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| 名前 |
MUTUMI
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| 題名 |
9 |
| 内容 |
覆われた腕の下からポロリと涙が零れた。 「……マイ」 (間に合わなくてごめんな。側にいるって誓ったのに、腑甲斐無くてごめんな。アイリス、ルア……僕のせいで死なせてしまって……、想像出来た事なのに。戦争が終わったら、勝者の間で勢力争いが起こるってわかっていたのに……、僕はそれを甘く見過ぎた。マイが……処刑される可能性も理解していたのに。僕は……) 唇を噛み締め、一矢は嗚咽を無理矢理呑み込む。 (何も……出来なかった) 胸の中に沸き起こるのは果てのない絶望、そして後悔。それが誰に向けられたものなのか、最早一矢にも釈然としない。マイになのか、アイリスやルアになのか、それとも自分になのか。 ただ押しつぶされそうな程の心の闇と、傷を何時も新たに自覚する。傷口に自分で塩を塗るような不毛な行為である事を、常に思い知る。 (……もういい加減に吹っ切ろう。過去を変える事なんて誰にも出来ない……。マイはもういない。この世界のどこにも……居ないんだから) それは何時もの暗示だった。一矢が底なしの闇から意識を切り離す為に行う、自己暗示にも似た思考の連続。深く息を吐き出し、滲んだ涙をゴシゴシと腕で擦る。灰色の服の袖が水に濡れて黒く変色した。少しだけ赤くなった目で、一矢はぼんやりと天井を眺める。その目はどことなく虚ろだった。 |
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[28] 2005/08/01/(Mon) 00:58:56 |
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