美さんのほうは声が振ってきただけ、フォーラさんの方に至っては、なにもおこらない……」
 すると、ゼロが小声で言った。
「おそらく、真奈美の方は何かの準備だろう。天から声が響いた瞬間、ルルの体から少しだけ光が漏れ出した。フォーラのほうは、流石に分からないな……」
「そうですか……じゃあ、危険になったら“あの術”頼みますよ」
「あぁ」
 直後、また天から声が響いた。
「天よ」
「ウェン、そろそろ攻めるぞ」
「うん……」
 ウェンが目を瞑った。そして指を複雑に動かす。
(ちっ……一体何が始まったんだ……見当がつかん……)
 ゼロがそんなことを考えていると、突然わき腹を何かに殴られた。
「ぐふっ……」
 あまりの力の強さに、うめく。横でも、カルバとキーリが殴られていた。
「焔よ」
 また天から声が響いた。ゼロはあせり始めていた。
(まだこちらが反撃する前からこんな危険な状況……その上まだ浩二は術を出していない……仕方が無い、“あの術”でいくか)
「シノア、あの術を使うぞ」
 シノアは両手を前に出して構え、頷いた。
「ジドレクト・ハルボロスト!」
 シノアの両腕から白い光が溢れ出した。光が、視界の全てを埋め尽くす。
 真奈美は危険を感じて、とっさに術を使う。
「マオウ・ドムグルイド!」
 第三段階まで溜めていたため、巨大な焔の膜が現れた。と思った直後、その焔の膜が消えた。
「な、なんですって!?」
 真奈美が驚きを隠せない様子で叫ぶ。しばらくすると、光が止んだ。
 にやりと笑うゼロが魔本を構えなおしていた。そこでふと気づいたように、ウェンが目を開いて、交差させていた腕を元に戻して、汗を流しながら言った。
「分身が……なくなってる」


2005年05月06日 (金) 21時40分


(1014) 脅威編 第二十六章〜独り〜 投稿者:大輝 MAIL

「どうなってるんだ……」
 浩二は冷や汗を流した。二人の最大呪文が、一瞬のうちに無力化されてしまった。
 彼は、にやりと笑っていて正面に立っているゼロの顔を睨みつけた。
 浩二が口を開こうとした、
「この術がどういう効果なんて、教えないからな」
 浩二が質問する前に、ゼロが返答してきた。浩二は怒りで歯を食いしばった。
「では浩二、今度はこちらから攻めさせてもらおう。カルバ」
「はい……テオデズルス!」
 キーリが両手を上へ向けて構え、その両手を地面に一気に振り下ろした。途端、黒い、隕石のようなものがたくさん降り注いでくる。
「ま、真奈美さん!」
「え、えぇ! ギガ・ラ・ビシル!」
 ルルの両手が光る。すると、浩二たちの周りに焔の膜が現れた。
(ふぅ……これであの攻撃はなんとか……)
 浩二がそんなことを考えていると、
「ジドレクト!」
 外から呪文の声が響いたかと思ったら、突然焔の膜の横部分の一部が消えた。刹那、そこからゼロたちが中へと飛び込んできた。そして、キーリが手を浩二たちに向ける。
「今真奈美はこんなでかい術を使っている。だから、いま君たちは防御を失ったということだ」
 ゼロがいった。それから、カルバが叫ぶ。
「バルバロス・デズルドン!」
 超巨大な黒い塊が浩二たちに向かって放たれた。
 その、ものすごい力を目撃した六人は、絶望した。防御呪文が出せない上、あの術に対抗しうる力を持った術など誰も持っていない。
 ここ最近なんどもだが、浩二はまた死を覚悟しなければ駄目だった。
(はぁ……なんで俺、こう何度も死にそうになるんだろう……今回は、死ぬな……)
 浩二は完全にあきらめた。そして、地面に座り込んで、目を瞑った。
 そんな浩二を見て、レインが思った。
(……もう仕方がない……あの能力を使うしかない)
 レインが目を瞑って、額に右手の人差し指を当てる。
「十分前……」
 レインがつぶやいた瞬間、周りの光景が一変した。
「あの……」
 誰もが沈黙する中、浩二が控えめに手をあげた。
「ん? 浩二、なにか良い案でもあるのか?」
「いや……俺は今すぐミグッチェを助けに行きたいんだ」
「俺の話を聞いていたのか? 今行けば、返り討ちにあうだけ――」
「でも!」
 そこで浩二がゼロの言葉を遮った。全員が、驚いて浩二の顔を覗き込んだ。
「……でも……ミグッチェは俺を助けてくれたんだ……今度は俺が……」
 そう、十分前に戻ってきたのだ。
(これが僕の能力……一〇〇日に一度しか使えないけど、時間を四十三分以内なら、何分でも戻せる能力……)
「バカ……」
 ゼロの説教が始まりそうだ。ここで未来を変えなければ意味がない。
「ゼロさん」
 とっさにゼロの言葉を止めるレイン。そんなレインに首をかしげるゼロ。
「浩二さんには僕が言っておきますから、お説教はやめてください」
「なっ……レイン、お前何を……」
 浩二が言葉を詰まらせる。ゼロは目を瞑って考える。
「そうだな……説得はお前に任せる、レイン」
 レインは軽く頷いた。
「ところで今回皆に聞きたいことがあるのだが――」
 ゼロが話を始めたところで、レインを横から浩二が小突いてきて、小声で言う。
「おいレイン、なんのつもりだ」
「実はあのままゼロさんが言葉を続けてたら浩二さん、死ぬんですよ」
「はぁ? 意味わかんないよ、レイン」
「ふふふ、僕しか分かりませんよ……なんか話が始まるみたいですよ……」
 レインがゼロを指差していった。浩二は納得できないような顔のまま、ゼロの方に向き直った。
「――というわけがあって、皆の家族の事を教えてほしいんだ」
「え? なんで? 聞いてなかった」
 浩二が言うと、ゼロがため息をついた。
「ふぅ……ちゃんと聞いておけ。もう一度しかいわないぞ。これから危険な戦いになり、本当に生きてかえられるか分からない。家族がどんな性格をしていて、皆の死を受け入れられるような人達か見極めたい、だから教えてほしいんだ」
 それを聞いて、浩二は何故か沈黙した。ゼロが言葉を続ける。
「それと出きるだけ詳しく知りたいから、性格以外にも、所属している機関……まぁ、会社のことだが……そういうものや、職業も教えてほしい」
「はいはーい、じゃあ私からー!」
 朝美が手を上げた。
「じゃあ朝美から」
「はーい。私の両親は、実はNASAで働いててね――」


 と、時は流れて。
 朝見、フォーラ、ナゾナゾ博士、カルバ、ゼロ、サルマの説明が終わった。
「次は、私ね?」
 と、真奈美が自分を指差した。
「私んちは西条っていう家名で、両親が生物学の権威だったんだけどね、えぇと……深山、っていう人達と昔ものすごい研究してたんだけど、今は引退して母は専業主婦してて、父は……そのものすごい研究が終わってから間もないうちに世界旅行に出ちゃったんだ。両親、両方ともあっさりした性格だから、まあ私が死んでも、受け入れられると思うわ」
「そうか、分かった。では次は――」
 浩二は真奈美の説明を聞いて、少し引っかかった。
(深山……どこかで聞いたことがあるような名前だな……)
「次は浩二だな」
 ゼロが言った。浩二は小さく頷くと、悲しげに言う。
「俺に家族はいない」
 全員がぎくりとなった。
「あぁ……悪かった……そう言うことなら……」
「いいんだ、ゼロ……俺は九歳からの記憶しかない。八歳より前は何があったのか分からない。あったのは、親が残した莫大な遺産だけ。顔も知らない、親のさ」
 浩二は無理やりに笑った。
 一気に空気が重くなった。
(あぁ……俺のバカバカバカッ! 変なこと聞くんじゃなかったなぁ……)
(浩二君……そんな過去があったのね……)
 沈黙が流れたあと、浩二は無理に明るく声を出す。
「さぁ、もういいじゃん! 俺のことなんて気にしないで、話し進めよ?」
 その言葉に、ゼロは神妙に頷いた。だが直後、浩二の顔が青ざめた。
「あ゛っ! ……ちょっとイタリアに行ってきます」
 浩二は立ち上がると、いきなり部屋から飛び出していった。
「お、おい! 待て! 単独行動はやめろ! ……って、もういっちゃったし……なんだ? いきなり」
 ゼロが混乱する。そこで、真奈美が立ちあがった。
「なんだか知らないけど、追いかけてくるわ」
「あぁ、よろしく頼む……」
 ゼロは交通費を真奈美に渡して、浩二探索を開始させた。


