投稿日:2012年07月05日 (木) 05時35分
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「おもんばかる」と「おもんぱかる」
当て字といえば、ダイヤモンドを金剛石と書き、オルガンを風琴と書き、クラブを倶楽部、カタログを型録と書くような、外来語に漢字表記を当てるものが思い当たる。これ以外にも、漢字の訓読みは、漢字が表す意味を和語で言い換えたものであって、一種の当て字と言えるだろう。 山を「やま」と読み、水を「みず」と読むことはほとんど誰でも知っている。陽炎とかげろうはどちらが先にあったのだろう。和語のかげろうの意味を陽炎と当て字したのだろうか。逆に、陽炎をかげろうと読んだのだろうか。 昆虫のかげろうは「蜻蛉」と書く。音読みするとセイレイ。証拠はないけれどセイレイと読む蜻蛉にかげろうという訓読みを与えたのではないかと思う。国語辞典によると、昆虫のかげろうは《飛ぶ姿が陽炎(かげろう)の立ちのぼるさまに以ているところからの名》(デジタル大辞泉)と説明されている。陽炎が蜻蛉になったということである。なかなか興味深い発想だ。今日ではこのような連想は思い浮かばないだろう。 ところで今回のテーマの「おもんばかる」である。「慮る」と書いて「おもんぱかる」と読むものだと、長年信じていた。ところが新聞記事にこう書いてあって驚いた。
冒頭、首相は「ねじれ国会の中で今を生きる国民のために、あるいは将来世代をおもんばかって、大きな改革の第一歩を踏み出せたことは大きな意義がある。何としても今国会中に成立させたい決意だ」と述べた。http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120626-OYT1T01030.htm?from=main1
野田首相の発言として引用してあるということは首相自らが濁音で「おもんばかる」と言ったということであろうか。それならば、発話を忠実に文字化したということになる。濁音で「おもんばかる」という言い方があるのか思って国語辞典で「おもんぱかる」を参照してみると、驚くことに《「おもいはかる」の音変化。古くは「おもんばかる」》(デジタル大辞泉)と書いてあったのである。半濁音の「おもんぱかる」ではなく濁音の「おもんばかる」の方が古い形式だったというのだ。 これからは、「慮る」って、訓読みが難しいね、今は「おもんぱかる」って読んでるけど、古くは「おもんばかる」って、濁音で発音していたらしい、と説明することにしよう。 (2012年7月5日) |
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