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[861] 本格RS《Dream Makers》 8日目 不甲斐ない終劇
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時02分

スレッド4つ目。
3つの最終戦のバッドエンド、そして話は終わりへと進みます。

[862] 本格リレー小説《Dream Makers》 8日目 (1)
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時04分

・ここは塔の72階、ゴットフリートがいるフロア・・・
・・・の別室。
客人をもてなすほどではないが、綺麗に整理された真っ白なベッド・・・そこにはアーマルドのソアラが眠っていた。
同じ目的でもやり方の違いから、ソアラとゴットフリートは何度もこのような衝突を繰り返してきたのか・・・
説得されたソアラは今、そこで静かに眠っていた・・・
「・・・ん・・・」
「お目覚めになりましたか、ソアラ様」
「お前は・・・」
そこには、ゴットフリートの側近、スターミーのサリットが、たくさんのきのみやポケまんまを[サイコキネシス]で運んでいた
「お食事を用意しました、さあ、お食べください」
「・・・ありがとう」
ソアラは目を覚まし起き上がると、静かにその食事を口にしながらつぶやいた
「なんでもお話し板の投稿者達にドリームメイカー軍・・・これまでたくさんの血が流れてきた・・・」
「はい」
「僕には彼の目的には賛成です、しかし彼のあのやり方が正しいとは思えない」
ソアラはポケまんまを食べ終わり、オボンのみを手に眺めながらまた考えていた
「ビーストを倒すためなら、一時的とはいえたくさんの犠牲者がでてもいいという考え・・・彼とはまた意見が分かれるかもしれない・・・」
そのソアラが食事を完食する前にサリットが言った
「ご安心を、ゴットフリート様があなたを軟禁する必要ももうありません」
「?」
「彼らは現在60階にいます。我々が悠達の強さを測る必要はもうなくなりました」
ソアラはサリットのその言葉を聞くと、オボンのみを食べ終わった[たべのこし]を置き
「そうか・・・悠達がこの戦いの真の目的を知った時・・・全ての戦いが終わった時・・・その時、僕の出番ですね」
「はい」
サリットはソアラの[たべのこし]を持って去ろうとしながら、ソアラに告げた
「我々はもう貴方に対して手荒なことはいたしません、しかし悠とゴットフリート様の戦いで何があっても貴方は介入なさらないでください、私はゴットフリート様のお側でその勝負の行く末を見守りたいと思います」
ソアラは黙ってうなずくが、サリットに一言だけ返した
「好きなのですね、ゴットフリートのことが・・・」
サリットはその言葉に当然のような表情で・・・(正確にはその表情を思わせる声で)
「はい、愛しております」
・・・そう答えると、ソアラのいる別室から[たべのこし]を持って出て行った

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「失礼いたします、ゴットフリート様」
「サリットか・・・」
サリットは別室からゴットフリートがいるフロアへ出てくると、
「ご存知かと思いますが悠とワタッコの2人がジルベールを倒し、現在60階まで上がってきております」
「うむ・・・」
「しかしワタッコは両羽の骨を折る重症、悠は片腕を痛め全身を強打・・・両者ともジルベールを倒した後、動くことができない模様です」
「・・・」
「サリット、ドリームメイカーの内部が不安定な状況下、よく今まで私の元についてきてくれたな・・・改めて礼をいうぞ」
「私になど勿体無いお言葉・・・ゴットフリート様のためならばこの命ある限り・・・」
ゴットフリートはサリットの報告を聞き、しばらく考えていた
「(今が大事な時だ・・・ここで悠に動いてもらわなければ)」
「いかがいたしましょう、ゴットフリート様?」
サリットの問いにゴットフリートはこう言い渡した
「悠には先に進ませるのを拒む理由など今はもう無くなった・・・サリット、お前に動けない悠の案内を命ずる・・・頼めるか?」
「はっ・・・かしこまりました」
「サリット、お前は私の身に万が一の事があった時の・・・いや、今はまだ言うまい」
「ゴットフリート様・・・」
サリットは少し言い残したことがあるような心境ながらも
ゴットフリートの命を受け、今すぐにと下へ向かっていった・・・
「・・・」
ゴットフリートは悠の到着を今や遅しと待ちつつ、沈黙を続けていた・・・

「・・・」
サリットが下りる途中、そこには72階へ上がっていくゼロがいた
「ゼロ・・・」
「ふん・・・」
サリットは気がかりながらもゴットフリートの命を優先すべくすれ違い、悠のいる階へ下りていった・・・

*****************************

・「・・・うう・・・」
悠が目を覚ますと、そこにはワタッコとジルベールの激戦を思わせる無数の血の跡が散乱していた・・・
「気が付いたか」
「ワ・・・ワタッコさん」
悠の目の前にはワタッコが痛々しく血のついた両羽をぶらさげていた
「ジルベールさんはどうしたんですか?」と、いちいち聞かなくてもわかる。
悠はワタッコの折れた両羽と大量の返り血を見てジルベールとの激戦とその結果がどうなったのかを理解した・・・
しかし、あれからもうどれだけの時間が経ったんだろう・・・
「見ての通り、俺の両腕もこの始末だ・・・今は無駄に動いてトラップの危険に巻き込まれるより、こうしてじっとして体力を回復していた方が得策だろう」
足踏み状態・・・AB同時押しをして、下手に動かず足踏みしていることで徐々にHPを回復させるポケダンの能力だ。
その分敵ポケモンが近づいてきてしまうが、この60階にもう敵ポケモンはもういない
あるのはでかい壁の穴だけだ
「っ・・・痛っ!!」
悠は起き上がり、体を動かそうとして片腕の感覚のない痛みを感じた
「むやみに動かすな、お前の片腕だって俺の両羽ほどでなくとも使い物にならないんだぞ」
悠はワタッコの言葉で思い出した
「(そうだ・・・僕もジルベールさんとの技の打ち合いの時に片腕を壊されていたんだ・・・)」
しかし、悠は上を見上げながらもどかしそうにしていた
「でも・・・今はもう時間がないんですよ!トラップの危険を承知でも僕達が前進していかないと!」
「そうだな・・・これからどうするか」
2人は体中の痛みに[こらえる]を使いながらも動くことができず上を眺めていた
「・・・ん?」
ワタッコが何かにきづいた
「なんだあれは・・・悠、ちょっとあれを見て」
「何ですか・・・ワタッコさん?」
ちょうどワタッコと悠が眺めていた上の階からである。
ワタッコがくちばしで示す方向には・・・何やら発光する物体がが高速回転しながら悠達の元へと接近してきた!
「う・・・うわっ!」
「こいつは・・・スターミー!?」
そのスターミーは悠たちの前で[こうそくスピン]を止めるとゆっくりとコアを点滅させながら、
「なるほど・・・確かにこれは重症ですね」
と口ずさむ
「だ・・・誰だお前は?」
悠はいきなり現れては戦う気配を示さないスターミーを見て敵なのか味方なのかと、かろうじて体勢を立て直したが・・・
「お前は・・・サリット!」
ワタッコはそのスターミーが誰なのか一発でわかったようだ!
「お久しぶりです、ジルベール・・・いや、正式にはワタッコ様とは初対面でしたね・・・」
サリットは悠にも自己紹介を始めた
「私はゴットフリートの側近を任されているサリットと申します、悠様、以後お見知りおきを・・・」
「は・・・はあ・・・」
休戦とはいえ、いつものドリームメイカー軍となら悠は少なからず敵か味方かと警戒するのだが・・・このスターミーのサリットのあまりに礼儀正しい、敵意を感じさせない態度に思わず悠も普通に返事を返してしまった。
「単刀直入にですが申し上げます。悠様、ゴットフリート様の命により、貴方の案内にまいりました」
「ゴットフリートが・・・僕を?」
「はい、そうです。貴方のその傷では次の階はおろかこの60階のトラップさえ避けきることができずに倒れてしまうだろうとの事・・・私がトラップのある位置から貴方をお守りすべく、安全にゴットフリート様のいる72回までご案内致します」
「で・・・でも」
悠は自分よりひどい傷のワタッコに目をやった
「動けないワタッコさんだけを置いて僕だけ進むことなんてできないよ・・・」
しかし、そんな悠を気づかうかのようにワタッコは言った
「俺のことなら心配するな、両羽がやられてもまだくちばしがある。そう簡単にやられたりはしないから・・・悠、お前はゴットフリートへ会って来い」
「それに下の階からポケモンの足音が聞こえる。気配からすると敵ではない・・・俺はここでそいつらを待とうと思う」
しかし悠は
「だけど・・・」
と、ぐずぐずしている。
「・・・」
ワタッコは少しキッとなった表情にかわり
「悠!!」
「お前はゴットフリートの真意を確かめるんじゃなかったのか!!」
と悠を叱りつけた!
「!」
「ワタッコさん・・・」
(そうだった・・・僕はゴットフリートの真意をたしかめるためにここまでやってきたんだ!)
悠はワタッコの言葉に一喝されると、すぐにサリットのほうへ振り返った!
「サリットさん・・・僕をゴットフリートの所まで案内してください!」
「・・・わかりました、では悠様、私について来て下さい」
悠はサリットの[はっこう]をたよりにトラップに掛からないように迷路を抜け、61階へと上がっていった・・・
悠は、ワタッコには何も告げずに去っていった・・・ここで何か別れの言葉をつげるともう会えないような気がしたからだ。
それだけ、これから会うゴットフリートにただならぬものを感じていた・・・

――――――――――――――――――――――――――


翌朝。
ホテルのロビーでは、ポケ書の住民とアッシマー一同が集まっていた。
「さて、君達の目的はビーストの討伐だったな。」
と、ディグダマンがアッシマーに向かって言う。
「はい。昨日、搭の中にビーストが現れて、大変なことになったんです。
もともと僕達もゴットフリートを倒すために搭を上っていたのですが、ビースト出現で急を要する事態になって・・・
それで、僕達は悠さんたちと別れて、ここへ来たんです。」
アッシマーは自分たちがここへ来た理由を端的に説明した。
「なるほど・・・そうだったのか。
ビースト討伐となれば、私たちと目的は同じ。我々も可能な限り手を貸そう!」
ディグダマンは力強く答えた。
「あ・・・ありがとうございます!」
アッシマー達はそもそもポケ書チームをクチバから避難するように言おうと思っていた、しかし昨日の戦いからこれだけの人数で戦うのはあまりにも少なすぎる、味方は多いほうがいい。
それにアッシマーは昨晩一緒に寝たラティアスにかっこいいところを見せたいと思っていた。
「あ、そういえば・・・アッシマー。あんたに渡したいものがあるんだ。見てくれよ。」
アッシマーがディグダマンに礼を言ったとき、ふと、バク次郎がアッシマーに声をかけた。
「あいつは俺達の目をおかしくして本当の自分を隠す事ができるからな。これが役に立つと思ってな。
ドリームメイカーやビーストでカントー中大混乱してるから、手に入れるの大変だったんだぜ。」
そう言ってバク次郎がアッシマーに見せた物は、なにやら風変わりな格好をした暗視ゴーグルのようなものだった。
「これって・・・」
「『シルフスコープ』だよ。コイツがあれば、ビーストが分身してたり姿を消したりしていても、本物のビーストを見分ける事ができるって訳だよ。」
そう言って、バク次郎はシルフスコープをアッシマーに手渡した。

と、その時!

突然、外から何かが崩れる音がした。それと共に、ロビーの天井が崩れ落ちた!
「わああっ!」
一同は成す術もなく、瓦礫の山に飲み込まれた。

「きゃああああああ!」
「嘘だろ・・・なんでこんな所に!」
「どうして今まで気付かなかったんだ!!」
「くそ・・・当たれ、当たれえっ!」
「攻撃が来るぞ! よけろ!」
「だめだ! 全然効いて・・・ぐわあっ!」
「あなた! しっかりして! お願い・・・死んじゃいや!」
「鬼だ・・・コイツは鬼だあああ!」
「畜生・・・打つ手なしかよ!」
爆音、ガレキの崩れる音、非常サイレン、ポケモン達の悲鳴、叫び声・・・そんな音があちらこちらから聞こえる。
「げほげほ・・・なんなんだ?」
もうもうと立ち上る砂煙にむせながら、瓦礫をよけてようやく外に出たアッシマーが見たもの、それは・・・

「約束どおり、来てやった」

たくさんのポケモンたちがビーストに襲い掛かり、片っ端から殺されてゆく、まれで地獄絵図のような光景だった。
もし自分が人間だったら、この光景も見ることはなかったかもしれない・・・
そう考えると、余計に背筋に冷たいものが走った。
「片目のジュカイン・・・貴様には、今度こそはあの世に行ってもらうぞ!」
ビーストがこちらをにらみつける。
悪い事にビーストは、アッシマーの姿を覚えていてくれていたようだった。
ビーストは叫びと共に、アッシマー目掛けシャドーボールを放つ!
「わあっ!」
アッシマーはみきりを使って紙一重で攻撃をかわす。
「よけたか・・・だが次はどうかな?」
ビーストは不敵に笑うと、もう1度シャドーボールの構えに入る!
「ちくしょ・・・!!」
アッシマーはそれを横とびでよけようとした。
しかし、運が悪い事に、瓦礫に脚を取られてバランスを崩してしまった!
「この死にぞこないが!!」
ビーストはシャドーボールを放った!
駄目だ、よけられない!
「わああああああああああっ!」
アッシマーはいいようのない恐怖に襲われ、目を固く閉じた。

「・・・?」
まだ生きている?
アッシマーは目を開けた。
「大丈夫か!?」
目の前には、知らない顔のフシギソウがいた。
「あ・・・ありがとう・・・君は?」
「そんな事は後だ! コイツを何とかしないと!」
フシギソウはビーストに視線を向ける。
「くらえ! はっぱカッター!」
フシギソウは無数の葉をビーストに向け放った!
ビーストは微動だにしない。その葉はビーストに直撃した・・・かに見えた。
「!?」
ビーストの姿は、蜃気楼のように掻き消えてしまった。
「幻だ! あいつは幻を・・・」
「いまさら遅い!」
アッシマーはフシギソウに向かってビーストの能力を伝えようとした。だが、それはビーストの声に遮られた。
「わわ・・・わあっ!」
フシギソウが『サイコキネシス』で宙に浮かぶ様が、アッシマーの目に映った。
「俺に楯突いた事を・・・あの世で後悔するんだな!」
ビーストはサイコパワーをさらに強める!

「ぎゃあああああああああああ!!!」

フシギソウの絶叫が響き渡った。
どくタイプをもつフシギソウにエスパーわざは効果抜群、それにさらに強めたサイコパワーが重なり、フシギソウの体は潰されていく。
「あ・・・あ・・・・・・」
目の前でフシギソウの惨殺シーンを見せ付けられたアッシマーは、言葉も出なかった。
念力に握り潰されたフシギソウの体は、見るも無残に変わり果てていた。
「な・・・なんてことを!」
アッシマーの怒りが爆発した。
「世界中の人間にに夢を与えなきゃいけないポケモンの世界で、こんな事があっちゃいけない!
こんな世界で殺戮を繰り返したら・・・ポケモンを愛する人々の心もすさんでしまうだろうに!」
アッシマーはリーフブレードでビーストを切りつけた・・・はずだった。
そのリーフブレードもまた、虚空を切るだけだった。
「その『夢』があるからこそ・・・人は欲望にかられ、愚かな行為を繰り返すのだ!
『夢』さえなくなれば人間は欲望を抱くこともなく、醜い争いをする事もなく生きていけるという事がなぜわからない!」
後ろから声が聞こえた、とその瞬間、体に大きな衝撃と鈍い痛みが走った。
「ぐあっ!」
アッシマーは瓦礫の山に倒れこんだ。
「俺の目的の邪魔をする奴は・・・葬り去るのみだ!」
ビーストの手には巨大なスプーンがあった。多分さっきの衝撃はそれで殴られたためだろう。
ビーストはスプーンを高く掲げる。それで自分を撲殺するつもりのようだ。
「死ね!」
とビーストが言った瞬間だった。
「やめろおおおっ!」
甲高い声が響き渡り、ビーストが弾き飛ばされた!
「悪い人・・・おにいちゃんをいじめる悪い人!」
某ニ○ータ○プのセリフを引用しながら現れたのは、例によってルカ☆であった。
「ふぅ・・・やっと出られたよ。」
「援護するぜ! アッシマー!」
「まともに戦えるかもわからないけど・・・がんばるわ!」
ルカ☆の後ろからも声がする。見ると、バク次郎、オバサナ、ディグダマン、ノクタスちゃん、ラティアス、ラティオス、ベルカの姿があった。
「10まんボルト!」
「何!?」
突如、アッシマーの後ろのほうから、ビーストに向かって電光が走った!
アッシマーは後ろを振り返る。
「・・・秋葉さん!」
アッシマーは驚いた。今まであまり戦おうともしなかった秋葉が、頬や尾に火花を散らしながら、そこに仁王立ちしていたのだ。
「ドリームメイカーの目的が私が考えていたものとは違うという事が解った以上、私が戦いを避ける意味はもうありません。
私が犯した過ちを償うためにも・・・私も戦います!」
そのわりには離れたところにいるが、秋葉は堂々とした声で言った。
「貴様らが・・・そんなに仲良くあの世へ行きたいか・・・
ならば貴様らが望むようにしてくれる! 覚悟しろ!」
ビーストはアッシマーたちに踊りかかった。

かくして、アッシマーたちとビーストとの2度目の戦いの火蓋が切られた!


―――――――――――――――――――――――

ゼロの2人の仲間、グロスとザキを撃破したガムとアカリンはフィを大事に抱え、そのまま2階上の46階に到着していた
「ここは確か・・・」
ガムが周囲を見回す・・・ここは1度だけ来た事がある・・・たしかここには
「ガムくん!あそこ見て!」
アカリンが指す方向には・・・3匹のウインディが!
「・・・その声は、いつかのブースターか」
「アグル・・・チップ・・・オルティア!」
ガムは3人を見るや否やすぐさま戦闘体勢をとろうとした・・・が
「ガムくんっっっ!!!」
「うわっ!」
アカリンの叱り声にガムの動きは止まってしまった
「ご・・・ごめん、アカリン・・・」
今のガムには理由を聞かずともその叱り声の意味がしっかりわかっていた
ガムはアカリンに『ドリームメイカーの全てを敵視しない』と約束したのに、アカリンが静止してくれなければガムは危うく、また誤った行動をとる所だった・・・
「ううん、わかってくれればいいんだよ☆」
頑ななガムにとって、アカリンは唯一心を許せる相手であると同時に生涯の伴侶とも呼べるべき存在なのだ・・・
「ははは・・・ずいぶん♀のブースターの尻に敷かれているようだな」
とアグルが言うと
「何を!」
とガムが言い返そうとしたが
「慌てないで下さい、私達はもう君達と争う気はありません」
とチップがガムへ告げた
「なんだって・・・?」
・・・少し困惑した表情のガムの横からアカリンが出てきて、アグル達に聞いてみた
「ユーリさんから聞いたことがある・・・あなた達は『赤い3連星』だよね?」
アカリンの問いにオルティアが答えた
「そうよ、ブイズのことはしってたけんね、お前は・・・ブースターのアカリンか?」
「はい☆ブイズ斬り込み隊長、『モエる朱色』ことブースターのアカリンです!」
どうやら、アカリンの反応からするとアカリンと3連星は初対面のようだ
「マシュリから聞いるぞ、アカリン、噂にたがわぬ実力のようだな」
「!?・・・マシュリを!?マシュリの事を知っているの?」
アカリンはアグルの言葉に驚き、思わず問い掛けてみた!
「・・・少し長話になるが、いいか?」
アグルはガムとアカリンを引き止め、その場で座り込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「フィ〜♪」
「うっわー!かわいかー!ほら!こっちにくるとよ!」
「キャッ!キャッ!」
オルティアはフィを気に入り、背中に乗せて遊んでいる
「・・・そうですか、悠さん達は今、上の階に・・・」
「はい、悠とワタッコはだいぶ前にこの階を通過して・・・今は60階あたりでしょうか?」
ガムとチップはこれまで塔であった事についてお互いの情報を交換していた
「マシュリは・・・かつて我々と共にドリームメイカー軍の正規兵になるよう訓練していた仲間だったんだ」
「・・・」
アカリンはアグルからマシュリの話を聞いていた
「マシュリは毎日のようにアカリン、おまえの事を話していた」
「アグルさん・・・私」
アカリンが2年前の肝試しのことをアグルに話そうとした時
「話さなくともよい、あの事件はお前のせいではない・・・その代わり、これを」
アグルは自分についている[レトロメール]をアカリンへと見せた
「これは?」
「これは・・・肝試しに行く前に、マシュリがお前宛に書いていたものだ・・・おそらくあの日、命を落としたために出せなかったのだろう」
そのメールにはこう書かれていた

『いま まで ありがとう 
 ずっと ずっと ともだち
 だよ ・・・・・・
             マシュリより』

「・・・」
「マシュリは死ぬその前夜まで、お前との友情を大事にしていた」
そのわずかな文の中には本物のマシュリからのアカリンへの気持ちが込められていた・・・
「・・・アグルさん、このメール、私がもっててもいいかな・・・?」
「ああ、そのためにお前に見せたのだ」
アカリンはアグルから[レトロメール]を受け取ると大事に握りしめた・・・
「チップさん、わかりました!僕達もこのまま上の階へ上がらせてもらえますね?」
「もちろん、かまいませんよ・・・47階からは罠の数が特に多くなる・・・気をつけてください!」
丁度ガムとチップの情報交換も済んだようだ
「よいしょ!ほーら!フィ!これはどうね?」
「フャ〜!キャッ!キャッ!」
オルティアは背中を滑り台にしてフィを遊ばせている
「アカリン、フィ、先を急ぐよ!チップさんの言う限りでは、僕達は悠さんからもう20階近くも離されている・・・早く合流しないと!」
「うん☆わかった!ガムくん!」
「フィ〜!」
ガムとアカリンはフィを背中に乗せながら、再び上の階へと、[でんこうせっか]の移動体勢に入った!
「きをつけてな!」
「健闘を祈りますよ!」
「フィちゃんー!また遊ぼーなー!!」
赤い3連星はガム達を快く見送った!
「?・・・アカリン?そのメールは?」
「ガムくん、このメールはマシュリが2年前・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「(マシュリ・・・)」
「そうだったのか・・・アカリン、マシュリさんは最後までアカリンのことを・・・」
妄想ではない、本物のマシュリの気持ちを再確認したガムとアカリンはさらに強い意志を固め、一刻も早く悠達と合流すべく上を目指していった!
「ガムくん次は47階だけど・・・ここから先は私も知らないの・・・気をつけていこう」
「うん・・・僕もチップさんから聞いた・・・『罠の数が特に多くなる』とか」
「ガムくん、ここからは私についてきてね☆ユーリさん直伝の[しりょくじまん]で正しく誘導してあげるから!」
「え?でもアカリン?」
ガムはアカリンの言葉に少し心配になった
だってアカリンは44階でフィを落としただけでなく、[バクスイッチ]にも見事にひっかかっていたのだから・・・
「ガムくん、私をあまくみないで・・・あの時は、油断していたけど、私はね! 同じ間違いは二度とくりかえさないんだから!」
・・・ガムは、どことなくたくましさをも感じさせるようになったアカリンの表情を見て、前言を撤回したくなり
「アカリン・・・わかった!僕はアカリンの誘導を信じてついて行くよ!」
「えへっ☆!ありがとう!」
早く上の階へ!といわんばかりの[でんこうせっか]で、移動を再開した!

―――――――――――――――――――――――

昼にもかかわらず薄暗い洞窟の中には青い光が満ちている。
カタカタカタカタという音だけが洞窟にこだまし、二三回跳ね返って・・・消える。
迫りくる時間と戦いながらビーストの情報を集めていたはずのベルは、ふと・・・顔を上げた。
(―威圧の気配―!)
しばらく・・・といってもほんの数秒だがベルは固まった後、ふぅ・・・と溜息を漏らす。

「何のようです? ・・・クラッシュさん。」

そう言ったとたん、奥の気配は消えた。一瞬といえる間もおかずベルの隣にクラッシュこと光が現れる。――威圧の気配はもう無かった。
「いや、少し用があってね。一応こちらは協力関係を結んでいるからな、」
「・・・何を言いたいんですか? 時間の無い身としては率直に言ってもらえた方が嬉しいんですが・・・。」
ベルはそう色の無い声でそう言いながらパソコンに向かってキーを打ち続ける。隣から射してきた弱い光がふと・・・ベルの目に留まった。
「有り難い。俺も説明以外の長話は苦手なものでね。」
光はそう一度区切って唐突に切り出した。
「・・・ビーストの情報をリアルタイムで提供してもらえないだろうか?」
ほう、とベルはそのとき初めて振り返った。目に驚きと・・・何故か懐かしみの色が浮かんでいたのを光は見て取った。
「面白い提案ですね。実に面白い。・・・ですが、こんな大変な情報。貴女ならいくら同胞のよしみがあったとはいえただで渡すことは出来ないのは分かっていますよね。その価値に見合う物を貴女は持っておいでで?」
あぁ、とうなずいて光は首飾りをはずした。更に石をはずし、机の上に別々に置く。
「精神世界でイーナスより譲り受けた。"命の欠片の結晶"・・・こちらでは手に入らない宝具だが?」
石から放たれる光はこの世のものではない。売れば一生暮らすに困らない程の価値はある。しかし――
「・・・ですが、何の力も無いその石に 今どれほどの価値が?」
確かに、今の状況ではどちらが重いかは自明の理であろう。だが、光は臆することなく言った。
「俺達は最前線で命を懸けることになる。その重さは・・・その情報どころではない。 それに、あんたなら俺達がやられて自分に被害が来る可能性は少しでも潰したいだろう? "敵を知り己を知れば百戦危うからず"とはあんたが一番よく知っている言葉と思うが?」
最初からそれを予想していたのかベルは深い溜息をつくと石をはずした首飾り本体に機械をつける。―それは元からあつらえていたかのようにぴったりだった―
そしてぶっきらぼうに光に投げる。光は見事それを首でキャッチして、頭を下げた。
「無線でつながっているからいつでも最新の情報がそれを通して見れます。・・・はぁ、全く無駄な手間を・・・・・・」
表面の冷静さとは裏腹にベルの目の奥は驚きを隠しきれていない。何気ないように石を掴み、懐に入れる。光はそれに気付かなかったことにした。
「で、これで用は済みましたか?」
ベルの言葉に拒絶の意を感じ、光はもう一度深く礼をしてから踵を返す。・・・そのまま瑞達の元に帰りかけて、ふと振り返った。
「あぁそうだ、後一つ。あんまり溜息をついていると幸福が逃げるぞ。 折角あんたは生きているんだから希望を持ってみてもいいんじゃないか?」
そう言った瞬間パソコンの画面のビースト来襲の予想時間が二時間延びる。それを見たか見なかったか光はそのまま去っていった。

*********************

後に残されたベルが一人。
一旦検索をオートに切り替え、ベルは懐から石を取り出し眺める。それと同時に石の内に、外に、光がちらちら踊った。
それは、とっくに色を失ったはずの彼の世界に現れた七色の光だった。
ベルは重いため息をつきかけて・・・なんとなくそれを止めた。時間がなければゆっくり眺めることも出来なかったであろうその石を眺めつつ、つぶやく。
「・・・参ったなぁ。運命の導き・・・じゃないけれどまさか・・・」
石の別名は"去りにし日々の光"。生前の者の暖かい思い出がごく稀に結晶化したものと言う。もっともその思い出に強い思い入れがあるものでない限り見ることは出来ないが・・・
「ユーナ・・・」
彼はその中に一番大切な人を見た。何の偶然だったのかそれは、彼女の思い出の石だったのだ。
天の彼に送る最後の贈り物、彼は両手でそれをそっと抱きしめた。

――静けき夜の折節、
いまだ眠りの鎖の絡まぬうちに いとしき思い出の運びくるは
去りにし日々の光・・・・・・――

************************

あまりダメージを受けていなかった瑞はなんとなく目が覚めてしまった。
何となく立ちあがった途端に地面が揺れたような気がして慌ててソファーにしがみつく。
・・・が、何のことは無い揺れていたのは地面じゃなく瑞の感覚のほうだった。空腹の感覚を瑞は思い出す。
お腹がすいているんだ・・・ということにやっと気がついた瑞はテーブルの上に置いてあったヒメリの実を食べた。
甘酸っぱく辛い味が瑞ののどを通って胃の腑に落ちる。採れたてだったようで苦味が殆ど無かった。
満腹になって改めて周りを見渡す余裕が出来ると、そこにクラッシュ(光)がいない事に気付いた。
そのまま、さっきのヒメリの実をいくつか持って光を探しに行く、何故かはわからないが何となくそうしなきゃいけないような気がしたのである。
曲がり角を曲がったところで瑞は立ち止まった。見慣れた闇色の炎が目の前に舞う、先にいたのは・・・言うまでもない光の姿だった。
「どうしたんだ?こんな所で・・・」
「クラッシュこそ・・・」
確かに私のほうが先に言うべきだな・・・と光は苦笑して話し始めた。
「前のつながりを利用して・・・ビーストの情報を手に入れてきた。早ければあと5時間半で着くそうだ。」
瑞はそれにはあまり驚かなかった。ついに来るべきものが来たという感じで
「そっか・・・・・・」
と受け止めた。そのまま数分間沈黙が続く。
「・・・ミュウツーだそうだ。」
唐突に光はそう言った。瑞はそれにもただうなずく。
二人とも一度は戦ったことの有る相手だ。その強さは十二分に分かる。また沈黙に陥りそうになったとき、瑞が不意にヒメリのみを差し出した。
「クラッシュ、これ。・・・体が出来たからまたお腹すくでしょ? 少し食べておかない?」
思い出したかのように光の胃が音を立てかけ・・・なんとか自制心で押さえつける。
「ありがとう。」
そう言ってヒメリの実を受け取り、食べながらふと瑞を見る。
「・・・そうだ。一つ忘れていたことがある。私の名・・・といってもHNだけれども、本当は光というんだ。 小鷹 光。」
瑞は一瞬ぽかんとして尋ねる。
「じゃあクラッシュは?」
「荒らしようの捨てハンだ。」
すぐに切り捨てて、そして語りだす。
「私はもともと・・・こちらに有害作品淘汰の目的で連れてこられた心算だったから、俗名を捨てて破壊活動に専念することにしたんだ。
本当は言葉だって特に年上の人には敬語を使うのが常だし、戦闘もそこまで好きじゃない。」
そこまで一気に言って、声を落とす。
「・・・ただどうしても許しがたかったんだ。」
その目に一瞬暗い光が宿る。荒らしのときそのままの・・・
「大丈夫だよ。」
瑞は光の肩を叩いてみる。ただ、一寸高すぎて格好がつかないのだが・・・。
「まだ向こうの世界にも純粋にポケモン好きな人いっぱいいるし・・・きっと良くなると思う。」
「・・・有り難う。」
瞳にもう暗さは映っていなかった。ふっと振り払うように頭を振り、思い切りよく言った。
「さて、他の人には悪いけど叩き起こして対策を練らなくちゃならないな・・・。」
光が笑むと瑞もそれにこくんとうなずく。光は前を向いて改めてこの世界の空気を吸った。
〜風が清々しい〜
「じゃあ、行きましょうか?」
二人は意味も無く駆け出した。生者の世界の希望を守りに・・・
******

―――――――――――――――――――――――

「10まんボルト!」
「いわなだれ!」
「サイコウェーブ!」
「ミサイルばり!」
秋葉、ルカ☆、ラティアス、ラティオス、ノクタスちゃんの一斉放火が、ビースト目掛け放たれた!
「・・・くっ!」
ビーストはそれをよけた。だが、攻撃をかわすことに専念するあまり、姿勢を保つことができないでいた。
「今だ!リーフブレード!」
「かみつく!」
「かえんぐるま!」
「かみなりパンチ!」
その隙目掛け、アッシマー、ベルカ、バク次郎、サナの肉薄攻撃が一度に向かって来た!
「この汚らわしい幻想どもめが!」
ビーストはスプーンを使い、4人の攻撃を食い止めた。
「汚らわしい幻想だって・・・そんなのはお前が勝手に抱いている偏見だ!
そんな事を言うお前だって、現にポケモンの姿をしているじゃないか!」
アッシマーはそう言って、もう片方の腕のリーフブレードでビーストに斬りかかる!
「・・・小ざかしい事を言うな! 小僧!」
ビーストはサイコキネシスでアッシマーの腕を止めた!
「本当ならば俺も、このような姿はさらけ出したくないのだ!
実体を持たなくても存在できた精神世界はともかく、ここでは実体を伴わなければ生存できないからこの姿を借りているだけだ!
こんな醜い姿など、誰が好き好んで借りるものか!!」
ビーストはさらにサイコキネシスのパワーを強め、肉薄攻撃をかけたベルカ以外の3体を弾き飛ばす!
「まだまだっ・・・!」
ベルカはスプーンから口を離し、体勢を立て直してビーストに飛びかかる・・・
「・・・へん! よくそんなので強いって言えるわね!
あんたなんかより私のほうがも〜っと強いんだから! 調子乗ってるんじゃないわよ!」
と思いきや、ベルカはいきなり根も葉もない誇大主張な自慢をし始めた。
「え・・・ちょっとベルカ、なにやって・・・」
「いや、あれはポケモンの技『いばる』よ、ルカ☆ちゃん。
ベルカちゃんはビーストを混乱させたんだわ。今がチャンスよ!」
ルカ☆の言葉に答えたサナは、前に歩み出た。
「この隙に! くらえ、かみつく!」
「必殺かみなりパンーチ!」
ベルカとサナは、ビーストに勢いよく飛び掛った。









「墓穴を掘ったな・・・」


どう聞いても混乱しているとは思えないほど、いつものように落ち着いた声でビーストが言った。
「・・・! しまった! まさか・・・」
アッシマーが気付いたときには最早手遅れだった。
「シャドーボール・・・ばくれつパンチ!」
ビーストは右手の拳をベルカに叩きつけ、左手で黒い塊をサナに投げ付けた!
効果は抜群だ!
「ああっ!」
「きゃあっ!」
2人は弾き飛ばされ、無抵抗に地面に叩きつけられた。

「惜しかったなぁ、お2人さん。悪いが『しんぴのまもり』を使わせてもらっていたんでね。
攻撃が上がる恩恵だけは頂かせてもらったよ・・・」
ビーストはニヤリとほほ笑み、ベルカに視線を向けた。
「さて・・・執行と行くか」
ビーストは携えたスプーンをフォークに変形させ、大ダメージを受けた上に混乱しているベルカに踊りかかる。
「ベルカちゃん! 逃げるんだ!」
アッシマーはベルカに向かって大声で叫んだ。しかし、大ダメージを受け体を動かす事もままならないベルカには、逃げることは最早不可能であった。

「ぎゃあっ!」
鈍い音、うめき声にも似た悲鳴、飛び散った血しぶき・・・
ベルカは、胴体を完全に銀のフォークに貫かれていた。
「・・・パパ・・・マ・・・マ・・・・・・」
茶色の体毛を赤黒く染めたベルカは力なく空を見上げ、小さな声で言った。そして、動かなくなった。

「ベルカちゃーん!!」

アッシマーの悲痛な叫びは、空しく空にこだまするだけだった。

「次は貴様だ」
ビーストはベルカの屍からフォークを抜くと、それをサナに向けた。
そして、サナ目掛け襲い掛かってくる!
「い・・・いやあああああっ!」
サナの悲鳴が響いた。と、そのとき。
「かえんぐるまぁ!!」
炎を身にまとったバク次郎が、ビーストに突撃した!
「アネさんは・・・誰にもやらせねぇ!」
バク次郎はサナの前に仁王立ちして、力強く言い放った。
「くそ・・・貴様ら・・・」
ビーストは体勢を立て直し、再び攻撃の態勢に入ろうとした。が・・・
「ビーストさぁん、そんなにいじめないでよぉ・・・
もうちょっと優しくしてもいいでしょ? ねぇ、ビーストさんv」
「な・・・」
ラティアスが突然、ビーストに擦り寄った。『あまえる』だ。
ビーストの攻撃はガクッと下がり、これで能力はリセットされた!
「お兄ちゃん! 今よ!」
「わかった!」
ラティアスは後ろへ下がり、ラティオスが前へ出た。
「くらえ! ドラゴンクロー!」
ラティオスはドラゴンクローをビースト目掛け叩き込んだ!
それはクリーンヒットした・・・かに見えた。
「そんな攻撃が効くと思ったか? そこの青ドラゴン」
「な・・・!?」
ついさっきまでそこにいた、ビーストの姿は掻き消えていた。
「コイツ・・・また幻を・・・」
「あ! 見て!」
突然、ルカ☆のけたたましい声がした。
「どうした・・・あ!」
その光景を目にした時、誰もが驚き、そして恐怖した。
「・・・なんなのだこれは!!」
ルカ☆の視線の先を見たディグダマンの顔が青ざめる。覆面のせいで見えないのだが・・・


「フフフ・・・これでも戦えるかな?」
そこには、何十にも分裂したビーストの姿があった。その一つ一つが不気味に笑い、こちらを見ている。
「・・・やれるかどうかわからない。でも、やるしかないんだ!」
そう言って真っ先にビーストの群れに突っ込んだのはルカ☆だった。
それに続いて、秋葉、ラティオス、ノクタスちゃん、バク次郎が群れの中へ突っ込んでいく。
「いわなだれ!」
「きあいパンチ!」
「ドラゴンクロー!」
「だましうち!」
「かえんぐるま!」
4体は群れの中で、ひたすら技を繰り出し続ける。
しかし、技はどれも空を切るばかり。それどころか、幻の数は際限なく増えていく。
「くそ! 数が多すぎる! 手に負えねぇ!」
バク次郎が叫ぶ。
「・・・待っててください! 僕も行きます!」
アッシマーはバク次郎からもらったシルフスコープを付けた。
そこには、何もない空間に向かって技を出し続けている仲間たちと、それを上から笑いながら見ているビーストの姿が見えた。
(なるほど・・・消耗するのを待ってから仕留めるつもりなんだな・・・だけど、そうはいくもんか!)
アッシマーはビースト目掛けジャンプする!
「リーフブレード!」
「何!?」
不意を付かれたビーストは、リーフブレードの攻撃をもろに受けてしまった。
「ぐあっ!」
ビーストはその勢いで、地面に叩きつけられた。
「今度こそ・・・お前を倒す!」
アッシマーの目の色が変わっていく。怒り・・・そして決意に満ちた表情だった。
「とどめッ!!」
アッシマーは地面に手をあてた。彼の必殺技、『S・B・U・B』を繰り出す体制だ。
「がんせきふうじッ!!」
アッシマーの手元の地面が割れ、岩石が隆起していく。
そしてそれはビーストに直撃し、ビーストを岩の塊の中に閉じ込めた。
「続けて・・・!」
「わわっ・・・・・・きゃあっ!」
アッシマーがビーストに続けてリーフブレードを叩き込もうとした瞬間、甲高い悲鳴が彼の耳に飛び込んだ。
そして、アッシマーの目の前に何かが現れた。
「!!」
アッシマーは驚き、手を止めてしまった。
彼の目の前にいたもの、それは・・・

「ラティアス!?」


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[863] 本格リレー小説《Dream Makers》 8日目 (2)
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時08分