2005年05月10日 (火) 13時55分


(1015) 脅威編 第二十七章〜もう独りじゃない〜 投稿者:大輝 MAIL

 浩二はイタリアまで来ていた。今はもう真奈美と一緒だ。
 彼女が疲れたような声音で聞く。
「で……その浩二君が五ヶ月も前に預けたっていうわんちゃんはどこにいるのかしら……?」
 それに浩二は少し早足気味に、イタリアの整備された街を歩きながらいう。
「えぇと……この辺り……」
 そう、浩二はなんと魔物の戦いに参加する三日前、飼っていたペットの犬を、ドッグホテルに預けたままにしてしまっていたのだった。魔物の戦いで忙しく、つい忘れていたのだ。
「あ、あった!」
 浩二は例のドッグホテルをみつけると、駆け足で店内へともぐりこんだ。その後に真奈美も続いた。
「店長! お久しぶりです! ポロはいませんか!?」
 浩二は店に入った途端、叫んだ。浩二の目の前にいた店長はあまりの声の大きさに、方耳を抑えながら返答する。
「あぁ、浩二君。久しぶりだね……ていうか、迎えに来るの遅すぎ」
 店長は呆れ声を出して、運んでいたダンボールを再び抱えなおして、店の奥へと消えてしまう。それでも店長に叫びつづける浩二。
「あ、あの! ポロは!?」
 しばらく返答がないまま時間が過ぎた。そして一分と経たないうちに、店長が小さい犬を抱えておくから出てきた。その犬を見た途端、
「ポロ!」
 浩二は店長からポロと呼ばれたスコットランド・シープドッグをひったくった。そして目にうすく涙を浮かべながら、浩二はポロと頬を擦り合わせた。
「あぁ……ポロ、無事でよかったよ……てっきり……もう保健所に送られたかと思――」
「あと一週間来るのが遅かったら、保健所送りだったよ」
 店長は横からため息をつきながらいった。
「……ごめんなさい」
 浩二はうつむき加減に、小さく声を出した。
「まぁまぁ、そんなに落ち込むこともないさ。間に合ったんだし、結果オーライさ」
 店長のやさしい言葉に、少しだけ微笑んで、ありがとう、と一言いった。
「では、また機会があれば預けさせていただくので、そのときはよろしくお願いします」
「うーん、まあ、またの機会にね」
 店長は少しためらい気味にいった。
 それから浩二たちは店を後にした。


「ねぇねぇ浩二君、なんでここまでしてポロちゃんを受け取りに来たの?」
 真奈美が聞いた。ミグッチェを助けることで頭がいっぱいだったはずの浩二が、血相を変えてペット一匹のためだけにここまで時間を裂いたのだ。それに、今回は受け取りに行かなければ犬が死ぬ、と最初から分かっていたわけでもなかった――それでも迎えに来た浩二を、真奈美は疑問に思ったのだ。
 浩二は夕焼けに照らされながら、ポロの頭を撫でて悲しげに喋る。
「三日前も言ったけど、俺には家族がいない」
 真奈美は黙ったまま、おもむろに頷いた。
「記憶もないから、なんで独りかも分からなかった――」


――五年前。
 俺が目を覚ましたとき、そこは病院の一室のようだった。俺はそこのベッドに寝ていた。何故か体中がずきずきする。
 そして、上半身を起こして、辺りを見まわしてみる。閉められたカーテンが、日に照らされて、光が透けて中に入ってきていた。
 本当に、何も覚えていなかった。ここはどこなのか、俺は一体なにをしていたのか、俺が……誰なのか。
 とそこで、突然病室の扉が開いて、医者らしきおじさんが入ってきた。白いあごひげをたくわえていて、どこか厳しそうな雰囲気を持った人だった。
「うむ、やっと目が覚めたかね」
「……貴方、誰?」
「あぁ、私か? 私は君の担当医師だ。血まみれで雨の中倒れているところを、ここに搬送された」
「え? 俺が血まみれって、どういうこと?」
「もしかして……君、何も覚えていないのかね」
「うん。何も……何も覚えてない。ここはどこ?」
「そうか……記憶喪失か……これは厄介なことになったな……」
 俺は首をかしげる。この人の言っている意味が全くわからなかった。血まみれで俺が倒れていた? その事実に、耳を疑う。
 医者が続ける。
「実は君に遺産があるんだ。倒れている君の横に、手紙と一緒に二億円もの金が入ったカバンが落ちていた」
「えっ……?」
 本当に混乱してきた。二億円……? なんでそんな大金を俺が持ってるんだ?
「ん? 何故俺がそんな大金を持ってるんだ?」
「だから、君の両親の遺産だ」
「遺産ってことは……もう俺の両親は死んだということ?」
 俺の率直な質問に、医師は少々ひきながらも答える。
「確証はないが、そう言える。手紙の内容で分かった。読むかい?」
「いや、いい。それよりも、俺はこれからどうすればいい?」
 俺はこれからのことが気になって、唐突に質問した。医師は困ったような顔で一言、
「どうすると言われても……おそらくは養護施設に送られることになる」
「養護施設って、なに?」
「簡単に言えば、新しい家族を見つけるまで君のように親のいない子を預かっておくところだ」
「ふぅん……」
「まあとにかく、今日のところはゆっくりと休みたまえ。明日からは、体の検査も行わなければならないしな」
「そうか分かった。ありがとう」
 医者は俺の言葉に頷くと、部屋を出ていった。
 それからしばらくの間、考えた。昔のことを。もしかしたら、何か思い出せるかもしれない。
 だが考えれば考えるほど、頭は余計に混乱してしまった。
 だから少し考え方を変えてみた。
 何故俺は独りなのか? 何故俺はたった独りでこんなところにいるのだろうか?
 考えて考えて――
 そして一つの答えに行きついた。
 こんな狭い“世界”にいるからだ。こんな狭い狭い病室に閉じ込められているからだ。そうに違いない。
 でも、明日はなんか検査があるとか言ってたし、一応今日だけは我慢することにする。俺は昼下がりから寝始めた。


 目がふと覚めたとき、目の前は真っ暗でもう夜中の様だった。俺は眠いので、再び目を閉じるが、近くから声がしてきた。
 さっきの医者と、もう一人男が喋っている。
 俺は盗み聞きしようと思って、布団を顔元にひっぱって聞いているのを悟られない様にした。
 男が医者に、こわばった声で言う。
「セルトさん、はっきり言います。“あいつ”は危険です」
 その言葉に、セルト医師が少し間隔を空けて、思慮深く返答する。
「そうには見えなかったが……本当にあいつが、例の実験の成功個体なのかね?」
 男はこつこつと音を立てて歩きながら、言葉を返す。
「失敗個体です。まあ私に言わせれば、成功個体ですがね……」
「というと?」
「“イグズィスター”を創造するつもりが、“ケレイプスィング・テュルーニウス”を創造してしまったと言ったら、驚きますか?」
 俺の知らない単語がいくつもならぶ。
 イグズィスター?
 ケレイプスィング・テュルーニウス?
 その単語に、驚くかのようにセルトが返事をする。
「け、ケレイプスィング・テュルーニウスだと!? 前言っていたことは本当だったのか!」
「失敗といっても……私がそうなるように、わざと、失敗したのです」
「わざとだと! 彼らを裏切って、そして殺したのか!?」
「まぁ……そう言うことになりますね。ですがケレイプスィング・テュルーニウスを創るというのは、もう最初から決めていましたので。その邪魔となった彼らを殺しただけですよ」
「……もう“ベイン”の力は覚醒しているのかね?」
「えぇ。その力を発揮して、少し研究員が殺されましたしね。まあ今ではその研究員も、私と私の協力者数人を除いて、全員殺しましたが……それと、生殖行為も可能と判明し、もう分子個体が二体ほど完成しています。これでついに、掃討の実現も目に見えてきました。いやぁ、長年研究したかいがあったってもんですよ」
 また意味の分からない単語――ベイン――がでてきた。はっきり言ってこんな話を聞いていても無為だ。
 俺はそう判断して眠りについた。


