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「共同の利益」と迷惑居住者対策の加減 HP管理員 2008年12月03日 (水) 16時46分 No.991

icon ≪マンション管理新時代≫

多くの人たちが暮らしているマンションに住むためには、他者に対する配慮がそれなりに必要です。でも“配慮”といっても人それぞれ。敏感な人もいれば鈍感な人もいます。
賃貸マンションと異なり、入居者を選べないのが分譲マンション。年齢や家族構成、生活習慣、国籍や宗教、法律観の異なる人が隣り合わせで住んでいるのが当たり前。ほかの居住者に及ぼす物理的・心理的影響の大きさこそさまざまですが、“迷惑居住者”はどこでもいるものです。“同じマンション居住者のだれにも一切迷惑をかけていない”といい切る自信は、少なくとも私にはありません。

仙台地裁は11月25日、仙台市内のマンションの管理組合が、他の入居者に迷惑行為を繰り返していた区分所有者の区分所有権と敷地利用権を競売にかけるよう求めていた訴訟で、組合側の請求を認める判決を下しました。

報道によると、判決は、区分所有者がほかの住戸の玄関ドアをけり飛ばす、チャイムを鳴らし続ける、自室ベランダから瓶を投げ落とす、エレベーター内に小便をする、といった迷惑行為を繰り返し、管理費を長期間にわたって滞納。注意した管理者を暴行したなどと認定しています。
判決が確定すれば、管理組合は6カ月以内に競売の申し立てを行うことになり、迷惑行為を繰り返していた区分所有者はこのマンションに住む権利も所有する権利も失うことになります。

区分所有法は6条で「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」(第1項)、「第1項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者に準用する」(第3項)と定め、違反者に対する措置を第7節(57条〜60条)にそろえています。
なかでも今回の判決で適用が認められた59条は、「区分所有者の共同の利益」に反する行為を行った区分所有者の区分所有権と敷地利用権を強制的にはく奪できることを定めた条項で、57条(共同の利益に反する行為の差止請求)、58条(専有部分の使用禁止の請求)よりもさらに強力な内容です(60条は専有部分使用の根拠となる契約を強制的に解除して専有部分を引き渡すよう賃借人などの占有者に請求できる規定)。

57条は、区分所有者(または専有部分の占有者)が共同の利益に反する行為をした場合か、そのおそれがある場合に、「他の区分所有者の全員または管理組合法人」が「その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求」できると定めています。必ずしも訴訟を必要としませんが、訴訟する場合は総会の決議を要し、「管理者」か「集会において指定された区分所有者」が提訴者となります。

58条は、違反行為による共同生活上の障害が著しく、57条に定めた「差止請求」では「その障害を除去して共用部分の利用を確保し共同生活の維持を図ることが困難である」ときに初めて適用できます。総会の特別決議(区分所有者数および議決権の各4分の3以上)によって訴訟を提起し、対象となる区分所有者(もしくは占有者)による専有部分の「使用禁止」を請求できます。

競売請求を定めた59条は、58条と同様に「他の区分所有者の全員または管理組合法人」が総会の特別決議をへて訴訟を提起します。58条との違いは、違反行為による共同生活上の障害を除去して共用部分の利用を確保し共同生活の維持を図ることが「他の方法によって」は困難であるとき、と厳しく限定されていることです。
今回の判決でも裁判官は、「区分所有権のはく奪になるので慎重に判断すべき」としながら、「共同生活上の障害を回避するためにほかの方法があるとはいえない」と、59条の文言を踏襲しています。

