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連載小説『ディアーナの罠』

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名前 MUTUMI
題名 37
内容  胡乱な、思いっきり眉根を寄せた視線を一矢に浴びせてから、レミングは詰めていた息を全て吐き出した。
「……こちらでも留意しておくわ。何か判明したら直ぐに知らせて頂戴」
「わかった」
「くれぐれも言っておくけれど、一矢の判断でどうこうするのは止めて頂戴ね。もしも本当にギルガッソーに通じてる者が居たとしても、それを裁くのは私達司法でないと困るわ」
 レミングの真剣な言葉に、一矢も真摯な眼差しを向け応じる。
「わかってるよ。僕の手出し出来ない部分だし、司法をないがしろにする気はない。軍と警察が手を組んだ時は、軍は絶対警察の前には出ない。……軍が警察を使うような事は、あってはならないからな」
 一矢の言葉にレミングは僅かに安堵する。それを目敏く読み取った一矢は、少々意地悪く聞いてみた。
「でもレミ。第5班が役立たずだった場合は、僕が直接指揮をとるからね。そういうイニシアチブぐらいは大目に見て欲しいな」
 上目使いにレミングに視線を向ければ、彼女は大いに呆れた表情をしていた。
「……一矢、あなた自分の過去の行動を鑑みなさい。自分の知らない、信用していない他人に全体の指揮を任せた事があるの?」
「ん、……ない」
 ほぼ即答で一矢が答える。
「でしょう? 私もそれぐらいは知ってるわよ。だから一矢がイニシアチブを発揮するぐらいは、私は全然問題になんてしないわ。問題になるのは、一矢が直接第5班を指揮した時よ。いいこと、絶対にロン・セイファード捜査官を通じて、彼から第5班に命令を出させなさい。それなら何も問題にはならないから」
[58] 2005/09/03/(Sat) 19:42:28

名前 MUTUMI
題名 36
内容 「まあ、僕の過去はどうでもいいじゃないか。それより仕事の話をしようよ」
「……そうね」
 レミングは軽く頷き、キリッとした表情で一矢を見返す。皺の刻まれた若々しいとは到底言えない顔だったが、そこには独特の覇気が漂っていた。
「一矢がわざわざメッセンジャーボーイをしなければならなかった理由って、一体何かしら?」
 通常なら、部隊長が書類を届けに星間中央警察に顔を出す事はない。他の人間に任すか、或いはデータを転送するだけで事は済む。確かにレミングと一矢は知り合いだが、そんな理由で一矢が動く事はあり得なかった。
「電子書類に書けなかった事が一つあってね」
「捜査官に見られては困る事なのね?」
 打てば響く様にレミングが答える。
「ああ。……ねえ、レミ。警察が信用を失ったら、どんな混乱が起こるんだろうね?」
「……!? まさか一矢!?」
 一矢の言わんとしている事をレミングは即座に理解した。
「うちの捜査官の中にギルガッソーの手の者が居ると言うの!?」
「分析では確率90%と出たよ」
 驚くレミングに対し、一矢はいたって冷静だった。レミングのデスクの上にあった鳥のクラフトを手に取り、右手の上で転がす。
「100%と言い切れないけど、……覚悟はしておいて」
「……」
「僕らと行動を共にすれば、いずれ化けの皮が剥がれる。もしかしたら二課にはいなにのかも知れないけど……」
「一矢は二課が怪しいと思っているのね?」
「うん。それも第5班が一番疑わしい」
 転がる鳥のクラフトを眺めて一矢が静かに告げる。
「どう考えてもギルガッソーの影がちらついているのに、別の組織の犯行としてみたり、目前まで迫ったのに取り逃がしたり。最初は単に抜けているだけなのかと思ったんだけど……、それにしては何かこう……腑に落ちなかった」
「勘なの?」
「そうだね。状況証拠はまだ何もないよ」
 小鳥のクラフトをデスクの上に返し、一矢はレミングの困惑した視線を受け止める。
「でも僕の勘は良く当たるから」
「……知ってるわ」
 何とも言えない表情で、レミングは詰めていた息を吐き出す。
「だから見極めようというのね?」
「ああ。司法の力を借りるついでに、懸念材料を消すつもりだ。……お門違いって怒る?」
 小首を傾げた一矢の頬を、突然椅子から立ち上がったレミングが力一杯捻った。
「痛っ」
「本当にお門違いよ。自浄能力もない馬鹿な警察って思ってるわね?」
「そんな事はないけど……」
 捻られた頬を擦りながら、一矢が上体を反らす。
「一矢の懸念が事実なら、確かにうちはどうしようもないのかも知れないけど。でも……」
 考え込んでしまったレミングの肩を、一矢がポンポンと軽く叩く。
「考え込むなよ。可能性があるってだけだから。僕の勘違いかも知れないだろう?」
「……」
[57] 2005/09/01/(Thu) 12:08:47

