[795] FINAL SECTION ギンガ団の罠! ルビーの怒り! |
- フリッカー - 2009年02月25日 (水) 17時33分
「ヒカリちゃん、あの人の事、何とも思わないの?」 「ダイジョウブですよ。きっと、2人を見つけた事を教えに来てくれたんですよ」 私がテントの中で支度をするヒカリちゃんにそう言っても、ヒカリちゃんは笑みを浮かべてそう答えるだけ。そして私が止める間もなく、そのまま軽い足取りで素早くテントを出て行ってしまった。友達に会えるのが余程楽しみなのがわかる。 でも、私はあの女性、ミバキが何だか怪しく見えた。あの笑みがどうも心からのものではなく、作ったもののようにしか見えなかった。まるで何かを企んでいるかのように。 そもそも、ここにいきなり現れて「サトシさんとタケシさんと名乗る御方が、あなたを捜している」と告げる行為そのものが怪しい。もしそれが本当なら、なぜ2人を一緒に連れて来ないのでしょうか? 2人は待っていると言っていたけれど、わざわざ2人を待たせておいて、彼女1人が探すのを一任しているとは考えにくい。3人それぞれが分かれて探していると考えても、待っているという表現はしないはず。 彼女はヒカリちゃんを騙して、何か企んでいるのかもしれない。最悪のシナリオが頭を過る。2人の所に連れて行くと見せかけて誘拐する、典型的な誘拐の手口。 でもこれは、私の考え過ぎかもしれない。今までの考えは、『2人が動ける状態である』事を前提にして考えた事。ヒカリちゃんはたまたま海に落ちたから大きな怪我はなかったけれど、2人も同じとは限らない。爆発の影響で、大きな怪我をして動けなくなっている可能性もある。それなら、彼女1人がヒカリちゃんを捜している理由も説明がつく。 それでも、私は不安だった。何か嫌な匂いがする。女の感っていうものでしょうか。 私は途中だった荷物の支度を手短に終えるべく、動き出していた。
「えっ、ルビーさんも行くんですか?」 ヒカリちゃんは目を丸くしていた。 「いいでしょ。私だってあの2人とは無関係じゃないんだから、無事なのか知りたいのは同じなんだから」 私はあえて心配だからついて行く、とは言わなかった。この心配は単なる杞憂かもしれないから、何もなければそれでいい。それに、ミバキの考えを探るという意味合いでも。ふとミバキに視線を向けると、ミバキの表情は平常を保っているように見えたけれど、どこか気に食わない部分がある事が顔にしっかりと書かれていた。 「あなたも私が同行する事に、何も不満はないでしょう?」 私は試しにそうミバキに聞いてみた。 「え? ええ、まあ、そうですね」 ミバキは言葉に詰まっている。それを笑ってごまかす様子を見せるミバキ。ミバキは明らかに何か隠している。私がいると何かまずい事がある何かを。それがヒカリちゃんに伸ばそうとしている魔の手なのかどうかは、実際にこの目で見て確かめる必要がある。どうやらヒカリちゃんに同行する事は正解だったみたいね。 「では、行きましょうか。2人がいるという場所に」 「はい」 私達は早速、ミバキさんの案内で2人がいるという場所に向かって歩き出した。そもそも、そこに2人がいるのかどうかが問題なんだけれども。
FINAL SECTION ギンガ団の罠! ルビーの怒り!
