投稿日:2014年10月23日 (木) 04時34分
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第395回 ものもらい
ものもらいは、まぶたの縁などにできる腫物で、正式名称を麦粒腫という。これの方言形は各地にさまざまなものがある。 鳥取県倉吉市では「めぼいた」と言っていた。語構成は「め(目)」と「ほいた」の複合語である。「ほいた」は乞食のことで、ものもらいである。めぼいたができると、近所(向こう三軒両隣)を物乞いをして回ると治るという俗信があった。実際にした経験はない。 めぼいたは目にできたものもらいの意である。同様の構成を持つ方言形に、めかんじん(目勧進)、めこ(ん)じき(目乞食)、めぼいとなどがある。めぼいとは「め」と「ほいと」である。「ほいた」と「ほいと」は同源であり、陪堂(ほいとう)のことである。陪堂というのは「禅宗で、僧堂の外で、食事のもてなし(陪食)を受けること。」「他人に食事を施すこと。また、その食事や飯米。」「金品をもらって回ること。ものごいをすること。また、その人。こじき。」(『精選版日本国語大辞典』)である。 「ほいとう」が「ほいと」になるのは分かりやすいが、「ほいた」になるのは説明が要る。 陪堂の字音は「ホイタウ」である。このタウが二通りの発音に分かれる。口を大きく開いて発音してタアとなる、これを開音という。一方、口を狭くして発音してトウとなる、これを合音という。共通語ではたいてい合音となる。和語でも推量の「だらう」がダロウ、「行かう」が行コウ、となるのがその例である。一方、倉吉方言ではたいてい開音になり、「だろう」がダラア、「行かう」が行カアとなる。そして、ホイタウがホイタになるのである。 「書こう」は「書かあ」となり、「書こうか」は「書かあか」となる。調べていて思い出したのだが、女の子のことを「にょうばのこ」と言っていた。「にょうば」は「女房」からきていて、字音で表記すると「ニョウバウ」であり、ニョウバア、そしてニョウバとなった開音の例である。 (2014年10月23日) |
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