リョーマはめずらしく昼休みに2年8組へ来ていた。
周りの2年生の目はあるがもちろんそんな事は全く気にしない。
「桃先輩」
「ん?おー越前。何してんだ?」
「俺のゲーム返して下さいよ」
「ゲーム・・・・ああ!アドバンスか。ちょっと待てな」
そう言って桃城は食べかけのパンを口に押し込みながらガサガサと自分の鞄をあさりだした。
「っれ〜・・・・おかしいな・・・・」
「まさか、無くしたんスか?」
「いや・・・・あ!そうだ!!部室だ!!今日朝練の時にお前に返そうと思ってロッカーに入れたんだよ」
「・・・」
「そしたらお前また遅刻するしよー」
「・・・・・・・財布を落として困ってるオバアサンがいたんス」
「へーへー。とにかくロッカーだ。んじゃ取りにいっか」
よいしょっと言いながら席を立つ桃城の後をリョーマはゆっくりと着いて行った。
「お」
途中、桃城の足が止まった。
リョーマはその視線の先へと目を向ける。
「おい、越前、アレ見てみろ」
「なんスか」
教室のドアから中を覗いてる桃城がくいっと顎で指した。
その先が見える位置まで進む。
「・・・海堂先輩が寝てるだけじゃないっスか」
その先には机に突っ伏して動かない海堂の姿があった。
よく見れば規則正しく背中が上下に揺れている。
そうとう深い眠りに入ってるようだ。
「アイツ、昼休みはいっっつも寝てるんだぜ。まるで冬眠してる蝮だな」
アハハハと自分で言った事に笑ってる桃城は蝮って冬眠するんだっけ?などと言って首を傾げている。
人一倍練習を重ねる海堂は家に帰ってからもトレーニングを怠らない。
こういった短い休み時間に寝る事なんてしばしばあるのだろう。
普段あまり他人と接しない海堂だし、昼休みは寝るための絶好の時間でもあるのかもしれない。
だが特にリョーマの知った事ではない。
「先輩、それよりゲームを・・・」
「ん?なんだアイツ等?」
特に興味も持てず早くゲームを返してもらおうと桃城を急かした時だった。
桃城の疑問符付きのセリフにもう一度海堂の方へ視線を向ける。
「・・・」
目に飛び込んできたのは海堂を囲むように集まった、どうやらクラスメートらしき女子数人。
お互いを突付き合いながらキャアキャア言っている。
海堂は熟睡しているのか全く気づかない。
「何だアレ・・・・隠れマムシファン?」
「隠れっていうか堂々としてますけどね」
本人だけが知らないみたいだな、と桃城が言う。
女子達はやはりお互いを急かしながら何かをしようとしてる。
そしてその中の1人が意を決したように海堂の髪の毛へと手を伸ばした。
「!」
ピト・・・・っと触れてすぐに引っ込めたが周りの女の子達はキャーキャー騒いでいる。
触った女の子は手を握り締め頬を赤く染めている。
「なんか・・・・こえェ」
最もな意見だとリョーマも思う。
自分の知らないうちに体を触られて騒がれるなんて考えただけでも気持ち悪い。
『またやってる、あの子達』
『本当、何が楽しくてあんな事してるのかしら』
ドア側にいた女子2人が呆れたように話してるのが聞こえた。
また、ということはこれは毎日恒例行事にでもなっているのか。
「なんだかな〜マムシには言わない方が・・・・って越前!」
リョーマはズカズカと2年7組の教室に入っていく。
そして何の躊躇いもなく海堂の前に立つと集まっていた女子達を不敵な笑みを浮かべて見回した。
「俺の海堂先輩に何するんスか」
そう言って寝ている海堂の髪の毛にキスを落とした。
女の子達がキャアッと声を出す。
「越前!!??」
桃城が慌てたようにリョーマの首根っこを掴んで教室から飛び出す。
「お前っ・・・・何やってるんだよ!?」
「・・・・なんとなく」
「なんとなくって・・・・はぁ・・・・お前なぁ・・・」
「なんとなくっスよ」
「知らねぇぞ・・・この後どうなるか」
「何がっスか?」
もちろん、海堂とリョーマが2年のクラス&1年のクラスでも噂になったのは言うまでもない。
しかし、当の本人達、リョーマはまるで人事のようだし、海堂にいたってはキスされた事も今自分が話題の人になっていることにすら気がついていなかった。
「ホント、何であんな事したんだお前」
ほとぼりが冷めた頃、桃城がリョーマに何回目かの疑問を投げかける。
視線の先にはテニスに打ち込んでいる海堂の恐ろしいくらいまでの真剣な姿。
「なんとなく・・・・・海堂先輩は俺のモノのような気がしたから」