投稿日:2013年05月16日 (木) 04時38分
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想像だにもしなかった
副助詞という一群の助詞がある。高校時代に「ダニすらノミさえ柴刈りなど何度まで」という語呂合わせで覚えた。(だに、すら、のみ、さえ、し、ばかり、など、なんど、まで)。予想外のことであるといった意味を添える用法がある。 古典では、「三輪山を しかも隠すか 雲だにも 心あらなも 隠さふべしや」(万葉集巻1‐18額田王)のように、係助詞「も」を伴って使われた例がある。さらに、「ものいはぬ四方(よも)の獣(けだもの)すらだにも あはれなるかなや親の子を思ふ」(源実朝 金槐和歌集 雑 607)のように「すら」「だに」の2つの副助詞を連ね、かつ係助詞「も」を伴って使われた例もある。 現代語では「すらも」「さえも」「なども」「までも」といった形式が使われることがある。しかし、「だにも」の形式は、ありそうで、なかなかない用法だと思われる。その希少な用例を見つけた。 *************************** まさに私も、厚生労働省で仕事をしていたときに、まさか厚生労働省にここまでの納骨堂の機能みたいなものがあるということは、もう想像だにもしなかったわけであります。(平成24年3月7日 衆議院 - 厚生労働委員会での松浪健太議員の発言) *************************** 「だに」と「も」を切り離して「想像だにしなかった」「想像もしなかった」 のように、表現することができる。「想像すらもしなかった」「想像すらしなかった」「想像さえもしなかった」「想像さえしなかった」のように言うこともできる。にもかかわらず「想像だにもしなかった」という表現はなぜ希少な用例となるのか。 副助詞の「だに」は、「さえ」や「すら」に比べて使用頻度が低いのではないかと思われる。『新潮文庫の100冊』で検索してみると、「だに」が44例(「だにも」3例)、「すら」が290例(「すらも」36例)、「さえ」が2458例(「さえも」227例)あった。このことから推測すると、「だに」の使用頻度は「さえ」と比べると著しく低く、「すら」と比べてもかなり低いと言える。この低さが、「想像だにもしなかった」が希少な例であることを証明している。 (注)古典の本文は新潮日本古典集成『萬葉集一』同『金槐和歌集』によった。 (2013年5月16日) |
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