ミバキさんの案内で、あたし達は森の中を進んでいく。もう結構歩いている。2人は結構あたし達から遠くにいたんだ。 「……っ、よりによってこんな時に……」 あたしから見て前にいるミバキさんが、ふとそんな事をつぶやいていた。声が小さかったから、はっきりとは聞こえなかったけど。 「どうしたんですかミバキさん?」 「あっ、いえ、別に何でもないわよ」 試しに聞いてみると、ミバキさんは少し驚いていた様子だったけど、すぐに笑みを見せて答えた。なんだ、それなら別にいいんだけど。 それにしても、さっきから隣のルビーさんは黙ったまま。その赤い瞳はただ真っ直ぐ、ミバキさんを見つめていた。いや、にらんでいたって言った方がいいかもしれない。何か普段とは違う雰囲気。 「ルビーさん?」 「……いいえ、何でもないわ」 あたしは試しに聞いてみると、ルビーさんは顔を向けてそう一言答えるだけ。そして顔を戻すと、またミバキさんに目を向ける。何でもなくない。何か雰囲気的に何かありそう。ミバキさんに何か気になる事があるのかな? でもそれをあたしが知る方法はない。 ま、いっか。あたしはそう考えて、正面に向き直った。
* * *
歩いている間に、あたし達は大きく開いた洞窟の前に差し掛かった。ミバキさんはそこに真っ直ぐ足を踏み入れる。あたし達も、その後に続く。 入口から離れて行くと、どんどん視界が暗くなっていく。ところどころでズバットが飛んでいる、少し怖い雰囲気の洞窟。まあ、これくらいの洞窟なら何度も通ってるからダイジョウブなんだけど。それにしても長い。結構奥まで入ってきてるみたい。それでもミバキさんは歩き続ける。ここを通って、本当に2人の所に着くのかな? そんな事をふと考えた。 「……さっきから何も言ってなかったけど、2人がいる場所というのは、どんな場所なのかしら?」 ルビーさんが立ち止まって口を開いたのは、あたしの目がやっと暗さに慣れてきた時だった。そういえばさっきから、ミバキさんは2人がいる場所が具体的にどこなのかをあたし達に教えていなかった。 「えっ? まあ、来ればわかりますよ」 突然の質問だったからか、ミバキさんは足を止めて少し驚いていた様子を見せたけど、すぐに笑みを見せてそう答えて、歩き出そうとした。でも、それを聞いてもルビーさんのミバキさんを見つめる目付きは変わらなかった。 「どうして隠すの? 別に隠さなくたって困る事はないじゃない」 すると、ルビーさんはまた鋭い質問をする。ミバキさんの足が引っ張られるように止まった。 「か、隠すって……変な事言わないでくださいよ」 「なら教えられるでしょ。2人がいる場所がどんな場所なのかを」 「う……それは……」 ミバキさんはルビーさんから目をそらしたまま、言葉を詰まらせている。普通なら簡単に答えられるはずなのに。ルビーさんの目付きがまた鋭くなる。 「……隠しているのでしょう。私達が知ると困る事を……」 「……」 とうとうミバキさんは立ち尽くしたまま何も言わなくなった。あたし達が知ると困る事って……? 気まずい空気が辺りに漂う。
その時! あたし達の後ろで、ドドーン、といきなり何かが爆発した音が洞窟に響き渡った。洞窟が激しく揺れだす。あたしも倒れそうになったけど、ルビーさんがとっさにあたしを地面に伏せさせてくれた。な、何、いきなり!? すると、今まであたし達の後ろの天井が音を立てて崩れだした。崩れた岩は、そのままあたし達が通ってきた道に積み重なって、塞いじゃった! 「大丈夫だった?」 「あ、はい」 あたしに覆いかぶさっている形のルビーさんがあたしに呼びかけに、あたしは答える。 「バレちゃったわね……でも、残念ながら遅すぎたわね」 急にミバキさんの口調が変わった。どこか聞き覚えのある喋り方。見ると、こんな状況にも関わらず、こちらに背中を向けて立っているミバキさんの姿が。 「やはり、最初から騙すつもりだったのね……!」 「その通りっ!!」 ルビーさんがそう言うと、ミバキさんは堂々と答えて、身を翻すと来ていた服と帽子を一気に脱ぎ捨てた。その姿を見て、あたしは驚きを隠せなかった。露わになった青紫色の髪に、黒を基調にした特徴的な模様のスカート付きスーツ。その胸に付いている『G』のマーク。ミバキさんの顔って、どこかで見た事があったと思ったら……! 「あんたは、あの時の……!?」 「そうよ……ミバキというのは仮の名、その素顔はギンガ団エージェント、スウィフトよ!!」 ミバキさん、いや、スウィフトは堂々と胸を張って目の前で名乗った。間違いない、あの時爆薬であたし達を吹っ飛ばしたギンガ団のエージェント……! 