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「あ〜あ、ねみぃ・・・」
RX、彼はコレから起きる彼の最大の事件をしるよちもなかった
気分を変えるために入口から少しでたあたりで少し空を見る
だが何の気配もなく穏やかな毎日と代わりのない空
戦力温存のために闘うことは最初から予定されては居なかっただろう
そんな空をみながらも少しブラブラと個人行動を取る
もしこの近くに秋葉や光が居れば即座に個人行動はやめさせられるだろうがコソコソとブラブラ散歩へ歩き出す
「あ〜あ、もう全てがめんどくせーBeastだろうがなんだろうが叩きつぶしてのどかな毎日をおくりてーな全く・・・」
そして1つ大あくび
とりあえず彼は寝てしまうと一人で何時間も起きない人なので彼は眠らずトボトボ散歩を続ける
「あ〜あ・・・もう敵の数が1万人だろうが1000人だろうが100人だろうが10人だろうが1人だろうがドリームメイカーだろうがそれが向かってきてもどーでもいーや・・・なんだかもう全てがめんどくさい・・・もう何もかもがつまんな〜い、ってかみんなよくもまぁドリームメイカーの奴らと共闘したり出来るよなぁ・・・俺にゃあできませんがねぇ・・・」
自分一人の意見を言うことで気晴らしとストレス解消を行っている
「・・・やめてくれ!あぁ、やめてくれぇえ!!!!!」
なんだかつまらないので一人で自分を拷問し始める
自分を自分で殴ったりくすぐってみたり
周りに他人がいれば意味不明な目で見られるだろうが運良く周りには誰もない様である
「ぜぇぜぇ・・・はぁはぁ・・・」
5分程度自分で自分を拷問するとそこに寝そべる
別にもう眠いわけでもない
ただ空が見たい
「あ〜あ、もう暇だ・・・か〜えろっと」
数十秒そこに寝そべっただけですぐ起きあがると変化の洞窟を目指して歩き始める
「ファァァ...」
大あくびをしながら歩いているとガサゴソと音がする
後ろから迫るのは計3の敵
そのウチ2つは自分を狙っていない、もう1匹を狙っている
だが2匹は次第に1匹から話されて1匹を見失った
後1匹は何だ?
おそらくは敵、自分に害をもたらす敵、倒すべき敵なのだ
「・・・ハァ・・・まったくもって恐い世の中ですねぇ」
そのRXの言葉と同時に草原から1匹ポケモンが飛び出す
1匹のサイホーンだ
「・・・あ?お前誰?」
おきまりのパターンでRXはサイホーンに先に名乗らせようとする
「我が名は・・・ユダ、裏切りを象徴している男だ・・・共闘等は我々に必要ない、ゴミ虫たちが変化の洞窟にいると聞き、奴らを始末するための下準備にきた・・・だが私を後ろから狙う2匹に私の部下達は全て殺され・・・そして私は1匹でも多く道連れにすることを考えた・・・本当ならばクラッシュとか言う奴を生け捕りにせねば行かぬのだが・・・貴様だけでも道連れだ!」
そう言うとユダは大きく1歩を踏み出す
突進の体勢だ
「ゲッ!いきなり!?」
それと同時に突進はRXにモロに大ダメージを与える
突進での大ダメージで1歩のけぞるがそれと同時に火炎放射を放つ
「チッ・・・きかねぇのかよ!」
ダメージがほとんど無いようなユダは余裕で一言を言い放つ
「お前の様な雑魚・・・わが部隊30の軍勢の最下級兵でも倒せるわ!」
今度はロックブラストを放ってくる
1発目は回避するが2発目から4発目までそれを喰らう
「い・・・いてて・・・」
ロックブラストと言えどあなどっては行けないRXに取っ手は最悪の1撃だ
「とどめだ・・・!じしん!!!!」
ユダが大きく1回足を踏みならすと同時に地震が発生する
揺れる地面に倒れたRXはその地面の揺れと倒れてきた木の下敷きになる
「・・・グフッ・・・」
RXは口から血を吐く
まだ生きていたか、とユダに頭部を踏みつけられその重量でまさに死にそうだ
「今楽にしてやろう・・・メガホーン!!!」
木と共に体が大きく宙を舞う
大きな轟音と共にRXは地面に叩き付けられ
意識が薄れていくのを感じる
だが未だ死ねない
最後の力を振り絞って近くの木を手がかりに起きあがると木の陰に隠れて木に寄りかかる
アイツは強い、今の自分では勝てない
その気持ちがRXにこみ上げてくる
それもその筈だアイツは元々特殊部隊の一員みたいだしユダは裏切りの名前、なんだか強そうでもあるし
アイツの足音が少しずつ聞こえてくる
ズシン、ズシンと聞こえてくる
石頭の特性でとっしんの反動を受けないから木をなぎ倒しながら近づいてくる
コチラが生きていることが解っているのだろう
「・・・アイツを倒す方法は1つ・・・」
Rising・Meteorで蹴り砕くと言う方法だ
だがこの技は諸刃の剣
自分にも反動が帰ってくる
今の自分には向かない攻撃だ
「見つけたぞ・・・・!」
ついにユダに発見された
恐い顔を使ってRXの頭部に恐怖と絶望を刻み込む
「死ねぇえ!」
かいりきでこちらへ攻撃するときに黒い影が1つユダへ衝突する
「・・・待たせたな」
黒いイーブイ、ディだ
「・・・? お前、なんでここにいるんだ?」
RXはディに一言を言うと木にもたれ掛かったまま座り込む
「・・・色々逢ったんだ・・・」
そう言うウチにもユダが突進を仕掛けてくる
今度はシャドーボールが360度からユダに直撃した
「やぁ、こんにちは・・・今はゆっくりと挨拶は出来ないけど後でゆっくりと説明するよ」
今度はフォリアがそう言うとRXはヨロヨロ立ち上がる
「オィオィ・・・なら・・・回復のためになんかもってねーの?」
RXはそう言うとフォリアがすごいきずぐすりをRXに使う
「・・・よっしゃ・・・決めるぜこの野郎!!!」
ユダが機嫌をそこねて突っ込んでくるとRXはフォリアとディの背中を足がかりにしてフォリア&ディの電光石火+自分の電光石火で最大にスピードを高める
そこからBoostMeteorでユダへ接近する
BoostMeteorは準備の技
炎をまとった足で高速で上中下段蹴りを浴びせると両腕を地面についてその反動+炎でユダを蹴り上げる
そこから電光石火を+してドンドン蹴り上げていく
ある一定の高さになった時に高速でユダを数回蹴ると頭部にかかと落としを喰らわせる
「・・・?」
だがまったく威力が無い
そうフェイント技だ
そこから数回頭部を蹴ると頭部をもう一度思いっきり殴るとユダが地面に衝突したのを見て自分も降下を開始する
倒れているユダの頭部に上空からの流星キックをぶつけると最後に助走を付けて少しジャンプする
そこから体をくねらせて聖なる炎をまとってRX版B・R・C、「R・B・C(アール・ブレイク・クラッシュ)」とでも言う物かユダの体を完全に炎で包む
ユダの体は既にベッコベコに蹴られている
最後にユダはこういった
「・・・オイ、お前・・・この俺のプレートを・・・持っていて・・・ク・・・レ」
RXに投げてこられたのは「Justice」の文字が入ったシルバープレート
「あ〜・・・いってぇ」
体中にダメージを喰らっているRX
自分の技で自分に大ダメージを与えているのだ
体中の各所がダメージを受けていることと両腕がイカレている
しかも両足は使えないほどに大ダメージを受けている
最後にユダの持っていたプレートを首(?)から下げるとRXは1時そこで休む事になった...フォリア達の話を聞きながら

―――――――――――――――――――――――

・悠がサリットの案内によりワタッコと分かれて間もなく・・・
「うわ・・・どうなってるんだ?この迷路・・・」
「しっかりして!ガムくんは、ただでさえ迷いやすいんだから私から離れちゃダメだよ?」
「フィ〜!」
ワタッコの目の前からイーブイを抱えた2匹のブースターがやってきた!
「その姿はガム・・・か?」
2匹のブースターは遠くにいる傷だらけのワタッコを見ると
「どうしたの(んですか)!?」
と[でんこうせっか]で駆け寄った!
「ジルベールさん!大丈夫なの!?」
「ワタッコさん!どうしたんですか!その両羽は!?」
・・・???
「何言ってるの?ガムくん!ジルベールさんだよ!」
「アカリンこそ!この人はワタッコさんだよ!!」
「フィ〜?」
ガムとアカリンは見事にジルベールとワタッコを間違えていた
アカリンはワタッコを知らず、ガムはジルベールのことをほとんど知らない・・・
「はは・・・残念だが俺はジルベールではない、ガムが言う通り、俺はワタッコという名前だ」
アカリンはそのワタッコの返事を聞くと
「似ているんだけどなぁ・・・それじゃあワタッコさん、始めましてだね☆ 私はブイズの斬り込み隊長『モエる朱色』のアカリンといいます!」
と改めてワタッコに自己紹介した・・・が
「いや・・・紹介する必要はない、お前のことはジルベールの記憶からすべて知っている」
「ジルベールさんの・・・記憶?」
アカリンにはますますわからない様子だ
「話せば長くなるが・・・いいか?」
ワタッコはガムとアカリンにそう告げた
「そうですね。どうしてここにワタッコさんがいて悠がいないのかも気になるし・・・」
ガムとアカリンはフィをおろし、ワタッコから話を聞くことにした

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ワタッコはそれまで塔の中であったことを一通り、ガムへ話した。
3連星との和解のこと、ジルベールのこと、ミヤビのこと・・・などなど
対して、ガムもそれまで塔の外で何があったのかとワタッコへ話した。
ブイズのこと、フィのこと、グロスやザキのこと・・・などなど

・・・2人はお互いの居ない間に何があったのかそれぞれの情報交換を終えた

「・・・ということだ。ジルベールはこの俺の手で葬るしかなかった・・・」
「そうだったんですか・・・」
「ジルベールさんはワタッコさんに倒されることでゼロから解き放たれたのかな・・・」
アカリンが少し、悲しそうな顔でワタッコに話し掛ける
「いや、ジルベールは記憶を通して生きている。この俺の心の中で・・・」
「そうか・・・そうだね☆」
アカリンは改めて自分が習得した[朱転殺]を思い出していた・・・
「それにしても・・・本当に心配したぞ、ガム!よく帰ってこれたな」
「アカリンとフィがいてくれたからです・・・」
ガムはアカリンとフィへ目をやった
「スースー・・・zzz」
フィは気持ちよさそうにアカリンのモフモフの中で眠っている・・・
「しかし、【自由進化】・・・はじめて聞く能力だ」
ワタッコのジルベールの記憶でも、フィの自由進化については知らなかった・・・フィは本当にドリームメイカーの一部しか知らない能力者みたいだ
「でも、そんなジルベールとの激しい戦いがあったのなら[ねがいごと]をかけてその両腕を今すぐ治療ないと・・・!」
「え?ちょっ・・・いいって!俺の治療は!」
「何言ってるんですか!今さら慌てて!」
ガムは何故か取り乱すワタッコのくちばしを頭で押しのけ、羽を刺激しないようにゆっくり持った・・・が
「うっ!」
ガムはその腕を見て思わず目をそむけそうになった
「これはひどい・・・」
ガムが手にしたワタッコの羽は折れた・・・というより千切れかかったような手ごたえがあったからなのだ・・・
正確には手ごたえであり、本当に千切れたわけではないのだが、それに等しいような手ごたえ・・・「よくつながっている」と奇跡に思えるほどのひどい状態だった・・・
「バレたか・・・」
ワタッコは腕の状態を悟られると仕方がない、と隠すのをやめた
「この両羽はもう使い物にならない・・・どうやら、ジルベールの首を斬り落とした時、神経から使い物にならなくなったようだ・・・傷が治っても腕の感覚だけはこのままだろう」
「でも・・・そんなことって」
アカリンがどうしていいかわからない表情をしていると、ワタッコはまるでそんなアカリンに気を利かせるかのように
「後悔なんかしていないさ・・・ジルベールとの決着がついた今、むしろこの傷は俺の勲章だ」
「・・・」
ガムとアカリンはワタッコの羽を見ながら
「いい?アカリン?ワタッコさんの傷を治すよ」
「オッケー!ガムくん!」
ガムはワタッコの右羽を持ちながら、アカリンはワタッコの左羽を持ちながら[ねがいごと]を始めた
「そ・・・そんな、いいって!」
ワタッコは照れくさそうにして拒むが、2人はワタッコを頭で押しのけ[ねがいごと]をかけ続ける
「(神様・・・ワタッコさんの傷を・・・)」
「(治してください・・・どうか)」
ワタッコの傷はみるみるうちにふさがっていく
・・・しかし
「やっぱり駄目か・・・」
傷は完治してもワタッコの腕の感覚まで戻すことができなかった・・・
「2人の気持ちだけありがたく受け取らせてもらうよ・・・ありがとう」
「ワタッコさん・・・」
2人は治っても動かないワタッコの両羽をただもどかしそうに見るしかなかった・・・
「そんなことより、ガム、アカリン。お前達は悠を追うんじゃなかったのか?」
ガムはワタッコの言葉を聞くと
「そうだ!僕達も、もう時間がなかったんだ・・・アカリン早く上の階へいくよ!フィを起こして!」
「わ・・・わかった!いくよ、フィちゃん?」
「スースー・・・フィィィ?」
アカリンがフィを起こそうとした時
「待て」
悠を追うんじゃなかったのか?と言ったワタッコ自らが何故か2人を止める
「ガム・・・アカリン・・・フィは俺が預かろう・・・この60階に残していってくれ」
「な・・・何言うんですか!ワタッコさん!!」
「そうだよ!フィちゃんはずっと私たちといっしょにきたんだよ!!」
さすがのガムとアカリンも猛反対!という反応をとるのは当然すぎること
フィは2人にとってもはや我が子も同然とも言えるから・・・こればかりはワタッコさんの言う事でも聞けない!!と言わんばかりの反抗的な顔をしている
・・・しかし、ワタッコは2人を落ち着かせるようにこう言った
「ガム・・・アカリン・・・この先の階にはおそらくゼロがいる。・・・フィをそんな危険に再びさらす気か?」
「!」
「ゼ・・・ロ・・・!?」
2人は「ゼロ」と聞いてゾッとする
無人発電所での戦いの時、ゼロは何度もフィを殺そうとした・・・
もうあんな殺人鬼の前にフィを出すわけにはいかない
「上の階の危険にさらすより、ここで俺が預かっていたほうがこの子も安全だ・・・心配するな、羽が使えないとはいえ[飛翔侍村正]は健在!・・・フィは必ず守ってみせる」
ワタッコの話を聞いた2人はそれでももどかしそうにしていたが・・・
「スースー・・・zzz」
フィの寝顔をもう1度見ると決心がついたのかワタッコにフィを渡しつつ
「わかりました・・・ワタッコさん、フィをお願いします」
・・・ガムはフィをワタッコに預けつつも、まだ心配そうな顔をしていた
「フィちゃん?必ず戻ってくるから、それまでいい子にね?」
アカリンは寝ているフィのおでこにそっと軽い口付けを交わした
「アカリン、フィが泣き出すといけないからゆっくり行こう・・・」
「うん・・・そうだね☆」
ガムとアカリンはフィが目覚めた時、自分達が居ない事でぐずり出さないように・・・と、そっとフィの前を後にした・・・

「・・・」

「たのんだぞ・・・俺は少し疲れた・・・このままこの階で眠らせてもらうよ・・・」
ワタッコは2人を見送ると、自分もまたフィといっしょに静かな眠りについた・・・

***********************

・その頃、塔の72階では
「・・・」
「失礼します、ゴットフリート様」
サリットと入れ違いでゼロが上がってきた。
「ゼロか・・・何用だ?」
「ドリームメイカーの幹部達はほぼ全員が死亡・・・悠は半死半生の身・・・他の奴らはビーストへ集中しています・・・」
「・・・」
「これが何を意味するかわかりますか?」
ゼロがいびつな笑みを浮かべる・・・
「お前は自分の守護する階に戻らなくていいのか?」
「もうその必要はありませんよ・・・」
「何・・・?」
ゼロの口調がかわり表情が豹変していく・・・

「ククク・・・なぜなら」

「お前はこの俺の手によって倒されるんだからなぁ!!!!」

!!!!!!

ゼロはそう言うと、不意討ちにも等しい勢いでゴットフリートに[じしん]を放つ!
「う・・・ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
その衝撃をくらうと、ゴットフリートは木っ端微塵に砕け散った!!
「ふん・・・時代はもうお前を必要とはせん、お前の天下はもう終わったんだよ」
ゼロは飛び散るゴットフリートの破片の1つ1つを誇らしげに見つめる
「ファビオラが寝返ったのは計算外だったが、ドラゴン四天王はみな俺の言葉に踊らされて悠達と必要以上に戦ってくれた・・・ククク・・・まったくおもしろいぜ」
「悠はあの傷・・・ワタッコはまともに戦えず・・・そして2匹のブースターも俺の敵ではない・・・ククク・・・全て計算通りだ、これからはこの俺がゴットフリートになり代わりドリームメイカーを掌握してやる・・・ハーッハッハ!!!」
その時!!
「うぎゃっ!」
[かわらわり]がゼロを打ち飛ばした!!
「ゼロ・・・」
なんと!さきほどやられたはずのゴットフリートが無傷で立っている!
「ゼロ・・・お前は今のドリームメイカーが結成された時より、よく働いてくれた・・・しかし、以前からお前の心の奥底に何やら得体の知れない不気味なものを感じていたのだ」
ゼロは体勢を立て直し、つぶやいた
「ふん・・・ゴットフリートめ・・・影武者を[みがわり]にしたな」
ゴットフリートは[こわいかお]をして言い放つ!
「ドラゴン四天王への過度の虚言からジルベールまでも騙し操ったお前の罪・・・そして、お前の配下のベルまでも捨て駒にしようとするその魂胆・・・」
「もはやこれ以上、お前の暴虐を見過ごすわけにはいかん・・・お前が下克上を言い渡した今、私がここでお前を消さねばならぬ!!」
ゴットフリートは床を殴りあげゼロへ[がんせきふうじ]を放った!
内乱かそれとも下克上か・・・ゼロとゴットフリートの戦いが今ここで始まった!!
「ふん・・・ほざけ、お前の手の内は俺がよく知っている・・・影武者が何度も通じると思うな」
ゼロはその攻撃を[そらをとぶ]で回避する・・・そして、72階の上空高くから先ほどよりもさらに凄まじい勢いで72階フロア全体に響くほどの[じしん]を放った!!!
「ぐ・・・ぐおぉぉぉ・・・」
ゴットフリートが大きくのけぞると、周囲に無数の鉄のかけらが飛び散る!!・・・全て影武者と思われるダンバルだ
そして、そこにはもうゴットフリートしか残っていなかった・・・
「伊達にドリームメイカーに属して長いわけじゃないからなぁ・・・ヒヒヒ・・・このままなぶり殺しにしてやろうか、ええ?」
ゼロはゴットフリートへ向かって急降下しながら[ドラゴンクロー]を打ち込む体勢に入った!!
「・・・」
「・・・この私とて、影武者にばかり頼っているわけではない・・・うけてみろ!」
ゴットフリートは上空のゼロに対してコメットパンチを打ち上げた!
[ドラゴンクロー]と[コメットパンチ]のぶつかり合いが決まる!!
「う・・・ぐうぅ・・・」
しかし、ゴットフリートの[コメットパンチ]がゼロの[ドラゴンクロー]に押し負け、ゴットフリートは[ドラゴンクロー]の直撃を受けてしまった・・・
「ククク・・・衰えたな、ゴットフリート」
「な・・・何!?」
ゼロはゴットフリートの背中にとりつくようにしがみつくと、そのままゴットフリートの身体に[かみくだく]をかけ、バリボリをむさぼりはじめた!
「う・・・がぁああああ!!」
「いいねェ・・・こうして鋼の肉片を噛み千切る感触を味わうのは・・・フフフ」
ゴットフリートの身体にはひびが入り、今にもくだけそうだ!
・・・しかし、ゴットフリートの身体が光り始める
「む・・・?」
ドガァ――――――ン!!!!!
ゴットフリートは[だいばくはつ]をつかった!!
だが、ゴットフリートはまだ生きている!
「ぐうぅ・・・・」
「ふん・・・どうやらそれが最後の影武者だったようだな」
「!?」
しかし、ゴットフリートの前には[だいばくはつ]のダメージをものとしないゼロの姿があった!
「残念だったなぁ・・・[だいばくはつ]を受けたときはどうなるかと、さすがに俺も思ったが・・・俺の技に[まもる]があったことを忘れたか?」
ゼロはあの[だいばくはつ]でさえ、[まもる]を使いガードしていた!

全ての状況がゼロに有利なこの戦い・・・

ゼロはゴットフリートをいたぶるのが飽きたのか、エネルギーを口に集中しはじめると
「くたばれ―――!!ゴットフリート!!!」
ゴットフリートにとどめをさすべく[はかいこうせん]を放った!!
「私は負けぬ!ゼロよ!うけてみろ―――!!!」
ゴットフリートもまた、[はかいこうせん]を放った!!
今度は[はかいこうせん]同士が激しくぶつかりあう!!
その威力はすさまじく、小さなポケモンが近づこうものなら勢いでふきとばされてしまいそうなほどの威圧感・・・この塔の72階が壊れてしまうのではと思うほどの熾烈さを極めた!!
ドオォォォォ―――ン!!!!
「?」
「ゴットフリート!どこへ行った!?」
2つの[はかいこうせん]が爆発した跡にゴットフリートの姿がない!
・・・しかし、爆発の煙の中からゴットフリートが姿を現した!!
「お前のようなやつにはこの私から直接、鉄槌を下さねばならぬ・・・!!」
そう言うと、ゴットフリートはメタグロスの身体ににつかわしくない素早さでゼロのふところへもぐりこんだ!
「こ・・・この野郎!ちょこまかと!!」
ゼロでもそのスピードを追うことができない・・・!
ゴットフリートが[こうそくいどう]をつかっているからなのだ!!
「ドリームメイカーがお前ごときの反乱で崩れると思うなぁぁぁ!!!」
「な・・・何いいィィ――!!?」
ゴットフリートはその[こうそくいどう]の素早さにまかせて[コメットパンチ]と[ばくれつパンチ]を交互にゼロに向かってくりだした!!
「うげっ!・・・があぁっ!・・・げほぉぉ!!」
しかもその拳の1発1発がすさまじく重い鋼鉄のようだ・・・!!
それもそのはず、ゴットフリートは[てっぺき]をかけることによってその拳を異常な硬さに硬質化させているのだ!!
「ぐっ・・・このやろおぉぉぉ!!!!!!」
「ふん!!!」
「グギィイ!!!」
右!左!右!左!!鋼鉄の拳から物凄く重い鉄拳がラッシュのごとくゼロに炸裂する!!
この技こそゴットフリートの必殺技といえよう・・・その名は
「【超爆裂拳(ちょうばくれつけん)】!!!!!」
ゴットフリートの最後の一撃がゼロをとらえると、ゼロはそのまま壁に向かって殴り込まれた!!
「うおぉぉぉぉ!!!?」
「消えてなくなれぇぇ!!!」
ドガアァァァ―――――!!!
ゼロはゴットフリートの【超爆裂拳】に壁ごと吹き飛ばされるとそのまま姿がなくなった・・・
「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ」
ゼロをなんとか退けたゴットフリート・・・所々にひびが入った身体でその場に手をついた
ドリームメイカーの幹部、『冥府の司祭』のゼロの突然の謀反・・・ゴットフリートはこうなることを予感していた・・・
「悠・・・早く来てくれ・・・この私の命がまだあるうちに・・・」
ゴットフリートは悠いる下の階を眺め、沈黙するかのように、再び静まりかえった・・・


しかし・・・塔の外では・・・全長1.5メートルのドラゴンがなおもせせら笑っていた


―――――――――――――――――――――――


「ラティアス!?」
目の前には、ゴスロリ服を着たラティアスがいた。ビーストの『サイコキネシス』で捕まえられているようだ。
「フフフ・・・これでも攻撃できるかな?」
ビーストはニヤリと笑いながら、ラティアスの影からアッシマーを見つめる。
「う・・・うぐ・・・ぐ・・・」
ラティアスは何か言いたげに声を出すが、それは言葉にはならなかった。
『かなしばり』で完全に体の動きを封じられているらしい。
「これ以上一歩でも近づこうものなら、こいつの腹をフォークで突き刺すぞ・・・」
ビーストは落ちているフォークをサイコキネシスで浮遊させ、それをラティアスの腹部に突きつけた。
「うぐぐ・・・ぐううっ!」
ラティアスは悲鳴を上げようとしている、が、その悲鳴すら声には出せなかった。
「形勢逆転だな! 『どくどく』!」
「!!」
ビーストが放った『どくどく』を、アッシマーはよけきる事ができなかった。
「ぐあっ!」
アッシマーは猛毒を浴びた!
「く、くそ・・・」
体がどんどん重くなっていく。頭もクラクラしてきた。

「なんと破廉恥(はれんち)な!」
ルカ☆が言う。
「そんな生易しいものじゃない・・・あいつ・・・卑怯者の中の卑怯者だぜ!」
その言葉に、バク次郎はそう返した。
「・・・・・・」
その一方で、ラティオスはずっと黙っている。何かを念じているかのように。

―・・・マー・・・アッシマー、聞こえるかい?―
「・・・!」
朦朧(もうろう)としかけたアッシマーの意識の中に、声が響いてきた。ラティオスの声だ。
どうやらテレパシーを使って話しているらしい。
―今からボクが姿を消してから後ろに回りこんで、ラティアスを助ける。アッシマーさんには奴の気を逸らせてほしいんだ。できる?―
ラティオスはそう訊ねてきた。
「・・・まだ・・・やれないことはありません・・・やってみます」
アッシマーは答えた。実際のゲームでもそうだが、毒を浴びても戦えない事はない。
―わかった。よしいくぞ!―
ラティオスはそう言って(正確には『言う』とはいえないかもしれないが)空高く上昇した。
「・・・ぐ・・・ビースト・・・まだ・・・戦いは終わっちゃいない・・・!」
アッシマーはよろよろと立ち上がり、荒い息で言った。
「・・・確かに終わってはいないさ。だが、これから貴様がどうあがこうと、貴様は負ける」
「まだ戦ってもいないのに・・・よくそこまで自信満々に言えるな・・・!」
アッシマーは激しい憤りを覚えた。
「ならば戦って結果を見せてやろう! シャドーボール!」
ビーストはシャドーボールを放った!
「みきり!」
アッシマーはそれを『みきり』でよけた!
「上手いな・・・だがそれもいつまでもつかな?」
「うぐ・・・」
こうしている間にも、毒は体中に回っていく。
手足が鉛のように重たくなり、頭の働きも鈍ってくる。目もだんだんとかすんできた。

―――――――――――――――――――――――

・「悠様は・・・」
「サリットさん?」
「悠様にお聞きしたいのです・・・悠様はこれまでの戦いをつらいと思ったこと、逃げ出したいと思ったことはなかったですか?」
60階から72階までの移動の間、無言では失礼だと思ったのか、サリットが悠に質問を投げかけてみた。
「それは・・・あります。初めてこの世界に迷いこんだ時から、今こうしている時も・・・本当は怖くて仕方がないんです・・・でも」
悠の脳裏にはみんなの・・・この世界に来て出会ってきた仲間達の顔が浮かんだ「・・・ワタッコさんやアッシマーさん達、信じあえる仲間がいたから・・・僕は逃げずにここまで来れたんです」
「そうだったのですか・・・」
サリットは少し身体を光らせ、近くの罠を発光で察知した。
「悠様、[どくばりスイッチ]があります、足元にお気をつけ下さい」
「あ、はい」
サリットは質問を続ける。
「今でも元の世界に帰りたいと思う気持ちはありますか?」
悠はそれに迷わず答えた。
「いいえ、ドリームメイカーに殺された僕の仲間がたくさんいます・・・ゴットフリートがなぜそこまでするのか確かめない限り僕は・・・」
そして悠は、自分を導いてくれた烈のことを思い出していた
「(それにダーク改造を施された兄さんが・・・何故、兄さんまでここに来なければいけなかったんだ・・・?)」
・・・サリットに誘導された悠は66階へ到着した
「どうしたんですか、サリットさん?」
サリットが発光して何も無いあたりを見回している
「おかしいですね・・・確かここはゼロの守護する階のはずなのに、なぜ彼がいないのでしょうか?」
「ゼロ・・・『冥府の司祭』」
はっきりと思い出す、46階で赤い3連星と和解した時に窓から見たあのドラゴンポケモンの恐ろしい形相を・・・
「ここには誰もいません、早く先を急ぎましょう」
サリットは発光しながら次の階へと悠を誘導していった
「でも、悠さん?」
「え?」
サリットは、今度は思い切ったことを悠に聞いてみた。
「悠さんは・・・今でもゴットフリート様が許せませんか?」
「・・・」
「・・・」
互いに長い沈黙が続く・・・
「もう・・・」
沈黙しながら移動を続ける中、悠が語りはじめた
「もう解らないな・・・逃げても戦ってもやっぱりこれは戦いだ」
「ゴットフリートはゴットフリートでこの世界を守るために戦っていて、僕達はただそれに反対ってだけ・・・」
「悠様・・・」
「僕達にも、ドリームメイカーにも、それぞれの正義があったんだと思う・・・」
「・・・」
悠は今になってジルベール戦で痛めた片腕の痛みを再び感じ、もう片方の腕でおさえていた。
・・・そして、しばらくして
「悠様、もうすぐ72階へ到着します。 この上にゴットフリート様がお待ちです」
「(この上にゴットフリートが・・・)」
2人が話しているうちに、気が付くともう72階へと到着していた
「失礼します、ゴットフリート様。 悠を只今、ここに連れて参りました」
「ぐっ・・・うぅ・・・」
そこにいたのは・・・全身がひび割れた満身創痍のメタグロスのゴットフリートの姿だった!!
「!・・・ゴットフリート様!?」
「ゴ、ゴットフリート!? どうしたんだ?その傷は!?」
塔の中ではビジョンを通じて1度だけ会ったことがあるが、実際に会うのが初めてのドリームメイカーのボス、ゴットフリート。
その体からは破片がこぼれ、いかにもたった今、誰かと一戦交えたような状態だった
「うぐ・・・偽者のゼロ・・・ゼロめ、この私がしていたようにカタンを影武者・・・[みがわり]としたのか」
「なんだって!?」
悠の目の前にはボロ雑巾のような虫ポケモンの変死体が転がっていた
「う・・・これは、カタン?」
悠にはそれがあの時、烈を操ろうとしたカタンであることがすぐにわかった・・・原型が無くなるほどに殴打され、グシャグシャに潰れたような後が無数に残り、悠でなければそれがバルビートなのかさえもわからないほどだった
「おやめください!ゴットフリート様!そのお体で戦ったりなどしたら!!」
「どけ!!」
「フリートさま!?」
ゴットフリートの身を案じるサリットをはらうと、ひび割れながらもずっしりと重たいその体を動かしながら悠へ近づいた
「悠・・・待っていたぞ・・・ついにこの時が来た」
「ゴ、ゴットフリート?」
「私はお前をこの世界に呼び寄せた時から・・・ずっとこの日がくるのを待っていたのだ」
悠は一体目の前で何があったのかわからないような・・・そんな表情をとりつつも、ゴットフリートを警戒し、痛めた片腕を上げてかろうじて身構えていた
「悠・・・私のこの身体の傷がさぞかし不可解そうだが、この私に情けは無用!」
「!・・・うわ!?」
「今ここで、お前を試させて貰う!!」
そう言うと、ゴットフリートは悠に向かって凄い勢いで[ばくれつパンチ]を仕掛けた!!

********************

・その頃ガムとアカリンは塔の上を目指して[でんこうせっか]で走り続けていた
「(悠、絶対に無茶はしないで・・・! 敵はあまりに強大だ!僕達が到着するまで無事でいて・・・!!)」
ガムの足取りもいつになく焦り気味で61階、62階、63階へと次々と上がっていく
「ガムく―ん!・・・ガムく――ん!おいてかないでよぉ―――!!」
「え?」
ガムが気がつき立ち止まるとそこには誰もおらず、1階分近くも離されてたところでアカリンが呼んでいた
「ああ、アカリン・・・」
ガムは足を止め、アカリンがやってくるまで待つことにした。程なくしてアカリンも[でんこうせっか]で追いついたが・・・
「うう・・・ひどいよぉ・・・ガムくん」
「ご・・・ごめん、つい」
その後、ガムとアカリンは今度ははぐれないようにと横一列で[でんこうせっか]の移動を行った。
そんなガムにアカリンが改まって語りかける
「ガムくん・・・ひょっとしてまた、『僕が頑張らなくちゃ!』とか『僕がしっかりしないと!』って1人で思っていない?」
「!」
思わぬアカリンの言葉に
「・・・い、いや!そんなこと」
と必死に否定しようとするが、ガムのその動作にはいかにも図星をつかれた戸惑いがあった。
しかしアカリンは言って聞かせるようにガムに語り続けた
「ガムくん、私を甘く見ないで・・・いつまでも昔のトラウマを抱えている私じゃないんだよ! これはもうガムくんや悠さんだけの戦いじゃない・・・私達ドリームメイカーズのみんなの未来をかけた戦いなんだ!」
2人は64階を抜け、65階へと駆け上がっていた
アカリンは説得にも似たような話を続ける・・・
「私だって今でも孤独は怖いよ・・・決して『完璧』なんかじゃない・・・でもね、その1つ1つを乗り越えていくことでガムくんみたいな『人間』も、私のような『ポケモン』もガムくんの言う『それ』に近づいていくことができると思うんだ・・・ポケモンも人間も同じなんだよ!!」
「アカリン・・・」
「あのポケモンタワーでガムくんとまた会った時から・・・ガムくんがそばにいてくれたからって思うんだ。 ガムくんの勇気と正義感があったから私もここまで頑張れたんだよ!」
「(そうか・・・)」
「だから・・・今の私の力を信じてちょうだい。そしてこれからも一緒に戦おう!」
・・・ガムはアカリンに全てを見透かされたような気持ちだった
アカリンはガムとの再会からバトルタワーの戦い、無人発電所の戦い、そしてこの塔での戦い。その全てを通じて精神的にも肉体的にも本当に強く成長していた・・・
「そうか・・・そうだね、これはもう『僕たち』だけの戦いじゃない・・・アカリン、ありがとう!」
ガムの落ち着きの無い[でんこうせっか]の速度がだんだん元へと戻り、アカリンとほぼ同じ移動ペースへと戻った
「えへっ☆」

・・・ガムはこれまでの戦い・・・この世界に来た一切のことを思い出していた。
(正直僕は最初・・・好きなポケモンとはいえ、ブースターとしてのこの能力を好きになることができなかった。 草木を燃やし、ボスゴドラを灰にし、ユレイドルを粉微塵にしたこの呪われたような能力を・・・)
「ガムくん、そこはあぶないよ」
「え?・・・ああ、わかってる」
アカリンが[わなふまず]で避けた[ばくはスイッチ]の方向をガムに伝えていた
(今でも時々自分の能力をうとましく思う時がある。 でも・・・アカリンと会ってから僕の中の何かが変わった・・・『この子のためなら』っていう僕だけの想い・・・「ブースターにしかない」っていう僕だけにできること)
でもぐずぐず考えていたって始まらない。これまで自分がこの世界で経験してきたこと全てを叩きつけるだけだ!・・・ガムはそれだけを強く思っていた。
「今は、この世界の未来を信じて戦おう!」

そしてガムとアカリンは66階を走っていた
「悠達はここにもいないな・・・」
「うん・・・そうだね」
ここも素通りできるか・・・と思った時
「う!?」
「!・・・ガムくんも?」
突然2人の身体から力が抜け、これまでにはなかったぐらいの嫌な悪寒が走った!
「こ・・・この気配は」
2人はここまで嫌な感覚を決して忘れてはいない
・・・その先にいたものは
「フン・・・ゴットフリートめ、俺が[みがわりだま]を使ったとも知らずにわざわざ俺の人形を相手に戦うとはな・・・まったく楽しいぜ」
!!・・・そこにいたものはさきほどのゴットフリートとの戦いがなんともないような無傷のゼロの姿であった!!
無情・無法・無秩序のゼロがそこにいる
ゼロはいびつに笑いながら上を眺めていた
「あとはこの俺がこの塔に無数に仕掛けられているトラップをわざと踏んで適当な場所に逃れればいいだけのことククク・・・あの身体ではフリートも、もう長くは持つまい・・・」
ゼロがここで話している「俺の人形」とはカタンのことである。
ゼロはあの激闘さえも、自らほとんど手を下すことなくあざ笑うかのように眺めていたのだ。
「ゼ、ゼロ・・・」
「ん?お前らはいつかのブースターども・・・無人発電所では世話になったなぁ・・・」
ゼロはガムとアカリンの周囲を見回す
「・・・俺に[ハイドロポンプ]をあびせたあのイーブイはいないのか・・・まあいい、俺のドリームメイカー掌握の前祝にまずはお前らから血祭りにあげてやる」
ガムとアカリンはついにこの時がきたとゼロに向かって叫んだ!!
「ゼロ!お前のようなヤツをこれ以上野放しにしておくわけにはいかない!これまでの俺の全てをお前にぶつけて・・・倒す!!」
一人称が変化するガム!
「ゼロさん・・・いや!ゼロ!私はあなたを許すことができない!マシュリのためにもここであなたを止める!!」
これまでにない闘志を見せるアカリン!
ゼロに向かってガムとアカリンが戦闘体勢をとった!
「ふん・・・ほざけ、この66階も俺の預かる階・・・独壇場だ。お前らに勝ち目はないぜ、キヒヒ・・・」
「く・・・」
2人はゼロの挑発に似た言葉に今度はかかるまいと足を置くが「あのイーブイも俺が直々にくびりころしてやる・・・仲良くあの世に行かせてやるんだからな・・・ハハハ・・・この俺に感謝しろ」
「!!!」
アカリンの顔が突然変わった!
「ゼロ!!・・・あなたって人は!!!」
アカリンの口から高エネルギーが集中され[はかいこうせん]がゼロに向かって放たれた!!
・・・が
「ふん!」
バシィ!!
ゼロはその[はかいこうせん]を片腕一本ではじいてしまった・・・
ゼロの[いかく]によって攻撃力を下げられたガムとアカリンの物理攻撃ではゼロにまともなダメージを与えることができない!
「そうとう焦っているようだな・・・安心しろ、まずはお前らからゆっくりと料理してやる・・・ゆっくりとな・・・」
2人を見つめるゼロの目はまるで、獲物をすぐに殺さず、じっくりいたぶってやろうという悪意に満ちた快楽に歪んでいた・・・

――――――――――――――――――――――――――

「どうやらここまでのようだな・・・」
「ち・・・畜生・・・・・・」
実際に考えていたよりも、毒の回りは早かった。
体は完全に言う事を聞かなくなった。もう動けない。立つ力を脚に入れることさえできなくなってしまった。
ビーストはそんなアッシマーを、まるで見せ物でも見るかのようにまじまじと眺めている。
「・・・フフ・・・」
アッシマーの口から笑みがこぼれた。
どうも人間というものは自分はどうしようもない危機的状況に陥ると、無意識に笑ってしまうらしい。
「かまわないさ・・・僕が倒れても・・・」
「・・・何?」
「本当の目的は別にある・・・僕がここで倒れる事で・・・目的は達成・・・され・・・・・・」
そこまで言った所で、アッシマーの意識は途切れた。
ビーストの目には、力なく崩れ落ちるアッシマーの姿がはっきりと映っていた。


「・・・勝ったな!」


「ふぐううううううううううっ!」
「おにいいちゃああああああああああん!」
ラティアスとルカ☆の声が、瓦礫の山の上に響き渡った。

「まんまと引っ掛かったね!」
突然ビーストの後ろから、声が聞こえた。それと同時に、何者かに羽交い絞めにさせられた!
「な!」
ビーストは後ろを降り向く。
後ろには何もいなかった・・・が、突然景色がゆがみ、そこに青い体を持つポケモンが現れた。
ラティオスだ。
「ラティアスをやらせはしない!」
ラティオスは強く言い放つ。
その時、ビーストの気がそれたせいで、ラティアスにかけられていた『かなしばり』もまた解けた。
「しまった!」
「お兄ちゃん!」
ラティアスはラティオスを見て言う。
「ボクにはかまうな。それよりアッシマーさんを!」
ラティオスはビーストを羽交い絞めにしたまま、ラティアスに向かってそう叫んだ。
「こしゃくな・・・っ!」
ビーストはラティオスにひじ打ちを食らわせて、なんとかラティオスから逃れた。
「おおおっ!」
それでもラティオスは攻撃の手を緩めない。
『ドラゴンクロー』『ラスターパージ』『りゅうのいぶき』と、次から次へと攻撃をかける。ビーストでさえ、防ぐのがやっとといった状況だ。
しかし、ビーストはそこでも自分の伏兵の事を忘れてはいなかった。
そう、あの銀のフォークだ。

「これで終わりだ!」

ラティオスが『りゅうのいぶき』をかけようとした、その時だった。





鈍い音が、急に鳴った。




ラティオスの背中には、銀のフォークがつきたてられている。
青い羽毛を赤黒く染めたラティオスは、その場に倒れた。


「そのフォークは俺の念力で自在に操れるんだ・・・悪く思うなよ・・・」
「く、くそ・・・」
ラティオスはよろめきながらも再び浮き上がる。
その体から、黒いオーラが出始めた。
そのオーラが、ビーストを取り巻く。
「!?」
「僕だけが・・・死んでたまるか・・・
三途の川を渡るなら・・・貴様も一緒・・・だ・・・」


ラティオスは、必死に手をビーストへ伸ばす。
しかし、その手は届かぬまま、ラティオスは倒れた。そして、動かなくなった。


「そんな・・・あ・・・」
ラティアスの顔から血の気が引いていく。
彼女の目の前で、愛する者が2人も倒れたのだ。


その一方で、ルカ☆は怒りに燃えていた。
「お前・・・お前って奴はああああああああっ!」
ルカ☆はビースト目掛け、「かみくだく」をかけようとする。
「無駄だ」
だが、ビーストの強い『サイコキネシス』の前に弾かれてしまう。
「きゃああっ!」
ルカ☆はもんどりうって地面に叩きつけられた。
「まだだ・・・まだ終わらんよ!」
「ふん・・・あきらめの悪い奴だな・・・」
何度もビーストに突っ込むルカ☆、しかし、結果は変わらない。
いつのまにか、ルカ☆の体にあちこちに傷ができ、そこから血が滴り落ちていた。
「もうやめてください! ルカ☆さん! あなたまで死んでしまいますよ!」
秋葉が叫ぶ。
「いや・・・私は戦う!
私の命に代えても、体に代えても・・・コイツだけはあああああああっ!」

その時、瓦礫の山に閃光が走った。
まばゆい輝き。ビーストも一瞬、目を逸らしてしまった。


「うおおおおおおっ!」


閃光が去り、ビーストの目に飛び込んできたのは、こちらに向かって突撃してくる灰色の物体。


「ここからいなくなれーっ!!」


図鑑番号247番、サナギラス・・・そのものであった。



――――――――――――――――――――――――――

サリットの案内で72階まで辿り着いた悠は、傷だらけのゴットフリートに突然攻撃を仕掛けられていた!!

