| [27] A髄膜、脳:脳の区分、脳に分布する血管2 |
- sizu - 2005年01月29日 (土) 20時12分
<脳> 脳は,中枢神経系の主部となり,頭蓋腔の中に存在する.脳・脊髄も含め,神経系は外胚葉から発生し,一般に行われている脳の分類はその発生に基づくものである.中枢神経系の発生で述べるように,延髄,橋,小脳は菱脳に,中脳は中脳に,間脳と終脳は前脳に由来するが,最終的に脳を延髄,橋,小脳,中脳,間脳,終脳に区分する.延髄・橋・中脳をあわせて脳幹といい,ここには生命維持に重要な中枢が存在する(間脳を脳幹に含める場合もある).
A・延 髄 1.延髄の外景 延髄は,脳の最下部を占め斜台に乗り,上方の橋と下方の脊髄との間にある約3 cmほどの長さの円柱状の部分で,上位の脳と脊髄とを連絡する伝導路と脳神経核(IX〜 XII),オリーブ核などを含む.延髄と橋との境界は明瞭であるが,延髄と脊髄との境界は脊髄の項で述べたように,あまり明らかでなく,通常錐体交叉の下端,または第 1頚神経根の上縁の高さをもってその境界としている. a.腹側面からみた外景: 延髄の前正中線には〔前〕正中裂という縦溝があり,その両側には〔延髄〕錐体という隆起があり,錐体路に属す線維束が通る.これらの線維束の大部分は錐体の下方の錐体交叉で左右が交叉する.錐体の外側には脊髄の前外側溝のつづきがあり,舌下神経が出ることから舌下神経溝ともいう. 錐体の外側には前外側溝を隔てて楕円形の隆起がある.これをオリーブといい,オリーブ核およびその副核(内側・背側副オリーブ核)を含む.オリーブの後側にはいわゆるオリーブ後溝がみられ,舌咽・迷走および副神経が出る.
b.背側面からみた外景: 延髄の背側面正中にある〔後〕正中溝は,脊髄の後正中溝のつづきで,その外側には脊髄の薄束および模状束のつづきがあり,これらはすべて延髄と同じ名称をもっている.薄束は上方の菱形窩の下方で薄束結節という隆起部をつくり,その中には薄束核がある.また,模状束は喫状束結節をつくり,その中に模状束核をもつ.これらは知覚性(上行性)伝導路の1つである長後索路の主要中継核として後索核に属すものである.側索の背部は,頭(上)方において広くなり灰白質の隆起すなわち灰白結節をつくり,その中に三叉神経脊髄路核が含まれている.
2.延髄の内景 延髄の内部構造は下部では脊髄の構造とほとんど同じであるが,上方の橋に近づくにつれその構造は異なってくる.ただし,延髄と脊髄の最大の共通点は,延髄でも脊髄と同様に灰白質がその深部に,白質が表層に位置することである.
a.延髄にある脳神経核: 延髄には第9脳神経(舌咽神経),第10脳神経(迷走神経),第11脳神経(副神経),第12脳神経(舌下神経)のそれぞれの核,さらに,第7脳神経(顔面神経),第8脳神経(内耳神経)の核の一部がある.
b.脳神経核以外の核: l)後索核(薄束核,模状束核): 延髄後角の中間部には延髄後索核(肉眼的には薄束結節および模状束結節に相当)が出現するが,これらは身体の末梢部から脊髄後索を通って上行する知覚性脊髄神経線維の中継核としてきわめて重要なものである.
2)オリーブ核群: オリーブにあるオリーブ核ならびに内側・背側副オリーブ核をいい,これらは身体の平衡,とくに直立歩行などに関係する重要な核で,人ではよく発達している.
3)網様核(被蓋運動核): 網様体の中に散在する神経細胞の総称であり,他の運動性核および知覚性核などと連絡する系統発生学的にみて最も原始的な核であるが,身体の平衡にも関与するといわれている.網様体は延髄の基本的構造をつくるものであり,多方向に交錯して走る神経線維の網目中に多数の神経細胞を含んでいる.
