| (202) 万年最下位チームの逆襲記〜第9話〜 |
投稿者:名鑑引受人(元兵藤洋平)
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開幕戦を惜しくも落としたオーシャンズ。 だが、続く2戦目を3-1,3戦目を4-2と辛くも勝ち、開幕3連戦を勝ち越しで決めた。 そして、今日は移動日、この移動のあとに、尼崎フィッシャーズとの2連戦を控えている。 選手、首脳陣は飛行機で移動、水無月や三井などの新人選手にとっては、初の飛行機移動である。 飛行機で移動する事1時間30分、フィッシャーズの本拠地に程近い、京都の伊丹に降り立った。 ここからは選手、首脳陣一同、バスに乗り換え、神戸へ。 その車中で、矢嶋が、 『今回の2連戦がまさに今シーズンのうちを決めると思ってもおかしくない!みんな、ちょっと厳しいが、全力を尽くしてくれ!』 『はい!』 短いやり取りだが、その言葉には矢嶋の今季にかける意気込みのすごさが感じられた。 バスに揺られる事約1時間、フィッシャーズの本拠地である尼崎市民球状に到着。 『さて、じゃあまずは敵さんの練習風景でも見ていくか』 そういったのはファーストを守っている高杢である。 この選手、実はグランドのコンディションに関係なく、調子が安定している選手。 昨年は後一歩の所で打率3割に到達できなかった。 他球団からは、『クセ者』の愛称で通っている。 『高さん、いつものように気合いが入ってますね』 水無月が横から茶々を入れる。 『そう茶化すなよ〜、せっかくテンション高まってきているんだからよ〜』 高杢が答える。 そして30分後、 『やあやあ、遠路はるばる、ご苦労さんです』 フィッシャーズ監督の天野である。 『どうもどうも、今回は一つお手柔らかにお願いしますね』 矢嶋が口で軽く牽制する。 『またまた〜、そんな事言うたって、こっちは手加減する気はおまへんで』 天野が牽制し返す。 監督同士の心理戦はすでに始まっていた。 『じゃあ、今日はこの辺でおいとましますわ、明日からの2連戦、いい試合をしましょうや』 矢嶋が言った。 『そうですな、ほな、また明日』 天野も去り際に一言。 『よし、じゃあ、宿泊先のホテルに行くぞー』 「ウイーッス!」 選手達もその場から立ち去る。 今回の宿泊先のホテル『信楽』は、オーシャンズの選手が関西方面への遠征の時には必ず使っている。 『こんばんわ〜、今年も使わせてもらいますよ〜』 『いらっしゃい、遠路はるばる、ご苦労さんです〜』 女将の活きのいい声がホテルのフロントに響く。 『さあ、みんなまずそれぞれ部屋に行って、荷物を置いて来てくれや、飯はそれからだ』 選手はそれぞれの部屋に散る、水無月は、同期入団の三井との相部屋だ。 『こうして、お互いに顔あわせるのも初めてだな』 三井が言う。 『そうですね、同期入団同士、チームの優勝目指して、頑張りましょう』 水無月が返す。 すると三井が、 『突然だが、お前、部屋の内装は和風と洋風、どっちが好きだ?』 と問い掛ける。 『どうだろう・・・和風ですかね、実家にいた時も、和風な感じの部屋に住んでいましたから』 『そうか、じゃあ気が合いそうだな、俺も実は和風な感じの部屋に住んでいたんだ、どうも洋風な部屋を見ると、いづらくってしょうがない』 「たしかにそうですね、僕も、そうなんですよ』 こういう会話を交わし、盛り上がってきたところで部屋の電話がなる。 『お〜い、食事の準備ができたみたいだから、みんな広間に集まれや〜』 声の主は矢嶋だ。 『おっ、もうできたのか、さすが、こういったところは食事の下準備も早いな〜』 三井がつぶやく。 『(笑)じゃあ、そろそろ行きましょうか』 『あっ、笑ったな、今』 この二人、早々に打ち解けた様子。 食事も盛大に行われ、一段落ついたところで、 『うっし、じゃあ俺らはちょっと街に繰り出してくるかな』 そういったのは向井を初めとするオーシャンズの中年軍団である。 