名前 MUTUMI
題名 35
内容 「でもね、一矢。時々私は思うのよ」
「ん?」
 少年、桜花部隊の指揮官である一矢はきょとんとした表情を浮かべる。
「一矢がこちら側にいたらどうだっただろうって……」
「え?」
「終戦の時、意識を取り戻した一矢には幾つかの選択肢があったはずだわ。イクサーを補助し政治家になる道、機構に入り官僚になる道、故郷に帰り普通の生活を送る道。……他にも色々あったはずなのに、よりにもよってどうして軍だったの?」
 その問いかけに一矢は苦笑いを浮かべた。
「レミとしては機構に来て欲しかった?」
「ええ。それも……」
「星間中央警察に?」
「その通りよ」
 頷き一矢を見やると、
「そういう話も出たんだけど……でも、駄目かなって思ったんだ」
 レミングのデスクに凭れ掛かり、一矢が自嘲めいた表情を浮かべ呟く。
「駄目?」
「ああ、だって僕は沢山人を殺している。刑事って柄じゃないよ」
「でもそれは……」
 レミングの反論を、一矢はさらりと躱した。
「無理無理。絶対勤まらないって」
「一矢……」
「色々考えた上で軍に残ろうって決めた。なんとかしなきゃって思ってしまったからな〜」
 ふと一矢のぼやきに思い当たる節があった。
「まさか、軍の綱紀を糺すためだったの?」
 一矢は無言で肩を竦める。
「そんな大それた物じゃないよ。単なる個人的な復讐だ」
「……」
 レミングの目が細められ、目尻に皺が刻まれる。
「蹴落としてやろうって思ったんだよ。あいつら全部潰してやろうって。マイを殺しておいて、のうのうと生きてふんぞり返っている提督達に腹が立った」
 天井を見上げて一矢がポツリと漏らす。
「あいつらが軍を牛耳るのが嫌だった、……それだけだよ」
 本当にそれだけだとは到底思えなかったが、レミングは特に口を挟まなかった。
 人の心は複雑だ。一矢の心に渦巻いた感情は一つや二つではないのだろう。何を思い何を考えたのか、それは一矢にしかわからない。レミングが踏み込んで良いものではなかった。
[56] 2005/08/31/(Wed) 19:11:01

名前 MUTUMI
題名 34
内容  一方、ロンが退出した課長室では……。
「……本当にこれで良かったの?」
 レミングが自分の足下、デスクの影に屈んでいた少年に向かって声をかけていた。
「不満なの?」
 逆に聞き返しつつ、少年がデスクの影から立ち上がる。
「不安なのよ」
 レミングは苦笑を浮かべ、椅子に座ったまま少年を見上げた。ほっそりした肢体を不粋な黒の軍服に包んだ少年は、困った顔をしてレミングを見ている。
「5班だけでは恐らく無理だわ」
「そう?」
 案外上手くやるかもという少年の意見を、レミングが冷静な声音で却下した。
「星間中央警察には、まだギルガッソーを相手にできるような力はないわ」
「……」
 少年は無言でレミングを見つめる。焦げ茶の瞳が何かを言いたそうに揺らめいた。素早くそれを読み取り、レミングが全身の力を抜く。
「ええ、そうね。わかっているのよ。これは司法がどうにかする問題だって事は。……でも」
 言葉を切ってレミングは俯く。
「非力なのよ。私達は」
「レミ……」
 少年が寂しそうに呟く。
「そんな事言うなよ。星間中央警察は十分よくやってるよ。この十年余り、星間はこれだけ平和になったじゃないか」
「でもそれは……」
 レミングは呟き押し黙る。
「星間中央警察に足りないのは経験だよ。それだけだ」
 少年の言葉にレミングは微かに微笑んだ。目尻に感謝の意思を込めて、少年を見上げる。
「特殊部隊と同じ事を警察が出来たら、そっちの方が怖いよ。僕らのいる意味ないじゃん」
 戯(おど)けたような表情で少年が笑った。
[55] 2005/08/31/(Wed) 14:31:52

