| [94] 黒いかるた |
- 千佳 - 2007年01月06日 (土) 19時53分
「ヒマ」 「暇ですねぇ」 「たいくつーー!」 「うるせぇ」
閑散とした食堂に、四者四様の言葉が響いた。 牛魔王蘇生実験阻止のため、西へと急ぐ旅の途中。 大きくもなく小さくもなく。何の変哲もない、悪く言えば何の面白味もないこの街に滞在すること、はや三日。 そろそろ彼らにも限界が訪れようとしていた。 「つーか、異常でねぇ?この雨」 「確かに、もう三日はこの調子で降り続いてますねぇ」 「この街、沈んじゃったりしねぇかな」 「…………するわけねぇだろ、ばか猿」 「その間は何よ、三蔵サマ?もしかしてちょっと想像しちゃったりした?」 「はいはい、こんなときにそんなこと言ったら本気で殺されますよ悟浄」
三日前。 三蔵たちがこの街に入るのを見計らったように、比喩ではなくバケツをひっくり返したような雨が降り出した。 滝のような雨の中、何とか辿り着いた宿屋で聞いてみれば、この辺りでは年に1,2回、このように激しい風雨を伴う台風が訪れるようで、4人は運悪くこれにぶち当たってしまったというわけだ。 三蔵たちも、最初のうちこそ「久々にゆっくり休める」と喜んでいたのだが、三日ともなるとさすがにげんなりしていた。
そういうわけで宿屋に缶詰にされ、トランプもいい加減やり飽きた。 それで仕方なく、こうして人気のない食堂で、スルメイカなどをちびちびやっていたわけだが。 「しりとりする?」 「5回も負けて、よくやる気になれますね、悟空」 「じゃ、カード」 「もともと毎日やってんのに、この三日でさらにやり飽きた」 「……ちゃんばら」 「店壊す気か」 「………………」
「ひゃあ、こらひどい」 「「「「!!」」」」 扉を開けたために、すごい勢いで吹き込んでくる風と、そんな中でもしっかりと耳に届いた間の抜ける声に、四人がばっと振り向いた。 「……三蔵はん?」
「いやー、ほんま、えらい奇遇どすなぁ」 ニコニコと言いながら、ヘイゼルはその辺にあった椅子を引っぱって、三蔵の横に腰を下ろした。ガトが、黙ってその後ろに立つ。 「そんなに寄るんじゃねぇよっ!服が濡れるだろうが」 「ああ、えらいすんまへん」 まったく悪びれる様子のないヘイゼルに舌打ちしながらも、隣に座られることは拒否しない三蔵。 ヘイゼルと下僕三人の間で空気が軋んだ音を立てていることに、当の三蔵は気づかない。 「ところで三蔵はん、こんな雨の中退屈やったんとちゃいます?」 「……まぁな」 「うち、前の街でこんなんもろたんやけど」 ヘイゼルが取り出したのは、一組の、黒いかるただった。
あとがき
初めて書かせていただいたのですが、なんだか長くなりそうだったので、ここで切りました。 ありえなく短いですが、本編って言うか、そういうのは次から始めたいと思います。

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