「お前はなんでいっつもそうなんだ!!」
「うるせェ!」
「姫様を見習って少しでも女らしくしたらどうだ!?」
「必要ねェ!!」
「お、お2人とも・・!や、やめて下さい・・!」
女らしくしろ、とツンツン頭の大剣を背負った傭兵の少年が言う。
うるさい、と漆黒の黒髪をショートに切り揃え細い身体に傭兵の装備を纏った少女が言い返す。
桃城と海堂のいつもの喧嘩。
旅の道中この喧嘩が絶えることはない。
桃城と海堂はとある国の姫の護衛として雇われた傭兵。
桃城は大剣を使い海堂は魔法を使う剣士である。
「キャッ・・・」
町娘の装いをした姫が履きなれない安物の靴で躓く。
それを桃城が軽々と受け止める。
大丈夫ですか、と優しい声を出せば姫はたちまち赤くなり蚊の泣くような声でありがとうございますと言う。
似合いの2人だ。
桃城も傭兵などやめてこの姫と結婚すればいい。
そうすれば一国の王子になれるのだ。
海堂はこの2人の恋が実ればいいと常々思っていた。
桃城と海堂は幼馴染。
両親の顔を知らず小さい頃から傭兵として生きてきた2人。
喧嘩をしていても心の奥底では兄弟のように繋がっている。
だからこそ桃城には幸せになってもらいたい
いつの頃だろうか、桃城を男として意識しだしてからは余計にそう思うようになった。
女でありながら傭兵をし、金も未来もない自分にはただそうやって桃城の幸せを願うことしか出来なくて。
そしてこれはきっと神が与えてくれたチャンスなのだと感じるのだ。
兄弟のように愛する幼馴染。まるで自分の分身のように大切な存在。
「おい、海堂・・・」
「わかってる」
人の気配。5、6人に囲まれている。
だがそこには人以外の気配も混じっていた。
「囲まれたな。人間とそれ以外もいる」
「お前は姫を守れ・・・俺が蹴散らしてくる」
「ばっ・・・早まんな・・!て、おい海堂!!」
桃城の声を背に海堂は気配のする方へ走っていく。
己の小剣に魔法をかけ強度を増した武器。
隠れていた奴等が飛び出す。思ったとおり人間と・・・獣人か。
まずは頭の悪い獣人共を魔法で足止し人間の方を倒していく。
大して腕の立たない人間ばかりだった。
こんな腕で姫の命を狙おうと云うのがおかしな話だ。
きっと獣人達の力を当てにしていたのだろうが
「残念だったな・・・」
「ぐがっ・・・!」
最後の1人を倒し次は獣人達に剣を向ける。
先ほど目くらましをくらった奴等は回復しつつある。
完全にその目が復活し終えないうちに次々と倒していく。
けれどそのうちの一匹が桃城たちの方向へ唸りながら向かって言った。
しまった、と思いつつ振り返ったがそこは桃城。
自分と同レベルの、もしかしたらそれ以上の剣士。
慌てた様子も見せず鮮やかに敵を討つ。
思わず安心し、ふっと気を抜いてしまった時だった。
「ガアアアアア」
目の前の獣人が最後の力を振り絞ったかのようにその鋭利な爪で海堂に襲い掛かってきた。
「海堂!!」
「!」
桃城の声に気づきすぐに後ろへ飛ぼうとするがそれは遅く。
「っく・・・!」
シュッ、という音が耳に残った。
左の頬に敵の爪がかすってしまったらしい。
肉を抉られ血が出る。
が、海堂はそれに構わずすかさず剣を相手の胸に突き刺した。
同時に魔法を唱え剣をパイプにし相手の体に魔法を流し込み止めをさした。
「海堂!!大丈夫かよ!?」
息を整えて小剣をしまった。
右手を左の頬に当てる。
思った以上に出血していた。手にべっとりと血がついたのだ。
「お前っ・・・・」
ちっと舌打ちする。
桃城の驚いた顔を見てこの後うるさいほど文句を言われるのがわかったからだ。
「だからなんでお前はそうやって突っ込んで行くんだよ!?」
「・・・・・」
「最近特にそうだぞ!?俺を無視するなよ!!」
「・・・・テメェは姫様を守れ。それが俺達の仕事だ」
「だから2人で守りゃいいーじゃねェか!!」
「・・・効率が悪い。誰か1人が守りに徹すればもう1人が好きに動ける。俺1人でなんとかなる奴等ばかりだ」
ぐいっと血を拭った。
桃城が目を釣りあがらせてそれを見る。
「何がなんとかなるだよ・・・でっけぇ傷こさえやがって」
「・・・うるせェ。こんなん何でもねェ」
拭っても拭っても血が出てきた。
きっとこの傷は自分の顔に残ってしまうのだろう。
職業柄、体中の至るところに傷はある。
だが顔に傷をつくるのは初めてだった。
「あ、あの、私、薬草を・・・」
姫が恐る恐る薬草を海堂に差し出した。
小さく礼をしそれを受け取る。
葉の一枚を傷口に当て体の治癒能力を一時的に上げる魔法をかける。
薬草のおかげで何倍も早く傷を塞ぐ事が出来たが案の定痕は残ってしまった。
手で触ってみればどうやらそれは3本の爪痕。
触りながらいよいよ自分は女という生き物ではなくなっていく気がした。
「さっさと行くぞ・・・」
黙って見つめてくる桃城を無視して歩き出した。
自分は一体どこに行くのだろう。
もしこのまま桃城がこの姫様と結婚したらそれから自分は1人でどこへ行くのだろう。
日の沈みかけた空を見ながら思う。
自分など
生まれてすぐに捨てられ必要とされなかった自分などどうでもいい。
両親と事故で死別し、悲しい過去を持った、けれど誰にでも愛され必要とされる桃城の
願わくば彼に幸せな未来を―――