4)弓状核: 錐体の腹側にある弓状の核で,この核からの前・外弓状線維は錐体の表面外側から,下小脳脚をへて小脳に入る.
3.主な伝導路 伝導路として重要なものに錐体路,内側毛帯,内側縦束などがある. 錐体路: 大脳皮質の運動中枢から直行する運動性(下行性)伝導路で,そのほとんどは延髄で錐体交叉を行う. 内側毛帯 : 主として延髄後索核(薄束核および模状束核)から出て間脳の視床核へいく線維からなるもので,正中線で交叉し毛帯交叉をつくる.毛帯交叉は錐体交叉のすぐ上方に位置する. 毛帯交叉を行う線維は,主として脊髄神経の後根線維の長い枝につづく第二次ニューロンとして後索核から出たもので,内弓状線維として腹前方に弓状に走り,交叉後は対側オリーブ核の内側に位置して,いわゆる毛帯オリーブ間層となる.錐体交叉(運動性交叉)と毛帯交叉(知覚性交叉)はともに延髄下部から中部にかけてみられ,これらはきわめて重要である. 内側縦束: 中脳前端から脊髄下端にわたる,系統発生学的には古い運動性伝導路である.
B.橋 1.橋のタト景 橋は,小脳の腹側部にある白質の膨大部で,延髄とともに斜台にのる.後方(尾方)は延髄に連なり,前方(頭方)は中脳(大脳脚)につづく.その外側部はのびて小脳に入り,これを中小脳脚という・橋の外側中央部からは三叉神経,後縁からは外転神経・顔面神経・内耳神経が出入りする. 脳底溝: 橋の前(腹側)面正中線にある脳底動脈が通る浅い縦溝. 横橋線維: 橋の腹側面を横走する線維束で,これらが外側で中小脳脚をつくり小脳半球につづく(橋は左右の小脳半球を結ぶ橋のようにみえることにより名づけられた).
2.橋の内景 橋は,横断面できわめて明確に,腹・背の2部,すなわち橋背部(橋被蓋)と橋腹側部(橋底部)に分けることができる.両者の境界は橋背部の深部を横走する内側毛帯である.
a,橋背部(橋被蓋): 横断面では灰白色を呈し,その基本的構造は延髄および中脳(大脳脚)の背側部につづく網様体で,そこにみられるの神経細胞は広義の網様核または被蓋運動核である. 1)脳神経核: 第5脳神経(三叉神経),第6脳神経(外転神経),第7脳神経(顔面神経)および第8脳神経(内耳神経)の核がある. 2)主要な伝導路: 内側毛帯,外側毛帯,内側縦束などがあげられる.内側縦束は,第4脳室底の腹方で正中線背側部の両側にある.内側毛帯は橋背部の腹側にある最も重要な皮膚知覚路であり,外側毛帯はその外側方にあって聴覚の伝導路をなしている.
b、橋腹側部(橋底部): 横走ならびに縦走する神経線維束からなる.縦走する伝導路としては中央部に錐体路,その両側に皮質橋路がみられ,ともに大脳皮質から直行する下行性(運動性)伝導路である. 1)錐体路: 一部分は橋の運動性脳神経核に連絡するが,大部分は橋縦束として橋底部を貫いて脊髄前角まで直行する.皮質核線維と皮質脊髄線維がある. 2)皮質橋路: 内側部と外側部とに分けられるが,いずれも同側の橋核に終わり,橋核からは二次神経路すなわち橋小脳路が出て正中線で交叉し,対側の中小脳脚を経て小脳皮質に至る. 橋核とは,橋底部の横走線維中に介在する多数の神経細胞群の総称で,皮質橋[核]路の終止核となり,この部の横走線維は主として橋核の軸索からできており,上記の橋小脳路となっている.
C.中脳 中脳は,橋と間脳との間にあって,背側部すなわち中脳蓋は蓋板(上丘・下丘)と丘腕(上丘腕・下丘腕)からなり,腹側部は大脳脚および被蓋からできている.大脳脚と被蓋は中脳の外側面を縦走する〔中脳〕外側溝によって,内側は内側溝によって境される.
