| (192) 万年最下位チームの逆襲記〜第3話〜 |
投稿者:名鑑引受人(元兵藤洋平)
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さて、場所が変わって、ここはオーシャンズのキャンプ地でもある、鹿児島・指宿。 新人選手7名も、各自自主トレをつんで、この日に向けて調整してきた事だろう。 その新人選手7名が、観客の前にお披露目された。 観客達が注目していた選手は実は水無月ではなかった。男女問わず、そのルックスと野球センスのよさに誰もがみとれていた。 オーシャンズドラフト3位指名、北村大輔である。 甲子園の常連高、神奈川県・横浜高校からオーシャンズへ入団。 1年の時から1番・センターのポジションを獲得し、2年・3年の時には甲子園にも出場している。小技のうまさと足の速さ、外野の守備範囲の広さは、新人の中ではトップクラスだろう。 『じゃあ、投手はブルペン、野手はそれぞれの持ち場に行ってもらおうか。』 それぞれ、ノック、フリー打撃に散っていくなか、水無月はブルペンの中にいた。 ブルペンには先客というべきであろうか、ベテラン大投手、今年でプロ入り21年目の向井茂(むかい・しげる)、このチームの守護神、ポーカーフェイスと精密機械といわんばかりのコントロールで有名の続木利道(つづき・としみち)が、ブルペン入りするや否や、実に100球以上投げ込みを行っていた。 『お〜い、いったん、投げ込みをとめてくれ〜』矢嶋がそういうと、それまでかなりの数を投げていたであろう二人も投げるのを止めていた。 『今年からこのチームに入った水無月だ、みんな、仲良くしてやってくれ。』 『水無月洋平です、よろしくお願いします。』 簡単に挨拶を住ませると、『じゃあ、3〜40球程度、投げてみてくれないか』と、監督の矢嶋、先ほどまで投げ込みをしていた向井・続木、投手コーチの高井が皆口裏を合わせているかのように揃えて言った。 「ワタシガウケマース」そういったのは、ブルペンコーチのマイクだ。 水無月がブルペンのマウンドに登る。 『さあ、自分の持ち球を球数の許す限り投げてきて下サーイ』 『じゃあ、ストレート行きます』『OK、どんどんキナサーイ!』 ビュッ!キィィィーン!ズバン!程よいノビのストレートがマイクのミットめがけて投げられた。 『今、どれくらい(球速)出ていた?』『148(`)です。』 「ケッコウ、イイタマナゲテルヨ」マイクが、小声で矢嶋にそういった。 『変化球は何が投げれるんだ?』と高井が言った。 『スライダー、カーブ、パーム、フォーク、シュート、それと、スラーブが投げれます』 『じゃあ、お手頃なところでカーブを見せてもらおうかな』『はい』 シュッ!クククッ!スバーン! 『まずまずの曲がりだな』『じゃあ、次はスライダーを投げてみろ!』 シュッ!ギュンッ!バーンッ! 『!!』『これはすごい・・・』首脳陣もあ然とするほどの切れ、いったい、どの位キレていたのだろう。 『スラーブ、行きます』今度は水無月の方からリクエストがあった。 ピュッ!シュンッ!バシィッ! 『これもまた・・・すごいな・・・・』その場にいた全員があ然とした。 『残りの変化球も、見せてくれないかな?』高井がそういった。 『分かりました、じゃあ、パームから行きます』 シュッ!投げられた球は、まるでストレートではなかろうかというくらいの回転をしており、ホームベースにわずかに触れたところからゆっくりと、かなりの落差で落ちていった。 『シュート、行きます』 シュッ!クククッ!バシン! 『シュートは今ひとつのようですね』『でも、ツーシームを覚えさせたら成長するかもしれないな』 『よし!OKだ!水無月、後はマイクの指示通りに投げてみてくれ!』 そして、40球を投げきった水無月、疲れなど微塵も感じさせない。 