[833] ヒカリストーリーEvolution STORY32 エキシビションの舞台 |
- フリッカー - 2009年06月30日 (火) 17時43分
ポケモンコンテスト・エキシビション開幕が間近に迫った、クレナイシティ。 私は今回も、このエキシビションに招待される事になった。今回で何回目なのかは、もう覚えていない。私はもう、20年くらいコンテストをやっているから。 そんな私がトレーニングのためにお邪魔しているのが、この育て屋さん。ここにある広い庭で、私はポケモン達のトレーニングをしていた。近くの森にあった岩を持ち出して、カイロスはそれを持ち上げるトレーニングをする。最終的にはそれを勢いよく投げ上げて、“ハサミギロチン”で一撃の下に粉砕した。砕けた岩は、カイロスの周りに落ちる。 「いい感じね、カイロス」 パフォーマンス練習の結果は、満足するものだった。私はそうカイロスに言うと、カイロスも笑みを返した。 「やあ、調子いいようだね」 そこに、彼が姿を現した。青いエプロンを身に付けた、どこにでもいそうな雰囲気の彼。 彼は、ここの経営者。名前はレイ。恥ずかしい話だけど、私の恋人。あちこちの雑誌では、私がレイと交際している事は報じられている。私はノーコメントで通しているけれど、心の中じゃ否定する事はできない。有名になるっていう事は、困る事も結構ある。 「レイ」 「そろそろ休憩にしたらどうだい?」 レイは、そんな提案をした。私はそうね、と答え、レイの提案を飲む事にした。
育て屋は、レイの家を兼ねている構造になっている。そんな彼の家のリビングで、私はレイと隣り合ってソファに座り、紅茶を飲んでいた。 私にとっても、通い慣れたこの部屋。この部屋でくつろぐと、安心する。昼間だけど、窓にはカーテンがかけてあって、レイが私の事を考えてくれているのがわかる。そんな彼とは、私は旅をする中電話で交際していた。でも、私は自然とここに通う事が多くなって、泊まり込む事も珍しくなくなってきていた。それは、私の心の中で、1つの『不安』があるからかもしれない。 「……ねえ、レイ」 「何だい?」 「私……そろそろ引退した方がいいのかしら?」 私はそんな疑問を、レイに投げかけた。今、このような質問ができるのは、彼しかいない。レイは、目を丸くした。 「えっ、どうしてだい? ルビーさんはまだ強いコーディネーターじゃないか。まだルビーさんは活躍できると思うけど……」 「でも、私の実力が若い子達に、どこまで通用するか、って思って……」 私はこれまで、何度もポケモンコンテストに挑戦してきた。でも、どのコンテストでも必ず完封で勝てた訳はない。私は常に、若い子達という壁と向かい合っていた。経験では私の方が分があるけれど、若い子達には強い心と勢いがある。それに私は、何度押されそうになった事か。心なしかそれは、最近になって増えているような気もしていた。ポケモン達の力も、そろそろ限界が来ているのかもしれない。かといって新しいポケモンを育てようにも、ずっとコンテストを勝ち抜いてきたポケモン達を手放す事には抵抗がある。衰えという事は、これほど恐ろしい事だったなんて、思ってもいなかった。 そんな悩みを、私はレイに話した。 「そうか……そういう事なんだね……」 「でも、私はまだ、コーディネーターを辞めたくないの……結局私は、ステージの完成をずっと浴び続けたいだけなのかもしれない……」 私の顔は自然と、レイの肩に寄り添っていた。レイは優しい人。こうやって一緒にいると、こういう悩みも少しだけ、忘れていられる。でも、そんな優しさに浸っていても、何も解決にならない事はわかっている。何か行動を起こさなければ、解決はしないのは当たり前の事。そう考えていると、レイの右手が、私の肩に回された。 「……1つ思ったけど、コーディネーターとしてステージに立つ事だけが、コンテストを楽しむ方法じゃないと思う」 「え?」 レイがそんな事を発言した事には、私も驚いた。 「僕だって、ポケモンバトルに限界を感じてトレーナーは辞めたけど、『ポケモンを育てる事なら、まだできる』って考えて、育て屋になったんだ。そういう発想の転換も、大事だと僕は思う」 レイは、元は腕利きのポケモントレーナーだった。でも自分の力に限界を感じてトレーナーを引退したけれど、すぐに育て屋に転身した。ポケモントレーナーを辞めた事を後悔していないのかとずっと思っていたけれど、そういう理由があったなんて…… 「ま、ルビーさんは焦る必要はないと思うよ。ルビーさんはまだ強いんだ、考える時間はまだいっぱいあるさ」 レイは微笑み、そっと私の髪をなでた。レイの優しさに包まれた私は、心地よい気分になった。 「レイ……」 私はそのまましばらくの間、レイの体に寄り添い続けていた。
引退、か……私が引退してもいい時っていうのは、どんな時なのかしら……
そうだわ、あの子……ヒカリちゃんなら……
あの子は、強い心を持っている。コンテストの実力も、母親譲りのものだった。まだ完全にその実力は開花していないけれど、あの子は将来きっと、大物になる。
もし、私があの子と直接勝負で負けたのなら、私は後をヒカリちゃんに譲ってもいいかもしれない……
私は、その日の夜もレイと共に過ごした。
* * *
