| [95] 黒いかるた A |
- 千佳 - 2007年01月07日 (日) 00時05分
場所は変わって。 「何で俺の部屋なんだ?」 「まーまーいいじゃん。どーせ同じ造りだし」 「もしこの部屋がめちゃくちゃになったら、僕の部屋で寝かせてあげますよ三蔵」 「あ!八戒ずりぃ!」 「抜け駆けは許さへんで眼鏡はん」 「……どうでも良いからさっさと始めろよ」
「読み手はガトでええやろ?やっても面白なさそうやし」 「かまいませんよ?それじゃ、始めましょうか」 こうして、かるた大会がスタートしたわけだが、そのかるたの黒色は、まるで彼らの未来をあらわしているようであった―――。
「『猿も木から落ちる』」 「はいっ!」 すぱーーん テーブルやソファを全て隅に押しやって無理矢理作った会場に、早速一枚の札が華麗に宙を舞った。 モノクルの奥で、碧緑の瞳が光る。 念のために言うが、これは百人一首ではい。 「……早くねぇ?」 「……てか、かるたって叩いて飛ぶモンなのか?」 「……あなどれねぇ……」 三人が囁き合う中、空中で青と緑の視線がぶつかった。 「……なかなかやりますな、眼鏡はん」 「ええ、結構得意なんですよこういうの。ヘイゼルさん、苦手なんだったらハンデつけましょうか?」 「そうやって調子乗ってはると、後で痛い目見ることになるで」 「おや、親切にご忠告ありがとうございます。あまりためになるとは思えませんけどね。あはははは」 「ふふふふふ」 空気の張り詰めた宿屋の一室に、和やかな笑い声が虚しく響く。 「……お、俺、帰っていい?」 「逃げる気か、猿」 「お前も道連れだっ」 夜は、長い。
「『河童の川流れ』」 「「はいっっ!!」」 すぱぱーーん 「ぅおわっ!?」 飛んできたかるたを慌てて避ける悟浄。 一瞬遅れて、背後でカッという鋭い音がした。 「今のは、うちの方が早かったみたいどすな」 にやりと笑って、ヘイゼルが壁に突き刺さったかるたを取る。 「くっ……」 人を小ばかにしたような笑みに、八戒が悔しそうに歯軋りした。 途中結果は、ヘイゼル・20枚、八戒・20、悟空・2枚、悟浄・1枚、三蔵・0枚。 三蔵などは、5枚目あたりからやる気をなくしていたが。 「次が、最後の一枚ですね……」 「………………」 残っている札は2枚。 最後の一枚は無効となるので、次の札を取ったものが勝者となる。 「………読むぞ」 こくっ 正座し、片腕を上げた状態で、大の男二人が真剣に頷く。 辺りには、ガラスの破片(?)や木片(??)や血(!?)が飛び散っており、かなり異様な光景だ。 悟浄と悟空は、勝負に勝つためではなく、自分の身を守るために、二人からできるだけ距離をとっていたが、狭い室内では一歩後ずさるのが限界だった。 「「……帰りてぇ……」」
「『豚に真珠』」 「「はいぃっっ!!!」」 どごんっっ!! びしっ 「「ぎゃあああ!」」 両者の拳が、同時に大地を撃った! 「…ど…どっちだ……?」 逃げ腰だった悟浄と悟空も、ここまで来たら勝負の行方が気になるのか、恐る恐るといった感じで覗き込む。 永遠にも感じられる静寂の後、二人の拳がゆっくりと持ち上げられる。 あまりの衝撃にくっきりと跡が残り、放射状にひびの入った石の床にめり込むようにして、それはあった。 「や…やった……!!」 「くぅ……!」 勝者は―――八戒。 「よっしゃあ!よくやったぞ八戒!!」 「八戒、すげえ!!」 「ええ、ありがとうございます!」 別に勝ったからといって何があるわけでもないのだが、なんとなくテンションの上がる三人の横で、蒼の瞳の天使はがっくりとうなだれた。 「三蔵!見てくれてましたか!?僕が―――」 振り向いた八戒の身体が、固まる。 「「「「………え………?」」」」 「…スーーー……」 三蔵は、寝ていた。―――悟空の背に寄りかかって。 「さっ…三蔵!?」 かるたに集中しすぎて、まったく気づかなかった。 勝手に盛り上がっていくゲームに退屈したのか、いつの間にか毛布までもってきて、居心地よさそうに悟空の背に頭を預けている。 その寝顔は、あまりにも幼くて、あまりにも穏やかで。 しかし、横合いから投げられた言葉に、思わず顔がほころんでいた八戒ははっと我に返った。 「あかん。三蔵はんこんなトコに寝かしてもうたら、風邪引いてしまう。うちの部屋でゆっくり温めて……」 お姫様抱っこをしようとするヘイゼルの前に、八戒が立ちふさがる。 「結構ですよ。三蔵は僕たちの部屋で寝ますから。もう夜も遅いし、ヘイゼルさんは帰ったらどうですか?」 「それこそ余計なお世話どす。こうなったら、三蔵はんがどっちの部屋で寝るか、かるたで勝負しまひょ!」 「望むところです!!」 「「ええ!?」」 「手伝ってください二人とも!!三蔵を取られてしまっていいんですか!?」 「「ええええ!!?」」 「ガト!準備しいや!!」 「……………ああ」 「…スーーー……」 雨は、まだ止みそうもない。
あとがき
……なんだか、思ってたよりもうまく書けなかったような気がします。改めて皆様を尊敬……汗 私はやっぱり、かっこよくって皆に愛されてる三蔵様が好きです。

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