「サトシとタケシがあなたを探している、なんて簡単なウソに引っ掛かるなんて、さすがは子供ね」 スウィフトはあたしの顔を見て、嫌味な笑みを浮かべた。よく考えたら、いきなりやってきてサトシとタケシがあたしを探しているなんて言うのは変だよね。2人の名前を聞いて無事だった事がつい嬉しくなっちゃったから、まさかそれがウソだなんて考えてもいなかった。こんなウソに簡単に騙されちゃうなんて…… 「狙いはヒカリちゃんのようね。ここに閉じ込めて、ヒカリちゃんをどうするつもりなの!」 ルビーさんが立ち上がって、スウィフトに聞く。 「決まってるじゃない。ここで誰にも見られる事なく始末するの。そして証拠をすべて消せば、始末された事なんて誰も気付かない。もう1人連れが来る事は予想外だったけど、同じ罠にかかったからには、あんたも一緒に消えてもらうよ!!」 スウィフトはモンスターボールを取り出して、スイッチを押す。中から飛び出したのはアリアドス。すると真っ先にこっちに向かって口から白い糸を発射! あたしとルビーさんはお互い離れる形で糸をよけようとした。でも、急にあたしの右足が急に後ろに引っ張られて、つまづいちゃった。体が思いきり岩場の地面に叩きつけられる。見ると、あたしの右足に糸が絡みついている。その伸びる先には、アリアドスの姿が。捕まっちゃってる! 「ポチャチャアアアアアッ!!」 それに気付いたポッチャマがすぐに飛び出した。糸を切ろうと“つつく”でアリアドスに飛びかかる! 「そうはさせないわ!! ポリゴンZ!!」 でもスウィフトも黙って見てはいない。すぐに別のモンスターボールを取り出して、素早く投げる。出てきたのは、バーチャルポケモン・ポリゴンZだった。ポリゴンZは素早くポッチャマの前に立ちはだかる。 「“10まんボルト”!!」 スウィフトの指示で、ポリゴンZは目の前のポッチャマに対して電撃を発射! 至近距離。よけられる訳ない! 「ポチャアアアアアアッ!!」 電撃をもろに受けて、跳ね飛ばされるポッチャマ。効果は抜群! それでもポッチャマは怯まずに立ち上がって、何とかして糸を切ろうとするけど、ポリゴンZはその隙を与えない。的確に攻撃してポッチャマの行動を妨害する。 「ヒカリちゃん!!」 ルビーさんも黙っていない。すぐにあたしの側に駆け寄ろうとする。 「ドータクン、“サイコキネシス”!!」 そんなルビーさんの動きをスウィフトは見逃さなかった。すぐにまた別のモンスターボールを取り出す。そこから出てきたのは、ドータクン。ルビーさんはあたしの目の前まで来た所で、ドータクンの強い念力に跳ね飛ばされた。 「うっ!!」 そのまま洞窟の壁に叩き付けられるルビーさん。そのままはりつけにされたように動かなくなるルビーさん。余程強い念力で押さえつけられてるんだ。その前に、ドータクンが立ちはだかる。 「フフフ、まずはこの子がやられるのをそこで見ていなさい」 「く……」 ルビーさんが唇を噛む。ルビーさんは“サイコキネシス”で縛り付けられて動けない。ポッチャマもポリゴンZの相手をしていてあたしを助けるどころじゃない。こうなったら、別のポケモンを出して……そう考えてモンスターボールを取り出した時だった。 「アリアドス、“ギガドレイン”!!」 そんな声が聞こえたと思うと、いきなりあたしの体に糸から強い電撃のような何かが走った。 「きゃあああああああっ!!」 あたしは悲鳴を上げる事しかできなかった。体の力が凄まじいスピードでどんどん抜けていく。どんどん体に力が入らなくなって、持っていたモンスターボールが自然と手からこぼれ落ちる。このままじゃ……! 「ポチャチャ!!」 「ヒカリちゃん……っ!!」 ポッチャマとルビーさんの声が聞こえてくる。でも、2人はあたしを助けられない。さっきスウィフトが言ったように、こんなあたしの状態を黙って見ている事しかできない。 「フフフ、終わったね。これで私は、昇進への道が開けたも同然! アッハハハハハハ!!」 スウィフトが勝った事を確信したように、高らかに笑い声をあげた。 ああ、体の力がどんどん入らなくなってくる……頭もだんだんふらふらしてきた……このまま、あたしは殺されちゃうの……? サトシとタケシに、二度と会えないまま……
* * *
このまま、あの子をやらせる訳にはいかない……! あの子がここで殺されてしまえば、アヤちゃんだって、あの2人だって悲しむ……! 何より、大人の1人として、子供の危機を黙って見ているだけなんて……!
力を振り絞らなきゃ……! あの時の、アヤちゃんのように……!!