エイチ湖で到着したあたし達。そこで遂に、サトシとシンジのフルバトルが行われた。お互いに交換を使いまくる、せわしないバトルだったけど、流れはシンジに傾いていった。次々とサトシのポケモンが倒れていく中で、ヒコザルがモウカザルに進化。あたしはこれで、流れが変わると思っていた。でもそのモウカザルの力をもってしても、バトルの流れを変える事はできなかった。結果はシンジの圧勝と言えるものだった。サトシはそれが凄く悔しかったみたいで、いつもは見ないくらい落ち込んじゃってたけど、ポケモン達の励ましやあたしがサトシを笑わせようとやったショーのお陰で、すぐに元気になってくれた。これで一安心。
* * *
遂にあたし達は、ポケモンコンテスト・エキシビションが開かれる町、クレナイシティに到着した。 クレナイシティに着くや否や、町はもうすぐ開催されるエキシビションのためか、結構にぎやかになっていた。ポケモンコンテスト・エキシビションは、選ばれたコーディネーターだけが出場できる、一大イベント。こんなにお祭り騒ぎになるのも当然かもしれない。 「わぁ〜っ!! ここが会場ね!!」 あたし達は、目の前に大きく建つドームに、目を奪われていた。普段のコンテスト会場とは違って結構大きくて、その分いっぱい人が入れそう。まさにエキシビションを開くのにはうってつけの場所。そんなドームを見ていると、何だか燃えてきちゃう。 「凄いや! まるでポケモンリーグのスタジアムだな!」 「ああ、まさにエキシビションを開くのにふさわしい場所だな!」 サトシとタケシも、ドームを見て歓声を上げている。 「よ〜し!! 何だかやる気が出てきたわ!! ポッチャマ、早速本番に向けて最終調整しましょ!!」 「ポチャ!!」 あたしは頭の上にいるポッチャマにそう言うと、ポッチャマも潔く答えた。 「……その前に、ドームに行って参加登録した方がいいんじゃないのか?」 でも、タケシにそう言われて、あたしは一気に拍子抜けしそうになった。そうだ、それをしなくちゃ参加はできないよね……忘れる所だった……アハハ……
ドームへ行って参加登録をしてから、あたしはドーム近くの広場で最終調整する事にした。でもその前に、あたしは気持ちを整えるために、何かスイーツを食べようと思った。ドームの前は屋台でいっぱいにぎわっているもんね。 「すみませーん、ソフトクリームくださーい!」 あたしはソフトクリームを頼もうと思って、屋台の人に声をかける。でも帰ってきたのは、聞き覚えのある声だった。 「ハーイ! ヒカリンのためなら喜んで!」 「え?」 その声を聞いて驚いたあたし達は、値段表に向いていた顔を上げた。見るとそこには、エプロン姿のあたしの幼馴染、ミホが立っていて、こっちに陽気な笑みを見せていた。 「ここはお祭り騒ぎだから、今日もあたしはハイテンショーンなの!」 「ミ、ミホ!?」 「こんな所で、何やってるんだ!?」 「決まってるじゃない、バイトよ、バイト! という訳であたし、ヒカリンのためなら奮発しちゃうよ〜っ!」 ミホは答えてから、すぐに注文したソフトクリームを用意し始める。ソフトクリームを絞り出す機械を、慣れた手付きで操作するミホ。本人は苦手な事はないって言ってたけど、本当だったんだ。 「それにしてもヒカリン、今日のエキシビションに向けて、準備はどう?」 「ええ、順調よ。このためにあたし、バッチリ練習してきたんだから!」 ミホの質問にあたしは、はっきりと答える。それに合わせてポッチャマも、これでもかと胸を張る。 「よかったら、あたしが一緒にステージに出てあげよっか? ヒカリンのためならあたし、一肌脱いじゃうんだから!」 するとミホは、注文したソフトクリームをあたしに差し出すと、陽気な笑みを見せながらそんな事を聞いた。 「えっ!? あ、いや、そこまでしてもらう必要はないから……」 あたしは当然、苦笑いしながらそう答えたけど、ミホはそっか、と少し残念そうな顔を浮かべた。 普通の人が見ればただのジョークに聞こえるかもしれないけど、多分ミホは本気で出ようと思って言ってるのかもしれない。どうしてかというと、ミホは人じゃないから。その素顔は、へんしんポケモン・メタモン。あたしのポケモンとして、ステージに出たいっていうのは、わからなくはないけどね…… 「あら。ここにいたのね、ヒカリちゃん」 すると今度は、また別の聞き慣れた声が、後ろから聞こえてきた。振り向くとそこには、白い髪が特徴的な女の人がいた。 「ルビーさん!」 あたしはその女の人がルビーさんだとすぐにわかった。あたしのママとは昔馴染みで、ママと同い年だけど、今でも現役で活躍してるベテランのコーディネーター。その実力は今でもトップクラス。 「え、知り合いなの?」 「ええ、あたしのママの友達のルビーさんよ。今でも現役バリバリの凄いコーディネーターなの!」 あたしがミホの質問にそう答えると、ルビーさんは少し照れてるように、言い過ぎよヒカリちゃん、と笑みを見せた。 「ルビーさんもこのエキシビションに出るんでしたよね?」 「ええ。あなたと同じ舞台に立てるなんて、これほど楽しみな事はないわ」 ルビーさんがほほ笑んだ時、あたしとルビーさんの間にタケシが割って入った。まさか、と思ったけど、タケシがここでやる事と言ったら、1つしか考えられない。 「ルビーさん、お久しぶりです!! 今日もまた、宝石のように美しく輝いていますね!! 今回のエキシビションでは、是非自分の心も魅了させてください!!」 