投稿日:2012年06月21日 (木) 04時39分
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第273回 からまわる
この語は通常、国語辞典には登録されていない。しかし、最近読んだ小説の中に2回使用されていたので取り上げてみることにした。 動詞の連用形が派生名詞になる例は多い。光(光る)、曇り(曇る)、畳(たたむ)、通り(通る)など。 二つの動詞が結合した複合動詞が派生名詞を作る例もある。「とおりがかり(とおりかかる)」「きがえ(きかえる)」がその例である。 動詞「まわる」を後項に持つ複合動詞を並べてみる。
あばれまわる、あるきまわる、うごきまわる、およぎまわる、かぎまわる、かけまわる、ころげまわる、さがしまわる、つけまわる、でまわる、とびまわる、にげまわる、のたうちまわる、はいまわる、ふれまわる、みまわる、もちまわる、あばれまわる、あるきまわる、うごきまわる、およぎまわる、かぎまわる、かけまわる、ころげまわる、さがしまわる、つけまわる、でまわる、とびまわる、にげまわる、のたうちまわる、はいまわる、ふれまわる、
これらは具体的な動作を表すことが中心的な用法である。「でまわり」「ふれまわり」「とびまわり」などと言わないことはないけれど、動詞の用法が基本だろう。ただ、「みまわり」「もちまわり」は普通に使われる。 一方、後項が「まわり」の形で名詞になる例も多い。
うちまわり、そとまわり、おおまわり、こまわり、かねまわり、くびまわり、こしまわり、どうまわり、むねまわり、みぎまわり、ひだりまわり、さきまわり、とおまわり、ちかまわり、とけいまわり、みずまわり、よまわり、りまわり、とくいさきまわり、ねんしまわり
これらは前項要素が名詞であり、「さきまわる」というような動詞としての用法はまれである点が特徴的である。ただし、前項が動詞の「みまわり」「もちまわり」は例外である。 このように見てくると、「からまわる」という語は異例であることが分かる。『日本国語大辞典』には、初版(45万項目)にも第二版(50万項目)にも登録されていない。 小説で見かけた用例は次のものである。
漢文を書いたつもりはないが、文章がやや硬すぎたようだ。思いのたけをこめた、しかも思いが空回って無用に難解になってしまった手紙を、当事者以外にも読まれたとは。馬締は恥ずかしくなった。(三浦しをん『舟を編む』p.93) それは、真剣かつ滑稽なラブレターだった。妙に漢字が多い。文章もぎこちなく、当時の馬締は相当緊張していたようだ。どうにかして相手に心を伝えたいと願うあまり、空回ってわけのわからないことになっている。(三浦しをん『舟を編む』p.183)
もっとも、この小説には「からまわり」も1例ある。
このラブレターを読むかぎりでは、馬締はちっとも言葉を使いこなせていない。不器用で、熱意が空回りしてしまっている。(三浦しをん『舟を編む』p.185)
「からまわる」は、作者独自の用法だろうか。あるいは一部ではすでに使われていて、この作品に2例も現れたのだろうか。 (2012年6月21日) |
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