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| 名前 |
MUTUMI
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| 題名 |
67 |
| 内容 |
「……言ってるし、思ってるし」 むうと頬を膨らませながら、一矢はケースを受け取った。 「気のせいですよ」 人を喰ったような表情を浮かべ、ボブは倒れ気味だった女性の上半身を支え直した。ボブの胸に女性の頭が当たる。 一矢はパカリとケースを開け、手早く目的の物を取り出した。小さな瓶のキャップを回し、中の液体を半分だけ女性の足へ振りかける。薬品が傷に染みたのだろう、ピクンと投げ出されていた足が微かに痙攣を起こした。 「意識があったら絶叫されてるかな」 「……されてますね」 女性の力無い上半身を抱えたまま、ボブが一矢の言葉に応じる。互いにこれがまともな治療では無い事を承知しているので、余計に後ろめたい気がした。 「麻酔なしで患部へ消毒剤を振りかけられたら、誰だって泣き喚きますよ」 「……」 一矢は軽く肩を竦めると、残りの消毒剤を脱脂綿へと振りかけた。適度に濡らし、傷口やその周りを丁寧に拭う。黙々と手を動かしつつ、 「……この傷、きっと残るね」 ほんの少し気掛かりな調子でそう漏らす。 「そうですね」 「女の人なのに……綺麗な足なのに。可哀想」 真っ赤に染まった脱脂綿を投げ捨て、一矢は止血効果のある薬剤のフィルムやガーゼを当て、クルクルと包帯を巻いた。適度な力を加え、患部を押さえる様に治療を施す。白い包帯が何とも痛々しかった。 「ここで出来るのはここまでだ。縫合も、薬も投与出来ないし……、シズカまだかな」 使わなかった薬剤や注射器をケースの中へ戻し、一矢はボブのポケットにそれを捩じ込んだ。 |
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[88] 2005/10/21/(Fri) 19:03:50 |
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