タケシはルビーさんの両手を取って、この時にしか見せない爽やかな笑顔を見せてそう言った。周りが一瞬でタケシの空気に包まれる。あーあ、また始まっちゃった…… 「相変わらず冗談がうまいのね、タケシ君は」 でもルビーさんは驚く様子もなく、クスリと笑うとすぐにそう切り返す。タケシのアピールを簡単に切り返せるって事は、凄いと思う。 「え?」 タケシが声を裏返した瞬間、タケシの顔が一瞬で青ざめたと思うと、タケシの体が崩れ落ちた。その後ろにはやっぱり、こういう時のツッコミ役、グレッグルがいた。グレッグルの“どくづき”の鋭いツッコミを受けて、動けなくなったタケシは、そのまま不敵に笑うグレッグルに引きずられて退場していった。場が一瞬、気まずい空気に包まれる。 「あちゃー……大丈夫なの、あれで?」 「ええ……ああいうの、いつもの事だから……」 ただ1人、珍しそうに見ていたミホに、あたしは苦笑いを浮かべながらそう答えた。 「やあ、君がヒカリちゃんだね?」 すると今度は、ルビーさんの後ろから別の人が現れた。青いエプロンの来た茶髪の男の人。年はルビーさんと同じくらいかな。顔に覚えはなかったけど、そんな人にあたしの名前を言い当てられた事には当然驚いた。 「誰、ですか?」 「彼はレイ。コンテストで私のアシスタントをしてもらっているの」 あたしの質問には、ルビーさんが代わって答えた。 「君の話はルビーさんから聞いているよ。将来は絶対大物になるコーディネーターだって、ルビーさん言っていたよ」 レイさんがそう言った瞬間、ルビーさんが急に、ちょっとレイ、と恥ずかしそうな顔をして首を突っ込んだ。ごめんごめんと笑って答えるレイさんとルビーさんは、結構仲がいいように見えた。もっとも、そう言われたあたしの方も、少し照れちゃったけど。 「凄いねヒカリン、人気者なんだ!」 「ま、まあね……」 ミホにそう言われたあたしは、苦笑いするしかない。まあ、確かにコンテストはテレビで流れるから、あたしの事を知ってる人が多いっていうのは不自然じゃないけどね。 「じゃ、私達そろそろ調整に入るから、ヒカリちゃんも万全の準備をしておくのよ」 「はい!」 ルビーさんの言葉に、あたしははっきりと答える。そしてルビーさんはレイさんと一緒に、あたしの前を後にしていった。その間もルビーさんとレイさんは、いろいろ話をしていたように見えた。 「お、おい、あの人って……」 すると後ろから、ぬっとタケシが姿を現した。あたしは思わず復活早っ、って声を上げちゃった。タケシの目線は真っ直ぐ、目の前を去っていくルビーさんとレイさんに向いていた。 「この前雑誌で見た、ルビーさんと交際してるって噂の育て屋だぞ!?」 「嘘!?」 そんなタケシの一言を聞いて、あたし達は思わず揃えて声を上げちゃった。交際してるって事は、つまり『恋人』って事だよね……? ルビーさんは結婚しないっていうような事前に言ってたけど、こっそり付き合ってたなんて……もう驚きとしか言えない。当のタケシは、少し残念そうな顔をしていたけど、そんな事はどうでもよかった。
* * *
ドームの中は、いっぱいのお客さんで盛り上がっていた。もうすぐ始まるエキシビションが待ちきれないように、ざわついている。あたしはこういう所に入るのは初めてだったけど、この雰囲気を見ただけでポケモンコンテスト・エキシビションが凄いものかが感じ取れた。こうなるとあたしも、ハイテンションになってきちゃう! その時、会場のライトがゆっくりと消えていったと思うと、高らかな音楽が鳴り始めた。いよいよ始まりね! 何だかハイテンションになってきた! 「ポケモンコンテストというステージの上で、輝き続けたコーディネーター達が、今ここに集結しました! 彼ら、彼女らが見せるのは、一味も二味も違う華麗なポケモンコンテスト! お待たせしました! ここクレナイシティにおいて、ポケモンコンテスト・エキシビション、いよいよ開幕です!」 司会の人のそんな声を聞いた後、会場の人達は一斉に待ってましたとばかりに歓声を上げた。 「イエーイ!! あたしもハイテンショーン!!」 あたしも、そんな人の一緒になって声を上げていた。ハイテンションなのは、みんなと同じなんだから! 「……で、なんでお前、ここにいるんだ?」 すると横から、サトシの声が聞こえてきた。見ると、サトシもタケシも、なぜか呆れたような顔をしてる。 「だってさー、ヒカリンが出るステージなんだから、見てみたいって思って抜け出してきちゃった!」 元々あたしはエキシビションそのものは見るつもりがなくて、屋台でバイトをしていたけど、そこからじゃヒカリンのステージは見る事ができないでしょ? 実際にヒカリンと会ったら実際に見たくなっちゃって、ここに来ちゃったの。 あたし達は観客席の入り口近くで立っていた。一緒に応援するヒカリンのポケモン、マンムーが席に座れないから、ここに場所を取るしかなかったから。パチリスはヒカリンが用意したチアガールの服を着て、応援の準備はバッチリ! でも逆にマンムーは、頭にポンポンを乗せてはいるけど、逆に寝ちゃっている。応援する気はあるのかどうかは、わからない。 「それでは最初に、1次演技から、張り切って参りましょう!!」 そんな司会の言葉で、遂にエキシビションが本格的に始まった。あたしのますますハイテンションになってきたよーっ!