 翌朝。
 俺はセルトさんに無理やり起こされた。時計を見ると、まだ六時くらいだ。
 目をこすりながら思わずあくびをかく。こんなにも早くから、検査をするのだろうか?
 俺はパジャマから、そばの机においてあったTシャツに着替えた。
 なんだかかっこいい服だな、と思ったりして――
 じぶんもかっこつけようと、髪をかきあげたりした。だが途中で恥ずかしくなって、やめた。
 とそこで、とつぜん手を横から誰かに握られて、ひっぱられた。
 セルトさんだった。彼は俺が、痛い、とわめいても、無言でそのままどこかへ引っ張っていく。
 少し抵抗してみるが、大人の力には勝てない。
 俺はもうあきらめて、無言であとについていった。
 歩いてるうちに思ったのだが、この病院はかなり大きい様だ。かなり長いこと歩いているのに,一向に目的地に着かない。それが、この病院の大きさを物語っている。
 しかし、やはりまだ午前六時ということからか、人とは一度もすれ違わなかった。
 偶然なだけかもしれないが。
 こんなに大きい病院なら、一人くらいはすれ違うと思うのだが……
 と、セルトさんの足が止まっているのに気付いた。顔を上げると、そこにはエレベーターらしきものがあった。
 セルトさんはエレベーター入り口近くにあったなにかの機械に、数字を打ちこんでいく。
「それはなにをしてるの?」
 俺がふと聞いた。すると、セルトさんは数字を打ちこみながら返事をする。
「エレベーターを開けるためのパスワードを入れている……終わったぞ」
 彼は機械から手を離した。直後、エレベーターの入り口が音もなく開いた。
 セルトさんはそのなかに俺を押していれた。あまり急に押すので、俺は勢い余って地面に倒れ伏せてしまった。
 俺は立ち上がりながら、セルトさんを睨んでみたが、彼には無視された。
 彼はエレベーターに入るとこんどはカードキーをトランスミッションに通して、エレベーターを起動させた。
 パスワードとカードキーによる二重防犯。このエレベーターで向かう先にはかなり危険なものがあると予想する。
 本当に、単なる検査をするだけなのだろうか。
 俺は疑問に思った。
 とそのとき、突然頭の後ろに激痛が走って、一気に意識が遠のいた。
 最後に見えた光景は、バットをもつセルトの虚ろいだ映像だった。


「――それで、次目覚めたときにはまた別のところにいた。そして目覚めた途端に会ったのが、ポロさ。俺のたった……たった一人の家族」
 浩二は悲しいまなざしでポロを見下ろしながら頭を撫でた。
 彼の過去を聞いて、真奈美は正直驚いていた。
 自分と彼では、背負っている過去の重さが違うと――
 背負っている大切な者の重さが違うと――
 なにもかも、自分とは比べ物にならないほど、彼は苦労してきた。決定的な物を見せつけられ、真奈美は浩二と自分は全く違うのだと、実感した。
 真奈美はやっと重い口を開いた。
「浩二君……今まで苦労したんだね……」
「そりゃしたよ。親がいないからって……それだけで学校で虐められたし、家に帰ってただいまって言ったって、返ってくるのは、わん、っていう鳴き声だけ……あぁごめんポロ、俺はお前で十分だよ……」
 ポロが少し怒り気味に、浩二の手を甘噛みしていた。その光景を見て、真奈美が小さく笑った。
 その笑い声に、浩二がふと彼女の顔を見る。
「なに?」
「ふふ……本当に……なんだか浩二君とポロって仲良いんだなって。そう思ったの」
「そうかなぁ、てへへ」
 浩二は何故か顔を赤らめながら、頭をかいた。
 また真奈美は少し笑うと、空を見上げた。空は浩二の顔と対照的に、まだ真っ青に晴れ渡っていた。
「浩二君」
「ん?」
 真奈美が浩二の目をじっと見る。浩二はそれに顔を更に赤らめ、目をそむける。
 彼女が微笑んで言う。
「私も、浩二君の家族になれるかな?」
「えっ……?」
 浩二がそむけていた目を、真奈美に再び向ける。顔はもう赤らんでいない。真剣で、少し唖然とした顔。
「まだ私たちは会って間もないけど……仲間として一緒に戦ってきたし、家族の様に一緒に笑いあった、いままでいっぱい。そして――これからもよ」
 浩二はうつむいた。
「これからも、いっぱい一緒に笑っていきましょ? だから浩二君はもう……独りじゃないわ」
 その言葉に、浩二は声を出すことが出来なかった。小さなおえつがもれて、閉じた目から涙が止めど無く溢れて……本当にかっこわるくて……
 でも――
 とても嬉しかった。


“あいつって家族いないんだろ?”


“親がいない奴って、心が不安定になるってきいたことあるぜ”


“いつあいつに襲われるか分からない! 皆、あいつ虐めようぜ!”


“あいつ……浩二に……”


“死んでほしい”


 今の浩二には、昔自分に投げつけられたその言葉たちがまるで幻の様に思えた。
 苦しくて苦しくて、独りもがき続けていた自分が、幻の様に思えた。
 今自分の目の前には仲間がいる。
 いや――家族がいる。
 もう独りじゃない。
 もう独りなんかじゃない。


 いままでの自分につきつづけてきた、独りじゃないという嘘。
 自分を慰めるために、自分に言い聞かせてきた、独りじゃないという嘘。
 でももう嘘じゃない――自分で確信することが出来た。
 家族がいるのだと。
「ありが……とう……」
 浩二は今度こそ大声をあげて泣き散らし、真奈美の胸に飛び込んだ。真奈美は一瞬驚いて後ろへ引いたが、すぐに穏やかな顔になって、浩二の頭を優しくなでた。
(本当に……淋しかったのね……)
 真奈美は心の中でふとつぶやいた。
 泣き散らす浩二をなだめて、真奈美は通る人たち全員の目線を集めながらイタリアの静粛な町並みを歩いていった。


