投稿日:2013年06月06日 (木) 04時33分
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第323回 まする
丁寧の助動詞「ます」の古い形に「ますれば」「ますると」「まするに」といった形がある。これらは日常的にはほとんど使われなくなっている古風な形式である。しかし、表現に重々しさや威厳を出そうとするとき、使われることがある。国会会議録を見ていて、「まするが」という形式が使われていることに気がついた。接続助詞「が」に続いているので、この「まする」は終止形である。ところが、文が終止する箇所では「ます」で終わっている。新旧二つの終止形が使い分けられていることになる。 「まするが」の形はかなりたくさんヒットするので、「ありまするが」の形に限って検索してみた。 昭和22年1月1日から同年12月31日までの間で検索すると1030件ヒットする。一番古い例は昭和22年5月21日の衆議院本会議における松岡駒吉の議長就任あいさつである。少し長くなるが、当時の雰囲気が伝わると思われるので引用する。 ******************** 議長(松岡駒吉君) 諸君の御推薦により、不肖衆議院議長の重責を担うことに相なりました。新國会の発足の記念すべき今日、この栄職につきますることは、私の終生忘れ得ざる感激を覚えるものであります。ここに謹んで諸君の御推薦に対し厚く感謝の意を表する次第であります。(拍手)申すまでもなく、わが國会の新しき性格と、國政上の地位に対し、國民の期待はきわめて大きく、かつ切実なるものがあり、われわれ議員の職責は実に重大となつたのであります。不肖、不敏にしてその責にたえることがおぼつかないので【ありまするが】、さいわいにいたしまして、諸君の御鞭撻と御援助により、中正にその職責を果し、もつて衆議院の権能を十分に発揮せんことを念願いたしております。何とぞ一層の御同情と御支援を切望する次第であります。簡單ながら、これをもつて御挨拶といたします。 ******************** 昭和の時代には頻繁に使われた「ありまするが」は、平成の時代になると、その使用数が激減する。平成1年1月8日 から 平成25年5月21日までの間でヒットしたのは、わずか82例である。最も多く使用したのは戸田菊雄議員(1924年3月生)の10回と渡辺嘉蔵議員(1926年1月生)の10回である。最年長者として西村尚治議員(1911年2月生)と坂元親男議員(1911年2月生)が各1回使用している。一方、比較的年少の議員として、円より子議員(1947年2月)が1回の発言中、3回使用している。議員以外の政府委員や説明員の使用も認められるが、これらの人の生年は未詳である。 平成における「ありまするが」は平成18年から平成20年の3年間は使用例がなく、最後の使用は、平成21年の1例(古本伸一郎議員(1965年3月生)の発言)を数えるだけである。 「まするが」に限ると以上のような状況であるが、「ますると」「まするに」「ますれば」は現在でも頻繁に使われている。公的性格の強い国会という場が、古風な表現を多用させているのだろうと考えられる。 (2013年6月6日 |
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