投稿日:2012年08月23日 (木) 04時49分
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第282回 女子大生の日
8月16日は女子大生の日だそうだ。由来を調べてみた。 大正2年(1913)8月16日、東北帝国大学(現在の東北大学)が4人の女子の受験を認め、3人の合格を発表した。今から99年前のことである。 ところが、この当時はまだ女子大生という用語はなかった。学生といえば男子だけの時代である。そこへ女子が入ってきたのだから女子学生という用語が生まれてもよさそうだ。しかし、女子学生という用語がいつから使われだしたのかははっきりしない。 女学生というのは旧制の高等女学校の生徒のことであるから、大学に学ぶ女子の学生ではない。筆者が大学生だった1969年から1973年の期間に女子大生という用語が使われていたり実際に使っていた記憶が乏しい。女子学生と呼んでいたと思う。 そこで、『新潮文庫の100冊』を検索してみた。 「女子学生」は1950年代から1960年代の6作品に使用が見られた。大江健三郎『死者の奢り』(1957年)『飼育』(1958年)、吉行淳之介『砂の上の植物群』(1964年)、倉橋由美子『聖少女』(1965年)、石川達三『青春の蹉跌』(1968年)、五木寛之『風に吹かれて』(1968年)。1970年以降では渡辺淳一『花埋み』(1970年)、藤原正彦『若き数学者のアメリカ』(1977年)、曾野綾子『太郎物語・大学編』(1976年)、宮本輝『錦繍』(1982年)の4作品に見られた。 一方、「女子大生」は1970年代と1980年代の5作品に見られた。立原正秋『冬の旅』(1975年)、曾野綾子『太郎物語・大学編』(1976年)、筒井康隆『エディプスの恋』(1977年)、宮本輝『錦繍』(1982年)、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)である。 これを見ると、女子学生は1950年代から1960年代に使用され、女子大生は1970年代半ば以降に使用されていることが分かる。したがって、筆者の記憶もあながち曖昧だとは言えないということになろう。『太郎物語・大学編』と『錦繍』には女子学生、女子大生両方の語が使用されていることも興味深い。 ところで、一つ気になることがあった。『花埋み』は日本で初めての女性の医師、荻野吟子(1851-1913)をモデルにした作品だが、文中に「飛ぶ鳥落す勢いの森有礼に一介の女子学生が体当りしたのだから、その意気だけは買わなければならない。」とあり、女子学生の語が使われている。しかし、荻野吟子は私立の医学校を出て医師になったのであり、女子の大学生ではなかった。筆者の渡辺は、用語の時代考証はしないで自身になじみのあった女子学生という用語をこの作品で使用したものと考えられる。 (2012年8月23日) |
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