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連載小説『ディアーナの罠』

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名前 MUTUMI
題名 57
内容 (どうにかして足留めしないと!)
 焦りながらメイファーは思考を巡らせた。だから、それに対する反応が遅れてしまったのだ。
「メイファ!!」
 気が付けば先を走っていたはずのテリーが、メイファーを横抱きにして屋上を転がっていた。
「!?」
 メイファーとテリーは、雨に濡れたコンクリートの上を二転三転し、給水パイプの影に逃げ込む。メイファー達を追う様に、雨の中をレーザーの光が走った。
 ヒュン、ヒュン。ヒュン。
 短い連続音が響く。テリーの腕の中でメイファーは状況を確認した。どうやら狙撃されたらしいと気付き、共犯者の存在に愕然となる。
(援護者がいるの!? それもスナイパーが!?)
「最悪……」
 小声で呟き、先程からメイファーを抱えたままピクリとも動かないテリーを顧みる。
「テリー、不味いわよ。スナイパーがついてるみたいよ。……え? ちょっとテリー!?」
 メイファーが思わず悲鳴をあげた。テリーは体を丸め、必死で苦痛を堪えていた。メイファーを庇った為だろう、テリーの左肩は被弾していた。血が雨に流され赤い水溜まりをつくる。真っ赤な血が止めどもなく流れていた。
「嘘……、しっかりしてよ!」
[78] 2005/10/03/(Mon) 23:17:11

名前 MUTUMI
題名 56
内容  水に濡れた視界と、ドバドバと降り注ぐ雨が髪に張り付いて気持ち悪かった。幾ら制服が水を弾くと言っても限度がある。スーツの隙間から水滴が入り込み皮膚を濡らす。張り付く下着が気持ち悪い。
(これが終わったら、即シャワー行きだわ)
 悪態をつきながら、メイファーは逃げた男を追い掛ける。遠くでゴロゴロと独特の音が鳴った。
(やだ、雷? もう、冗談抜きで嫌な天気!)
 黒雲の中で光が瞬く。ゴロゴロと響く音を聞きながら、メイファーは水たまりの中を走った。男が再び柵を飛び越え、階下のビルに飛び降りる。
(段々と地上に近付いているわね。この先に仲間がいるのかしら?)
 そう考えると舌打ちしたくなった。男の先回りをしようにも、人員不足で間に合わない。応援にロン達が駆けつけたとしても、到底確保するのは無理だろう。それを理解しているだけに、無性に腹がたった。
(人手不足も大概にしてよーーーーっ!)
 思いっきり叫びたい。悪態をついて誰かに当たってしまいたくなった。
[77] 2005/10/01/(Sat) 20:40:09

名前 MUTUMI
題名 55
内容 「くそ。絶対に追いついてやる!」
 テリーは一層ヒートアップした。メイファーはその横を走りながらポケットに手を入れ、携帯型の通信端末を取り出す。
「取り敢えず、ロンに応援を頼むわ」
「オッケー」
 言い様、前方に迫った壁を乗り越え、テリーはビルの屋上から飛んだ。メイファーもその後に続く。割と平坦なコンクリートの上を走りながら、メイファーはロンを呼び出した。ロン・セイファード捜査官は2コールで出た。
『どうした?』
「応援をお願い」
『そっちにいたのか!?』
 ロンの勢い込む声が通信機から響く。
「顔は確認していないけど、恐らくネロ・ストークに違いないわ。現在テリーと追跡中。こちらの現在地は、通信を開きっぱなしにしておくから、そっちで逆探して確認して頂戴」
『?』
「ビルの屋上にいるんだけど、指名手配犯がビルからビルに飛び移るから、今どこにいるのかさっぱりなの」
『ビルからビルだって!? まさか高層ビルの屋上じゃあないだろうな!?』
「中層ビルよ。どっちにしろ落ちたら死ぬかもね」
『…………わかった。分析してすぐに行く。気をつけろよ』
「了解。急いでね」
 通信をつないだまま、端末を再びポケットにしまい、メイファーはずぶ濡れになりながら走った。その直ぐ前をテリーが走っている。
「直ぐに来るって!」
「おお!」
 雨の中、大声で返事が返って来る。
[76] 2005/09/30/(Fri) 19:13:27