* * *
その時だった。 急にドン、と強い音が洞窟に響き渡った。すると、あたしの横を大きな影が物凄いスピードで通り過ぎた。それは、アリアドスに正面から激突。アリアドスもろとも弾き飛ばされて、洞窟の壁に激突。そのお陰で、アリアドスが伸ばしていた糸が切れて、あたしはやっと“ギガドレイン”から解放された。アリアドスと重なって洞窟の壁にぶつかったのは、ルビーさんを“サイコキネシス”で押さえつけていたはずのドータクンだった。 まさか、と思った時、あたしの体がそっと起こされた。そしてあたしの視界に、さっきまでドータクンに抑えつけられていたはずのルビーさんの顔が映った。 「大丈夫だった?」 ルビーさんはあたしの顔を確かめて、呼びかける。あたしはどうしてドータクンから逃げられたのかわからなかったけど、ゆっくりうなずいた。それを確かめたルビーさんはよかった、と言ってるように笑みを浮かべた後、屈めていた体を起こして、さっきとは一転して鋭い目付きでスウィフトをにらんだ。 「あ、あんた、ドータクンをどうやって……!?」 スウィフトが少し動揺した様子でルビーさんに叫んだ。すると、ルビーさんの目の前に大きな影がズシン、と思い足音を立てて現れた。 メタボという言葉がぴったり合う、っていうかそんなレベルじゃないほどに極端に太ったボディ。そしてそこから伸びる足は体以上に太い。そしてまるでグローブのように大きな手の平を大きく広げて、正面に突き出している。全体的にかなりどっしりした感じのポケモンだった。 「あのポケモンは、ハリテヤマ……!!」 スウィフトが叫んだ。あれがハリテヤマ……あたしはそっとポケモン図鑑を取り出した。 「ハリテヤマ、つっぱりポケモン。両足で地面を踏み鳴らしてパワーをため、張り手一発で10トントラックを吹き飛ばす」 図鑑の音声が流れた。張り手一発で10トントラックを吹き飛ばす!? そんな凄いポケモンがいたなんて……! 「ちっ、あんたもギンガ団に抵抗するのなら、容赦はしないわよ!! ドータクン、“ジャイロボール”!!」 スウィフトはすぐにドータクンを呼び出して、反撃する。ドータクンは体を横回転させながら、真っ直ぐハリテヤマ目がけて突撃していく! それでも、ハリテヤマは微動だにしない。ドータクンとの距離が、どんどん詰まっていく。危ない! 「“ふきとばし”!!」 ドータクンが目の前にまで迫ったその時、ルビーさんが指示を出した。それは、いつもの落ち着いた印象とは違う、気迫のこもった声だった。ハリテヤマは向かってくるドータクンに対して、大きな手の平を勢いよく突き出した! 途端にドータクンは、あれだけ大きいのがまるでウソみたいに、いとも簡単に弾き飛ばされた。それも強く蹴られたボールのように、凄い勢いで。そしてまた、洞窟の壁に勢いよく叩きつけられるドータクン。こっちも一瞬、背筋が凍るくらいの凄いパワー。これなら10トントラックも一撃で吹き飛ばせるよね…… 「な、何なのあのパワーは!?」 壁に叩きつけられたドータクンを見て、動揺を隠せないスウィフト。 「ヒカリちゃんは、私の大切な友達の子供なの。あなたのような悪人の手で、殺させはしないわ!!」 ルビーさんは力強く、スウィフトに言い放った。ルビーさんは怒っている。その赤い瞳は、ルビーさんの強い意志と怒りを感じさせる。それを見たスウィフトは、ルビーさんをただ者じゃないと判断したのか、顔が少しひきつった。そしてルビーさんは、モンスターボールを2個取り出した。でも片方は、黒いモンスターボールだった。でも白や赤、金色のラインが入っていて、ボタンも金色。そしてツヤもかかっていて、結構高級な印象。 「それに、そうやって子供を平気で殺そうとするあなたが許せない!! カイロス、ボーマンダ、ショウタイム!!」 そう叫んで、勢いよくモンスターボールを投げるルビーさん。黒いモンスターボールの中からはカイロス、普通のモンスターボールからはボーマンダが現れた。そしてボーマンダが閉じ込めていた力を解放するみたいに吠えると、スウィフトのポケモン3匹全員の表情がこわばった。 