名前 MUTUMI
題名 33
内容  下手をすれば自白に追い込めず、何の情報もつかめないまま生誕祭当日を迎えるという、最悪のパターンにもなりかねなかった。
「桜花部隊との密接な連絡が必要だな」
 電子書類に目を落としたままロンが呟く。ロンが指揮する第5班には僅か30名しか捜査員がいない。いつもは地元警察、各星々に属する警察から捜査協力を受け、その都度混成の特別対応チームを編成して、ことにあたっていた。
 普段通りの捜査方法を採用するならば、今回はディアーナ警察に捜査協力を要請しなければならない。しかし……それを躊躇わせるに十分な情報が電子書類には記載されていた。
《ディアーナ星に反政府組織ギルガッソーの拠点がある可能性は、70%以上と思われる》
《留意すべき事項として下記をあげる。一、ディアーナ星系政府内部に内通者がいる可能性が高い。二、過去の行動から鑑み、ディアーナ警察からの情報漏洩の疑いが高い》
 無言で何度もその部分を読み返し、ロンは視線を天井へと向けた。
「単独捜査決定か」
 ヤレヤレと首を振り、重い足取りでロンは自席へと戻って行く。
 警察からの情報漏洩という間抜けな事態に、強い不快感を感じるが、ロンの意識は高揚していた。市民を守るという責任感が、心を占めていたためかも知れない。眼鏡の奥の細い瞳は、やる気満々だった。

[54] 2005/08/31/(Wed) 13:34:23

名前 MUTUMI
題名 訂正
内容  32ちょこちょこ文体訂正。内容は同じ。
[53] 2005/08/31/(Wed) 12:49:53

名前 MUTUMI
題名 32
内容  どちらにしろ利用されている事に違いはなかったが、何故か腹は立たなかった。そんな個人的な感情にかかわっている暇などないと、悟っているからだ。
「式典まで後3週間……、間に合うのか?」
 生誕祭までにネロ・ストークを確保し、口を割らせなければならない。自白剤を使えば1発で吐くだろうが、星間中央警察はあくまで警察であり、たとえ犯罪者が相手とはいえ、人権を蹂躙する事は許されていない。故に、ネロ・ストーク自身に自白してもらうしか方法がなかった。
 とはいえ、相手はギルガッソーのれっきとしたメンバーだ。そう容易く自白に追い込めるとは、ロンも思っていない。最短でも一週間はかかるだろうと踏んでいる。
[52] 2005/08/29/(Mon) 23:31:09

名前 MUTUMI
題名 31
内容  課長室から自分のデスクに辿り着くまでに、ロンはチラチラと電子書類を流し読みする。重要事項だけでも先に把握しておこうと思ったためだ。
 だがしかし、読めば読む程ロンの顔色は徐々に崩れて行った。小麦色に焼けた額にはうっすらと、暑くもないのに汗が浮かぶ。それが脂汗だとロンだけが自覚していた。
「……なんて事だ。こんな事態になっているのか」
 特殊戦略諜報部隊、通称桜花部隊から回された書類には今までの経緯と、彼等が集めた情報が詳しく記載されていた。星間中央警察第二課、テロ捜査専門の部門に長くいるロンですら初めて知る事柄もあった。
 ロンが手に持つ電子書類は単なる書類でしかないが、そこに詰まっている情報は値千金の物ばかりだ。相当優秀な情報網が桜花部隊にはあるのだろう。星間連合内で共有化されていた情報ばかりではないところを見ると、今回新たに判明した事柄も惜しみなく記載されたようだ。
「いつになく大盤振舞い……か」
 レミングが語った言葉を思い出し、ロンは眉間を寄せる。くっきりと縦に入った皺を自覚しながらも、ずれてきた眼鏡を少し上に押し上げ、ロンは電子書類から視線を外した。
「……やってみようか。期待されているのなら、尚更」
 桜花部隊の真意は読めないが、現段階での捜査の主導権が彼等ではなくこちらに、星間中央警察にある事をロンは悟っていた。桜花部隊は情報を集めるだけ集めた後、一旦手を引き、或いは静観する構えのようだ。
 その証拠に折角見つけた星間指名手配ナンバーU338092こと、ネロ・ストークの潜伏先と思われる場所、数カ所の住所を記載している。
「ガサ入れしても構わないという事だな」
 好意的に見れば星間中央警察でも対応が出来ると判断されたのであろうし、作為的に見れば桜花部隊の存在を臭わせないための偽装工作ともとれる。
[51] 2005/08/27/(Sat) 11:32:03