1.中脳蓋 a・中脳蓋の外景:蓋板および丘腕からなる.中脳の背側にはその表面に2対の円形隆起がみられ,これを蓋板といい,そのうち後下方の1吋を下丘,前上方の1対を上丘(合わせて四丘体)という. 丘腕は,それぞれ下丘および上丘から起こって前外側に走る隆起である.下丘腕は,内側膝状体に入り,上丘腕は,内側膝状体の上および視床枕の下を通り,−部は外側膝状体に,また−部は視床枕に入る.上丘・上丘腕.外側膝状体.視床枕は視覚に関係があり,下丘・下丘腕・内側膝状体は聴覚に関係する.
b・中脳蓋の内景: 上丘と下丘は,構造も作用もまったく異なる.下丘は聴覚に関係してその中継点となるもので,構造も簡単であるが,上丘は作用・構造ともに下丘に比べてはるかに複雑であり,視覚との関係が最も緊密であるため視蓋とも呼ばれるが,他の知覚にも関係があるといわれる. 下丘の表面は白質におおわれており,その中心に灰白質である下丘核が 1つだけある.その周囲には髄包と呼ばれる有髄線維の集まりがあり,この髄包をつくる線維の大部分は外側毛帯からきている.外側毛帯が牛神経からの刺激を伝える経路の中心であることから下丘核は聴覚にたずさわるものと考えられる. 上丘は神経細胞と神経線維からなる7層が区別され,第 1,第3,第5,第7の奇数層は主に有髄線維層で,その間に介在する第2,第4,第6の偶数層は神経細胞層で,これらは,上丘灰白層と呼ばれる.これらの上丘灰白層の最下層には深在の白質層すなわち深白層(第7層)があり,深白層の内方には中脳水道を囲む中心灰白質がみられる.
2.大脳脚と被蓋 a.大脳脚の外景: 大脳脚は中脳の下面にあり,橋の前縁から起こる大線維束で,乳頭体の外側を走り,視索を越えて終脳に入る.左・右大脳脚の間の三角形の深い窪みを脚間嵩といい,脚間窩の底には後有孔質と呼ばれる血管が通過する多数の小孔がある.大脳脚の内側面には大脳脚と被蓋の境となる大脳脚内側溝があり,動眼神経が出る.
b・大脳脚の内景: 大脳脚は,大脳皮質の発達につれてできた新しい部分であり,大脳皮質から出て運動に関係する下行性伝導路,すなわち錐体路系と錐体外路系に属している縦走線維束からなる.大脳脚の中央2/3の部を|随意運動に関係する錐体路系の線維束が占め,残りの部を不随意運動に関係する錐体外路系の線維束が占める.
c・被蓋の内景: 大脳脚の背側部を被蓋といい,中脳の深部にある.暗褐色のメラニン色素を含む神経細胞の集まりからなる黒質によって背側部の被蓋と腹側部の大脳脚が明瞭に区別される.被蓋には黒質の他に,鉄を含み赤色を呈する神経細胞の集まりからなる赤核などがある.被蓋の基礎的構造は網様体であり,網状に錯走する神経線維の網目内に黒質,赤核の他に脳神経の運動核(動眼神経核,滑車神経核),知覚核(三叉神経中脳路核),上・下行性伝導路などが含まれ高次中枢と末梢部との連絡を保つ部位となっている.
3.中脳に存在する脳神経核 脳神経核のうち動眼神経核,滑車神経核,三叉神経中脳路核がある. 中脳水道を囲む中心灰白質の腹側方で上丘の高さには動眼神経核が,そのすぐ下には滑車神経核がみられる.動眼神経核には内側・外側の2部が区別され,内側部は副交感性の細胞からなり,動眼神経副核といい,正中線の両側に位置し中心灰白質内にある.この核からの神経線維は瞳孔括約筋,毛様体筋など眼球内の平滑筋に分布し,光線に対する瞳孔の対光反射,ならびに遠近に対する調節などを支配する.外側部は固有の動眼神経核で,分節的に前方から後方に向かって上眼瞼挙筋,上直筋,内側直筋,下斜筋,下直筋を支配する神経細胞の順に配列している. 三叉神経中脳路核は,中心灰白質の周辺部にある散在性の大きな神経細胞からなる.