「くっ、それならやってやろうじゃないの!! ポリゴンZ!! あいつに“れいとうビーム”をお見舞いしちゃいなさい!!」 スウィフトが怒った様子でポリゴンZに指示を出した。ポリゴンZがサッと前に飛び出す。そして、“れいとうビーム”を発射! 「ハリテヤマ!!」 ルビーさんの気迫のこもった指示で、ハリテヤマが前に飛び出す。ハリテヤマは飛んでくる“れいとうビーム”に向けて、手の平を突き出す。そこに“れいとうビーム”が命中! でもハリテヤマの手はビクともしない。まるでそれが、大きな壁になっているかのように。 「“つっぱり”!!」 ルビーさんの怒りをぶつけるかのように、ハリテヤマはその平手を、左右交互に豪快に繰り出した! たちまち猛烈な張り手の嵐に晒されるポリゴンZ。効果は抜群! そして怯んだ隙を見て、ハリテヤマはそのまま左手で、ポリゴンZの頭を鷲掴みにした。大きさの差がありすぎる。ポリゴンZはただ体をじたばたさせるしかない。 「“きあいパンチ”!!」 ハリテヤマは右手をグッと握り締めて、力を込める。そしてさらに力を溜めるように右手を引いてから、豪快にポリゴンZに向けて拳を突き出した! たちまちボールのように跳ね飛ばされるポリゴンZ。効果は抜群! かくとうタイプ最強わざの直撃を受けたら、ポリゴンZはひとたまりもない。ドータクンと同じように洞窟の壁に叩きつけられたポリゴンZは、そのまま戦闘不能になっていた。 「な、何なのよあれは……」 あっけなくやられちゃったポリゴンZを見て、スウィフトは動揺してつぶやいた。 「でも、まだ勝ちが決まった訳じゃないわ!! ドータクン!!」 それでもスウィフトは逆に怒った様子で叫んだ。今度はドータクンが前に出る。 「ボーマンダ!!」 ルビーさんの指示で、応戦するのはボーマンダ。勢いよく飛び出して、たちまちドータクンとの間合いを詰める。 「“リフレクター”!!」 それを見てまずいと思ったのか、スウィフトはとっさに指示した。ドータクンの目の前に、透明な光の壁が作り出された。 「“かわらわり”!!」 それを見て、ルビーさんは攻撃を指示した。ボーマンダはツメを勢いよく振り上げて、“リフレクター”に豪快に叩きつけた! すると、“リフレクター”は音を立てて簡単に割れて、ツメはドータクンに直撃! 怯んで後ずさりするドータクン。“かわらわり”は、“ひかりのかべ”や“リフレクター”を壊す事ができるわざ。ドータクンが“リフレクター”を張ったのを、ルビーさんはチャンスと見たんだ! 「“アクアテール”!!」 ルビーさんは反撃する隙は与えないと言わんばかりに、指示を出す。ボーマンダの尻尾の周りを水が覆った。そしてボーマンダはそれをドータクンに叩き込んだ! 直撃! たちまち跳ね飛ばされたドータクンは、洞窟の壁にまた叩きつけられる。 「“ドラゴンダイブ”!!」 その隙を、ルビーさんは逃さない。ボーマンダは滑るように低空飛行してドータクンに突撃する。ボーマンダの体を、強いエネルギーが覆う。それはまるで流れ星、いや、そんなレベルじゃない。隕石って言った方がいい。そのまま豪快にドータクンに体当たり! 衝撃で壁の岩が崩れ落ちて、土ぼこりが舞う。さすがに洞窟そのものが崩れるほどじゃなかったけど、その衝撃がどれだけ凄まじいものなのかが、あたしにも伝わってきた。ボーマンダがサッとルビーさんの前に戻ってくると、土ぼこりの中から完全に戦闘不能になったドータクンの姿が現れた。“ドラゴンダイブ”の効果は今ひとつだったはずなのに…… 「そ、そんな……!?」 スウィフトは動揺を隠せない。当然か、ほとんど反撃もできないで一方的にやられちゃったんだから。 「ええい、調子に乗らないでっ!! アリアドス、“どくづき”!!」 でもそれでヤケになったのか、怒りに任せた様子でスウィフトはアリアドスに指示した。アリアドスは真っ直ぐ、こっちに向かって怪しく光る腕を振り上げて向かってくる! 「カイロス!!」 そんなアリアドスを迎え撃つのは、カイロス。そしてアリアドスは、前に出たカイロスに飛びかかって“どくづき”を叩き込もうとした! 「“ハサミギロチン”!!」 