投稿日:2013年05月23日 (木) 04時41分
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第321回 ありき
古語が固定化した慣用的な表現である。「き」は過去の助動詞で、直訳すると「あった」となるが、一定の議論や思考の過程を経ないで初めから決まっているということを表す。「結論ありき」「留学ありき」「残業ありき」などのように使う。たとえば「残業ありき」は、残業をするかしないかという議論や選択を抜きにして、残業するのは当然だとする考え方や状態を表す。 新潮文庫の100冊を検索すると33件ヒットする。石川啄木の『一握の砂』から16例、柳田国男の『遠野物語』から17例である。しかし、「山路にさそふ人にてありき」(一握の砂)とか「代々田尻家の奉公人にて、その妻と共に仕へてありき。」(遠野物語)のように、いずれの用例も擬古文とでも言うべき古い文体で書かれている。 国会会議録検索システムで検索してみると、以下のような例がヒットする。 ******************** 安倍内閣の提出した補正予算は、最初に額ありきで旧来型の公共事業を(平成25年2月26日 参議院本会議) 大飯原発の継続稼働とともに、再稼働ありきのトライアルともなっていく。(平成25年4月19日 衆議院原子力問題調査特別委員会) 国会事故調の記述は、非常に意図的に結論ありきで報告書を書いているようにしかみえませんとか(平成25年4月12日 衆議院予算委員会第七分科会) 政府、与党、野党を含め、もう消費税増税ありきで全てが動いていっているわけです。(平成25年3月19日 衆議院財務金融委員会) ******************** 以上の用例から、「○○ありき」という事態が好ましくないこととして使われていることが分かる。『デジタル大辞泉』の「ありき」の「補説」に「『結論ありきの審議会』などの用法は、結論は既に決まっており審議会は形式に過ぎないの意である。」と説明されていることと符合する。このことが、「まず○○ありき」「最初に○○ありき」「初めに○○ありき」「既に○○ありき」といった表現の枠の中で使われる例が目立つこととも関連している。 (2013年5月23日) |
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