2005年05月13日 (金) 13時26分


(1019) 脅威編 二十八章〜覚醒せし刻印〜 投稿者:大輝 MAIL

「ふむふむ、そういう事情があったのか」
 ゼロが少し目を細めながらいった。浩二はそれに頷く。
「そうそう、ポロももう少しで保健所送りになるところだったよ。ホント、危なかった」
 今や本部には全団員が集まっていた。といっても、ミグッチェが捕えられたときにはもう全員いたのだが……
 ゼロは顔の前で指を絡ませて、全員を見下ろした。
「というわけで、全員そろった。そろそろミグッチェ奪還と運命の驚異壊滅の作戦を考えなければならない」
 浩二が手をぶんぶん挙げる。
「はいはーい、前俺が見せた、四大元素の玉を使ってかく乱して強行突破――」
 だが、その言葉をすぐ止めるゼロ。
「それは無理だ。突破するときに、俺達にまで被害が及ぶ。こんなに大勢だとかく乱しづらいし、かといって分担行動をとれば複製体に頭数で負けてしまう」
「そっかー……」
「俺は外部から戦力を徐々に削っていくという考えだが……他にいい案はないか?」
 カルバが静かに手を挙げた。ゼロがカルバを指差すと、彼は立ちあがって説明を始めた。
「外部から削っていく……我々を襲ってくる複製体を倒していくということですよね?」
「そうだ」
「しかしいままでの、運命の驚異の行動パターンを考えると、相手のリーダーはかなり慎重だということが分かります。浩二さんや真奈美さんが最近襲われたとき、サルマが光の驚異を襲ったとき、この三つの戦闘の中で複製体が戦闘に関わっていたのは、真奈美さんが襲われたとき、たったの一回です。それも、全然強くなかった……以上のことを考慮すると、敵はあまり手のうちを見せず、本部に戦力を溜め込んでおく、奥手型ということになり、外部から戦力を崩すというのはとても時間がかかることだと思ったのです。私の意見は以上です」
 カルバは目を瞑って座った。ゼロはその意見を聞いてあごをさすりながら、考え込んだ。
 しばらくして、ふと顔を上げた。
「だが最近敵の行動は活発化してきている」
 すかさずカルバが割り込む。
「ですから、敵がアクションを起こしても、こちらが動かなければいいだけのこと。そしてこちらがアクションを起こすのは敵の本部に乗りこむときだけ。何故か分かりますか? それは複製体が外部に出てこないことに問題があります。複製体は恐らく、運命の驚異団員よりも実力は下です。によって、我々が世界散り散りに行動し、単独で複製体と戦ったとしても、勝てます。しかしながら、運命の驚異団員は全員相当の実力を持っています。だから、単独行動しているときに団員に会えば、まずジ・エンドです。我々全員で団員一人を倒したとしても、相手はそれを警戒し、もう団員も複製体も、何も外部に出してこなくなります。だから戦力を削るのはほぼ無意味です」
 カルバは疲れたように後ろへどさっともたれかかった。
 ゼロは少々不服な顔になって頷いた。
「確かに、そうだな。今回は俺の負けだ……じゃあ、俺たちはこれからなにをすればいい? それが問題だ」
 そこで浩二がまたぶんぶんと手を挙げる。
「運命の驚異本部に乗りこ――」
「だからそれは無理だって言ってんだろ!?」
 ゼロが大声を出してキレた。
 だがその直後、突然廊下へ続く扉が爆発を起こして、吹っ飛んだ。
 全員がそちらの方を向く。一気に緊張が張り詰める。
 皆、魔本を構え、魔物も戦闘準備をした。
 白い煙が晴れて、そこに現れたのは――
 それに浩二たちは目を疑った。
「皆さんこんにちは。僕が運命の驚異リーダーの、ハイツ・ノストラーです」
 そこに現れたのは、四体の複製体を引きつれた、ハイツだった。
 リーダーが犬型の魔物ということに皆一瞬驚くが、すぐに頭を戦闘の方向に切りかえる。
 ハイツはとことこと前へ歩み寄って、浩二たちの前方に立つと話しはじめる。
「恐らく皆さんが油断していると思ってね。運命の驚異の奴らは自分たちの本部が何処にあるか知らないし、奴らは慎重だからもう襲ってこないと。そうですよね? ゼロイン・フォア・エレッシオさん」
 その言葉に、ゼロが冷や汗を流した。
「な、なぜ俺の名を知っている!」
 すると、ハイツがにやりと笑った。
「この人達に教えてもらったからです」
 すると、浩二たちの後ろからナゾナゾ博士とキッドがハイツの方へ向かって歩き出した。更に、ハイツたちの後ろから清麿とガッシュが現れた。
 突然のことに、全員が唖然とする。ハイツが甲高い声をあげて笑った。
「ははは! 全ては計画通りです。清麿 高峰とミスターナゾナゾを洗脳し、あなたたち堕下する世界の本部を見つけ出す作戦……もう貴方たちは終わりです!」
 その言葉を聞いて、浩二たちは驚きを隠せなかった。しかし、相手は待ってくれない様だ。
 ハイツの後ろから、ブラックグレーの本を持った男が現れた。
「俺がハイツのパートナー、ディスペンス・ノーゼント。と、自己紹介はこれくらいにして……レウォケル!」
 ディスペンスが叫んだ瞬間、ハイツの口から輪の形をした、重力の衝撃波が飛び出して、一直線に浩二たちに向かう。
 いきなりの攻撃に、焦って浩二が術を出す。
「ウィ、ウィスガ!」
 レインの杖から、風の針が飛び出した。それは、飛んでくる重力の輪を潜り抜けて、ハイツに向かった。
(あっ! ミスった!)
 これでは重力の衝撃波を受けてしまう。とそこで、よこから攻撃が飛んでくる。
「セイギス!」
 麻美が叫ぶと、センが腕を交差させ、そこから巨大な光の刃が飛び出した。それは、重力と相殺した。
 相手も、浩二の攻撃を相殺していた。
 一息つく浩二だが、休ませてはくれない様だ。
「ビレイライツ!」
 ハイツの口から赤みを帯びた重力が、線状になって飛び出した。
「ギルエ!」
 ハイツの横にいた、両腕に鎖が垂れ下っている魔物、ジーク。その両腕についていた鎖が剣の形に変わり、浩二たちに飛んだ。
 浩二たちも一斉攻撃で迎え撃つ。
「ウィスガ!」
 レインの杖から風の針が飛び出した。
「ドムルド!」
 ルルの赤く光る両手から、焔の衝撃波が飛び出した。
「ラジュゲル! シザジュガル!」
 ライノが地面に種を設置した。その種は、木材で出来た手裏剣になって飛び出した。
「セイス!」
 センが腕を交差させ、光の刃を放った。
 全ての術がぶつかり合い、なんと相殺した。
 そして白い煙が上がった。直後、なんの前触れもなく浩二たちの目の前に巨大な機械の女神が現れた。
 そう、ナゾナゾ博士の呪文。
『ぐわぁぁぁ!』
 なんの対処も出来ず、ふっとぶ浩二たち。全員が血まみれになって、地面に倒れ付した。
「あれ? もう終わり?」
 ハイツが生意気な口調で言う。忌々しげに、ハイツを見上げる浩二。
 動けない浩二を前足で踏むハイツ。
「弱いねー。あんまりにもつまらないから、君をまず殺してあげるよ」
 ハイツがにやりと笑って浩二を見下ろした。
 そして浩二から足をのけて、離れると呪文を放つ。
「ラージア・レアルセン!」
 ハイツが後ろ足だけで立ち、前足を浩二に向ける。すると、両前足から腕の形をした水が飛び出し、浩二の背中に命中した。その水は、重力をも纏っていた。浩二は水圧と重力で、地面に押しつけられる。
「ぐ……ぐわぁぁぁ!」
 水は飛び散って消えた。浩二の背中は、さらに血まみれになった。
「ははは、本当に脆い。多分いまので君の背骨、全部ばきばきだよ」
 ハイツが言ったとおり、浩二はろっ骨に激しい痛みを覚えた。全部折られている。
「それでも攻撃は止めないよ……ディスペンス」
「おう。ビレイライツ!」
 更に横からジークとガッシュとキッドが攻撃を加えてくる。
「ギルエ!」
 鎖が剣に変わって飛び出した。
「ザケルガ!」
 ガッシュが雷を吐き出す。
「ゼルセン!」
 キッドの両腕が放たれる。
 その攻撃を浩二が全て受けた。
「あぁぁぁっ!」
 浩二は余りの激痛に、叫び散らす。
 真奈美達は、動くことも出来ず、浩二を助けることも出来なかった。
 痛々しい光景に、顔をそむけるしかなかった。
 痛みで意識がもうろうとする浩二にハイツが歩み寄って、耳元で突然喋り出した。
「それと浩二さん。貴方に家族なんて一生出来ません」
 浩二はその言葉に驚くが、動けない。そのままハイツが続ける。
「その証拠をお見せしましょう」
 すると、ハイツが右足を浩二の頭に乗せた。
「貴方の過去……今ここで見せます」
 浩二は、やめてくれ、と叫びたかった。でも、声が出なかった。ハイツがにやりと笑う。
「貴方が虐められていたころのことを――」