「う・・・うわっ!」
悠はゴットフリートの[ばくれつパンチ]を紙一重でかわした!
「逃げるな悠!・・・お前もこの私と戦え!」
ゴットフリートは2発目、3発目の[ばくれつパンチ]を打ち、じわじわと悠を追いつめていく!
「そ・・・そんなこといったって」
悠はこの状況を飲み込むことができずにまだ困惑していた・・・
少なくとも【ビースト】の存在と、現状の【ドリームメイカー軍】との停戦状態、そして赤い3連星との和解により、もう自分がこれ以上【ドリームメイカー軍】と戦う理由がなかったからなのだ・・・ゴットフリートからこの戦いの真相を聞きだした後、一発殴って納得しようと・・・
そう思っていたのにしかし72階に来てみれば、何者かにひどくやられたゴットフリートの姿が・・・しかもフリートは「その姿」でも自分に戦いを挑んでくるのだから、これから話を聞こうと心の準備をしていた悠はさらに訳がわからず戸惑いながらフリートの攻撃を回避するしかなかった・・・
「くらえぇっ!!」
「うわあっ!」
悠は[まもる]を使ってフリートの攻撃を回避した!
ズキッ
「うっ・・・!」
その時、悠の片腕から激痛が走った・・・!
60階のジルベールとの戦いによって使い物にならなくなってしまった片腕をぶらさげている状態での派手な動きによる攻撃回避が、悠自身の身体に大きな負担をかけているのだ
「ぐ・・・ぐうぅ・・・」
それと同時にゴットフリートも、ひび割れて今にも崩れそうな体を必死に抑えつつ体勢を整えていた・・・
フリートもまた、自分の攻撃を悠に回避される度に身体中のひびの亀裂が大きくなっていき、重心を何度も失っているのだ
「ゴットフリート様!なりませんっ!!そのようなお体で!!」
礼儀正しく、平常心を失わないサリットが完全に我を忘れた表情でゴットフリートの傍へかけよった・・・スターミーなので表情はわからないのだが、コアを激しく点滅させているところからそれがうかがえる
「私に構うな!!」
「フリート様!!」
ゴットフリートはサリットを再びはらうと、まるで落ち着かせるようにサリットに対して語りかけた
「サリット・・・お前ならわかるだろう、この戦いの真の目的が『私の命』ではないということが・・・」
「フリート様・・・」
ゴットフリートのどこかに威厳と重みがありつつも安心感のある声に呼びかけられると、サリットのコアは静かに点滅数を元に戻していった・・・
「悠様、フリート様と戦ってください。フリート様が望まれています」
「な・・・なんだって!サリットさん!?」
悠はサリットのほうへ顔を向けた
「ビーストという共通の敵がいるのに・・・なんで今ここで僕とフリートが戦わなくちゃいけなんですか!」
悠が一回顔を横に振り、そう叫んだ時・・・

「聞けえぇっ!悠!!」

「ゴットフリート!?」
ゴットフリートが悠に対して一喝の言葉を浴びせ、そしてこう言った!
「悠・・・よもや忘れたわけではあるまい?これまで、この世界でこの私がお前達にしてきた仕打ちの数々を・・・!!」
「!!」
ハッとしたような顔をすると悠の動きが一瞬止まる。

「そうだ・・・そうだったんだ・・・僕達はゴットフリート・・・」
【ビースト】という存在で忘れそうになっていたが、悠はその時思い出した・・・
自分達をこの世界に迷わせた者が誰だったのかを・・・部下を通じて罪も無いポケモンを殺していったのが誰だったのかを・・・大事な仲間達を無残に殺していった元凶が誰だったのかを・・・
そして、悠は再びゴットフリートに対して身構えると、
「わかった・・・そこまで言うのなら、僕はもうお前に対してもう容赦はしない・・・!」
「この世界で与えられた『バシャーモとしての力』で、お前から全てを聞きだしてやる!!」
「そうだ!悠・・・それでいいのだ!さあ・・・かかって来い!!」
ゴットフリートと戦う気になった悠は、まだ使える方の片腕から[ばくれつパンチ]を放った!
対してゴットフリートも[ばくれつパンチ]で応戦する!!
「はあぁぁぁぁっ!!」
「おおぉぉぉぉっ!!」

「キャッ・・・!」
[ばくれつパンチ]と「ばくれつパンチ]の激しいぶつかり合いによる衝撃が72階に広がり、その勢いがサリットを襲った・・・が
「・・・」
サリットは体勢を立て直し、[リフレクター]を使って静かに2人の戦いを見守り始めた・・・

悠はゴットフリートの懐へ潜り込み叫ぶ!
「ゴットフリート!僕は、お前に聞きたいことがあってここまでやって来たんだ!!」
「お前は・・・どうして僕達をこの世界に呼び込んだんだ!そして何故、僕達の仲間を・・・みんなを殺した!?」
悠は訴えるようにゴットフリートに問いかけた!
「悠・・・やはり気になるか・・・」
それに対してフリートは・・・こう答えた
「新しい時代を作るためには仕方がなかったことなのだ」
「な・・・なんだって!!」
「はあッ!!」
悠がその言葉に唖然としている隙にフリートは[こうそくいどう]を使い、[メタルクロー]のラッシュを仕掛けてくる!!
「くっ!!」
悠はそれに対して[きあいだめ]で対抗して迎えうつ!
「ビーストの襲来・・・浮き足立つ部下達の反乱・・・そして私の命・・・もはや私の力で『Dream Maker』を束ねて行くにはもう限界だった・・・」
「・・・」
「そこにお前達『ポケ書』の『コミュニティ』の住人がいた・・・新しい時代を継がせる、そのためにお前達をこの世界に呼び寄せ、私の軍勢と戦わせることでお前達の力量を測る必要があった・・・」
「[ブレイズキック]!!」
「ぐうぅぅっ!!」
悠はその言葉を聞くや否や激怒した!
「それじゃあ・・・それじゃあ、瑞さんに浅目さんに・・・他の罪のないポケ書の住人達はお前の『そんな理由』のためだけに殺されたというのか!・・・ふさけるな!!」
しかしフリートは、悠の怒りの[ブレイズキック]に倒されながらも、ゆっくり起き上がると再び話し始める
「そうでもしなければお前達を試すことはおろか、本気にさせることはできなかったのだ」
「黙れ!!」
「私を敵として憎んでもらわなくてはお前たちが本気で戦うこともなかった」
「だからって、そんな理屈っ!!」
悠はなおもフリートに対して怒鳴りつける!
「だからといってそれだけのために・・・それだけのために罪も無い人々を殺 すことがいいと思っているのか!? 瑞さんや浅目さんを何故殺した!?」
「この戦争で生き残れないような奴は新しい時代には必要ない・・・」
「なんだと!?」
「悠よ・・・この私が憎いか?もっとお前の怒りの炎を燃え上がらせろ!!」

悠とフリートは拳を通じ戦うことによってこの戦いの意味をを問いただし、お互いを語り合っていた・・・!

2人の話はまだ続く・・・
「それじゃあムゲン・・・ダーク・ムゲンの言っていたことはなんだったんだ!?この世界の外に『本当の僕』がいて、『この世界の僕』を動かしているんじゃなかったのか!?」
「・・・違う」
「なんだって!?」
「おおぉ!!」
「うわっ!」
悠はフリートの[ばくれつパンチ]を顔面にくらってしまった・・・!
「うう・・・」
混乱状態になるまいと、悠は何度も首を横に振る・・・
悠が聞いた質問に、フリートはゆっくりとムゲンの事について答えた
「それは私が配下のものどもに使わせた虚空の情報・・・些かならずゼロによって話に尾ひれが付けられたが・・・この世界にいるお前は、正真正銘の『本物のお前』だ」
「な・・・なんだって!?」
「はぁぁっ!!」
フリートは[てっぺき]を使って硬度を上げていく・・・!
「それじゃあ・・・それが本当なら」
「この世界を『架空の世界』だと思って戦った僕は・・・この世界で死んでも『本当の僕は死なない』と思って戦い続けていたら・・・」
フリートのその解答が何を意味するのか、悠が立ち止まったところにフリートはさらに話をすすめる・・・
「そうだ、この世界を『ゲームの世界』とぬかって命を落としたようであればその者の命運も所詮そこまでだったと言う事・・・生と死と隣り合わせの状況を偽っても、お前達がいかにぬかりなく戦えるか・・・それが見たかった」
フリートは、そうつぶやいた。
「実際に烈やガム、その他大勢がこの世界を『現実』と信じ、最後まで私に抵抗した・・・記憶を持ち合わせながら命懸けで戦ってきた・・・私はそんな人材を探しているのだ」
「(な・・・何を言っているんだ?)」
「!」
その時、悠は一瞬思い出した。この世界に降り立って初めて遭遇したスリーパーの言っていた事を・・・
―(うひょひょ、冥土の手土産として言っておこうかなぁ、この世界で死ぬと二度と元の世界に戻れない)―
悠は一瞬ゾッとした・・・仮にあのスリーパーの言っていた事こそ正しかったとしたら・・・ワタッコの助太刀なく、あのままジルベールに急所を貫かれていたとしたら・・・
悠は60階の本物のジルベールとの戦いの最中、自分の中に「この世界で倒されても『本物の僕』は無事ならそれでいい」という考えがほんの・・・じつのほんの少しだが心の中によぎっていたのだ・・・
「うおおっ!!」
しかし、悠はまだ納得がいかず自分に[きつけ]をかけながらフリートへ再び問いかける!「でも・・・秋葉さんの言っていたことはなんだ!?僕たちをこの世界で戦わせて人間としての存在意義を失わせることも、お前の目的じゃなかったのか!?」
ビーストが現れ秋葉達と合流し、ガムとあかつき!と水無月が塔から出て行ったあの時。
ヒャクエの針治療を受けていたあの時に実は悠も秋葉からこの事を聞いていた・・・自分達は戦えば戦う程この世界から帰れなくなってしまうのではないかと・・・
しかし、フリートは即答した。
「この私がいつそんな事を言った!?そんなことは秋葉の想像にすぎん!!」
「な・・・!?」
悠の動きがとまった
「ライチュウの秋葉・・・あやつは核心に近づかず推測のみの者だったからな・・・おそらく的外れな見解をしてしまったのだろう」
「・・・」
「嘘だと思うならその腕の感覚は何だ?私に打たれて感覚がままならないその顔はなんだ?」
悠はゴッとフリートの言っていることを1つ1つ頭の中で整理していた・・・

『ゴットフリートは内部崩壊が深刻なDream Makerを新たに束ねていく人材・後継者を探すべく僕たちをこの世界に招きいれた。そのためにポケ書住人を虐殺 することにより、自分達を本気にさせ、その力を測ることが目的だった』
『なおかつ、この世界で死んでも分身が死んだだけ。というダーク・ムゲンの話はフリートが自分達にいかに油断せず戦えるかを試すための虚言だった・・・この世界で命を落としたら本当に死んでしまう』

悠は動きをとめると・・・改めてフリートへ顔を向けて叫んだ!
「何故・・・何故そこまでする!?命を弄ぶことがそんなに楽しいのか!お前もゼロと同じ正義も秩序もない邪悪の片割れなのか!?」
「それに・・・なぜ兄さんが・・・」
それでも悠にはまだ兄の烈を何故この世界に捕らえたままにしていたのか・・・それがまだわからない・・・
「知りたいか・・・?」
「ならもう一度言おう・・・この私を倒して見せろ!!!」
フリートはまたしても[ばくれつパンチ]を悠に放ってきた!
「がっ!」
悠は、その[ばくれつパンチ]を回避できず再びその身に受けてしまった・・・
「うう・・・」
混乱状態により方向感覚が狂いながらも思っていた
「(そういえばさっきからフリートの[ばくれつパンチ]の当りが良すぎる・・・半分の命中率の技のはずなのに・・・どうして?)」
「・・・」
それを[リフレクター]を張りながら見届けていたサリットが遠くから話しかける
「悠様、その技こそがフリート様の得意技【念力パンチ】なのです。[ばくれつパンチ]特有の命中率の低さを[ねんりき]で補い普通の技と大差ない命中率までにコントロールした技・・・貴方に対するフリート様の挑戦です」
「な・・・なんだって」
悠の混乱が解け、サリットのその言葉に反応した時
「甘いぞ悠!・・・よそ見をするな!」
ゴットフリートの【念力パンチ】が悠を襲う!!
「うわぁ!!」
ズガァァッ!!
その攻撃は悠をとらえると、そのまま壁へと押し込んだ!!
「悠・・・立て・・・よもやこの程度の攻撃で倒れるお前ではあるまい」
フリートが悠を押し込んだ壁に向かって言い放つと・・・
「[火の玉スカイアッパ――]!!」
「ぐおぉっ!!」
今度は悠の[火の玉スカイアッパー]がフリートをとらえ、大きく殴り上げた!!
「フリート・・・お前の目的はなんとなくわかったような気がする・・・だけどその前に、僕もお前に言いたいことがある」
悠はそっと拳を下げて、しかし[きあいだめ]を使いながらフリートに向かって叫んだ!
「この戦い・・・どっちが『良い』とか『悪い』とかじゃないんだっ!!」
「この世界にいたみんなが幸せを掴む権利がある・・・僕がお前の考えを真っ向から打ち砕いてやる!!」
フリートに対してHPの少ない悠からは[もうか]が発動しつつあった・・・フリートはその悠を見つめながら思っていた

「(そうだ・・・悠・・・その目だ!!)」

――――――――――――――――――――――――――

[864] 本格リレー小説《Dream Makers》 8日目 (3)
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時09分

――――――――――――――――――――――――――

66階では『冥府の司祭』の[いかく]によって攻撃力を下げられ、思うように攻撃ができないガムとアカリンが苦戦をしいられていた・・・
「あ・・・あ・・・」
しかもアカリンは先ほどの[はかいこうせん]の反動を受け、動くことができない・・・
「ククク・・・まず1匹」
ゼロの[ドラゴンクロー]が仕留めたも同然、とアカリンの急所めがけてえぐりにかかる!!
「[でんこうせっか]!!!」
「うおっ?」
しかし、そこをすかさずガムの[でんこうせっか]が阻止した!!
「ふん・・・こしゃくな小僧共め・・・」
ゼロは大きく羽ばたき空を飛び、今にも2人を殺さんとする勢いで[にらみつける]を放つ
「くっ・・・!」
「ううっ・・・」
ガムとアカリンは後ずさりした・・・
アカリンへの[ドラゴンクロー]は外れたが、ゼロはガムの[でんこうせっか]に対してもビクともしない・・・[いかく]で下げられた攻撃力が圧倒的な力の差を見せ付けるのだ。
「お前らはこの66階の地にはいつくばっているほうがお似合いだ・・・[がんせきふうじ]!![いわなだれ]!!」
ゼロはいびつに笑いながら、66階周囲の壁や天井を滅多やたらと打ちまわり、無数の石飛礫(つぶて)を暴風雨のように2人にあびせかけた!!
「う!」
「きゃ!」
ガムとアカリンは[でんこうせっか]で紙一重の回避をおこなう・・・しかし、ゼロはあえてその石飛礫を命中させず2人を弄んでいた
「ははは・・・逃げろ、逃げろ! この俺が特別にこの階で相手をしてやろうというのだからな・・・すぐにとは言わん・・・じわりじわりとなぶりごろしにしてやる。その後は俺が72階で始末すると言った奴等もだ・・・ハハハ!!」
なおもゼロは石飛礫の雨を2人に・・・まるで射撃をたのしむかのようにヒットさせようと打ち込み続ける!
この男は殺戮をゲームとしか考えていないのか・・・
ガムとアカリンはその石飛礫の雨を逃げながらもお互い会話をしていた
「(アカリン!ゼロに身体を掴ませるな!!)」
「(わ・・・わかった!ガムくん!!)」
ガムはゼロの異常なまで強い腕力と握力による[ドラゴン大切断]を極端に警戒していた
あの無人発電所の戦いでも、フィの助太刀がなければあのまま真っ二つに引きちぎられていたかもしれない・・・そう考えるだけで苦痛が蘇る恐ろしい技なのだ
ガムとアカリンは[でんこうせっか]で逃げ回る体勢から、フットワークでゼロをかく乱する体勢に入った!!
「ふん・・・お前らの大体の考えはわかっている、さしずめ俺の[ドラゴン大切断]にかかるまいと思っているのだろう?」
ゼロはやがて石飛礫を浴びせることに飽きたのか、手を休めるとゆっくりと床に着地すると2人に脅かしにも似た声色で語りかけた。
「(しめた!!)」
ゼロの着地の隙をうかがってガムとアカリンは間髪を入れず、
「[シャドーボール]!!」
「「シャボーボール」!!」
ダブルシャドーボールをゼロに放った!!・・・が
「ふん!!」
ゼロは[まもる]を使いガムの[シャドーボール]を無効化し、[かいりき]を使いアカリンの[シャドーボール]を握りつぶしてしまった・・・
「そ・・・そんな・・・」
「ふん・・・お前達の実力など、その程度のものだ。お前らがいくら炎を燃やして攻撃しようと所詮ここまでなんだよ」
勝ち誇ったようにせせら笑うゼロには全くダメージを受けていない余裕さえ感じる・・・「それよりおもしろい技を、見せてやろう・・・」
ボーマンダのゼロは空気を大きく吸い込むと・・・
「[ハイドロポンプ]!!」
物凄い勢いで[ハイドロポンプ]を発射した!!
「な・・・何!?[ハイドロポンプだって]!? うわぁぁぁぁ!!」
ガムとアカリンは不意打ち気味にゼロの[ハイドロポンプ]に直撃され、倒れてしまった!!
「うう・・・なんで・・・なんでドラゴンタイプが水系最大の技、[ハイドロポンプ]を・・・」
「今さら何を驚いている?・・・ククク・・・そうら、もう1発くれてやる!」
ゼロは再び[ハイドロポンプ]を放つ!!
「くっ・・・同じ技が二度も通用するか!!」
ガムは[ハイドロポンプ]を[でんこうせっか]で回避した
「フン・・・これは、ほんの小手先の技だ・・・しかしガムとやら、お前は『正義』という言葉に強い執着を示しているようだな?」
「・・・!」
ガムの足が一瞬止まった
「『正義』と『悪』の定義など時に流れによってどうとでも変わるものなのに・・・それをいつも正義、正義、と女々しいヤツよ・・・」
そう言いながらゼロはガムに対してふてぶてしく笑って見せた。
「何・・・?」
ガムの顔がだんだん変わっていく・・・
「いいか? この俺がやっていることも今は悪であっても力を持って正当化すれば未来においては正義となる・・・正義だろうが悪だろうが勝った者こそが最後は正義なのよ!」
「ゴットフリートにも勝った俺こそが真の正義なのだ!!」
「!!・・・だ・・・黙れ!!」
ガムは思わず[ほえる]勢いでゼロに叫んだ!!
「それじゃあ!お前のような力による暴力支配が正義だというのか!?弱い子供や老人はどうなる?そんな人達を守れずして何が正義だ!?」
しかし、ゼロは当たり前のように言い返す
「ふん・・・非力な子供や老人に何ができた? 弱い者は常に強者に食われていればいいんだよ・・・お前の方こそ建て前ばかりの上っ面の正義が片腹痛いわ」
「な・・・ん・・・だ・・・と?」
ガムが怒りに震え、今にも飛び掛らんとした時!
「ガムくん!!ゼロの挑発に乗っちゃダメ!ゼロは[いばる]を使っているんだよ!!」
「!!」
「チッ・・・アカリン、余計なことを・・・」
アカリンの言うとおり、ゼロはガムを[ドラゴン大切断]の射程に入れようと挑発にも似た[いばる]を放っていたのだ!
ガムはアカリンの呼びかけによって、ゼロの[ドラゴン大切断]の射程に入らずにすんだ
「・・・ゼロ!お前のその戦法には乗らないぞ!!俺とアカリンは2人になれば誰にも負けないんだ!!」
「ククク・・・ほざけ」
ガムとアカリンは寄り添うように手をつなぎ必殺技の体勢を取った・・・これは!!
「ガムくん!今こそ無人発電所で練習した『あの技』だよ!ゼロに攻撃も防御も下げられている今はあの技しかないよ!!」
「ああ!・・・わかっている!」
ガムとアカリンの[ほのおのうず]が2人を包み込み、[もらいび]によって増加されていく・・・
「(いきなり本番だ・・・上手くいくか?)」
その炎は[てだすけ]され、ガッチリ抱き合った状態でゼロに対して[でんこうせっか]の突撃に入った!!
・・・今度は[てだすけ]のタイミングもバッチリだ!!
「2人のこの手が・・・」
「真っ赤に燃える!!」
ガムとアカリンの炎が調和を保ち、ガッチリ一組に組み合いゼロに向かって飛んでいく!!
「・・・」
ゼロはその必殺技の体勢にも動じない表情で静かにそれを見つめる・・・
「(どうしたんだ?ゼロ?何故避けようとしないんだ・・・?)」
[B・L・R・C]は相手に当たらなかったとしても能力を最高までに上げる、究極の技・・・しかし、ゼロは受けようとも避けようともしない
「ブースターラブラブローリングクラ―――・・・」
その時!!

「・・・1ついいことをおしえてやろう。アカリン、お前が肝試しに行った時ザキをポケモンタワーに差し向けたのはな・・・」

「!」
「(アカリン!!)」
アカリンの手が止まった!

「この俺だ」

「!!!!!」
その言葉が心理作戦による虚言だったのか、それともゼロが高らかに掲げた真実だったのかはわからない・・・
しかし!その一瞬が致命傷とも呼べるほどに、アカリンの表情が一変した!!
「あなたが・・・あなたがみんなやったの!?あなたが・・・あなたがぁぁぁぁ!!!!」

「うわっ!?」
その時!・・・まさにその時!アカリンが[じたばた]して[B・L・R・C]があと一歩というところで空中分解してしまったのだ!!
「かかったな!」
ゼロは大きな隙を見せた2人を確認すると・・・そのまま[ドラゴンクロー]で切りかかった!!
「ぐあっ!!」
ガムがそのままふっ飛ばされた!!
「な・・・なんの、まだまだ!!」
「フン・・・その気丈さもいつまで持つかな・・・」
「何だと!?」
「それよりもお前の目の前になかなか面白いものが落ちているぞ?」
「え・・・?」
ガムが目の前を見るとポロックほどの小さな物体が1つ転がっている・・・
ポロックほどの紅い肉片が落ちていた・・・その時、自分のわき腹から冷たい感覚が走った!!!
「う・・・うわぁぁぁぁぁ―――――!!!」
冷たい感覚が走ると同時にBガムはわき腹から大量の血を流し倒れた・・・[B・L・R・C]不発のあの時!ゼロがガムのわき腹をえぐり、千切り取っていたのだ!!
「ガムくん!?」
アカリンが遠くから呼びかけた!!
「これが・・・この『冥府の司祭』の俺の得意とする技・・・【ヘルズクロー】だ」
「うう・・・ぐうぅぅぅ・・・!!」
もだえ苦しむガムの前にゼロが詰め寄ると、落ちていたその肉片を拾い自分の口の中に放り込んだ・・・
「ククク・・・うめぇぇぇ・・・」
肉をほおばりながら空きらかに異常と思える狂気に満ちた笑みを浮かべ、ガムの頭と後ろ足を両腕の[ドラゴンクロー]で掴み上げ、そのまま左右に引っ張り裂きにかかった!!
「う・・・あああッ・・・!!!」
「そうれ、お前の言っていた[ドラゴン大切断]だ・・・ハハハ」
「ぐあああ・・・・!!!」
ガムの身体から骨がきしむ音が鳴る・・・!!
「ガ・・・ガムくんをはなせ!!」
ゼロが両腕でガムの胴体を裂きにかかるのをやめろ、とアカリンが叫んだ!
「ん?・・・なんだお前、まだいたのか?」
「その汚い手をはなせ!!」
アカリンは[かげぶんしん]を何度も使い、ゼロに飛び掛ろうとした!!・・・が
「ふん・・・回避率を上げてこの技から逃げられると思わないことだな。何故なら・・・」
「ふん!!」
その時!!
グシャッ!!
「!!・・・ごふっ・・・」
ゼロの拳がアカリンの心臓を直撃した!!
「なぜならこの【ヘルズクロー】は、爪の技なら何でも使えるんだからなぁ・・・[ドラゴンクロー]から[つばめがえし]に切り替えれば必ず当たるわけだ・・・」
ドサッ・・・
ガムもアカリンも、ゼロの【ヘルズクロー】にかかり倒されてしまった・・・
「ククク・・・所詮、ブースターがボーマンダに勝とうなど夢物語だったんだよ」
「ハハハ・・・ハーッハッハ!!!!」

**********************

「!・・・フィ?」
60階でワタッコと戦線離脱したフィが目を覚ました
「フィィ!!フィィ!!フィィィ!!」
フィは眠っているワタッコの中から飛び降り・・・落ち着かない仕草であたりを見回した・・・
「うっうっ・・・ウエェェ――ン!!!」

――――――――――――――――


「ここからいなくなれーっ!」
 叫びながら、猛烈な勢いでルカ☆が突撃してくる!
「進化しただと・・・だが、その程度で俺は・・・!?」
 いつものように、ビーストはルカ☆をサイコキネシスで弾き飛ばそうとした。
 だが、それができない!
 サイコキネシスを物ともせず、ルカ☆は突っ込んでくるのだ!
「なんだとおッ!」
「でやあああッ!」
ルカ☆の体はそのままビーストに直撃した!
ビーストを弾き飛ばしたルカ☆は、その場で戦いの舞を舞い始める。
「攻撃司令、任務了解・・・内容、敵ポケモンの撃退・・・」
『こわいかお』『いやなおと』『きあいだめ』を積みながら、ルカ☆はブツブツとつぶやく。
「誰もそんな司令出して・・・」
「ああ、 あれは彼女の趣味なんですからツッコまないでおいてください」
ルカ☆の言動にツッコミを入れようとするバク次郎を、秋葉が止める。
「ターゲットロック・・・排除、開始・・・」
その声と共に、ルカ☆の体からまばゆい閃光が放たれた!
『はかいこうせん』である。そしてこれこそ、ルカ☆の誇る最強必殺技、『バスタールカ☆ライフル』である。
ビーストはたちまち、その閃光に飲み込まれた。
たちまち、大爆発が起こる。
「任務・・・完了・・・」
燃え盛る炎を背に、ルカ☆はそうつぶやくのだった。



「馬鹿め・・・まだ終わってなどいない!」
「え?」
突然、爆風で上がった土煙の中から声が聞こえた。
「うおおおおおおおおッ!」
立ち込める土煙の中から、ビーストが現れた!
かなりの深手こそ負っているが、それでも躊躇なく突撃してくる。
「ああッ!」
「くらえ!」
ビーストは手を握り締める。きあいパンチの体勢だ!
はかいこうせんの反動で、ルカ☆は動けない!
直撃。効果は抜群だ!
「わああああああッ!」
ルカ☆はその場に倒れこむ。
「ルカ☆さん!」
秋葉が叫んだが、答えはない。気絶してしまっているようだ。
「畜生・・・こうなったら俺たちだけでも!」
バク次郎はそう言い、かえんほうしゃを放った。
秋葉とサナもそれに続き、10まんボルトとサイコキネシスを放つ!
「ムダだ」
しかし、それはビーストの出したひかりのかべによって弾かれてしまった!
「・・・嘘だろ・・・」
打つ手なし。バク次郎の額に冷や汗が流れた。

「アッシマー・・・しっかりして!」
ラティアスはアッシマーの体を揺すり、声をかける。しかし、答えはない。
「・・・ルカ☆ちゃんが倒れてしまった以上、あなたしか頼れる人はいないの!
お願い、これで元気を出して!」
ラティアスは懐から何かを取り出す。それは、『ふっかつのタネ』だった。
彼女はそれを、アッシマーの体に当てた。
タネはうっすらと光を放ち、アッシマーの体を包む。
そして、アッシマーは目を開けた。
「う・・・あれ、僕は・・・」
「アッシマー・・・いま、ルカ☆ちゃんがビーストを倒しかけたんだけど、返り討ちにあっちゃって・・・」
「・・・!」
「だから・・・」
「分かってる。力を貸してほしいんでしょ?」
アッシマーは真剣な眼差しで、ラティアスを見つめる。
「うん・・・でも、今度は、私も戦うから!」
「え!?」
アッシマーは自分の耳を疑った。彼女がそんな言葉を口にしたのは、少なくとも自分が聞いた中では、
これが初めてだ。
「で、でも君は・・・」
「私だって、みんなの力になりたいのよ!
 特にアッシマー、あなたには助けられてばかりだもの・・・
 今度は、私があなたを助ける!」
彼女は力強く言った。彼女の目には、決意にあふれた輝きが見て取れた。
「その様子じゃ、ダメだといっても付いてきそうだね・・・」
アッシマーは少し笑って言う。
「よし・・・行くよ!」
アッシマーは体を起こし、ラティアスと共に一同の許へとかけて行く。

「二度と歯向かえない体にしてやろう!」
ビーストは手に力を込め、最大出力でシャドーボールを撃つ!
バク次郎、サナ、秋葉はそれを紙一重でかわした。
「いくら強力な攻撃でも、当たらなければ・・・」
「しかし、このままでは押し返されるぞ!」
秋葉の言葉に、ディグダマンが答える。
「クソッ・・・どうすりゃいいんだよ!」
バク次郎が舌を打った時。

「バク次郎さん!」
後ろから声がした。見ると、アッシマーとラティアスがこちらに向かってくる。
「気をつけろ、奴のひかりのかべはちょっとやそっとじゃ破れねぇぞ!」
「それなら、それ以上の力をぶつけて破ってやる!」
バク次郎の忠告に、アッシマーは威勢良く答える。
彼らの心に、恐れはなかった。
「アッシマー、ここは私に!」
ラティアスが前に出た。
「私だって・・・幻のポケモンと呼ばれてるんだから!」
ラティアスはそう言うと、両手を体の前であわせる。
その両手の間に、光球が現れる。
ミストボールだ。
しかし、ラティアスはそれを発射せず、片手にそれを纏わせたままビーストに突撃する!
「馬鹿め・・・」
ビーストはひかりのかべを張り、ラティアスの攻撃を受け止めんとする!
「なんのっ!」
ラティアスはミストボールを纏わせた手を、ビーストのひかりのかべに叩き付けた!
「ぐっ・・・やるな・・・っ!」
「まだ・・・まだあっ!」
バリアとラティアスの腕の間で、激しい火花が散る。
「みんなのためにも・・・負けてたまるもんですか!
うわああああああああああああっ!!」
ラティアスは渾身の力を、その腕に込める!

「うっ・・・な、なんだ?」
ビーストは異変に気付いた。
ひかりのかべのパワーが、彼の思ったように上がらないのだ。
「まさか・・これは・・・?」
そう、彼はその時、既に能力を下げられていたのだ。
ラティオスが死の間際に出した技『おきみやげ』によって・・・

と、その瞬間、ガラスが割れたような音が鳴った。
ビーストの光の壁が、音を立てて破れたのだ!
「バカなぁ!?」
ビーストがそう言い終わらないうちに、ラティアスの拳はビーストを直撃していた!
「ぐわあああっ!」
「アッシマー、今よ!」
「ああ! 行くぞ!」
ラティアスはその勢いでビーストを殴り飛ばした。そして、アッシマーはラティアスの許へと駆け寄った。
「今ならやれるぞ!」
「ええ、合わせて!」
ラティアスとアッシマーの両腕に炎がまとわりつく。
「覚悟っ!」
「必殺、ダブルドラゴンクローだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
2人はタイミングよく、何度もビーストにドラゴンクローを叩き込む!
「これで・・・」
「フィニッシュだ!」
そして、最後に2人はビーストの前後に別れ、ドラゴンクローの挟み撃ちをかけた!

バスタールカ☆ライフルのダメージが残っていたビーストは、これで完全に戦闘不能になった。
「お・・・おのれぇ・・・!」
ビーストはうめきながら体を起こすと、宙に浮いた。
「俺の邪魔ばかりしやがって・・・かくなる上はぁっ!」
「あっ! そっちは」
そのまま、ビーストは目にも止まらぬ猛スピードで飛び去っていった。

「そっちは、ダメだって・・・」
秋葉はビーストの逃げた方角を見て途方に暮れる。
「また逃げたか・・・」
アッシマーはビーストが飛び去った空を見つめた。

「う・・・う・・・」
「?」
後ろで、誰かがすすり泣く声が、アッシマーの耳に入った。
声のした方を向く。
そこにいたのは、先程まで共に戦っていた彼の想い人・・・ラティアスだった。
「あ・・・わあああああっ!」
視線があった途端、ラティアスは大粒の涙をこぼしながら、アッシマーに抱きついた。
「・・・・・・」
アッシマーは彼女を優しく抱きしめる。
今の彼には、それしかしてやれる事はなかった。
「ああっ・・・うっ・・・」
流れる涙が、アッシマーの体にもしたたり落ちる。
「ラティアス・・・」
アッシマーはラティアスの体をやさしく撫でる。
「悲しいんだね・・・くやしいんだね・・・」
いつの間にか、アッシマーの目にも涙があふれていた。
「・・・うん・・・」
「君だけじゃないさ・・・僕だって・・・悲しいし、悔しいよ・・・」
涙声で、アッシマーは言った。
彼もまた、自分がキャプチャしたことで彼についてきた、ベルカを死なせてしまったのだから・・・

 * * *

それまでホテルだった場所には、今はもう瓦礫の山があるだけだった。
激しい戦いのせいで、すべて崩れ落ちてしまったのである。
その瓦礫の山では、たくさんのポケモンたちが瓦礫をよけている。
そのすぐ傍らに、アッシマー達は立っていた。
彼らの前には、コンクリートを立てただけの、2つの墓標が。
「今頃は・・・お父さんやお母さんと・・・仲よくしているんでしょうかね・・・」
左の小さな墓標――もとい、ベルカの墓標を見ながら、秋葉が言った。
「あのとき・・・いっそのこと倒してしまえばよかったのかもしれない・・・
そうしていたら、ベルカはまだ生きていたかもしれないのに・・・」
「ううん、そんな事はないと思うよ」
アッシマーの言葉を遮り、ラティアスが言う。
「あの子、アッシマーたちと一緒にいてとても嬉しそうにしていたじゃない」
「うん、私だって・・・おとといの夜、ベルカちゃんと話したんだけど、とっても嬉しそうだった。
あの子、友達もみんなビーストに殺されちゃったんだって・・・
だから、私たちに会えただけでも、ベルカちゃんは幸せだったと思うよ」
ラティアスとルカ☆は、穏やかな声で言った。
「・・・君のお兄さんも、立派な人だったよ」
アッシマーは、ラティアスにそう返した。
「そういえば、ファビオラにやられた僕とガムさんを助けてくれたの・・・ラティオスさんだったんだよね・・・
僕達がビーストを倒せたのも、ラティオスさんが最期に出した『おきみやげ』のお陰のようなものだし・・・
結局・・・なにもお礼できなかったな・・・」
「そんな事言わないで! 自分ばっかり悪人に仕立て上げたって、何もいいことないよ!」
「・・・そうだね」
そう言うと、アッシマーは2つの墓標の前に花を添えた。
「・・・じゃあ、僕達は行くよ」
「いつまでも、感傷に浸ってられないから・・・」
「私達はビーストを倒す使命があります・・・悲しいですけど、早くしなければ、
また彼らのような犠牲者を出してしまいかねません・・・」
3人はそう言うと、ラティアスたちに背を向けようとする。
「待って!」
と、後ろから彼らを呼び止める声が。
「必ず・・・無事に帰ってきてね・・・」
「そうよ。もう、私たちだって誰にも死んでほしくないもの・・・」
「『死んだ』なんて聞いたら、承知しねえからな!」
「アタシ達、待ってるからね!」
「困った事があったら、すぐに言ってくれ。どんな事でも力になろう」
そこには、彼らを支えたポケ書世界の住民達の暖かい声があった。
「・・・ありがとう。じゃあ、行って来る!」
「うん!」
そうして、彼らはポケショ住民たちに別れを告げ、歩き始めた。
目指すは、ビーストの飛び去った北の方角・・・・・・


――――――――――――――――――――――――――

日は傾いて、もうすぐ夕方になりかけていた。だというのに昼間と同様に薄暗い洞窟の中には青い光が満ちている。
カタカタとタイピングの音は今は聞こえず、ベルはマグカップで何かを飲みながら、ディスプレイを見ていた。
画面にはカントー地方の地図が映っている。そして、その地図上にはいくつかの赤い印が点滅していた。
迫りくる時間と戦いながらビーストの情報を集めていたのも終わり、ゆっくりと策略を立てていた。
ビーストがクチバシティでとある方々と戦った影響で、進路が北に変更された。これは避けたい事態だった、何故ならばビーストの種族はミュウツー、ハナダの北部にあるななしのどうくつはミュウツーにとって聖地であると思われる。実際のところはそんなことも無いかもしれないが、まずは進行を阻止すべきポイントだろう。
しかし、これくらいは想定内であるし、先ほどの戦いで質の良い情報がたくさん入ってきた、これならばじっくり策略を練ることができる。ベルはほっとした表情を浮かべていた。
ふと、後ろに気配を感じて、声をかける。
「今度は何の用です? ……クラッシュさん」
すぐ後ろに光がいた。ベルは今度はたいして驚いた様子もなく、回転椅子を回して向かい合う。
「作業中に邪魔をしてしまって、すまんな…」
光はゆっくりと礼をする。
「いえ、作業自体は大体終わったので、結構ですよ」
ベルは笑って答えた。
「そうか… あと、私の名前だが……クラッシュは正式なHNじゃないんだ、私の本当のHNは…」
「小鷹光」
「え?」
光は言おうとしていた言葉を言い当てられて驚く、ベルは更に言う。
「ビースト対策を討つのに小鷹さんの戦歴を洗っていましたら、この世界に来るためのHNがそれでした、どうやら有害作品淘汰の目的で来たのでその俗名を捨てたようですね」
「……その通りです、もう…その必要も無くなりましたから」
光はゆっくりと肯定する。
「名は体を現すように、名前を変えることは何かを変えること、決心につながりますからねぇ。小鷹さん、貴女が荒らしの名を捨てる決心をするまでは『クラッシュ』の名で呼ぼうと思いましたが、その必要もなくなりましたね」
ベルの言葉に光は静かに頷く。
「貴女が言ってくださったので、僕もちょっと報告をしましょうか。僕は、ゼロの配下から抜けます」
机に置かれた"命の欠片の結晶"が優しく光る。
「抜けた抜けないなんて、今はもう関係ないことですけどねぇ……。気の持ち様です。 ……悲しみから立ち直るのに随分の時間がかかってしまいました。
もう手遅れであるかもしれませんが、これがせめての僕からの償いになれば幸いです」
「そうか……」
悲しげにそして嬉しそうなベルの目を、光はじっと見ていた。


そして、沈黙の時間が過ぎる。
「……ところで、貴女がここに来た理由はそれを言うため、じゃないですよねぇ?」
「あっ、あぁ、私が聞きたい事はこれからの作戦のことだが……」
急に言われた光は少々慌てたように言う。
「あなたはこのビーストとの戦いをどう戦うつもりなんだ?」
ベルに尋ねた。
「う〜ん、……。その前に貴女に尋ねたいのですが、この戦いをどうすれば勝てるとお思いでしょうか?」
光は少し考えて発言する。
「……とりあえず、最初に思いつく一番楽な方法としては。澪亮さんが[黒い眼差し]をかけて、澪亮さんが[滅びの歌]を使い、瑞さんが参戦して[黒い眼差し]をかけたあとに、澪亮さんが一次戦闘離脱。
そしてなんとか防戦を続けて、歌の効果がビーストに現れることを待つ。もしくは、[呪い]+[黒い眼差し]で同じことをするかだな」
光が提案したのは[滅びの歌]や[呪い]を使ってのコンボだった。しかし、ベルはそれを否定する。
「合格です、さすがですね。 ただ…それには、問題がありましてねぇ、実は[滅びの歌]や[呪い]は一撃必殺系の技の一種ですから、
相手との間に圧倒的な力の差が生じていると通用しないことがあります、最悪の場合、『呪詛返し(呪いを跳ね返される事)』をくらうかもしれません」
「そうなのか?」
光は少し残念そうな顔をこぼす。
「それに、仮にもラスボスといえる存在が、歌ごときで倒されるなんて本末転倒でしょう? [滅びの歌]で倒すならファビオラ隊の三人を連れて来るくらいしないと」
「そうだな…… しかし…ファビオラ隊か、懐かしいな…」
光は、精神世界であの"命の欠片の結晶"を渡してくれたイーナスの表情をふと思い出していた。
「まぁ……とりあえず、これを見てください」
ベルはパソコンのディスプレイを光に見せた。
「これは……懐かしいな、追尾システムだな」
ポケダンに登場する道具である[みとおし眼鏡]はマップ内にいる敵と道具の位置を把握することができる。
これはその力を利用した追尾システムであり、ドリームメイカーはこれを利用してポケショの迷い人の動きを察知していたのだ。
もちろん、その場所の映像は見えないことなど制限はあったが、これによって悠たちの行動が筒抜けになっていたのは事実だった。
「これでビーストのこれまでの動きを把握して、行動パターンなどの分析を行っていました、その結果……」
「結果……?」
光は唾を飲んで答えを待つ。
「無敵です」
「…………」
「そんな暗い顔をしないで下さい。本当に暗くなりたい人は僕ですから。確かにビーストの力は強大です。幻術や圧倒的攻撃力、さらに神秘の守りや白い霧や自己暗示で補助技がまったく効かないですしぃ、万一ダメージを与えることができても自己再生を使われてしまいます。
その上、それなりに頭も良く、幻術を組み合わせて敵を身代わりにしたり、陽動作戦も仕掛けてくるそうです。非の打ち所がありません」
「……はぁ、…くやしいが、正に無敵だな」
ため息まじりで、光は言う。
「ええ、無敵です。でも、無敵だからと言って付け入る隙間があるかと言うと……。」
ベルはそこでニヤリとした。
「あります。小鷹さん、貴女はチェスはお好きですか?」
「好きではないんだが、まあ一応」
「では僕と一局勝負しましょう、但しハンデは付けます」
ベルは机から将棋板を取り出してきて、光の側にはチェスの駒を、自分の側には将棋の駒を並べた。それを見て光は言う。
「……そんな勝負じゃ私が勝ちますよ」
「僕達とビーストの間にはこのくらいの戦力の差があるんですよ、僕の方が駒が多いですが、戦力に関しても相手の駒を使えるという点に関しても圧倒的に貴女の側が有利です。
貴女の側がビースト、僕の側が僕達だと考えてみるといいですよ。でも、だからと言って勝てない訳では……無いです」
ベルは自分の歩を進めた。

