| [28] A髄膜、脳:脳の区分、脳に分布する血管3 |
- sizu - 2005年01月29日 (土) 20時14分
F.終脳
終脳は,脳の最も発育した部分で,脳重量の約80%を占めている.小脳と同じく表層の皮質(灰白質)と深層の髄質(白質)に分けられ,さらに髄質の中に大脳核が区別される.
大脳の大きさ: 横径約12〜14 cm,長径約 16〜18 cm、脳量は人種,性別,死因さらに測定方法などによって一定しがたいが,一般に Obersteinerがオーストラリア人で測定した数値すなわち男成人1,360 9,女成人 1,230 9が用いられ,この数値はそれ以外の各国人の計測値と近似している.わが国の成人脳重量は,男平均 1,367 9(最大1,790 9,最小1,0639),女平均 1,214 9(最大1,432 9,最小961 9)で,その体重との比は男 l:38.3,女 l:42.9で,平均1:40.6を示す(田口和美).胎生後半期における脳重量と体重との比は約 l:6〜7である(国友鼎).わが国の胎生後半期の胎児の脳重量は男400 9,女370 9である(木村). また,乳児および小児の脳重量は速やかに増加し,おおむね 14〜15歳までに成人の重量に近づき,15〜20歳ごろにはゆるやかに増加してほぼ完成して成人の重量になる.大脳皮質の全表面積は223,600 mm2,このうち1/3は外表に露出し,2/3は溝の中にかくれる.
1.終脳の外景 終脳は大脳小脳裂という深い横溝で小脳と境される.また,終脳の正中には大脳縦裂という脳梁に達する深い縦溝があり,これによって終脳は左・右の大脳半球に分けられ,深部で終板,前交連,脳弓交連および脳梁で結合しているのみである.左・右半球の内部には脳室(側脳室)がある.終脳は前・中頭蓋窩の全部および後頭蓋窩の上部を満たしている.終脳を,外套,脳梁・脳弓・透明中隔および嗅脳の各部に分けて説明する.
a.外 套 :外套は,終脳の大部分を占める灰白色卵形の大きな塊であって,表面の灰白質からなる大脳皮質と深部の白質からなる髄質とからできている.終脳の正中には大脳縦裂があって左右の両半球に分けられ,その表面には多数の大脳溝があって,これらの溝によって大脳回という多様な形状のヒダができる.大脳溝の奥で深部にある回を深回といい,隣接する2つの大脳葉の間にわたるものを移行回という.溝のうち,比較的早期に形成される深い溝をとくに大脳裂という.一般に,大脳溝および大脳回は個人差がはなはだしく,厳密に観察すると同一脳の左・右半球の間でも完全にその走行の状態が一致することは少ない. 主要な大脳溝である外側溝,中心溝,頭頂後頭溝が,各半球を前頭葉,頭頂葉,側頭葉および後頭葉の4葉に分ける. 1)大脳溝: a)外側溝 :脳底にて前有孔質の外側すなわち大脳外側窩に始まり,外套の外側面を斜めに上後方に走って側頭葉を前頭葉および頭頂葉から境し,さらに前枝,上行枝および後枝に分かれる.後枝が外側溝の本幹であり,最も長く走行する.胎生4カ月ごろに生じる. b)中心溝 :外側溝後枝のやや上方に始まり,外套の外側面を斜めに後上方に走って大脳縦裂に達し,前頭葉と頭頂葉との境界となる.中心溝はときに中絶し,またまれには2本のこともある.胎生6ヵ月ごろに生じる. c)頭頂後頭溝 :半球内側面の後上部に位置し,半球上縁を越えて半球外側面にも短い裂として認められる.下方は鳥距溝に連続し,頭頂葉と後頭葉との境界となる.胎生4ヵ月ごろに生じる. 2)大脳葉:外側溝,中心溝,頭頂後頭溝によって境され, a)前頭葉 b)頭頂葉 c)後頭葉d)側頭葉の4葉を区別する.なお,島は,半球外側面において深く存在する特別の大脳葉である. a)前頭葉 :中心溝の前方にて外側溝の前上方に位置し,その前端を前頭極という.前頭葉に凸な上外側面,わずかに凹む下面および平坦な内側面を区別する. 上外側面:中心前溝ならびに上前頭溝および下前頭溝がみられる.中心前溝は中心溝の 前方をこれと平行して走り,その問に中心前回をはさむ.上および下前頭溝により,前頭葉を さらに上前頭回,中前頭回および下前頭回に分ける.