| [56] 053:壊れた時計 |
- 美海 - 2003年10月17日 (金) 01時01分
西へと旅を続ける三蔵一行が泊まっている宿。
バン!!バッシ、バッシ。 「い、いた、痛い〜。やめろよぉ三蔵〜」 いつものごとく三蔵のハリセンで殴られている悟空。 「ははは、逃げろ、逃げろ、猿。ほら追いつかれるぞ〜」 悟浄はその様子を煙草を吸いながら見ていた。 「やめろよ、さんぞー。俺の負けだよ。ほらもう降参」 といいながら両手をあげた。 「もうその辺にしたらどうですか?三蔵」 八戒はあきれながら言った。 「うるちゃい!!!」うるさい、と言いたいらしい・・・ 「はいはい、もうだめですよ」そういいながら八戒は三蔵を抱き上げた。
『抱き上げた』 ・・・・そう今の三蔵は抱き上げられても全然違和感がなかった。 「おろせ〜はっかい。まだバカしゃるをたたくんだぁ〜」 八戒に抱き上げられてもまだ悟空をハリセンで叩こうとして暴れていた。 「まったく、小さくなっても乱暴なんだからなぁ、三蔵サマは」 悟浄はふぅーとため息をついた。 今、宿の部屋中には悟空、悟浄、八戒、三蔵の4人。 ただし、三蔵はどう見ても3歳児くらいにしか見えなかった。
それが事件がおきたのは昨日のことで4人はジープに乗り旅を続けていた。 その途中で小休憩をとっていた。 そのとき悟空が近くの木から果実を採ってきた。 「うまそうだろ?めちゃくちゃいい匂いがするんだ。」 そういいながら3人の目の前に果実を差し出した。 「見たことのない果物ですね。」八戒はその果実を見ていった 「でもおいしそうな匂いはするんだけど?こんなにいい匂いがするんだからぜってーうまいってvv」 そういいながら悟空はひとつ手に口にした。 「あ、悟空だめですよ。わけのわからないものを口にするのは」 「うん?でもうまいよ、これ。」そういいながら美味しそうに食べ始めた。あんまりにも美味しそうに食べる悟空を見ていた悟浄が「うまいか?」と悟空に聞いた。 満面の笑顔で「うん!!!!めちゃくちゃうまい」と答える悟空。 「まぁ、悟空があんなにうまそうに食ってるんだから大丈夫か」 そういいながら悟浄と八戒も食べ始めた。 「うん。こりゃうめーな」 「ええ、美味ですね」 「ほら、三蔵も」そういいながら悟空は果実をひとつ三蔵に渡した。 三蔵はそれを黙って受け取り口に運んだ・・・ だが「うっ、あ、うッ、くっ〜」一口食べたところで三蔵が急に苦しみだした。 「さ、三蔵?」3人が三蔵に近寄ろうとしたとき三蔵のからだが光に包まれた。 「な、なんだ?この光は」 眩しいくらいの光に包まれたかとおもうと、そのあとスーッと光が収まった。 「大丈夫か?・・えっ・さん、・・ぞ?」 悟空が三蔵の傍にいこうとして目を見張った。 「なんだ?今の光は。おいサル。三蔵は無事か、ってサル?どうし・・・」 悟浄も三蔵を見て言葉をなくした。 そこにはたしかに三蔵がいた。だが子供の三蔵だった。
「ああ、それは『逆さ時計の木』だよ」
3人はしばらく呆然としていたが、そこは常に冷静さを誇る八戒がいの一番に我にかえり子供の姿で倒れている三蔵を抱き起こした。 はじめは本当に三蔵かと思ったが、その子供は三蔵にそっくりだった。 「三蔵?」その声にぴくりと三蔵の瞼が動き目を開けた。 「目が覚めたんですね三蔵。大丈夫ですか?」 三蔵はしばらく八戒の顔をじっと見ていたがぽつりと「だれ?」とつぶやいた。
「ああ、それは『逆さ時計の木』だよ」 4人は近くの村に宿を見つけそこの主人に話を聞いた。 宿の主人の話はこうだ。 『逆さ時計の木』はその果実を食べると歳が若返ってしまう。 赤ん坊とはいかなくても物心がつくかつかないかというぐらいの歳に。 この村ではその果実を犯罪者などに食べさせて幼児に戻し再教育をするということらしい。過去の記憶は一切なくなるので再教育をしやすいということなのだ。 「食べたのはこの子だけなんだねぇ」主人は三蔵にキャンディーを与えながらそういった。 三蔵は小さな手に一杯キャンディーをもらいポケットに入れた。 ちなみに服は小さくなった三蔵のために宿にくる途中で買い揃えた。 「それはどういう意味ですか?」 「ああ、あれは妖怪が食べてもなんともないみたいだからね」 「そ、そうですか・・・・」 「で、さぁ〜元に戻る方法はあるのかよ」悟浄は主人に尋ねた。
