[604] 学園短編小説V(序編) |
- クロム - 2008年12月03日 (水) 19時16分
俺にとって、あの時の事は今でも忘れる事は出来ない。
否、忘れる事など決して許されない。
あれは俺の人生の転機となった出来事。
あれを無くして、今の俺と言う存在は成り立っていなかったのかもしれないのだから…。
タマムシ大付属学校 夕方。 この時間帯にもなると、学校の大半の部活がその日の練習を終える。 グラウンドでの活動が主の野球部とて例外ではなかった。
「お疲れ様!」
部室で学生服への着替えを終えて、真っ先に飛び出したのが澤野 一樹(サワノ カズキ)。 既に学生の通りも疎らな通学路を、一目散に駆け抜けていく。 まるで、その先に自分が待ち望んでいた『何か』があるかのように。
「お〜い!」
カズキの向かう先に、一人の少年が道端を歩いていた。 その少年に向かってカズキは声を掛けた。 黄緑色の髪をしたその少年は、カズキの声を聞いて此方に振り向いた。
「あ、カズキ君!今、帰る所なの?」
「おう。お前も結構遅くまで頑張ってるみたいだな、タクロウ」
其騨 拓朗(ソノダ タクロウ)。 タクロウと同じ学年、同じクラスの男子生徒。 そして、カズキにとって一番の友人でもあった。
「…ねぇ、カズキ君。最近、また色々と女子生徒に手を出してるみたいだね。噂が彼方此方から聞こえてくるよ?」
「そりゃお前。あの学校は結構可愛い子が多いだろ?声を掛けなきゃ絶対損だって」
「その割には、いつもスルーされてるよね」
「うっ…。い、いいじゃねぇか別に!」
「色々な女子生徒に声を掛けたりするのは別にいいんだけど…。そんなんじゃ、一生彼女とか出来ないよ?」
「…ッ」
タクロウのその言葉が引き金になったのか、カズキの脳裏に一瞬何かの映像が映る。 だが、今はそれを気にする事無く会話を続ける。
「どうしたの?」
「否、何でもない。それより、早く帰ろうぜ!」
タクロウとカズキは、住んでる家が凄く近い。 そのため、登下校共に一緒になる場合が殆どだった。
「じゃ、また明日な!」
カズキは自宅の前でタクロウと別れた。 家の中に入ると、自室のベッドで横になる。
「………。何で、『あの時』の事なんか…」
気分が悪くなったのか、カズキは両目を掌で覆い隠す。 そのままカズキは、眠りに落ちていった。
学園短編小説V 追憶篇@ カズキの章(序篇)
………。
気が付けば、窓から陽の光が差し込んできている。 ベッドの脇においてある時計を見ると、いつも自分が登校する時間を示していた。
「行くか」
学生服に着替えて、カズキは家を出る。 玄関先では、案の定タクロウが彼を待っていた。
「お早う、カズキ君」
「おう!」
カズキはタクロウと一緒に学校へ向かう事になった。 周囲には、2人と同じように登校するため、早足でその先に向かっている生徒が大勢いる。
「カズキ君、そろそろ期末試験が近いけど大丈夫?」
「おう、お前がいるから大丈夫だぜ」
「…(汗)。カズキ君、偶には自分で頑張ろうって気になってよ…」
「はは、まあそう言いながらいつも俺に勉強教えてくれてるもんな。感謝してるぜ、タクロウ」
ちなみにカズキの学力は、学年内では最低ランク。 だが、タクロウの助けもあって何とか赤点を凌いでいるという状態だった。
と、そんな時だった。
「…!」
カズキの表情が、一転した。 その視線の先には、自分と同年代と思われる少年が此方を向いていた。 彼の表情が激変した原因は恐らく、あの少年。
「康樹(ヤスキ)………!? そんな、馬鹿な…!?」
表情を変えないまま、カズキははその少年の下に駆け寄っていく。 気になったタクロウも後を追っていく。
「カズキ君、ちょっと待ってってば。一体どうしたの?」
「こんな事、ある筈が……」
「落ち着いてってば!ヤスキって、誰なの!?」
タクロウの必死の呼び掛けで、カズキは我に返る。 そして心配そうな顔をするタクロウのほうに振り向く。
「あ、悪ぃ…。ちょっと動揺しちまった」
「ちょっとってレベルじゃなかったよ?」
「君が…、澤野 一樹(サワノ カズキ)君だよね?」
そのタイミングで、その少年がカズキに語りかけてきた。