そこでルビーさんが指示したのは、あの“ハサミギロチン”! アリアドスが飛びかかろうとした所を、カイロスはツノでがっちりと受け止めた。お腹からツノに捕まったアリアドスは、ただじたばたするだけしかできない。そして、カイロスがツノに力を込める。アリアドスが抵抗できないままゆっくりと締め付けられていく。そして爆発! 「一撃必殺っていうのは、こういう事よ」 その瞬間、ルビーさんはそんな事をつぶやいていた。勝ち誇るように立つカイロスの目の前には、戦闘不能になって崩れ落ちたアリアドスの姿が。 「……」 一瞬で倒されちゃったアリアドスを見て、スウィフトはとうとうその場で固まっちゃった。そのまま言葉も出ない。凄い……やっぱりルビーさんって凄い……! あたしは感心しちゃった。 その時、あたし達の目の前に突然、大きな穴が開いた。そしてその中から、1匹のポケモンが飛び出した。こざるポケモン・ヒコザル。その姿には、見覚えがある。 「何だ、このヒコザルは!?」 「このヒコザル、もしかして……!!」 まさか、と思った時、ヒコザルが開けた穴の中から、誰かが姿を現した。その赤い帽子を見て、あたしはすぐにわかった。その人がまさかここで現れるなんて驚いたけど。 「サトシ!!」 「ヒカリ!!」 あたしとその人――サトシと声が合わさった。サトシはすぐに穴から上がってきて、あたしの様子を確かめた。 「よかった、無事だったのね!!」 「ああ、タケシも一緒だ」 サトシが、穴の方に顔を向けた。すると、また1人穴の中から誰かが顔を覗かせた。誰なのかはもう言うまでもない。 「ヒカリ!! よかった、無事だったんだな!!」 「タケシ!! よかった……2人共無事で……!!」 タケシも元気な顔を見せている。あたしは嬉しかった。どういういきさつでここに来たのかはわからないけど、向こうからこっちに来てくれるなんて……! 「驚いたわ。まさか探していたあなた達からこっちに来てくれるなんて」 そんなルビーさんの声を聞いて、サトシとタケシがはっとルビーさんの方を見た。 「あなたは……ルビーさん!?」 「お久しぶりね2人共。とにかく、無事でよかったわ」 ルビーさんは2人に笑みを見せると、すぐにまたスウィフトの方に体を向き直した。 「……さて、こんな状況で、あなたはどうする?」 「……ちっ、これじゃさすがに分が悪いわね……いいわ。今回は見逃してあげる。だけど覚えておきなさい。ギンガ団に逆らう者は破滅を見るという事を!」 ルビーさんにそう言われたスウィフトは、負け惜しみを言うようにそうあたし達に言い放つと、3匹のポケモンを素早くモンスターボールに戻して、素早く洞窟の奥へと消えていった。
* * *
あの時サトシ達も、ムクバードであたし達の事を探していて、たまたまあたし達が洞窟に入る所を、ムクバードが見つけたから駆けつけてくれたらしい。とにかく、あたしの信じた通り、2人は無事でいてくれた。それが何より嬉しかった。 何はともあれ、こうして無事に合流できたあたし達は、近くにあったポケモンセンターに立ち寄ったそのついでに、ママの所に電話を入れる事にした。ルビーさんが電話をしたいと言ったのがきっかけ。だからついでに、あたしもグランドフェスティバルまでリボンがあと1つになった事を報告しようと思って。 「久しぶりね、アヤちゃん」 「まあ、ルビーじゃない! 久しぶりね」 画面の向こうで、ママはルビーさんの顔を見て喜びに満ちた驚きの表情を見せた。 「ルビーさんは、ヒカリのママさんと知り合いだったんですか?」 「そうよ。このカイロスのゴージャスボールだって、アヤちゃんがプレゼントしてくれたものなのよ」 サトシの質問に、ルビーさんはカイロスが入っている黒いモンスターボール、ゴージャスボールを見せて答えた。後で知った事だけど、ゴージャスボールは高級な部品で作られていて、中のポケモンが普通のモンスターボール以上に居心地がよくなれる、その名の通りゴージャスなモンスターボールだった。 「ママ、あたしもいるよ!」 「ポチャマ!」 ルビーさんの顔の横に、あたしもポッチャマと一緒に顔を出した。 「あら、ヒカリも一緒なのね。見たわよ、この間のアケビ大会。