投稿日:2014年05月08日 (木) 04時34分
|
酒癖、とぎ汁、頭突き
二つの語が複合するとき、後項要素の語頭音が濁音になることがある。これを連濁と呼ぶ。本と箱で本箱(ほんばこ)、谷と川で谷川(たにがわ)、段々と畑で段々畑(だんだんばたけ)などのような例がある。 連濁になるものだとばかり思っていた語が、かならずしもそうではなかったことを知った衝撃は大きい。 『NHK放送研究と調査』2011年7月号に、太田眞希恵「『のど』は“イガラッポイ”?“エガラッポイ”?〜語形のゆれに関する調査(平成22年8月)から〜」(注)(pp.64-83)という論文がある。この中で、「『酒癖』『とぎ汁』は連濁形が圧倒的多数,『頭突き』は清音へと変化中」という項目がある。 『NHK日本語発音アクセント辞典』は1951年版以降すべての版(1966年版、1985年版、1998年版)で「トキ゜シル」という非連濁のみを掲載してきたというのである。国語辞典を中心とする他の辞書(昭和30年代以降の刊行)では、「『戦後昭和』の時期には濁音形『トギジル』を主見出しで掲載する辞書はなかった」(p.64)。平成22年に実施した「語形のゆれに関する調査」では、非連濁形の「トギシル」が12%、連濁形の「トギジル」が87%という結果が出ている。「汁」を後項要素とする複合語が「とぎ汁」と「みそ汁」以外はすべて(18語)連濁形であることが影響を与えたのかもしれないと推測している。とはいえ、非連濁形が主見出しに掲げられてきていたことが驚きであった。 「酒癖」についても、アクセント辞典ではすべて非連濁形の「さけくせ」を掲載している。それが調査では、非連濁形が6%で、サケグセという連濁形が93%という結果であった。 「頭突き」は相撲用語では「ズズキ」の形を採用しているが一般語は清音でアクセント辞典に掲載している。調査では「ズツキ」が71%、「ズズキ」が28%だった。ただし、年代差があるとしている。「『ズツキ』と発音する人は、60歳以上では62%だが、20代では87%と、若い年代ほど清音が多い」(p.66)と指摘し、「今後は『ズツキ』という清音形へと収れんしていくものと考えられる」(p.66)と予測している。地域差については「北海道では『ズツキ』と発音する人が83%いる一方で、四国では55%であった」(p.66)として図を載せている。使っているワープロの変換では「zutuki」と入力すると頭突きに変換する。 自分自身は「とぎ汁」と「酒癖」は多数派で、「頭突き」は相撲用語として理解して使用していたようである。 (注)http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2011_07/20110706.pdf (2014年5月8日) |
|