中前頭回は,さらに中前頭溝によって 上部,下部の2部に分けられている.下前頭回は,外側溝の前枝および上行枝によって,前 方から眼窩部・三角部および弁蓋部の順に分けられる.中心前溝は,しばしば上下の中心前 溝に分離していることがある. 下面(眼窩面):眼窩の上壁すなわち前頭蓋窩に接する面で,一般に溝も回も不規則である.嗅溝および眼窩溝がある.嗅溝は嗅索を入れ,大脳縦裂と併走してその間に直回をはさむ.眼窩溝は,嗅溝の外側に位置する不規則な浅い溝であり,両溝の間に眼窩回をつくる. 内側面:上前頭回の内後方には中心傍小葉がみられる. b)頭頂葉 parietal 1obe:中心溝の後方に位置し,凸隆する上外側面および平坦な内側面をもつ. 上外側面:中心後溝および頭頂間溝がみられる.中心後溝は中心溝の後側に平行して横 走し,その間に中心後回をはさみ,頭頂間溝は頭頂葉の外側面のおよそ中高を縦走して上 頭頂小葉,下頭頂小葉を境する.下頭頂小葉のうち,外側溝後枝の後端を囲む部を縁上回といい,上側頭溝の後端を囲む部を角回という. 内側面:中心傍小葉の後方には模前部という回がある. c)後頭葉 :頭頂葉と側頭葉との後方のつづきで外套の後端部を占め,三角錐の形を呈する.側頭葉との境界は不明瞭である.後頭葉の後端を後頭極といい,凸隆する上外側面,平坦な内側面わずかに凹む脳下面をもつ. 上外側面:横後頭溝,外側後頭溝および上後頭溝があって,外側後頭回および上後頭回を境する. 内側面:櫻部という回がみられる. 下面 d)側頭葉 :外側溝の後下方に位置し,前端を側頭極という.外側面および底面での後頭葉との境界は不明瞭である.通常,頭頂後頭溝の上端と,底面にある後頭前切痕とを結ぶ前方に凸なカーブをもっておよその境としている.サルではこの境界線に一致して著明な月状溝または猿溝がある.側頭葉に,上外側面,下面を区別する. 上外側面:上側頭溝および下側頭溝が存在し,上側頭回,中側頭回および下側頭回を境する.上側頭回の背側面すなわち外側溝に対する面には,2〜3の横側頭溝および横側頭回がみられる. 下面:内側に側冒'1溝,外側に後頭側頭溝が存在し,最外側に外側後頭側頭回また最内側に前方の海馬傍回および後方の舌状回,両溝間に内側後頭側頭回がみられる.海馬傍回の前端は鈎状となり内方に曲がって終わり,これを鉤といい,釣を前方で境する溝を嗅脳溝という.海馬傍回の内側には,海馬溝がみられる. 大脳半球内側面の大脳溝および大脳回:外套の内側面には,脳梁に接してその背側をめぐる脳梁溝がみられ,後方は海馬溝につらなる. 脳梁溝の背側には,脳梁をめぐって帯状回があり,海馬傍回とともに1つの系統をなし,帯状回と海馬傍回は帯状回峡によって連結され,合わせて脳弓回という.帯状回上に沿って帯状溝があり,その後部は上方に曲がって中心溝の直後で外套の外面に現れる.帯状溝を,前方の水平位に走る前頭下部と後方の縁部の2脚に分ける.帯状溝の前後両部の境から背方に向かって出る溝を副中心溝という.帯状溝は,帯状回および前頭葉を境し,前頭葉は副中心溝によって上前頭回(内側面)および中心傍小葉の2部に分けられる.中心傍小葉の後側には頭頂葉に属する模前部があり,下方は頭頂下溝によって帯状回と境し,後方は頭頂後頭溝によって模部と境する.模部は,後頭葉に属し,下方は鳥距溝をもって舌状回と境する. e)島 :外側溝の底部で,大脳外側窩の深部にある外套の一部であり,前頭・頭頂および側頭葉の各一部からなる弁蓋におおわれる.すなわち,弁蓋は島をおおう外套部であり,これに前頭弁蓋,前頭頭頂弁蓋および側頭弁蓋を区別する.島は,弁蓋を切除してはじめてみることができる. 島の周囲には〔島〕輪状溝があって他部と境し,前下方は島限という隆起により前有孔質から分界されている.また,島の表面には若干の溝による島回を認め,とくに後下部にある回は長く〔島〕長回といい,他は短く〔島〕短回という. 島は,発生の早期には半球の表面に露出するが,周囲の発育に伴い次第に深部に潜入して外部からみられなくなる.他の動物の脳では,島は半球の表面に露出している.
