この物語は、あるリーグの中の万年最下位チーム、通称『お荷物球団』の血と汗と涙が凝縮された物語である。 そのチームの名前は、『苫小牧オーシャンズ』。チームの監督である矢嶋昭一は恩年76歳。実に、この球界に携わって58年目の最古参である。現役時代は、内野ならどこでも守れる器用な選手として4球団に在籍。タイトルとは無縁ながら、堅実な守備は評価が高かった。 ヘッド兼守備・走塁コーチを務めている原山潤。昨年、現役を退いたばかりの42歳、現役時代はあのイチローや秋山と並ぶほどの実力を持った選手だった。その熱心ながらもわかりやすい指導には定評があり、今季からオーシャンズのコーチに就任。 打撃コーチの梶岡祐一。6年前に現役を引退し、このチームのコーチになっている。現役時代はシマントスに梶岡あり、とまで言われた選手。 首位打者のタイトルを獲得する事実に9回、打点王6回、本塁打王2回と、かなりの数のタイトルを獲得している。頭脳派ながらも指導はいたって分かりやすく、選手にも評判がいい。 投手コーチの高井修一。現役時代は実力派投手として、焼津アタッカーズのエースの座にいた。9年前に現役を退き、以後、アタッカーズ→イーグルスト指導をし、そして現在にいたる。投手陣の間ではうけがよく、『シュウさん』と呼ばれ親しまれている。 バッテリーコーチのマイク・ゴーン。メジャー経験は無いものの、マイナー時代に培った目は確か。また、自らブルペンに入り投手陣の球を受け、調子を見るのも彼の仕事のひとつ。昨年からこのチームに入団。 以上がこれからもたまに出るであろうオーシャンズの首脳陣だ。 そして、このチームにビッグニュースが舞い込む。 それは昨年秋のドラフト直前。たまたま、オーシャンズの秋季キャンプ上、札幌に現れた一人の少年。名を水無月洋平という。 昨年、弱小チームと歌われていた苫小牧西高校を、甲子園であわや優勝か、というところまで育て上げた、といわれている男だ。年齢も若干18歳と、とてもあのチームをあそこまで引き上げたとは思えない風貌である。その男が、なぜこのオーシャンズの秋季キャンプ場に突如現れたのか。理由は、ひとつだけ。この球団は例年どこの球団よりもテストの開催日が早い。とりわけ、今回も秋季キャンプ中の11月5日と、全球団1の早さである。そこを見計らってきたらしい。 そして、彼の実力を垣間見た首脳陣は、『こいつだ!こいつなら、このチームを優勝争いができるチームにまで引っ張ってくれる!』と口をそろえた。 今年のドラフト。当然のように、注目は甲子園を騒がせたスーパースター、LP学園の沢渡純。予選大会はすべて完全試合、甲子園大会でも、ノーヒットノーラン3回、うち完全試合1回とすさまじい実績を残している。しかし、オーシャンズの首脳陣は水無月を獲る事に集中していた。沢渡の事など、全く眼中に無かったかのように。その沢渡はドラフト前の記者会見で、このようなコメントを残している。『チームですか?そうですね・・・できれば、万年最下位といわれているオーシャンズに指名してほしいですね。水無月?誰です、それ。』 このコメントが、後に自らの墓穴を掘った事になるのは、まだ先の事。 そして、運命のドラフト会議。 焼津アタッカーズ 1位 沢渡 純 18歳 投手 LP学園高校 高知シマントス 1位 沢渡 純 18歳 投手 LP学園高校 博多イーグルス 1位 沢渡 純 18歳 投手 LP学園高校 茅ヶ崎ドリームス 1位 沢渡 純 18歳 投手 LP学園高校 尼崎フィッシャーズ 1位 沢渡 純 18歳 投手 LP学園高校 『オーシャンズも当然、僕を1位で指名するだろう。』鼻高々にかれは言い放った。しかし、 苫小牧オーシャンズ 1位 水無月 洋平 18歳 投手 苫小牧西高校 『!? なぜ僕じゃないんだ!?』 かれは唖然とした。知らないといった水無月の名が、オーシャンズの所に刻まれている。 『・・・そうか、そういう事か!なら、いいだろう、僕を獲りに来なかった事を、後悔するんだな!』と、沢渡は言った。 結局、沢渡との交渉権はフィッシャーズが獲得。 ちなみに沢渡の獲得に失敗した4球団はそれぞれ以下の選手を指名した。 焼津アタッカーズ 1位 西澤 幸一 23歳 外野手 新日鐵水島 高知シマントス 1位 金 純作 24歳 内野手 青山学院大学 茅ヶ崎ドリームス 1位 銀狼 18歳 投手 早稲田大学 博多イーグルス 1位 鬼塚 18歳 投手 習志野高校 のちに、この年のドラ1が、今季のペナントの台風の目となるとは、誰も予測はしていなかった・・・ 長々と書いてしまいましたが、とりあえず、プロローグです。 多分、こんな感じなストーリーで進んでいくと思います。 文章が脱線するかもしれませんが、それも承知の上で目で読んでください。
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