名前 MUTUMI
題名 54
内容  コンクリートのジャングルを二人は走る。追われる方の男は、ビルからビルへと飛び移り、二人を嘲笑うかの様に翻弄した。先を行く男との距離は一向に縮まらない。
「畜生、あいつ足が早いな」
「文句を言ってないで走るの!」
 後を追う二人は、降りしきる雨に視界を奪われそうで気が気ではなかった。今は辛うじて男の背中が視界に映るが、この追跡が長引けばどうなるかはわからない。二人は物凄く焦っていた。
「迂闊だよな。レーザー銃を拾うのを忘れるとは」
「右に同じ」
 走りながら二人は共に後悔した。テリーは男と乱闘になった時に取り落とした事を、そしてメイファーは側壁に叩き付けられた時に手放してしまった事を。
 二人とも飛び道具がないのだ。これでは、遠距離から威嚇攻撃をする事も出来ない。最早じみちに追いついて、取り押さえるしか方法がなかった。

[75] 2005/09/29/(Thu) 20:21:41

名前 MUTUMI
題名 53
内容  尻餅をついたまま叫ぶ。切れた唇の血を拭いながらテリーが素早く立ち上がった。
 乱闘していた相手は嘲笑うかの様に二人に背を向け、屋上の鉄柵をひょいと乗り越える。そしてそのままジャンプして、屋上から地上へと飛び下りた。
「え!?」
「飛んだ?」
 二人は慌てて雨の中を鉄柵まで走る。男が飛び降りた場所から地上を見下ろすと、今いるビルより少し低いビルの屋上が見えた。男はその屋上を走っている。
「逃がすか!」
 テリーも男と同じ様に鉄柵を乗り越え、隣のビルに飛び下りる。その後にメイファーも続いた。雨の中、逃げる男を二人の刑事が追う。バシャバシャと、屋上にたまった雨水が白濁した水しぶきをあげた。
[74] 2005/09/27/(Tue) 21:03:03

名前 MUTUMI
題名 52
内容  焦りながらも見ている事しか出来なかった。男とテリーの乱闘は増々激しくなっていく。雨に濡れたコンクリートの上を、二人は二転三転し、転げ回った。
 バキ、ボキと肉を打つ音や、床に叩き付けられる音が微かに聞こえて来る。とてもじゃないが、メイファーの介入出来るレベルじゃない。
(もう! どう介入したらいいのよ! 乱闘に参加しても私じゃ吹き飛ばされるだけだし!)
 イライラしたがとりあえず、乱闘中の二人に向かって叫んでみる。
「そこまでよ! 観念して離れ……」
 なさい!と叫ぼうとして、吹き飛ばされたテリーと正面衝突する。
「うきゃぁ」
「!」
 メイファーの方は悲鳴を上げ、テリーの方は無言のまま二人は仲良くぶつかった。テリーの大きな体を受け止めたまま、メイファーの足が屋上のコンクリートの上を滑る。
 ゴウン。
 側壁にぶつかる音が聞こえた。咄嗟に体を丸め背中で衝撃を受け止めたが、テリーと二人分の重みは相当にきつかった。
「……っう! ……かは!」
 圧迫された肺が空気を求める。ズルズルと体が崩れた。仲良く崩れながらもテリーが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「悪い」
「し、下敷きのお代は、高く……つくんだ、からね!」 
[73] 2005/09/24/(Sat) 22:28:33

