投稿日:2012年12月27日 (木) 05時11分
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第300回 不徳の致すところ
「致す」という動詞は、「お願い致します」「ご用意致します」のように謙譲の補助動詞として使うことはよくある。本動詞は「する」の謙譲語として使われる。「改善を致します」「おもてなしを致します」などのように。補助動詞も本動詞も、たいていの場合「ます」を付けて丁寧に表現する。改まった場面では「お願い致しているところでございます」とか「改善を致す所存でございます」のように、文末の部分を丁寧に表現することもある。 「致す」にはこのほかに、本動詞として「思いを致す」とか「不徳の致すところ」のような表現がある。どちらも自分ではめったに口にすることはないけれど、政治家の口から聞かれることがある。 「思いを致す」というのは「物事に対し心を向ける」(デジタル大辞泉)ことである。「ちょっとふるさとに思いを致しちゃった」などとふざけて言うことはあるだろうけれど、基本的にはフォーマルな場面での発話に使われる。 「不徳の致すところ」については、まず「不徳」とは「身に徳の備わっていないこと」(デジタル大辞泉)である。そもそも我が身に「徳」が備わっているなどと考えたこともない。なので、「不徳」だらけである。次いで「致す」。この場合は「思いを致す」の場合とは用法が異なっている。不徳がなんらかの結果を引き起こすという意味合いであり、他動詞的な用法である。ただし、目的語を表すわけではなく、「不徳が致す」といった、特殊な構文を持っている。たいてい「ところ」という形式名詞を修飾する形で用いられ、「不徳が致した」のような叙述形式では用いられない。「不徳の致すところ」あるいは「不明の致すところ」のような慣用的な表現として用いられる。 先日行われた衆院選挙で落選の憂き目を見た候補者の談話に用いられていた。 *************************** 大阪では“ビッグネーム”が軒並み落選。現職閣僚の藤村修官房長官(7区)、樽床伸二総務相(12区)のほか、民主政権の初代官房長官を務めた平野博文氏(11区)も議席を失った。「不徳の致すところ。真摯(しんし)に反省し、受け止めなければならない」。力なく語るのがやっとだった。 http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/121217/waf12121711440057-n1.htm *************************** 政治家は、自分に徳が備わっていると思っているのであろうか。思っているからこその「不徳」なのだろうか。平凡な庶民には縁遠い言葉である。 (2012年12月27日) |
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