 ――んっ……
 目が覚めると、そこは誰もいない体育館だった。
 俺が昔いた学校。そして俺が……虐められた学校だった。
 俺はふと自分の手の平に目を落とす。
 やはり、小さい。多分、九歳の俺……なんだと思う。
 あの犬は、一体何を考えているんだ。戦闘中に、俺にこんなものを見せてなんの意味が――
「おい浩二」
 その声に、俺はドキッとした。その声は、どんなに忘れようと思っても、忘れられない声。意地悪そうな、あの低い声。
 俺が振り向くと、案の定、五人くらいの男子を引きつれた紫藤がいた。大きな体躯に、いつもいばっているような、憎たらしい顔。到底、九歳とは思えないような体だった。
 俺はその顔をまっすぐ見れなかった。なにしろ、彼こそが俺を虐めつづけた張本人だからだ。
 俺は小さく返答する。
「……何?」
 俺が返事すると、突然紫藤が俺を殴った。
「何? じゃないだろ? なんですか? 紫藤様、だろ?」
 紫藤がにやりと笑っていった。俺はうつむいて、その通り返答した。
「そうそう、それでいいんだよ」
 そういうと、紫藤はまた俺を殴った。顔面を殴られて、口から血が流れる。それが始まりとなって、全員が俺を殴り出した。
「うぅぅ……」
 俺は頭を抱えて、虐めに耐えるしかなかった。


 俺はぼろぼろのまま、教室に帰った。服のいたるところに血がついている。
 だがそんな俺を気に止める奴は一人もいなかった。俺はうつむいたまま歩いていって、自分の席に着いた。
 もう、こんなことには慣れていた。虐められて、虐められて、でも誰も助けてくれない。誰も構ってくれない。誰も喋ってくれない。
 紫藤が皆を脅しているからだ。
 ……そう信じたかった。でも、どこにもそんな証拠はなかった。
 ――もう嫌だ。早くと真奈美さんたちの所へ帰りたい。
 こんなことろにいたら、精神がもたない。
 そのとき、教室の扉が大きな音を立てて開いた。俺が扉の方向を見ると、紫藤がいた。
「よぉ、さっきの続きだ。まだ先公がくるまで時間はある」
 すると、紫藤は教室中の生徒を、俺の机を中心となるように囲ませた。
 そして紫藤が俺を殴って地面に倒れさせると、それが火種となって全員が俺を蹴り始めた。
 四方八方から飛んでくる、足。女子すらちゅうちょなく蹴ってくる。
 ……痛みは感じる。だが、もう俺はそんなことには慣れていた。
 こんなの、毎日毎日やられていたことだ。どうって事ない。
 俺は蹴られながら、小さく嘲笑した。それに気付いたのか、紫藤が蹴るのをやめる様に皆に言った。
「おいおい、こいつ笑ってるぜ? 頭おかしくなっちまったんじゃねーのか? 西条、お前頭蹴ってたよな?」
 西、条……? その名前は何処かで聞いたことがあった。だが、思い出そうとしても、何故か思い出せない。西条と呼ばれた女の顔は、倒れている浩二からは見えなかった。だが、そいつは喋り出した。
「そうよ? でも、そこまで強く蹴った気はないんだけどなー……」
 女は、少し前に足を運んで、俺の顔を覗きこんだ。
 その顔を見て、俺は声を出すことが出来なかった。
 西条……それは、西条 真奈美。
 真奈美さんだった――


 髪の毛を引っ張られて、浩二はハイツと顔を合わせた。ハイツはにやにやと笑っている。
「分かったかい? 君が唯一信じていた家族とやらは、君のことを虐めていた張本人だったんだよ。ははははは!」
 浩二はその言葉を聞いて、虚ろなひとみから涙を流した。


 信じていた。
 信じてたのに。
 真奈美さんだけは……真奈美さんだけは、俺のことを分かってくれてるって。
 でも……
 真奈美さんも結局は俺の“敵”だった。
 そう。
 全て敵。
 この世に俺の仲間なんていなかった。
 始めから独り。
 これからも、独り。
 それなら、俺は何故この世界に生きているのだろうか?
 いや――
 何故こんな世界があるのだろうか?
 そうだ、壊してしまえ。
 こんな世界など――


