「したい」
ベッドの上で壁に寄りかかりながら本を読んでいた。
いつの間にかダビデがこっちを見ていた。
「何?」
「したい」
だから何を。
コイツはいつもそうだ。言葉が足らなさすぎる。
「何をだよ」
「キス」
「はぁ?」
唐突だ。
言葉が足りなくて唐突で。
お前は一体いくつのガキなんだ。
「したい」
「知るかよ・・・お前好きな奴でもできたのか」
ダビデが目を光らせたままオレに近づく。
三角に立てた両足の横に手をつかれアイツの顔が真ん前にくる。
まるで肉食獣のような圧倒さに思わず怯む。
「違う、バネさんとしたい」
「はぁぁ??」
理解できない。
コイツとは長い付き合いだけど未だに全く理解できない。
「寒いぞ、今のギャグは」
近くにあったクッションを掴んで顔に押し付けてやった。
「・・・・・」
大人しくなったので本に視線を戻した。
コイツがこうやってオレの部屋に普通に居る事は自分の日常にすっかり馴染んでいる。
何をするでもない、話がしたくなれば話し本が読みたくなれば本を読む。
「キスしたくなったんだって」
キスがしたくなったらキスを
「できるか!」
「するんだって」
読んでいた本を取り上げられた。
その位置に今はダビデの顔。
足の間に身体をいれ膝立ちでオレを見下ろす。
「お前いいかげんに」
「興奮してる」
「え?」
「バネさん見て興奮してる」
「ば――-」
馬鹿かお前は、と続くはずだった口に親指を突っ込まれた。
少し無理やりに広げられた口にアイツの舌が入り込んできた。
アイツの右手がオレの後ろ髪を強く掴み自分の方に引き寄せる。
その分アイツとオレの口付けは深く、深くなる。
角度を変え舌がオレの口の中でうねり寄せる。
ヌルヌル動き回るダビデの舌がひどく熱い・・・・・
視線を間近で感じ焦点を合わせるとやはりそこにはあの眼があって。
合った瞬間オレの舌は捕まった。
絡んで、絡み合って、熱くて、とろけそうだ。
唇が静かに離れていき、いつの間にかキスに夢中になっていた自分に気づく。
「おまっ・・・お前っ」
間髪入れずダビデはオレの唇に噛み付いた。
今度は眼を閉じた端正な奴の顔をオレが一方的に見る。
キスを堪能してるようなその顔は物凄く煽情的だ。
て、そうじゃなくて。
「・・・ふっ・・・・バカヤロっ・・・!」
オレはダビデを突き飛ばした。
そんなに強くはなかったのでキスが無理やり中断された程度だが。
腕で唇を擦りながらオレは横に後ずさるように逃げた。
「トチ狂ったかお前!!」
「何で」
「こ、ういう事はなぁ、女の子とするもんなんだよ!!」
「いいじゃん、気持ち良かったし」
「きもち・・・・!」
「もっかいしよ」
「しない!!しないぞっ!!」
言い張るオレにコイツは何も言わない。
ただその特徴的な、鋭い眼が。
肉食獣だと云った眼が。
なんで?
と、純真無垢な子供のように澄んでいてオレを見つめる。
ああ、オレはコイツのこの瞳に弱いんだ。
人を射抜くような強い視線を持っているくせに誰よりも綺麗な目をしている。
「し、しないぞ・・・・」
ダビデがゆっくり近づいてくる。
後ずさるオレ。
けれど狭いベッドの上。
行き止まりなんかあっという間にきて・・・・
「し・・・・」
惑わされる眼を輝かせてくるこの後輩に
不覚にも眼を閉じてしまうオレに
コイツは、またキスをしてきた。