遂に4つ目のリボンね」 「うん! もうこれであと1つリボンゲットしたら、もうグランドフェスティバルよ!」 「そうやって喜ぶのはいいけど、浮かれてばかりいちゃダメよ。次でグランドフェスティバル出場が決まるなら、それでちゃんとリボンが取れるようにちゃんと練習するのよ」 「ダイジョウブ、ダイジョウブ! あたし、がんばるから!」 そんなあたしとママのやり取りを見て、ルビーさんはほほ笑んでいた。そして、また画面に顔を向けてママに話しかけた。 「それにしてもアヤちゃん、いい子供を産んだわね」 「え?」 ママの声が裏返った。 「あの時赤ちゃんだったヒカリちゃんが、こんな立派なポケモンコーディネーターになっていたんですもの。それにアヤちゃんに似て強い勇気があって、純粋な心をもっていて……何だか私、運命的なものを感じちゃった」 そんな事を言われると、あたしもちょっぴり恥ずかしくなって、顔が赤くなった。 「ちょ、ちょっと! 私をおだてるつもりなの?」 「私はおだててなんかないわ。本当の事を言っただけよ」 ママはルビーさんの言葉に少しだけ顔を赤くしていた。ルビーさんも笑顔を浮かべる。それを見ていると、ママとルビーさんがどれだけ仲がいいのかがわかる。 「そういえばルビーは、結婚はまだしないの?」 「え?」 お返しとばかりに、ママがルビーさんに聞く。今度はルビーさんの声が裏返った。 「もういい年なんだから、いい加減相手を見つけたらどうなの?」 「もう、アヤちゃんったらしつこいのね。私の事はいいのよ。私はただ……」 ルビーさんの言葉はそこで途切れた。それは、タケシがいきなり割り込んでルビーさんの両手を取ったから。 「それならば、自分がそのお相手になりましょう……! あなたの宝石のような美しさに、自分はもう、一撃必殺ですから……!」 タケシはルビーさんの前で丁寧にひざまずいて向かい合った状態で、この時しか見せない爽やかな笑顔を見せてそう言った。この時だけ、辺りがタケシの空気に包まれる。あーあ、また始まっちゃった。タケシのアタック。 「相変わらず冗談がうまいのね」 「え?」 でも、ルビーさんの答えは意外なものだった。それにはさすがのタケシも驚く。 「でもあなたのような若い子が、三十路を過ぎた女に対して言うセリフじゃないと思うんだけど……」 「いいえ、そんな事は……ぐっ!?」 タケシの言葉がそこで途切れた。それは、タケシの背中に、いつもの鋭いツッコミが入ったから。そう、タケシの背中にいつの間にかいるのは、タケシの背中に“どくづき”をかましたグレッグル。 「シ……ビレ……ビレェ………」 グレッグルの“どくづき”を受けたタケシは、いつものように顔を真っ青にしてその場に倒れる。そのまま動けなくなったタケシを、グレッグルは不敵に笑って引っ張りながら、その場を離れていった。 「……前より随分荒っぽくなったわね。平気なの?」 「い、いえ、いつもの事ですから……」 これにはさすがのルビーさんも目を丸くしていた。それにサトシも苦笑いを浮かべながらフォローするしかなかった。気まずい空気が、辺りに漂う。でも、ルビーさんはその空気を自分から断ち切った。 「……とにかく、私はコンテストを渡って旅をする方が楽しいのよ。ヒカリちゃんのような子がいるなら尚更」 ルビーさんがママにそう言った後、あたしに顔を向けた。 「そ、そんな……あたしだって、まだ……」 「それだから楽しみなのよ。これからどんなコーディネーターになるのか、楽しみで仕方がないの。少なくとも、ヒカリちゃんはいいコーディネーターになるわ、間違いなく」 恥ずかしくなってしどろもどろになったあたしに、ルビーさんはそう答えた。そう言われると、余計恥ずかしくなっちゃうんだけど…… 「相変わらずコンテストに夢中なのね」 「夢中で、何か悪いかしら?」 ママとルビーさんはそんなやり取りをして、互いに笑みを浮かべていた。
* * *
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY27:THE END
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