 壊してしまえ。


 ハイツは浩二からただならぬものを感じ取った。一瞬で嘲笑を消し、一気に浩二から飛びのいた。
 その直後、浩二のうつむいた顔の額。そこになにかの紋様のようなものが現れた。
「な、なんだ!?」
 ハイツが叫ぶ。ゼロたちも、浩二の異変に気付いていた。
 真奈美が浩二の顔を見てみる。
 そしてその浩二の顔にあったのは――
 嘲笑。
 この世の全てを嘲っているような、いやらしい笑み。
(いつもの……浩二君じゃない……)
 確かに感じた。いつもの浩二ではないと。
 いつもの浩二なら、あんな笑い方は出来ない。
 いつもの浩二なら、もっと優しく微笑む。あの、屈託のない微笑み――
 その微笑みと、今浩二が浮かべている笑みは全く違うものだった。
 そのとき、浩二が突然腕を持ち上げて、それをハイツの方へ向けた。
 ハイツは目を大きく見開いて、汗を流した。
 何かが……来る。そう直感した。
「ふ、複製体!」
 命令を下した直後、ハイツの目の前に四体の複製体が――
 と思った直後、突然浩二の姿が消え、ハイツの目の前に現れた。
 ハイツは驚いて一歩後ろに下がって――
 だが、そこで信じられないものを見た。
 真っ赤に染まった浩二の両肩。目線を右腕に流すと、また真っ赤。さらに視線を流していくと……
 浩二の両腕に複製体たちの千切れた頭が握られていた。
「うっ……」
 ハイツは余りに衝撃的な光景に、吐き気を覚えた。
 その光景を、ゼロたちも信じられない様子で眺めていた。
 やっとの思いで、ハイツが浩二の顔を見上げると、その顔はやはり笑みを浮かべつづけていた。
「き、貴様! 僕の複製体をよくも――」
「黙れ」
 浩二が突然ハイツの言葉をさえぎって、言った。
 やはり、いつもの声とは違った。あの明るい声が、今は全く感情のない声音になっていた。
 浩二は無表情になって、右手でつかんでいた二つの頭を握りつぶした。
 浩二の顔に、鮮血が飛び散った。それを気にする様子もなく、浩二はハイツに右手を向ける。
「わぁぁぁ!」
 ハイツは恐怖で顔をそむけた。
 その直後、ハイツが何かの力に飛ばされた様に、後方へ吹っ飛んだ。そのまま壁に食いこんで、気絶した。
 ディスペンスは冷や汗を流し、恐怖ですくんだ足をなんとか動かし、ハイツを抱えて逃げていく。
 だが、浩二はそれを追う様子はない。
 逃げていく二人をただただ眺めるだけ。
 そして、二人がいなくなったところで――
 その目線は真奈美達に向けられた。
 真奈美達は、うっ、とひいた。恐怖で……動けなかった。
 とそこで、突然わんわん吠えながらポロが飛び出してきた。そして、一直線に浩二に向かっていく。
(ポ、ポロ!)
 真奈美は絶望した。あのまま浩二にポロが向かっていったら――
 浩二は足を止め、走ってくるポロにふと目を落とした。
 そしてポロが浩二の胸に飛びつこうとした。
 刹那、浩二の右腕にはすでにポロの頭が握られており、胴体は細切れになって地面に転がった。
 余りに悲惨な光景に、全員が顔をしかめる。
 だが、もうそんなことを考えている余裕もなくなってきた。
 目線を再び真奈美達に向けると、浩二は両手に握っていたものを全てあっさりと握りつぶし、血しぶきを撒き散らせながら再び歩み始めた。
「さぁ、α(アルファ)へゆけ」
 浩二は血まみれの右手を持ち上げながら、無感情に言った。
 直後、麻美の悲鳴が上がった。
 麻美の魔物、センの首が宙を舞っていた。あたり一面に血が飛び散る。
 泣き叫ぶ麻美。だが、その悲鳴も消えたかと思うと、彼女の首も宙を舞った。
 浩二は離れた位置から麻美たちに向けて腕を向けていた――
「完了。次は――」
 浩二がカルバとキーリに腕を向ける。
 カルバもキーリも、もう死を覚悟した顔だった。
(このままじゃ……皆殺されちゃう……)
 真奈美はその直後、もう体が動き始めていた。浩二に向かって一気に走る。
 そして、浩二の腕をカルバから違う方向へ向ける――
 しかし、見えない力は真奈美の肩をえぐった。
 地面に血が滴り落ちる。歯を食いしばって、真奈美が浩二の顔を涙目で見る。
「浩二君……お願い、やめて……」
 真奈美は浩二の体を抱きしめた。だが、浩二は真奈美の左肩に手を当てる。
「どけ、邪魔だ」
 浩二の手が一瞬揺らいだかと思ったら、今度は真奈美の左肩がえぐられる。
 それにも歯を食いしばって、耐えぬいた真奈美。
「大丈夫……浩二君……もう、独りじゃないよ? だから……いつもの浩二君に戻って……!」
 真奈美は浩二と唇を合わせる。同時に、額に現れていた紋様を手で覆い隠していた。
 すると、浩二の体の力が一気に抜けた。くらくらなって、血の海に倒れた。
 浩二の額の紋様は、もう消えていた。
 全員立ちあがって、恐々浩二に近づいていく。歩くたびに、血が飛び散る音がした。
「浩……二……」
 ゼロが顔をしかめて、浩二を見下ろした。
 そして、地面に転がっている七体の胴体に目を移す。
 ハイツがつれてきた複製体、浩二が飼っていたポロ、そして――
 麻美とセン。彼女たちの無残な死体を。
 見ていられなくなって、ゼロは顔をそむけた。一筋の涙が零れ落ちる。
「浩二……何故こんなことを……」
 そのとき、浩二が小さくせきをした。直後、全員が驚いてびくっとなる。
「ごほっ……ごほっ……」
 浩二はせきをしながら、おぼつかない足取りで立ち上がった。そして、怯えた皆の顔を見つける。
「み……皆……今どうなったの……?」
 浩二が問い掛けるが、それに答えるものはいない。浩二はふと地面に目を落とす。
 驚愕の表情になってから、自分の服にも大量に血がついていることに気がつく。
 そして――
 自分の手のひらに目を落とした。その手は、血がどろどろとついていた。
「こ……これは一体……」
 それを見て、真奈美が驚く。
(何も……覚えていないの……!?)
 浩二はあたりを見まわす。そしてついに、首の無い死体たちを発見した。
 その中に、ポロの胴体があることも――
「ポ……ロ……?」
 浩二はおもむろにポロへと歩み寄っていく。そして、毛が真っ赤に染まっているポロを抱き上げる。
 もう首は無かった。浩二の目から涙が溢れる。
「誰がこんなことを――」
「お前だ!」
 突如、ゼロが叫んだ。真奈美が止めに入ろうとするが、もう遅かった。
「お前が麻美も、センも、そしてその犬も! 全員殺したんだ!」
 ゼロはそれだけ叫ぶと、大きな泣き声を上げて地面に手をつけ、うつむいた。
「俺が……?」
 絶望した顔で、浩二は真奈美を見上げる。そして、両肩がえぐられているのに気がついた。
「真奈美さん……その傷は……」
 真奈美はもう何も言いたくなかった。あまりにも、つらすぎた。
 浩二が殺した。たくさんの命を。
 それがいまだに信じられなくて、言葉が出ない。
 だが、真奈美はうつむいたまま答える。
「そうよ……浩二君がやったこと……」
 浩二の顔から感情が消えた。あまりのショックにもう言葉も出ない。
 そして目線は再びポロに移される。
 浩二は何がなんだかわからなかった。
 だがまた、確信してしまった。
 自分が皆を殺してしまったのだと。
「うっ……」
 浩二は耐え切れなくなって、大声で泣き散らした。
 もう首の無い、ポロを抱きしめて。
 そのとき――
 誰も浩二に声をかけてやることはできなかった。


2005年05月17日 (火) 09時38分


(1023) 脅威編 第二十九章〜精神異常〜 投稿者:大輝 MAIL

「さっきは……すまなかった……」
 ゼロが、鎖で体中巻かれ、動けない浩二に言った。
 その言葉に、浩二は返答しなかった。うつむいたまま、涙を流し続ける。
 場所は堕下する世界本部の二階にある、少し大きめの食堂。一階の中心部は、血の海で入ることができない。
 今浩二が鎖で巻かれているのは、こうしておくしかなかったからだ。
 また浩二が暴走を始めても、動けないように。
 ゼロが神妙な口ぶりで進める。
「浩二は皆を殺した記憶がない……ということは、もしかしたらあのハイツとか言う魔物に操られていたのかもしれない。とにかく、浩二のせいじゃないんだ。そんなに落ち込むな」
 やはり、浩二は返答しない。
 皆が見つめる中で、浩二は本当に沈黙しているしかなかった。
 当たり前のことだ。
 皆を――
 ポロを自分が殺したのだから。
 手に残る血痕と小さな肉片。
 それが何よりの証拠だった。
「浩二君……お願いだから元気出してよ……麻美さんだって、センだって、本当は死んでないんだから」
 真奈美が言うと、横から死んだはずの麻美とセンが顔を出して頷いた。
 実はあの時、センの特殊能力で麻美とセンの分身を作り出し、死んだように見せかけたのだ。
「そうよ、私はこのとおり、生きてるわ。浩二君、だから気を取り直し――」
「ポロが死んだ!」
 浩二は叫んだ。
「ポロを俺が……麻美さんたちみたいに分身じゃなく……“ポロ”を俺が殺したんだ!」
 そのとおり、それは紛れも無い真実だった。
 ポロはもう、戻ってこない。
 紛れも無い事実。
 変わらない運命。
 それに絶望して、浩二はもう顔をあげることができなかった。
 泣きはらす浩二に、かける言葉が誰も見つけられなかった。
 ゼロの心中――
 本当は、お前がやったのだから仕方が無い。
 そういう気持ちもあった。
 麻美が死んでいてもそんなセリフがはけたのか?
 そういう気持ちもあった。
 だが――
 事実、彼はいつもの浩二ではなかった。そして、殺したことも覚えていない――
 だから、浩二のせいだと、ゼロは言えなかった。
 今一番つらいのは、浩二のはずだ。
「皆――」
 ゼロは手招きし、浩二一人を置いて、皆と一緒に部屋を出た。


「どうする? 浩二」
 ゼロと真奈美は二人、小部屋で相談しあっていた。
「あの状態だと、かなり危険な精神状態よね?」
「あぁ……」
 浩二は唯一の家族と思っていた犬のポロを、自らの手で殺めてしまった。
 自分の手で命を消すこと――
 自分は人を殺したことなんて覚えていないのに、自分は本当に人を殺してしまっている――
 それはたった十四歳の少年の精神で耐えられるものではない。
 浩二の心には、一生残る、大きな傷ができてしまったのだ。
「……いっそのこと、精神科医に見せようか」
 ゼロが提案すると、真奈美は小さく頷いた。
「そうね……そうするしかないかもね……」
 とそこで、突然小部屋の扉が開いて、汗を流したフォーラが現れた。
「た、大変だ! こ、浩二君が!」
 それをきいて、二人に緊張が走った。