4.脳神経核以外の運動性核(赤核,黒質,内側縦束核) 1)黒質 : 中脳被蓋と大脳脚との境にある核で,神経伝達物質であるドーパミンの合成過程で作られるメラニン色素を多量にもつ神経細胞が集まっているので肉眼的に黒く見える.黒質は錐体 外路系に属するもので,パーキンソン症候群(パーキンソニズム)などではこの部位に変性がみられる. 2)赤核 red nucleus: 中脳被蓋の中央部を占める細胞群で,鉄を含むといわれ赤色を呈する.間脳尾側から上小脳脚の交差までの高さを占め,上丘の高さでは動眼神経がこれを貫く.入力線維は対側小脳の主として歯状核,同側大脳皮質前頭葉からうけ,出力線維は脊髄,小脳,オリーブ核に達する.錐体外路系の中継核として不随意的な運動に関係する. 3)内側縦束核(後縦束核) : 動眼神経核の前外側に位置し,既述の内側縦束(後縦束)を出している. 伝導路の主なものとしては,上小脳脚,内側縦束,内側毛帯,外側毛帯,赤核脊髄路,中心被蓋路,視蓋脊髄路などがある.
D.小脳
1.小脳のタト景 小脳は,大脳後頭葉の下方,橋の背側にあって後頭蓋窩中に位置し,延髄・橋および菱脳峡とそれぞれ下小脳脚・中小脳脚および上小脳脚をもって結合する.小脳の表面にある多数の小脳溝が,小脳の表層部(皮質)を多数のヒダすなわち小脳回に分ける. 小脳は中央部の虫部および両側部の小脳半球に分けられる.虫部と半球は,ともに数本の深い溝により一定数の小葉に区分される.小脳に上・下面を区別し,また後方には小脳の後縁を横走する深い裂溝すなわち小脳水平裂があって,上・下面を境する.小脳半球の下面は著しく膨隆し,そのため虫部は深く陥没して小脳谷を示し,ここに延髄を入れる. 虫部および小脳半球を各部に分ける. a .虫 部 b.小脳半球 (上虫部) (上面) 1)小脳小舌 1)(小脳小舌ヒモ) 2)小脳中心小葉 2)中心小脳翼 3)山頂 3)四角小葉 山腹 単小葉 4)虫部葉 4)上半月小葉 (下虫部) (下面) 5)虫部隆起 5)下半月小葉 6)虫部錐体 6)二腹小葉 7)虫部垂 7)小脳扁桃 8)〔虫部〕小節 8)片葉
a、虫 部 : 1)小脳小舌: 小脳の正中部の狭い部位で,系統発生学的には最も古い部分であり,ヒトでは痕跡的である.なお,小脳小舌に対応して小脳半球にある小脳小舌ヒモも痕跡的である… 2)中心小葉 : 小脳小舌の後方につらなる小葉で,その両側に中心小葉翼がある. 3)山頂および山腹 : 虫部上面の大部分を占め,高い前部の山頂および低い後部の山腹の2部からでき,小脳半球の四角小葉,単小葉に対応する. 4)虫部葉 : 後小脳切痕内にある小葉をいい,左.右の上半月小葉を互いに結合する. 5)虫部隆起: 最も後方で,水平裂の下方にある.両側は下半月小葉につづく. 6)虫部錐体: 虫部隆起の前方に連なる突出部で,小脳半球の二腹小葉の問に位置する. 7)虫部垂 :左右の小脳扁桃の問に位置する. 8)〔虫部〕小節 :最も前方に位置する球形の小結節で,外側方は片葉につづく.
