投稿日:2014年12月11日 (木) 05時06分
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お試しあれ
長淵剛の「乾杯」の一節に「君に幸せあれ」とある。この「あれ」を、命令形願望法の用例としてネタにしていた。これに類似する用法を最近テレビで聞いた。「お試しあれ」。 お試しください、とか、お試しになってはいかがですか、といった意味合いで「お試しあれ」と言うのだろう。この「あれ」は話し手の願望ではなく、聞き手に試してみることを勧めている。積極的に依頼しているわけではない。 このような「あれ」がほかにもないかと頭の中を探してみた。 永遠あれ、呪いあれ、お許しあれ、お導きあれ、お助けあれ、ご加護あれ、 ご慈悲あれ、ご賞味あれ、照覧あれ、などが浮かんできた。 意味は願望であったり依頼であったりする。文体的には古いという印象がある。人知の及ばない力に対して願う気持ちを伴う場合もあるようだ。普通の会話で使うと大げさに聞こえる。ふざけているとも感じられる。しかし、「お試しあれ」には古いという印象はあるけれども、大げさとかふざけているといったニュアンスは感じられない。そうかといってフォーマルな場面では使いにくい。働きかける相手に親しみを込めていると言ってもよいだろう。 学生に、どんな時に使われる? と尋ねたところ、通販という答えが返ってきた。調べてみると、いろいろ出てくる。 「携帯用にお試しあれですよ♪」「送料無料でお試しあれ!」「一度お試しあれ〜」「お試しあれ(^○^)」「是非お試しあれっ!」「お試しあれ^^」「お試しあれ(^^♪)」「一度お試しあれ〜(^o^)丿」「お試しあれ☆」「ぜひお試しあれ(^-^)/」など。 「あれ」の後ろに音符マークや星マークを付けたり顔文字を付けたり、長音にしたり促音にしたりして表現に表情を与えている。堅苦しい表現ならこのような表情はないはずだ。相手に親近感を込めて訴求している。お試しくださいと言えば直接的な依頼や勧めになるけれど、お試しあれの形だと直接性が緩和され、ソフトな物言いになる。効果的な慣用表現である。 (2014年12月11日) |
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