一国の王子となれば政略結婚は当たり前。
そしてまだ意思を持たない赤子のうちに婚約者は決まっていて。
「やっぱできねぇ〜なぁできね〜よ」
桃城は溜息を吐いた。
宮殿の中でも一際煌びやかな玉座。
その脇の柱に背を凭れさせ王族の格好とは程遠い身軽な絹の衣だけを纏い長剣を腰に下げた格好に
「テメェ・・・いくら宮殿の中だからって装備を外すなって言ってんだろ」
第一王子直属の護衛の海堂がこれまた王子に対する口の聞き方とは思えない口調で桃城を咎める。
実は2人は幼馴染なのである。
小さい頃から王子の護衛として育てられた海堂は桃城とは今まで1日と離れた事はない。
今では異例の若さで王子護衛隊の隊長を務めている。
加えこの場には2人以外誰も居ない。
玉座という場は式典がない限り滅多に使われる事なく今も海堂の口調を気にする者がいないのだ。
「だってよー装備重いんだよー」
「フンッ根性のねェ」
「んだと!?」
「その通りじゃねぇか」
桃城は海堂の装備の下の帷子(かたびら)を掴み顔を寄せる。
近くにくる海堂の顔。
目の前でサラサラ揺れ常に濡れている様に見える真っ直ぐな黒髪が桃城は好きだった。
いや髪の毛だけではない。
毎日外で鍛錬をし陽に焼けた肌も
鍛え上げられた細くしなやかな肢体も
そして見たものを一目で虜にしてしまうだろう色素の薄い極上の宝石のようなライトグレーの瞳も
「全部・・・・俺だけのもんだ」
「あ?」
突然わけのわからない事を呟いた桃城を海堂は眉を顰め首を傾げる。
「なんでもねーよ」
つまらなそうに掴んでいた手を離しまた溜息を吐いた。
身分も違いましてや同性同士の恋愛など以ってほかだ。
だからといって目の前の存在を諦められないのは随分と前から思い知らされている。
悪い事に年々増しているのではないだろうか。
自分の―――海堂への想いが。
「お前もいつか・・・・可愛い嫁さんを妻取るんだろうな」
その時自分は心から祝福してやる事が出来るだろうか。
否。それどころか相手を殺してでも海堂を独り占めしてしまうかもしれない。
益々憂鬱になっていく桃城に海堂は疑問を感じながら口を開いた。
「俺は一生誰とも夫婦の関係をもたねェ」
低い声でけれど強い意志できっぱり言われた言葉に桃城が目を瞠る。
なぜ、と目が語っていたのか海堂が続ける。
「護るべきものをこれ以上増やす事は出来ねェ。多ければ多いほど弱点が生まれる。・・・ムカつく事に俺はテメェを護るのでいっぱいいっぱいなんだよ」
ケッ、とそっぽを向いてしまった耳が赤くなっている。
今のは正しく海堂の本心なのだろう。
心の中が熱くなった。いや体全身が喜びを訴えている。
もちろん海堂の言葉に恋愛の含みなどはない。
あるのはただただ純粋な忠誠、のみ。
それでも―――
それでもコイツは一生自分のもとにあるとそう言ってくれてるのだ。
嬉しくないわけがない。
「やっぱり俺・・・結婚なんかしねェ」
「はぁ!?」
さらりと爆弾発言を落とす桃城に海堂が素っ頓狂な声を上げる。
「俺は、俺の求める相手だけを終生の伴侶にする」
その言葉を聞いて海堂は小さく声を漏らしどこか納得したような面持ちになる。
「お前好いた女子が居たのか・・・それでそんなに溜息ばっかり吐いてたのかよ」
なるほど、と1人納得している海堂を尻目に桃城はまぁなとだけ答えた。
尤も―――女子じゃねェけどな
今はまだ言えないがいつか必ずこの地位を投げ捨ててでも手に入れてみせる。
その為にも
「お前の気持ちを俺に向けねェとな」
「???」
更に不可解な顔をしている海堂に桃城は満面の笑みを向けた。
お前は俺のものだ海堂。一生な。