名前 MUTUMI
題名 30
内容 「お呼びですか?」
 ロンは大きなデスクの前に立って、老婆に声をかける。老眼鏡をかけ電子書類を眺めていた老婆は、静かに視線を上げた。
「悪い知らせよ、セイファード捜査官」
 ロンは黙って老婆の言葉を待つ。老眼鏡を外し畳んでデスクの上に置くと、老婆は書類をロンの方へと押し出した。
「これは?」
「特殊戦略諜報部隊から頂いた物よ」
「え? 星間軍の……桜花部隊ですか!?」
 ロンは驚愕の表情を浮かべながらも、押し出された書類を手に取った。ロンの驚き様に老婆、レミング・ルーダは声を殺して笑う。
「畑違いだけどツテがない訳でもないのよ。あの子何しろ交友関係が広いから、私もその中に入っているしね」
「はあ」
 目を白黒させながら曖昧にロンは頷く。そんなロンの様子すら面白いらしくレミングは、悪戯っ子の様に青い瞳を細めた。
「協力要請が正式に来たわ。もっともあの子にしたら、うちで何とかするのが本来の筋じゃないかと思っているのだろうけど。でもねえ、うちでどうにか出来る訳なのよね」
「?」
 困惑するロンに笑って何でもないわと告げ、レミングは気真面目な顔に戻った。
「その書類に急いで目を通して5班全員でかかりなさい。継続している捜査は全て他の班へ振り分けること」
「じょ、女史?」
 それは幾ら何でもとロンが遮りかけたが、レミングはぴしゃりと抗議を撥ね付けた。
「それでもまだ覚悟が足りないぐらいよ。3班も組み入れようかと思ったけれど、あちらはあちらで厄介な事に首を突っ込んでいるようだし。他も似たり寄ったりで暇はなさそうだし、結局5班単独で対応する事にしたわ」
 豪傑なレミングらしくない憂慮が滲んだ表情を前に、ロンは慌てて電子書類に視線を落とした。赤い文字で強調された部分がいきなり飛び込んで来る。
《星間連合生誕10周年記念式典におけるテロ情報》
《反政府組織ギルガッソーの介入》
「なっ!?」
 その文字群がどういう意味を持つのか知り、ロンは一気に青冷めた。頭の先からストンと血の気が引いて行く。
「じょ、女史! これは」
「見ての通りよ。その捜査をして欲しいの。あの子によると、桜花部隊の方で判った事は全部載せているそうよ。いつになく大盤振舞いな所が、限りなく真剣だって臭って来るわよね」
 呑気な感想を付け加え、レミングは血の気の引いたロンを真正面から見つめた。
「大丈夫よ。一応こちらが主だけれど、それは司法の力が必要だとあの子が判断したからであって、何も全部丸投げしてくる訳ではないから。サポートの確約は取り付けておいたわ」
(ついでに尻拭いも頼んだし)
 とは、ロンには言えないレミングだった。
「頑張ってみなさい。確かに私達は桜花部隊の様に振る舞う事は出来ないけれど、こちらにはこちらのやり方があるわ」
 軍と警察、それも血の臭いの染みついた特殊部隊と、清廉潔白を旨とする警察の精鋭部門、相反する理念が交わる事はない。けれど協力しあう事は出来る。
「セイファード捜査官、あなた達の捜査能力を見せつけてやりなさい」
 フッとレミングの唇が綻ぶ。釣られてロンも微かに笑顔を浮かべた。
「では戻りなさい」
 その声に促され、ロンは電子書類を手に静かに退出した。
[50] 2005/08/24/(Wed) 11:29:22

名前 MUTUMI
題名 29
内容  昼休み明け、外で昼食を取り直したロンは、同僚から課長が呼んでいるという伝言を受け取った。
「呼び出しなの、ロン?」
「何かヘマをしたのか?」
 面白そうに宣うメイファーとテリーに胡乱な視線を投げかけ、
「ヘマをするのはお前達だろうが? 今週は何をやったんだ? 班長の俺はまだ何も聞いてないぞ」
 逆にそう聞き返した。メイファーとテリーは薮蛇とばかりに押し黙る。
「……まあ、いい。後でみっちり聞くからな」
 眼鏡の奥でロンの細い目が異様に輝いた。「ひいぃ」と二人の口からか細い悲鳴があがる。二人を十分に脅迫すると、満足したのかロンは奥の課長室へと向かった。
 コンコン。
 軽く二回ノックをして、ドアの開閉スイッチを押す。ゆっくりと左右に開くドアを通って、ロンは第二課の課長レミング・ルーダに対面した。
[49] 2005/08/22/(Mon) 15:40:40






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