『おっ、おっさん集団が動き始めたな、おい水無月、俺らもついていかないか?』 そういったのは三井である。 『えっ、マジですか?』 水無月がやや驚き気味に返す。 『大丈夫だって、俺がここら辺でかなりいい味の店知っているから、どうせ、まだ腹に収まりきってないだろ?』 『ヴッ(汗)、そ、そんな事ないですよ(汗)』 『ほらほら、我慢しない、額に『ウソ』ってかいてあるぞ(笑)』 『分かりました、で、どの辺りに行くんです?』 『まあ、ついて来ればわかるって、監督、ちょっと出かけてきますね』 『早めに帰って来いよ、おっ、それと水無月、明日、中継ぎで出すから、肩、しっかり作っておけよ』 そういって三井がやってきたのはとある食堂である。 『う〜っす、久しぶり、おばちゃん』 『おっ、その声はミッちゃんかい、久しぶりやの〜』 『久々にアレ、食べさせてくれよ、こいつの分もね』 『ヨっしゃ、久しぶりに腕の見せ所やな、ちょっと待っとき、すぐできるさかい』 そうして、待つ事10分。 『ホイ、できたで、出来立てやから、熱いで〜』 出てきたのはお好み焼きである。 『おい、どうした、食わないのか?』 『あっ、いや、じゃあ、いただきます』 水無月が一口、口に運ぶ。 『あっ、なんかすごいおいしいですね、これ』 『そうか、これがお袋の作る関西風のお好み焼きや、自分で、おばちゃん言うのも何やけどな』 『すごいおいしいです、お代わり、ありますか?』 『そういうと思て、つくりだめしといたから、どんどん食べや』 『はい!』 このおばちゃんの作るお好み焼きは実は地元の雑誌に乗っていない、つまり、裏の店なのである。 『それにしても、三井さんは何でこの店を知っているんですか?』 水無月が問い掛ける。 『んっ、ああ、このおばちゃんとはもともと親交が深かったからな、社会人になって、兵庫に勤める頃に教えてもらってな、それ以来、兵庫に来て飯を食う時はここに来る、って決めていたんだよ』 『そういえばそんな事言うてたな、で、それが今じゃ立派にプロ野球の選手か・・・頑張りや、アンタの活躍を見るのが、ウチにとっての元気の元やさかいな』 『そういってくれるとありがたいよ、おばちゃん』 『僕もです』 しばらくして、 『ウシ、じゃあぼちぼちホテルに戻るか』 『そうですね,ところで、お代のほうは・・・』 『ああ、金か?金ならいらんよ、こっちも趣味でやっているだけやしな』 『そうですか、じゃあ、ごちそうさんでした』 『そうか、そういってくれるとホンマに有りがたいわ、また、こっちに来た時はいつでもきいや、そのときにはナンボでも食わしてやるからな』 おばちゃんの心やさしい一言を聞き、店を後にする。 『それにしても、さすが社会人だったてことはありますね、三井さん』 『そうか?でもな、社会人になって、なるべく金を使うのを抑えなきゃいけないな、と思ったらこういう店を覚えておかないとやっていけないからな』 『そんなもんなんですか・・・社会人って』 『まあ、最初のうちだけだよ、会社に慣れて、コンスタントにボーナスが入ってくれば誰でも自然とちょっと値の張る店に行きたくなるさ』 『へぇ〜』 そうこうしているうちにホテルに着き、部屋に入る。 『さて、少し休んだら、一風呂浴びてくるか』 『そうですね、そのあとに、軽くキャッチボールでもやりません?また、汗かいてしまいますけど』 『それもいいな、よし、じゃあ今行って来るか、風呂の方に』 『行きましょう!』 そういう会話を交わしながら、夜はふけていく・・・ 続きはまた次回。
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2003年01月24日 (金) 19時24分 |
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