b、小脳半球: 1)(小脳小舌ヒモ):ヒトでは痕跡的である. 2)中心小葉翼 :小脳中心小葉の側方につづく部分. 3)四角小葉 : 四角形を呈し,小脳半球上面の大部分を占め,虫部上面の山頂および山腹に対応する.深い裂溝(第一裂,前上裂)によって,四角小葉と単小葉とに区分される. 4)上半月小葉 : 小脳後縁に沿う半月状の部分で,水平裂により,下半月小葉と境される. 5)下半月小葉 :水平裂を介して上半月小葉に接在する. 6)二腹小葉 : 下半月小葉の下にあって,半球下面の主部となる. 7)小脳扁桃 : 二腹小葉と小脳谷との間にある卵円形の突出部で,虫部垂に対向する. 8)片 葉 : 二腹小葉および小脳扁桃の前方にみられる小葉で,その内側は片葉脚で,〔虫部〕小節の前にある非薄な髄板すなわち下髄帆につらなる. 下半月小葉と二腹小葉との間の境界溝を後下裂,二腹小葉と小脳扁桃との間の境界溝を第二裂(前下裂)という.また〔虫部〕小節と片葉は系統発生学的に古い部分に属し,これらと他との間の境界溝を後外側裂という.
2.小脳の内景 a、小脳の灰白質: 小脳の灰白質は小脳の表面をおおい,表層では皮質を,深部では核を構成する. 1)小脳皮質の構造:小脳皮質は,分子層,プルキンエ細胞層および穎粒層の3層からなる. a)分子層(灰白層) molecular layer:小脳の最表層部をなし,主として神経膠からなる.なお,その中には他層からの穎粒細胞の軸索およびプルキンエ細胞の樹状突起のほかに,犬・小2種の神経細胞を含む. @籠細胞 : 深層にあって,多極性で,樹状突起は表面に上り,軸索は水平に横走し,その終末分枝をもってプルキンエ細胞を籠状に包み,これと連絡する. A星状細胞 : 多極性で少数の樹状突起を出し,また多岐性の軸索をもつ.この細胞は籠細胞の外層にあって,プルキンエ細胞とは無関係である. b)プルキンエ細胞層(神経細胞層) : プルキンエ細胞という巨大神経細胞の1列からできる.大きな樹状突起は,樹枝状に分岐して分子層に出て,軸索は下って白質に入り,穎粒層および小脳核にいく. c)穎粒層 : 最内層で褐色を呈し,主として次の2種の神経細胞からできる. @小穎粒細胞 : 多極性で最も多数を占め,その樹状突起は短く熊手状で細胞の近くに終わるが,軸索は細くて表面の分子層まで上り, T字形に2分して終わる(平行線維).小穎粒細胞の樹状突起は苔状線維とシナプスをつくる. A大穎粒細胞(ゴルジ細胞) : 大きさは小穎粒細胞の2倍もあるが,その数は非常に少なく,同じく多極性であるが,その突起の方向は小穎粒細胞と逆の関係を示す.すなわち,その樹状突起は分子層に達し,軸索は穎粒層内に分岐して叢をつくっている. 小脳皮質には小脳に入る求心性線維である苔状線維(脊髄,橋から),登上線維(オリーブ核から)の終末がみられる.
2)小脳核: 白質内に存在し,歯状核・栓状核・球状核および室頂核の4種を区別し,いずれも有対性である.これらの核には小脳皮質のプルキンエ細胞の軸索が主に入るが小脳に入る求心性線維の一部も入り,運動を調節している. a)歯状核 : 半球内にある歯状のヒダをもつ最大の灰白塊であって,歯状核門をもって前内側方に開く.その内部の白質を歯状核髄様中心といい,外周の白質を歯状核襄という. b)栓状核 :根棒状で歯状核門に位置する小灰白塊. c)球状核: 栓状核の内側に散在する数個の円形または楕円形の小灰白塊 d)室頂核: 根棒状を呈し,正中線の両側に位置する. これらの核を系統発生学的にみると,歯状核は小脳半球とともに新しいもので新小脳核と呼ばれ,他は虫部とともに古いものであり,古小脳核と呼ばれる.