「死なせてくれ! もう俺は生きていても仕方ないんだ!」
 浩二は縛られている体をじたばたさせてわめき散らす。
 ゼロは慌てて、浩二を取り押さえる。
「落ち着け! 浩二!」
「嫌だ! 嫌だ! 俺はポロのところへ行くんだ!」
 あまりの暴れように、ゼロ以外近づくことができなかった。
 浩二は涙を流して、死なせてくれと訴えかけた。
 しかし、ゼロは浩二を取り押さえたまま、言う。
「今死んだら逃げることになるんだぞ! 死んだポロのことを考えろ!」
「嫌だ! もう死にたい、死にたいよぉ!」
 そのとき、浩二の頬が何かに殴られた。
 彼は驚いて叫ぶのを止め、顔をあげるとそこには真奈美がいた。
「ゼロのいうとおりよ、浩二君。ここで死んだら駄目よ。ポロのぶんまで、生きて」
 浩二はその言葉を聞いて、無表情になり、地面に倒れた。
 そして弱弱しい声音で言う。
「ごめん……俺どうかしてた……ポロのぶんまで……生きなきゃ……」
 それだけ言うと、浩二は目を瞑って眠り始めた。
 真奈美は疲れたように息を吐いて、地面にしりもちを着いた。
「よかった……」
 だがちょうどそのとき、真奈美の携帯電話が突然鳴り始めた。
 真奈美は周りを気にしながら、電話にでた。
「もしもし……?」
『あ、真奈美か?』
「お、お父さん!?」
 電話の相手は、真奈美の父だった。数年前、世界旅行に出かけて以来、一度も電話すらかけてこなかった父。
 そんな彼がいまさら何のようなのだろうか?
「な、なんでいままで電話してくれなかったのよ! お母さんも私も、お父さんが死んだんじゃないかって、心配してたんだから!」
『あぁ……それはすまなかったな。だがお前に知らせておきたいことがあってな』
 真奈美はため息をついて、なに? と聞いた。
『私も魔界王を決める戦い参加者だ』
 父の突然の言葉に、何もいえなくなる真奈美。
(一体お父さんは何を言って――)
『真奈美もこの戦いに参加していることは知っている。だから、協力しないか?』
「えっ……?」
 父の問いかけに、また言葉を失う真奈美。
 だが、顔を引き締めると言った。
「じゃあ、ちょっとまってて」
 電話から顔を離すと、真奈美は小さく笑った。
 父は生きていた。
 そして父もこの戦いに参加していた。
 安心感と嬉しさでいっぱいだった。
 だがそこで、表情を戻してゼロに聞く。
「ゼロ……あの」
「ん? なんだ?」
「実は私のお父さんもこの戦いに参加していることが今分かったの」
「そ、そうなのか?」
「えぇ……そこでお願いなんだけど、お父さんをこの堕下する世界に入れてくれない?」
 そう言われると、ゼロはうむむとうなって、考え込む。
 それから少し汗を流しながら、返答する。
「まあいいだろう。戦力は多い方が良いからな」
「まぁ、ありがとう! それじゃあ、お父さんに言うわね! お父さん!」
 真奈美が電話に再び出てみると、父が、どうだったかと聞いてくる。
「実は私もう堕下する世界っていう集団に入っているの!」
『あぁ、噂で聞いたことがあるな。あの、二大集団のうちの一つだろ?』
「そう。で、今リーダーのゼロにお父さんが入っても良いか聞いたんだけど……良いって」
『おぉ、それは良かった。では、どこかへ迎えに来てくれるか?』
「じゃあ……フランスのシャルル・ド・ゴール空港で、明日の朝十時くらい待ち合わせでいいかしら?」
『それはありがたい。では空港入り口付近でまた会おう』
「うん、じゃあね!」
 真奈美がにこにこ笑いながら電話を切ると、そこには暗い顔をしたゼロたちがいた。
(あっ……浩二君のことがあったんだわ、そういえば……)
 そう、みんな明るくしていられるはずが無かった。
 今日、あんなことがあったのだから。
 真奈美は徐々にテンションを落としていき、ゼロの横に座った。


 翌日。
 真奈美は約束の時間より前に、ゼロと一緒に浩二を病院に連れていっていた。
 もちろん、浩二を束縛していた鎖は、今では外している。
 浩二は二人に挟まれて、途中で逃げない様に見張られていた。
 それに、少し顔を暗くしている浩二。
 真奈美もゼロも、できるだけ浩二に喋りかけるようにしたが、彼は何も返事をしなかった。
 そしてしばらくして、近くの病院に着いた。
 三人は、寄り道もせずに急いで精神科へと向かう。
 そして到着。緊張しながら中へ入ると、質素な雰囲気の所で、客も二,三人しかいなかった。
「すいません、診療を受けたいのですが」
 真奈美が受付に言った。受付の女性は、にっこりと微笑んで頷き、用紙を渡してきた。
「こちらに精神症状などを明記し、少々御待ち下さい。


『Q1.患者が最近変な行動・言動を発するようになった』
 いきなりこの質問。真奈美は汗を流して手を止めた。
 最近の変な行動、昨日起こった大虐殺――
「真奈美」
 ゼロが声をかけてきた。真奈美は驚いて、ゼロの顔をばっと見る。
「そこには変な言動を発するようになったとかいておけ。それなら変な行動よりマシだし、いろいろ事情つけられるしな」
「そうね――分かった」
 真奈美はゼロの言われたとおりにかきこんだ。
『Q2.患者は過去に家族、又は親しい親族や知り合いの死を体験したことがある』
 真奈美は正直に、はい、とかいた。
 こんな調子で、問いを答えていった。


「北野 浩二様、どうぞ」
 三人は立ちあがって、診療室へ入る。三人は、ついに緊張してきた。
 中へ入ると、白髪を生やした、五十歳くらいのおじさんの医者がいた。
「御座りください」
 三人は言われたとおり、座った。そして医者は真奈美が書いた用紙を眺め、しばらく黙る。
 そして口を開いた。
「これだけではまだ分かりませんので、質問をさせていただきます。浩二君、悪いのですが死んだ親族というのは、何人くらいか教えてくれますか?」
 それに浩二は黙ったままだった。真奈美が代弁する。
「彼は八歳以前の記憶がないんです。そして記憶があるところからはもう家族はいなかった。でも、遺書が残っていたんです。確実に母親と父親は死んでいます」
「記憶喪失か……だから喋れないのか?」
「いえ、今は最近起こった――」
 そこで真奈美が冷や汗を流して言葉を止めた。医者が首をかしげる。
「最近起こったとは、なんですか?」
 真奈美は返答に困って黙り込む。あの大虐殺のことを話せば、浩二は警察行きだ。いや、人は殺していないから罪はならないかもしれないが――だが、人に話せるようなことじゃない。
 しかしそこで、ゼロが突然言う。
「浩二は恐らく二重人格なんです」
 真奈美が驚く。まさかあのことを言うつもりでは――
 医者は首をかしげる。
「どういうことでしょうか?」
「昨日、浩二は自分で、飼っていた犬を殺したんです」
「……そうなのか」
「しかし、そのときの浩二は、いつもの彼とは違っていました。それに彼も、犬を殺した記憶がないんです。二重人格としか――」
「二重人格だったら、そうとう珍しいですね……分かりました。では、こちらで二週間ほどの間入院させましょう。よろしいですか?」
「……浩二、どうなんだ?」
 ゼロが浩二に聞くと、彼は首を横に振った。それにゼロが黙って、それからまた口を開く。
「いや、やっぱり入院させてください。彼のためにも」
 その言葉に、浩二がはっと顔を上げて大声をあげる。
「嫌! こんなところに入院するなんて、嫌だよ!」
 医者は顔を引きつらせて、少々ひく。
 頭がおかしいと思われてしまったのかもしれない――
「浩二、たったの二週間だ。それくらい我慢しろ」
「で、でも……」
 そこで浩二はまた顔をうつむかせて、黙りこくった。それをゼロが一瞥してから、医者に返答する。
「では、よろしくお願いします」
「はい、わかりました」
 そういうと、二人は浩二を置いて外に出ようとした。そこで、突然後ろから大声が上がった。
「真奈美さん! ゼロ!」
 二人が驚いて振りかえると、浩二は取り乱した様子で立ちあがり、目に涙を浮かべていた。
 そして二人の元に駆け寄ろうとするが、
「とめろ!」
 医者が指示した途端、横から若い男の医者が出てきて、浩二を取り押さえた。
 浩二は暴れて二人に手を伸ばしてくる。
「待って、待ってよ……置いていかない……で……」
 浩二の目からは止めど無く涙が溢れて、顔がぐしょぐしょに濡れていた。
 そんな浩二の姿を見ているのは、もう二人ともできなかった。
「二人とも、いったん外に出て!」
 医者に言われた直後、二人は浩二に背を向けたまま駆け出した。
「真奈美さーん!」
 浩二の悲痛な叫びに耐えながら、二人は精神科の扉を閉めた。
 二人の目にもいつのまにか涙が浮かんでいた。
 置いていかないでと叫ぶ浩二を無視するしかできなかった自分たち。
 しかしそうすることしかできなかった。浩二の精神がどうなっているのか、見てもらう必要があるからだ。
 だが、あまりに辛すぎた。
 そこで精神科の扉が静かに開いて、医者が出てきた。
「では、診察代を頂きましょう」
 医者はなんともないようすだ。彼のあまりにそっけない言葉に、一瞬ゼロは怒りを覚えるが、黙って代金を渡す。
「それでは、また一週間もしたら迎えに来てください」
「……分かりました」
 それだけ言うと、二人はそこを後にした。


