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HP管理員 2008年09月04日 (木) 09時07分 No.836
≪日経ビジネスオンライン≫
欠陥住宅の訴訟は通常、建物の買い主は、まず売り主に対して訴えを起こし、さらに売り主が設計事務所と建設会社を訴えるという2段階の構成にする。法律上の形式では、女性がマンションを購入する契約を結んだ相手は売り主の男性であって、建築業者との間に直接の契約関係はないからだ。
しかし女性には、売り主に騙されたという意識はなく、むしろ建築業者が手抜き工事をしたという意識があった。1審で原告の女性についた弁護士も欠陥建築にはそれほど詳しくなかったため、形式上の契約関係を飛び越えて、建築業者を相手に損害賠償を請求する異例の訴訟となった。それでも1審は、瑕疵補修に要する費用や弁護士費用など計7400万円の支払いを命じて原告が勝訴した。
「違法性が強度でない」とした高裁
ところが福岡高等裁判所での控訴審は、一転して原告の女性に厳しかった。もともと女性は、「瑕疵担保責任」と「不法行為責任」に基づいて建築業者に損害賠償を請求していた。だが控訴審では、瑕疵担保責任に基づいて、女性が直接の契約関係にない建築業者を訴えるのは認められないとした。
瑕疵担保責任とは、売り買いの契約当事者間で生じる責任問題に適用される規定なので、欠陥住宅の場合は、売り主を相手にしか責任追及はできないからだ。
これに対して不法行為責任は、契約関係にはない相手に対して追及できる責任で、不特定多数の被害者との間に生じる特徴がある。例えば、道を歩いていて突然殴られたというような被害に対して責任を追及できる。ただし、立証責任は被害者側にある。損害の発生と行為との因果関係を立証する必要があるので、瑕疵担保責任に比べてハードルは高い。
こうして原告の女性は不法行為責任だけで争うことになった。ところが2004年12月に出た高裁判決は、不法行為責任が成り立つのは「違法性が強度」である場合だと限定し、原告の請求を退けた。
高裁は不法行為責任が成立する要件について、例えば売り主が買い主の権利を積極的に侵害する意図で欠陥のある物を製作した場合や、欠陥の程度や内容が重大で、建物の存在自体が社会的に危険という場合などに限った。
控訴審から訴訟を引き受けたのは福岡に事務所を持つ幸田雅弘弁護士。幸田弁護士は「こんな判例を確定させてしまったら全国で同様の訴訟をしている弁護士らみんなに迷惑をかける」として上告した。
2007年7月に出た最高裁の判決は、高裁判断をひっくり返した。最高裁は「建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在している」と指摘。通行人を含む居住者らの生命、身体または財産が侵害された場合、建築業者は生じた損害について不法行為による賠償責任を負うとした。
とりわけ最高裁が「建物としての基本的な安全性」という言葉で、建築に携わる設計者や施工者、工事監理者には、契約関係にない居住者らに対して配慮すべき注意義務を負うとした。これは従来にない判断だった。
弁護士も建築士もできれば関わりたくない
実は、最高裁が欠陥住宅訴訟で建築業者に厳しい判決を出したのは、これが初めてではない。そのきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災にまでさかのぼる。
もともと欠陥住宅の訴訟は1960年代から頻発していた。しかし、ほとんどは原告敗訴の判決ばかり。その理由は、裁判所も弁護士も専門知識が不足していたためだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080903/169484/?P=2
HP管理員 2008年09月04日 (木) 09時11分 No.837
≪日経ビジネスオンライン≫
例えば、新築した建物に雨漏りがあった場合、被害者の買い主は取り替えてくれと裁判を起こす。しかし弁護士が被害者の主張をそのまま訴状に書いても、主張は認められにくい。
例えば雨漏りの原因が、瓦を1枚付け忘れていただけなら、賠償額は瓦を取り付けるだけの数万円の補修費用で終わる。しかし実際には地盤が弱くて建物が傾いたりして屋根が割れた個所から雨漏りがしているならば、地盤から見直して建物を建て替えなければならない。
素人である被害者の訴える雨漏りという「欠陥現象」に対して、専門家である弁護士はなぜ雨漏りが起きるのか「欠陥原因」を訴状に書かなければならない。しかし、原因を専門的な知見に基づいて立証するノウハウがなかった。
裁判官も知識が足りず、裁判は長引くばかり。鑑定を丸投げされた建築士や、建築専門の大学教授も、鑑定人として主観的な見解を述べるだけで、なかなか争いが収まらない。結局、建築士も弁護士も、裁判に関わりたくないと嫌がられる時期が続いたという。
幸田弁護士によると、実際の訴訟では建築業界の徒弟的な人間関係にも阻まれるという。建築関係の大学教授らは、建築業者で働く教え子を悪くは言いにくい。技術的な問題があっても許容範囲内だと証言しがちだ。こうして、そもそも建物が建築基準に照らして問題があるのかという論点にたどり着くことすら最初の山場になってしまうという。
震災を機に設けられた「欠陥住宅110番」
ところが、阪神・淡路大震災で、新築の家屋が大量に倒壊する被害が続出して以来、「隣の古い建物は倒れずに残っているのになぜうちが倒れるのか」という訴訟が急増。欠陥住宅が社会問題化したため、弁護士らが対策に動き始めた。