『これなら、これなら、優勝はおろか、日本一も狙えるかもしれないな・・・』矢嶋はボソッと口にした。 一方、場所が変わって、ここは尼崎フィッシャーズのキャンプ地、高知県の安芸。 『な、なんて野郎だ!』 このチームの主砲、プロ入り12年目の原田がしりもちをついている。 フリー打撃の時の事である。マウンドにはあの沢渡が登っている。 『すいません、先輩。つい、”手元”が狂ってしまって』 原田が打席に立って、少し立ってからの14球目。 彼のセリフから察するに、かなり狙って投げたのであろう。 『監督、どないしましょうか』『とりあえず、あの高飛車なところを少し矯正しなきゃあかんな』 『じゃあ、ファームでっか』『少し経ってからでええから、彼にそう言っといて』 沢渡が2軍降格の話を聞いたのは、それから数時間としないうちだった。『僕がなぜ・・・』 沢渡はその場に立ち尽くしていた。 このフィッシャーズの監督、天野浩二は外見の温厚そうな顔とは裏腹に、かなり選手には厳しく、『鬼の天野』と恐れられている。 その天野の目にかかって、2軍に落ちた者は1軍に上ってくるのに相当時間を必要とするらしい、今季、オーシャンズに移籍して来た丘野康介(おかの・こうすけ)もその一人である。 沢渡はいったい、どれくらいの期間で1軍にあがってくるのか、楽しみである。 所変わって、ここは博多イーグルスのキャンプ地、熊本の阿蘇。 鬼塚はひたすら、走りこんでいた。 『お〜い、鬼塚、ちょっとこっち(ブルペン)来いや』 鬼塚を呼んだのはイーグルスに入って5年目、浜口信(はまぐち・しん)である。 『監督がお前の球を見てみたいゆうとるで』『か、監督が・・・ですか?』 『おお、はよう行きいな。監督がミットもって今か今かと待ちのぞんどるで』 鬼塚は急いでスパイクに履き替え、ミットを持ってブルペンへ行く。 『遅いぞ!さあ、早くマウンドに行け。俺が直々に球を見てやる、浜口、スピードガンの用意はいいか?』『OKでっせ、監督』 鬼塚はマウンドに上る。『じゃあ、まずこれ(ストレート)投げてみいや』『はい!』 願ってもいないチャンス。鬼塚は自分の武器であるストレートを、監督の城の構えた、インコースにめがけて投げ込む。 ズバァーン! 「くぅ〜、しびれるね〜、浜口、今(球速)どれくらい出ていた?」 『・・・監督、これはすごすぎでっせ』『!!』 『よし!OKだ!鬼塚、後はそれを紅白戦までとっておけよ』 『ふっ、この俺を1球で満足させるとは・・・こいつを取っておいて正解だったかもしれんな・・・』 このとき、いったい彼が何`を計測したのかは、そのときブルペンにいた監督の城と、浜口しか知らない。 昨年は采配が見事に的中、選手達も自信に満ち溢れている、2連覇に向けて死角なし、といったところだろう。 さらに場所を変えよう。ここは、茅ヶ崎ドリームスのキャンプ地、沖縄は宮古島。温暖な気候は、夏が得意なこのチームにとって、最も適した気候であろう。 そこのブルペン。マウンドには、今年のドラフト1位、銀狼が登っている。 足を高々とあげて静止し、そこから始動するフォームは、まるでもと巨人の西本を彷彿とさせる様だ。 そのフォームから常時140`後半を記録するストレート、独特の変化をする3種類のスライダーを投げ分ける。 クイックモーションが苦手だといっているが、それもこのフォームなら仕方ないだろう。 と、駆け足ながらも注目の3選手の現状を伝えたが、まだ、キャンプは始まったばかり、ペナント開幕まで、かなりの時間がある。 これからどうなるかが楽しみである。
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2003年01月12日 (日) 12時05分 |
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