b.脳梁,脳弓および透明中隔:いずれも左右の大脳半球間に深在し,これらは終脳の正中矢状断でよくみることができる. l)脳 梁 :脳梁は,左右の大脳半球(嗅脳,海馬傍回およびこれに接する側頭葉を除く)を連絡する最大の交連であって,一名最大交連といい,その線維は半球全体に放散して脳梁放線を形成する.脳梁は大脳縦裂の底で「つ」の字状となり,脳梁に脳梁吻,脳梁膝,脳梁幹および脳梁膨大の4部を区別する. a)脳梁吻 :大脳半球の前背方への発達に対応して生じる. b)脳梁膝 :大脳半球の後方への発達で,向きをかえる部分. c)脳梁幹 :脳梁の大部分を占める背側に凸隆した厚い髄板で,大脳縦裂の下底にある.その前端は脳梁膝をつくって急に後方に曲がるが,次第にその厚さを減じて脳梁吻に移行し,吻板をもって前連合の直前で終板につらなる. d)脳梁膨大 :脳梁幹の後端の膨大部で,松果体と蓋板とを上方から包人でいる. 脳梁の上面は,薄い灰白質の層によっておおわれる.この層を灰白層といい,左右は脳梁溝両 端で帯状回に移行し,前方は終板傍回および梁下野に,また後方は小帯回につらなる.また灰白層に包まれて,前後に走る2対の有髄線維束がある.内側のものは正中線の近くにあって,内側縦条といい,外側のものは帯状回に完全におおわれ,外側縦条という.内・外側縦条はともに前端は終板傍回に,後端は脳梁膨大の後下側にある小帯回をへて歯状回につらなる.内・外側縦条は,いずれも嗅覚に関係する伝導路である.
2)脳 弓 :脳弓は,脳梁の腹側に位置する白質(神経線維)で,乳頭体と〔海馬傍回〕釣との間 にわたる弓形体である.脳弓を脳弓柱,脳弓体および脳弓脚の3部に区別する. a)脳弓柱 :脳弓の前部をなす根であり,乳頭体から起こり室間孔の前を弧を描いて後上方に進んだのち,左・右のものは正中で合し脳弓体をつくる. b)脳弓体:左・右の脳弓柱が合したもので脳梁の腹側面に達してこれと癒着し,これとともに後方に走ったのち,再び左・右の脳弓脚に分かれる. c)脳弓脚 :脳弓体が左右に分かれたもので視床の後側をへて側脳室下角に達し,−小部は海馬に,大部分は海馬采となって歯状回の背側で〔海馬傍回〕釣に達する.このように,脳弓の前端および後端のおのおのは脚に分かれて全体として X字形を呈する. 脳弓ヒモ:脳弓の外側縁は側脳室脈絡叢の付着部となり,これを脳弓ヒモという. 脳弓交連:左・右の脳弓脚の間は前方に尖端を向けた三角形部で,ここに左右の海馬を結合する脳梁下面の横線維がみられる.これを脳弓交連という. 脳弓交連と脳梁下面とは,狭い裂隙すなわちベルガ腔(第六脳室)により隔てられる.
3)透明中隔 :透明中隔は,大脳半球内側面で脳梁前半と脳弓前半との間にある三角形の中隔であって,左右の非薄な灰白質板すなわち透明中隔板からでき,その間に狭小な透明中隔腔(第五脳室)をはさみ,外面は側脳室に面する. 透明中隔は,胎児や新生児では著明な空洞となるが,成人脳では透明中隔の両葉が接着して閉鎖しているものが多い.また,ごくまれに穿孔しているものもある.
c.嗅 脳 :嗅脳は,終脳底に位置し前頭葉から側頭葉にわたって存在し,ヒトではその発育が弱い.嗅脳を前・後の2部に区別する. 1)前 部:嗅葉および梁下野からでき,嗅葉は前頭葉の下面に位置し梶棒状を呈する.その後端は前有孔質のすぐ前にある嗅三角に始まり,これより三角稜柱形の嗅索となって,嗅溝中を前方に走り,その前端は肥大して灰白質性の嗅球に終わる.嗅球は,筋骨の箭板の上にあり,その下面からは多数の嗅神経が出ている.嗅三角後方の底辺は浅い横溝により前有孔質から分界される.その下面には3本の白線すなわち嗅条がみられる.これを,それぞれ外側嗅条,中間嗅条および内側嗅条という.嗅三角は外側に向かって1つの小回を出す.これを島限といい,外側は島に達する.嗅三角はまた内側に向かって1つの小回を出す.これを梁下野といい,後方は後嗅傍溝をもって終板傍回と,前方は前嗅傍溝をもって前頭葉と境する.このようにして,嗅脳は脳弓回とともに一環をなしている.