――約30分後……

――勝負が付いた。

「チェック!」
「……参りました」
ベルの勝利だった。
「勝負とは、時には圧倒的な戦力差も覆すことだってできるのですよ」
金将でチェックメイトを決めたベルは少し得意げに話した。
「すごいな……、全く駒を動かせなかった」
「重要な事は駒の動き方を理解することです。成りを有効活用して攻めていくのも大事ですしぃ、将棋は桂馬と角行以外は前の駒を取ることができますが、チェスは城と女王と王以外は前の駒を取る事が出来ないことを利用して、頭にぶつけてやることも有効です。
もっとも、本当の勝因とはチェスVS将棋の戦いをやったことがあるという、経験が絡んでいると思いますね。誰だって慣れない戦いを挑まれては全力が出せないでしょう。多分、光さんも次なら僕に勝てると思いますよ」
「いや……チェスVS将棋で勝っても…」
「まぁでも、戦力に大差があっても勝てることは分かったでしょう?」
「ああ」
「勝負を受けて頂いて有難うございます。お陰でこの勝負に勝てるような気がしてきました。すみませんが、皆さんをここに呼んで来てください、これから作戦のミーティングをはじめますから」
「ミーティング?」
ベルの言葉に光は疑問を持つ。
「ええ、ビーストの情報は大体集め終わったところなので、次はみなさんの意見などを聞きながら作戦を練っていきます。まあ、作戦の草案はあらかた僕の方でいくつか作ってあるので、全然出来ていないというわけではありませんのでご心配なく」
「草案はできているのか?」
ベルは頷く。
「じゃあ聞きたいのだが、話を聞く限り幻影攻撃が厄介なようだが、その対策は打っているのか?」
「はい、幻技なら僕も何人も使う人を見たことがいるので、その攻略方法も熟知していますからたぶん大丈夫です。
ゼロの幻技に、ムゲン&コゲンの光の幻影とか、ミヤビ様の闇隠れとか、リディアさんの蜃気楼とか、暗黒星の未来投影、ザキさんの悪夢操作、あと…あのスリーパーの名前は何だっけなぁ……まあ、いいとして。
その分身術の真骨頂は、やはり冥王の分身ですね……。連続して[影分身]を使って無数の分身を作り出し、そこから[だましうち]を絡めて相手の死角に[シャドーボール]を打ち込む。さらに弱い[怪しい光]を発しながら、独特の口調で軽く[いばる]を使って混乱させて、
気が付かないように相手の感覚を奪い取り、混乱でできた幻覚がさらに分身を増やす。万が一、本体に攻撃が来ても[みがわり]で緊急回避をする……」
「すごいな……」
光は感心した。
「……まあそういった、幻系の技に関しては十分な経験もありますので、大丈夫です。大船に乗ったつもりで僕に任せてください」
「なるほど、ありがとうございます」
光は頭を深く下げて蹄の音を響かせながら、部屋を後にしようとする。
「あ! ちょっと待ってください」
「ん?」
「一つだけ、聞こうと思っていたことを忘れていました。すみません」
ベルが何かを思い出して呼び止めた。
「貴女を殺したのは…… 本当に澪亮さんだったのですか?」
「…………」
「本来、[呪い]とは術者から離れると自動的に解除されます、しかし貴女は戦闘から離脱してからしばらくして亡くなりました。おかしいですよね? さらに戦いの途中に何かに気付いた振る舞いをした後、その場から立ち去りました」
光は黙っていた。
「その後、貴女は追尾システムから消えています、あのシステムから逃れる代表的な方法といえば…死ぬか、他の空間に逃れるしかありません」
何も言わない光にベルは続ける。
「そこで僕が出した答えはこれです。貴女は戦いの最中にゼロの企みに気付いたのでしょう、情報と貴女の推理力があればそこまで辿り着けたはずです。
だからあそこであえて戦いから離脱した、しかしすぐにゼロにそれを看破されて、追尾システムが届かない精神空間にゼロに引き込まれて、そこで殺されましたね?」
光はそこで、口を開いた。
「……違いますよ」
そう言って、光は部屋を後にした。

* * * * * * * * * *

「うおう!おお、すごい! 上手いですよ、瑞さん!!」
「え?ああ! お褒め言葉、有難うございます! と言うか、ひこさんの方がうまいですよ〜 おえびのぐりぐりより、すごくパワーアップしてますし!」
「ふふふ、そうでしょう。鉛筆ぐりぐり最高ですよね! ぐりぐりぐりぐりぐり……」
「いやぁ…二人とも、すごいっすよね〜 それに比べて俺は……」
「いえいえいえ! 澪亮さんだって、うまいですよ! こんなすごい絵、私には書けないですし」
「そういえば、三人ともペンで書いた絵を見せるのは初めてでしたよね、ペンタブもスキャナも無いので」
「なるほど! じゃあ、三人揃って《マウス同盟》でも結成しましょうか!」
「《マウス同盟》……って、秋葉さんに水無月さん。誰とも合流できず、戦わず、隔離を食らっていたペアじゃねぇのか?」
「いいんですよ! 人生、平和が一番!(いみふ」
「…そういえば ク…いや、小鷹光さんも絵が描けるのかなぁ」
「♪〜 おや?三人揃って、何をしてるの?」
「おお、プリンくん、こんにちわっす」
「今、みんなで絵を描いているんですよ〜! あっそうだ!プリンスさんも何か描きますか?」
「あ〜イヤ、遠慮しとくよ、今は気分じゃないし。それに僕には手が無いしサ」
「ああ…、そうでしたね」
「お〜い なんか呼んでるぞ、全員集合だってさ」
「え? じゃあ、このくらいにして、行きましょうか」
「は〜い、行きましょう」

* * * * * * * * *

しばらくして、光の連絡を受けて皆が集まってきた。
「……あれ? RXさんはどうされたのですか?」
ベルの言う通り、ここに集まったのはベルを含めて7人だけだった。RXの姿がない。
「ああ、あいつならいねぇよ」
そう言って澪亮は二枚の紙をベルに差し出す。
「これは……?」
「さっき、机の上に置いてあった」
不審に思いながらベルは一枚目を読んでみる。

【旅に出ます 探さないで下さい すみません さようなら】

「…………」
一同、沈黙。
「な、なんですか? これ」
前に勝手に自由行動をして探検をしていたプリンスも戸惑いを見せていた。
「……とりあえず言えることは、あいつは戦いを嫌がって逃亡する奴じゃないと言う事だ、あいつなりに真剣に悩んでの行動だろうと、俺は思う。
あ〜 あと、こんな物もいっしょに置いてあったぞ」
澪亮はそう言い、さらに謎の小さな箱を取り出して、これもベルに渡す。
ベルはその箱を見ながら、二枚目の紙を読んだ。
「………なるほど」
小さな笑みがこぼれた。
「意外な方から餞別というわけですか……」
「何が書いてあったのですか?」
ひこが質問する。
「あとで話します」
ベルは二枚の紙と謎の小さな箱をパソコンデスクの上に置いた。
「彼なりの事情があったのでしょう、今回の作戦は彼抜きで開始しましょう」
「……RXさん抜きで勝てるのですか? だって、前回の戦いでは、RXさんがいなければ今頃負けていたと思うし……」
瑞が疑問の言葉を言う。
確かに、精神世界での戦いではRXが命賭けて戦った結果、精神世界からビーストを追い出すことができた。
「確かに、RXさんは研究所の特化を受けた身である且つ、鳳凰様の力を受けているので失うのは正直痛手です。
でも“最強とは一度負けた相手に決して負けない存在”です。同じ手が通じるとは思いません、相手はあの戦いでRXさんへの対策は充分に取っているでしょう。
それに《名棋士、飛車角多く欲さず》とよく言うでしょう、手に余るほどの手段や人材は飼い殺しにするだけでしょう。
……大丈夫です。僕達だけでも勝てます、断定形で保証します」
その強い口調を聴いて、皆はゆっくりと納得した。
しかし、実はベルにもこの戦いの行く末まではわからなかった、RXが抜けたことで生じた皆の不安な空気を必死に回避させようとした方便にしか過ぎなかった。
机に置かれた謎の小さな箱、もといアメジストを呼ぶためのオルゴールが手元にあると言っても、まだまだこの戦いの不安要素も多い。
一番この戦いに不安を抱いていたのはベルであったが、今はともかく皆に『勝てる!』と信じさせることが重要だったのである。

「では、作戦会議を始めましょうか…… でもその前に」
ベルはそんな自分の気持ちを奮い立たせようとしてか、大げさに腕を開いてみせる。
「まずは、実際にビーストが戦っていた場所に行ってみましょう、なにごとも机上で済ましてはなりません。実際に行って見ないと分からない事もあるでしょう」
「事件は会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ! ですね」
「古い」
プリンスの言葉を澪亮が一蹴りして流した。
「というわけでクラスタ君、お願いします」
ベルがクラスタに言う。
「……何が『というわけで』なんだか… 力を使いすぎるのはこりごりだけど、まあ仕方ないか…。 フフッ♪じゃあ、一番近いトキワに飛ばすから、皆さん一箇所かたまって!」
その言葉に6人は頷いて一箇所に固まる、そしてクラスタは両手を自分の体の前に突き出して、皆の体に触れる。
「よし、トキワシティへ……GO!」
途端に7人は光に包まれて、消えた。次の瞬間には7人の姿はそこには無かった。

* * * * * *

体がふわっと宙に浮いたように感じがして、そしてすぐに、足は再び地に降り立った。無事にトキワシティに着いた。
「着いたよ」
とクラスタは言った。
「(やはりテレポートの専門家がやると違うなぁ)」
と瑞は愛の危ないテレポートを回想しながら思った。
そして、トキワシティの風景を見渡す。
「うゎ…………」
一同、絶句
そこはどう見てもこれまで生きているものが住んでいた場所とは言い難かった。
住んでいた場所、澄んでいない場所、済んでしまった場所……。
流れてからかなりの時間が経ってしまった血液は既に酸化してしまって黒ずんでいる
そしてなにより、その空間を支配しているのは、遺骸から発生している多量の死臭だった。
丸ごと焼き焦げてしまって原形が分からないポケモンもいた。
誰が、誰がこんなことをしたのか……。
答えは分かっていたがどうしても問い詰めたくなる、そんな風景だった。
地獄。
【物】を【壊す】ことに意義を持っている。生命を命ですら思ってもいない。
そんな有様だった。

「……戻ろう」
長い沈黙の中で瑞が言った。
「うん」
みんなは静かに同意をした。

――――――――――――――――――――――――――

「ハーッハッハ!!」
ガムとアカリンを[ヘルズクロー]で沈めたゼロは狂気に満ちた顔で笑っていた・・・
「う・・・うう・・・」
「む・・・?」
ゼロの[ヘルズクロー]によってわき腹をえぐられたガムがわきを押さえながら立ち上がった・・・
「ゼ・・・ゼロ・・・まさか『夢』とは『不可能』と同じことと思っているのではないだろうな?」
ガムはそう言うと自らに[ほのおのうず]を放ち、[もらいび]によってその威力を蓄え始めた・・・[B・R・C]の体勢だ!!
「『夢』を『不可能』と同じと思うことはもはや人生をあきらめたに等しい・・・俺のいた人間界の言葉だ」
「ブースターだって頑張れば・・・あきらめなければ相性を覆してボーマンダに勝つことだってできるんだ・・・!!」
「ふん・・・いきがるんじゃない小僧・・・死にぞこないのブースター1匹立ち上がったところで何ができる?」
「だ・・・黙れ!」
「ブースターローリングクラ―――ッシュ!!!」
ガムの[B・R・C]がゼロに向かって飛んでいった・・・が!
ガシィッ!!
「な・・・!?」
「ははは・・・これがお前の必殺技か? これではブースターが放つ技もたかがしれているな」
ゼロはガムの最も得意にして最大の必殺技[B・R・C]の威力を[かいりき]だけで相殺してしまった・・・
「ククク・・・馬鹿め・・・[B・R・C]なぞ無人発電所ですでに見切っている・・・この俺に同じ技が二度も三度も通用するか」
そしてゼロはガムの右前足を[かいりき]つかみあげると・・・
「ふん!」
ブスッ!!
「う・・・うあぁぁぁぁっっ!!」
そのまま肉球にツメを勢いよく刺しこんだ!!
ガムの肉球からは凄い量の血が流れ、次第に手の感覚がなくなってくる・・・
「ブースターのお前が俺に勝つなどやはり夢物語だ・・・ほうれ、このまま手のひらを切り取ってやってもいいんだぞ?」
「うぐ・・・うぅ・・・」
ゼロのツメはガムの手を貫通せんとする勢いでどんどんめり込んでいく・・・ガムが脱出したくてもツメが食い込むばかりで動けないのだ
「おとなしく倒れていれば苦しまないよう精神世界に送ってやったものを・・・バカなヤツよ」
ゼロはガムの肉球にツメを刺し込んだまま、もう1本の腕で[ヘルズクロー]をガムの心臓めがけて放とうとした!
・・・その時ガムが!!
「う・・・う・・・うわぁぁぁぁっ!!!」
「な・・・何!?」
ガムは突き刺さったゼロのツメから自分の身体をのけぞらせ、力任せに脱出した!!
右前足の肉球には縦一直線に大きな裂け目が入り、そのめくれた皮からは筋肉組織が露出している・・・
「ふん・・・まだあがくか・・・そこまでして何が残る?ただ苦痛が長引くだけだろうに・・・ククク」
肉球を突き刺したツメにしたたる血をなめとりながら、ゼロは不適に笑ってみせた・・・
ガムは右前足を地につけない状態で、心臓を潰され倒れているアカリンに目をやった。
「傷のいたみなんて大したことはない・・・それよりも・・・」
この世界で自分の最大の理解者だったアカリンが・・・
さっきまではあんなに励ましあっていた『モエる朱色』のアカリンが・・・今はもう動かない・・・
「アカリンを死なせてしまった・・・自分の無力さが・・・」
そしてガムは、目にいっぱいの涙をためながら叫んだ!!
「何倍も・・・何倍も痛いんだ!!」
ガムは再び自らに再び[ほのおのうず]を放ち、なおも[B・R・C]をゼロに放った!!
「ハハハ・・・[B・R・C]が通用しないことはさっきも言ったはずだ。ましてそんな3本足だけの技が成功すると思っているのか?」
ゼロは再び[かいりき]の体勢を取り、今度はガムの左前足を潰しにかかろうと身構えた!!
「これがいつもの[B・R・C]だと思うな!!」
「な・・・何!?・・・げぇぇッ!?」
突然ゼロが流血した!!
ガムが[B・R・C]をゼロにジャストミートさせる直前、すかさず[ぎんのハリ]を左前足に持ち替え、そのままゼロに対して斬りかかったのだ!!
「がぁっ!!」
その技の形は例えるならば「キ○肉マン」のウォーズ○ンの[スクリュー○ライバー]と非常に酷似している!・・・まるで相手の狙いどころを[ぎんのハリ]でえぐりだすような荒技なのだ!!
「や・・・やった!!ゼロに初めてダメージを与えた・・・!!」
「ふん!!」
「ぎゃっ!!」
しかし、ゼロへのダメージに安堵したガムをあざ笑うかのように、わずかなダメージしかないゼロの[ずつき]がガムの顔面へとヒットする!!
「う・・・ああ・・・・」
わき腹、右前足を同時にえぐられ、全身の骨を痛めつけられたガムは顔面から鼻血を出しながら倒れた・・・
「いい気になるな・・・たかが一発のまぐれ当たりでこの俺に勝ったつもりか!?」
ゼロはガムの両耳を片腕で引っ張り上げると、優越感にも似た表情でまだ余裕の笑みを浮かべている・・・

・・・やはりブースターではボーマンダに勝つことは不可能だったのか・・・

ゼロはガムを掴み、倒れたアカリンに向かって詰め寄った。
「ふははは・・・しかし、雑魚ながら褒めてやるぞ・・・お前らはこの66階に・・・」
ゼロがそう言い切ろうとした・・・
その時!!!
「フィィィィィイッ!!!」
「うがぁっ!!」
ゼロの背後から[かえんほうしゃ]がうなりをあげた!!

――――――――――――――――――――――――――

電話口で2匹の水ポケモンが話をしていた。
「―――という作戦ですが、何か変なところがありますか?」
『そううまく進めばいいんだけどね……。うまく行かなかったり失敗した時の場合も考えておいてね』
「ええまあ、この作戦通りに進むとは全く考えていませんからねぇ。一応、予備策と保険とを複数用意してありますから大丈夫です。勝つのは僕達ですよ」
『やっぱり、それでこそあなたね。ところで完封の見込みはあるの?』
「完封勝利は35%くらいでしょうねぇ…、もしかしたら澪亮さんと瑞さんの命が失われてしまうかもしれません……」
『犠牲はできるだけ少なく、ただ勝つだけなら簡単なこと、策を弄するあまり自分の首を絞めてしまうことを忘れないでね』
「分かってますよ、僕はそれを何度も経験しましたから、そんな愚かな事にはしません」
「気をつけてね」
「まあ、始まる前に長々杞憂することは皮用算でしょう。この話はここでおしまいです」
『それにしても……。今日のあなたはなんだか、声が明るいわね』
「? そうですかぁ?」
『この戦いを通して、とうとうユーナのことを忘れられたの?』
「……いえ、僕はユーナのことは一生忘れませんよ。でも、確かにこの戦いでユーナのことにピリオドが打てた気がします」
『良かった』
「え?」
『彼女の死によって荒れる前の、かつてのあなたが戻ってきたから』
「心配かけてすみません……」
『そうなると、ゼロとも決別するの?』
「ええ、彼の下から離れます。もう……いる理由は消えてしまったのですから。……ところでこの戦いを終えて平和になったら…」
『?』
「いっしょに探偵業を始めませんか? おそらくドリームメイカーも縮小されて活動は無いも等しくなりますし、なにより僕達で組めば天下無敵ですよ」
『……それって、プロポーズのつもり?』
「フッ、まさか」
『うふふ、そうよね、言う時と相手を間違っているわ」
「まったくでした」
『探偵の話は考えておくわ、ドリームメイカーが縮小されたとしても、ブイズの活動は無くならないと思うし、復興の仕事を請け負う形になると思うから暇になることはないし、むしろ今より忙しくなると思うから』
「そうですか……では、あとの話はビーストを倒してからにしましょうか」
『ええ、成功を祈るわ』
「ありがとうございます」
『まだ、ブイズは動かさなくてもいいの?』
「はい、まずは僕たちだけで勝つことを考えます。あ、でも一応ルレンさんはすぐにハナダに向かわせてそこに待機させるようお願いします。しばらくしたら思い出の塔に留まっている方々など散らばっている戦力を移動させる準備も始めてください」
『了解、勝っても負けても、生きて帰ってきてね』
「もちろんですよ」
『じゃあ、またね、ベル』
「さようなら、ユーリ」

電話を置いて彼は静かに思い出す。
かつての仲間達……。
『グフフフ……そう、何も攻撃する事だけが戦いじゃないですよ、相手の攻撃を全て防いで、手段を徹底的にもいで、勝利条件を消し去って失意のどん底に叩き落としてゆっくりと調理する事だって立派な戦いですよ』
『寝ている時が一番精神が剥き出しなる時だと言うが、まぁ俺に言わせてみれば起きている時だって同じようなものだな。全世界が自己愛で満ち満ちている。お前もやってみろ、人の心を弄くるのは面白いものだぜ』
『不幸になってはじめて幸せだって気付ける人って多いよね、なあに僕がやっていることは簡単だよ、“みんなに幸せを届けている”んだ。あははははははははははは』
『わらわはお前が嫌いじゃ、お前のその態度が気に喰わぬ。自覚したこともあろう?人の上に立つには足り無すぎる、それを知って立つことがどれほど見苦しいものか』
報われない医者と、冥王と呼ばれた詩人……。
『報われない恋だとは分かっている。だがな、たまにこう思うんだ、もしも報われるなら恋などしなかったと…』
『僕達の心はまるでガラス細工……少し触れれば壊れてしまうほどもろい………なのに、なぜ僕たちは戦うんだろうね? …戦っても傷つくだけなのに……弱いから戦うのかな? いや弱いから協力し合うんだ……』
かつての上司と先生……。
『すべての行動には何かをやりたいからという理由が付いてまわる。腹が減ってれば何か食べたいと思うし、眠たければ寝る、誰かを守りたいから戦うだろうし、やっぱり自分が大事だから守るべき奴を見捨てる。そして俺は殺したいから殺す、最高だ。お前には期待しているよ、ベル』
『“上善は水の如し、水は善く万物を利して而も争わず、衆人の悪む所に処る、故に道に幾し”……老子の思想さ、柔弱故に堅強である水、それが全ての源。すばらしいことだと思わんかね?』
そして……。
『自分の間違いを認めるのは簡単だけど、自分の正しさを認めるのは本当に難しいよね。……ううん、ちょっと言ってみただけ。特に意味も無いよ、ベルくん』
「あは」
ベルは小さくため息をして作業に戻る。
思い出に浸っている場合ではない、最終決戦は既に始まっているのだから。

――――――――――――――――――――――――――

あれから数分、静寂を破ってフォリアはやっと口を開いた
フィの真実を教える、そのためにこの場所に来たため時間を使うわけにもいかないし彼自身にも時間が無かった
「ディが帰ってくる前にフィちゃんのことを教えよう」
先ほど見回りにでたディは後二十分もすれば帰ってきてしまう
その前にどうしても彼は片を付けておきたかった
フィのすべてを話しておきたかったのだ
ゴクリ
RXは静かに口にたまったつばを飲み込んだ静かに飲み込んだはずだというのにその音は、何よりでかく
(何なんだよ・・・)
と思わせる程だ
「難しい説明は抜いていいね、フィちゃんは君が考えていることとは”多少”なり異なる部分がある」
フォリアはそういうと、一瞬何かに気づいたかのように横目で近くを見た
何か居たかのように、何かを察した様なその目を再びRXに戻すとフォリアは数秒の沈黙をおいて再び口を開いてくれた
「今のフィちゃんには、君の考える『自由進化の能力』とは少し違っている、いろいろなデメリットがある、それを完璧に使えるにはどうやらもう少し先になりそうだ」
「?」
RXの頭はすでに何が何だがさっぱりわからなくなってきている寸前だった、元々そんなに頭が働く人間でも無かった
「フィちゃんがその能力を使いきれないのは自分自身にデメリットがある、その本能とまだ時がきていないためリミッターがかけられているからだ、と僕は思う」
「リミッター?」
「フィちゃんは死ぬはずだったんだよ」
「え? お、おい」
戸惑うRXに構わずフォリアは続ける。
「生物の遺伝子をここまで操作してしまうこの研究、うまくいく運命があったならば僕達の仲間はここまで死ぬことは無かったはずだ。 いや、僕はうまく行かなかったからこうして生きていられたのだろう、成功した個体はみんな死んでいる」
「…………」
「でも、鳳凰がフィちゃんを生かした。彼の加護を受けたんだ、その時鳳凰はフィちゃんの能力を一時的に封じ込めた・・・どうして完全に封じなかったかといえばそれは誰かの力になり戦う能力だけは封じたくなかったからだろうね」
そういうとフォリアはまた横目で近くを見ると、チッ、と舌打ちを一回してRXに厳しい目線を向けた
「どうやら、時間もないようだし最後に手短に内容を話すけど、フィちゃんに封じられたその自由進化の力はまだ扱うには幼すぎる、でもゼロとの戦いで触発されて解放されるかもしれない、もし解放されたら大変なことになる僕もディも一時君に同行するからもしフィちゃんに次に会うことがあれば僕たちはビーストとはほかの進路をとる」
「・・・ン、わかった」
その言葉を言い放つとフォリアは先ほどから目線を向けていた方へ体を向けた
RXにもここまでくればわかる、それは明らかに擬態しているカクレオンだ
「ゲロゲロ、どうやら見つかったゲロゲロ隠密行動失敗ゲロ!!!ならば食らえゲロ!【電磁波】」
突如上空から降ってきた一筋の細い稲妻に打たれたRXは麻痺した
動きを止めるためにカクレオンが放った電磁波だ
「もらうゲロー!」
「なっ!」
【泥棒】でフォリアが後ろ左足に付けていたポーチから紙の束が盗まれた
何かの資料だ、しかも重要そうだ
それを手にしたカクレオンは
「ヤッタゲロー!やったゲロー!!!!!!!!!!!!!!」
大喜びを隠そうともせず大笑いしながら逃げようとまた擬態しようとした
だが、フォリアのシャドーボールがそれをやめさせ追い打ちの電磁砲が麻痺+ダメージを与え動きを完全に止めた
フォリアは一度ため息をつくとカクレオンに近づいて資料を取り上げると口を開いた
「僕を電磁波でねらわなかったのが最大の不幸だ、もう君は逃げられ...」
「ゲロゲロー!作戦失敗ゲロー!自爆するゲローーーー!!!」
「!?チッ」
フォリアはその言葉を聞くと走り出してRXを突き飛ばし、自分も身を伏せた
ゲロゲローと叫んでいるカクレオンが右手にいつのまにか腰に巻いていたポーチから取り出した手投げの手榴弾を持っていたからだ
そのピンを抜くとカクレオンは自らのいる場所、その真下に投げ捨て爆発を起こした
肉片があたりに飛び交い、そしてRXに数個当たった、一瞬叫びを上げたくなる気持ちと激しい吐き気に見舞われたが口を押さえて我慢した
当たりにはカクレオンの血が砂に染みつきフォリアにも返り血の様に血が数滴ついている
「・・・・・・・・どうやら話を続けるのは困難か」
フォリアが空を睨んでいるのを見たRXは自らも空中を見上げた
そこには、自分たちの上空を旋回する9匹のリザードンが居る

「今更になって奴らも動き出したか」
ディはそう一言言うと右前足にくくりつけてあるポーチに入っているドリームメイカー諜報部第一課の身分証名称をそこに捨てて数回踏みつけた
「・・・ユダのやつは本気でココの奴らを全滅させたかったようだな」

降りてきたリザードン、諸刃の剣を持った9匹に囲まれフォリアたちは数個の質問を受けた
「我々はドリームメイカー第零特殊部隊・・・すなわちユダの部隊の者だ、貴公等が我が同士を抹殺し隊長までをも殺害したのは先に殺されたカクレオンより聞かされているが、どうか?」
「あぁ、本当だ」
「・・・貴公は漆黒の冥王とまでいわれたフォリア殿ではないのか?反逆者を始末するべきだとは思わぬのか!」
「今、クラッシュやココの近くにいる全員を殺せば世界はそんな・・・ドリームメイカーが消滅するやそこらの被害ではすまなくなる、ビーストのせいでね」
一瞬、臨時の隊長格と思われるリザードンは目を細くしたが同時に諸刃の剣を地面に突き立てると威厳ある声で続けた
「我々は・・・命令違反を犯した、それに対する処分を決めていただきたい作戦部第一課の作戦部長殿」
その言葉を聞くと、フォリアは驚いた顔を見せながらも、
「もう僕はドリームメイカーなんかじゃない、君たちを処罰する身分では無いが?」
と言った
それに対してリザードンはなにかを言おうとしたが同時に後ろから二本の剣に刺され、倒れた
「裏切り者は...」
「死すべき定め」
そう言って諸刃の剣を抜きジロリ、とフォリアを見たリザードン二匹はフォリアにも剣を向けて同じ言葉をつぶやいた
「どうやら、こいつらは思考がおかしいらしい・・・」
「俺も戦うか?」
「・・・フッ・・・君はいいさ」
同時に縦に振られた諸刃の剣を横にステップしてよけたフォリアはその剣の反対側に位置する剣はリザードンの股関節近くにあるのを見出して小さく飛ぶと肩を蹴りその剣の先に股関節を斬らせた
「グォォォォ!!!!!!!!!!」
苦しみにゆがむ顔にシャドーボールを撃ち込むとその一匹は倒れたがやはり左右からリザードンが槍で突進してくるかのように剣を構え走ってくる、後四秒程度で接触する距離だ
「遅い・・・ま、よけるのは簡単・・・か」
フォリア、彼自身よけるのは得意だドッジボールでもよけ専門の様な人が居るように彼は簡単にそれを避けて後ろに出るとさらに右側から斬りかかった一匹を出し抜いて3匹に向かってシャドーボールを撃つと同時に回転しながら上空に飛び出た
飛行できるリザードン達だ、7匹が上空に追ってくる
その手に握られた諸刃の剣が太陽光にあたり反射して目をくらませる
そして、一匹目がフォリアを斬りつけたとき、フッとフォリアの姿が消えた
「影分身かっ!?」
背中に感じた感触、リザードンは同時に電磁砲をまともにくらい砂のクッションがあろうとも高速で落下したそれはダメージを与え彼を気絶させた
かと言って後6匹、着地するフォリアに迫る数だ
6匹が6匹、全匹諸刃の剣を上空から投げ飛ばす
「単純だな」
それを避けきるフォリア、さっそうと一匹が地面に足をつけるとその後ろに五匹が並んだ
その顔には笑みがベットリとこびり付いている
いつのまにか、本当にいつのまにか解らない間にやつらは剣の持ち手にひもをくくりつけておりそれにより剣をたぐり寄せて自らの元に引き戻した
「フォーメーションアルファ」
その言葉と同時に最後尾にイチする二匹はフォリアに斬りかかった
遅いモーションの横切り、それを回避したフォリアに今度は一匹の諸刃の剣が飛んでくる
(チッ!)
軽く前の右足をかすった剣、だが血は出ずに紙が切り裂かれたような後が残る
「!?」
RXはそれを意味もわからず見つめた、なぜ血も出ない!?
残りの参匹が一斉にフォリアに飛びかかった
寸前に投げつけられた剣は軌道を外れフォリアには当たらなかったが参匹はコンビネーションで進んでくる
一匹目の攻撃を避けてカルクジャンプすると二匹目がフォリアの体をつかみ
そして一匹がメガトンパンチでとどめにはいるのだ
「ウプッ・・・!ッッ」
そして地面にたたきつけられる
砂は時速50キロ・・・その程度でたたきつけられればすでに凶器とかす!
地面に顔を付けていればそれはコンクリートに頭部をぶつけるのに等しくこの状態でフォリアが砂に当たった場合堅さはコンクリート!
「いつも・・・そうだ」
リザードン達はそう言うフォリアを見つめながら再び陣形を取った
フォーメーション・アルファだ
簡単に図にしてみるとこうなる
         一匹目二匹目
          参匹目
        四匹目五匹目六匹目
「苦しみが・・・苦痛が僕の四肢をつかみ崖っぷちに立たされたときにはいつも僕自身の存在理由を教えてくれる・・・しぬためではなく生きるために居ると」
「フォーメーション・アルファ!仕掛けろ!」
二匹はフォリアに斬りかかった!
―当たらなければ成功する!本能的に避けるは...!?
リザードンの読みははずれた
「なぜ・・・避けない!?」
フォリアの筋肉が硬直し斜め下から切り上げた剣は抜けない
以上に・・・かたい!
―電磁砲!?
二匹は動けなくなった麻痺したのだ
そしてシャドーボールが頭部に命中しそれは十数秒間だけ夢を見させた
その間のシャドーボールの直撃、それは同時に夢が数十分、数時間に延びたことを示す
「グッ・・・ツゥ」
剣が抜け落ちるとおびただしい血が吹き出る
まるで噴水だ
一匹が、フォリアに斬りかかった!
―これでジ・エンド・・・か
くるはずの激痛は無かった、代わりに液体が自分の体についた
「!?」
「助けたいと思ったのであればその時すでに行動は始まっている助けられて喜びを感じた後にどれだけ後悔しようと後の誇りとなる・・・っと俺の言葉じゃねーぞ」
RX、彼は右腕に剣を食い込ませながら言っていた
剣は恐らく骨に到達している
「なんて・・・馬鹿なことを」
「ヘヘッ、ふざけんなよ・・・お前殺したら話の続きがきけねーじゃねぇか」


――――――――――――――――――――――――――


仙崎澪亮…ゴースト♀
ひこ………モココ♀
瑞…………ブラッキー♀
小鷹光……ギャロップ♀
プリンス…ポワルン♂
クラスタ…キルリア♂
ベル………ヌマクロー♂


その夜、五番道路、月の明かりが彼の姿を不気味に照らし出し、近くにポケモンの姿は見当たらない。
クチバシティでの戦闘の怪我もようやく癒えて、ビーストは[ねんりき]で体を浮かせながら、力を溜め込む場所を求めて北に向かって移動していた。
ビーストは先ほどの戦いによって、ここにいるポケモンたちが油断ならない存在である事を実感した。
なので、道楽で虱潰しに街々を破壊することはここで止めて、まるごと一気に消し去ってやろうと考えていた。
ヤマブキは壊さずに素通りした、今は一刻も早くあの場所にたどり着いてこの世界を消し去る必要があったからだ。
「(フフフ…… 愚民共めが……今すぐ消し去ってやるぞ)」
闇夜に怪しい笑みを浮かべながら……
そんな狂気に満ちたその眼は罪人を処刑するギロチンの黒い刃の様に鋭い。

ふと、背後に気配が現れた。
「だれだ」
ビーストは立ち止まって声をかける。
「こんにちはっす」
間の抜けた高い声が後ろから返ってくる。思考が読み取れない笑みを浮かべた黒紫色をしたゴースト、仙崎澪亮だった。
「わざわざ殺されに来たのか?」
ビーストはニヤリと笑いながら、振り向かずに澪亮に向けてプレッシャーをかける。
「イヤイヤイヤ、俺はちょっと話をしに来ただけっすよ、やめて下さい。それに、今俺を殺すとするとチョットヤバイことになると思いますよ〜」
澪亮は下を指差した。もちろん、その動作はビーストには見えてなかったが、ビーストが下を見ると二人の影が奇妙な光を帯びて入れ替わった。
「道連れ。まさかお前もこんな俺みたいなカヨワイ小娘ごときのために命を落とすようなバカはしないよな?」
ビーストは黙って、まずは話くらいは冥土の土産に聞いてやろうか道連れの効果は長続きしないからな、と考えていた。
[道連れ]を受けない自信はあったが、あいての堂々とした自信を見る限りでは少々警戒する必要があると感じていた。
もちろんだが理由はそれだけではない、少々の時間を与えたところで負ける要素などビーストにはないと自負があった。
「ふん、そのカヨワイ小娘とやらが、何の用だ?」
「えぇと、ペーストとか言ったよな? とりあえず、俺が言いたいことは一つだ」
そこで、澪亮は言葉を区切る。
「帰ってくれねぇか?」
「…………」
「簡単に言うと、尻尾を巻いて帰ってくれ、お前がここに居座っていると迷惑なんだよ。みんなが悲しむし、たくさんの命が亡くなることになるし、それに俺も元の世界に帰れねぇからな」
澪亮さん、“尻尾を巻いて帰る”とは敗走しろと言う意味ですよ。
「却下だ」
ビーストは即答した。
「ほぅ」
「俺はこの世界とこの世界の奴等が気に食わない、徹底的に破壊してやらないと俺の腹の虫が黙ってないんだよ」
「いいのか? その答えでいいんだな?」
ビーストは何も言わなかった、言わずとも答えは一つ。
「じゃあ、俺達は全力でお前をブチ倒す。 あえて分かりやすく言おうか、つまりは[宣戦布告]だ」
「……はっ! 傑作だな、お前ごときでどうやって俺に傷を与えられるのだ? 是非とも聞かせて欲しいものだな」
「できるさ」
澪亮はビーストに向けて構える。
「だって、俺達は強いから」
澪亮はビーストに向けて、一発の[シャドーボール]を放つ。それは確かにビーストの姿を捉えていたが、捉えただけだった。ビーストの幻影だった。
基本的に、技の効果というものは次の技を発動させると同時にその効果を失う。
いつの間にか、澪亮の後ろに回り込んでいたビーストはニヤリと笑って、無防備な背後からあの銀のフォークで彼女の体を突き刺……

「!!!!」

……せなかった。黒い何か、いや黒い炎を纏った何かが空から流星のごとく、100m/s以上の速さで斜め上方向からビーストの右肩に目掛けて降る…いや、突進してきた。
油断していた、ビーストは攻撃の瞬間に目の前の敵だけに意識の集中を置いてしまった。それが失敗だった、その集中の空白を突かれた形となってしまった。
その《天翔》から《黒陽》への攻撃をビーストもギリギリで回避して直撃だけは避けたものの、バランスを崩して数メートル飛ばされて転倒した。
そして、黒い炎を纏った何かはその炎の衣を脱ぐ。
それは漆黒の天馬、小鷹 光。
「言ったはずだぜ、俺達はつえぇって」
そう言って… ようやく、澪亮は何もなかったかのように振り返る。
ただ不敵に無敵に笑っていた。

終わりの戦いが始まる。



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[865] 本格リレー小説《Dream Makers》 8日目 (4)
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時14分

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「な・・・なんだこいつは!?」
ゼロの目の前に現れたのは、ガムやアカリンとは全然違う3匹目のブースターだった!!
・・・3匹目?
おかしい。 この塔の中にガムとアカリン以外のブースターは入っていない。
「フィィィッ!!」
しかし、その「フィ」としか鳴かないブースターは怒りの表情で「お前を・・・倒す!!」と言わんばかりにゼロにむかって[ほのおのうず]を放つ!!
「うおぉぉっ!?」
ゼロはたまらず、掴んでいたガムを落とし、そのブースターの[ほのおのうず]に大きく包み込まれた!!
「うう・・・フィ・・・なのか?」
そう・・・この「フィ」としか鳴かないブースターはフィが[自由進化]を使ったブースターそのものであった!!
「フィ・・・逃げるんだ・・・お前は・・・た・・・戦っちゃいけない・・・」
フィが[自由進化]を使った後は生命力の酷使から死ぬかもしれない危篤状態に陥る・・・
しかも、相手は『冥府の司祭』のゼロなのだ!!
「フッ・・・グフフ・・・」
「フィィッ!?」
ゼロはフィの放った[ほのおのうず]の中で火だるまになりながらも、なおもヘラヘラと笑っていた!!
「グフフ・・・ハハハ・・・そうか、お前があの時のイーブイなのか!!」
フィの攻撃をものともしていないのか?・・・いや、[かえんほうしゃ]も[ほのおのうず]も確実にゼロをとらえていたはず・・・
まるで「痛い」という事にゼロ自身が全く気づいていないような・・・神経までが快楽に狂った笑みを浮かべながら、恐ろしいほど大きく羽ばたき、そしてゼロは自分にまとい付いていた炎を全て吹き飛ばしてしまった・・・!!
「フィィッ!!」
「いちいちカンに触るガキだ!!」
「キャッ!!」
そのままブースターの変身したフィに噛み付き、[ドラゴンクロー]で一蹴した!
「無人発電所では世話になったなぁ・・・お前もじっくり可愛がってやるぞ・・・」
フィを見るゼロの目は格好の獲物を前にした・・・完全に息を荒らした殺戮者の目となっている・・・
「子供なぞ殺しても面白くもないが・・・お前はこの俺の身体に傷をつけた数少ないポケモンだからな・・・ただとはいわん、解体して精神世界にばらまいてやる・・・死後も永遠に苦痛が続くようにな・・・ククク」
「フィ・・・フィィィッ!!」
「バカめ!」
ゼロはフィの使う[かげぶんしん]をも逆手にとったかのように[つばめがえし]でなぶりうちの状態に持ち込んだ!!
「キャァッ!!」
「そうれ!痛いだろう?苦しいだろう? ガキの分際で大人の戦いに手を出すからこうなるんだ!ハーッハッハー!!!」
「キャァァッ!!」
大人と子供・・・この状態を説明するならば、それは大人が子供を痛めつける程惨い光景となっている・・・
「や・・・やめろ・・・ゼロ!」
ガムがフラフラと立ち上がって、ゼロに対してかすれるような声で言い放った。
「ふん・・・」
「フィ・・・キャァッ!!」
・・・が、ゼロはそんなガムの声もまるで聞こえていないかのように、フィに対してなおも[かわらわり]の殴打を繰り返す。
「フッ・・・まあこいつも、お前らのような敵をおいつめる際に巻き添えになったガキというわけだ・・・些細なことだ・・・ククク」
「な・・・なんだと!?」

―「まあ、有害なものを退治する為の些細な犠牲だ」―
ゼロはこの台詞と似たようなことを精神世界でも言い放っている。
その言葉でいかにゼロが、大義名分を隠れ蓑に無差別な殺戮をおこなってきたかが・・・
ガムにはそれがわかった・・・

「さあ・・・今、とどめをさしてやるぞ!!ウワーッハッハッハ!!!」
「や・・・やめろ―――!!!」
ブシュッ!!!
ゼロはフィに再び噛み付くと身体に[ヘルズクロー]を刺し入れ、そのまま中身をほじくりだした!!
「フィ・・・フィ―――!!!!」
ガムがフィの名前を叫んだ時、皮が裂ける音とともに残酷なまでの静寂が響き渡った・・・
しかし、その瞬間ゼロの手が一瞬止まった
「チッ・・・味な真似を・・・」
ゼロが[ヘルズクロー]でほじくりだした物は、みんな白い綿のようなものだった・・・
フィはゼロの[ヘルズクロー]を受ける間際[みがわり]を使って、攻撃を回避していたのだ!!

じゃあ、本物のフィは・・・?