* * *
1次演技は、普通のポケモンコンテストじゃ1次審査に相当するもの。内容も基本的には同じで、ポケモンのわざを使っていろいろな演技をする。ただ1つ、普通のコンテストと違うのは、審査がない事。エキシビションは採点や順位付けはしない。だからステージには、普段いる審査員の人達はいるけど、採点をする事はない。 他の参加者のコーディネーター達は、みんな強豪揃い。演技もいつものコンテストとは一味違うのが、あたしにもわかる。いくら採点はしないとはいっても、順番が近づいてくる度に緊張が大きくなっていく。あたしは控え室の鏡の前で、身だしなみを念入りにチェックしていた。今回の衣装は、ドレスのスカートをいつもと違うものにして、髪を2つに分けて縛る。カンナギ大会や、アケビ大会で使ったものと同じもの。元々これは、カンナギ大会でミミロルのアピール用に用意したものだったけど、あたしも結構気に入ったから、アケビ大会でもミミロル用として続けて使った。 ――あんなコーディネーター達に、負けないくらいの演技をしないと! そんな思いが、あたしの中から離れなかった。今回の演技は、出場する事を決めているスイレンタウンのコンテストの準備にもなる。それが尚更、あたしを緊張させていた。石橋を叩いて渡る、って言葉がふさわしいくらい何度も身だしなみを確かめるけど、こんなに念入りに身だしなみをチェックしたのは久しぶりだった。 「ヒカリちゃん」 すると、後ろからルビーさんの声が聞こえた。鏡を見ると、あたしの後ろに立つルビーさんがいる。この辺りのコンテストじゃドレスとか着てコーディネーターもおしゃれをするのが普通だけど、ルビーさんは珍しく私服のままだった。その隣にはレイさんもいる。 「やっぱり緊張しているみたいね。まあ、初めてエキシビションって舞台に立つなら、当然かもしれないけど」 さすがベテランだけあって、ルビーさんは落ち着いている。ルビーさんは振り向いたあたしに、そっと肩を置いた。 「いい、ヒカリちゃん。知っていると思うけど、このエキシビションでは採点はしないわ。それはね、勝ち負けを気にする事なく演技ができるって事なの」 「得点を、気にしない……」 「そうよ。だからね、ヒカリちゃんはヒカリちゃんらしい演技をすればいいの。それだけ。きっと周りのコーディネーター達に負けない演技をしなきゃって思ってるんでしょうけど、そんな難しく考える必要はないのよ。エキシビションは競争じゃないから」 そっか。採点をしないって事は、得点を気にする必要がないって事なんだ。よく考えたら、ルビーさんの言う通り。優勝はないんだから、勝ち進むって事を考える必要はないんだ。あたし、なんで今までこんな事に気付かなかったんだろう。そう考えると、あたしの気持ちは大分落ち着いてきた。あたしの足元にいるポッチャマも、ダイジョウブって言ってるように、胸を張ってみせる。 「そうですね……考えてみたらそうですよね。ありがとうございます、ルビーさん」 「いいのよ。ほら、そろそろ時間じゃない。行ってきなさい。ヒカリらしい演技を、ステージで思いっきり披露するのよ」 「はい!」 あたしははっきりとそう答えて、控え室を飛び出した。結構軽い足取りで。
* * *
「さあ、続いて参りましょう! かつてのトップコーディネーターを親に持つ、期待の新人コーディネーター、ヒカリさんです!!」 司会がそう言うと、歓声が上がって、遂にステージにヒカリンの姿が現れた。ツインテールにした髪型とピンクのドレス姿がかわいい。あんな姿のヒカリンは初めて見た。いかにもおしゃれ好きなヒカリンらしい服装。あたしも惚れ惚れしちゃう。 「待ってました、ヒカリーンッ!! かわいいよーっ!!」 あたしはこの時を待っていたの! あたしは思わず飛び上がって、そんな声を上げた。ヒカリンはすぐに、モンスターボールを構えた。 「ミミロル!! チャーム、アーップ!!」 ヒカリンがステージにモンスターボールを投げると、中からボールカプセルの演出と同時に、ミミロルが飛び出した。そのミミロルは、オレンジ色のポケモン用の服を着ている。普通のルールじゃ確か、こういう事はできないみたいだけど、そういう制限のないエキシビションだからこそできる技って事ね。 「ミミロル、“れいとうビーム”!!」 ヒカリンが指示すると、ミミロルはきれいに跳ねながらステージに“れいとうビーム”をばら撒いた。すると、ステージはたちまち氷で覆われて、きれいな氷のステージへと変わっちゃった。 「続けて行くわよ!! “ピヨピヨパンチ”!!」 続けてヒカリンが指示すると、ミミロルは逆立ちをして、“ピヨピヨパンチ”状態の耳で立って、器用にスケートのように滑り始める。たちまちミミロルの華麗な滑りが始まった。でもミミロルの滑りはこれだけじゃ終わらなかった。 