 二人は暗い顔をして、本部へと歩いていった。いつもは楽しげなイタリアの町並みも、くすんで見えてしまうほどだった。
 街の中央広場に差しかかったところで真奈美が口を開く。
「浩二君……なんだか……本当に変だったわね」
 今までの浩二なら、こういうことでここまで取り乱すような男ではなかった。そして、前よりもわがままになっていた。あんなに大声を出すことだって――
 昨日までの、優しくて明るくて、どこかかわいい感じもあった浩二がまるで、嘘の様だった。
「そうだな、俺はあまりあいつと長いつきあいではないが、確かにいままでの浩二とは違ったな」
「やっぱり……ポロのことかしらね……」
「それしかないだろう……自分で殺してしまったのだからな」
 その後二人はそれ以上何も言わず、無言で本部へと帰っていった。


2005年05月23日 (月) 19時52分


(1029) 第三十章〜緑の閃光〜 投稿者:大輝 MAIL

「あ、そろそろ十時になるわ」
 真奈美が本部も近づいてきたところで言った。父との約束の時間まで、もう少ししかない。
「あぁ、そういえば真奈美の父親が今日来るんだったな。ついでだから、俺もいっしょに行くぞ?」
「え? いいえ? じゃあお願いしようかしら。シャルル・ド・ゴール空港だけど、バスで行く?」
 真奈美は近くにあったバス停を指差して、ゼロの顔を笑顔で見た。
 真奈美の笑顔に一瞬気を取られながらも、彼はこくりと頷いた。
 次のバスの時刻をゼロが見ると、次は九時二十分発のバスだった。
「これならなんとか間に合ったわね。ここから空港まで、三十分くらいでしょ?」
「あぁ。約束の十分前にはつくだろうな」
「それと……ちょっと気になったことがあるんだけど」
 真奈美が上目遣いにゼロを見る。彼は首を傾げると、真奈美が忌憚しがちに言う。
「えぇと……お父さんをこの堕下する世界にいれてくれるって言われたときは嬉しかった。だから舞いあがってて気がつかなかったんだけど……やっぱり変だと思って」
「何が?」
「浩二君があんなことになって、団員達全員が不安定な時期に新しい人いれるなんて、なんかゼロらしくないなって……」
 それにゼロは無表情で前を向いたまま答える。
「真奈美が聞きたいのはそう言うことじゃないんだろ」
 それに真奈美は図星を突かれた様に、顔をしかめた。そしてうつむき加減に重い口を開く。
「お父さんを団員に入れるって承諾してくれた時点で――もしかしたらゼロは浩二君を最初から入院させる気だったんじゃないかって思ったの」
「ほう、それはなんで?」
「ゼロはもちろん仲間思いだって事は分かってるけど、それとは別の感情、運命の驚異に絶対に打ち勝つという気持ちの方が先行している。
 ミグッチェの場合もそう。あの場合、ゼロの選択は間違っていたとは言えない。
カルバの意見が結果的に正解だったとしても、貴方は一人の仲間より、全体を選んだ。
 それは仲間が大切だとかそう言うことかもしれないけど、多分貴方はここで団員を失えば運命の驚異打倒が果たせなくなると考えた……更に浩二君。
 貴方は浩二君が今戦える状態じゃないことが分かっていた。でもこうも考えた。“あの破壊の力を運命の驚異本部内で使わせ、自分たちは避難しておいて中にいる魔物たちを一掃する”
 ……まあこれは考え過ぎかもしれないけど、一つ確実に言えることがお父さんの入団を了承したのは、貴方はあの時点で戦力にならない浩二君を入院させることを決めていた。
 そして新たな戦力をひとつ入れることで、平衡を守る……そうじゃない?」
 それにゼロはしばらく沈黙して、そして小さく嘲笑の声を上げた。
「真奈美には全てお見通しか……そうだ、俺は運命の驚異を潰し、あいつ等の目的の阻止を謀っている。その為ならなんでも利用する。そして……どんなものでも切り捨てる。そういう覚悟だ」
 ゼロの目は全く揺るがぬ光があった。それに真奈美は一瞬のみこまれてしまいそうになる。
 彼の目は、誰とも違う。本当に見たこともないほど、決断に満ちた目。そしてどこか怒りに満ちた瞳……
「そう、俺はあいつ等を許さない。絶対に――」
 彼の顔は怒りで引きつっていた。こんな彼を見るのは始めてで、真奈美は声をかけることができなかった。
 はっと気付いた様に、ゼロがいつもの顔に戻った。そして慌てた調子で、真奈美に両手を振る。
「いや、あの……さっきのは冗談だ。気にしないでくれ」
 それに真奈美は、小さく頷いた。これ以上追求する必要は無い。彼の胸中を探ろうなんてことは考えない方がいい。
 そう思って真奈美はもう何も言わなかった。
 気を紛らわせるためか、ゼロは口笛を吹きながらバスを待っていた。
 そして三分もすると、バスがやってきた。
 二人はそれに乗りこみ、空港へと向かった。


「おぉ真奈美、大きくなったな」
 真奈美の父親が空港の奥から現れ、二人に手を振ってくる。横には、小さい人方の魔物がいた。少し人相が悪い。
 父親に微笑みながら、手を振り返す真奈美。
 そして真奈美と握手を交わしてから、父親はゼロにも手を伸ばす。
「西条 修二だ。この度は入団を承諾していただいたそうで、感謝の意を述べよう。君が団長さんか?」
 それにゼロは握手を返しながら、会釈をする。
「はい。承諾したのは、戦力が少々不足していたからなんですけどね」
「では私が入って君はとても助かると思うよ」
「それはどういう意味でしょうか?」
 ゼロが少し遠慮しがちに聞きながら、握手していた手を引く。
 そして修二が魔物を自分の前に出してきて、しゃがみながらその肩に手を置く。
「君は“緑の閃光”という異名を持つ王候補を知っているかね?」
 それにゼロが驚愕の表情。そして冷静を保ちきれない様子で聞く。
「天から降り注ぐ天罰の光を操るといわれる、王候補ナンバーワン……ゼブロ、異名“緑の閃光”……もしや真奈美さんのお父上様が?」
「その通り、私がゼブロのパートナーで――」
 修二が肩に手を置いている魔物が口を開く。
「俺様がゼブロだ」


2005年05月29日 (日) 08時38分


(1041) 学者 投稿者:核兵器

何してる


2006年06月21日 (水) 14時44分




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