投稿日:2012年11月22日 (木) 04時38分
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第295回 まどう
生まれてから約19年間暮らした故郷である鳥取県倉吉市の方言の単語を思い出した。「まどう」である。意味は、弁償すること。 『都道府県別全国方言辞典』(佐藤亮一編、三省堂)のCDを聞いていて、香川県の部で「おもちゃめいだらまずわないかん」という表現を聞いた。倉吉の方言とよく似ている。倉吉弁では「おもちゃめえだら、まどわないけん」と言う。香川県では「まずう」と言うのが基本形のようだ。また、福島県では「わぁでぼっこしたガラスだからまよえよ(自分で壊したガラスだから弁償しろよの意か)」のように「まよう」と言うようだ。 『日本国語大辞典』(小学館)には方言としての意味が「@人の物を失ったり損じたりした時、それを元どおりにして返す。弁償する。」「A借金を返す。」と説明してある。@の意味での用法は、秋田市、新潟県東蒲原郡、石川県石川郡、福井県敦賀、尾張、滋賀県、京都、大阪、兵庫県、和歌山市、鳥取県、島根県、隠岐、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県、対馬、五島、熊本県南関、大分県で観察されている。清音の「まとう」は富山県と奈良県である。北陸から近畿、中国、四国、九州北部にかけて分布していると言える。 『日本国語辞典』には「惑う」との関係や語源についてはなんら言及されていない。ただ、『和訓栞』(江戸時代後期)の記述を次のように引用している。 ************************ 「まどふ <略>俗に金銀諸物に就て借て損したるを本のことくするをまどふといふも迷はしたる物を還すよりの詞なるべし賠償の意なり」 ************************ このことは弁償する意の「まどう」が「惑う」と関係していると江戸時代には意識されていたことをうかがわせる。福島県の「まよう」との関連もうかがわれる。 倉吉の方言としての用法は、故郷を離れて40年以上にもなる今ではおぼろな記憶しか残っていないけれど、弁償してくれという意味で「まどえ」と言っていたように思う。 (2012年11月22日) |
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