b.小脳の白質: 小脳の中心部には無数の有髄線維が集まってできた白質があり,これを髄体という.髄体からは小脳葉に向かって多数の突起が出る.これを白質板といい,小脳矢状断では美しい樹枝状を呈し,小脳活樹と呼ばれる. 小脳脚: 小脳下面の中央部には,小脳と脳幹を連絡する小脳脚がある。小脳脚は,強大な神経線維束からでき,髄体の大きな突起であり,下記のように上・中・下の3対を区別する. a)下小脳脚(索状体) : 肉眼的に,小脳と延髄とを結び,次の中小脳脚と上小脳脚との間からほぼ直角をなして小脳内に進む.前庭小脳路,後脊髄小脳路,オリーブ小脳路などの求心'性線維が通る.その他,小脳皮質から前庭核などに至る遠心`性線維も含まれる. b)中小脳脚(橋腕) : 小脳と橋とを連絡し,下小脳脚の前下側で四角小葉,小脳扁桃および片葉の間から小脳内に入る.橋小脳路の求心`性線維が通る(横橋線維). c)上小脳脚(結合腕) : 小脳と中脳とを連絡し,左右の上小脳脚の間には上髄帆が張る.小脳赤核路,小脳視床路などの遠心'性線維が通る.前脊髄小脳路の求心性線維も含まれる. 小脳と脳幹の連絡は,すべて上記3種の小脳脚によって行われる.すなわち,中小脳脚および下小脳脚をへて脊髄ならびに脳の諸部からの求心性小脳路が小脳皮質に入り,小脳皮質からさらに小脳核に連絡する.小脳から出る伝導路,すなわち遠心性小脳路は,小脳核から出るがその主要なものは上小脳脚を通り,中脳および間脳に至る.なお,橋および延髄と連絡する伝導路は下小脳脚の内側部を通る.このようにして,小脳は身体末梢,脊髄および脳から身体の平衡維持に必要ないろいろな興奮を受け入れ,直接的にはその反応を間脳,中脳,延髄に伝え,間接的にはいろいろな伝導路によって脊髄および身体末梢ならびに高次の脳中枢などにも連絡する重要な器官である. 菱脳峡 : 菱脳峡は小脳と中脳蓋との間に介在する脳の最狭部で,第四脳室の上方部を取り囲む.腹側部と背側部に分けられ,腹側部は菱形嵩上部に相当する.背側部は,両側において3部,すなわち上小脳脚,上髄帆および毛帯三角からできている. a)上小脳脚(結合腕) b)上髄帆(前髄帆) : 左右の上小脳脚間の三角中にのびる白質の薄板であって,その上面に小脳小舌をのせ,第四脳室蓋の上部をなしている.上髄帆の前端の上髄帆小帯の両側から滑車神経が起こる. c)毛帯三角 : 上小脳脚外側面の前半に現れる三角形の白質であり,外側は〔中脳〕外側溝によって大脳脚と,前上方は下丘腕および下丘に接する.毛帯は浅層にある外側毛帯と深層にある内側毛帯に分けられる.
E.間脳
間脳は,中脳の前上方にあって,その大部分は終脳に包まれ,これを背側部の視床脳と,腹側部の視床下部に区別する.間脳の内部は空洞となり,これを第三脳室といい,後下方は中脳水道に通じ,前上方は室間孔により左右の側脳室に通じている.