2)後 部:前有孔質および終板傍回が属する. a)前有孔質 :視〔神経〕交叉の前外側にある灰白質板であり,血管による多数の小孔をもち,外側は〔海馬傍回〕釣に接し,島限により島から隔てられている. b)終板傍回(脳梁下回) :前内側は,終板傍回(脳梁下回)となり,終板および前交連のすぐ前を上行しさらに脳梁吻のすぐ前からこれに並行して上走し,脳梁体の内側・外側縦条につらなっている. 辺縁系: Brocaにより,哺乳類の脳幹を取り巻く共通な皮質領域を大脳辺縁葉と命名されたことに始まる.研究が進むにつれ,これが視床下部と密接な線維結合があり,自律機能,嗅覚,情動,本能などに関係の深いことが明らかとなった. 現在,辺縁系と呼ばれるものは,皮質のみでなく大脳核の一部も含まれており,梁下野・帯状回・海馬傍回・釣および海馬.歯状回.小帯回・脳梁灰白質層,それに扁桃核や視床下部の一部がこれに属する. これらの部分の皮質は,下等な動物ほど脳全体に対し占める割合が大きく,系統発生学的に古い皮質に属する.ヒトでは終脳の大部分は新しい皮質で占められ,古い皮質は比較的狭い部に限局される.
2.終脳の内景
終脳(いわゆる大脳半球)の表面には灰白質からなる大脳皮質があ'),内部には白質からなる大脳髄質がある.また,灰白質の一部は白質(髄質)の深部にも存在して大脳核(大脳基底核)をつくる.左右の大脳半球内には脳室の一部である側脳室がある.
a. 大脳皮質 :大脳皮質は,大脳半球の表面をおおう灰白質よりなる層で,すべての大〔脳〕溝および大〔脳〕回の表面をおおっているが,その厚さおよび細胞の構成は部位によって若干異なる.大脳皮質は染色法の違いなどによりいくつかの分類法があるが, Brodmannは,神経細胞体を染色する方法により−側の大脳半球をおよそ52の分野に区分した.大脳皮質の厚さは中心前回などで最も厚く,中心後回・鳥距溝の深部などで最も薄く,平均約2.5 mmといわれる.また,終脳の大部分を占める大脳皮質(新皮質)は6層に区別される. 1)大脳皮質(新皮質)の細胞構築:大脳皮質はその細胞構築により表層より分子層,外穎粒層,外錐体細胞層,内穎粒層,内錐体細胞層および多形細胞層の6層に区別される. a)分子層(網状層) :皮質の最上層(脳軟膜のすぐ下)で,主として神経膠細胞からなるが,ごく散在性に小さな神経細胞をみる.すなわち,カハールの水平細胞と呼ぶ不規則な形の細胞であり,表面に並行して走る長い突起を出し,突起から表面あるいは髄質に向かって直角に多数の枝を出す.また,この層には表面に並行に走る多数の切線線維がみられるが,これらは分子層より深層の神経細胞からくる線維または視床その他からくる知覚線維の終枝に相当する. b)外穎粒層 :この層は多数密在する円形,多角形,あるいは三角形の最小の神経細胞すなわち穎粒細胞からでき,また小型の錐体状の神経細胞も混じえる.一般に,樹状突起は短く放射状を呈して分子層に入る.軸索は皮質中に終わるが一部は髄質中に入る. c)外錐体細胞層(錐体細胞層) :厚い層をなし,やや大きな錐体細胞を含む.錐体細胞の尖端は表面に向かい,これから出る長い樹状突起は分子層に入り,底側から出る軸索は髄質中に入る.なお,底側両端からは3〜5本の短小な樹状突起が出て,付近に終わっている. d)内穎粒層 :薄い層をなし,小型の錐体状の神経細胞をもつ.本層の性状は,ほぼ外穎粒層と同様である. e)内錐体細胞層(神経細胞層) :この層は比較的細胞が少ない.大型の錐体状の神経細胞を含み(ただし,第3層の細胞よりも小さなものもみられる),これらの大型の錐体細胞は第3層の錐体細胞と同じくその尖端を表層に向け,その樹状突起は尖端および側面から出て多くは表層に至り,その軸索は基底から出て多くは髄質に至る.運動の中枢となる中心前回とその延長である中心傍小葉の前部の錐体細胞は著しく大きく,いわゆる Betzの巨大錐体細胞として知られる. f)多形細胞層(紡錘細胞層) :厚い層をなし,小ないし中等大の楕円形・紡錘形・多角形の神経細胞を含む.これら細胞の樹状突起は,その近くで分岐し,軸索は髄質に至ってT字状に分岐する.そのほか,多数のゴルジU型細胞もみられる.なお,膠細胞は皮質のいたるところに散在し,多くは短突起性である. 2)大脳皮質(新皮質)の線維構築:軸索の髄鞘を染色する方法では,大脳皮質における線維構築が明瞭となる.大脳皮質における有髄線維のうち,同側の大脳半球の各部を連絡するものを連合線維,左右の大脳半球を相互に連絡するものを交連線維といい,大脳皮質と身体末梢部とを連絡するものを投射線維と呼ぶ.投射線維は,さらに皮質に入るもの(求心性)と出るもの(遠心性)とに分けられる.これらの線維は大脳半球内部の髄質中で大小の束状となって大脳回に入り,さらに分かれて多数の小神経線維束すなわち髄放線として大脳皮質(灰白質)に入る.髄放線は上記皮質の第3層の外錐体細胞層より下層でみられる. 大脳皮質には多数の求心性ならびに遠心性線維が垂直方向に走行するが,これらの線維束のほかに,とくに内穎粒層には外 Baillarger線条,内錐体層には内 Baillarger線条と呼ばれる水平に走る線維束がみられる.