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文字書きさんに100のお題

[1] 004:マルボロ
綺兎里 - 2003年02月09日 (日) 22時32分

ベッドにドシンと座ったら、土埃の匂いが鼻を突いた。
シーツから立ち昇るそれに、旅した時間の長さをあらためて思い知らされる。
長安の寺院にアイツらを送り届け、そのまましばらく滞在したが。
結局馴染まず、生きながら死んでいるようなその場所からふたりして逃げ出した。
夕闇に紛れて、別れも告げずに出て来てしまった。

だって、何を言えばいいのか分からなかった。


口淋しさにポケットに手を入れて、さっきのが最後の一本だったことを思い出す。
味も分からないまま吸ったそれは、八戒が差し出した灰皿で捻り潰し。
狙って投げた捩じったパッケージは、屑入れの縁に弾かれて床に落ちた。
俺はそれを横目で眺めただけで。八戒も拾わなかったし、俺に拾わせるでもなかった。

ふたりとも、疲れていた。
強行軍は終わり、寺院でそれなりに休養を取った今になって。
滲み出した疲労が、俺たちを押し潰そうとしていた。
無言のまま、それぞれの寝室のドアを開け。
明かりもつけないまま、またそれを閉めた。

月明かりの中、暫くの間動かずにいてから。
俺は未練たらしく、床に投げ出したままだったバッグを探った。
朝取り出したのが最後の一箱だったのを知っているのに、
指は諦め悪く荷物の間を泳いだ。

しばらくして。
こつ、と指先に軽い紙の感触が返った。

取り出したパッケージを月明かりに翳した。
赤が、蒼い光の中でも微かに滲んで目に染みた。
うっかり紛れていたらしいそれを、俺は少しの間、目に映した。



旅も終わりに近づいたある夜。
今夜と同じように冴えた月に照らされて、アイツは木の床に座り込んでいた。
ベッドに背を預け、明かりもつけずに。
咥えた煙草は半ば燃え尽きて、長くなった灰が今にも落ちそうになっていた。

薄く開いた唇から取り上げたマルボロの煙を、深く肺に貯めた。
「吸った気しねーの」
ゆっくりと吐き出しながらそう呟いたら、長い睫毛に半ば隠された瞳がいつもの不機嫌を浮かべて月光を反射した。
物足りなさに、煙草を咥えた形を残したままの唇を啄ばむ。
「こっちの方が美味」
「……てめぇ…」
掠れた声の悪態を無視して、舌で割り開いた唇の奥のフレーバーを更に味わう。
疲れきって指先ひとつ動かせない細い肢体に触れることもなく、
息を継がせながらただ唇だけをゆっくりとなぞり上げ甘噛みして。
漏れる甘い吐息に満足感を覚えながら、鼻筋を辿って翳った瞼に唇を押し当てた。

形のいい眉が顰められ。
纏わりついてくる熱を逃そうとするように、金色のこうべがゆっくりと何度も揺れた。



パッケージを破って唇に挟んだそれに、ジッポで火を点けた。
あの夜と同じように深く吸い込んで、また同じようにゆっくりと吐き出す。
「…やっぱ、吸った気しねー」
誰もいない部屋の中で呟いた。

アイツの手許にはまだストックがあるだろうか。
今夜、俺と同じようにこの微かに甘い匂いを白い姿に纏っているのだろうか。

これをこのまま取っておいたら。
湿気て駄目になってしまう前に、アイツはここへ来るだろうか。
そんなことを考えて、そうしたら。

旅は終わったのだと。
分かっていたつもりで、少しも分かっていなかったことが。


ようやく胸に落ちた。






[3] 書くしかないでしょ(苦笑)
綺兎里 - 2003年02月10日 (月) 09時35分

タイトル通り。

でも、なんでマルボロなんだろう?



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