「が・・・ガムくんの言うとおりだよ・・・」
「アカリン!」
ガムの背後に、イーブイに戻り、ひん死の状態になったフィを抱いているアカリンがいた!
「傷のいたみなんて大したことはない・・・フィちゃんが[ねがいごと]で私を助けてくれたんだ・・・」
あの時、フィは5ターン目の技として[ねがいごと]をアカリンの身体にかけていた。消えかかっていたアカリンの生命の炎をフィが呼び覚ましたのだ!
イーブイに戻ったフィを抱えるアカリンは静かながらも、震える口調で泣いていた・・・
「フィちゃん・・・痛かったね・・・苦しかったね・・・ごめんね・・・」
アカリンもまた、フィをこれ以上戦いに巻き込みたくなかったのだ。
・・・母親が我が子を危険にさらすことを拒絶するのと同じように・・・
「怖かったでしょう?・・・もう・・・もう戦っちゃダメ・・・ダメだよ・・・」
熱い涙を流すアカリンは血にまみれたマシュリのメールを持っていた・・・
「チッ・・・そのメールによって[ヘルズクロー]が急所までとどかなかったのか・・・運だけは強いヤツめ・・・」
アカリンはフィを優しくいたわるようにそっと下におろすと、満身創痍ながらもゼロに対する激しい怒りとフィを守りたい一心で、再び戦闘態勢をとった!!
「ゼロ・・・あなたはもう、この世界に居てはいけないんだ!!暗黒の世界にかえりなさい!!」
「フッ・・・ほざけ・・・今すぐその減らず口を叩けなくしてくれるぞ!!」
アカリンのは居合いの構えをとり、それをさせまいとゼロは爪をたて[りゅうのまい]で勢いをつけながら斬りかかりに入った!!
「今度こそ確実に心臓をえぐり出してやるぞ・・・[ヘルズクロー]!!」
「まけない・・・負けない・・・負けられない!! [朱・転・殺]―――!!!」

――――――――――――――――――――――――――

「・・・そうか・・・なら、今度は反撃だ」
4対2で勝てるわけもない、そんな理屈は二匹には通用しない
なぜかと言えば3対3になったからだ
ダークラッシュがリザードンを砂に沈めた!
ディが帰ってきたのである
「ヌゥ・・・貴様!!! 26のうちの4番目か・・・ふざけるなよディ!失敗作がぁああ!俺様達にたてつこうなどとぉぉぉ!」
「フン、何言っている・・・?失敗作?人工戦闘兵器として作られた俺はそうだろう・・・だがな・・・・・・俺は俺自身を失敗作だなんて思っても居なければ・・・26のうちの1匹だとも思っちゃいない!俺はただのポケモン!貴様等に鉄槌を下してやるよ」
同時にディはどこからともなく右足のポーチからポーチに大きさギリギリで入っていた石を空中に足を巧みに使い回せた
―石だ!
同時にディは黒い、本当に黒いサンダースに姿を変えた
「一時的だ・・・俺も自由進化まではいかなかったから長くはこの状態でいられんからな・・・フォリア!行くぞ、例のやつだ!」
同時にフォリアはハッとして立ち上がりディの真横に立った
「冥王と・・・」
「悪魔の・・・」
「「コンビネーションを見るが良い」」
無数に展開された影分身がある物は飛び、あるものは走ってリザードンに突撃する
どれが本物か?そんな事解るはずもない
ただ適当に剣を振り回す、それだけだ
「「漆黒冥魔絶傷撃―壱の型」」
影分身が消えた、そしてサンダースが目の前に現れる
体には電磁砲をまとっている
突撃してきたそれをリザードンは受け止めた
だがしかし電撃が体を突き抜ける!
「ギャァァ!!!!!!」
そのままサンダースは回転し始めた、手が焼けるようだ
まるでドリル
数秒後、回転は止まり無防備になったリザードンの腹に今度は体当たりした
フォリアの電磁砲がディにあたるとディはいっそう力を増して電磁砲を体にまとい回転した
―相手を貫く電撃のドリルそれは実行する一匹と力を増大させる一匹に分かれる
一匹のリザードンが倒れてももう一匹はひるむことなく突撃してきた
―弐の型
今度はフォリアだ妖しい光で彼はリザードンを暗黒の世界に引きずり込んだ
「ようこそ、ここで君は僕に拷問され続けることになるここで100時間でも外では壱秒だから・・・我慢しなくても良い」
同時にリザードンの精神は崩壊し崩れ去り倒れた
―精神攻撃、精神の極限破壊が目的のそれは成功率が低いが能力の高い者ほど成功率は高くなる
「後一匹・・・どうする?降参でもするか?」
「・・・いやしねぇな、俺、ソロモンは負ける気がしねぇ」
「?」
「壱番目は威力、だから跳ね返せる弐番目は逆に強い精神があれば破壊されるが俺はねー、だから3つめでも無い限りまけねーな」
3つ目、それは存在しただが使えない、自らしを求めることになる
「オラァアア!!!!!」
「クッ・・・ツ」
フォリアは隙を見せ、斬り倒された、同時に横に振った剣はディも切り裂く
ディは同時に進化が解けてしまいイーブイに戻った
「あたぁ、お前だな俺だけで後の小鷹何とかとかをぶっつぶしてやるからよ心配すんな」
ソロモンは剣を持ったままRXに近づいてきた
今のRXは足技が使えない、足がズタボロだ
かといって速い技は使えないために爆裂パンチも避けられるだろう
―魔が抜けようと最後は通用するさ・・・―参の型
同時にリザードンの足はフォリアの電光石火で攻撃されリザードンは砂に倒れた
立ち上がった時彼は顔面に水を食らった
フォリアが吐き出した物である
ある一定の場所に水を当てると水は視神経等に影響する
そのため彼の見ている現在のビジュアルは・・・
おぼれている時の状態だ
「金槌か・・・フン」
フォリアは同時に高く上空に跳ね上がった
RXの肩の乗ってからの大飛翔だ
そして大回転を起こす、そしてそれに電磁砲の電力を体に回しまとう
参の型はつまり、電撃の回転ドリル改、しかも上空落下だ
そのときの速度は80、はずれれば自分があの世行き、当たってもその衝撃で大けがは免れない
そして雷が走るようにソロモンを打ち付けた!!!!!
「グェエエエ!!!!!!!!!!!!」
同時に、ソロモンは感電、体を焦がし脳が電気で焼け切れ唯一の帰らぬ犠牲者になった

「フォリア・・・」
「ははっ、また・・・みすぼらしい姿を見せたね」
フォリアはボロボロだった、だが不思議に血は出ていない
「生体実験も何度も受けていると、逆に皮膚もじょうぶになるのかな。死んでいるはずの体を動かしているようなものだと、言われたよ。・・・ああ、そうか君も同じようなものかもね」
「・・・」
「フィちゃんの事は僕のポーチの資料に書かれている、見ておいてくれ・・・すまないが・・・僕は少しばかり眠るよ・・・ハ・・・ハ」
同時にフォリアは眠りについた、少しすれば起きるであろう
RXは静かに彼を見つめていた

『そうか君も同じようなものかもね』と言われた
そう、RXは今の自分の体ではビースト戦に耐え切れないことを自覚していた、戦ったら自分は6割の確立で死ぬ、4割の確立で衰弱死する
つまり10割だ
死ぬと分かっている者は戦うべきじゃない、戦いとは生きるためにやるものだ
弱気になっているわけではない、これ以上死ぬとマジで死んで帰って来れない、それは困る
ヌマクローの彼も、ギャロップの彼女も、それを分かっていてくれるはずだと信じている
RXはフォリアの持つポーチの中身の資料を見た、そこにはこれから向かう目的地の地図があった。
ナナシマ、5の島、思い出の塔。
RXはとりあえず、寝ることにした。

――――――――――――――――――――――――――

「く、仲間がいたのか」
ビーストはすぐに体を起こした。
「キミキミ、ヨソ見している暇なんて無いぜ」
澪亮の言葉と同時に、光は[火炎放射]を使った、蒼い業火はあっという間に[炎の渦]となってビーストの体を拘束して焼き焦がす。

捕らえた…!

と光は思った。しかしその瞬間、渦の中から気味悪い笑い声が聞こえた。
「……フフフ、すまない、蚊にでも刺されたと思って全然気が付かなかった。さあ、頭を地に擦り付けて懺悔しろ、そうすれば少しは楽に殺してやろうじゃないか」
ビーストは力でむりやり炎の渦を消し飛ばして、火花が散る[10万ボルト]で二人を攻撃した。
「終わりだ、死 ね」
電撃に痺れる二人に追い討ちをかけるかのように、ビーストは最高のエスパー技:[サイコキネシス]を使って、二人にとどめを刺そうとした

が……
その刹那、そこの草むらから何者かが躍り出てビーストにぶつかって懐を掠めて横切り、再び深い草の中に消えた。
そして、その衝撃によって集中力が途切れてしまい[サイコキネシス]はうまく決まらず失敗した。
「なっ!」
困惑するビーストにすぐさま、光が[突進]を仕掛けてきた。
ビーストは急いで[カウンター]をとったが、なぜかはね返しきれずに攻撃を食らった。
「?、なにやっているんですカァ?」
澪亮が野次を入れる。
「(くそっ、 いや、それよりもまずは……)」
ビーストは相手を倒すことに集中することに決めた。
「(あのゴーストは見たところ攻撃力自体は弱いから後回し。問題はあのギャロップ、あいつは強いな。たった一撃の突進で五回の打撃をしてきた。
[カウンター]で完全に返せなかったのは[突進]に[みだれ突き]を同時に使用していたのだろう、まずはあいつを始末しよう)」
ビーストは[リフレクター]を全体に張って、瞬時に数体の分身を作り出し、その中に分身とその身を隠した。
「……これが、くだんの幻影か…」
光は言った。対して澪亮は何も言わずにひっそり笑っていた。
自分の居場所を捉えてない二人を見て、ビーストは死角から奇妙な振動を繰り返す水の球:[水の波動]を光に目掛けて撃とうとした。
すると再び、ビーストの足元を目掛けて何者がぶつかって、体勢が崩れて体が傾く。[水の波動]はまるでアサッテの方向に飛んでいって、弾けた。
ダメージ自体は大したことの無いが、感触からして効果抜群の技、さらに幻影を見抜いたところから必中技、したがって[だまし討ち]だとビーストはすぐに判断した。
つい油断をしていた、敵が二人ではないということを忘れていた。
「そこかっ!」
ビーストの本体の姿を捉えた光はそう言って[日本晴れ]を発動させた。水技を封じて炎で攻めるつもりだとビーストは分かった、しかし、そんな技はビーストに通じない。
「甘い![地震]!!」
ビーストは技を使う隙を奪うため、そして隠れている相手もろとも一掃しようと[地震]を放ち、恐ろしい振動がビースト以外の全員に襲い掛かった。
「ポケモンごときが、俺を立て付く勇気だけは褒めてやる、だが!ここまでだ!」
さらに、[あまごい]を使って炎技のダメージ半減させ、[どわすれ]と[バリアー]を使い耐久を高めようとした。
その時、そこにまた一匹のポケモンがそれを阻止しようと陰から襲い掛かった。
「……かかったな」
ビーストはそれの攻撃の軌道まで完全に予知していたように、必要最低限の動作で回避して、鮮麗された手つきでその白く細長い腕で襲い掛かった相手の尻尾を掴んだ。
「ぅわぁ!」
目の前に逆さ吊りになったのは一匹のブラッキーの姿、瑞だ。
ポケモンは草むらに入ってしまえば、外からはその姿が見えなくなってしまう。その特性を利用した上にさらに瑞はその体色を暗闇の保護色として、
自身の姿を草むらの中に隠して[騙まし討ち]を仕掛けていたのだったが、そんな小細工はビーストにはもう通用しなかった。
「ふん、お前はこの前も会ったな、俺に特攻を噛ましたあのバクフーンもここにいるのか?」
「…………」
瑞は何も答えない。
「まあいい、あんな奴など俺の眼中になど無い、神の前にして暫く生きていたことは称賛に値する、だがここまでだ」
「ぅ、なにが、神だ! ただただ破壊するだけのお前のどこが神と言えるんだよ!!」
瑞は果敢に言い返す。
「ふん、世迷い事を、想像するも破壊するも神の意志だ、なぜ人間に壊して良い許可など得る。神は全能であり、自由なのだ」
「全能?自由? ふざけるな!」
「神に立て付く事は罪だ…だが、神に殺されることは悪いことじゃない、至福だ、安心しろ」
「なにが…」
「お前に激励の言葉をやる」
ふっ、と小さくため息をついて、親指から順に拳を固めていく。

「死 ね」

ビーストがそのまま[爆裂パンチ]をしようとした瞬間、瑞の体からいかれてしまったストロボのような大量の閃光が発せられた。
戦いに慣れている者は攻撃をする際に、自分の目をしっかりと見開いて相手の姿を捕らえながら攻撃をするというが、その性質を逆に利用される形となってしまった。
その[フラッシュ]は闇夜に順応していたビーストの眼に直撃してひるみ、瑞は[じたばた]してビーストの拘束から逃れて、叫んだ。
「安心?死ね? ふざけるんじゃない、その言葉をそっくり返してやるよ!」
「返せるものなら返してみろ! 雄弁は損をするぞ、特別に俺が何であるのか教えてやろう、授業料はお前らの命だ!」
すぐにビーストは
「(……閃光の影響でしばらく視力が役に立たない、敵は……だいたい約4,5人か…、各個攻撃で殺していくのには数が多すぎる、大技で一掃するにも溜める隙ができてしまう。それに、敵にはそこそこの実力者もいる、油断は禁物、そろそろ地震の衝撃から起き上がってくる頃だ、さくっと殺しておかないと)」
と考え、ビーストは今度こそ三人の息の根を止めるべく、再度[サイコキネシス]を使おうとする
だが、技が出なかった……
「(な…に…?)」
嫌な予感がして、もう一度[サイコキネシス]そして[念力]を使おうとする。
しかし、やはり技は出なかった。
「(くそっ、何が一体! ……いや、あせっても仕方が無い)」
ビーストは大雨が降り続く中、自分の特攻を上げようと[瞑想]を使った。
……いや、使おうとしたが失敗した。
「(!、何故だ……もしや、[封印]?!)」

エスパー技が[封印]されている……。
その事実を知ったとき、ビーストから血の気が引いた。
急いで周りの敵の自由を奪うために[凍える風]を[吹雪]に乗せて発動させる。
視覚と第六感が封じられた今、無闇な攻撃は身の危険だと察知した。下手すれば[嫌な音]で聴覚まで攻められる可能性もあった。
銀のフォークを生成させようにも、[身代わり]の原理を利用して自分の体力から銀のフォークの素材を練成させるまではできたが、それを整形させることができなかった。
整形には[念力]を利用しているからだった、練成させた銀だけではとても武器になるとは言えない。
そして、幻影を利用しての身代わりにも同じことが言えた。身代わりにする対象を[念力]で操る必要があった。[念力]が使えない今、幻影の身代わりを使うこともできない。
「(畜生! くっ、くそ!)」
自分の得意の技を封じられることは、極めて致命的なものとなってしまう。
その影響は普段それにどれだけ依存しているかに比例する。
ふと、また嫌な予感がして、ビーストは自分の懐を探ってみた。
ここに来るまでにはあった、自分の持ち物が存在しなかった。
「(っ、盗られた……! あの時か!)」
この世界に来て拾ったものばかりで大した物もなかったとは言え、ショックは隠しきれなかった。
兎にも角にも今は補助技を積んでおこうと考え、すぐに[バリアー]、そして[ビルドアップ]でステータスを上げようとする。
[神秘の守り]で特殊状態と状態異常を防ぎ[白い霧]で上がったステータスを下げられないようしようとしていた。
「なんだよ、そのザマは、俺たちごときを倒すのにそんなに手間取るなよ」
攻撃をやめて補助技に回っている様子を見ていた澪亮は呆れた声を掛ける。
「(ゴーストの特性は浮遊か、ちっ、地震の効きが薄かったんだな)……そう言っていられるのもあと暫くだ、そのうちに口が裂けて何も言えなくなる」
「HAHAHA、傑作だな! エスパー技を使えないと言うのにぃ?」
「!」
「図星だな、そりゃそうだ! 何故かと言うと、俺が[封印]で封じ込めたからな」
「なっ!」
驚愕するビースト。
「エスパー技が使えないエスパーポケモンなんて、クリームの入っていないショートケーキみたいなものさ」
「………」
「それでこの俺!に勝とうというのだから…。 お姉さん、なんだかさ『飛べない豚はただの豚だ』と言いながら、跳びはねるを使いまくるバネブーを見ているような気不味い気分になっちゃうな〜 なんて」
「………」
「それでもおめぇが神だと言うならば、試しにこの俺を殺してみろよ!  ……できるか? できないだろう?何故ならお前は神じゃないからだ」
「……貴様……!」
「ゴッドじゃなくてバッド、おめぇはただのちょこざい悪者さ。おめぇは神なんかじゃねぇ! さぁ、分かったか?! 返事は『イ―――ッ!!』だ!」
「……貴様! 黙っていればぬけぬけと! 勝手なことを言いやがって!」

「雄弁は損をするぞ」

澪亮はビーストの顔、開いた口を目掛けて黒い毒々しい塊をぶつけた。塊は爆発して顔いっぱいに広がった
「おい!てめえ、何を…! うぐぅ!おぇぇぇ……」
「これは俺の言葉じゃない、紛れも無くお前自身が言った言葉だ、 HAHAHA…!! ヘドロ爆弾っすよ」
その禍々しい悪臭と地獄のような味にもがき苦しんでいた。ゴキブリでさえイチコロな酷い味―いや味ですら無い、一週間痰壺漬けたサンマのようなような全身の毛もよだつ、臭い。
半液体状のヘドロが顔にこびり付いて目をまともに開けることもできない。


 ブツン

ビーストの中で何かが切れた。
「最早…、貴様等は普通になど殺さん! まるごと、消滅しきってやる!誰一人痕跡が分からないように、誰一人死を慰めないよう、誰一人無く涙も枯れ果てるようにに丸ごと消しさってやる。地獄という地獄で後悔しろ!!」
完全に怒り狂って叫ぶ…!
しかし……全くよせばいいのに澪亮は、怒鳴る大きく開いた口に目掛けて……。
「もひとつオマケ」
二つ目のヘドロ爆弾を口の中にプレゼントした、今度は口内どころか気管と胃まで入った。
「$#★!”○=×¥V⇒<*」
声にならない叫び声が聞こえる。
「うゎ………」
「やりすぎだって……」
さすがの光と瑞も不安そうな声を漏らす。
ビーストは気が狂いそうな吐き気と目眩を我慢して[水の波動]を自分の顔に当てて、顔にへばりついたヘドロを洗い流す。そして、雷鳴が低く轟き。
「死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね!!!」
澪亮の[挑発]はその技の効果以上に効いていた。いや効き過ぎだった、完全に理性を失わせていた。
怒り狂い、ビーストは[かみなり]を三つ同時に発動させる、大雨状況下なのでその命中率は100%
鋭い閃光を帯びた雷光が、一気に叩き落された。

――――――――――――――――――――――――――


ガッ!!
「ふん・・・」
「キャアァッ!!!」
[ヘルズクロー]と[朱転殺]のぶつかり合いは、それでも戦いはゼロにわずかに分があった・・・
触れるもの全てをえぐり取る[ヘルズクロー]はアカリンの[朱転殺]を殺し、そのままアカリンの腕を大きく傷つけた!!
「ハハハ!!くたばれぇ!!」
ゼロは倒れているアカリンに対して[ドラゴンクロー]を放った!!
「くっ・・・」
しかし、アカリンは猛威をふるうゼロの[ドラゴンクロー]に対して全く逃げようとしない!!
「とうとう観念したか!!それでいいんだ・・・ギャハハハ!!」
「・・・マシュリ」
黙り込むアカリン・・・

アカリンは血まみれのメールを握りしめ、思い出していた・・・マシュリのことを・・・

「(マシュリは・・・決して人より恵まれた人生を送ったわけではなかった・・・だけどこの私に・・・仲間の大切さを教えてくれた・・・私の知っているマシュリはそうだった・・・)」

「きなさい!ゼロ!!」
ガシイィッ!!
「う・・・うがぁぁぁ!!!」
「やっ・・・た!」
なんと・・・!技の寸前でアカリンがゼロと同じ[ドラゴンクロー]を放った!!
アカリンは[ヘルズクロー]をくらった時、[ものまね]でゼロの[ドラゴンクロー]をコピーしていたのだ・・・ドラゴンタイプにドラゴンタイプの技は効果抜群だ!!
「ガムくん!」
「ああ!」
アカリンはガムに目で合図した!
「なんだ?・・・また協力技か!?おのれ・・・そうはさせん!!」
ゼロが地面に衝撃を放ち、66階全体に[じしん]を響き渡らせる!!・・・しかし!
「アカリンとの協力技は[B・L・R・C]だけじゃないんだ!・・・アカリン、たのむ!!」
「OK!ガムくん!!・・・[ブースタースピンクラーッシュ]!!」
アカリンは[B・S・C]発動の[ほのおのうず]で壁を作り、ガムはその衝撃と回転に身を任せ、上空高くジャンプし、ゼロの[じしん]を回避した!!
「フィちゃん!!」
地に残されたアカリンは倒れている瀕死のフィをかばい、66階全体に響く[じしん]に対して[まもる]を使う!!
そしてガムは左前足に[ぎんのハリ]を構え、ゼロに対して[B・R・C]を放った!!
「いっくよ―――!! は・か・い・こうせん――――!!!」
「うおおぉぉぉぉっ!!!!!」
そしてさらに、遠くにいるアカリンの口から高エネルギーが集中された!
ガムを[はかいこうせん]で撃ち、加速させると言う捨て身の戦法に出たのだ!!
「アカリンの[B・S・C]と[ほのおのうず]でいつもの3倍のジャンプ!そして[はかいこうせん]の加速でさらに2倍の速度!そして・・・」
ガムはさらに、自らの身体にも[ほのおのうず]を放った!!!
「さらに自分の[ほのおのうず]で・・・いつもの2倍の回転を加えた・・・」
「げぇぇぇっ!!!!」
「12倍の・・・12倍の[ブースターローリングクラッシュ]だ――!!!!!」
ガムは1つの炎の矢となり、ゼロめがけて一直線に飛んでいった!!!
「狙うはゼロの心臓・・・いっっけぇぇぇぇぇ―――――!!!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!?」
ズキッ・・・
「う・・・!!」
ガムのえぐられたわき腹から、今頃になって痛みが・・・
「バカめ!!」
ゼロはガムの12倍[B・R・C]に対し、[ヘルズクロー]を仕掛け応戦する!!

ガコォッ!!

ガムの[B・R・C]がゼロの心臓から標準がそれ、ゼロの[ヘルズクロー]と再び打ち合いの形になった・・・
「そうら!自分が仕掛けた技で自分がすっとべ!!」
ゼロは一瞬の隙が生じたガムを[はかいこうせん]でカウンター気味に迎撃した!!
「こ・・・[こらえる]!!」
ガムは[こらえる]でその攻撃から致命傷だけはまぬがれた・・・しかし、もうガムには薄皮一枚のHPしか残されていない・・・
「ふん・・・バカめ[B・R・C]なぞ俺には通じんと言ったばかりだろう?・・・ククク」
ゼロが勝ち誇り、地に下りたその時・・・
「な・・・何? バカな・・・俺のツメが・・・砕けた・・・だと?」
ゼロは自分の片腕のツメがパラパラかけ落ちていることに、その時初めて気が付いた・・・
もし、ガムの標準が狂わなければ・・・間違いなくゼロをこの一撃で仕留められていたかもしれないのに・・・
「ふん・・・雑魚だと思って甘く見ていたがこの俺の爪を砕くとはな・・・フフフ・・・
だがお前も死ななかったとはいえ、そんな無茶な戦法で無傷ではあるまい・・・?」
「ハァ・・・ハァ・・・うう・・・」
ガムの持っている[ぎんのハリ]も、そのあまりの衝撃に耐え切れず砕けてしまった・・・
「それに俺にはまだもう片方のツメがある・・・」
ゼロは再び笑みを浮かべると息を切らしているガムに手を伸ばし始めた!!
「残念だったなぁ・・・[ヘルズクロー]も[ドラゴン大切断]もまだ使える・・・もはや死に時だぞ!!」
「ガムくん!!・・・危ない!!」
アカリンが[でんこうせっか]でガムの巻き毛を加え、そのゼロの手から身を引いた!!
ガムよりも体重が軽いであろうアカリンが何故ガムをかつぐことができるのか? それは[朱転殺]の際に使った[のろい]がアカリンの力を倍化させているからなのかもしれない・・・
「あ・・・アカリン、もう1回だ!!」
「が・・・ガムくん!?」
今度はガムがアカリンに合図をした!!
「今ならできるはずだ!・・・もう1回たのむ!!」
「・・・わかった!ガムくん!!」
アカリンが[S・T・C(シングルトルネードクラッシュ)]の原理でガムを抱えあげ[ほのおのうず]を駆け上がり・・・そしてガムとアカリンは再び空中で1つに組み合った!!
アカリンはともかく、ガムの身体では、この技でもう1回自爆すると間違いなくHPが尽きてしまう・・・
「やすやすと何度も同じ技を許すと思うかぁ!!」
「ウガアアアアアアァ―――――――ッ!!!!!」
ゼロが[ほえる]を使い2人の技を崩しにかかった!!
「やらせるか・・・っ!!」
「ウオオオオオオオォ―――――――ッ!!!!!」
ガムもまたゼロに向かって大きく[ほえる]を放った!!
2つの大きな怒号が衝突しあい、空中ではじけ、消し飛んだ!!
「二人のこの手が・・・」
「真っ赤に燃える!!」
ゼロの妨害を切り返したガムの[ほのおのうず]からアカリンの[てだすけ]へ、その威力が[もらいび]によって吸収されていき、2人の[でんこうせっか]が1つの巨大な炎となりて、ゼロへ向かって一直線に飛んでいく・・・!!
「これで完成だ・・・!!」
「ブースターラブラブローリングクラァァァア――――ッシュ!!!!」
「な・・・ば・・・バカな!?・・・うがぁぁぁっ!!!」
その攻撃は今後こそゼロを見事にとらえた!!!
「・・・ほざくな!!」
しかし、ゼロは[いわなだれ]で2人を吹っ飛ばした!
「うわぁぁ!!」
「きゃぁぁ!!」
ゼロはその攻撃さえも、[まもる]でガードしてしまったのだ・・・
「フッ・・・何が[B・L・R・C]だ・・・? どんな技かと思っていたが・・・こんなもの、この俺の[ドラゴンクロー]にも及ばん」
勝ち誇るゼロ・・・だが、そんなゼロの目の前にあったものは・・・
「な・・・なんだと!?」
そんなゼロの目の前にあったものは、[いわなだれ]をももろともしないガムとアカリンの姿だった!!
「な・・・なに・・・こんな・・・バカな!?」
特にガムは今にも倒れそうなほどの体力しかなかったはずなのに・・・
この戦いになって二度目の驚きを見せるゼロに対してダブルブースターは叫んだ!

「いい加減にしなさい・・・」
「このクズ野郎!!」

――――――――――――――――――――――――――


「死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね!!!」
[かみなり]を三つ同時に発動させる、大雨状況下なのでその命中率は100%。鋭い閃光を帯びた雷光が、一気に叩き落された。

「!、ぐぁぁ――――!!」
全部、ビーストの頭上に。

落雷の餌食になることを覚悟して堪える体勢に入っていた光は、目の前に起こったその光景をすぐには理解することできず唖然とした。
しかし、瞬時に何が起きたのか把握し推理して、そこから導き出される一つの結論に至る。
「(――ははぁ、なるほど、あの人の仕業というわけか)」
そして、ビーストがその考えに至らないよう誘導するために、相手の興味を引くかつその場に適切な言葉を選りすぐる。
「――雷とは高いところに落ちるものだ、ミュウツーの身長は2m、私は1,7m。当然、そっちに落ちる」
それに澪亮と瑞が続いて言う。
「馬鹿と煙は高いところが好きと言うしな」
「……それは関係ないでしょうが、澪亮さん」
雷は高いところに落ちると言うが、実はポケモンの技の[かみなり]はそういう法則を無視して自分の狙った場所に落とす事が可能であるが。
今回はビーストが[雷]を発動させた瞬間に他のポケモンが同時に[雷]を使用して、ビーストの[雷]の落ちる場所を無理やり修正させたのだ、いわゆる技の乗っ取りである。
そんなことはもちろん普通は出来ないのだが。ビーストの精神状態は普通ではなく、複数の技を同時に使っていたという要因が重なって、可能になっていた。
「黙れ!!」
焼き焦げた体を[自己再生]させて、[シャドーボール][れいとうビーム][みずのはどう]を立て続けに撃つ。
しかし、がむしゃらに撃ったところで当たる訳でもなく、素早さが高い三人はそれらをすべて避けた。
ビーストはそれを見て、[シャドーボール]と[電撃波]を混ぜて撃った。黒く、電気がほとばしっている。
「(シャドーボールか…!)」
「(いや、電気技が混ざっているな)」
瑞と光はそれを[リフレクター]と[光の壁]で受ける。
しかし、ビーストは速攻で壁に近づいて[瓦割り]で壁を叩き壊す。そして瑞に[かみなりパンチ]を撃ち込んだ。
「――かぁ……!!」
その拳は確実に鳩尾に入っていた、吐癪物が逆流しそうな実感共に気を失いかけている瑞の元に、ビーストは体を軽く捻って、気付け代わりの強烈な蹴りをぶつけた。ここまで一秒。
すぐさま、光は近距離からの[突進+乱れ突き]をぶつける、先ほどの例のように連続攻撃は一回のカウンターでは撥ね返すことができない、が。
ビーストに最早、同じ技は通じなかった。なんと彼は五回の突撃を、五回のカウンターでそれぞれ打ち返し、破った。
体重が100kg近くあったはずのギャロップの体は、その場の物理法則がデタラメになってしまったのごとく、空中でその運動ベクトルが反転して、
さっきの突進の速度と同じ速さで飛び、そしてその凄まじい衝撃は光の頭蓋骨を伝播して脳震盪を起こし、気絶したまま、まるでボーリングのピンのように蹴散らされてしまった。
そこからビーストは眼にも止まらぬ速さ、一気に[燕返し]で駆けて彼にとって怒りの矛先
――そう、澪亮の姿の懐に潜り込んだ。
「!!!」
澪亮は動かなかった……何も言えず、その迫るビーストの姿を見ることしかできなかった――。
ビーストはその忌々しき澪亮の姿を目に収めることさえも嫌うように、ただ空に向かって呟く。
「――運命とは、所詮死に向かうための鉄の轍にすぎん」
そして、その自分が殺そうとする標的をしっかりと眼を向けて、超至近距離から[れいとうパンチ]を叩き込む。
澪亮の姿がみるみる凍り付いて、透明な氷の牢獄に放り込まれた。ビーストは仕上げに[アイアンテール]をすっかり凍りついた氷の檻にぶつける。
澪亮の姿を閉じ込めた氷はその衝撃でしばらく宙を舞って、思い出したかのようにそれは空中で粉々に四散した。
あとに残されたものは粉砕された後の氷の粒子が舞うだけであった。彼女の痕跡はその文字通りに微塵をなってしまった。

散った。
それは仙崎澪亮にとってあまりにも早すぎる退場であった。

「まずは一匹」
ビーストはそこで、ニヤと怪しい笑みを零した。
すぐにビーストは[サイコキネシス]を使えるかどうかを確認して見たが、やはり使えなかった。
彼は[封印]の効果はよく覚えていなかったが、術者が倒れても続くようなものではなかったはずだ。
「(すると、他の奴…? いや、エスパー技など無くとも、こいつらを皆殺しにするのに充分だ)」
「れっ、澪亮さん!! てめぇ…よくも!!」
そこで瑞が取り乱したように叫んだ、防御系が高かった分だけ攻撃からの回復も早かったようだ。
すかさず[電光石火]をかけるが、その動きは完全に読まれていた。
何も無かったかのようにビーストは足を垂直に振り上げて、そのまま地面に降ろす動作で、引っ掛けてかかと落としをする形で、瑞を地面に這い蹲らせた。
そして、惨めな敗者を慰めるかのように白く細長い腕を伸ばして拾い上げて、瑞の首を力強く鷲掴みにする。
「さあ、存分に悲鳴を上げるが良い!叫んで、張り上げて、血を吐いて、喉が潰れたら殺してやるよ、フフフフ」
掴みながら[れいとうパンチ]を使っているのか、氷点下に下がったその手によって、激しい痛みと感覚の麻痺とが同時に襲い掛かっておぞましい苦痛が瑞を襲う。
ちなみに、動脈と静脈が多量に通っている首への冷却は、場合によれば冷えた血液が脳に流れ込んで脳梗塞に至る恐れがある。もちろん0℃で血液が凍ることはない、しかし、冷えた血液が脳の血管を収縮させてしまうのである。
冷たい血液が駆け巡り回って、全身が凍りついたかのように、筋肉が強張って動かすことができない。
完全に体の自由が利かない……。
だと言うのに、呼吸ばかりが激しくなって、目はひきつけて見開き、だんだん意識が定かで無くなっていた。
「(なんだか……ねむくなってきたなぁ……――)」
と瑞は思ってしまった。しかし、そんなものを必死に振り払って、耐え難い激痛に顔を歪ませ強張らせながら彼女は言葉を紡ぐ。
「……ううう……」
「フフフ――神に仇した当然の報いだ、天罰というべきだな」
「……いや…そうじゃなくて……、…かっこいい……見せ場をつく…る…のは結構……だけど…もう少し早く……やってもらわなちゃ…こまるんだ…よ……プリンスさん」
ビーストが瑞のセリフに疑問を覚えるのと、それは同時だった。

「―――!!」

突然脳味噌が攪拌される感覚に陥った。ビーストのこめかみに何かが叩き込まれた。
それは、確実に彼の急所を捕らえていた。頭蓋骨を貫通した、否貫通したと錯覚した。鈍く、生々しい音が静まり返った暗闇の道に響く。
叫びにならない悲痛な声が重量となって彼を大地に叩き伏せた。倒れた後は串刺しにされた鮎のように、背筋を真っ直ぐに伸ばし、体中を硬直させ、苦しむことさえも許されていないようだった。
その衝撃で瑞は解放されて、すぐに彼から離れる。ビーストは痛みを無理矢理捻じ伏せて、体をねじまげるかのように痛みの出所を触れた。

濡れていた。

水タイプの技だと分かった。こんな攻撃力はハイドロポンプ、いやそれ以上かもしれない。
そうなると、ハイドロカノンだろうか? ビーストは知識を引っくり返してみるものの、ハイドロカノンを覚えるポケモンは少なくともここにはいない。
戦いの最中に思考することは致命的である。しかし、だからと言ってそれを無視してしまうことはさらに致命的な事態になってしまうのだ。
そう考えているうちに、もう一発、今度はさっきと違う方向から、その技がビーストの鳩尾に直撃した。
「(な!…が!…)」
確かにビーストの予想通りこの技は水タイプの技であった。しかしこの技ダメージは500、これはタイプ一致で雨天候下のハイドロカノンよりもダメージが大きい。
しかし、この技はハイドロカノンではない、だからと言って同じ基本150ダメージの[しおふき]でも決してない。
ビーストは気づかなかったし知らなかった、いや思いつかなかった。マイナーな技ではあるが、水系最強技の二つに匹敵するほどの攻撃力を持つ技が存在していたことを……。
その技の名は……ウェザーボール。 ポワルンの専用技である。
ビーストが混乱している様子をその技の使用者が草むらの繁みに身を隠しながら見ていた。
「(ポワルンの身長は30cm、草むらに隠れていれば相手に僕の居場所は分からないし、《天翔》を使った光さんを[自己暗示]したおかげで素早さも上がっていて、
あらゆるところにもすぐに回りこめる、それに[身代わり]も作ってある。これなら絶対に相手の攻撃が当たらないし、安心して[ウェザーボール]を撃てる、覚悟しろよ、ビースト!)」
ポワルンのプリンス・マッシュは30cmと言う体の小ささを利用して、草むらに自分の身を隠して、ウェザーボールを撃っていたのだった。
あらかじめ戦いの前に体力を半分に下げておき、ヤタピの実を持って身代わりを使って特攻を一段階上げる、そして、瑞の技を[ものまね]したベルの[手助け]も受けている。
したがって、ダメージは 基本ダメージ×特殊効果×タイプ一致×天候一致×ヤタピの効果×手助け=50×2×1,5×1,5×1,5×1,5=500
つまり、これは…――
[10倍ウェザーボール]だった。


「そこだ!!」
ビーストは素早く気配を察知して、絶対回避不可能の[電撃波]を草むらに向かって走らせる。それは確実に、隠れていた誰かに命中した。
そして、その草むらの中から一匹の影が暗闇から姿を現す。
「おひさしぶりです、ビーストさん」
彼はさきほど電撃を受けたにも関わらず、何もなかったかのようにすましている。ぬるぬると光る皮膚に特徴的な全身のヒレが印象的だった。
「……お前は誰だ」
「…やだなぁ、忘れてしまったのですかぁ。じゃあ改めて、自己紹介をしましょうか」
彼はビーストに見事に忘れられていたが、そんなことをあまり気にしないそぶりで続ける。
「ドリームメイカー、ドラゴン四天王統率者ゼロの元直属軍師、簡単にベルとでも呼んでください。
この度は、ドリームメイカーリーダー:ゴットフリートの命において、貴方に強制退去処分を言い渡しに来ました。従わない場合は……分かっていますよね?」
ベルの言葉をビーストは鼻で笑う。
「強制退去処分……。面白いな、ついにお前らには俺を殺す力が無いってことを認めたということか」
「僕達には貴方を殺すだけの力はありますよ。でも、鬼にも情けというでしょう。僕たちは寛大です」
抜け抜け飄々と言うベルを軽蔑するかのように、ビーストは言う。
「ふん、偽善者め」
「ええ、偽善者です。僕には何が正しいのか、何が間違っているのか分からない」
「じゃあ、教えてやろう。正しいとは俺だ」
「では、僕は悪人ですねぇ。安心してください、僕は悪としてのエクスペリエンスはありますので」
そこでベルは大らかに微笑んで見せる、その笑みは誰に宛てたものかは誰にも分からない。

「それでは再開しましょうか、貴方の終わりを始めましょう」
ベルは精一杯の威厳と皮肉を込めて、まるでこれから舞台に立って観客に向かって演術する奇術師の様にそう言った。

――――――――――――――――――――――――――

「な・・・なんだと!? 俺の攻撃を受け続けたお前らが・・・岩の技を食らったお前らが何故・・・何故立っていられる!?」
「シャドーボールゥ!!!」
「シャドーボールゥ!!!」
「うげぇっ!!」
ダブルブースターの攻撃がうなりをあげた!!
ゼロは、それまで微動だにしなかったはずのガムとアカリンの[シャドーボール]に圧倒され、本格的に動揺し始めていた・・・
傷だらけになりながらも、今のガムとアカリンに異様な迫力を感じる・・・まるで全能力が向上したのではないかと思うほどに!
「終わりだ、ゼロ!! [B・L・R・C]が成功した今、俺達を止めることはできない!」
「そうだよ!・・・例えそれが『冥府の司祭』でもね!!」
「ほ・・・ほざけぇ!!」
を感じだゼロはダブルブースターに向かって[ハイドロポンプ]を放った!!
「[かえんほうしゃ]!!!」
「げえぇぇぇっ!!?」
さすがのゼロもその光景に驚かずにはいられなかった!!
[B・L・R・C]によって能力が最大まであがったガムの[かえんほうしゃ]をさらにアカリンが[てだすけ]して、プッシュしているのだ!
「消えてなくなれっ!!」
1匹のブースターの[かえんほうしゃ]がゼロの[ハイドロポンプ]に撃ち勝ち、やがてその炎はゼロの[ハイドロポンプ]の水分を完全に蒸発させてしまった!!
「ゼロ!! ドリームメイカーの大義を語り、己が欲望を満たすため殺戮を繰り返したお前の狂気・・・」
「あまつさえ、フィちゃんのような小さな命までその汚い手にかけようとしたあなたを・・・」
「俺は(私は)絶対に許さない!!」
ガムとアカリンがゼロに対して[でんこうせっか]で一直線に向かっていく!!
「お前の快楽のために殺された多くの人々の悲しみを込めて!」
「今こそここで・・・あなたを倒す!!」
そして二手にわかれ、[アイアンテール]を左右同時に放った!!
「くたばれ!(くたばりなさい!)ゼロ!!」
「お・・・俺に触るなぁ!!」
ゼロはそうはさせまいと再び地面に衝撃を加え、66階全体に[じしん]を響き渡らせた!!
「アカリン!」
「OK!ガムくん!」
ガムが合図すると同時にアカリンが[ほのおのうず]を作り出す!
「とうっ!」
「はぁっ!」
そして2人はその衝撃を[もらいび]で吸収しつつ宙に舞い、地面に響き渡る衝撃を回避した!
「ハハハ!お前ら、俺の攻撃に気を取られそこにいるイーブイのことを忘れていたようだなぁ!!」
再び放ったゼロの[じしん]は、回避したガムとアカリンよりもむしろ床に倒れている瀕死のフィに対して、その猛威をふるう・・・!
「アカリン・・・もう1回たのむ!!」
「わかった!・・・いくよ![は・か・い・こうせん]――!!」
アカリンもまた宙に舞う状態から再びガムを[はかいこうせん]で撃ち出し、ガムは[こらえる]を使って自爆を防ぐ!!
「うおぉぉぉっ!!」
間に合え!!と言わんばかりに、[はかいこうせん]で加速のついたガムが[でんこうせっか]でフィを救い出そうと飛んでいく!!
「バカめ!かかったな!!この技はおとりだ!!」
ゼロはフィに対する[じしん]から標準を外し、飛んでくるガムに対して[ヘルズクロー]の構えに入った!!

ガシィッ!!

「・・・」
「な・・・なんだと・・・」
「フッ・・・」
ガムは左前足のみの状態で逆立ちしながらゼロの[ヘルズクロー]を[アイアンテール]1本で防いでいた・・・!
手でも身体でも受けることができない[ヘルズクロー]を防ぐには力がかえって邪魔になる・・・ガムは[ヘルズクロー]に無駄に逆らわず、受け身のごとく[逆立ちアイアンテール]で受け止めたのだ!
しかし、無防備に[じしん]を受けそうになった瀕死のフィはどうなったのか・・・?
「フィちゃん、安心して・・・あなたは・・・あなたは、私が必ず守るから・・・!」
アカリンがフィを抱きかかえていた!
ガムが[でんこうせっか]でフィに近づいたあの時、すかさず瀕死のフィに対して[バトンタッチ]をしていた・・・そして、ガムから[バトンタッチ]でフィを受け取ったアカリンは、ゼロの[じしん]に対して、全力で[まもる]を使っていたのだ!
「こんな・・・こんなことが!! この『冥府の司祭』のゼロがブースターごときに手も足も出ないなど・・・こんなバカなことがあってたまるかぁぁ!!」
「まだまだ!!いくぞ!ゼロ!!」
「げほおっ!!」
息の合った連携プレーに惑わされ、[ヘルズクロー]まで防ぎきられたゼロはいよいよ困惑していた・・・そんなゼロにダブルルブースターの[でんこうせっか]がクリーンヒットした!
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ガムくん!?」
しかし、突然ガムの動きが鈍くなった・・・
[B・L・R・C]によって能力が最高値まで上がったが、アカリンならまだしも、これまでゼロの攻撃を受け続け、無茶苦茶な戦い方を続けたガムのスタミナのほうがもう持たないのだ・・・
「うぐぅ、俺は、オレは・・・!!」
「ガムくん・・・しっかり!!」
「ああ・・・全然大丈夫だ!・・・くううっ!」
ゼロに対して[にらみつける]を放っているガムのえぐられた右前足とわき腹からは再び膿み混じりの血がにじみ出ていた・・・
その様子は、とても「全然大丈夫」には見えるものではない・・・
「死んじゃうわ!やめて!ガムくん!!」
「うう・・・」
ガムは顔を左右に振ると心配するアカリンに言い返した!
「いや!俺はやる!!ここでやられるわけにはいかない!」
「オレの男が、男が廃るっっ!!」
「・・・」
アカリンはガムの目を見てその心を理解し・・・そして、こう言った!
「解かった・・・行って!行けるところまで行くのよ!!私がついてるからっ!!」
アカリンは[ほのおのうず]を発生させると、そのままガムの肩をかつぎ、二人一組となって[ほのおのうず]を駆け上がった!!
「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
今の2人を誰にも止めることはできない・・・!!
ガムは人間界の言葉を思い出していた・・・
「(苦しい時こそニヤリと笑え)」
人生で一番楽しい時は「もうダメだ」という絶体絶命の状況で、いかにその逆境をはね返し、乗り越えるかどうかという時だ・・・ガムという男はいつもそう信じて生きてきた・・・

端から見てみな、男だぜ!!