後頭葉の鳥距溝の周囲には視覚の中枢があり,その皮質の内穎粒層は著しく厚く,横走する線維束である外Baillarger線条が肉眼でも認められ,これをとくに,ヴィク・ダジール線条という. 3)嗅脳と辺縁葉(古皮質と原皮質):ヒトの終脳の大部分を占める系統発生学的には,新しい,いわゆる新皮質と呼ばれる大脳皮質の基本的構造が6層構造をとるのに対して,系統発生学的には古い皮質である嗅脳と辺縁葉は新皮質にみられるような6層構造をとらない. 嗅 脳:系統発生学的には最も古い,古皮質に属し,嗅覚に関係するがヒトではあまり発達していない.明らかな層構造を示すのは嗅球のみである. 辺縁葉:系統発生学的には,古皮質よりも新しく原皮質に属し,間脳・脳梁を馬蹄形に取り囲む部分で,帯状回,海馬傍回および歯状回を含めた海馬などよりなる.前端は嗅脳につらなり,嗅覚と関係があるといわれてきたが,大脳辺縁系として本能的行動や情動に深く関係している.また海馬は,記憶とも関係があるといわれている. 4)大脳皮質の諸中枢(大脳の機能局在):大脳皮質は,神経系における最高中枢であるが,その機能は皮質全般にわたって一様に行われるものではなく,その部位によっておのおのその機能を異にする.すなわち,大脳皮質内にはいろいろな機能の最高中枢が局在している.大脳皮質を機能的な面から分類すると,主なものは次のとおりである. a)皮質運動中枢:大脳皮質の運動中枢は,主として中心前回,さらに前頭葉の後部および中心傍小葉に局在し,大脳皮質の運動中枢には錐体路中枢および錐体外路中枢の一部がある. i)〔皮質〕錐体路中枢:一般に皮質運動中枢と呼ばれていたものであり,次のような局在がみられる. @下肢の筋:中心傍小葉と中心前回の上方1/4部とに局在する. A 体幹の筋:上前頭回の大部,中心傍小葉の一部および下肢の運動中枢のすぐ下につらなる部位. B上肢の筋:中心前回の中央2/4の部位. C顔面筋(表'|青筋),舌筋,咀囑筋,喉頭筋,I因頭筋:中心前回の下方1/4の部位. D眼筋と頭部の筋:中前頭回の後部. 上記の各中枢から起こる運動性神経線維は,主として対側半身,一部は同側半身の筋に至る. ii)皮質錐体外路中枢:錐体路中枢のように1カ所に局在することなく広く大脳皮質の各所に散在する.その主なものを次にあげる. @前頭錐体外路中枢:前頭葉の外側面後部にある. A 頭頂錐体外路中枢:上頭頂小葉にある. B 後頭錐体外路中枢:後頭葉の外側面前部にある. C 側頭錐体外路中枢:上側頭回にある. b)皮質知覚中枢:体知覚域とも呼ばれ,皮膚知覚すなわち圧覚・触覚・痛覚.温度覚および深部覚(筋・腱から)などの中枢であり,主として中心後回・中心傍小葉およびこれに接する頭頂葉前部の−小部に局在し,身体末梢部との関係は錐体路中枢と同様に左右および上下の関係が逆となり,身体上部の中枢が対側下方に,身体下部の中枢が対側上方に存在する. c)皮質視覚中枢:主として,大脳半球内側面で鳥距溝の近くにある皮質内に局在するが,なお−小部は半球の外面にも及んでいる.皮質視覚中枢では,ただ,ものを見るにとと゛まり,その判断は視覚の連合野がかかわる. d)皮質聴覚中枢:側頭葉の横側頭回(上側頭回の上面に位置する)に局在する.皮質聴覚中枢では,前記の視覚中枢と同様に音を聞くにとどまり,その判断は聴覚の連合野がかかわる. e)皮質味覚中枢:嗅覚中枢の付近に局在するといわれていたが,舌の知覚中枢の付近(中心前回と中心後回の下端融合部とその弁蓋部)にあるといわれている. f)皮質嗅覚中枢:海馬傍回および海馬の前部(嗅内野)に局在するらしい. g)言語中枢:大脳半球の外側面に局在し,下記のごとく区別されている. i)運動性言語中枢(ブローカ中枢 Broca,s area):中心前回の下前方にある下前頭回の底部(ブロ−カ回)に局在し,言語運動に必要なこまかい運動を支配する中枢で,この中枢が障害されると運動性失語症 motor aphasiaをきたす. ii)感覚性(聴覚性)言語中枢(ウエルニツケ中枢 Wernike,s area):上側頭回の後方1/3の部および縁上回の隣接部に局在するといわれている.聞いた言語を理解する中枢で,この中枢が破壊されると音は聞こえてもその内容の理解が不可能となり,いわゆる感覚性失語症 が起こる. iii)視覚性言語中枢:下頭頂小葉の角回に局在し,文字に対する理解の中枢である.これが障害されるときは文字は見えても,その理解が不可能となり,失読症 alexiaを招来する. 実際に,言語が完全に理解されるためには上記の言語中枢のほか,さらにこれらの中枢からの興奮を総合する高次中枢の存在が必要と思われる. 以上述べてきた諸中枢のうちで,運動中枢および知覚中枢などは身体の末梢部と伝導路を介して直接の連絡をもつため,これを総称して投射中枢という.その他の皮質中枢(大脳半球全表面の約2/3を占める)は末梢部との関係よりも,むしろ大脳皮質内における諸中枢間の連絡,すなわちさまざまな情報の統合をつかさどるもので,これらを連合中枢という.連合中枢は,なお高度な精神機能にあずかるものであり,ヒトの脳ではその発育がとくに著しい.
