投稿日:2014年10月02日 (木) 05時03分
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第392回 ごす
動詞「くれる」の方言形に「やる」「くれてやる」「よこす」「だす」などがある。方言地図(佐藤亮一監修『お国ことばを知る方言の地図帳』p.140、小学館、2002年)でひときわ目立つ分布を示している語がある。「ごす」である。これは鳥取県と島根県に分布している。『標準語引き日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、2004年)の「くれる」の項を見ると、「ごす」の語形が山形県西田川郡・庄内、東京都御蔵島、新潟県下越、岐阜県恵那郡、岡山県・真庭郡、広島県・山県郡にも記録されている。また、「ごせる」の語が鳥取県と島根県石見に記録されている。これについては高校生1年生のとき、近隣の地域(当時、東伯郡泊村)からきていた同級生が使っていたことが記憶に残っている。 「ごす」の語源を推測してみた。『標準語引き日本方言辞典』に、「おくす」「おこす」「おごす」の語が挙がっている。これは「よこす」と関連があるだろう。そうすると、「ごす」は「よこす」が音変化して語頭の「よ」が脱落した語であろうと推測できる。「ごせる」は「ごす」と「くれる」が合成したものではないかと考えられる。 「ごす」は授受動詞一般の性質を受け継いでいる。受身、使役、可能の形式がない。希望の表現も難しい。丁寧の形式も内省では難しいと感じる。共通語では「くれます」が使えるのに対して「ごします」「ごしました」は違和感を覚える。(注)尊敬の形式「ごしなる」を使う。これを丁寧に言うと「ごしなるです」「ごしなったです」となる。「ごしなります」「ごしなりました」などとは言わないように思う。 命令は同等や目下に対しては「ごせえ(や)」、目上に対しては「ごしない(な)」である。 (注)『鳥取県のことば』(室山敏昭、明治書院、1998年)に「ゴシマスという言い方はない。」(p.96)と記述されている。 (2014年10月2日) |
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