「“とびはねる”!!」 ミミロルはその状態のまま、耳を使ってジャンプ。そのまま空中で月面宙返りを披露してみせる。そのままバランスを崩す事なく着地。そしてさらにジャンプして、今度は横回転を披露して、また着地。司会の実況も相まって、ステージはさらに盛り上がる。 「凄―い、ミミロル!! スケートの選手みたーい!!」 あたしはもう、歓声を上げずにはいられない。 「ミミロルのジャンプ力をうまく活かしているな」 タケシも太鼓判を押している。 そして最後にミミロルは、ヒカリンの目の前に着地して、ヒカリンと一緒にポーズをとった。その瞬間、拍手が鳴り響いた。もちろん、あたしも拍手する。 「凄かったよ、ヒカリーン!! 最高だったよーっ!! かわいかったよーっ!! ブラボーッ!!」 あたしはそんな事を、ステージに向かって何回も叫んでいた。サトシ達はあたしを見て少し呆れているように見えたけど、そんな事はどうでもよかった。
「さあ! 続きましては、『一撃必殺の鬼』の2つ名を持つ、ベテランのコーディネーター、ルビーさんの登場です!!」 次の演技は、ヒカリンの知り合い、ルビーさんだった。ゆっくりとステージに現れたルビーさんは、かわいくドレスアップしていたヒカリンと違って、服装は変えていなかった。でもその表情から、ベテランの貫録っていう空気を感じ取った。 「カイロス、ショウタイム!!」 ルビーさんがモンスターボールをステージに投げた。中から出てきたポケモンは、カイロス。見るからに強そうな体を持っていた。さっきまでステージに出ていたポケモン達とは、違う印象がある。今までのポケモン達は、美しさやかわいさが目立っていたけど、これは逆にかっこよさとか、たくましさ系のポケモン。そんなカイロスは出てきた瞬間、いきなり天井を見上げて吠えた。カイロスって吠える印象があまりないけど、こういう事をされると、結構力強さを感じる。 「“きあいだま”!!」 ルビーさんが指示すると、カイロスは2本のツノの間に“きあいだま”を作り出して、発射! “きあいだま”がステージの床に落ちると、凄い爆発が起きた。それには、観客達は驚きの声を上げた。 「す、凄―い!! 凄い破壊力じゃない!! カッコイイーッ!!」 あたしは思わず声を上げた。さっきのヒカリンとは一転して、凄くカッコイイ。その一言。さっきの“きあいだま”の破壊力を見せられただけでも、そのカッコよさが充分伝わってくる。 すると、今度はステージの上から大きな箱が下りてきた。木でできているみたいだけど、カイロスと比べると大きくて、何だか凄く重そう。そんな箱がステージに下ろされると、カイロスはその前に立つ。 「“ばかぢから”!!」 ルビーさんの指示で、カイロスは箱をツノでがっしりとつかんで、ゆっくりと持ち上げる。落としちゃうんじゃないかとも一瞬思ったけど、カイロスは最終的にはそれを持ち上げて見せた。おおーっ、とあたしと観客の声が揃った。司会の実況にも、驚きが混じっている。 「最後は“ハサミギロチン”!!」 ルビーさんの指示を聞いたカイロスは、何と持ち上げた箱を力強く投げ上げた! 大きな箱が宙を舞う。それを追いかけるようにカイロスがジャンプして、箱をツノの一撃で一刀両断! カイロスの下に真っ二つになった箱が落ちると、カイロスはサッとその目の前に着地する。そしてルビーさんと一緒に、お辞儀をした。その瞬間、拍手が鳴り響いた。もちろん、あたしも拍手する。 「す、凄―い!! カッコよかったよーっ!! もう、カッコイイの一言!! ブラボーッ!!」 あたしはそんな事を、ステージに向かって何回も叫んでいた。 いいなあ、コンテストって……ああいう事がヒカリンと一緒にできたなら……
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エキシビションの1次演技が終わって、次はいよいよ2次演技。これもやっぱり基本は普通のコンテストと同じで、コンテストバトルをする。でも普通のコンテストとの違いは、あくまで模擬戦形式でやる事。バトルオフ決着にでもならない限り、決着は着けないまま終わらせる。だから、普通は画面に映る得点ゲージは表示されない。形式もトーナメント方式じゃなくて、ランダムで組み合わせを決めて1人につき1回だけコンテストバトルをする。 今、あたしが見つめる画面の前で、コンテストバトルの組み合わせが決まろうとしていた。画面の中で、顔写真がカードの要領でシャッフルされて、ランダムに並べられる。どの組み合わせになっても、一筋直じゃいかないバトルになる事は間違いない。でもこのエキシビションは、勝ち負けは決めない。だから、あたしらしいコンテストバトルをすればいい。あたしはそう言い聞かせていた。 「さて、コンテストバトルの組み合わせは、このような形になりました!!」 顔写真が並べ終わった。あたしは自分の顔写真を探す。あった。そしてその隣にいるのは……
