投稿日:2013年09月12日 (木) 05時42分
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しちゃう
大阪の方言で「ちゃう」というのは「違う」という意味である。「ちゃうちゃう」と2度繰り返して否定したり、「チャウチャウちゃうんちゃうん」などと言ったりする。共通語のカジュアルな表現「しちゃう」というのは「してしまう」が縮約された形である。 カジュアルな表現であることから、フォーマルな発話場面では使用が抑制されるだろうと考えられる。フォーマルな発話場面と目されるものの一つに国会での質疑応答の発話がある。「しちゃう」はあまり使われないだろうと予想できる。 昭和22年5月20日の第1回国会から昭和32年12月31日までの約10年半の期間で検索すると583件出てくる。平成2年1月1日から平成11年12月31日までの10年間で検索すると2482件出てきた。格段の差があることが分かる。その途中の期間を調べてみると、昭和40年にヒットした「愛して愛して愛しちゃったのよ」(浜口庫之助作詞・作曲)や昭和41年にヒットした「困っちゃうな」(遠藤実作詞・作曲)以前と以後とで検索結果の数に差があった。ヒット曲以後は、それ以前と比べて倍増とも言えるほど増加している。平成に入っても、件数が減少する気配はない。 現在の国会における質疑応答で「しちゃう」の使用は当たり前だと思われる勢いである。昭和の時代に、どんな人がどんな使い方をしたのか、ちょっと調べてみた。 小川友三参議院議員(1904年生まれ、埼玉県出身)がたくさん使っていると思われた。昭和23年12月から昭和25年4月までの間に11件出てきた。「しちゃう」専用ではなく「してしまう」の形も使っている。 「生ましちゃう」「売っぱらっちゃう」「取れなくなっちゃう」「使っちゃう」「殖えちゃう」「対立をしちゃう」「外しちゃう」「取られちゃう」「下って来ちゃう」「干上がっちゃう」「怒っちゃう」「負けちゃう」「負かしちゃう」「落っちゃう」などである。「半年後に売ってしまう。売っちゃって自分の資産状態を零にしてしまう」「これを負けちゃう、切捨ててしまう」というような「しちゃう」と「してしまう」が共存する例も見られた。発話内容からみると、決してカジュアルだとは言えない。そんな状況で「しちゃう」が使われているというのは、「しちゃう」のどんな機能だと理解するのがよいだろうか。 余談ながら、面白い例に「正当防衛というようなことになってしまっちゃうんです」(昭和25年7月29日第8回国会、大蔵委員会、由井賢太郎議員)というのがあった。これは正しい用法とちゃう。 (2013年9月12日) |
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