b.大脳核 :終脳の灰白質の一部は,白質(髄質)の深部にも存在して大脳核(大脳基底核)をつくることはすでに述べたが,ヒトでは尾状核・レンズ核・扁桃体および前障の4核を数え,特有な神経細胞の集団からできている.骨格筋の不随意的運動を支配し,中脳の黒質とともに錐体外路系の重要な中枢としてはたらく. l)尾状核 :尾状核は,視床の外側に位置し,側脳室の底および外壁の一部となる.前端は膨大して尾状核頭,後方につづく部分を尾状核体,後部は次第に細くなり尾状核尾という.尾状核体および尾状核尾は側脳室中心部を過ぎたのち,前方に湾曲して側脳室下角の上壁に入り,その尖端は扁桃体につらなる. 2)レンズ核 :レンズ核は,双凸面レンズ状を呈し,尾状核および視床の外側に位置し,島の深部にある.水平断面および前頭断面ではほぼ要を内方に向けた扇状を呈し,その内面は内包を隔てて視床に対し,外面は外包によって前障から隔てられる.なお,レンズ核の前部下側は尾状核と結合する.レンズ核の新鮮材料を横断すると色調を異にする内・外の2部が薄い髄板によって境されているのがみられる.その内側半を淡蒼球といい,外側半を被殻という.淡蒼球は白色を呈し有髄線維に富み,被殼はやや赤褐色で神経細胞に富んでいる. 被殻と淡蒼球は,融合して 1つの核となるが構造的にはまったく異なる.被殻は尾状核と線維的および作用的に密接な関係があり,両者を合わせて線条体と呼ぶ. 線条体および淡蒼球は,ともに重要な錐体外路系の中枢で,骨格筋の運動ならびに緊張を無意識的に支配している.従来,線条体という名称は多様の意味をもち,ときにはレンズ核全体と尾状核とを総称し,あるいは大脳核全体をさした. 3)前 障 :前障は,レンズ核と島皮質との間にある薄板状の灰白層をいう.その平坦な内側面は被殼に向かいその問を外包が分隔し,外側面は多数の突起を出して島の灰白質から白質すなわち最外包によって分隔される. 4)扁桃体 :扁桃体は,レンズ核の腹側にあって,側頭葉前端の内部に位置し,内側は海馬傍回皮質につらなる. 前障と扁桃体との意義については,不明な点が多いが,扁桃体は嗅覚に基づく反射運動を仲介する核であると考えられている.
c.大脳髄質 :大脳半球の内部は,大脳核(灰白質)以外の部分は白質で満たされる.白質の主な成分は,有・髄神経線維であるが,その線維の走行する方向に従って3種に分けられ,おのおの集束して神経路(伝導路)をつくる.
l)連合神経路:同側半球皮質の諸部を連絡する線維の集合をいい,次の5種があげられる. a)〔大脳〕弓状線維:隣接する大脳回を弓状に連絡する. b)鈎状束:側頭葉前外端から島下面をへて前頭葉下面に至る弧状の神経束で,前下方に凹面を向ける. c)帯状束:前頭葉底面から脳弓回の中を通って〔海馬傍回〕釣にまで達する. d)上縦束:前頭葉から後頭葉に至る神経束で,半球外側面の諸部を互いに連結する. e)下縦束:側頭葉前端から後頭葉後端に至るもので,その線維の大半は投射線維で,ことに視放線に属するものといわれている. 2)交連神経路:左・右両半球の皮質を連絡し,脳梁・前交連などがこれに属する.脳梁では脳梁放線として,両側半球皮質に放散している. 3)投射神経路:長・短いろいろな神経路があり,大脳皮質から起こって下位の中枢に向かう下行性のもの,および末梢から中枢に向かう上行性の2種の神経線維群である.