名前 MUTUMI
題名 51
内容 「悪い、先に行く」
 言い置いてテリーの背中が階上へと消えた。
(相変わらず体力馬鹿なんだから!)
 大きな背中を見送りながら、メイファーは愚痴めいた思考に囚われる。
 射撃の腕はメイファーの方が上だが、格闘などの基礎体術はテリーの方が上だ。勿論、基礎体力も男性であるテリーの方がメイファーを凌駕していた。それ故にメイファーの中では、テリーの位置付けは体力馬鹿となっている。
(こういう時って物凄く悔しいわ。いつもは同等なのに……。この事件が終わったら、基礎トレーニングを目一杯こなすんだから!)
 密かに闘志を燃やすメイファーだった。
 テリーにおくれること数秒、屋上に辿り着いたメイファーは意外な光景を目にする。
 開け放たれていた扉を抜けると、降りしきる雨の中で黒っぽい上下の服を着た男と格闘するテリーの姿があったのだ。格闘する二人から少し離れて、支給品のレーザー銃が落ちている。どうやら揉み合いになり、テリーの手から離れてしまったらしい。
「テリー!」
 男に向かってレーザー銃の狙いをつけるが、目まぐるしく入れ代わる動きに狙いが定まらない。少しでもそれればテリーに当たってしまうのだ。メイファーは撃ちたくとも撃てなかった。
(駄目だ! 狙いが定まらない!)
[72] 2005/09/22/(Thu) 17:41:57

名前 MUTUMI
題名 50
内容  テリーの苦笑いを視線で抹殺し、メイファーは階上に注意を向ける。カタンとどこかで小さな音がした。
(音!)
 ハッとメイファーとテリーが顔を見合わせる。
「今のどこから?」
「もっと上だ。……最上階?」
 疑問符付きではあったが、テリーが推論を口にした。メイファーもそんな気がする。
「一気に駆け上がるぞ、メイファ」
「オッケー!」
 二人は並んで階段を跳ぶ様に駆け上がった。二段飛ばしなんて当たり前、テリーなど脅威の三段飛ばし走法だった。少しづつメイファーとテリーの間に差が開いて行く。
[71] 2005/09/21/(Wed) 22:02:48

名前 MUTUMI
題名 49
内容  カビ臭い階段にも複数の足跡が残っていた。なるべくそれを踏まない様に、後で現場検証をする可能性もあるからだが、二人はゆっくりと階段を昇る。
(まだ気配がない……)
 慎重に動向を探っていたメイファーが、あまりにも静かなビルに考え込む。
(静か過ぎる)
 何もないと却って猜疑心が強くなるようだ。抵抗もない事に落ち着かなくなる。
(罠? それともダミー?)
 すがめた目を階段の先へと向ける。そんな時、
「あ」
 テリーのちょっと間の抜けた声がした。人差し指を唇に当て、メイファーは黙れと言うゼスチャーをする。テリーは両手を顔の前で合わせた。ごめんなさいのポーズである。
(何よ?)
 クイクイとテリーの指が自分の足下、階段のステップの側面を差し示した。そこには壁に埋もれる様に、小さな突起が出ている。
「悪い。これ探知レーダーだ」
 見事にテリーの足が探知範囲に引っかかっていた。メイファーは額を押さえる。
「……居場所を知らせてどうするのよ」
「アハハ……。済まん」
[70] 2005/09/20/(Tue) 22:52:30

名前 MUTUMI
題名 48
内容 (突入は時間との勝負!)
 訓練過程で教わったフレーズを思い出し、メイファーはビルの中へと分け入った。どこから攻撃がくるかもわからないので、慎重に足を進める。汚れた廊下には、土痕のついた足跡が幾つもあった。
(どこ?)
 一歩、一歩メイファーが歩む。半開きになっていたドアをそっと開き、中の様子を確かめる。部屋の中には家具はなく、空虚な空間が広がっていた。人のいた痕跡はどこにもない。
(ここは外れ。……次)
 心の中でバツ印をつけ、隣の部屋を当たる。同じ様に中を調べ、メイファーはビルの中を一つ一つ順番に見て行った。
(一階は全部外れか)
 階上へと続く階段を眺めていると、
「メイファ」
 押し殺した小さな声が背後から聞こえた。
「遅いわよ、テリー。一階は全滅よ。上に行って見ましょう」
「ああ」
 メイファーの横に並んだテリーが頷く。二人はゆっくりと、慎重に階段を昇って行った。
[69] 2005/09/18/(Sun) 20:03:19






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