59条の競売請求は、従来の判例では、専有部分を暴力団事務所として使用していた区分所有者に対して認められた例しかないとこれまでいわれてきましたが、今回の報道記事には男性が暴力団構成員やその関係者であるという記述は特にありません。
判決で示された迷惑行為の内容は、他の区分所有者に直接的な危害を加えている点で“暴力団員以上に危険”と判断されたのかもしれませんが、「暴力団事務所」というタガが外れた可能性も考えられます。
<達人に聞け!>コーナーでおなじみの九鬼正光弁護士に尋ねてみました。
「実際に他の居住者の生命、身体、財産に直接的な危害を繰り返し及ぼしていることが明らかだったのでしょう。いつ実弾が飛び交うかもしれない暴力団事務所並みの危険性があると認めたということではないか。59条の適用範囲が広がったとはいえないと思います」
そうであればよいのですが……。
質問しながら頭の片隅で気にかかっていたのは、ある資料の記述でした。

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/mansion/column/20081203/528568/
HP管理員 2008年12月03日 (水) 16時47分 No.992

icon ≪マンション管理新時代≫

国土交通省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会に設置されたマンション政策部会では、「分譲マンションストック500万戸時代に対応したマンション政策のあり方」について議論が進められている最中です。その第2回の議論の場に国交省が「マンションに関する紛争事例の分類」というペーパーを提出しています。
そこに、この「共同の利益に反する行為」を想起させる事例がいくつか出ているのですが、最も悩ましいと思ったのが次のケースです。

「組合員Aは親族BをAの住戸に入居させた。このBは、深夜に大声で奇声を発したり、ベランダに干した布団に水を撒いたり、共用廊下にゴミをまき散らしたりする。AにBの退去を求めたところ、話し合いにも応じない。再度文書で退去を要請したところ、容認して欲しい旨の回答だった。組合員全員は我慢できない状態まで来ているので、何とか解決する方法を相談する弁護士を紹介して欲しい」

「退去を要請」や「組合員全員が我慢できない状態」という文言が私には引っかかりました。親族の行為を「共同の利益に反する」とみなして57条の差止請求を行い、それで解決できないなら、こうした事例でも58条の使用禁止請求や59条の競売請求にまで踏み込むことになるのでしょうか。
迷惑行為の当事者はもちろん故意ではないでしょう。しかし、他の居住者からすれば、故意であろうと過失であろうと迷惑を被っていることに違いはありません。一方、当事者である区分所有者からすれば家庭内の事情で譲れないこともあります。

ペーパーは“望ましいと想定される解決方策イメージ”という項目を設けており、この事例については「第三者である専門家などによる解決案の提示や裁判」などではなく、「当事者間での話し合い」で解決する内容と分類していますが、当事者同士の話し合いではとても解決できるレベルではないと思います。
ちなみに九鬼弁護士は、「区分所有法や管理規約では解決できない問題」という見解でした。
高齢化社会を迎え、精神的疾患にかかった親族を引き取らざるを得ないなど、こうした事例は今後増えてくる可能性があると思います。
読者のみなさんはどうお考えでしょうか。

集まって生活している以上、「共同の利益」がそこに存在することは否定できません。しかし、これに反したからといって、「条文があるから」と、直ちに専有部分の使用禁止請求や区分所有権の競売請求に走ってよいのでしょうか。
1983年の区分所有法改正で57条〜60条がほぼいまの形に整備されたとき、私は「これは合法的な“村八分”条項ではないか」という感想を抱きました。
映画「楢山節考」にも登場しましたが、“掟破り”の村人の家族をコミュニティーから強制的に排除する“村八分”。そんな相互監視のムラ社会を嫌って都会に出てきた人たちが多く住んでいるマンションに、似たような“排除の掟”があるとしたら何とも皮肉な話です。

映画のような陰惨な状況としないためにも、57条はともかく、58条〜60条は使わずに済めばそれに越したことはないと思います。日ごろから居住者に対して「共同の利益」について周知徹底を図ることが先であり、そのうえで「共同の利益に反する行為」については、司法はもちろん管理組合も、慎重のうえにも慎重に、かつ限定的に認定すべきでしょう。
硬直したルール至上主義に陥り、「共同の利益に反する!」と規約違反行為の差止請求が乱発され、あげく使用禁止請求や競売請求の訴訟がたびたび発生するような中古マンションは、息苦しいだけで住みたくはありません。

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/mansion/column/20081203/528568/?P=2





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