投稿日:2012年06月14日 (木) 04時52分
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第272回 見え消し
最近、会議で聞く用語である。例えば要項の変更を行う場合。前年度の要項が示され、そこに二重線を付し、右隣に変更後の文言を書き入れた資料が配付される。委員長が説明する際に「見え消しになった部分を、記載のように変更する」のように言うのである。初め、委員長の言い間違いかなと思っていた。検索してみると「見え消し」という用語はヒットするから、言い間違いではないようだ。 自分自身が国文科の出身だからだろうか、40年以上にわたって「見せ消(け)ち」という用語を使い続けてきている。国語辞典には「見せ消ち」はあるが、「見え消し」はまだ登録されていないようだ。『デジタル大辞泉』では「見せ消ち」を「誤写・誤記の文字の訂正のしかたの一。写本などで、もとの文字が読めるように、傍点をつけたり、その字の上に細い線を引いたりするなどして、誤りであることを示す。」と説明している。 「見せ消ち」もそうだが、この「見え消し」方式による修正は、修正前の字句があって分かりやすい。しかし、新たな加筆による修正の場合は見え消し方式は使えないから、太字にしたり斜体にしたり下線をつけたりするといった別の方法を取ることになる。さらに、規程や計画案などでは新旧対照方式で左欄に旧規程等、右欄に新規程等を記してある。この方式では加筆修正の部分がはっきりする。しかし、表組みにするために大きなスペースが必要になり、無駄も生じる。 見え消し方式にせよ新旧対照方式にせよ、結果的になんらかの定稿ができるわけだが、それは「溶け込み方式」とか「溶け込み版」などと呼ばれているようだ。かりにこのような方式のものが修正案として出されたとすると、どこがどのように変更されているのかわからないから、審議に手間取ることも考えられる。字句の修正が一度で終わればいいけれど、複数回繰り返されることもないわけではない。このようなことを考えると、見え消し方式にも意味があると思える。 かつて手書きでレポートや論文を書いていた時代にはこの見え消し方式で書き直すことを繰り返していた。完全に消し去るのは、アイデアを消し去るように思えて、もとの用語が見える形で残しておきたかったのだ。ワープロで文書を作成するようになってからは、バージョンが変わるごとにプリントアウトして保存する方法を取っていた。推敲の過程が残り、判断のゆらぎを振り返ることもできる。 (2012年6月14日) |
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