「ルビーさん!?」 そこに映っていたのは、紛れもなくルビーさんの顔だった。あたしの相手は、ルビーさん…… 「……これは、何かの運命ね」 するとあたしの横に、ルビーさんが現れた。その表情には、笑みが浮かんでいた。まるであたしとぶつかる事を、嬉しく思っているような笑み。そんな笑みが、こっちに向いた。 「まさかコンテストバトルでヒカリちゃんとぶつかるなんて、思ってもいなかったわ。私とヒカリちゃんはきっと、見えない何かで繋がっているのね」 「ルビーさん……」 「ヒカリちゃん、私とぶつかる事が怖い?」 そんな質問をされたけど、あたしは答えられなかった。確かに、ルビーさんはあたしよりずっと経験の多い、ベテランのコーディネーター。そのポケモンの凄まじいパワーは、あたしも目の前で見せられた。しかも“ハサミギロチン”で、一瞬で勝負をつけちゃった事もある、『一撃必殺の鬼』。そんなルビーさん相手に、あたしのポケモンはどこまで戦えるのか、不安な所もあった。でも、さすがにそんな事を言うのはルビーさんに失礼だと思っていた。 「それもわかるわ。でも、ヒカリちゃんが本当にトップコーディネーターになりたいなら、私は喜んで壁になるわ。私のような大人は、あなたのような子供を導く義務があるからね」 「ルビーさん……?」 ルビーさんはあたしを気遣っていた事に、あたしは驚いた。そして、ルビーさんはあたしとの対決を強く望んでいる事もわかった。でもその言葉は、何だかドラマとかでこれから死んじゃう人のような言葉にも聞こえて、変にも思った。 「ヒカリちゃん、あなたのコーディネーターとしての全てを、私にぶつけなさい。私もそれに、全力で答えるから」 「……はい!!」 あたしは心の整理をつけて、はっきりとそう返事をした。ルビーさんはそれを聞いて笑顔を見せた。そして、どこか寂しそうな表情を浮かべて、もしこれでヒカリちゃんが勝ったら、私は……と小さな声でつぶやいていた。 「どうしたんですか、ルビーさん? 何だか変ですよ?」 「ああっ、ごめんなさい」 あたしが聞くと、ルビーさんは少し慌てた様子で笑ってみせた後、誤魔化すようにレイさんの方を見て、ポケモンの調子を聞いていた。
* * *
続いて始まったコンテストバトルも、どれも白熱した試合になった。どの試合もルール上、決着を着けないまま終わらせていたけど、あのまま続いていたらどうなっていたんだろう、って思わずにはいられないものばかりだった。これが、コンテストバトルなのね……! 「さあ、次の対戦は、まさに夢の対決です! かなたは、期待の新人コーディネーター・ヒカリさん! こなたは、歴戦のベテラン・『一撃必殺の鬼』ルビーさん!」 そして遂に、ヒカリンがステージに出てきた。相手は何とあのルビーさん。ヒカリンのドレスは1次とは変わっていて、髪の結び方もポニーテールになっていた。 「ヒカリーン、がんばれーっ!!」 あたしはヒカリンに声が届くように、精一杯声を出した。パチリスも一緒にがんばれって声を出していたけど、マンムーは相変わらず寝ているっぽい。 「制限時間は5分! それでは、バトルスタート!!」 司会の一声で、ヒカリンとルビーさんは、一斉にモンスターボールを構えた。 「ポッチャマ!! チャーム、アーップ!!」 「カメックス、ショウタイム!!」 2人は同時にモンスターボールをステージに投げる。ヒカリンが出したのはヒカリンのベストパートナー、ポッチャマ。そしてルビーさんが出したのは、それよりもずっと大きなポケモン、カメックス。大きな甲羅から飛び出している大砲が特徴的。カメックスは登場した途端、カイロスの時と同じように、低い声で吠えた。それには、ポッチャマも少し驚いていた。 「かたやキュート、かたやパワフル!! はたしてこのバトルは、どのような展開を見せるのでしょうか!!」 司会の言う通り、このバトルは一体、どうなるんだろうって思う。普通に戦ったら、ポッチャマはカメックスにまずかなわないと思う。でもヒカリンだって、その事はわかっているはずだし、何か手を打っているに違いない。 「この勝負、どうなるのかな?」 「さあな……普通なら、みずわざの威力が勝負を決めるって言いたいが……コンテストバトルは、単純な力の差では決められないものだからな」 試しにタケシに聞いてみると、そんなコメントをした。その横にいるサトシは、ピカチュウと一緒にがんばれーと懸命にヒカリを応援していた。 「カメックス、“ハイドロポンプ”!!」 先に指示したのはルビーさんだった。カメックスはポッチャマに大砲の狙いを定めて、そこから強烈な水流を発射! その破壊力は、見るからに高そう。 「ポッチャマ、よけて“バブルこうせん”!!」 