投稿日:2014年08月07日 (木) 05時45分
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ゆとる
「ゆとり」というの語源は明らかではない。この語が動詞化することは想定外のことと思われる。しかし、「料理」を動詞化した「料る」という語がある。理(り)を連用形の活用語尾だととらえたものだ。これと同様に「ゆとり」の「り」を連用形の語尾ととらえると、基本形を「ゆとる」とする動詞が生まれる。 2000年代の初めの約10年間にわたってゆとり教育が行われた。学校は土曜日の授業がなくなり完全週5日制となった。ゆとりを重視した学習指導要領が施行され、教科の授業時数も減少した。このような教育を受けて育った世代をゆとり世代と呼ぶ。しかし、学力の低下がこのゆとり教育の影響だととらえられ、新たな学習指導要領が策定され施行されて現在に至っている。 ゆとり教育を受けたゆとり世代。この関係付け自体には問題はない。しかし、「ゆとり」という語はネットスラングで「『精神的に稚拙な人』を指す蔑称」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A8%E3%82%8A%E4%B8%96%E4%BB%A3)として使われているようだ。これがきっかけでゆとりの動詞化が起き、「ゆとってる」といった表現が現れてきたと推察される。 先日、ドラマの中でこんな会話例を見つけた。「ST赤と白の捜査ファイル」第2話(2014年7月23日22時から日テレ系)
百合根友久(岡田将生):少しはほめてくれてもいいんですけど。 赤城左門(藤原竜也):ゆとり世代め! 百合根:昔のえらい人にゆってください。僕たち、好きでゆとってきたわけじゃありませんから。 (僕たち好きでゆとってきた訳じゃありませんから!!! http://masakiokada.blog.fc2.com/blog-entry-764.html)
「ゆとってきた」というのは「ゆとり世代め」とののしられたことに対して、自分の意思でゆとり教育を受けてきたわけではないと言い訳をする場面で使われている。
こんな会話例もあった。
草男 (略)ゆとり教育するじゃないですか。安心するじゃないですか。ゆとって育つじゃないですか。 原田 ゆとって!(笑) 草男 ゆとって育つじゃないですか。ゆとりな感じでいくじゃないですか。(略) (三浦展・原田曜平『情報病─なぜ若者は欲望を喪失したのか?』角川Oneテーマ21、2009年、p.203)
一見、肯定的なとらえ方のように聞こえるが、実は直後に否定される。 ゆとりがある状態は好ましいけれど、ゆとり教育というフィルターを経て生まれた「ゆとる」、この動詞で表される事態は決して好ましいものではないという複雑な事情があるようだ。 (2014年8月7日) |
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