投稿日:2012年11月29日 (木) 04時58分
|
第296回 腹合わせ
ずっと気になっている語がある。「腹合わせ」だ。これを動詞にして「腹合わせする」の形で使われている。 まず国語辞典で引いてみると「腹合わせ帯」の略と出てくるのが一般的だ。それを引いてみると「昼夜帯」に同じとあって、そこまで内容が分からない仕組みになっている。「表と裏を異なる布で仕立てた女帯。もと、黒ビロードと白繻子(しろじゅす)とを合わせて作られたところから、白と黒を昼と夜にたとえてできた語。」(デジタル大辞泉)しかし、この語は動詞として使われることはない。 そもそも「腹合わせする」という表現を知ったのはウエブの記事でだった。 ************************ 首相は人事について、26日投開票の自民党総裁選、国連総会の日程を踏まえ「外交日程、政治日程が終わったときに社会保障・税一体改革に関する3党合意を確認し、スケジュール感を腹合わせするところからスタートだ」と述べた。(2012.9.16 11:09) (http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120916/stt12091611160004-n1.htm)
首相は「(自民党総裁選に立候補している)5候補は3党合意を守ると言っている」と指摘。そのうえで「スケジュール感の腹合わせからスタートではないか。赤字国債発行法案や選挙制度改革関連法案などをどうやって解決していくか、党幹部間の腹合わせの会議が必要だ」と述べた。(2012/9/16 10:54) http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS16002_W2A910C1000000/ ************************ いずれも野田首相の同じ談話を報道したものと思われる。考え方や意見を調整するといった意味合いが読み取れる。しかし、普通の小型辞書には記載されていない意味である。そこで、大きな国語辞典である『日本国語大辞典』(小学館)を引いてみた。 ************************ @向かいあうこと。対座。A心を合わせること。B抱きあうこと。また、情交を結ぶこと。C九州で、鰯網の漁船員が勢ぞろいして酒盛りをすること。また、青年などが正月の寄り合いで祝宴を張ること。D「はらあわせおび(腹合帯)」の略。 ************************ このうちのAの意味が近いのではないかと考えられる。 さらにこんな記事もあった。 ************************ (野田首相は) 「3党合意をどう実現していくのか(代表再選後に)腹合わせをし、スケジュール感を考えていく」と強調した。(9月20日01時34分 読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/news/20120920-OYT1T00109.htm?from=top ************************ これも野田首相の発言に出てくる用語だ。しかし、『日本国語大辞典』のAの意味「心を合わせること」とは違うだろう。先にも指摘したように、考え方や意見を調整するという意味で理解するとストンと分かる。 ちなみに、さらに検索してみると2012年1月11日の、次の記事がヒットした。 ************************ [東京 11日 ロイター] 藤村修官房長官は11日午前の会見で、今月中に召集される予定の通常国会に向けた政府・与党の態勢作りについて「あす政府民主三役会議を開き、腹合わせする」と語った。(中略) 野田首相は8日、13日の閣議に閣僚全員の出席を求めたことに関連して「なるべく早く心を合わせてしっかりと体制を作っていく意味で、閣僚全部に集まってもらう」と語り、 http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPTK070211620120111 ************************ 藤村官房長官も「腹合わせ」を使っている。となると、民主党内部では通用語となっているのか。あるいは野田首相の言葉を受けて官房長官が談話を発表したのか。詳細は分からない。この記事で野田首相は「心を合わせて」と言っている。これは『日本国語大辞典』のAの語釈である。官房長官の言葉と表裏の関係にあるのだろうか。 いずれにしても、それほど一般化していないと考えられる言葉を公の場で使うのは情報の内容を的確に理解する妨げになる。 (2012年11月29日)
|
|