ヒカリンもすぐに反応した。ポッチャマは飛んできた水流を、ジャンプした後空中で1回転を加えてかわした。あれがヒカリンの得意としているわざ、『回転』ね! そのままポッチャマは“バブルこうせん”を発射! 回転の勢いも付いているんだけど、カメックスの甲羅にはビクともしなかった。カメックスは続けて、“ハイドロポンプ”を発射! ポッチャマはすぐにかわす。 「まずいな……撃ち合いになるとポッチャマは不利だぞ!!」 タケシが声を上げた。確かに、“バブルこうせん”と“ハイドロポンプ”じゃ、威力の差がありすぎる。かといってあれだけ撃たれまくってるんじゃ、下手に近づく事もできない。あんな“ハイドロポンプ”を受けたら、ポッチャマだってただじゃ済まないだろうし……どうするの、ヒカリン! 「ポッチャマ、“うずしお”を撃って近づいて!!」 するとヒカリンがそんな指示を出した。やっぱり近づくの? でも、そんな事をしようとしても向こうだって……そう思うあたしをよそに、ポッチャマは“うずしお”を作り出して、それをカメックスに投げつけた! 「カメックス、“ふぶき”!!」 カメックスも、口から“ふぶき”を発射して応戦する。カメックスが放つ“ふぶき”は、他のどんなポケモンよりも強烈なように見えた。そんな“ふぶき”が“うずしお”に命中! でもその時、信じられない事が起きた。“ふぶき”は“うずしお”の勢いに反射されて、逆にカメックスに襲いかかった! 効果は今ひとつだけど、その間にポッチャマはカメックスとの間合いを詰める事ができた。それには、ルビーさんも驚いている。 「え!? どうなってるの!?」 「『カウンターシールド』だ!! ポッチャマ、『カウンターシールド』を使ったんだ!!」 どうなってるのかわからないあたしをよそに、サトシが声を上げた。カウンターシールド? そんなわざ聞いた事がないけど? 「何なの、その『カウンターシールド』って?」 「攻撃をそのまま防御に使用するのさ!! 俺もジム戦で使ったんだ!!」 「『カウンターシールド』を使ってカメックスの“ふぶき”を防いで、近づく隙を作ったんだ!!」 あたしの質問に、サトシはそう答えた。どうやらヒカリンが自分で作った戦法みたいね。凄いヒカリン! 間合いを詰めたポッチャマに、カメックスは応戦するけど、ポッチャマはカメックスの周りをぐるぐると回っている。動きの鈍いカメックスは、それをしっかりと追いかける事ができないでいる。ルビーさんの表情にも焦りが見える。これなら、ひょっとしていけるかも! がんばれポッチャマ! 「ポッチャマ、“うずしお”!!」 ポッチャマは隙を突いて、“うずしお”を発射! 命中! カメックスはたちまち、大きな水の渦に捕まって、身動きが取れなくなる。その中にポッチャマも飛び込んで、カメックスに近づいていく。これだったら勝てる! 勝てるよヒカリン! 「“つつく”攻撃!!」 「“こうそくスピン”!!」 ヒカリンとルビーさんの指示が、同時に聞こえた。その瞬間、カメックスを閉じ込めていた“うずしお”が、一気に炸裂した。何があったの!? と思って見ていると、そこには弾き飛ばされたポッチャマと、甲羅に体を引っ込めてコマのように回っているカメックスの姿があった。 「“うずしお”が破られた!?」 「“こうそくスピン”は、“うずしお”のような相手を閉じ込めるわざから抜け出す事ができるわざだ。ルビーさんは間合いを詰められる事への対策も、しっかり取っているんだ……!」 タケシの顔が引きつっている。やっぱりルビーさんはただものじゃなかった。さすがはベテラン。 「“きあいパンチ”!!」 ルビーさんの指示で、カメックスは甲羅から体を出すと、腕に力を込めて、倒れていたポッチャマに強烈な“きあいパンチ”を叩き込んだ! クリーンヒットだった。ポッチャマはたちまちボールのように簡単に跳ね飛ばされて、ステージの壁に思い切り叩き付けられた。 「ポッチャマ!!」 ヒカリンが叫んだ時、カメックスが急に吠え始めた。するとカメックスの体から、青いオーラが燃え上がる炎のように現れた。 「あれって……『げきりゅう』!?」 「まずい!! みずわざの威力が上がるぞ!!」 サトシとタケシが叫んだ。『げきりゅう』はピンチの時、みずわざの威力が上がるとくせい。という事は、ヒカリンがピンチに!? 「一気に決めるわよ!! “ハイドロカノン”!!」 ルビーさんの力のこもった指示で、カメックスは背中の大砲を展開する。するとその砲身が青い光を放ち始めた。何だか底知れない力を感じさせる光。それが解放された時、青い凄まじい光線が大砲から放たれた! あまりの凄まじさに、ちゃんと見る事ができないほど。一瞬、ステージが青い光に包まれて、何が起こったのかあたしにはわからなかった。 「こ、ここでタイムアーップ!!」 