投稿日:2013年04月11日 (木) 05時12分
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第315回 言わずもがな
国語辞典に記載されている意味とは異なった意味で理解し、使用していた語があることに気がついた。「言わずもがな」である。 『大辞林 第3版』には、「@言う必要のないこと。むしろ言わない方がよいこと。『─のことを言う』A言うまでもないこと。もちろん。『大人は─、子どもさえ知っている』」と記述されている。この辞書の@の「むしろ言わない方がよいこと」という意味で使ったことはない。むしろ、「言う必要がないけれど、あえて言っておいた方がよいこと」という意味で使って来たと思う。 『デジタル大辞泉』には、「1(「の」を伴って連体詞的に用いて)言わないほうがよい。言わでもの。『─のことを言う』 2 言うまでもなく。もちろん。『英語は─、フランス語も話す』」と記述されている。ここでも「言わないほうがよい」という語釈が示されている。そして、用法も示してある。 「言わずもがなの」の形を国会会議録検索システムで検索してみると、平成20年4月2日から平成25年4月2日の間に39件ヒットした。
極刑でありますので、その執行については慎重の上にも慎重と、【言わずもがな】のことでございますが、(- 参 - 法務委員会 - 8号 平成20年04月15日) また、第一項においてあえて議院内閣制という言葉を用いておりますが、我が国が議院内閣制の国であるということは【言わずもがな】のことではないでしょうか。(- 参 - 内閣委員会 - 18号 平成20年06月03日) 予算編成時に政治、行政の世界で飛び交うシーリングなる符牒。【言わずもがな】の解説を加えれば、シーリングとは天井を意味します。(- 参 - 本会議 - 4号 平成20年10月03日)
これらの用例から、「言わない方がよい」といった意味合いを感じることはできない。「言う必要のないこと」「言うまでもないこと」という意味で理解しておけばよいと考えられる。 「言わない方がよい」と言った意味は、言われた側の気持を想定しているのではないかと思われる。しかし、発話者はその気持を想定していてもなおかつ発言しているのだから、あえて言っておいた方がよいと考えているのだと理解できる。 しいて考えるならば、発言した後で反省する気持ちを込めて、「これは言わずもがなのことだったかもしれません」と付け足すような場面が考えられる。 『デジタル大辞泉』にも『大辞林第3版』にも記述されている2番目の用法、「言うまでもないこと。もちろん」というのは、「なになには言うまでもなく」のような形で出現する場合が例示されているが、実際には「言わずもがなでございますが」「言わずもがなではありますが」のような述語的な用法として使われている。国語辞典における2つの意味・用法の区別は解消してもよいと考えられる。 (2013年4月11日) |
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