Wild Typeの定義はGIST病理、治療の進歩で変化しています。Wild Typeは野生型と翻訳されていますが、変異のない原型のゲノム配列を意味します。近年になり発生率の低い変異が見届けられてたのがSDH(Succinate dehydrogenase)コハク酸脱水素酵素 欠損型GISTです。上記の統計などにはこのSDH欠失GISTはWild Type GISTに入れられていたと解釈できるでしょう。SDH欠失テストはゲノム解析ではなく染色テストでわかります。すなわち腫瘍組織の特別薬剤への色反応のテストですから、高価ではないと思います。(注:SDH欠失テストが陽性とでなく、C-kit、PDGFRAなどのゲノム解析が陰性であれば、これは現在のWild Type GISTの定義内のGISTになるでしょう。)
これら情報から、私の一患者、素人の意見は、娘さんの腫瘍がGISTであれば、Wild Type GISTの可能性が90%近くの可能性があると思います。Wild Type GISTだとアジュヴァントイマチニブ服用も無意味になります。小腸原発、腫瘍径10pだと再発率の高いものと判断されますが、大きな因子である有糸分裂率(Mitotic rate)が分かりません。これが5/50HPF以上だと活発性の高いとみられ、悪性度、再発の可能性も高くなるでしょう。
娘さんの腫瘍病理リポートを読み、一患者としてホットしたのは「核分裂像50倍視野1〜2個」です。これは通常1〜2/50HPFと報告され、400倍の視野50か所に見つかった分裂進行中の細胞数を示します。分裂進行中の細胞数が50か所で1−2個だと、「Wild Type GISTの有糸分裂率は一般的に低い」に合致すると思います。有糸分裂率は腫瘍の活発性を示しますから、ゆっくりと大きくなったものだと思います。
西田先生による「廣田先生に病理検査の依頼」は素晴らしいですね。廣田先生は日本一のGIST病理医だと私は思っています。彼らの1998年のリポート[Gain-of-function mutations of c-kit in human gastrointestinal stromal tumors] 「ヒト消化管間質腫瘍におけるc-kitの機能獲得変異」によりGISTの原因はICC (Interstitial Cells of Cajal, Cajal 間質細胞) のKITの変異から発生する可能性があるとにより、当時のSTI-571なる試験薬、今のグリベック/イマチニブが効くとわかりGIST治療に大革命をおこしました。殆どのGIST関係論文には必ずと言えるほどこの廣田先生の論文が参照されています。