実際に見たことはなかった。
もちろん聞いた事はあるしこれからの人生必要な物である事もわかっていた。
けれどそれが果たして今の自分に必要かと問われれば必要ではないと答える。
そう、最近までは。
こんな事になるなんてまさか自分があの桃城と付き合うようになるなんて思いもしなかったのだ。
とはいえまだ自分達はキス止まり。
それ以上の事は何もない。
当たり前だが自分から誘うわけもなく簡単に言えば桃城任せということ。
だからそれを見る機会は未だ自分には訪れていなかったのだ。
だからそれを渡されて
「これは恋愛が上手くいくお守りなんだよ」
なんて言われてしまえばコロリと騙されてしまうのも仕方がない事で・・・
「恋愛が上手くいくお守り・・・?」
「そうなのv好きな人とずっとラブラブでいられるわよ」
クスクス笑いながらクラスメイトのとある女子が自分に渡してきたもの。
四角くて中には円のようなものが入っている?
変なお守りだな、と思った。
なんだか明らかにからかわれているようなのでいらないとつき返そうとしたらタイミングよくチャイムがなった。
慌ててソレをポケットに仕舞い込む。
そして授業が始まりすっかりそれの存在を忘れてしまったのだった。
昼休み、桃城が屋上で飯を食べようと言ってきたので弁当を持ち屋上に向かった。
晴れ上がった空の下で食べるお弁当はかなり美味い。
隣に桃城が居ることもまた大きいのだろう。
それからポツリポツリと他愛も無い話をしながらそろそろ授業が始まる時間だと己の時計を見て立ち上がった。
その瞬間にストンと自分のスカートのポケットから何かが落ちる。
ん?と声に出して桃城がソレを拾った。
ソレは朝にクラスメイトの女子からお守りだと言われ貰った物だった。
「あ・・・それ」
貰った、と言おうとしてふと気づく。
桃城がソレを持ったまま固まっていたからだ。
「桃城?」
どうした、と聞いても返事はない。
そのうちフルフルと腕が震えだしブツブツ呟きだした。
ちょっと待て、なんでお前がコレを持っているのか、誘っているのか、いやそれとも浮気なのか、て、これってどう見てもあれだよな、なんでこんなもんコイツが、等々。
それはまるで男子テニス部某データマンがデータを取っている時に自然と独り言を発してしまっている姿に似ていて気持ちが悪い(酷)
自分の恋人がそうなってしまうのは嫌だ。
「それ、なんだ?」
桃城を元に戻そうと声を少しだけ張り上げて問うた。
すると桃城は驚いたように自分を見、そしてどこかホッとしたように胸を撫で下ろした。
なんなんだ?
「そっか・・・いやお前、これ拾ったのか?」
「いや・・・クラスの奴にお守りだとか言って渡された」
「誰だぁ!?んな下らねー事する奴ぁ!!」
今度は怒りだした桃城にますます疑問が膨らむ。
先ほどから桃城に百面相をさせているソレ。
本当に、一体なんなのだ。
「おい、桃城・・・それ、なんだ?」
「・・・・海堂、あのな」
今度は心なしか顔を赤らめて困った顔をする。
そして意を決したように桃城は確かにこう言った。
「これな、避妊具。つまり、」
「・・・・・」
「**だ」
頭から真っ二つに一刀両断されたくらいの衝撃が走った。
つまり自分は、何も知らず今日一日それをスカートのポケットの中に入れており。
さらには恋人の目の前でそれを落としてしまったりして。
それはだからつまり―――
「海堂?おい大丈夫か?海堂??」
「・・・・」
ガクガクと揺さぶられても己の意識は暫くは宙を彷徨っていた。
数分を要し我に返って全身が真っ赤になっていくのを止めることも出来ず桃城の制止の声を背中に屋上から逃げ出した。
死ぬほど恥ずかしい。
泡になって消えてしまいたい。
海堂薫、14歳。
世の中まだまだ知らない事がいっぱいだ。
余談
海堂が立ち去った後の桃城は。
手の中のものをそっと己のポケットにしまったとかなんとか。