1.間脳の外景 a、視床脳 : 視床脳を,さらに視床,視床上部および視床後部の3部に区別する. 1)視 床 : 主として灰白質からなる卵形の大きな塊であり,腹側(下面)は視床下部に,外側は終脳に連なり,内側面は第三脳室に向かい,背面のみが脳幹の外面に現れる. 前方は〔視床〕前結節をつくり,後方は視床枕をつくり,外側下方に曲がって外側膝状体に連なる.視床背側面と終脳尾状核とは分界条という浅い溝によって境され,その中には視床線状体静脈が走り,付着板と呼ぶ白質の薄層におおわれる.付着板の内側縁は側脳室の上皮性脈絡板につらなり,脈絡叢を除くと脈絡板の一部は脈絡ヒモとして残る.背面と内側面の境界縁にもまた髄質の白条がみられ,視床の前端に始まり次第に高まりつつ後方に走る.これを〔視床〕髄条といい,第三脳室の上壁をなす上皮性脈絡板につらなり,脈絡叢を除くと脈絡板の一部はまた視床ヒモとして残る. 2)視床上部 : 松果体,手綱,手綱交連および手綱三角を総称して視床上部と呼ぶ. 視床髄条の後端はわずかに膨大して手綱となり,手綱三角をつくったのち,内方にまたがって松果体につらなり,また手綱交連によって左,右互いに結合している.手綱および手綱三角は嗅覚に関する伝導路に関係があるといわれている. 松果体 : 視床の後面において手綱によって手綱三角と連なる松果状の小体で,上丘の間でその上方に位置する.松果体は内分泌器に属し,膠細胞を混える大きな細胞の密集したもので,中に脳砂という石灰質の小体を含む. 3)視床後部 : 視床の後側で視床枕の下方には2個の大豆大の隆起がある. 1つは下丘腕の前方,上丘の外側にみられ,これを内側膝状体といい,他はその外側にみられこれを外側膝状体という.内側および外側膝状体は外見上各1本の線維束を出し,それぞれを視索の内側根および外側根と呼び,大脳脚の外側をめぐって脳底に現れ,外側根のみが視索中に入る.内側および外側膝状体を総称して視床後部という.
b・視床下部 : 視床下部は,脳底に存在し,第三脳室の底となり,視床とは視床下着により境される.前端は終板に,後端は大脳脚および後有孔質につらなり,前後の2部からできる.前部は視神経部,後部は乳頭体部という. 視床下部は内分泌系の最高中枢と考えられ,@体温,睡眠,摂食,飲水,血圧,生殖などの調節にあずかり,A下垂体前葉ホルモンの分泌促進および抑制因子を生成・分泌し,B下垂体後葉ホルモン(オキシトシン,バゾプレッシン)を生成し下垂体後葉に送る. 1)視神経部: 下垂体の前方には線維束の交叉がみられる.これを視〔神経〕交叉といい,左右の視索はここで交叉を行ったのち,視神経となってその前外側角から左右に出る.視〔神経〕交叉のすぐ前には第三脳室の前壁をつくる薄膜があり,これを終板という. 2)乳頭体部: 腹側面は後方から後有孔質の直前に l対の白色半球状の隆起があり,これを乳頭体といい,乳頭体核を入れる.乳頭体のすぐ前には1つの隆起があり,これを灰白隆起といい,下方に向かって少し高くなる.灰白隆起のすぐ前にはさらに円錐状の突起があり,これを漏斗といい,その尖端は下垂体につらなる. 下垂体 :小指頭大で楕円形を呈し,蝶形骨体のトルコ鞍にある下垂体窩内に存在する.下垂体を前葉,後葉に区別する.前葉は,主として上皮細胞索からでき,膠様質を含む部分を中間部という.後葉は主として神経線維および膠細胞からできる.