96年に日本弁護士連合会(日弁連)の消費者問題対策委員会が「土地住宅部会」を設置して、被害相談を募る「欠陥住宅110番」を開いた。すると全国から約700件の相談が寄せられた。相談に登場した建築業者には一流ゼネコンもずらりと並んだ。それを発表したら株価を直撃してしまうとして、匿名で発表したほどだったという。
同じ年に弁護士や建築士や学者、被害者らが「欠陥住宅全国ネット」(欠陥住宅全国被害連絡協議会)という組織を作った。こうして欠陥の現象と原因を分けて、原因が建築基準法という客観的な基準を満たしていないことを主張するようになった。
欠陥住宅全国ネット幹事長の吉岡和弘弁護士によると、当時の建築業者の間には、「法律の中で一番守らなくてよいのは建築基準法」という意識すらあったという。
例えば、建築基準法では地震が起きても耐えられる建物のコンクリートの強度に比べて、長期間耐えるためには3倍の余裕を持つ強度が必要とある。ところが裁判に出てくる業者側の意見書には、建築基準法は3倍の余裕を定めているから、逆に3分の1の強度があれば安全性は保てるという主張が平然とされる状態だった。
こうした事態を重く見た欠陥住宅全国ネットは国土交通省に、建築確認申請書に名義貸しだけして本来の役割である現場の監督をしていなかった建築士の告発に乗り出した。すると意外にも、国交省は建築士の摘発に動き出した。
最高裁も専門委員会を設置
行政の変化に司法も動き始めた。例えば、最高裁は2001年4月に東京と大阪地裁に建築関係の訴訟を集中的に扱う裁判部を設置、さらに2002年に、建築と法曹の専門家17人で構成する「建築関係訴訟委員会」を設けて、訴訟の原因分析と対応策を委員会に諮問した。
また最高裁は2002年以降、従来にはなかった判決を立て続けに3つ出している。
1つは2002年9月の判決だ。最高裁は、建築物の基礎や根本的な部分に欠陥があれば、瑕疵担保責任に基づいて建て替え費用も請求できると判断した。法律では、欠陥が重大であっても、建物を全て取り壊して建て替えるとなると社会的損失が大きいので契約の解除はできないと定められている。そのため、かつては建て替え費用の請求も認められない場合が多かった。しかし最高裁は、建て替え費用の請求も可能だと判断し、下級審で分かれていた判断を統一した。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080903/169484/?P=3
HP管理員 2008年09月04日 (木) 09時13分 No.838
≪日経ビジネスオンライン≫
2つめは2003年10月の判決。ワンルームマンションの建築主が、一部支柱を通常よりも太くしてほしいと建築業者に注文したのに、業者が安全性に問題ないとして契約と異なる細い柱を使ったことに対して争われた。最高裁は、業者が勝手な判断で、依頼主の要望とは異なり細い柱を使用したのは欠陥だと判断した。それまで欠陥かどうかの判断は、客観的な安全基準を満たしているかだった。この判決では客観的には安全とされても、建築主と建築業者との契約で取り決めた安全性を満たしていないことは欠陥だとした。
3つめは同11月の判決だ。建築確認申請書に名義貸ししていた建築士に対して、契約が変更されても届け出をせず放置したのは不法行為責任がある、として欠陥建築の損害額の2割を弁償させる判決を出した。建築士には、それまで珍しくなかった名義貸しの責任を取らされる判断に衝撃が広がったという。
こうした最高裁の判断は、建築関係訴訟委員会による答申に源流があると見られる。今回取り上げた昨年7月の最高裁判決も、その一連の流れから出されたものだ。
「懲罰的」慰謝料も
判決で最高裁が欠陥住宅にかかわった業者に不法行為責任を負わせる道を開いた衝撃は大きい。欠陥のある物の買い手が売り手に責任を追及できる瑕疵担保責任の時効は、欠陥があることを知ってから1年以内、目的物の引き渡しを受けてから10年とされている。
ところが不法行為責任の時効は、被害者が被害や加害者の存在を知ってから3年、または被害が生じてから20年と長い。しかも被害者は、直接の契約関係になくても中間者を飛び越して責任追及もできる。欠陥住宅の場合、建物の建築に関わった設計者、販売者、建築施工者のほか、建築確認検査機関など関係者すべてに対し、不法行為責任を追及できる。
さらに、関係者らに共同の不法行為責任が認められれば、たとえ、そのうちの1社が倒産してしまったとしても、残った関係者に対して損害額全額を請求できる。つまり倒産した業者の責任を残った業者に負わせることができる。
さらに、損害賠償請求に弁護士費用の一部や慰謝料を含めることもできる。日本では懲罰的な慰謝料請求は認められていない。だが、毎日地震の恐怖に怯えながら暮らさなければならないなど、安全な住宅に居住する基本的人権が侵害されているとして、慰謝料請求も認められるようになってきた。数百万円の慰謝料を認める判決も出てきたという。
吉岡弁護士は「慰謝料額を高めることで、欠陥が分かった段階で業者は工事をいったん中止して直してから次に進むようにした方が損ではないという状況を作りたい」と語る。
貸金業に対するグレーゾーン金利分の返還から、学納金返還訴訟、英会話学校の旧NOVAの解約金返還。これまで見てきたように、最高裁の判決は社会に大きな影響を与えてきた。こうした司法判断が、規制緩和の進展とともに利害の衝突を訴訟で解決しようという社会変化に呼応したものならば、消費者の利益を重視した判決は今後も続く可能性が高い。その流れを理解しないままの企業は、知らぬ間に高い経営リスクを背負う恐れがある。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080903/169484/?P=4