「よ・・・よるな! 寄るなァァァ!!!」
「[ダブル・ブースターローリングクラ―――――ッシュ]!!!!」
「うがあぁぁっ!!」
ガムとアカリンのダブルの[B・R・C]がゼロに対してヒットした!!
「アカリン!」
「ガムくん!」
そのままガムはゼロの右羽を、アカリンはゼロの左羽をかつぎあげ、そのまま再度[ほのおのうず]でジャンプした!!
「う・・・うがあぁぁぁぁぁ!!」
ゼロは必死に抵抗するも、能力の上昇したブースターにより二人ががりで押さえ込まれ、どうすることもできない!!
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
「[ダブル・スカイダイブドライバ―――――]!!!」
「うぎゃ・・・」
「おえぇぇっ!!」
ガムの[アイアンテール]とアカリンの[アイアンテール]を首にひっかけられ、そのまま空中から急降下して首を地面にプロレスで言うギロチン気味に叩きつけられたゼロは呼吸困難に陥るほどの大ダメージをうけている!
「アカリン!!」
「ガムくん!私の炎を全て受け取って!!」
アカリンはガムに対して、渾身の力を込めて[オーバーヒート]を放った!!
「はあぁぁぁぁぁっ・・・!!」
これ以上はないぐらいの炎がガムの[もらいび]によって吸収されていく・・・!!
「アカリンの愛の力・・・充電完了!!」
そしてガムもまた、全ての火力を一気に放出する構えに入った!!
「ひっ・・・」
「ゼロ・・・これで・・・これで終わりだ―――!!!!」

「[オーバーヒートォォォ――――――ッ]!!!!!」

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!?」
それでも生き続ける邪悪なドラゴンがいる・・・!
「うわあぁぁぁぁぁ――――っ!!!」
ガムは自分の炎袋が二度と使えなくなるほど炎に勢いをつける!!
「ガムくん・・・私もいっしょだよ!!」
アカリンはそのガムに[てだすけ]をかけ、炎の威力はやがて66階の全てのものを焼き尽くすほど増大した!!
「う・・・うぎゃぁぁぁ―――――――っ!!!!!」
ズガァァァ―――ッ!!!
そのすさまじい炎のエネルギー波は、ゼロを飲み込み、66階の壁ごと吹き飛ばした!!

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「・・・終わっ・・・た!!」
ガムとアカリンは全ての炎を出し切り、疲れ果てその場に倒れこんでいた・・・
「今やっと・・・ドリームメイカーの・・・悪の限りを尽くしていた『冥府の司祭』のゼロを倒すことができた・・・」
「ガムくん・・・やったんだね・・・」
「うん・・・!」
ガムとアカリンはガクガクの足で立ち上がると互いに歩み寄り、優しく口づけを交わした「だけど・・・上の階にいる悠のことが心配だ・・・」
「でも・・・今は忘れよう?フィちゃんのことも心配だよ・・・」
そうだ・・・フィは使ってはいけない[自由進化]を再び使ってしまった上にゼロによって何度も殴打され、ひどいダメージまでうけているのだ・・・
「今はフィちゃんの治療を優先しようよ・・・[ふっかつそう]がなくちゃ、フィちゃんが・・・」
アカリンはフィが心配なためか少し目に涙を浮かべ、キョロキョロ周囲を見回しながらフィを探し始めた・・・
「(でもヒャクエさんはステアといっしょにテレポートしてしまって、今はもうどこにもいないんだ・・・どうする・・・)」
そんなことを考えながら、ガムは地面を見つめていた・・・
「あ!」
「・・・いた!フィちゃん・・・フィちゃーん!」
アカリンはフィの倒れている方向へ駆け寄って行った・・・
「・・・おや?」
・・・一方、ガムが目をやった先の地面には見慣れないものがあった。
さっきまでゼロがあれほど[しじん]や[いわなだれ]を放っていたのだから、多少の66階内部の変化なら気にならなかったのだが・・・何故か、そこから緑色の女性の頭部がのぞいているのだ。
「なんだろう・・・これは?」
ガムは傷ついた右前足を押さえながら[あなをほる]で66階の地面の中を探ってみ
た・・・すると!!
「な・・・!?」
ガムは一瞬面食らった!!
「な・・・なんで愛さんがここにいるんだ!?・・・それに浅目さんもどうし
て!?・・・」
それは驚かずにはいられなかった・・・なぜなら、ドリームメイカーによって殺されたはずのサーナイトの愛とメタモンの浅目の亡骸が66階の地中深くに埋められていたからなのだ!!
その亡骸は殺される前より綺麗に復元されていた・・・しかし、その身体からはあきらかに生命反応が見られない・・・
息をしていない2人の亡骸はぬくもりがなく、冷たく固まっているだけ・・・
「それは俺の人形(コレクション)だ・・・ドリームメイカーが殺した中で俺自身が特に気に入ったヤツを人形として、この俺が復元して66階のいたるところに埋めているのさ・・・」
「え・・・?」
ガムがその声に振り返った時!!
「キャアァァァァ―――――ッ!!!」
アカリンの身体を一直線に[はかいこうせん]が貫通した!!
「あ・・・アカリ」
ザシュッ!!
「ぎゃあぁっ!!」
ガムがアカリンの名を呼ぶ間もなく視界が真っ赤になった!!
両まぶたが[つばめがえし]によって深く傷つけられ、目がつぶされたのだ!!
「ま・・・まさか・・・!」
目に血が溜まり、両目が見えなくなったガムが慌てふためきながら後ろをふり向く

「ふ・・・ふふふ・・・ふははは・・・」

ゼロが・・・ゼロが生きている!!
あれほどのすさまじい攻撃さえもゼロの急所をとらえることができなかったのか・・・
しかし、そのゼロの形相は、とてもドラゴンポケモンと思えるものではないまでにひどく焼け爛れ、皮も剥げた醜いものだった・・・
「ぜ・・・ゼロ!?」
「[ヘルズクロオォォォ]!!!」
「う・・・うわあぁぁっ!!」
ガムの左前足からも感覚がなくなった・・・[ヘルズクロー]がガムの左前足をえぐったのだ!!
「げへへへへ・・・」
「さすがの俺もさっきの[オーバーヒート]は死ぬかと思ったぞ・・・だが、こうして俺は生きている・・・この勝負・・・俺の勝ちだ・・・ククク」
「う・・・うう・・・」
ガムは耳から聞こえるゼロの枯れ木のような笑い声に背筋が凍りつく恐怖を通り越し、その先に待っている冷たい死を実感した・・・
「(こ・・・怖い)」
ゼロは地中に埋まっていたサーナイトの愛とメタモンの浅目の亡骸を引きずり出し、その身体をなめ回すような目つきでジロジロと見ながら言い放った
「ククク・・・精神世界の霊魂達も俺の忠実な僕(しもべ)だったが・・・俺がこの66階にコレクションとして埋めた可愛い死体達も絶品だぞ・・・」
そしてメタモンの浅目の亡骸に目をやった
「クックック・・・まったく、こいつの身体は美しいよ・・・この世界の産物にしておくには勿体無いほどになぁ・・・」
今度は愛の亡骸にツメを立てた
「ちょっとぐらい・・・ちょっとぐらいなら触ってもいいかな・・・ハハハ」
「う・・・うう・・・」
「む?」
両腕、両目を封じられたガムがまだかろうじて生きている・・・
「ふん・・・まだ生きていたか・・・」
ゼロは再び、にやぁ・・・と笑うと
「それなら・・・これは・・・どうだぁ!!?」
愛と浅目の亡骸を捨て、そのまま力任せに倒れているガムに対して全体重をあびせかけた!!
「う・・・うわあぁぁぁぁぁ――――!!!」

ズゴオォォォォ・・・!!!

はいつくばるガムに対してのゼロの[のしかかり]・・・
ブースターのガムの4倍はあろうかというゼロの重みにより、身体からの感覚が次第に痺れていき・・・
「う・・・うあぁぁ・・・ぁぁ」
やがて感覚が無いに近いほどの強烈な[まひ]状態へと変わっていった・・・


――――――――――――――――――――――――――

「うおおおっ!!」
悠の[火の玉スカイアッパー]と
「おおおおっ!!」
ゴットフリートの[念力パンチ]が互いに交差する!!
「がっ・・・!!」
カウンター気味に双方のパンチが入った!・・・と見えても、エスパータイプのフリートにわずかな分があるのか、悠のパンチは直前のところで[リフレクター]によってブロックされてしまう・・・
「う・・・うう・・・」
悠がまた混乱状態に陥った・・・
「[かえんほうしゃ]!!・・・く・・・くっそぉ!」
「そんなやみくもな火炎放射でこの私を捉えることができると思っているのか!?甘いぞ悠・・・!」
顔面の痛みが残っているおかげか、かろうじて自分で自分を攻撃するまでにはいかないものの・・・完全に方向感覚が狂い、フリートへの攻撃が全てからぶってしまう・・・
「(悠・・・やはりお前はそこまでの器(うつわ)でしかなかったのか・・・)」
フリートは表情が一瞬変わるも、命中率を100に調整した爆裂パンチ・・・[念力パンチ]を追い討ち気味に悠めがけて放った!
ガッッ!!
「な・・・何!?」
[念力パンチ]を放ったフリートの拳が悠にジャストミートした時、その片方の拳が動かなくなった!
「こやつ・・・[こらえる]を使ったな!」
[ばくれつパンチ]の効果によって技の標準が定まらなくなった悠は、[こらえる]を使ってフリートの技を誘い出すことでフリートの腕を掴み、密着状態へと持ち込んだのだ!
「に・・・[肉を切らせて骨を断つ]!! こんどはこっちからいくぞ!!」
「はああっ・・・」
フリートの腕を掴んだ状態で悠は、そのまま片腕に力を集中させて・・・
「はあっ!!」
パリーン・・・!!
「うおおっ!?」
フリートの体を守っていた[リフレクター]を粉砕し、そのまま[かわらわり]をフリートへヒットさせた!!
「ハァ・・・ハァ・・・」
悠はそのままガクッと膝をついた
「油断はするな悠・・・それしきの技、[てっぺき]を使った私の前では無力だ!」
フリートはひるむことなく、悠に対して再び[念力パンチ]を放つ!!
「うおぉぉっ!!」
悠も体勢を立て直し、フリートの[念力パンチ]に対して[ばくれつパンチ]で応戦・・・いや、違う!これは!!
「な・・・何い!?」
フリート自身もその技に目を疑った!
「[オウムがえし]ッ!!」
悠もまた[オウムがえし]を使うことで、フリートの得意技[念力パンチ]を使用していたからなのだ!!
ズゴオォッ・・・!!
「うわっ!」
「くうっ!」
命中率100の2つの[ばくれつパンチ]はお互いにぶつかり合い、見事に威力が相殺された!
バシャーモは[ねんりき]は使えない・・・しかし、悠は先ほどフリートが自分に使った[念力パンチ]の中から受けた[ねんりき]を真似して、そこから自分が元々から持っていた[ばくれつパンチ]と合わせることでフリートと同等の[念力パンチ]を放っていたのだ!
「フリート・・・お前の[念力パンチ]、確かに破ったぞ!・・・[ねんりき]が使えなくても僕には[オウムがえし]があるんだ!」
[オウムがえし]は、相手から受けた通常技を1つだけ相手のものにできる技・・・しかし[ものまね]とは違い、受ける度に真似る技が違う技。
このままフリートが[念力パンチ]を使い続ければ、悠もまた[オウムがえし]と[ばくれつパンチ]の連結で相殺を図ってくる・・・
「・・・」
「ぐっ・・・」
数分間、お互いの間に沈黙が続く・・・
「・・・フッ」
しかし、フリートが何故か笑みを浮かべた
「嬉しいぞ、悠・・・まさかお前がここまでやるとは・・・」
「・・・フリート?」
そしてフリートは[念力パンチ]の構えを崩して悠に語りかけた
「悠・・・お前の兄をこの世界に置いた理由・・・それは、まだお前の力だけが測定できなかったからなのだ」
「なんだって?」
フリートはゆっくり語りだす・・・
「この世界にお前達を呼び寄せた理由は、お前達の力量を測ることで相応しい者達に新たな『Dream Maker』を継承させるためだと言ったな・・・」
「私の目的は・・・」
「・・・」

「真の私の目的は・・・その新生『Dream Maker』のリーダーにお前を任命するためだったのだ!!」

「な・・・!?」
悠もその言葉が聞き間違いではないのか?と耳を疑った!
「ぼ・・・僕が新しい『Dream Maker』のリーダーだなんて・・・」
突然のゴットフリートからの真意の言葉!
悠はまだ、フリートから言われたことが信じられないようだ・・・
「なんで・・・なんで僕なんだ? リーダーを継がせたいなら僕なんかじゃなくても秋葉さんやRXさん、そしてガムさんもいるじゃないか!」
悠はフリートのその言葉を拒む・・・
しかし、頑なに拒む悠に対してフリートはゆっくり聞かせるように話を続けた・・・
「確かにお前よりも秋葉、ガム、RX達・・・他の者達にもお前より総合面で力が上の者はいるだろう・・・しかし、あやつらでは駄目だ」
「どんなに知性に富んでいても、正義感が強くとも、腕っ節が強くとも・・・それだけでは駄目なのだ」
「・・・」
「悠・・・お前には『誰にとでも合わせる協調性』がある・・・他の誰にもないそれがお前にはある・・・者どもをまとめるその『求心力』が『統率力』となる・・・だから私はお前を試した」
「試した・・・?」
フリートは悠から間合いを取りつつ話を続ける・・・
「しかし、私が見た限りのお前の力は脆弱なものだった・・・お前は私が仕向けた配下にどれだけ勝利できたか?」
「・・・」
悠は答えなかった。確かに悠は、この世界に来てから勝つことより負けることが多く目立っていたから・・・
「そこにお前の兄の烈の存在があった・・・元々は私がお前達の『共有する入り口』より間違え、招き入れてしまった者ではあったが・・・」
『共有する入り口』とはパソコンのこと。悠と烈が現実世界では1つのパソコンを交換して使っていたことが『共有』の意味だ。
「この塔の中でカタンを通して烈とお前を合わせることによってお前をバシャーモに進化させ、力を引き出させることが私の目的だったのだが・・・それでもお前の力が発揮される気配がなかった・・・お前の実力が早期にわかれば、私自らが直接お前の力量を測るようなことまではせん」
フリートは[こわいかお]を悠に向けて、こう問い詰めた
「悠・・・もしかしてお前は、烈から受け継いだ力をすでにものにできているのではないか? ただ『人を傷つけたくない』という性格上、故意に『その力』を封印しているのではないか?」
「・・・」
「・・・」
「フリート様・・・悠様・・・」
サリットが見守る中、再び2人の沈黙が続く・・・
その時フリートが動いた!
「先ほどもわかったように、私とお前の[念力パンチ]は全くの互角・・・このまま同じ技が打ち合う状態が続けば千日経っても決着がつかない戦争になってしまうかもしれん…」
「・・・そうだな」
悠もまたそれに答えた!
「こうなったらお互いの最大の奥義を繰り出すしかあるまい!」
フリートは[こうそくいどう]を使いながら悠へ突進してきた!
「それはこっちも同じだ!!」
悠もまた[ビルドアップ]で能力を高めつつ、フリートと組み合いの状態へもちこんだ!
ガシイッッ!!
「ぐッ・・・!」
しかし悠の組み合った両腕の片方が、痛めて感覚がないままだということを忘れていた!
ガクッと腕からおちる悠!
「ふん!!」
「ぐあっ!」
フリートは悠を[かわらわり]で一蹴する!
「悠・・・戦いを甘く見るな!」
悠はボロボロのフリートへダメージを与える気配がなく拳に躊躇が見られる・・・フリートにはそれが腹立たしいような、情けないような表情で言った。
「悠・・・お前は優しすぎるのだ・・・それが有り余るお前の『力』を埋もれされてしまう結果となった」
「うう・・・」
よろめく悠に対して、フリートは全く逃げる隙を与えず[こうそくいどう]で倍速状態になりつつ[てっぺき]で自らの硬度をあげ、両腕に最大の力をこめる!!
「悠!受けてみるがいい!我が最大の拳!!」
「うっ!?」
「[超・爆・裂・拳]ッ!!!」
そして鋼鉄の拳から右から[ばくれつパンチ]!左から[コメットパンチ]!右から[コメットパンチ]!左から[ばくれつパンチ]!!・・・倍速の剛拳が悠の満身創痍の体に何発も叩き込まれていく!!
「う!!がはっ!!げふっ!!」
「(どうした悠!お前の力はこの程度のものだったのか!?)」
「ふんっ!!」
ズガアァァァァァッ!!
「うわあぁぁぁぁぁ―――っ!!!」
ゴッドフリートの無数の拳と激しい殴打によって全身がひねりあげられ、悠はそのまま壁へ吹き飛ばされてしまった・・・!


「悠・・・」
「フリート様・・・」
フリートが残念そうな顔でサリットに話しかけた
「サリット・・・悠は死んだ・・・どうやらこのような者に『Dream Maker』を継がせるには荷が重すぎたようだ」
しかしその時!
「む?」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
くちばしが折れ、頭部が傷つき、体中の毛がちぎれてもまだ悠が立っていた!
「ゴットフリート・・・僕を・・・甘く見るな」
おそらくは悠のHPはもうスズメの涙しかのこっていない・・・悠は静かに[もうか]を発動した!
「確かに僕は・・・人を傷つけたくない・・・自分のこの力で誰かが死ぬ姿を見たくなくて、あと一歩でとどめがさせなかったのかもしれない・・・でも!」
悠の[もうか]がいつもと違う・・・[こらえる]と同時に発動した[もうか]から放たれる[ほのおのうず]が悠の手へ足へ・・・まるで『飛べない鳥が羽と衣を得た』ような鮮やかな炎の衣が悠に装着される・・・!
「この戦いだけは違う・・・ゴットフリート!僕にはお前の真意がようやくわかった!」
悠は[きあいだめ]で腰をゆっくり下ろしてフリートへ向かって叫んだ!!
「フリート!!お前の[超爆裂拳]・・・悪いけど使わせてもらう!!」
「(悠・・・そうだ!その勢いだ!)」
フリートも悠へ向かって叫んだ!!
「ようし、よかろう!それならばこの私も最大の力で[超爆裂拳]を放ってやろう!!」
フリートは再び[こうそくいどう]を使って自らを倍速状態にすると、そのまま悠へむかって剛拳を叩き込もうと間合いに入った!!
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
しかし、悠は臆することもなく・・・なんと![つるぎのまい]を舞い始めた!!
「うおおおぉぉぉ!?」
悠の腕から[ほのおのパンチ]が、足からは[ブレイズキック]が[もうか]と[ほのおのうず]によるすさまじい勢いで放たれる・・・!!
「こ・・・これがバシャーモ版の[超爆裂拳]・・・【孔雀乱舞】だ――――!!!」
「う・・・ばかな!?これは・・・!・・・うおおおおおぉぉぉっ!!?」
フリートは悠の炎に圧倒された!!
「うごっ・・・ぐはあぁぁぁっ!!」
[超爆裂拳]が[こうそくいどう]の効果で『一瞬に5発の連撃を繰り出す』速度の奥義であるならば、【孔雀乱舞】は[つるぎのまい]の効果で『威力が5発分の一撃を叩き込む』威力の重い拳というべきなのか・・・さらに[こらえる]からつなぐ[もうか]による効果でフリートの[超爆裂拳]を完全に返し、550キロあるその巨体を殴り飛ばした!!
「フリート!!これで・・・とどめだぁ!!」
悠が片方の腕で[ほのおのパンチ]を叩き込もうとした時
「うっ・・・!」
突然、悠の唯一使える片腕が動かなくなった!
「・・・悠・・・お前の【孔雀乱舞】・・・確かに見事だ」
「しかし、私が打撃だけのポケモンでないことを忘れていたな」
「これは・・・[サイコキネシス]!?」
フリートは悠のとどめの[ほのおのパンチ]を直前で[サイコキネシス]を使って制止することにより、悠を金縛りに近い状態に持ち込んでいた・・・
「ふんっ!!」
バキバキイッ!!
「う・・・うわあぁぁぁっ!!」
フリートはそのまま片腕に放った[サイコキネシス]に威力を加えることにより、悠のまだ使えるもう1つの腕をもへし折った!!
「敵をあと一歩まで追い込んだ瞬間のお前の情け・・・技における躊躇・・・それを一切捨てなければこの私は倒せん!!」
フリートは今度こそ絶対の[念力パンチ]を悠の急所めがけて放った!!
「や・・・やられる!?」
両腕が使えなくなり、フリートの[念力パンチ]に悠が反応した・・・その時!!
ズガアァァァァァッ!!!!!
「うおぉ!?」
「何・・・?」
突然の下の階から来た震動によってフリートは大きくバランスを崩した!!

ゴオオオォォォ―――ッ!!!

その時、塔の66階から巨大な炎が一直線に外へと放たれていった・・・66階のガムとアカリンが全力の[オーバーヒート]をゼロに見舞った轟音だ!!
「(い・・・今だ!!)」
両腕の使えない悠は再び身構えると
「ゴットフリート!!・・・覚悟ッ!!」
「う・・・おお・・・!?」
悠はフリートの2度目の反撃を許さないよう[ほのおのうず]を放つことで、フリートの動きを封じ込めた!!
「ずああっ!!!」
悠は全身全霊を込めた[ブレイズキック]をフリートに向けて叩き込んだ!!!
「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
フリートは悠の[ブレイズキック]に倒れた!!
バキバキバキ・・・
フリートのひび割れていた身体が一気に崩れる音だ・・・
「うう・・・」
ドサッ・・・
悠もまた、受身をとりそこない地面に倒れると…そのまま気を失ってしまった…

―――――――――――――――――――――

「笑止千万……」
その瞬間、ビーストが先に動いた。相手に動いている姿を見せないよう、相手が気づかないうちに殺傷しようと、高速で移動する。
「――――ぁ?」
視界が回転した。
走り出した途端に視界が回転して、体が変に捩れて、いつの間にか澱んだ水の中にいた。
ビーストはその出来事に混乱した。
だが、すぐさま
一秒目で混乱を直して。
二秒目で状況を確認して。
三秒目で何が起こったのか理解した。
移動の最中に[濁流]にのまれたのだった。
通常、あまりのも高速で移動する場合は自分でさえも移動したことを理解する事が出来ていない場合が多い。またしても、意識に空白が出来た瞬間を狙われてしまったのだ。
「(っ…! ヌマクローの素早さから考えれば、絶対に動きを見てからのカウンター的な攻撃を仕掛けることなど出来ないはず、とすれば……)」

読んでいたのか?

ビーストは油断ならないと判断して、まずはあのヌマクローを始末しようと[メガドレイン]を使う。
それと同時に…いやそれより先に、ベルが地面のぬかるみに手を突いた。
「……技を借ります、《アクアファイター》!」
突然、ビーストの足元の水がせり上がって水の壁となって、行先を拒んだ。
[メガドレイン]のエネルギーはよどんだ水に吸い込まれてしまった。
水の壁はその役割を終えると同時に力を無くした様に、もとの水の形に戻った。
瑞はこの現象を昨日も見たことがあった。
話は昨日の夜に遡る。

* * * * * * * * *

瑞はなぜか、目が覚めてしまった。寝なおそうと思ったがなかなか寝付けなかった。
部屋の中はすっかり闇の中に閉ざされており、小鷹光が発する暗い炎がほのかなあかりを灯していた。
周りにはひこたちが暗闇に溶け込ましているかのように、心地よい寝息を立てていた。
てなわけで………。
一日目同様、瑞は全く寝ることが出来なかった。理由は簡単だ、ブラッキーは夜行性だからだ。
まあ、ゴーストの澪亮も一応夜行性のはずだが、彼女はいびきをかいて寝ていた。
「(はぁ、目が冴えて眠れない……)」
そんな訳で瑞にとってはまた鬱な夜だったりする。
「(まぁ、いいや…… しばらく外の空気に当たりに行こう)」
どうやら、彼女は物事をあまり気にしない性質らしい。
周りを起こさないように瑞は、そっとその場から立ち去った。

瑞は洞窟の外にある砂浜に出る。
今の季節に相応しい、冷たい風が彼女の毛皮を靡かせた。
月夜の砂浜には先客がいた。
ベルだった。
夜の浜辺で独り、潮風を浴びていた。
「瑞さんも、起きて来たのですか?」
ベルは気配を察知したのか、そのまま振り返らずに、瑞に語りかける。
「はい、海って静かですよね」
「ええ、そうですね、僕は夜の海が好きです。 ……ところで、瑞さんはリライブされたのですか?」
「う〜ん、この世界に戻って自分のダークエネルギーが消えたところから、恐らくそうでしょうね……」
「………………」
「………………」
会話が続かない。
気まずい雰囲気に堪えられなくなった瑞は苦し紛れに何かに口にしてみようとした時、
「……実は、瑞さんにとって悪い報せか良い報せか分かりませんが」
ベルが唐突に言い出した。
「ゴットフリート様が亡くなったようです」
「っ!……」
瑞はそれを聞いて硬直してしまった。
「部屋のコンピュータがフリート様の生命反応が途絶えたことを確認いたしました」
この時はまだ、メタグロスのゴットフリートは亡くなっていない、それをベルは知っているが、こういったことを伝えた場合、元人間の彼女はどのような反応を示すか、それを見てみたかった。
「ドリームメイカーも……これで解散でしょうね。後継者といえるドラゴン四天王達は全員死んでしまいましたし……」
「……そうですか、それは残念ですね……」
瑞のその返答に、ベルは不思議に思って問いかける。
「残念って…… 彼こそが、貴女をポケモンの姿に変えて、こんな世界に連れ込んだ張本人ですよ?」
瑞はそれを聞いてはっと気づいた。
そうだった、確かにゴットフリートこそが私をポケモンの姿に変えさせて、こんな世界に連れて来させて、さらにダークポケモンにされる苦痛も受けることになった……。
でも―― どうなのだろうか、内心ではこの世界に来て良かったと思っている自分がいるような気がしてならない。
私は、どう思っているのだろうか?
分からない。
まあ、分からないなら後で考えよう。
「……まあ、それもそうですし、私も元の世界が恋しいですけど… ベルさん、私がこの世界に来て初めて言った言葉を教えましょうか?」
ベルが頷くのを見て、瑞はあの時の口調をできるだけ再現しながら言う。
「ぐへっ、げほっ、がはっ……おお!!ブラッキーになってる!!やったwww」
「………クスッ……」
「……フフフ…あははは……」
二人は弾けた様にしばらく笑い続けた。

「瑞さんが面白い話を聞かせてくれたお礼に、僕もちょっとした芸を披露しましょうか」
そう言って、ベルは[雨乞い]を使用して、空に向かって[水鉄砲]を発射した。
彼が放った水は放物線を描いて地面に着いて渦巻きを成した、すると渦の中心から真上に噴水した。
昇った水柱はすぐに一匹の龍の形に変化した、水で作られた龍は雄叫びを上げるかのように空を仰いで、地上にいる瑞を目掛けて突っ込んだ。
それを見た瑞は慌てて避けようとしたが、水の龍は地面すれすれに低空を飛行して。すぐに瑞の姿に丸呑みにして、透き通った腹の中に納めてしまった。
たくさんの気泡を吐き出しながら龍の腹の水の中でもがく瑞の姿を確認して、ベルは[水鉄砲]を止めた。その直後に龍の姿が崩れて、ただの水に戻った。
「な、いきなり……」
水を飲んでむせて苦情を言う瑞に、ベルは独り言のように呟く。
「まだまだ僕も…… カール様の域には達していないもので、操る範囲も雨が降っている状況下での[渦潮]で囲っている範囲内の水だけに留まるし、操った水自体に殺傷力を与える事ができていない。
もっとも、とっくの昔に破門を受けた僕が言うのもアレですが……」
その眼差しはどこか寂しそうだった。
瑞は、ふとあの水の動きを見たことがあることを思い出した。
瑞がこの世界に来て二日目のこと、こんな風に水を自在に操る相手と二回、戦った。
『さあ、そろそろフィナーレ(終わり)にしようか』
忘れもしないドラゴン四天王の一人であるカール。
「《アクアファイター》とは技術の名前です。自分が発生させた水を自在に操る技術、操る度合いは術者の力量に比例し、その応用の範囲は無尽です。
カール様に冠せられた【アクアファイター】とは、それを極めた称号みたいなものです」
そう言ったベルに瑞は問いかける。
「カールは……本当に死んだのですか?」
カールの死はガムから聞いたものの、未だに自分でその事実を信じきれていなかった。
「死んだことだけは確かなようですが、遺体は見つかっていません」
ベルは必死に無表情を作っているようだったが、瑞にはそれが奥に隠された悲しみをより際立たせているように見えた。
「…………」
瑞は掛ける言葉が見つからずに、黙る事しか出来なかった。


* * * * * * * * *

話は戻る。

ベルの《アクアファイター》には不完全な部分もあったが、それでも動きを封じるのに充分だった。
ビーストはすぐに[冷凍ビーム]を撃とうとする、もしも水の壁が出来ても凍った壁を[瓦割り]して突破しようとする策もあった。
しかし、ベルはさらにその先を読んでいた。カールと戦った瑞も後で知った事であったが、アクアファイターが操るものは水の形状だけでなくて、性質もある程度まで操ることもできるのだ。
技と技の融合技のさらにその先、技と技術を融合させる。
「《アクアファイター・ミラーコート》!!」
せりあがった水の壁は巨大な鏡面となって、[冷凍ビーム]を反射した。ビーストの体についた水が一瞬のうちに凍りついた。
体に付いた氷を剥した、その隙に左右からプリンスの[ウェザーボール]と瑞の[シャドーボール]が飛んできた。
すかさず、避けようとするが、ベルはそれを許してくれなかった。
「《アクアファイター・凍結》!!」
途端にビーストの足が氷で固められ動けなくなった、もっともビーストの力であればこんな氷などは砕けるのだが、不意を突かれたこのときは反応が追いつかなかった、無理だった。
成すすべも無しに、[ウェザーボール]と[シャドーボール]の挟み撃ちに遭った。
「あがっ! …くそっ!」
思うとおりに事が進まないビーストは声を荒立てた。
「貴方の行動パターンや癖は既に調べ尽くしてあります。それに、どんな技も使う前には何かしらの事前動作と言うものがありますので、それに[みやぶる]を使ってしまえば、僕にとって貴方の行動など簡単にお見通しですよ」
ベルが言う。
「黙れっ!!」
ビーストは[地震]を発動させた。
衝撃は吼える。その咆哮は天をも震わせる程であった。
一瞬、体が浮いた気が、いや本当に浮いていた。その上昇から着地にいたる瞬間、再びテニスボールがラケットで跳ね返られるように体が再び宙を舞うこととなる。
地震という言葉には役不足だ。
大きな悪魔の口のようだった。その牙は彼らを、噛み砕き、やがて全てを咀嚼して 飲み込んでしまったかのごとくだった。
その地震の衝撃で体勢が完全に崩れた瑞たちが動けない隙に、ビーストは一気にたたみ掛けようとしていた。
その思惑は成功し、始末すべく技をだそうとした、その瞬間に……

頭上に雷が叩き落とされた。
「!!!!」
霹靂だった。
あまりに突然の攻撃にビーストはしばらく痺れて動けなくなってしまった。いや、理由はそれだけじゃない、
電気攻撃は神経系に直接作用する分、外部的な痛みではなく内部的な痛みである、普通の技のダメージとはまったく違い防御が難しい。
地震の衝撃によるダメージで、少なくとも半径50mの敵は動きが封じ込めているはず、なおかつ[かみなり]のような大技には精神の集中が必要になるので使えないはず。
では、空を飛んでいる伏兵がいるのだろうか…とビーストは空を見上げる。
そこには荒天の雨雲と真っ黒な闇しか存在していなかった。


ビーストの予想は正しかった。半径50mの敵は動きが封じ込めていた、しかし、200m先の相手の動きは封じ込める事が出来ていなかった。
しかも今は真夜中である、200m先に相手がいると言うこともビーストは把握できなかった。
そして、ビーストとベルたちの戦場から200mほど離れた場所にて……。
「やった! 当たったですよ!」
ひこはかけていた「ロックオン眼鏡」を外して、嬉しそうに隣に座っているクラスタに言った。
「フフッ♪ おめでとう、ひこさん」
クラスタは顔を綻ばせて彼女に言った。

*******************

もういちど話は遡る。
「いや! そんな、あの最強ポケモンと戦うなんて私には到底できないって! 私が前線に出たところで足ひっぱちゃうのが関の山ですって!」
昨晩の作戦会議の際、ひこはこう言っていた。
「そんなこと言われてもなぁ……」
「そうだぞ、抜け駆けはいけないぜ」
プリンスが困った返事をして、澪亮が注意する。
「まあまあ… アレと戦うのですから、そう言われる事も仕方ないですよ。でも、ひこさん。ここはみんなの力を合わせないと勝てません。
前線が嫌でしたら、後方支援に回ってもらうことになりますけど……いいでしょうか?」
ベルが言った。
「後方援助ですか…… 具体的には何をするのですか?」
ひこの質問を光が代弁するように尋ねる。
「簡単です。狙撃してください」
「狙撃? それって、離れたところから銃でバーンと撃つアレですか?」
「いえ、銃狙撃ではありませんよ、大雨状態の中で[雷]でビーストの頭上への狙撃をお願いしたいです。ビーストが挑発に乗って[雨乞い]を使った後は、僕とプリンスとで協力して、常に[雨乞い状態]にしておきますので」

そんなわけで、ビーストと直接戦うのが嫌だったひこは、離れた場所からの[雷]による狙撃を任されていた。
[充電]してからの[雷]なので、その基本ダメージは120×2×1,5=360ダメージである。
さらに、[かぎわける]を使って命中率を底上げすることで、この長い距離からの技の狙撃を可能にしていた。
隣にはキルリアのクラスタが座っていた。イメージとしては、痩せ型の体形で肩までかかる髪と色白な肌を持つ白衣の明るい青年。擬人化絵にしてみると面白そうだと思った。
彼は今、ビーストに[封印]を掛けて[念力][影分身][瞑想][サイコキネシス][未来予知]の5つをビーストに使えなくさせている。
(つまり、エスパー技を封印したわけではないので、実はビーストは[どわすれ]ならば使えたわけだが)
それに乗じてトレースした特性:プレッシャーでビーストのPPも同時に減らしているそうだ。
ふと、ひこはクラスタに気になっていたことを尋ねてみる。
「ところで[封印]って、いつ掛けたのですか?」
「ビーストが放った、と言うかこぼした[水の波動]に[テレポート]を使って当たりに行った、結構つらかったな」
「……相手の攻撃に当たることが条件なんですか?」
「うん」
クラスタは平然と即答した。
「こんなに離れていても通じるものでしたっけ? 確か、ゲームでは入れ替えると効果を失ったような」
「ご名答。でもそこは僕の空間加工術の出番ってわけです。僕とビーストとの間に生じている距離の概念を縮小させて、技や特性の効果範囲を間接的に拡大させているわけさ」
「……なんでもありですね」
「そんなこと言わないでくれ、かっこいいのは聞こえだけだからさ。こんなのは[神秘の守り]をいじくって、おおべやのたまの効果のもどきを加えたものでしかないし、
地図は暗記しなきゃいけないし、手間がかかるし、条件は厳しいし、空間加工術を使おうと思う物好きはステア師匠と僕くらいしかいない理由も考えて欲しいな」
そう、クラスタは答えた。
言うまでも無い事だが、[封印]による技の封鎖の影響はかなり大きかった。1,5倍のエスパー技をすべて封じる以外に、[影分身]の封印で幻影による回避率増加の無効化、
さらに[未来予知]の封印による先読みの能力の激減があって、ビーストの能力を削り取るのに一役どころか三役かっていた。
「相手側からの技はこっちに来ませんよね?」
「大丈夫、ひこさんみたいに装備や環境を揃えない限り普通当たらないから。僕達を狙って当てるために集中する時間はベルさんは与えないだろうし、仮に当たったとしてもここまで来るまでにダメージは半減以下、距離の壁って大きいよね。さっきの地震だってちょっと揺れただけだし」
「なるほど」
「注意するべきことは、x軸とy軸というものはみんなきちんと定めるけど、忘れやすいのはz軸の調整だよ。うまく行けばここからでも急所を狙うことが出来る。それに気をつけていれば空間加工も遠隔攻撃もうまくいく、忘れないでね」
「は〜い」

* * * * * * * * * * *

さて再び話をビーストとの対決の舞台に戻そう。
[雷]を受けたビーストに、[地震]の衝撃から立ち直った瑞とベルの攻撃が来た。
すかさず、幻影を発生させる。だが、あっさりと本体を看破されてしまい、急いでその攻撃を防御する。
そして、[アイアンテール]を使って攻撃と同時に牽制させる。
「俺を怒らせた罪は重い、無間地獄に堕ちるが良い」
ビーストの言葉に瑞は叫び返す。
「私は破壊だけの存在を神だなんて思わない! 堕ちるのはお前だ!」
「創った物を責任もって破壊するのは神の義務だ、邪魔するものから先に消す」
瑞はふん、と鼻を鳴らして。
「仮に神は破壊する義務があるとしても、私達には自分の命を最後まで精一杯生き抜く義務があるはず、例えそれが神の意志に反しているとしても」
「……黙れ、お前は目障りだ」
ビーストは右手を挙げて、何かの技を発動させようとする。
しかし、そこに再び……

「!!!」
[雷]が叩き落されて阻止された。
ビーストは空を見上げる。そこには、やはり荒天の雨雲と真っ黒な闇しか存在していなかった。
「(くそっ、居ないか…いや、まてよ、誰が使ったかは問題ではない、使えなくすることが必要だ)」
ビーストは横から飛んできたベルの[水の波動]を[光の壁]で防いで、[あられ]を使った。
空中の雨雫はたちまちに大きな結晶を作り出して行き。
硬い氷の粒が皆を打ち付ける。
プリンスの姿が変化した。
「やった、僕の好きな霰雲形態だ!」
プリンスが呟く、どうやら彼はポワルンのあられバージョンが好きらしい。
一方、ビーストは[リフレクター]を張って、降る付けるあられを防いだ。
「では、ユーリ様直伝! [ふぶき]!!」
突如発生したブリザードがビーストを襲った、ビーストも負けじと[だいもんじ]で吹雪をまるごと融かし去ろうした。
ベルはすぐさまプリンスを援護するために[吹雪]を使い、瑞はプリンスの[ふぶき]を[手助け]する体勢に入った。
空中で冷気と熱気がぶつかり合った結果、二匹の[吹雪]は逆に[大文字]を飲み込んで、ビーストの体を凍りつかせようと迫った。
「小癪な、ならば……!」
ビーストはすぐに[砂嵐]を巻き起こす
プリンスの姿が瞬時に変化した。
吹雪の勢いが衰えたところに[だいもんじ]を使って、吹雪を融かし切る。
吹き付ける砂は全員の視界を奪う、ビーストはその砂に隠れて必中技の[スピードスター]を連射する。
砂の向こうで瑞の悲鳴が聞こえ、彼はニヤリと笑う。だが…
「プリンス! 今です!」
その瞬間に砂の中から、砂嵐の影響を受けないベルが突然現れて[瓦割り]で[リフレクター]を叩き壊した。
ビーストはすぐさま[燕返し]でベルを弾き飛ばしたが。

その時にはもう遅い……
現在、岩系最強の威力を持つ[ウェザーボール]が……。
――どでかい岩の塊が、ビーストを直撃した。

岩系最強といったら、普通は[岩雪崩]を連想する方が多いと思う。だが[岩雪崩]のダメージは75、対して[ウェザーボール]のダメージは100である。
[砂嵐のウェザーボール]は実に[岩雪崩]の1,3倍の威力を有している。
「二人とも! てだすけをお願いします!」
「了解!」
「は、はい!」
プリンスの声にベルと瑞が[手助け]の体勢をとる。
そして、さきほどの2倍以上の重さを持つ[ウェザーボール]が発射された。
すかさず、[かわらわり]で粉々にするビースト。
「(隠れている奴はポワルンか……、そうと分かれば簡単だ)」
彼は[日本晴れ]を発動させた。曇り空は一斉に晴れ上がって、夜に輝く月が顔を出した。
プリンスの姿も再び変わる。
そして、すぐに[地震]の体勢に入る。ビーストからプリンスの姿は見えてないが、この方法であれば確実に効果抜群の技で仕留める事ができる。
……しかし、何故戦いの序盤に[雨乞い]を使った理由をビーストは完全に忘れていた。
気絶から回復をした光の[火炎車]がビーストの背後に強打して、前のめりに転倒した。光は倒れたビーストの背中を踏むにじりながらかけていった。
もしも澪亮がここにいれば、罵声をたくさん浴びせてくれると思うのだが、残念ながらそれは叶わない。
すぐにベルが[雨乞い]を使用して、晴れていた空は曇天になり大雨が降る。
「く、くそ……」
「チャンス!」
すぐに、瑞が追い討ちをかけようと[電光石火]を使う。だが……
「うぎゃぁ!」
途中で、何かの膜の様なものにかかって。
全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げて、筋が断絶してしまうかのような感覚に陥る。
前に透明なバリアが現れて高電圧が流れて、瑞はそこに倒れる。ビーストはそんな無数の見えない壁を次々と作り出した。
「《トラッピングバリア》だ…。近付くとダメージを受けるぞ」
ビーストがせめてもの憐れみか皮肉か忠告をした。
「……[光の壁]か何かに[10万ボルト]などの特殊攻撃技を仕込んで、相手が触れると発動する……まさしく、罠の障壁ですか」
ベルの考察にビーストが肯定する。
「正解だ、愚民にしては頭が回るじゃないか」
「ならば…、遠距離攻撃はどうですか?」
ベルがすかさず[水の波動]を撃つ、すぐに横からは[ウェザーボール]、上からは[雷]が叩き落された。
縦・横・高さの三ベクトルからの連携、さすがにこれは避けられない。
しかし……

