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山陰路
沖はちらちら日本海 車窓に眺め乾き覚り 白き手の剥く真なる 梨の味わい山陰路
旗雲の下幾年か 魚の匂いと潮の香を 肌に刻みて今老うも 柔和なる目の男あり
代々に伝わり因幡には 政道叡慮みことあり やさしき心うたわれし 真砂の浜の遠き日に
沖の漁り火目に滲み 美保の浦海、月蒼く 影を並べて砂の浜 潮騒ばかりさわさわと
朝は早起き浜ちどり 磯をせかしく鳴く声は まだぐずぐずの友さそう 沖の小島に行きなんと
美保の松原白鳥の 長啼き舞うは別れ告ぐ 海の青さと空の青 波路の果てに誰の待つ
山紫水明、出雲には 本邦書家に名の知れる 八重の手すきの和紙のあり 子女習いおりその技法
宮の命は慕われて 本朝かみが集まると 智恵ふるまいぬ神無月 子々孫々の大社なり 駅柵のぞくコスモスを 一輪つみて押し花と 石見の国の秋日射す 停車場そこは海のそば
子弟逸材、塾のあり 佳人とゆきぬ萩の街 やなぎ緑の帯しめて 黒髪あげて黄八丈
子弟の一人、晋作は 洋明開くさきがけぞ 原咲く萩は志士の街 木に青い実の夏みかん
谷間にありて白壁の 掘割泳ぐ鯉多し 明治文豪生家あり 日傘の君と津和野なり
真徒のありて切支丹 政道許すなき世には 代々に隠れて宗守る 浦上流人、悲歌もあり
鐘鳴り響く山口は 聖堂ありて西の京 我が国伝ふ主のことば 帰依なきなれど解すあり |