「これはもう犯罪だにゃ」
「Xファイルかな」
言葉の内容とは逆に菊丸と不二はあっけらかんとしている。
真っ青になっているのは大石と河村のみ。
「乾・・・これはどういう事だ。桃城と海堂に何を、飲ませた」
乾を詰問する手塚。
乾はハハハ、と笑うだけで答えようとしない。
手塚の言う通り、桃城と海堂が乾の汁を口にしたのが数分前。
突然彼らの体から水蒸気のようなものが発せられ、見る見る間に霧に包まれる。
ポカンと様子を見守ってたレギュラー達だが菊丸と不二の発した言葉に全員我に返ったのだ。
「とりあえず、今は、桃と海堂の心配をした方が・・・!」
河村がオロオロと手塚と乾の間に入ると全員が思い出したように2人に視線を向ける。
それに答えるように2人を包んでいた霧が晴れていき、そこに現れたのは・・・
「・・・・ノーベル賞もらえるね」
「国家機密になるかな・・・」
「い、医者・・・!?」
「大石!それ携帯じゃない!ラケット・・・!」
「乾・・・・」
「ハハハ」
「・・・・映画みたいスね」
全員が向けるその視線の先には
「あれぇ・・・?ここ、どこぉ?」
「・・・ふしゅっ」
推定年齢2、3歳の、桃城と海堂が居た。
*
ポカンと口を開けて指を銜えながら大きな目をくりっとさせてレギュラー陣を見つめる桃城。
トレードマークのツンツン頭はそのままに
着ていたレギュジャが小さな体に引っかかるようにかぶさっていた。
「うわ、桃可愛いー!ちっさー!」
菊丸の目が爛々と輝きだす。
「いや、それを言うなら海堂も・・・」
大きな猫目をじっとレギュラー達に合わせ、そのくせ怯えたように桃城の後ろに隠れている。
真っ直ぐなサラサラの黒髪が
目に入ってしまうんじゃないかというくらいその目は大きく、愛らしい。
「うわぁ!薫ちゃんも可愛い〜〜!!」
菊丸の声に海堂がビクッと驚き、先ほどまで着ていたジャージの中にもそもそと入ってしまう。
目に涙をいっぱい溜めて隙間からこっちをじっと伺う。
そのどこか動物じみた拙い行為に思わずレギュラー一同キュンとなってしまう。
「にーちゃ、だれ?」
怯える海堂とは逆に桃城は興味津々とばかりに全員の顔を見回す。
「どうやら記憶も体と共にこの年齢へ戻ったようだな」
「・・・冷静な判断を述べている場合か、乾」
静かに怒りを放つ手塚に乾がまた乾いた笑いを上げる。
そんな2人を無視して菊丸と不二がこれまた楽しそうに桃城に目線を合わせる。
「名前は?」
「たけちっ!」
「ぷぷっ・・・たけち、だって!」
まだはっきり発音できない幼児のそれが殺人的に可愛い。
「俺はね、英二。言える?」
「エージ?」
「そう!英二兄ちゃん」
「エージ、にちゃ!」
言えた!とばかりにテヘッと笑う桃城。
「俺は不二だよ」
「ふじ、にちゃ?」
「うん」
「ふじ、にちゃ!」
また笑う桃城。キュンとする一同(後ろで揉めてる眼鏡達を除いて)
「あれが大石でータカさんに、オチビ!」
「いや、菊丸先輩・・・それ名前じゃないっスから」
憮然とする越前にしかし桃城が菊丸を真似て指を指しながらオチビ!と言う。
どうやらオチビで覚えてしまったらしい。
「可愛いな〜!弟が出来たらこんな感じかな!?」
「うん、弟って可愛いよ」
そうだろうな、と心の中で不二に呟く大石。
「てゆうか、海堂先輩そのままでいいんスか?」
思い出したように言う越前にそういえばと視線をもうひとつのミニにやると
未だジャージの中でぷるぷると震え丸まっていた。
「薫ちゃん、完璧怯えてるにゃ」
「本当。普段の彼からは想像できないね」
「いや、・・・海堂先輩って案外臆病なんじゃないかって思うっス」
「おうーオチビなんか生意気〜!薫ちゃんをわかってるような言い方!」
「・・・(ニヤリ)」
そんな今はどうでもいいような会話の中、桃城が自分の着ていた服からもぞもぞと出る。
そうして海堂のもとへいき、優しくポンポンとたたく。
「こあくない〜こあくないよ?」
「「「「「・・・・・」」」」」
桃城の声に海堂が潤んだ瞳を、顔を覗かせる。
「こあくないよ?」
「・・・・(グスッ)」
今にも溢れ出しそうな涙を必死で抑えようとしながら海堂がコクンと頷く。
すると桃城はニッと笑って今度は海堂の頭をいーこいーこする。
それを見ていた一同。またしても(以下略)後ろで揉めている眼鏡達は(以下略)
「これ、ビデオに撮って大きくなった2人に見せてやりたいね・・・」
「きっと2人とも卒倒するにゃ・・・」
だが今はそれどころではない。
それにやっと気づいたのはやはりというか大石だった。
「と、とにかく、どうにかしないと・・・!」
と、言っても取り合えず全員、乾を見ることしか出来なかった・・・・