「似てるけど、俺の事を知らないって事はやっぱり…。ヤスキじゃ、ないんだな…」
「僕は、真鑿 利哉(マノミ リヤ)。貴方の言う、ヤスキの双子の弟です」
「! あいつの、双子…?」
―――何で、こんなタイミングで…。
―――やっぱり、『あの時の事』で、俺を…。
「カズキさん、僕は今更3年前の事で貴方を責めるつもりはありません。あれは、事故だったんです」
「…」
「カズキ君?さっきから、何の話を…」
「ちょっとした昔話だ…。今から3年前、俺には恋人同士とまでは行かなかったが、親しい女性が居たんだ…」
「…!」
と、そんな時だった。 遠くから学校のチャイムが聴こえてきた。 急いでいかなければ、遅刻になってしまう。
「やっべ!急がないと遅刻だ!!!(大慌)」
慌てて2人は駆け出す。 リヤと名乗った少年を、その場に残して。
昼休み。 昼食を終えたタクロウが、カズキの席に歩み寄ってきた。 恐らく、登校途中の話の続きが気になっているのだろう。
「カズキ君、ちょっといい?」
「解ってる。朝の話の事だろ?」
「…うん。あんなに動揺してるカズキ君なんて、知り合ってからの2年間見た事がなかったから…。ちょっと気になって」
「そうだよな。やっぱり、いつかお前には話そうと思ってた。けど、その時がこんな唐突に来るなんて思っていなかった…」
「何があったの?」
「…3年m」
「やあ」
カズキが話を始めようとした矢先の事だった。 一学年下のタクロウの友人、フィルが遊びにやってきた。 が、一瞬にして今のこの空気を察して黙り込んだ。
「…カズキ君。何かあったの?」
事情を知らないフィルは、何か良くない事があったのかと思い、そんな質問をした。 が、カズキから返ってきた質問は『昔の事を思い出してた』だった。 当然それだけでは意味が解らず、フィルの頭上には『?』マークが沢山浮かんでいた(ぇ)。
「まあいいや。俺たち3人の仲だからな。フィルにも、話すよ。3年前にあった、『ある事件』の事を…」
語尾が暗くなる。 それだけで、これから話す内容が彼にとって辛い出来事であったのは安易に想像できる。 それでも、2人は止めなかった。 カズキが自分から話そうとしているのを、強引に止める事など出来ないから。 そして、彼自身の事をもっとよく知りたいがために…。
3年前。 カズキが、まだ中等部の1年生だった頃。 この頃からカズキは、しょっちゅう可愛い女の子を見掛けては声を掛けていた。 しかしそれを簡単にスルーされる辺り、今と然程変わりはなかった。
「ちぇ…」
残念そうな顔をしながら廊下をふらつくカズキに、声を掛ける存在が一人。
「カズキ、本当に懲りないな。よくあんだけ振られてるの軟派が続くな(苦笑)」
「五月蝿ぇよ、康樹(ヤスキ)。あんな可愛い子と恋人同士になってるお前に言われたくないよ」
「あはは…(汗)」
ヤスキとは、中学に進学した頃からの友人だった。 この頃はまだ、タクロウとは知り合っていない。 彼こそが、カズキにとっての学園内での友人の一人だった。 そして…。
「ヤッホー!ヤスキ、カズキ!♪」
やたらと明るいテンションで駆け寄ってくる女子生徒が1人。 赤い髪の毛を長く綺麗に整えてある女子生徒。 彼女は美袋 詩里香(ミナギ シリカ)。 ヤスキとシリカ。 この2人が、当時のカズキにとっての友人。
この2人が一緒の時は、カズキにとってとても楽しい時間だった。 だが…。
この至福の時間と関係が崩れ去る時が来るなど、当時の彼らには予測できる筈もなかった………。
To Be Continued
後書き ほとんど話のネタが思い浮かばなかったと言うわけで、苦し紛れに発足したのがこのシリーズ。 僕の小説キャラの過去話を色々と語っていこうと言う感じですね。 そんな訳で、この過去振り返りシリーズの最初の主役はカズキです。 今回は序篇という事で少し短めになりましたが、次は…。どうだろ?(ぇ) というより、学園篇じゃあんまり長い文章書けないので次もこの位か少し長くなるくらいかも…。 まあ、折角始めたんだから、最後までしっかりやり遂げたいと思います。 それでは、次回をお楽しみに。
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