| (196) 万年最下位チームの逆襲記〜第5話〜 |
投稿者:名鑑引受人(元兵藤洋平)
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オーシャンズ紅白戦もいよいよ中盤戦。 4回の表、紅軍の攻撃、竹上は1番、2番とテンポよくファーストゴロ、サードフライと打ち取ったものの、3番にレフト前ヒットを許し、紅軍4番、今年のオーシャンズドラフト2位、和製大砲の呼び名が高い、立川弘(たちかわ・ひろし)が打席に向かう。 立川は社会人上がりの選手。都市対抗の出場経験もあり、その豪快な打撃は全球団のスカウトの耳にも届いていた。 その立川の第2打席。初球、竹上は外角低目へチェンジアップを投げる、わずかに外れてボール。2球目は内角真ん中へ138キロのストレートが入り、カウントは1ストライク1ボール。 そして3球目、外角高めのカーブ、立川はジャストミート、快音を響かせながら打球はセンターへ。槙田が全速力で下がる。 打球は少しずつながら風の影響を受け失速している、だが、オーバーフェンスの可能性はじゅうぶんにある。 槙田はフェンスに登った、そして、打球の落下する方向にグラブを差し出した。 「パスッ」 乾いた音が、外野手の耳に入る。槙田はあわやホームランかという打球をギリギリの所で取った、スーパープレーである。 立川は悔しがっていた。 「くそ〜ッ、手応えはあったんだけどなあ・・・」 そう、確かにジャストミートしたのである、では、なぜ打球は失速したのか、ひとつは風が打者にとって向かい風であった事、もうひとつは、竹上のストレートはオーシャンズの投手陣のストレートとは違う独特のストレート(回転方向が独特)だということである。 普通、ストレートは打者に向かっていく回転をするが、彼のストレートはその向かっていく回転の中にさらに微妙にスライダー回転がかかっている、一種のジャイロボールなのである。 竹上はこのボールのおかげで、昨年はまずまずの活躍をした。 試合のほうに話を戻そう。竹上は立川を打ち取り、この回を0で凌いだ。 「水無月、そろそろ肩を温めておけ」、原山が水無月にそう告げた。 そして4回の裏、今度は白軍の攻撃。マウンドには、依然として仁井田が登っている。 この回はクリーンナップからという同点、いや、逆転するには絶好の打順。まずは3番、昨年のチーム内の首位打者、鈴木俊正(すずき・としまさ)が打席にたつ。鈴木は左打者でありながら投手の利き腕に関係なく安定した打撃を見せる、今年で9年目の中堅選手だ。 その鈴木に対する初球、仁井田はあのシューティングスターから入った、が… 「しまった!完全に曲がりきっていない…」 投じた球は、中途半端な弧を描きながらど真ん中へ吸い込まれるように進んでいく。 「もらった!カキィーン!」打球は快音を響かせるまもなく、弾丸ライナーでセンターバックスクリーンへ突き刺さった。 鈴木の同点アーチである。鈴木は会心の笑みを浮かべながらベースを1周してくる。 そして、矢嶋が動いた、紅軍監督の高井に投手の交代を告げるよう言った。 “紅軍の選手の交代を申し上げます。ピッチャー、仁井田に変わりまして、チョウウンスク、ピッチャー、趙、背番号39” 趙云洲(チョウ・ウンスク)、3年前に来日し、このチームの中継ぎエースになった選手。昨年は故障の後遺症が完治していなかったのか、1シーズンをファームで過ごした。今季は完治しているらしく、紅白戦に向けて万全の調整をしていたみたいだ。 持ち球は140後半〜150前半の速球、カットボール、ツーシームと左右の変化と速球で勝負するタイプの投手だ。 試合のほうに話を戻そう。打席には、4番、昨年はちょっとブレーキのかかったベテラン主砲、田中大作(たなか・だいさく)。 その初球、いきなり趙は大胆にも、ストレートをど真ん中へ投げる。 「いくらなんでも、ど真ん中を打てないほど、昨年の俺はスランプに陥っていないぞ」 「カーンッ!」打球は左中間スタンド最上段にあっという間に突き刺さった。勝ち越しソロアーチである。 「今年はいけそうだな」趙がホームに帰ってきた田中に一言告げた。 「ああ」、田中も一つ返事を返す。 2−1、今度は白軍がリードを奪った。 趙はそのまま後続の二人を抑え、4回1アウト〜7回までを投げきった。 竹上は5回を難なく抑え、役目を果たしたといわんばかりのすっきりした表情でベンチ奥へ消えていった。 そして6回。「水無月、そろそろ行ってみようか」「はい!」 “白軍の選手の交代をお知らせします、ピッチャー、竹上に変わりまして、水無月、ピッチャー、水無月、背番号30” ゆっくりと彼がマウンドへ向かっていく。 「これが、プロのマウンド・・・」 水無月はマウンドの感触を確かめながら、ゆっくりとウォームアップの7球を投げていく。 そして、6回の表の紅軍の攻撃。この回の打順は8番から。 「行きますよ、ジョーさん」「よし、来い!」 この二人の投球練習は、口で交わさないものの、ボールを通して伝わっているように感じられる。 そして、8番打者が右打席に入ったところで、注目の水無月の第1球目。城ヶ崎はインコースに構える。 ザッ、シュッ!無駄の無い、スムーズなフォームからストレートが投じられた。 「ズバァン!」148キロのストレートが城ヶ崎のミットに収まった。 「こ、これが今年の新人かよ・・・」この回の先頭打者、千葉新作が思わずつぶやく。 「おうよ、これが今年の新人よ」城ヶ崎が返す。 結局、この1球であ然としてしまった千葉は2球目のシュートを引っ掛け、セカンドフライに終わった。 続く9番の趙には3球とも直球勝負、結果はピッチャーゴロで水無月の勝ち。 1番打者に対してはスライダーを打たせ、ショートゴロに斬って取った。 続く7回は2番をセンターフライ、3番にレフト前にはじき返された者の、4番の立川をファーストゴロダブルプレーと、無難にしのいだ。 さあ、7回の両チームの攻防が終了。 得点は紅軍1−白軍2と、白軍が1点リード。 投手は 紅軍:仁井田→趙 白軍:向井→竹上→水無月 ホームランは紅軍に1本、白軍に2本。 さて、試合はいよいよ終盤戦、いったい、どうなる事やら・・・ 続きはまた次回。 (ここまでの小説で微妙におかしい部分があったら掲示板の方にレスお願いします。)
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2003年01月13日 (月) 20時11分 |
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