投稿日:2013年10月03日 (木) 05時00分
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結わえる
向田邦子の「父の詫び状」を新潮朗読CDで聞いていて、自分ではあまり使わない言葉が耳に入ってきた。「結わえる」という動詞である。「結ぶ」とか「縛る」とか「たばねる」といった動詞と類義関係にある。原文は以下の通りである。
冬になると、風邪を引くという理由で、子供はお風呂は一晩おきであった。その代り、お風呂に入らない晩は湯タンポを入れてくれる。夕食が終って台所をのぞくと、祖母が草色の大きなヤカンから、湯タンポにお湯を入れていた。把手(とって)のついた口金を締めると、チュウチュウとシジミが鳴くような音を立てた。それを古くなった湯上りタオルで包み、子供用のは蹴飛ばして火傷(やけど)をするといけないというので、丁寧に紐でゆわえるのである。(向田邦子『父の詫び状』「子供たちの夜」文春文庫 2006年新装版第1刷、2013年9月15日第21刷 p.74)
「結わえる」という動詞を使った記憶はほとんどない。子どものころに使っていたかも知れないというかすかな記憶である。 この用例では、湯たんぽをタオルで包み、そのタオルがはがれないように紐でしばるということである。これに似た動作はしたことがあるけれど、そのことを言葉で表現した記憶がない。仮に口に出して言うとすれば「縛る」だろうか。 廃品回収のときに古新聞を出す。このとき、広報では、束ねてひもで縛るとか、束ねてひもで結ぶといった表現をしている。「新聞紙・雑誌は分けてまとめ、結わえてください」(軽井沢三沢パーク)、「新聞、雑誌、本、段ボール、牛乳パック それぞれひもで結わえる 発泡スチロール 結わえるか市販透明袋」(倶知安)のように「結わえる」を使った例もある。また、「新聞紙、雑誌類、ダンボール、飲料用紙パック、紙製容器包装の5つに区分し、それぞれひもで束ねてください」(熊谷市)のように、「結ぶ」ことを前提にしたもの、「(新聞は)袋に入れずにひもで結んで出してください」(盛岡市)のように、「束ねる」を前提にしたものなどもある。地域による差があるのかもしれない。 今の湯たんぽには袋状のカバーが付いている。驚いたことに「抱っこ湯たんぽ」といって、お腹の冷えを予防する、お腹にあてて使う湯たんぽもある。寝るときだけに使うものではなくなっている。 (2013年10月3日) |
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