2.間脳の内景 間脳の内部構造は複雑であるが,いずれも主として灰白質からできている.全般的にみて,自律神経系に対する中枢は視床下部に,脳脊髄神経系に対する中枢は視床脳に存在する. a.視床脳の内景: 視床脳のうち,視床は皮膚知覚,深部知覚,味覚および一部は粘膜知覚に関係し,視床上部は嗅覚,視床後部は聴覚および視覚に関係する核を含む. 視床は主として灰白質からなるが,白質性の視床髄板によって,数個の視床核(群)に分けられる.内側にある髄板は内側髄板と呼ばれ,これより内側方に内側核が,外側方には大きな外側核(広義の)がそれぞれ位置している.外側核の外側方には薄い白質性の外側髄板が,さらにその外側には視床網様核がある.視床網様核の外側方には内包がつづく.視床の最前部の前結節,後部の視床枕と内および外側膝状体,また内側髄板の中にもそれぞれ核が存在する.視床核の分類,名称については研究者によって異なり,前記のような分類のほかに,視床核と皮質との線維連絡による分類もある. 1)視床前核 : 視床の前方にある前結節内に存在し,視床下部の乳頭体からの線維束(乳頭視床束)を受ける.大脳皮質の帯状回に線維を送り大脳辺縁系と関係がある.大脳皮質の特定の部位と連絡することから特殊核に分類される. 2)視床内側核 : 視床の内側部を占める核で,内側髄板の内側方にあり,第三脳室の上衣層と接する.視床下部や前頭葉とも線維連絡をもち,視床核と皮質との線維連絡による分類では大脳皮質連合領と結合することから連合核に分類される. 3)視床外側核 : 視床の外側部を占める大きな核で,内側髄板の外側方にあり広義の外側核の背側半を占める部分で背側核ともいう.これらの核からの線維は大脳皮質連合領と連絡することから連合核に分類される. 4)腹側核 : 広義の外側核の腹側半を占める部分.黒質から,また赤核.小脳から線維を受け大脳皮質の体性運動中枢(運動領,運動前野)に線維を送る.また,皮膚感覚と味覚の中継核を含み,大脳皮質の体性知覚中枢に線維を送る.このように外側核の多くは大脳皮質の特定の部位と結合することから特殊核に分類される. 5)内側膝状体核および外側膝状体核 : 視床後部にある内,外側膝状体の中に各1個ずつある.内側膝状体核は聴覚の中継核となり,この核から出る線維は側頭葉にある聴覚中枢に終わる.外側膝状体核は視覚の中継核となり,この核から出る線維は後頭葉にある視覚中枢に終わる.大脳皮質の特定の部位と結合することから特殊核に分類される. 6)髄板内核 : 内側髄板内にみられる核で,中心正中核が,とくにヒトではよく発達している.不随意運動に関係する錐体外路系と関係が深い.視床核と皮質との線維連絡による分類では,これらの核からの線維は大脳皮質全般に広く投射することから非特殊核に分類される. 7)視床網様核 : 外側髄板の外側にある薄い板状の核で,視床の最も外側にあり位置的には髄板内核に入れられることもある.網様体と皮質とを連絡し,非特殊核に分類される. b.視床下部の内景:視床下部は,脳室系をおおう中心灰白質が特別に発達したものと見なすことができ,その内部に種々の自律神経核を含み,これらは自律神経を調節する最高中枢であると考えられている.視床下部についてもその区分は研究者によって一致していないが,前頭断による分類では視床下部脳室周囲層,視床内側野,視床外側野,視索前野の4部に区分する.その他,前方から後方に向かって前部(視索前野),中部(隆起部)および後部(乳頭体部)に分ける分類もある.前頭断による分類に従って記載すると,視床下部には以下のような核がある. 1)視床下部脳室周囲層 : 第三脳室の上衣層と接する薄い層で視交叉上核,漏斗核などがある. a)視交叉上核 : 視〔神経〕交叉の上面外側部にある.光刺激による性周期にかかわるホルモンの分泌と関係するといわれるが,ヒトではあま ')発達していない. b)漏斗核 (弓状核 ): 神経分泌を行う細胞よりなり,下垂体前葉ホルモン放出因子を産生する. 2)視床下部内側野 : 視床下部脳室周囲層の外側に位置している.内側野には前核,腹内側核,背内側核,後核などがあり,摂食に関係する中枢,とくに腹内側核には,いわゆる満腹中枢があるといわれる.その他,以下のような核がある. a)室傍核と視索上核 : 第三脳室に面して存在する核で,この部の神経細胞で産生されたオキシトシン,バソプレツシンは小穎粒となり軸索を通り下垂体後葉に送られる(神経分泌). b)乳頭体核 : 乳頭体中にあって,内側核と外側核からできるが,内側核の方がヒトではよく発達している. 3)視床下部外側野 : 視床下部の最外側にあり内側は視床内側野と外側は大脳脚などと接する.外側野は摂食に関係する中枢があり,水分の摂取を抑制するといわれている.外側野には以下の核がある. a)隆起核 :灰白隆起内にある. b)乳頭漏斗核 :乳頭体の付近にある. 4)視索前野 :本来は終脳に属しており,視床下部に含めない場合もある.

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