「それが、どうした」
爆発で上がった煙の中からは、平然とした顔のビーストが現れる。手はバチバチと漏電を起こしていた。
「か、[かみなりパンチ]ですべて叩き落したのか……」
「俺が本気さえ出す事が出来れば、こんな芸当など余興にしかすぎん」
その手はそれらの攻撃を正確に打ち落としていた。純白の冷たい腕に、水や電撃の温かみさえも、感じる間もない、一瞬の出来事だった。
「お遊びの時間はここまでだ」
ビーストは瑞たちに[シャドーボール]や[冷凍ビーム]を撃つ。
光と瑞はすぐに避けたが……
「「!!」」
避けた先の《トラッピングバリア》に引っかかってダメージを受けた。
斬鉄に使われるような細い細いピアノ線で編みこまれた網柵に自分から突っ込んでしまったかのような感覚だった。
対して、ベルは避けずに[守る]を使ったが、その[シャドーボール]の威力は凄まじく、
勢いを抑えきれずに後ろの《トラッピングバリア》に引っかかった。
「ガっ…!」
背中に受けたその衝撃にわなわなと体を震わせて、不器用なマジシャンのカードのように、パサリと地面に崩れ落ちた。


――――――――――――――――――――――――――


「ふん・・・」
「・・・」
「(目が・・・見えない・・・両手も思う・・・ように動か・・・ない・・・全身がしびれて・・・身体の・・・自由も・・・利か・・・な・・・い)」
ゼロの手により、一瞬にして視力・両手を封じられ、麻痺状態に陥ったたガム・・・
ガムはこの世界で何度か自分の「死」に直面してきたが・・・今度こそ絶対的な「死」をゼロによって突きつけられた・・・そう感じるしかなかった・・・
「(か・・・勝てない・・・僕達が・・・どんなに死力を尽くしても・・・倒れない・・・この化け物に挑むこと自体・・・間違いだったのか・・・)」
「ククク・・・おいお前? まさか、このまま楽にしねると思っているんじゃねぇだろうな?」
ゼロはその焼け爛れたその醜い顔から[にらみつける]を放ちつつ、倒れているガムへ対し詰め寄ってきた・・・
「最初はじわりじわりなぶり殺しにしてやろうと思っていた・・・が・・・」
ゼロはガムの両耳を掴みあげると・・・
「お前は・・・この俺の姿とプライドをズタズタにしてくれたからなぁ・・・」
ゼロの表情がみるみる変貌していく・・・
「この・・・ド畜生があぁぁぁ!!!」
「うう!!・・・」
ゼロはもう立ち上がる気力さえないガムに対して[かわらわり]の殴打を繰り返す!!
「この俺が恐怖を感じたんだぞ!?『冥府の司祭』のこのゼロがぁぁぁぁ!!!」
ガスッ!グシャッ!ザクッ!
「う・・・が・・・あぁ・・・!!」
ゼロはえぐられたガムのわき腹めがけて[ドラゴンクロー]で突きまわる・・・!!
「死刑だ!!お前はただ殺しただけでは物足りん!!・・・完全にジャンクして精神世界にも行けぬ程醜い姿にしてやる・・・!!」
ゼロはガムの身体を両腕で持ち上げ、頭と両後ろ足を左右に引っ張り、胴体を真っ二つにひきちぎる体勢に持ち込んだ!!・・・[ドラゴン大切断]の体勢だ!!
「う・・・が・・・あぁぁぁぁ・・・」
次第にガムの胴体からはえぐられたわき腹を中心にして、どんどん裂け目が入っていく・・・
「・・・しかし・・・」
突然ゼロの両腕から力がとけ、[ドラゴン大切断]を解除してしまった・・・
「げほ!」
ドサッ・・・
「ただ殺しただけではつまらん・・・ここはお前に『決定的な敗北』を味合わせてやろうか・・・」
ゼロはそう言うと、目の前に倒れていた瀕死のフィのところに近づき・・・ひょいと片腕で軽く掴みあげた
「(ま・・・まさか・・・ゼロ!や・・・やめろぉ・・・!!)」
ゼロはそのままフィの身体を丸ごと[ヘルズクロー]の握力一本で握りつぶしにかかった!!
「お前の『大事なもの』さえも守れなかったという『決定的な敗北』を味合わせてからにしてやる・・・心配するな・・・このイーブイの死を見届けた後、お前もすぐにこいつの後を追うことができるんだからなぁ・・・俺は慈悲深い男なのだ・・・ヒヒヒ・・・」
「(フィ・・・お前は僕が・・・僕が・・・)」
フィを助けたい一心でも目が見えず、ズタズタの身体で這うことしかできないガム・・・
「そうだ、良い事を思いついたぞ・・・」
何を思ったのか、ゼロはまたもフィから[ヘルズクロー]を解除した。
そうすると、そのまま片腕一本で掴んだ状態で、先ほどガムとアカリンが[オーバーヒート]でぶち開けた66階の大穴にまで持って行った・・・
「ククク・・・ヒヒヒ・・・」
ゼロはいびつに笑いながら・・・まるで、これからやることが楽しみで仕方がないように言い放つ・・・
「ここからこのイーブイを放り捨てたら、さぞ面白いものが見られるだろうなぁ・・・潰れたトマトができるか?・・・ヒャハハハハ」
なんと・・・! ゼロはフィをそのまま66階からほうり捨てるように腕を大きくかかげ
あげた!!
この66階からまっ逆さまに落ちたら・・・受身を取ろうとしても、待ち受けているものは絶対的な『死』しかない・・・!!
「(や・・・やめろ・・・たのむやめて・・・やめてくれ・・・!!)」
ガムはもう感情さえわからなくなったような表情でゼロにどうにかして訴える・・・
「(ゼ・・・ロ!・・・お前は・・・どうして・・・そこまで・・・殺戮を楽しむ!?・・・人を・・・ころすことが・・・そんなに・・・楽しいのか・・・!?)」
「・・・」
そのガムの訴えにゼロの動きが一瞬止まった・・・
「ふん・・・ガム、たしかお前は人間界出身だったよなぁ・・・」
ゼロはフィを片腕一本で掴んでかかげている状態で静かに・・・かつ残酷に答えた
「お前の住んでいた人間界に住んでいる奴等のいたぶりや犯罪・・・猟奇的行為に理由があったか?・・・ホラー映画のゾンビやモンスター達に理由があったか?」
「(な・・・)」
ゼロはニヤァ・・・と笑いながら誇らしげに言い放つ
「退屈なんだよ・・・この世の中が・・・あくびのでるような平和がな」
「この俺がそんな『退屈』に『混乱』を呼び、終止符を打ってやったんだ・・・逃げ惑う奴らやドリームメイカーの奴らの楽しそうに殺しを楽しむ姿ったらなかったぜ・・・」
ガムは力が出ずともそのゼロの言葉を聞いて、再びこみ上げてくる怒りを抑えきれなかった!!
「(バカな!?・・・ドリームメイカーにも・・・平和を望んでいる人達が・・・たくさんいる!・・・ファビオラさんや・・・アカリンとだって心を通わせることができた・・・お前は・・・人間を・・・ポケモンを・・・なんだと・・・思っているんだ・・・!?)」
「・・・フフフ」
ゼロがまたしても不適に笑う・・・・
「おそらくお前は俺が『人間もポケモンも戦う道具だ』と答えるとでも思っているのだろう?・・・違うな」
「(な・・・何!?)」

「人間なんて所詮 血のつまった袋なんだよ・・・」

「(・・・!!)」
まるでそれがゼロの人間に対する見方のように・・・誇らしげにそう言い放つ・・・
「人間・・・ぶよぶよしてクズのような生き物だったが・・・この俺の最も嫌悪する存在だったがな・・・」
そしてゼロは、いびつに笑いながら言い放った
「それに比べてこの世界はいいぞ、どんなに殺しをしても罪にはならなん。むしろ殺れば殺るほど名誉だと称えられる。俺にとっては天国のような場所だ」
ゼロは話し終えると再びフィを片腕高く持ち上げ、66階から放り捨てに入った!!
「さあ、おしゃべりはここまでだ!!イーブイの処刑に移ろか!・・・ハーッハッハッ
ハ!!」
「(や・・・やめ・・・ろぉぉ!!)」
「ははははは!!」
自分に戦う力が残っていたら!!・・・今ほどガム自身が己の無力さを呪った時はない・・・

・・・しかし、その時!

バチバチバチィッッ!!!

「う・・・うぐおぅ!?」
一瞬ゼロの身体に電流が流れた!!
「な・・・何だとォ・・・!?」
ゼロの身体を[でんじは]が直撃したのだ!!
「(な・・・なんだ・・・って!?)」
フィが[自由進化]を使ったのか?・・・いや、フィはそのままイーブイの姿のままだ。
しかし、[でんじは]はフィの身体からゼロへと放たれ、その攻撃はゼロを麻痺状態へと陥れた!
「ぐうぅ・・・ぼ・・・防御が上手くいかん!!」
1ターン・・・1ターンにも満たないほどの[自由進化]を使ったと思われるフィの身体から放たれた[でんじは]により、ゼロもまた身体の自由を失いフィを66階の地面に落としてしまった!
「お・・・おのれえぇぇぇぇ・・・おのれえぇぇぇぇ!! 最後の最後まで邪魔しやがってぇぇぇぇぇ!!!」
その時・・・両手が使えず目も見えずに倒れているガムの心の中に語りかける小さな声があった
「(ガム兄ちゃん・・・)」
「(・・・?)」
「(こいつを・・・こいつを倒して!!)」
「(?・・・フィ・・・フィなの・・・か!?)」
言葉はまだ喋れないはずのフィ・・・それがフィの言葉だったのかどうかわからない・・・しかし、心を通じて何者かがガムの中に語りかけた・・・そんな気がした
「う・・・うわあぁぁぁぁぁ!!!!」
それまで完全に戦意喪失していたガムから、ほんの・・・ほんの微力ながら再び戦う闘争心が戻った!!
「フィを・・・アカリンを・・・みんなを・・・みんなを・・・守るんだ!!」
しかし・・・視界を封じられ、両前足をえぐられ、全身に満足な自由な力さえも失った今のガムにできることは・・・これしかない!
「な・・・なにを・・・はなせ!! はなさんかぁ!!」
ガムは前方に向かって[たいあたり]気味にゼロにもたれ掛かり、そのまま体重にまかせて[のしかかり]に近い状態に持ち込んだ!
「う・・・うおぉぉ!?」
しかもその場がよりによって、ダブルブースターが吹っ飛ばした66階の壁の無い場所だったのだ!!・・・ガムとゼロはそのまま66階という超高層から塔の外へ重力に任せ、まっ逆さまに落ちていった!!

「うおおおおお・・・!?」
「うわあぁぁぁぁ・・・!!」

66階から63階へ・・・63階から60階へ・・・墜落速度はどんどん増していく!
「は・・・はなせぇ・・・お前も死ぬ気か・・・?」
「もとより承知の上・・・左手も使えなくなった時から・・・もう、これしかお前を倒す方法がないと思っていたんだ・・・」
ガムとゼロは地に向かって45階まで堕ちていく・・・!
「え・・・ええい!俺の知ったことか!!お前一人だけでしねぇっ!!」
ゼロがガムの顔面に対して[ヘルズクロー]をくりだそうとしたその時!!
「ウ・・・ウウオォォォォォ―――――ッ!!!!」
「うおっ!?」
ガムの[ほえる]により、ゼロは[ヘルズクロー]を強制解除させられてしまった・・・!
まさかこの状態・この体勢から、なおもワザを繰り出してくるとはさすがのゼロも予期せぬ事態だっただろう・・・!!
「口と耳を残しておいたのは失敗だったな・・・身体が・・・使えなくても・・・・ブー
スターは技が繰り出せるんだ!!」
ガムとゼロは地に向かって30階まで堕ちていく・・・!
「ぐうぅ・・・おのれ・・・おのれぇ!!」
ゼロがガムを始末することをあきらめ、突き飛ばして[そらをとぶ]で逃れ様とした時・・・
「爆発しろ!!・・・[ほのおのうず]・・・最大パワーッッ!!!」
「うがあぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガムの口から発した[ほのおのうず]がゼロとガムを縛り付け、離れられないよう2人を拘束した!
!!・・・この体勢は、ガムがこの世界で1番最初に習得した垂直落下式の
「さ・・・最大で最後の・・・」
「うう・・・」
「ブースター・・・」
「おおお・・・」
「ローリング・・・」
「があぁぁぁ・・・!!」
「クラッシュだぁぁぁ――――!!!!」
ガムはゼロが[そらをとぶ]を使って空へ逃れようとすることさえも許さない・・・!
「リーディ戦法そのB・・・獲物は逃がすな!!」
「ゼロ・・・俺といっしょに・・・地獄に行こうぜ―――!!!」
加速が続く墜落の中、脱出不可能な体勢でガムもゼロも受け身さえとれない状態へと陥った!!
ガムとゼロは地に向かって15階まで堕ちていく・・・!
「はなせ・・・はなせ―!! 俺は地獄に落ちたくない――!!」
「黙れ・・・! お前は・・・そうやって命乞いした者達を何千何百人も殺して来たんだろう・・・!?潔くこれでしねぇ!!」
「ギャァァァァァァァァ!!!!!」

[ほのおのうず]の火力はさらに強まる一方だが・・・ガム自身からはもうほとんどの感覚が消え失せていた・・・
ガムは・・・また思い出していた・・・

(『逆境』とは、自分の甘い予想とはうらはらにとてつもなく厳しい状況においつめられた時のこと)
(・・・そして、男の成長に必要不可欠なもの)

「僕は・・・死にたくない・・・あの時・・・ゼロに両手と目をつぶされた時程そう思ったことはなかった・・・死んだらもうアカリンと触れ合えない・・・お互いに愛し合うこともできなくなるんだ・・・」
・・・でも
「でも・・・だからと言って諦めたらどうなる?・・・ここで自分が諦めたら残されたアカリンはゼロに犯され・・・殺される・・・僕とアカリンとの間に生まれてくる子だってこういう状況で諦める子になってしまう・・・」
いつの時代でも、命に代えるべきものがこの世界にはいくつもある・・・ガムはこの世界に送られてきたことにより、再びそれを見つけることができた・・・そう思っていた。
「(今・・・僕は持てる力の全てを使い果たした・・・アカリンとフィを救えたのなら本望だ・・・)」
今のガムにもう心残りはなかった・・・全ての力を使い果たし、大切な者を守って果てるならば本望だ・・・少しはヒーローらしい最期が迎えられるかもしれない・・・
「(アカリン・・・最後まで一緒に居られなくてごめん・・・フィと・・・そして僕の君の間に生まれる子を頼む・・・)」
思えばガムは自ら望んでこの世界に引き寄せられてきたのかもしれない・・・人間世界からこの世界へ・・・
大好きなポケモンになるために・・・アカリンという女性とめぐり会うために・・・自らがヒーローになれるか否かを確かめるために・・・命を手段に愛する者を守るために・・・


これでこの世界も、少しは平和に近づいたかな・・・





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[866] 本格リレー小説《Dream Makers》 8日目 (5)
あきはばら博士 - 2010年09月11日 (土) 16時15分

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それから暫く、三人は成すすべなく攻撃を受けるしかなかった。
なにしろビーストの攻撃力はすさまじい、攻撃をぶつけ返して相殺をするのは不可能でなので防御は無理。
だからと言って、避ければそこに見えない《トラッピングバリア》の罠が待っている。
プリンスにしても、《トラッピングバリア》がどこにあるのかわからない以上、動くことができず。
だからといって攻撃すると相手に自分の位置が分かってしまう恐れもあってうかつに手を出せず、その様子を見ることしかできなかった。
とうとう、三人は、もう少しで掴むはずだった希望を諦めるかのように 倒れた。


「ふはははは! やはり、ポケモンごときではこの俺に勝てるわけが無い」
その場には非情なる破壊者の笑いだけが響く中。
「小鷹さん、小鷹さん…。動けますか?」
ベルが小声で話しかける。
「ああ、大丈夫だ。あと一,二発は堪えられると思う」
反応して光も小声で答える。
「落ち着いて聞いてください、さっき[みやぶる]を使って、ここからできるだけ壁に触れずにビーストのもとまでたどり着く道を見つけました。一つの壁を壊しさえすれば、そこから一直線でたどり着けます。
いまから僕が駆け出してその壁を壊しますから、小鷹さんは僕の通った道を正確にたどってビーストに攻撃を仕掛けてください。
ただし、実はビーストのすぐ周囲にも《トラッピングバリア》が囲って護られているようです。……なので、それには光さんは壁抜けの攻撃をして下さい」
「壁抜け……  アレか、分かった。やりましょう」
「では、互いに健闘を祈りましょう」
光は彼の言葉を信じて、標的をじっと見据える。
「さて、そろそろとどめを刺すとするか」
その声と同時にベルが立ち上がって、ビーストに向かってジグザグに走り出した。
これには一瞬ビーストも焦った。
自らが張ったバリアを避けて駆けて来るからだ、しかしその焦りも無駄であるとすぐに判断する、どんなに避けて通っても必ず二つの《トラッピングバリア》に当たるようになっている、
ベルは一枚目の《トラッピングバリア》を[瓦割り]で粉砕する、すぐに仕込まれた[ソーラービーム]がベルの体を襲った。
雨乞い状態で威力は半減しているといっても、効果は抜群だったが、ベルは[まもる]で何とかその攻撃を堪えた。
「ふん、愚かなものだな」
息もつかぬ間に、今度は光が同じ場所を通ってビーストに向かっていく。
「(一つは壊されたが、俺の周りにもう一枚仕掛けてある。しかもこいつは特製で[破壊光線]が仕組んである壁だ、あいつが引っかかった出鼻に[気合パンチ]を打ち込んで葬ってやろう)」
そうビーストは考えて、精神を集中させ始める。
しかし、その光の攻撃は……
「なぁっ!?」

《トラッピングバリア》をすり抜けて、ビーストに命中した。

そのビーストの驚愕と同時だった、その衝撃に両足が浮いてしまった体が周囲を囲っていた《トラッピングバリア》に接触して、その場で爆発を起こした。
壁抜け。
一見有り得なそうなものだが、ポケダンにはそういう技が確かに存在する。
味方をすり抜けて、攻撃の衝撃波を2マス先の相手に攻撃を与える技、総称して《山越技》とも言われている。
もちろん、厚い岩の壁をすり抜けることは出来ないが、薄い壁ならば向こう側に衝撃波を与える事が可能だ。
今回、光が使用したのは[電光石火の遠当てバージョン]
正直、光にとっては失敗して《トラッピングバリア》に掛かったらどうしようかと内心すごく心配だったそうだが、万事うまくいったようだ。
ビーストが自らの罠に引っかかってダメージを受けた隙を突いて、光はそのままビーストに向かって[突進]していった。
「ふ、バカめ」
ビーストは早くも持ち直しており、そのままカウンター気味に光の首をへし折ろうと[気合パンチ]を打ち込む。

しかし、光はそれを避けようともしなかった……。
それどころか、額でビーストのパンチを受け止めた。
普通は首と言うものは体中の一番の弱点になる。しかし、それは直立動物の場合だけだ。
四肢歩行をする動物にとっては、走っている時に一番最初に障害物にぶつかる部分が頭であって、
人間の骨とは比較できないほど、首の骨は頑丈に出来ている。
つまり、四肢歩行をするギャロップの首をへし折ろうだなんて、全く無謀なことだった。
「(な、なにぃ!!)」
ビーストはその事実に動揺すると同時に、ギャロップの額に生えた角に自分の拳を突き刺してしまった痛みに気付いて、悲鳴をあげる。
すかさず、残った左腕で光の首を薙ごうとするが、光は首を下げてしゃがんでその攻撃を避ける。
そして、立ち上がり様にビーストのアゴにアッパー気味に頭突きした。
「ぐぁ!!」
ビーストはひるみながらも、すかさず、光の左前足に向かってアイアンテールを叩き込んで転倒させようと試みた、が
左前足は数cm右にずれただけで静止した。
《馬の足の怪我は生命の終わり》だと言われるように馬の足は怪我すると治りにくい、そこから弱点は足だと言う認識があるがそれは大きな間違えである。
もしも、弱くて怪我をしやすいところならば、その部分の治癒力は高いはずである。つまり……
どんな衝撃を加えようとも怪我などしないと言う絶対な自信があるからこそ、治癒力というものがほとんど存在しないのである。その頑丈さは前述の首の骨よりもさらにかたい。
さらに直立歩行の動物よりも四肢歩行の方が言うまでもなくバランスが取れている、なので一本の足を足払いをされたところで何の意味もない。(もっとも、直立歩行が極端にバランス悪すぎる格好であるだけなのだが……)

「効かないぜ……!」
光はニヤリと怪しく笑んで、前足を軸にするように体を素早く半回転させる。
そして旋風のように、ビーストに強烈な後ろ蹴りを撃ち込んだ。
馬が走り出す瞬間は後ろ足の筋肉だけで地面を蹴って走り出すように、後ろ足の筋肉と言うものは実に強靭である。
例えば、追われるシマウマが追ってきたライオンを蹴り殺すことがある、つまり馬の後ろ蹴りは身体の中で最も硬いと言われている頭蓋骨を粉砕させるほどの威力を普通に持っているというわけだ。
但し、それは普通に蹴った場合での話だ、今のように曲げた足を瞬間的に伸ばす動作と遠心力を合わせると言う格闘技術を絡めて蹴った場合はその威力も……約1,5倍に跳ね上がる。
なおかつ、ギャロップは特攻よりも攻撃が高い炎ポケモンであり、ダイヤモンドに匹敵すると言う蹄による蹴撃であるので形容するとすれば金属のハンマー、その破壊力はここで語るまでもない。
それはビーストの皮膚は裂けなかったものの、内臓に損傷を負わすのに充分だった。

だが…、それで終わりではなかった、ビーストはその痛みですっかりこれで終わりであると油断してしまった。
光はさらに、もう一度回転して第二発目の蹴撃、つまり[にどげり]の二撃目をビーストに撃ち込んだ。
ボクシングのワンツーの例に挙がるように、二連続攻撃は一回目はフェイントであって一種の捨て攻撃になる。
そして一回目の攻撃部位に守りが集中している時に、ノーガードの部位に二回目の攻撃が叩き込まれる。
つまり、本当の攻撃とは一撃目にはなく、……二撃目にある!
ちなみに、かのサンダースのリーディはそんな実用的でテクニカルな[にどげり]を愛用していたわけであるが……。
光の二度目の蹴撃はビーストの急所を貫いた。
彼の無音の悲鳴が駆け巡る。
ただ、そこは流石のビーストだった、攻撃に吹っ飛ばされた後に、すかさず[燕返し]を使用して光に向かって攻撃を仕掛けようとした。
しかし、光は静止状態からの[電光石火]で、その[燕返し]を弾き飛ばした。
「!!」
ここにもしもガムとアカリンがいれば、ガムは《グレートホーン》、アカリンは《朱転殺》と言うだろう。
居合い、基本はそれだ。
摩擦係数μを持ち出すまでもなく、運動する物体よりも静止する物体の方が地面との摩擦力が高くなる、踏み出すその瞬間が最も地面に力を加えることが出来る点である。
つまり、敵の攻撃を集中して見極め、ぎりぎりまで引き付けてから、自分の最大以上の力で押し返すのである。

静止状態からの攻撃。
速さでなく攻撃に重さを加える。

さらに忘れてはいけないことがある、居合いそのものだ。
居合いが剣術の中で最速だと言われることには理由がある。抜刀する時の力と刀の鞘がそれを押し返そうとする力が均衡して、抜刀する瞬間にそうして溜め込まれた力が弾け飛ぶ。
そうして爆発的な速さが斬鉄を可能にする破壊力を生み出すのだ。
光はそれを自分の体でやってのけていた、[電光石火]の瞬間までそのあまりにも強靭な後ろ足で前進する力と、それを押し返そうとする前足の力を均衡させていた。
そうして生み出された破壊力のオーバーフロゥは、普通のポケモンの体ならば腹部を抉り去られていくだろう。

余談だが、アカリンが自分のオリジナル技同然の《朱転殺》を、なぜ性質が違うジルベールの《飛翔侍村正》がモデルだったと言っているのかは、実は《居合い》という二つの技の共通点からであり、彼女なりの敬意を払っての言葉である。
未来に彼女の娘が《朱転殺》を使うことになり、《堪えての見切り》や《のろいからの居合い》の重要さを分からずに使ってしまって自滅することになるのだが、それはまた別の話として……
ビーストには決定的に経験が不足していた。もしも、ビーストに四肢歩行の相手と肉弾戦を繰り広げるような経験があったとすれば、このような事にはならなかったと思うが、それも仕方ない、そんな経験ある方がおかしい。
何をされたのかも分からずに[電光石火]の衝撃で弾き飛ばされたビーストに、光は追い討ちをかけようと再び[電光石火]を仕掛ける。

しかし彼に同じ手はもう通じない、正面からその突撃を受け、すぐに光の側面に入身をして前足の後ろを攻め、体位を反転しながら懐を掬い上げ、宙に浮いた相手を地に叩き付けて、入り身投げを決める。
左足を振りかぶり足元に倒した光をそのまま遠くに蹴り飛ばし、続けて[リフレクター][バリアー][光の壁]を何重にも重ねて頑丈な壁を作り出した。
これは防御に重点を置いた壁であるので、外部の攻撃を完全に防ぐ代わりに、こちらからの内部から外部への攻撃もできない上に身動きが取れない。
しかし、ビーストにとってはそれで良かった、彼は落ち着いて考える時間が欲しかった。突然に勝負を仕掛けられて、次々と攻撃を仕掛けられて、考える時間という物を与えてくれなかった。
勝負という物には何事も準備や作戦と言うものが必要になってくる、まずはじっくりとこの戦いについて考えようとビーストは思っていた。

それはようやく与えられた、ビーストにとっての平穏だった。

――――――――――――――――――――――――――


ガムがゼロを道連れにし、フリートが倒れ、瑞達がビーストと対峙していたその頃、
ここは死後のポケモンの世界『精神世界』・・・

「愛さん・・・がんばって!」
「うん・・・浅目さんもしっかり」
その世界の中でサーナイトの愛とサーナイトに[へんしん]したメタモンの浅目が必死に空間を保持し続けていた。
その周囲を、霊魂になった神田が飛び回っている・・・
「あれからどれぐらい経ったのかな・・・RXさんもファビオラさんもこの空間の奥から出てこないけれど・・・」
「そうね・・・・・あれ?」
「どうしたの、愛さん?」
「あれは・・・・・ファビオラさん?」
愛が目をやる方向には精神世界の最深部へ潜ったきり戻ってこなかったファビオラの姿が!そしてその傍には始めてみる♀のアブソルの姿があった・・・
「ファビオラさん!大丈夫だったの!」
「ええ、みなさんにご心配をかけてしまいましたね」
愛と浅目は『慈しみの母鳥』のファビオラの帰還に安堵した・・・しかし、まだそこからは動くことができなかった。
ゼロがいなくなってしまった現在、[トレース]を使って管理人代理として精神世界を支えているからなのだ・・・が、
「愛さん、浅目さんご苦労様でした・・・もう『トレース』を解いても大丈夫ですよ」
「え・・・?」
愛と浅目はファビオラの言われるままに[トレース]を解除してみる・・・精神世界の崩壊が進行しない。治まったままだ!
「ファビオラさん、これは一体?それにさっきからそこにいるアブソルは」
愛が不思議に思ってファビオラに聞いてみると
「ええ・・・まず何から話せば良いでしょうか・・・」
ファビオラはゆっくり羽をおろした・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・ということですの」
「ファビオラ隊副隊長のイーナスよ、私もファビオラ様をお守りするためにここにやってきたの」
ファビオラはこれまでの精神世界の最深部であった全ての出来事と、部下の『災いの暗黒星』のイーナスのことについて一通り説明を終えた。
「そうだったんだ・・・」
「でも、ファビオラさん。[トレース]を解いてもこの空間が不安定にならないってことは・・・」
浅目がファビオラに再度質問をしてみると
「ええ・・・ゼロはこの空間を捨てて外の世界に逃れ、ビーストもまた実態を得て外へ・・・」
「精神世界に害をもたらす存在がいなくなったことで、ようやくこの空間も安定を取り戻したのよ」
と、ファビオラとイーナスが静かに答えた。
「!」
「ちょっと待ってください!もし、その法則が正しいとするなら・・・」
愛が慌てた様子でそう話し出す
「その通り、私がファビオラ様といたこの空間の最深部を無理やり壊すことで一時的に外へ出るトンネルを作ることができたみたいね」
「ゼロもビーストもいなくなり、生存世界と精神世界のはざまが再び強固となっています・・・そうなったら貴女達はもう生ある世界へ出ることができなくなってしまいます」
「そ・・・そんな!」
「今ならまだ間に合いますわ、貴女達もこの空間の最深部へもぐりこんでビーストがしたように何か強い衝撃を与えれば・・・」
ファビオラはふわりと羽をはばたかせ、2人を[くろいきり]と[しろいきり]で包み込む
と・・・
「おいきなさい!!」
そのまま風に乗せ、2人を[りゅうのいぶき]で吹き飛ばした!!
「きゃあっ!!」
「その流れに乗ると、私達がいた空間の最深部へいけます!」
「でもその最深部だけまだ不安定で倒された敵もさまよっているかもしれません・・・気をつけるのですよ!!」
多少強引な手段ではあったが・・・この精神世界が強固なものとなりつつある今、最速に愛と浅目を飛ばすにはこれしかなかった!
「ファ、ファビオラさん」
「浅目さん・・・」
「お元気で!」
「ええ・・・ごきげんよう!」
「あっちの世界に戻ったらあかつき!によろしくね!」
それがファビオラとの最後の別れだということはもちろんわかっていた、このまま別れの言葉もなしではさすがに辛いものがあったからだ。
霊魂となった神田もファビオラとイーナスと共に2人を優しく見送っていた・・・

・・・・・・・・・・・・・

無限に続く暗闇の中で一度迷ってしまったら二度と抜け出せないような・・・光など全くささない、まるで宇宙を漂流してしまうかのような恐ろしさを感じさせる『精神世界の最深部』・・・
「暗くて寂しい場所・・・ここが精神世界の最深部なの?」
愛と浅目は最深部に到着すると、どこを壊せば生存世界へ抜け出すことができるのか・・・手探りでさまよっていた・・・
「あ〜ん?なんださっきから?うるせぇ女どもだなぁ・・・」
「誰!?」
2人が後ろをふりむくと、そこにはいかにも目つきの悪そうなハガネールが・・・そしてその下には何人ものゴーリキーの集団が姿を現した!
「こいつ、覚えてる!私が倒したゴーリキーだ!」
「ひょっとしてお前は・・・ガムさんが話してた野性のハガネール?」
「ああ?ガムだぁ?オレはあいつのせいでどれだけ痛い思いをしてきたか・・・お前らあいつの仲間か?んならぶっころしてやる!!」
そう叫ぶと、ハガネールとゴーリキーは一斉に襲い掛かってきた!!
「何よ!やる気! 格闘タイプが何人束になっても私に勝てるわけないでしょう!」
愛は生存世界でやったように・・・というよりも
「はあぁぁぁっ!!」
[めいそう]をかけた、あの時よりさらにすさまじい[サイコキネシス]と[かみなりパンチ]でゴーリキー達を一蹴する!!
「愛さん・・・すごいね」
「余裕余裕!!」
「それなら私も!」
今度は浅目が[へんしん]を使って、ギャラドスに変身した!!
「ぎ・・・ギャラドスだとぉ!?」
威勢を張っていたハガネールが臆する・・・相手があのギャラドスだからだ!
「そこをどけぇっ!!」
「うぎゃぁぁ―――っ!!」
ギャラドスに変身した浅目の[ハイドロポンプ]がうなりをあげると、ハガネールは堅い装甲を貫かれ、内側から粉砕されてしまった!!
「先を急ぐよ!」
「うん!」
浅目は元のメタモンに戻り、また愛もその後に続いて前進していった!
「愛さん見て、あそこ!」
無限に広がる暗闇の中で浅目が指差す方向には、そこだけなぜか光がもれていた!
「あそこが・・・ビーストと瑞さん達が抜け出すことができた空間?」
しかし、「光がもれている」とはいってもビーストが抜け出したその時とは違って殆ど数ミリの隙間しかない・・・精神世界と生存世界のはざまが強固なものとなりつつある今、その自然修復も早まっていたのだ!
「く、くそっ!あの隙間の先にみんなのいる世界があるのに・・・もうちょっとなのに!!」
「浅目さんどいて!」
「愛さん?」
「ファビオラさんが言っていた通り、この隙間にショックをあたえてみる!」
浅目の前に出ると愛が[めいそう]で能力を高めながら
「[サイコキネシス]!!」
さらに力を込めた[サイコキネシス]を空間の隙間に向かった放った!!
バシュ――――ン!!
「きまった・・・?」
「い、いや・・・」
しかし、空間の隙間はまったく広がらず、依然として光をただ、ただもらしてどんどんふさがって自然修復いく・・・
「だ・・・ダメなの?」
「いいえ、そんなことないよ!・・・もう1回!!」
愛は再び[めいそう]を使って[サイコキネシス]を放つ・・・が、隙間はビクともしない
「くっ・・・私1人の力じゃ、ビーストのやった攻撃に値しないというの?」
「ううん・・・愛さん、私も手伝うよ!」
浅目が[へんしん]をつかおうとしたその時・・・
「グフフ・・・なんですかぁ〜あなたたちはー?」
今度は、体と目つきが快楽に歪んでいるユレイドルと、その下についてくるアサナンとマクノシタが現れた!こいつは、ガムが塔の中で倒したゼロの仲間のグロスだ・・・!
「ま・・・またきた!こいつら!!」
しかも、先ほどのゴーリキーの軍団がまだまだ追ってくるからたまったものではない!!
「これでもくらいなさい!!」
愛が[サイコキネシス]で攻撃するが・・・
「ゲヘヘ・・・効きませんねぇ〜」
グロスは[鉄壁]と[バリヤー]でMAXまで上昇させた絶対防御と[ねをはる]と[じこさいせい]を使った異常再生で愛の攻撃を難なく無効化してしまう!
愛だって[めいそう]を2回使って能力が上昇しているというのに・・・
「なんて数なの・・・」
愛は目の前の光景を見てうなだれだ・・・グロスに加えて、目の前に立ちはだかるアサナンとゴーリキーとマクノシタの数が半端じゃない程だからなのだ。
「あともうちょっとだったのに・・・もうこの世界から出られないの・・・?」
邪魔者・・・腹が立つ程の行く手を阻む敵の大群に途方にくれ、愛が泣きそうになった時・・・
「よそ見は禁物ですよぉ〜丁度退屈していたんですよ・・・」
「あなたの身体も私に弄ばせてくださいよ・・・ゲヘヘ」
グロスが下品に笑いながら愛に対して[からみつく]をしかける!!
「や・・・やられる!!」
「どいて!愛さん!!」
「浅目さん!?」
「はあッ!!!」
「ぐ・・・ぐべやあぁぁっ!!!」
浅目が愛の前に出ると触手を伸ばして近づいてくるグロスに対してきつい張り手をお見舞いした!!・・・しかし、浅目は[へんしん]は使っていない!
「浅目さん・・・すごい、なんで[へんしん]も使っていないのに?」
どうして[へんしん]も使っていないメタモンが体重が15倍もあるユレイドルに『力』で勝つことができたのか・・・そう思って浅目のほうへ振り返った時!
「!・・・浅目さん、何!その体!?」
愛は浅目の体の変化に気が付いた!

メタモンの浅目の体がゆうにグロスの倍を通り越し、ホエルオーほどの大きさまで巨大化していたのだ!!
「驚いたでしょう、愛さん?さあ、私の肩に乗って!」
「う・・・うん」
愛を肩に乗せると、浅目は起き上がったグロスを標的にし、
「ぶべえらぇぇっ!!」
そのままもう1発、巨大化した張り手を放ち、グロスを真っ二つにぶっ飛ばした!!
無論グロスは即死だ・・・ここまでの絶望的な一撃をうけるとはグロスも予想だにしなかっただろう。
「これがこの浅目童子の必殺技・・・【八万の悪童子】ッ!!!」
「ひ・・・ひぃぃぃぃっ!!!」
「私の邪魔をするなっ!!」
「ぎゃああぁっ!!ぐあああっ!!げべえっ!!」
「おおおおおっ!!」
浅目の肩に乗りながら愛は見た・・・
・・・その光景はまるで、無残に雑兵をなぎ倒し踏み潰す『暴れる悪魔』・・・・
浅目の体はどんどん巨大化を続け、やがては80メートルまではあるのではないかと思うぐらいまでに大きくなった!

ポケモンカードの『キョウのメタモン』の使う技にも[きょだいか]がある・・・しかし、愛が見る「それ」はキョウのメタモンのその比ではない!!
でかい・・・でかすぎる!!

「す・・・すごいよ!浅目さん!どうしてそんな凄い技を今までずっと隠していたの!?」
「そ・・・それは、こ・・・この技には致命的な弱点があるからなの・・・」
「弱点?」
「それは・・・」
ブチブチブチッ!!
「くうぅっ!!」
「浅目さん!」
浅目は大きく体勢を崩した!
「この技の原理はメタモンの不安定な細胞1つ1つを膨張させるの・・・だからこの技を使った後は・・・」
「・・・」
バチバチバチッ・・・!
「私はもう[へんしん]できない・・・死ぬの」
「な・・・そんな!」
愛がその言葉を聞く否や慌てて浅目の巨大化を止めようとしたが・・・
「ダメだよ、愛さん!ここまできたんでしょ!今ここで諦めたら外の世界に出られないよ!」
「で・・・でも!」
「愛さんでも壊せなかったこの隙間は・・・これなら壊せる!!」
80メートルの浅目はそのままマルマインに変身した!!
「[大・爆・発]ッッ!!!」

!!!!!!!!!!

ボオオオォォォォォォ――――ン!!!!