以上の神経線維群を全体としてみると,脳梁幹の上部水平断面では,最も広大な半卵円形の白質塊すなわち半卵円中心がみられる.半卵円中心は,脳梁放線などからきており,その周縁は多数の尖に分裂して大脳回の皮質内に放散して終わっている.脳梁の下部水平断面では,白質は大脳核によって分離され,内包および外包をつくる.
内 包 :レンズ核の内側にあり,水平断面では凸側を内方に向けた「〈」字形を呈する. 内包を分離して前方から〔内包〕前脚,〔内包〕膝および〔内包〕後脚という.前脚は尾状核頭とレンズ核との間,後脚は視床とレンズ核との間,膝は前・後両脚の移行部をいう. 内包は,大脳皮質中枢と脳の下部および脊髄を連結する重要な投射神経路が必ず通過する場所であり,また脳出血の好発部位として臨床的にもきわめて重要視される.
内包を通過する投射神経路 前脚 前視床脚(視床と前頭葉とを連絡する) 前頭橋〔核〕路(前頭葉皮質から同側の橋核に至る) 膝 皮質核路(錐体路中枢から脳幹の運動性脳神経核に至る) 後脚 皮質脊髄路(錐体路中枢から脊髄前角に至る) 被蓋放線(視床から中心後回などに至るもので,皮質知覚および深部知覚などの中枢路) 後頭橋〔核〕路,側頭橋〔核〕路,頭頂橋〔核〕路(後頭葉,側頭葉,頭頂葉などの皮質から橋核に至る) 視放線(−次視覚中枢から皮質視覚中枢に至る) 聴放線(−次聴覚中枢から皮質聴覚中枢に至る)などがある.
外 包 :レンズ核と前障との間の白質をいい,最外包とは,前障と島皮質との間の狭い白質をいう.そして,外包と最外包には,主として連合神経路,−部交連神経路が通る.
脳に分布する血管
1.脳の動脈 脳に分布する動脈には,a.内頚動脈の枝(前大脳動脈,中大脳動脈,前脈絡叢動脈,後交通動脈)と b.椎骨動脈の枝(後下小脳動脈)と椎骨動脈につづく脳底動脈の枝(前下小脳動脈,迷路動脈,橋枝,上小脳動脈,後大脳動脈)がある. 前大脳動脈・中大脳動脈および後大脳動脈は前・後交通動脈によってつらなり,脳底に大脳動脈輪(ウィリスの大脳動脈輪)をつくる.
a、内頚動脈の枝(大脳動脈):内頚動脈は,眼動脈を出したのち,大脳動脈となり次の枝を出す. 1)前大脳動脈 :両側の前大脳動脈は大脳縦裂内を脳梁膝に沿って,はじめ上前方に走り,ついで脳梁の背側面を後ろに走り脳梁および大脳半球内側面に分布する.両側の動脈は,脳梁吻の付近で視〔神経〕交叉の前を横走する前交通動脈により吻合される.前大脳動脈の分枝には皮質枝(眼窩枝,前頭枝,頭頂枝)および中心枝がある. 2)中大脳動脈 :最大枝(内頚動脈の終枝)で,外側溝を後外側方に走り,これに接する葉を養う.すなわち,外側溝の壁,大脳半球外側面の大部分に分布し,かつ脳底部では前有孔質から内部にある大脳核および内包などに至る臨床上きわめて重要で,最もしばしば脳出血を起こす多数の小枝,皮質枝(眼窩枝,前頭枝,頭頂枝,側頭枝)および中心枝(線条体枝)を出す. 3)前脈絡叢動脈 :視索とともに外側後方に側脳室下角中を走り,脈絡叢に至る不定の細枝である. 4)後交通動脈 :前床突起の近くで内頚動脈から起こり,蝶形骨のトルコ鞍の外側を直後方に走り,脳底動脈の分岐により生じる後大脳動脈と結合する.