「まったく〜人騒がせなヤツだぜ」悟浄はベットに寝転びながら八戒の腕の中で暴れている三蔵を見てつぶやいた。 「はなしぇ、はっかいぃー」離せ、八戒といいたいらしい。 八戒は暴れる三蔵を下におろした。 解放された三蔵は走って悟空の傍にいきベットの上で三蔵の遊び相手をして疲れている悟空の上にダイビングした。 「ぐぇっ」いきなり腹の上におもっきり乗られた悟空はカエルがつぶされたような声をあげた。 「まだこれからだぞ、しゃる。おれはまだまだちゅかれてないぞ」まだこれからだぞ、猿。俺はまだまだ疲れてないぞと言いたいらしい。 二人のプロレス?ごっこはまだ続くらしい・・
「でも良かったですよ。もとに戻る方法があって」 「そうだな」 そういいながら悟浄は机の上にある植木を見た。 もとに戻るにはその『逆さ時計の木』の種を育てその実をまた食べると元に戻るとのこと。 ただし本人が食べた果実の中の種であることが条件。 幸い、八戒が毒だと大変なので三蔵がかじった果実を念のため拾っていた。成長は大変早くて2週間もすれば果実をつけるらしい。 それを聞いてさっそくその種を鉢に植えた。 2週間もすれば三蔵は元通りになる。
「さあ、三蔵。悟空はもう疲れているから悟浄お兄ちゃんに遊んでもらったらどうですか?」 「お、おい八戒!!!なんで俺が〜」 「僕と悟空は今から買出しにいくんです。三蔵の子守は悟浄にまかせます」 八戒はにっこり笑って悟浄にいった。 「ばかっぱ、あそんでやる。かんしゃしゅるんだな」バ河童、遊んでやる。感謝するんだなと言いたいらしい。 「テメー、誰が河童だ!!!!俺は悟浄というすばらしくかっこいい名前があるの。覚えとけ、チビ」 三蔵は悟浄が悟空を『猿』というから悟空を『さる』と悟空は悟浄を『河童』というから悟浄を『かっぱ』と呼ぶ。 ちなみに八戒はやっぱり八戒なので『はっかい』と呼ぶ。
悟空と八戒は二人で買い物をしに外に出ていった。 「えーと、後は悟浄の煙草と三蔵は・・・当分煙草はいりませんね。悟空、欲しいお菓子とかあれば三蔵の分と一緒に・・・悟空?」 「・・・・・」 悟空はじっと考え込んでいた。 「悟空?」 「・・・・なぁ、八戒。」悟空は真剣な目で八戒を見た。 「?どうしたんですか」 「三蔵・・」 「三蔵がどうかしたんですか?もしかして三蔵が小さくなったことを気にしてるんですか?大丈夫ですよ。すぐ元に戻るんですから」八戒は笑いながら悟空にいった。 「違うんだ・・三蔵、あのままじゃダメなのかな・・・」 「え?あのままって、小さい三蔵のままってことですか」 「うん。・・・だって今の三蔵昔のこと覚えてないんだろ?昔のつらいことも・・お師匠様が亡くなったこととか・・今のままで大きくなるまで俺たちが守ってあげたら三蔵、幸せになれるんじゃないのかな・・・」 悟空はぽつりと八戒にいった 「悟空・・・僕はそう思いませんよ」 「八戒・・」 「たしかに昔のつらい思い出が三蔵からなくなるかもしれません。けどね、今までずっと僕らと一緒にいた三蔵もいなくなるんですよ?悟空は三蔵が嫌いですか?」 「ううん。短気ですぐ殴ったりするけど俺、三蔵のこと大好きだよ」そういって八戒を見た。 「でしょ?たとえつらい過去でもその過去もすべてひっくるめて今の三蔵があるんです。三蔵はけして過去に目を背けたりはしませんよ。己の思うままに生きいて歩いていく人ですから」 「うん、そうだな、ごめん。変なこといって。俺あっちでなんか美味しいそうな食い物、さがしてくる」 そういいながら悟空は走っていった。 「三蔵には幸せになってほしい・・ですか。それは僕らみんなが思うことですよね。でも人からあたえられる幸せをきっとあの人は喜ばないでしょうね。まぁ、そんなところが僕達を引き付けて離さないところなんでしょう」 悟空の後ろ姿を見て思った。
時間はもどらない。 壊れた時計はけして時は刻まない。 新たな時を刻むために前に進んでいくのだから・・・

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