80メートルクラスの[だいばくはつ]が精神世界の最深部の隙間を完全に粉砕した!!
「キャアアァァァァ―――ッ!!!」
爆風に巻き込まれた愛は、そのまま粉砕された空間の外へと巻き込まれていった・・・

・・・・・・・・・・・・・

「う・・・ん・・・」
愛は目を覚ました・・・ここは・・・しかも体のふしぶしが痛い!
「いたたた・・・いたいよぉ・・・」
「!」
愛はハッとした!・・・痛い・・・すでに死んでいたはずの『精神世界』では感じなかった感覚だ・・・ということは
「私・・・生きてる・・・生き返ったんだ!!」
だけどここはどこだろう?・・・周囲を見渡すとどうやら高い塔の中のようで、しかもその部屋の中にはあちこちの血痕に加えて壁や天井の砕けた跡が残っているけど・・・
「そ・・・そうだ!浅目さんは!」
愛はその部屋をキョロキョロと見回してみた・・・メタモンの浅目はすぐそこに倒れていた。
「よかった、浅目さん!」
「・・・うっ!」
しかし、その浅目からは体温を感じない・・・肉体こそ無傷だが、完全に死んでいるのだ「もしかして・・・私だけが生き返っちゃったの?」
・・・そんなことはない!浅目さんも生き返れるはずだ!
あちこちをサーナイトの丈の長いスカートで不慣れに駆け回りながら探し回るが・・・
「ない・・・浅目さんの魂がどこにもない」
愛はがっくり膝をついた・・・浅目の死と引き換えに自分だけが生き返ったなんて・・・
「・・・?」
しかし愛の握っていた手の中になにやら違和感を感じた・・・これは
「もしかして・・・これは」
ごく小さなその破片は精神世界を飛び回っていた霊魂とそっくりだ。小さくも線香花火のような輝きが美しい・・・
いや、考えている暇はない!
「は・・・入ってぇ!!」
愛はもしやと思い、浅目の亡骸にその小さな物体を押し当てた!
ビンゴだ!
その物体は浅目の中へ入っていった・・・
「うう・・・」
「浅目さん!」
浅目は息を吹き返した・・・が、
「ううう・・・」
愛とは違ってまだ意識までは回復せず、昏睡状態で眠り始めた・・・
「・・・」
魂がそのままではなく、【八万の悪童子】を使った余韻から砕け散ったその一部だけが入っただけなのだ・・・あとは浅目の精神力に賭けるしかない
「浅目さん・・・」

おそらくはここは、自分が1度だけ来たことがあるグレン島の80階の塔の、70階あたりだろうか・・・味方がでるか・・・敵がでるか・・・
誰もいない部屋の中で愛は下手に動かず、待機することにした

―――――――――――――――――――――――

一対多数の戦いにおいては、相手への陽動が勝負の鍵を握っている、チームプレイの欠点とはチーム内での息の乱れが発生すると自滅してしまうことである。
陽動作戦には[いちゃもん]や[いばる]が有効であるが、[いばる]を使ってもおそらく動じそうもない相手であるし、[いちゃもん]にしても使うメリットが少ない、
それをあえて使うならポワルンの[ウェザーボール]を封じるのに使うのだが、おそらく違う技と交互に使わせても状況は変わらないだろう。
そして幻影攻撃、これも実は幾度となく使っていたのだが、どれも簡単に本体を看破されていた。
もちろん、[影分身]の封印によって回避率上昇効果が全く消えてしまったことで本体の姿が筒抜けになっているのだ。
何をやってもうまくいかない、すべての行動が無駄になって意味を成さない。こんなことはビーストにとって初めてだった。
そんな考えを邪魔するかのように、ビーストにとって奇妙なことが起こった。

 ヒゥ…――……
なんだ、この音は?
直後、左腕に小さな痛みがした。見れば皮の一部が綺麗な切り口で切れている。
腹の真ん中に針でつつかれた様なチクッとした痛みも感じた。
 ―ヒゥ…ゥ――…
また、音がして今度は右腕の皮一枚が切れる。
かまいたちか? いや、かまいたちじゃない、これは………
ビーストがその正体に気付いた瞬間に
 シャ―― 
と音がして目の前が真っ暗になった。
水平の綺麗な切り口で、両目の水晶体までが切り裂かれた。
その技の正体は[しんくうぎり]。
35の固定ダメージを持つ、ポケダン特有のエリア全体技である。固定ダメージ技なので、あらゆる壁をすり抜けて相手にダメージを与えることが可能である。
ただし、そのダメージは35と極めて低いので、ダメージとしては全く期待が出来ない。
ちなみに、ビーストの視力を奪ったのは[すいへいぎり]と掛け合わせた融合技であり、攻撃力を強化したものである。
冷静に、[自己再生]を使って、その眼球の復元に取り掛かる。
しかし、ビーストにとって本当に衝撃的だったのは紛れも無く次の展開だったのだろう。

胸の中央の刺すような痛みと共に、空いた小さな穴から紅い鮮血が流れ落ちる。
「(な…にぃ!)」
その攻撃はビーストの体を綺麗に貫通して、背中の皮膚まで抉り破っていた。
「(な、なんだ!この技は…! すべてを貫通して食い破って行くような…… は、もしや!」
眼の修復が完了して、ビーストはその攻撃先をしかと見る。
厚い壁の向こう側にブラッキーとヌマクローの姿が立っているのが見えた、おそらく[しんくうぎり]を使っていたのはブラッキーの瑞の方。
そして、ヌマクローのベルの装備を見てビーストの予想は確信に変わった。“φ”の文字が入ったバンダナを頭に付けて、レンズに大きい丸の中に小さい丸と中心に十字が書かれた眼鏡。
前者は『貫通バンダナ』、後者は『ロックオン眼鏡』と言う、貫通バンダナを付けた者が投げた物はいかなる物体も貫き抜く、ただし、その特殊な効果からそれに貫かれた跡は組織の隙間を縫うような穴となり、被害範囲が極端に小さくなるデメリットもある。
さらに、投擲時には多量の集中力を要して、投げる動作の最中は完全に無防備になってしまうのだが、その厚い壁は内部からの攻撃さえ遮断しており、ビーストからの攻撃は届くことは無い。
そして皮肉なことに、その厚い壁はビーストの自由さえも奪っていた。絶対防御の壁も今になっては出られない鉄の罪檻でしか無くなっていた。
ベルが投擲した『銀の針』は心臓の中心に向かって飛んで、そこを確実に貫通していた。
[しんくうぎり]は防御できるが、この貫通攻撃は絶対に防御が出来ない上に、ロックオン眼鏡の効果で回避も不可能だ。
回避不可能かつ防御不可能で絶対貫通、もしも、そんなものを脳に向かって放たれたら……。
ビーストはこの戦いにおいて初めて戦慄を覚えた。

 キィ…――……
さっきの音とは違う奇妙な音がビーストの耳に聞こえた。

 ブツ

その音を最後にビーストの聴覚が切断させた。ビーストは慌てて自分の耳に触れる、後に残ったのは無音の世界。[嫌な音]×[しんくうぎり]で鼓膜を引き裂かれた。
すぐに、[すいへいぎり]×[しんくうぎり]が再びビーストの眼球を襲って視覚も消える、強膜まで斬られた。
仕上げに、ビーストの首の真ん中に銀の針が貫通して大動脈が欠損、出血は食道に入り込んで気管に血が入り込んで、むせる。
「(冗談じゃねぇ!!)」
ビーストはさてもともかく、その場から動こうとした。しかし、自分の足が全く動かない。
「(動け! な、何故だ!)」
取り乱していた。冷静に考えれば分かることだが、ベルの銀の針はすべてビーストの体の中央に目掛けて撃ち込まれていた。
それがすべて貫通しているとすれば、必ず通る場所がある。
脊髄、脳との連絡通路であり
中枢神経。
ここが切断されていた。
ミュウツーの重い体重はフーディンのように自分の超能力で支えて、自律神経でそのバランスをとっている。そのためにその認識ができなかった。
直後に、銀の針がビーストの額の少し上に… つまり、大脳新基質を貫通する。
視覚と聴覚が失われてしまった今、残された触覚だけが普段よりも冴え渡り、創られた傷が悲鳴を上げている。

痛い。
痛い痛い痛い。
かくも、まずは[自己再生]で傷の修復にとりかかる。
「(く、くそ……)」
無事に[自己再生]は成功したが、視覚と聴覚は治らなかった。
毒を[自己再生]で治せない様に、[自己再生]は体が傷だと認識できない傷や、体の内部に出来た小さな傷は修復が出来ない。
鼓膜の切断は認識できない傷であり、目の傷は奥の視神経までばっさりと切断されていた。
銀の針が再び飛んできて、再びビーストの大脳新基質を貫通した。
ビーストはこの時、生まれて初めて自己の生命の危機を本能的に感じた。

死ぬ。
死ぬ。
死ぬ。
怖い。
自分は今まで殺す側であり、狩る方だった。
しかし、いまはその立場も逆転している。殺される。
死ぬ。
助けてくれ。
いや、助けなくていい。
俺は……

6本目の針がビーストの額に打ち込まれる、痛みが消えて、あとはまっさらな感覚のみ。
額の裏側には中脳がある、中脳とは感覚神経の中枢部分である。
ビーストの身からとうとう全身から感覚と言われるものが完全に失われてしまった。
しかし悲しい哉、ビーストは倒れることさえ許されてなかったようだった、目と目の間に針を打ち込んだならば、ビーストを強制的に立たせている自律神経が存在する小脳が損傷して、ここでようやく、地に伏せることも可能だろう。
だが、小脳の手前には延髄が存在する。延髄とは呼吸と脈拍を司る器官、つまりビーストが倒れる時とは死の瞬間でしかない。

ビーストの最後の意識はある秘策を考え出した。この秘策は成功率が極めて低く、失敗すれば自分の命を落とす大変な危険な賭けだった。
だが、ビーストは躊躇うことをしなかった。彼は一瞬も迷わずその秘策を実行した。
体の中に技のエネルギーを溜め込んで、それを爆発させる。自分の上半身を内部から爆裂させた。

そして急速で[自己再生]を開始する。
小さな傷が修復できないならば、傷を大きくさせれば修復が可能である。
「ああぁぁぁぁ!!!」
低い唸り声がその場所に響き、バラバラになったパーツが再び元の形に回帰していく。
試みは奇跡的に成功した、脳の損傷も完治して五感は冴えわたっている。
ただし、その行動によって、ビーストを隔てていた厚い壁も消滅してしまった。
息を荒らげながら、低い声でビーストは叫ぶ。
「くそ、愚民どもが生意気な……」
その彼の声に何かを答えるかのように、ベルが言う。
「何故、僕達の攻撃が貴方に通じるのか教えて上げましょうか?」
何も答えないビーストを、ベルは了と受けて、言う。
「一度使った技は二度通じないという事は、一度も使われたことがない技は全て通じる。貴方には経験が足りないんですよ、こういう戦いに出会ったことが無いから簡単にひっかかる」
続ける。
「もちろん、僕はどんな才能でも努力には勝てないと言う使い古されたセリフを言い回すつもりなんてありません。強さとは……強さです。才能で強かろうと、努力で強かろうと、結構です。強いものが勝つ、つまり」
繋げる。
「あなたは弱いということです」
「……は!」
いなした。
「何を言っているのだ、強いとは……俺のことだ!!」
再び、[地震]を発生させる。

……いや、発生させようとしたが何も起こらなかった。
「無駄ですよ、貴方には沢山の枷を掛かっていますからねぇ。 地震はもう、使えません」
ベルの声が聞こえる。
使えない? 何故だ?
[封印]されたのはサイコキネシスなどだったはずで[地震]は絶対に[封印]できないはず……。
いや、[封印]とは術者が倒れると解除されるはずだがあの小娘が死んでも解除されていない、それにたしかあいつは戦いの最初に[シャドーボール]を放っていた……。
それならば[シャドーボール]も封印されるはずだ、だから違う。
ということは[封印]を使った相手は俺に[雷]を落とした奴……いや、狙った奴とは違うだろう、同じなら[雷]も[封印]されるはずだ。
ところで、あのバクフーンの姿が未だに見えない、暴走的なあいつが今の今まで何も仕掛けないとは絶対におかしい。そして、バクフーンは[封印]も[雷]も使えないということは……。
あのバクフーンは居ないということか、敵は7人か。
……違う、論点は何故[地震]が使えないかだ、[封印]以外で技を使えなくするためには……
PP切れ、つまり[うらみ]か……いや、俺は一度しかあのゴーストの前で[地震]を使っていない、最低でもあと二回は使える余裕があるはずだ。
はっ! そういえば、あのヌマクローは地面技を一度たりとも使っていない!
そうか、最初に影が奇妙な光を帯びて入れ替わったのは[道連れ]ではなく……[スキルスワップ]!
では、あのゴーストは死ぬ前に、このメンバーの誰かに特性:プレッシャーを託しているのか!? そうとなれば、やっかいだ、長期戦になるほど危険になる。
ビーストは瞬時にその判断を下した。
「(いや……ちょっと待て)」
ビーストはまたも嫌な予感がした。
その予想が正しければ[吹雪]や[シャドーボール]や[雷]などのPPが低めの技はすでに全滅していることになる。
一応、試しに使おうとしたが……、やはり、使えなかった。
ビーストは唇を強く噛む。
「……なかなか、味なことをしてくれたじゃないか」
「その口調なら、貴方の考えで正解です。ところでさっき、あなたは運命とは、所詮死に向かうための鉄の轍にすぎないって言いましたよね? でもそれは違いますよ。我々の運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけです」
「もしくは遺伝もお数えになるかもしれません」
光がベルの言葉に付け足した。
「よくご存知で」
ベルが少し驚いた表情で光に優しく微笑みかける
「ええ、まぁ」
光も笑い返す。
「俺は……」
ビーストは言う。
「俺は、この世界を壊し尽くす!使命がある。俺は誰に邪魔されないし、負けない!」
「戦わないと分からない事がありますし、負けないと手に入らないものがあります。いいでしょう、貴方の野望を打ち砕いて見せますよ!」
ベルはビーストの言葉に応じた。

――――――――――――――――――――――――


 ・ ・ ・ ・ ・

「リン・・・アカリン!・・・アカリン!!」
「う・・・うん・・・」
「気が付いた!・・・ほら!この[ふっかつそう]を飲むのよ!」
「リ・・・リーディさん・・・?」
かろうじて一命をとりとめたアカリンの前にはブイズのサンダースの、リーディの姿があった
「リーディさん・・・やっぱり来てくれたんだね」
「しゃべっちゃダメ!そうでなくてもあなた、相当の大怪我なのよ!」
「う・・・うん」
「私がいない間、本当によくやったわ!アカリン!」
「え・・・えへへ☆」
アカリンが66階の周囲を見回すと、ガムとゼロの激戦を思わせるたくさんの血の跡と残り火・・・そして砕けた壁や天井と、見覚えのないメタモンとサーナイトの冷たい死体が横たわっていた。
かなり遠くの場所にも、倒れているフィの姿がある・・・
「(フィちゃん・・・無事だったのね・・・よかった・・・)」
瀕死の重傷ではあるもののフィは生きている・・・全力で護り通し、ゼロに殺されなかったフィを見るとアカリンは安心し、胸をなでおろした。
「リーディさん・・・いつからここに?」
アカリンが聞くと
「丁度、あなた達が赤い3連星と話していたあたりから向かっていたの。ここにはいないけど、ドリーフさんも一緒よ」
「そうか・・・久しぶりにブイズが勢ぞろいだね・・・」
「ええ・・・」
「・・・あれ?」
リーディの姿に緊張がほぐれ、フィの安否を確認したアカリンだが・・・何か身の回りに違和感を感じた。
ガムくんはいったい何処にいるんだろう・・・
「リーディさん、ガムくんを知らない?さっきまで私といっしょにゼロと戦っていたんだ・・・きっとこのあたりにいるはずだよ」
アカリンはヨロヨロと起き上がり、周囲をキョロキョロ見回した
「・・・」
「ど・・・どうしたの?リーディさん?」
その横でリーディは、黙ってうつむいていた
「・・・」
「リ・・・リーディさん?どうしたの?・・・この66階で何があったの?教えてよ!」
普段はよくしゃべるリーディの沈黙に、アカリンはだんだん怖くなってくる感情を抑えきれなくなってきた・・・
「教えてよ!リーディさん!!」
アカリンはもう1回声を大にしてリーディに問い詰めた
「・・・ガムは」
やがてリーディが口を開き、言い難そうにアカリンに告げた

「ガムは・・・死んだわ」
「え・・・?」

その言葉に一瞬、アカリンは止まった。
まるで一瞬時間が止まったかのように・・・
「うそ・・・?」
「アカリン・・・ガムは・・・死んだのよ」
「うそだよ・・・」
「ホントよ」
「そんなことないよ・・・」
「・・・」

「リーディさん!冗談を言うのはやめてよ!いくらリーディさんでも怒るよ!!」
「残念だけど、私は冗談とか言えるタイプじゃないの・・・本当なのよ」
「リーディさん・・・嘘だよね?嘘でしょ?・・・嘘って・・・嘘って言ってよ!!」
「嘘じゃないわ」
「嘘だっ!!」
「きゃっ!」
アカリンは顔を何度何度も横に振り、リーディをふりはらった!
「(ガムくん!・・・ガムくん!・・・ガムくんっ!!!)」
アカリンは66階の壁に空いた大穴へとひたすら走っていった!
まだあそこだけ調べていない・・・あそこにガムくんが倒れているんだ!きっとそうだ!!
「!!」
「うっ・・・!」
しかしアカリンは愕然とした・・・
66階の壁の大穴から見下ろした外の塔の下の光景には、まるで彗星が落ちたようなクレーターにも似た巨大な凹凸の跡が残っていただけだったのだ。
しかもそこは、焼け焦げた地面の跡が大半だった。何もかも残らぬ程に燃え尽きてしまった焦げカスのようなクレーターのような地面・・・
アカリンはその光景を見て、自分が気絶していた間に何があったのかを全て理解した・・・
「・・・」
「残念だけど・・・あの状態で生きていたらバケモノよ」
アカリンを追ってリーディがやってきた。
「アカリン・・・ごめんなさい、こんな時にどんな言葉をかけてあげればいいか・・・私にはわからなくて・・・」
「・・・」
「ガムも・・・よくやったわ」
アカリンは放心状態だった・・・
当たり前のようにいつもとなりにいてくれた最大の理解者が突然居なくなった・・・死体も燃えつきて残らない程に・・・ 
「・・・」
失って初めて気づくということもあるが、アカリンのそれは「喪失感」という並大抵のものではなかった・・・
「・・・ガムくん」
やがて、アカリンは体の力をぬいたようにふらりと体を揺らすと・・・
「まってて・・・今そばに行くからね・・・」

「!!」

「ちょ・・・な・・・何やってるの!?」
「はなして・・・はなしてぇ!!」
リーディが[こうそくいどう]と[かみつく]でとめるのも無理はない。アカリンが66階の壁の大穴から身を投げ捨てようとしているからなのだ・・・!
「死なせてちょうだい!私もガムくんのところに行く!・・・行かせてよ!!」
「何言ってるの!アカリン!」
「ガムくんが・・・ガムくんがいないなんて・・・死んだだなんて!!」
「アカリン!気持ちはわかるわ!でもバカなことしちゃダメ!!」
「はなしてよ!! リーディさんに・・・リーディさんに私とガムくんの何がわかるっていうのぉっ!!」
「そ・・・それは」
「いつもそばにいてくれたガムくんが・・・私を励ましてくれたガムくんが・・・私を護ってくれたガムくんが・・・ずっといっしょだよって約束したガムくんが・・・」
「アカリン・・・」
「どーしてぇぇっ!!」
時に慰め、時に励ましあって、お互いを誓い合ってきた生涯の伴侶の戦死・・・
アカリンは気が動転し、ただ嘆くしかなかった・・・
また、リーディもアカリンにかける慰めの言葉が見当たらず、『戦い』とは違う意味での『無力さ』を感じていた・・・
「キャッ!」
アカリンは[じたばた]してリーディを跳ね飛ばすと・・・再び大穴の前に立った「ガムくん・・・私もあなたのところへ行くよ・・・いつまでも・・・いつまでもずっといっしょだよっ!」
「(い・・・いけない!)」
バチバチバイィッ!!
「キャッ!!」
しかし、そのアカリンの背後からリーディが[でんじは]を放った!!
「アカリン・・・ごめん!!」
「がっ!!」
そしてリーディは背後から急所めがけて[にどげり]を放った! もはやアカリンをとめるには強行手段しかない、と仲間を当身で攻撃するリーディである
「なんで・・・なんでなのぉ・・・」
リーディに上手く体の自由を奪われたアカリンは・・・倒れてただ泣いていた
「アカリン・・・」
「うっ・・・うっ・・・」
「内部崩壊が深刻な今のドリームメイカーにはもうこれ以上の犠牲者を出す訳にはいかないの・・・わかって・・・アカリン」
リーディは、動けなくなったアカリンを確認すると66階を後にした・・・

――――――――――――――――――――――――


それから、しばらく戦闘は続いた。

調子を取り戻したビーストに対し、ベルの戦略も次第に通じなくなってきた。
もともと、使える技が豊富なビーストにはプレッシャーのPP減らしの効果もいまいち発揮できずにいた。
ビースト側にしても、代わる代わるにゲリラ的な攻撃を受けているので、なかなか決定打を与えることできずにいた。
一進一退の攻防で、どちらも決定的な攻撃を仕掛けられず続いていた。
それでも、ベルにはビースト側が有利であることが分かっていた、今は瑞の[願い事]を何度も使うことによって何とか持っている状態であるが。
ベルは、もしも[願い事]のPPが切れた場合などを考えて、先行き不穏なこの勝負に冷や汗を掻いていた。
「(このままでは……負けてしまう。早く、早くあの仕掛けが効を帰しないと……!)」

その、次の瞬間に均衡が崩れた。
突然、背後に緑色の怪獣が出現した。
人はその姿を見ればバンギラスだと判断するだろうが。
すぐ後ろにいたことに、全く気付かなかった。
その事実にまずビーストは驚愕する。
そのバンギラスの姿にビーストは見覚えがあった。彼の前にクチバシティで立ちはだかった、少女、ルカ☆
これは彼女の面影を持っている。
あの時はほとんど彼女によって邪魔をされたようなものだった。しかし、彼女との戦いは完膚なきまですっかり終わったことだと判断をしていた。
しかし、ここにあの小娘が既にこの場所に来ていた、しかもあれから更に進化してだ。あのヌマクローは自分が彼女に苦戦していたことをどこからか仕入れて、再びその戦いを再現しようとしていたのだろうか?
この時点でも苦戦しているというのに、彼女を連れてこられたら確かに辛いかもしれない、あらゆる想定をしていたが、これは予想外、油断をしていた。
その事態に……一瞬、体を硬直させた。
そこにバンギラスからの鉄拳が飛ぶ。

但し、一瞬だけだ。
一瞬以上、動揺してしまうような精神は持ち合わせていない。
「ここまで付いてくるとは、往生際が悪い奴だな」
そう言って、その拳の左手でしっかりと受けて、身体をゆるりと捻った。
一度戦って勝った相手に負けるほど、ビーストは弱くなどない。一度戦えば、二度と同じ手には引っかからない。
無駄のない、実に洗礼された動きで、4倍の弱点に当たる[気合パンチ]が至近距離から叩き込まれる。
「(殺った!!)」
しかし、ビーストの思惑は完全に失敗した。
バンギラスの急所を確実に捉えていたはずの[気合パンチ]は……すり抜けていた。
「……は?」
「ひっかかったな…!」
その声は女性の声であったが、かつて戦っていたルカ☆とは違いやや低めである。
その直後にビーストの視界が奇妙な閃光で埋め尽くされる。
「え……」
頭の中が真っ白になって、眼球が回転する、平衡感覚と言うものが一切消滅して、気が付けば、左半身が地面に向かって落下していった。
「な…ぁ……」
ビーストは喘ぎながらも、グニグニと歪み続ける視界をそのバンギラスの姿にうつした。
「この俺のかっこい〜〜い、登場シーンだから次のセリフには両側に一行づつ空いているつもりで読んでくれよ」
その――彼女は言う。
「れぃすけ、ふっか〜〜〜つ!!」
すると、バンギラスの姿が風前の砂ごとく消滅して。
残ったものは、あのゴースト、仙崎澪亮の姿に変わった。
「やっぱ……さぁ、主人公がいなければラストシーンじゃねぇよナァ」
澪亮はいつものような、不敵で無敵な笑みを抱いていた。

「なっ…何故お前がここに…ぃ……」
「なんだよ、また人をオバケみたいに言っちゃて ま、本当にオバケなんだけど」
「お前は…俺が殺したは…ずな……」
「ん? 何言っちゃっているんですか? キミ〜 姿は消えたけど、俺が死んだとは一言も書いていないぞ、よく読みなおしてみろよ。
それにさぁ……、ラスボスに主人公が殺されるわけがねぇだろう? 主人公が死んだら何もかも終わりだぞ」
澪亮は子供をあしらうかのように言った。
「澪亮さん、まだそんなことに執着しているんですか」
とここにひこが居れば主人公発言につっこむだろう、しかしそこにはひこは居なかったのでそれは叶わないものとなった。
……いや、問題はそこではない。断じてだ。
タネを明かしてしまうと、ビーストがあの時殺したと思ったのは、澪亮の[みがわり]だった。
そして、気配を消しながらその後の戦いを見守って、近づいて[ナイトヘッド]による幻を見せたわけだ。
今は真夜中、ゴーストポケモンにとっての独壇場だ、気配を消し続けることは可能である。
ちなみに、澪亮はバンギラスを見せようと[ナイトヘッド]を使ったわけだったが、ビーストの方でさらにそれがルカ☆だと間違えて認識してしまったわけだ。
ナイトヘッド、それは悪夢のような幻を使う技。相手にとって一番怖いものを見せて精神を攻撃する。
目の前、数cmの至近距離からの[怪しい光]を視神経にまともに受けてしまったビーストは全く情けない事に、自分の体を起こす事さえできない。
【光過敏性てんかん】に代表させるように光が脳に与えるダメージというものは予想以上に大きい。
例を挙げてみれば、かの有名な12月のポリゴン事件だ。単なる激しい光の反転を見るだけで、人は気絶したり、痙攣を起こしたりする。
ビーストは立とうしてにも、体に骨がないみたいにぐにゃぐにゃでもうどうしようもない、まるで産まれたばかりの小鹿のようだった。

「井の中の河童なキミはよく覚えて置けよ、俺の辞書には可能の文字しかないっことをサ!」
「(それは辞書じゃなくて、ただの紙と言うべき)」
澪亮の言葉に瑞が心の中で突っ込みを加える。
ビーストは依然、これまでの戦いによる疲労や無理がここになって現れてしまったかのように、歯車が壊れたぜんまいオモチャの様になっていた。
何故か見てて悲しくなる
「うがぁぁっ!!」
ベルが静かに諭す。
「無駄ですよ、ミュウツーの体重は130kg、その重い体重を普通は超能力で支えているわけですが、神経系が完全にいかれてしまっている今は、その体重を支える力さえも調節できなくなっています。
おそらく、あと数分はその状態から立ち上がることも出来ないはずです」

[神経破壊]――。
ベルの目的はここにあった。普通に相手の肉体にダメージを与えても倒せないことは予想がついていた。脅威の防御力や回復力の前にそういった攻撃は無意味だと考えていた。
だから、精神へのダメージでビーストに攻撃をしようとしていた。
そのために、光には[催眠術]、瑞には[怪しい光]、そして澪亮には[催眠術]や[怪しい光]などの精神侵食技を相手に気づかれないように、うす〜く、うす〜く、かけて貰っていた。
また、自らも《アクアファイター》の力によって、ビーストの足元の水を[水の波動]に変えて、その振動で相手の脳の深部から崩壊させていた。
言ってみれば、これまでのすべて攻撃はそれを気づかれないようにするための囮でしかすぎない。
切り札とは相手に見せないもの、見せた場合は奥の手を隠し持つこと。
奇策を用いなければ勝てないものは二流であり、一流とは確実に地道に勝利への地盤を固めて行き、地味な作業の上でしか成り立たないとベルは信じていた。
あともう一つ、こういった戦法を起用した理由がある。
ビーストを神であることを考慮していた。
神であるビーストを殺してしまうと、何かしらの悪影響がこの世界にふりかかってくることを懸念していた。
やはり、世界というものは破壊と創造を繰り返してもたれずの関係を維持していている以上、片方が消えてしまうのは避けたいことだった。
だからこそ、殺さないでビーストを倒し、二度とこの世界にやって来れなくさせる作戦とした。
ベルにはビーストを殺すこともできた、しかし敢えて殺さなかった。寛容でもなく、酔狂でもなかったのだ。
あれだけのことをすれば、ビーストの心の中には間違えなく「この世界に対するトラウマ」が宿っているだろう。
そして、企みは成功した、見事にビーストの視線はあの攻撃達に集まって、真打ちの精神侵食攻撃には気づかなかった。
しかし、さすがは最強のエスパーポケモンだった、どんなに精神侵食技を掛けていても、この時点まで全く動じることがなかった。
素晴らしいまでの強靭な精神力にベルは拍手を贈りたかった。
「(あっぱれです。貴方と戦えて良かったです。Beast of the Dreams……)」
しかし、まだ、これでは決定打には成らない。そう思ったベルは瑞にある頼みを言った。


『キィィィィィィィィィ―――――――!!』
突然、恐ろしいノイズがビーストの鼓膜を刺激した、神経が麻痺しているためにその音の正体を理解するまでに時間がかかってしまった。
そして、その音が終わった時にやっと理解する事が出来た。

[いやなおと]だ……。
しかし、その認識の遅さが命取りになってしまった。途中で止めさせればまだ、良かった。
本来、[いやなおと]とは聴覚系から運動神経系に作用して無理やり防御力をさげる技であるが……
もしも……

もしもそんな音を耳元で、しかも長時間、聞かせられていたとすれば……、もはや正常でいられるはずがない。
今のビーストはまさにそれであった。
脳をジューサーに掛けられてグチャグチャにされて、汁をたっぷり採られてクシャクシャになったところをビリビリに破かれたような感覚の後、
突然、あの時、澪亮に[ヘドロ爆弾]を食べされられた時の感覚が蘇ってきた。
恐ろしい嘔吐感、そして、喉のところまで迫った吐癪物の実感。 吐くことなど、ビーストのプライドが許せなかった。
ビーストは喉まで来た吐癪物を全て飲み込んで、胃の中に返した。更に酷い気持ち悪さが残った。
いつの間にか雨が止んで、強い日差しが差して来たようだった。
ビーストは力任せに、立ち上がって、ゆっくりと目を見開いた。

目の前には、ギャロップの光、左右にベルと瑞が光を手助けする体勢を取っている。
そして、大きな“大”の文字をした、野望も望みも何もかも焼き尽くすであろう……
轟々とした炎が迫る。
「え…………?」
朦朧したビーストは避ける事もできず、ただただその炎を見ることしか出来なかった。
[日本晴れ]を使った光は、プリンスからウェザーボールを受けて貰い火して、ベルと瑞の[手助け]を受けて、木炭を持った状態で[大文字]を使った。
120×1,5×1,5×1,5×1,5×1,5×1,1=1002
業火が彼を焼いた。
恐ろしい熱気と共に陽炎が舞って、ビーストの姿を覆い隠す。
「やったかの?」
「さぁ… 願いましょう」
手ごたえはあった。視界がだんだん明けてきて、目の前に黒焦げで仁王立ちになったビーストを凝視してみる。
その姿はぐにゃりとゆがみ、そして違う形を現す……ことは無かった。それは正真正銘のビースト本体。
「が………が……」
「さてと」
ベルが切り出して、ビーストに近づいていく。

「お疲れ様でした、ビースト・オブ・ザ・ドリームス。貴方の終わりを終わらせましょうか」


――――――――――――――――――――

「フリート様!」
砕けてしまったゴットフリートにサリットが[リフレクター]を解除し、駆け寄った!
・・・悠の【孔雀乱舞】によって、ただでさえ崩れそうだったフリートの体は今にももう崩れてしまうほど・・・フリートの命は風前の灯だったのだ。
「うう・・・サリットなのか?」
かろうじてフリートは生きている・・・しかし、その命ももう尽きる
「ゴットフリート様・・・これで・・・これでよかったんですね」
サリットが涙をこらえているような・・・震える声で、原型がどんどん崩れていくゴットフリートへ語り賭ける。
「ああ・・・悠は私の見込み違いではなかった・・・こやつは新生『Dream Maker』のリーダーになるにふさわしい器だ・・・」
「ですが、フリート様・・・悠のあの容態では・・・」
倒れている悠はフリートの[超爆裂拳]によってくちばしが折れ、両腕も折れ、体中からは激しい殴打による出血がとまらない様子だ・・・
「わかっている・・・そのためにお前にもう1つ・・・頼まれてくれるか?」
「・・・私でよろしければ、ゴットフリート様のためならば・・・」
フリートは・・・ゆっくり腕をあげると、最後の力で[サイコキネシス]を使い、72階内の天井へスイッチを入れた。
「いつかガムがこの塔に乗り込む時『この塔を乗っ取る』と言っていたな・・・フフ・・・まさか本当にそうなるとは思っても見なかった・・・だろう」
ゴゴゴゴゴ・・・・・
と、同時に73階から80階までの8階分のフロアが動く気配が・・・
「サリット・・・私のようなリーダーのためにこれまでよく勤めてくれた・・・お前は今後は悠の側近として使えるのだ・・・」
「フリート様・・・」
「お前だけは女としての幸せを掴んでくれ・・・お前に対して何もしてやれなかった私からのもう1つの頼みだ」
「・・・はい」
フリートは気絶している悠に目を向けると語りかけた・・・
「悠よ・・・今より非情になれ!憎むべき敵を容赦なく打ち倒す非常さを身に付けよ!」
「・・・」
フリートはそう語ると、ゆっくりと倒れこんだ・・・
「疲れたな・・・とても」
「・・・私のやるべきこともこれで終わりだ・・・ようやく私も解放される・・・」

・・・・・・・・・・・・・

一方、アカリンに当身を食らわせて後にしたリーディは、そのまま上の階を目指していた。
「アカリンはきっと自分の力で立ち上がるわ・・・あれぐらいでダメになるような子じゃないもの」
そのリーディの口には・・・瀕死のフィが銜えられていた
「その事も心配だけど、今はこの子を最上階まで運ばなくっちゃ・・・それが今の私の任務・・・!」
リーディがアカリンの動きを当身で封じた理由は早まったアカリンを止めるだけではない・・・瀕死のフィを連れて行こうとするのを邪魔されないようにするためだった。
ただでさえフィには人一倍の愛情を注いでいたアカリンがガムを失った今、さらにフィまで手元から離そうとすると、必ず[朱転殺]を使ってでも阻止しようとしただろう
「もうすぐ71階ね・・・」
リーディは瀕死のフィを銜え[こうそくいどう]で上の階まで運んでいた。
「悠とフリートさんの決着がまだついていなければいいけど・・・」
リーディが上の階を見上げながら移動していると・・・
「待っていましたよ」
「サリットさん!」
なんと・・・72階への階段からサリットが姿を現した!
「サリットさん!任務どおりフィを連れてきたわよ!悠とフリートさんは?」
「はい、悠とフリート様の対決は、決着がつきました・・・これからは悠が・・・いや、悠様が『Dream Maker』の新たなリーダーです」
「そう・・・」
リーディはそれ以上語らずともわかっていた。
ゴットフリートはもうこの世にいない・・・悠によって倒されることによって『Dream Maker』を悠に授けることにより、フリートはようやく任を解かれたのだ。
そして・・・死んだ・・・
「悠はどうしているの?」
「悠様は73階へ運びました・・・現在はそこで眠っています。おそらく放って置くと命にかかわるでしょう」
「そう・・・なら早くしなければいけないわね!」
リーディから瀕死のフィを受け取ると、サリットは
フィを悠が運び込まれた73階へと運んでいった・・・
「いいわね・・・いくわよ!」
リーディが合図し、サリットが72階へ戻り、天井のスイッチをもう1回[サイコキネシス]で押すと・・・
ガガガガガ・・・・!!
なんと・・・80階の塔の73階から80階までの8階分のフロアが切り離され、そのままオート操作で飛び立っていった!!
その光景は例えるならばバトルフロンティア編のジンダイのバトルピラミッドか・・・またはポケスペのホウエン編の移動ポケモン協会本部のバ・グーンのように、「ある目的地」に向かって飛行を続けいった・・・!
「行ったわね・・・」
「・・・悠様」
リーディとサリットはそのまま空を眺めていた・・・
その方角は、北ではない。
ビーストが戦う場所ではなく、真逆の方向に飛行していった。

切り離された移動要塞は一体どこへ行くのか?そして、瀕死の重傷を負った悠とフィもまたどこへ向かうのか・・・悠もフィも今はただ眠っていた・・・

しかし、この時まだ誰1人として気づく者はいなかった。
「ゴットフリート・・・」
72階の別部屋・・・
「僕の役目もここまでみたいですね」

72階の別部屋にもうソアラの姿はなく、代わりに[ひみつのちから]で砕かれたと思われる穴と、そのそばにポケナビが置かれていたことを・・・


――――――――――――――――――――――――――――

*******

ビーストはぜいぜいと息を切らしていた。
体が言うことを聞かない、このまま倒れてしまったら二度と起き上がることもできないだろう。
「……いくつか、聞きたいことがある」
ビーストは必死に声を絞り出す。
「僕達に答えられるものでしたら」
ベルが答える。
「俺はこの戦いで幾度となく、補助効果技を自分に掛けていたはずだった、だがその効果は無かった……。[横取り]を使用したな?」
「ああ、そうだよ」
あっさり瑞は答える。
「あと、この戦いで地震の威力がやけに弱くなっていた、効果抜群のそこの二人が堪えられる程にな、最初にお前が使用したあの[炎の渦]、
あれには[鬼火]が仕込んであって、こっそりと《火傷状態》にして物理攻撃を半減させていたな」
「その通りだ。ちなみにあの後、澪亮さんがヘドロ爆弾を使用したのはその火傷のダメージを毒のダメージだと勘違いさせて、カモフラージュするためだな」
光が答えて解説をした。
「そして、そこの自称:カヨワイ小娘、お前は気配を消しながら、ずっと俺に向かって[恨み]を使用していたな、特性:プレッシャーを持ち続けながら……」
「大正解」
澪亮は嬉しそうに答える。
それを聞いて、ビーストは何も言わなくなる。

自己再生……
出ない。
スピードスター……
出ない。
シャドーボール……
出ない。
10万ボルト……
出ない。
吹雪……
出ない。
水の波動……
出ない。
燕返し……
出ない。
サイコキネシス……
やはり、出ない。

もはや、笑うしかない。
完全に技を封鎖されてしまった。打つ手も無い…。
してやられた………。だが、
それでも俺は負けるわけには行かない…。
この世界を終わらせるために、この汚らしい世界を消すために……
俺は、負けない。どんなことがあっても!!!






「どうやら、戦意喪失したようですね……」
ベルは全く動かないビーストの様子を見て、カバンから何かを取り出した。
アメジストから譲り受けた、オルゴール。これを鳴らせばミュウのアメジストがミュウツーのビーストを連れて帰ってくれる。
いよいよ、ベルがそのオルゴールを鳴らそうとしたその時、ベルはビーストの指が揺れていることに気が付いた。
「――!! 危ない! みなさん逃げて!!」
ベルが叫ぶと同時に、ビーストの体が光りだした。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
ビーストの[指を振る]で何かの技が発動された。自らの力がオーバーフロゥするかのように、恐ろしい叫びと共に、ビーストの体からおびただしい光が発せられた。

光が辺りを包んで、
その範囲を抉り尽くして、
光が止んで、
焼け野原だけが残った。


****************


****************


ビーストはその爆心地に立っていた。
その恐ろしい破壊力によって、光たちが倒れているのが見えたが、
さっきの攻撃によって、特攻が二段階下がってしまっている上に、自分にはほとんど戦う力など残っていない。
彼女達にとどめを刺すのはあきらめよう、ここはひとまず撤退だ。と考えた。
ビーストがその場から去ろうとしていたが、体がある線から先に進むことが出来ない、何かの呪縛がかかっているかのようだ、ビーストは後ろを振り返った。 
焼け野原の中で瑞だけが呆然と立ち尽くしていた。悪タイプであるが故に、エスパー技が通じなかった。
ビーストはそれを見て、音も立てずに迫り、そのまま瑞の首を左手で鷲掴みにして、右手を瑞の目の前に上げた。
「……このまま、その眼を抉るか、黒い眼差しを解除するか、この首を握り潰すかを選べ……」
ゆっくりと、その呪いのような言葉を発する。
「ひっ……」
瑞は[黒い眼差し]の解き方を知らなかった。ゲームでは、交換するか戦闘不能になる事で解除されることは知っていたが……
まさか、ここから逃げることは出来ない。だからと言って戦闘不能は、イコール死を意味する。
失明か、死か……瑞は怯えて何も言えなかった。彼の瞳がこちらに向けられた。
その冷たい瞳は瑞の生の可能性のすべてを吸いつくしているように見えた。
突然、左頭部に打撃が加えられた、頭蓋骨が破裂するかのような感覚。

瑞の意識はそのまま、深いところに落ちていった。


************


*************


瑞たちがビーストと戦っている場所に、閃光共に何か爆発した光景を見て、ひこたちは驚愕していた。
不意にひこの脳裏にあのトキワシティの映像が過ぎる。
あの……すべてが終わってしまった。異であり、忌であり、死であり、血であった……あの惨状。
「ぇ……、ちょっと、待って…、あの、何ですか、爆発?、ぇ、待って下さい」
「……失敗か」
呆然と取り乱すひこと、悔しさを必死に隠すクラスタ。
「クラスタさん……瑞さんたち、大丈夫ですよね?、生きてますよね、ねぇ、ねぇ?」
クラスタは何も言わない。
「!、瑞さ〜ん、光さ〜ん、澪亮さ〜ん!!」
駆け出そうとするひこをクラスタは引き止める。
「まずは、落ち着いて、行動は落ち着いてからだ」
「…………」
ひこは足を止めて黙った。
「……嗚呼、僕の所為だ…。僕さえ居なければ、みんなはこんなことには為らなかったのに……」
クラスタは、本当に悔しそうに、自分だけを責めていた。

それからすぐ……
「はぁ、はぁ、はぁ…… ん、手前等は…?」
「…!! ビースト!!」
あの破壊者が二人の所に来た。
「ふん…。安心しろ、俺にはお前らに危害を加える力は残っていない、 命拾いしたな」
「ビースト!! あなたは、瑞さんたちに何をしたんですか!!」
ひこは叫ぶ。
「とどめを刺してはいないが、多分、全員死んだな。 ――ん? なら、その言葉から推測するに、お前が俺に雷を落としていた奴だな……? 前言撤回だ」
ビーストの体から静かな怒りが立ちこめた。そして、ひことクラスタに[金縛り]をかけて自由を奪う。
「俺は、陰でこそこそする奴が大嫌いだ!! お前だけはやはりここで死んでもらう!」
「幻作ったり、身代わりにしたりしていたあなたの方が、よっぽど『陰でこそこそする奴』ですよ!!」
「黙れっ!!!!」
銀のフォークの切っ先をひこの顔の前に突きつける。刃先が妖しく輝いた。
しかし、ひこはそれに怯えず、強く言う。
「私は逃げない!私は屈しない!私は足手まといなんかじゃない!そして、私はあなたを許さない!瑞さん達のためにもあなたを許さない!
非力な私にはあなたを倒す力なんてないと思うけど、一撃だけでもくらわせてみる!でも、私は負けない!私は死なない!私はあなたに負けない!
私は生きる!生き抜いてみせる!みんなのためにも!私のためにも! 私は!!」
そして
「あ゛ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ひこはありったけの声を張り上げた、耳を塞ぎたくなる様なひどいノイズ
これは悲鳴ではない、ひこの[嫌な音]だ。
それにひるんだビーストは[金縛り]を解いてしまった。
ひこはそのまま跳躍して、彼のほほにグーで全力で殴りつけた。
しかし、それはビーストをひこの力の差を埋めるものでは決してなかった。
すかさず、右足を後ろに出して転倒を防いで、その細長い左腕を伸ばし、ひこの胸の綿毛を掴んだ。
右手には巨大なフォーク、三又の刃先は心臓を向いている。

 銀色のフォークは温かい鮮血を啜った。

命は非常にも、儚く散っていく。
現実とは惨酷なものだ。






それから数分後、さっきまでその場所にいたはずのひことクラスタは、そこにはいなかった。
そこにはクレーターが一つだけ。
まるで、そこに残された希望を抉り取るかのように。
まるで、そこにある生の可能性を否定するのように。
まるで、そこにあった何もかもが死んだかのように。
まるで、そこに絶望しか無い事を伝えるかのように。




――――――――――――――――――――――――――――

次回、最終章。



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