光が治まった時、司会のそんな声が聞こえてきた。バトル終了。どうなったのか見てみると、ポッチャマは完全に伸びちゃっていた。戦闘不能。 「いや……凄まじいバトルでした。今回のバトルは……残り時間僅かでルビーさんがバトルオフ勝利になりました……!!」 司会の人の息も荒くなっていて、さっきの“ハイドロカノン”がどれだけ凄まじかったのかがわかる。 ヒカリンもルビーさんも、そんな司会の人と同じような感じになっていたけど、ルビーさんはすぐにヒカリンの前に出て、右手を差し伸べた。ヒカリンもすぐに気付いて右手を差し出して、がっちりと握手した。その瞬間、ステージが拍手に包まれた。 あたしはもう、なんていうか……凄すぎてこっちが疲れちゃって、拍手なんてできなかったよ……
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こうして、ポケモンコンテスト・エキシビションは無事に終わった。私はレイと一緒に、また旅に出発するヒカリちゃん達を、見送りに来ていた。 それにしても、激しいコンテストバトルだった。最初の方はヒカリちゃんの思わぬ戦法に不意を突かれて、押し込まれそうになった。でも私も踏ん張った。ヒカリちゃんと壁となるためにも。そして何とか、ピンチを抜けたけれど、バトルオフさせてしまった事はさすがにやりすぎたかな、と思っていた。 「ルビーさん、今回はありがとうございました。やっぱりルビーさん、強かったです。あたし、全然敵いませんでした。でもいろいろ勉強になりました」 でも、ヒカリちゃんは悔しがっている所か、逆に笑みを見せている。私とのバトルは、彼女なりに楽しんでくれたみたいで、私はほっとした。 「そうかな、ヒカリちゃんも最初ルビーさんを追い込んでいたじゃないか。ヒカリちゃんも結構凄かったと思うよ」 レイがあたしの隣で笑みを見せる。するとヒカリちゃんは照れて、そんなあ、あんなのまぐれです、と笑みを見せた。 「あたし、今度はスイレンタウンのポケモンコンテストに出るんです。あたし絶対、今度こそ5つ目のリボンをゲットして、グランドフェスティバル出場を決めますから!」 ヒカリちゃんは強気に、私にそう宣言した。 「そう、がんばるのよ。次に会うのは、グランドフェスティバルの時になりそうね」 「その時はあたし、絶対にルビーさんに勝ってみせますから!!」 「そうね、楽しみにしているわ」 そんなやり取りをした後、ヒカリちゃん達は出発した。ヒカリちゃんが挑むコンテストがある、スイレンタウンに向けて。手を振って3人を見送っていると、レイにこんな事を言われた。 「ヒカリちゃんに打倒を宣言されちゃったね。どうするつもりなんだ?」 「……私、もしヒカリちゃんに負けたら、引退するわ」 私は、このエキシビションの中で決めた事をレイに言った。レイは、少し驚いた表情を見せた。 「あの子はいずれ、私に打ち勝つわ。そうなったら私、後をヒカリちゃんに託してもいいって考えたの」 負ける事は嫌な事だけれど、私はそれが、不思議と怖くはなかった。ヒカリちゃんの成長が楽しみだからでしょうか。私を負かした事がヒカリちゃんの成長した結果なら、私は喜んでそれを受け入れる。そうなったらもう、私の出る幕はないでしょう。 小さくなっていくヒカリちゃんの背中を見送りながら、私はそう決心していた。
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「ヒカリ、エキシビションで負けた事、悔しくないのか?」 歩いている時、サトシにそんな事を聞かれた。 「ダイジョウブ。何だか逆に、ルビーさんの貫録を見せつけられたって感じで、ルビーさんの強さに感心しちゃった」 あたしは笑みを見せて、そう答えた。今回は負けちゃったけど、悔しいとは思わなかった。さすがはルビーさんって感じで、ルビーさんの凄さを改めて知れたから。 「グランドフェスティバルへ行ったら、またルビーさんとぶつかるだろうな」 「ええ。でもその時は、絶対に負けないから! ルビーさんも言ってたもん、『コーディネーターとしての全てを、私にぶつけなさい』って!」 タケシの言葉にも、あたしはそう明るく返した。 今回は、あたしはルビーさんに負けちゃった。でもトップコーディネーターになるには、必ずルビーさんを倒さなきゃならない時が来る。だからあたしは、もっと強くなる。そして、いつかはルビーさんに勝てるようになるんだから! 後ろから、ミホがこっそり後をつけていた事には、あたしは気付かなかったけど。
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY32:THE END
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