b.椎骨動脈 ,脳底動脈 とその枝: 1)椎骨動脈とその枝:椎骨動脈は鎖骨下動脈の最大枝で,前斜角筋と頭長筋との間を上行し,第6(あるいはまれに第5)頚椎の横突孔からこれより上位のすべての頚椎の横突孔を通る.環椎(第1頚椎)の横突孔を通ったのち,後方に曲がって環椎(第1頚椎)の椎骨動脈溝を水平に内側方に走り,後環椎後頭膜を貫いてから脊柱管および大〔後頭〕孔を通り,脳硬膜を貫通して頭蓋腔中に入り,小脳下面の後部に至る後下小脳動脈を出す. 2)脳底動脈とその枝:左右の椎骨動脈は斜台と延髄との間を上内側方に走り,延髄と橋の境で左右の椎骨動脈が合し脳底動脈をつくる.脳底動脈は,以下の枝を出しながら終枝である後大脳動脈に分かれる. a)前下小脳動脈 :脳底動脈の中央から起こり,小脳の前下面に分布する. b)迷路動脈 :細い小枝で,しばしば前下小脳動脈から起こり,内耳孔を通って内 耳にいく. c)橋 枝 :1〜2本の細い小枝で橋内に入るが,ときに欠如する.また,しばしば小脳動脈から出る. d)上小脳動脈 :脳底動脈が左・右の終枝(後大脳動脈)に分岐するすぐ後方で起こり,小脳テントの下側で小脳の全上面に分布する. e)後大脳動脈 :脳底動脈の終枝である.大脳脚を回って外側後上方に走り大脳の後部に至る.後大脳動脈は皮質枝(側頭枝,後頭枝,頭頂後頭枝),中心枝および〔後〕脈絡叢枝を出す.後大脳動脈は,内頚動脈あるいは中大脳動脈と後交通動脈を介して吻合することによって脳底に輪状あるいは六角形の大脳動脈輪をつくる.
c.大脳動脈輪(ウィリス大脳動脈輪)の構成にあずかる動脈: 前方一前交通動脈 側方―(前方)…左,右前大脳動脈 (後方)…左,右内頚動脈 左,右後交通動脈
後方―左,右後大脳動脈
d.脳における主な動脈の分布域: 1)前大脳動脈:前頭葉と頭頂葉の内側面の皮質と髄質に分布する. 2)中大脳動脈:終脳(大脳半球)の外側面の大部分と前頭葉,側頭葉の一部に分布する. 3)後大脳動脈:釣より後方の側頭葉と後頭葉の下面,後頭葉の内側面,さらに中脳に分布する. 4)前脈絡叢動脈:主に側脳室の脈絡叢に分布する. 視床.線条体および内包への動脈:視床は主として後大脳動脈からの枝,前・後脈絡叢動脈からの枝を,線条体および内包は主として中大脳動脈からの枝(線》鮴枝)を受けている.これらの動脈は,脳の表面に直角をなして脳の実質に侵入し,いわゆる終動脈となるので,血管がひとたび閉塞するとその分布域の栄養は他から補われないので,壊死を起こす(脳梗塞).
2、脳の静脈 脳の静脈の多くは動脈と関係なく走り,主に表在性静脈は硬膜静脈洞に,深在性静脈は大大脳静脈に集まったのちに直静脈洞にそそぐ.脳の静脈は硬膜静脈洞と同様に弁をもたない.
l)大脳の表在性静脈あるいは外大脳静脈 : a)上大脳静脈:大脳半球の表面を走り,大脳縦裂に集まり,内側面からの静脈を合わせて上矢状静脈洞に入る.10本以上みられる. b)浅中大脳静脈 :ほぼ中大脳動脈の分布域からの静脈血を集め,大脳の外側溝から海綿静脈洞に入る.なお,上吻合静脈および下吻合静脈で付近の静脈洞と連絡する. c)下大脳静脈 inferior cerebral veins:大脳の下面および側面下部から出て,大部分は海綿静脈洞,上錐体静脈洞に,後方の一部は横静脈洞に入る.
2)大脳の深在性あるいは内大脳静脈 : a)視床線条体静脈 b)透明中隔静脈 :視床線条体静脈は,線条体・視床・脳梁から,透明中隔静脈は透明中隔からきて,ともに分界条内を前方に進む. c)脈絡叢静脈 :脈絡叢静脈は,側脳室脈絡叢から起こる. d)脳底静脈 :脳底静脈は,大脳底部にある最大の静脈で,前大脳動脈の大部分・中大脳動脈の一部分の分布域からの血液を集め(深中大脳静脈 ・前大脳静脈 ・線条体静脈),前有孔質から大脳脚を回って上行し内大脳静脈に入る. 以上の静脈は集まって左・右の内大脳静脈をつくり,両側のものは第三脳室脈絡組織内を通り,合流して大大脳静脈great cerebral vein(Gale、,s vein)となり,脳梁下面と中脳蓋の間を後方に進み直静脈洞に入る.
3)小脳の静脈: a)上小脳静脈 :小脳の上面から起こり,正中線に集まって大部分は直静脈洞に,一部分は横静脈洞および内大脳静脈に入る. b)下小脳静脈 :小脳,橋,延髄の下面から起こり,外方に走って多くは横静脈洞, S状静脈洞,下錐体静脈洞に入る.

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